ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第24話 ブレイク・ザ・ワールド1

 

 

 

「アナトリアの傭兵…あのパイロットか…」

 

地球、アジア大陸最西部「アナトリア半島」。

 

北は黒海、北西はマルマラ海、西はエーゲ海、南西は地中海に面するこの土地は、東と南東が陸続きであり、ジョージア、アルメニア、イラン、イラク、シリアと接する——俗に言う「中東」と呼ばれる地域のひとつだ。

 

旧世紀から数多くの大国がこの地を統治した中で、アナトリア半島は独自の技術力を養い、それを糧に大国であるユーラシア連邦と友好な外交関係を結んでいた。

 

だが、C.E.70年に事態は激変する。

 

第一次連合プラント大戦が勃発。

 

資源的には弱小国家であるアナトリアは、所属するユーラシア連邦から健全たる政府からの限りある資材や資源の分配を受け、人々は糧食を得るための労働に従事する事になった。

 

政府に管理され生活している——と言えば聞こえはいいが、その実情は極めて貧しい生活を強いられており、住んでいると言うより『押し込められている』とも言えなくもない環境であった。

 

中東全体がその体制を強いられる中、アナトリアは小規模な国土の中、開発する最先端技術をユーラシア連邦などに売り込む事で、他の管理下に置かれる国よりも豊かな生活を送っていた…。だが、それも長くは続かなかった。

 

モビルスーツの台頭により、唯一の専門性を失い、深刻な経済危機に陥ったアナトリアが、戦時投入による戦争経済に手を出すことは必然的な結果であった。

 

アナトリアの姫君が救ったパイロット。

 

グリマルディ戦線から生き抜いてきたそのパイロットにあてがわれたのは、ザフトから入手し、実験的に開発された不完全なモビルスーツだった。

 

古い戦士。

 

経済的な利用価値しかない非力なモビルスーツ。

 

その時は、誰もが彼のことをそう見ていた。あの日がくるまで…。

 

 

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

 

「こちらシエラアンタレス5、目標地点に到達」

 

搬送するためにMSを二機も使う巨大な掘削装置メテオブレイカーを運ぶシエラアンタレス隊は、崩壊しつつあるユニウスセブン表層へと到達していた。

 

予定通り、分散したメテオブレイカーを配置し終えたイザークは、それぞれを見渡せる位置で通信をつなげる。

 

「シエラアンタレス1より各機へ。これよりバンカーポイントの調査に入る。メテオブレイカー装備の機体は後方へ」

 

「ニコル、計算はどうだ?」

 

「順調です。あと2分でバンカーポイントは割り出せるかと」

 

イザークの後ろで周辺警戒をするディアッカに、コンソールパネルを軽快に叩きながらニコルが返事をした。作戦としては、的確な位置に必要数のメテオブレイカーを作動させ、基準位置まで掘削後、特殊弾頭の炸薬でユニウスセブンを解体する仕組みだ。

 

メテオブレイカーを配置する位置関係が重要であるこの作戦でニコルが選ばれたのは、過去の経験から臨機応変に配置を算出する知見があったからこそだ。

 

頭上では、横槍が入らないように周囲を巡回するブラックスワン隊と、メビウスライダー隊がいる。順調に進む作業。このままいけばユニウスセブン落下阻止は時間の問題…そう全員が思っていた。

 

「なにッ!?」

 

それは突如として起こった。黒い機体を操るブラックスワン隊の一番機、スウェンの元へ緑色の極光が迫ったのだ。

 

艶やかな軌道でそれを躱すと、両隣にいたシャムスやミューディーたちにも同様の閃光が飛来する。

 

「攻撃…一体どこから!?」

 

「ブラックスワン1!射撃ポイント特定!ブルー35、チャーリー!」

 

カルロスからの通信を受けて、スウェンが視線を走らせた先には、黒とパープルの配色を施されたMS、「ジン・ハイマニューバ」が姿を表していたのだ。

 

《ボギー確認…機体はモビルスーツ!》

 

《ジンだと!?どういうことだ!どこの機体だ!?》

 

《アンノウンです!IFF応答なし!》

 

それは掘削作業を遂行していたシエラアンタレスも察知していた。極光が突き刺される宙域の中で、スウェンが機体を挙動させる。

 

即座にラリーの駆るメビウスも合流し、奇襲する形で現れた所属不明のジンへ迎撃態勢を取る。

 

《ブラックスワン隊、メビウスライダー隊は迎撃に入る!シエラアンタレス隊はメテオブレイカーの準備を!》

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

ユニウスセブンの瓦礫に隠れるように、ミラージュコロイドを展開して息を潜めるガーディ・ルーの艦長であるイアンは、現れたジンの姿に興味を示していた。

 

「ここにザフトのモビルスーツとはどういう事ですかね」

 

「…この騒動は、気紛れな神の手に因るものではないのかもしれないな」

 

隣にいるネオが抑揚のない言葉でそう言うと、腰掛けていたブリッジの座席から体を浮かび上がらせる。

 

「大佐は出られるので?」

 

「スティングたちの機体では無理だ。ただ状況を見たい。記録も録れるだけだけ録っておけよ。何よりクライアントからの依頼だしな」

 

それに、「オッツダルヴァ」が来るからな。すでに打ち出されたロケットは周回軌道に乗っている。こちらに合流するのも時間の問題だろう。

 

敬礼するイアンを一瞥し、ネオも修復が終わった自機へと向かう。ここが天下分け目の時だ。今まで積み上げてきたものを証明する場としても、申し分ない。

 

ネオは通路を進みながらひどく歪んだ笑みを浮かべる。流星が地に落ちる時がきたのだ、と。

 

 

 

 

////

 

 

 

《モビルスーツ発進3分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す、発進3分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ》

 

「粉砕作業の支援ていったってなぁ」

 

「マニュアルは入れておいたので、あとは現地で…ですかね」

 

ミネルバのハンガーの中で準備をするハイネに支援作業に関するマニュアルや手順を説明するヨウランだったが、その言葉には明らかに覇気がない様に思えた。

 

「気にしてるのか?ヨウラン」

 

ハイネの言葉に、ヨウランは驚いた表情をする。こう言ってもなんだが、ラリーから言われたことを気にしていると言うわけではないのだ。ただ、自分の思いが何なのか、ヨウラン自身もよくわかっていないと言った様子だ。

 

「でも、こうもみんなが必死になってるからさ…」

 

《モビルスーツ発進1分前!》

 

「到着後はジュール隊長の指示に従うよう言ってちょうだい」

 

メイリンの放送に合わせて、タリアも各機へ指示を送る。そんな中、ミネルバの管制官は現場の異変をたしかに感じ取っていた。

 

「なに…?これは…!!戦闘と思しき熱分布を検知。モビルスーツです!!発進停止!状況変化!ユニウスセブンにて先行隊がアンノウンと交戦中!」

 

「アンノウン?」

 

議長の言葉に、後ろにいたラクスとミーアが顔を見合わせた。こんなタイミングで敵と交戦となったということは、ユニウスセブンの落下事故は単なる自然災害ではないと言う可能性が高くなってくる。

 

《各機、対モビルスーツ戦闘用に装備を変更して下さい!》

 

さらに悪いことに、通信管はもう一つの反応をキャッチしてしまった。

 

「更にボギーワン確認。グリーン125、デルタ!」

 

「あれが!?ええい、どういうことになってるの!」

 

「分かりません!しかし本艦の任務は破砕作業の支援であることに変わりなし!換装終了次第各機発進を!」

 

たとえここで敵が出てこようとも、ユニウスセブンの破砕作業が優先だ。敵を打ち倒しても、ユニウスセブンが地球に落下してしまったら、相手が死のうが捕らえようが、こちらの敗北になるのだから。

 

《中央カタパルトオンライン。発進区画、減圧シークエンスを開始します。非常要員は待機して下さい。コアスプレイダー全システムオンライン。発進シークエンスを開始します!》

 

「状況が変わりましたね」

 

「とにかく、行くしかないでしょ」

 

通信機越しに困ったように言うレイに、ハイネはそう返した。どんな状況であれ、あれを食い止めることが今の自分たちに与えられた使命なのだ。

 

「レイ・ザ・バレル、コアスプレンダー、発進する!」

 

「まったく!こうも状況が変わるとはな!ハイネ・ヴェステンフルス、ザク、出るぞ!」

 

ミネルバが発艦した二機は、スラスターの光を引き連れて、崩壊と混乱に包まれつつあるユニウスセブンへと飛び立ってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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