ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第1話 戦争と平和と

 

 

 

「まったく、明日は戦後初の新型艦の進水式ということだったな。こちらの用件は既に御存知だろうに。そんな日にこんなところでとは、恐れ入る」

 

ザフトの士官に案内されて乗り込んだコロニー外縁部から直通で通っているエレベーターの中で、カガリは落胆しそうな気持ちで言葉を呟く。

 

その言葉を聞いて、士官たちも戸惑いの色を見せるばかりだ。

 

「内々、且つ緊急にと会見をお願いしたのはこちらなのです、アスハ議員」

 

隣に控えていたアレックスが不満と言った様子を体現しているカガリへ、姿勢を正したままサングラス越しに視線を向けた。

 

「プラント本国へ赴かれるよりは目立たぬだろうと言う、デュランダル議長の御配慮もあっての事と思われますが」

 

隣に座っているフレイも、完全な仕事スタイルと口調で、感情的にふて腐れているカガリに苦言を申した。カガリとフレイも、オーブに住む友人ではあるが、今の二人はオーブの議員と、ブルーコスモス派の役職を持つという立場がある。

 

うまく切り分けてモノが言えるのも、フレイ自身が先の大戦で培ってきたものだろう。隣にいるキラはそんな力強い彼女を見てそう思った。

 

「あぁ…わかってはいるよ」

 

フレイの言い分を飲み込むように、カガリはエレベーターの外へ視線を向ける。長く続いたコロニー外縁部から内部に入ると、大きな人口湖と広がる軍基地と工廠の景色が視界に飛び込んでくるのだったーー。

 

 

////

 

 

「やぁ、これは姫君方、遠路お越し頂き申し訳ありません」

 

会談場所であるアーモリーワンの行政府に通されたカガリとフレイは、出迎えてくれたプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルと握手を交わす。

 

「オーブ首長国連邦のカガリ・ユラ・アスハだ」

 

「アズラエル財団のフレイ・アルスターです」

 

二人の後に続いて入室したアレックスとキラも、周りを見渡す。デュランダルのほかにも、多くのザフト士官が集まっている室内で、デュランダルは二人を席に座るよう促し、自身もそれに座って二人と向き合った。

 

「議長にもご多忙の所お時間を頂き、有り難く思う」

 

「ウズミ様の方は如何ですか?戦後、実に多くの問題も解決されてから体調が優れないと聞き、私も心配し思っておりますが」

 

ウズミ・ナラ・アスハ。

 

戦後のオーブの立て直しと、周辺諸国への支援や混迷する地球圏の再建に尽力した人物であり、カガリ・ユラ・アスハの父でもある。一時の安定に入った地球圏の様子を見送ったのち、日々の苦労や無理がたたって、今ウズミは病床に伏している状態だ。

 

彼の空けた穴を埋めるため、カガリも本格的にオーブの政治へ身を投じている。

 

「父はまだ療養中でな。私自身もホムラ代表の補佐で、まだまだ至らぬことばかりだ」

 

オーブの政治運営は叔父であるホムラ代表が務めているが、彼も引退を決心している身であり、次期オーブ首相が誰になるかと言う政治的な舵取りの決断も迫られている状況にある。

 

「ーーで、そんな情勢下、姫方はお忍びでそれも火急な御用件とは?一体どうしたことでしょうか?我が方の大使の伝えるところでは、だいぶ複雑な案件の御相談、ということすが…」

 

白々しく言うものだ。デュランダルの口振りにアレックスはそんな感想を抱く。それはカガリやフレイも同じ様子であった。

 

「…中立国であるオーブには、そう複雑とも思えぬのだがな」

 

そう切り返したカガリに続いて、フレイも口火を切る。

 

「アズラエル財団も多くの支援をしてきました。こちら側としても、この案件に対するプラント政府としての明確な御返答が得られない、ということは、やはり複雑な問題なのでしょうか?」

 

フレイが所属するアズラエル財団もまた、戦後の復興に多くの支援と資金を投資した。地球圏はもちろん、宇宙、そしてプラントも分け隔てなく。アズラエル自身の目的であった「戦いの後の権力」を有するためにとの行動でもあるが、今は何より底に付いてしまった経済状況を打開するのが先決でもある。

 

「オーブ首長国連邦は再三再四、彼のオーブ戦の折に流出した我が国の技術と人的資源」

 

そこでカガリは言葉を区切り、デュランダルへ視線を向ける。

 

「ーー強いて言うならば、モルゲンレーテの流出した技術諸々の軍事利用を、即座に止めて頂きたいと申し入れているのですよ、デュランダル議長」

 

嫌な沈黙が流れる。議長も含め、ザフト軍の士官たちも、カガリの言葉に何ら反応を示さなかった。政治的な戦略なのだろうか。だが、そんな精神的な駆け引きを得意としないカガリは、さらに口調を強めて言葉を続けた。

 

「議長、これは可及的速やかに対応しなければならない問題だ。なのに何故、未だに何らかの御回答さえ頂けない!」

 

オーブの技術。それは時代の先を行く物として、先の大戦では戦局に多くの影響を与えた代物だ。大戦が終わり、平和へと歩み出した世界の中で、そんな技術を欲するのはーーあまりにも危険すぎる。

 

アズラエル財団も、オーブも、それは深く理解していた。

 

作れるから作った。

 

それで流れる血が、一体どれほどあったというのか。目の前にいる者達は、そんなことすらとう忘れてしまったのだろうか。

 

「ーーカガリ・ユラ・アスハ。フレイ・アルスター」

 

長らくの沈黙の後、デュランダルはゆったりとした口調で二人の名を呟く。

 

「貴女方もまた、先の戦争でも自ら前線に出ていた勇敢な御方だ。そして、最後まで圧力に屈せず、自国の理念を貫かれたオーブの獅子、ウズミ様と、ブルーコスモス派でありながら世界の行く先を見据えて戦争で疲弊した国々を援助し、地球圏を大きく立て直した立役者であるアズラエル理事の後継者でもあられる」

 

まさにこの先の平和へ繋げるための架け橋となり、象徴ともなり得る人材だ。故に、とデュランダルはこう考える。

 

「ーーならば今のこの世界情勢の中、我々はどうあるべきか…よくお解りのことと思いますが?」

 

その言葉に、カガリは思わず椅子に預けていた手で握り拳を作った。

 

「我等は打ち立てた理念を守り抜く。その責任があるのだ。議長!」

 

「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。その理念や考え方。それは我々も無論同じです。あの三隻宣言の中でも、我々は種族を超えて先に進まなければならないと言われたクライン前議長と同じく、それが未来であると信じています。そうであれたら一番良い」

 

ナチュラルとコーディネーター。

 

種族による劣等感を取り除き、それぞれがなすべき事を成すことにより、より高い次元へ人類を歩まさせていく。

 

それが、今から歩むべき進歩と調和に繋がると彼らは話した。あの〝三隻宣言〟の中で。

 

しかしだ。デュランダルの考えはそれは理想だと突きつける。

 

「だが、力無くばそれは叶わない。それは姫とて、いや姫の方がよくお解りでしょう?」

 

いまだに地球圏も、前体制の地球軍と、ハルバートン司令官の新体制の地球軍の間で小競り合いが起き、テロや紛争も終局を見せていない。

 

現に今も、オーブは自国の力を。アズラエル財団は私設の民間PMCを用いて、地球で起こる火種消しに奔走している。

 

「我々としても、ザラ派とクライン派と分断され足並みが揃っていないのが実情です。故に軍備は整えねばならない。過去の過ちを繰り返さないためにも」

 

分断されそうな危うい状態だからこそ、軍備を整える。そうしなければ、また過激派が先頭に立ち、互いを互いの憎しみで燃やし合う、あの凄惨な戦争が繰り返されるのだ。

 

「だからこそオーブも、アズラエル財団としても、軍備は整えていらっしゃるのでしょう?」

 

核心を突かれるような言葉を聞き、カガリも握っていた拳を解く。たしかにその通りだ。オーブも地球圏も、まだ戦う力を手放す段階にはない。

 

「ーー姫というのは止めて頂けないか?」

 

「これは失礼しました、アスハ議員、アルスター事務次官。しかしならば何故、何を怖がってらっしゃるのです?」

 

その状況を理解しているというのに、オーブもアズラエル財団も何を恐れているのだろうか?話のペースを握ったデュランダルは、彼らの焦りに似た言葉の真実を探り出そうとしていく。

 

「前体制でありながら、力を取り戻しつつある大西洋連邦の圧力ですか?オーブが我々に条約違反の軍事供与をしていると?」

 

フレイは表情を崩さなかったが、カガリはわずかに顔を硬らせた。たしかに、先の大戦でブルーコスモスの過激派の隠蓑であった大西洋連邦も、復興して力を増しつつある。

 

彼らの暴走を止めるためにも、オーブとしての立場を明確化し、調停するためにデュランダルに会談を申し出た思惑があったのも事実だ。だが、今回はデュランダルの方が上手だった。

 

「だがそんな事実はどこにも無いのですよ」

 

はっきりとした口調でそう告げる。事実として存在する自信だった。

 

「彼のオーブ防衛戦の折、職業難と経済的損失が大きかったオーブで、仕事をなくしていた同胞達を我等が温かく迎え入れたことはありました。その彼らが、此処で暮らしていくためにその持てる技術を活かそうとするのは仕方のないことではありませんか?」

 

そのカード切られては、オーブに反論する余地はない。先の大戦ーーオーブ解放戦で被った被害は大きい。人的資源の流出も、その日が境となっている。彼らを責めるわけにはいかない。あの戦争を招いたのは、オーブ政府のミスなのだから。

 

「だが!強すぎる力はまた争いを呼ぶ!我々はそれを過去の戦争で学んだはずだ!打たれたら打ち、それを繰り返す!その連鎖を断ち切るために、我々は動かなければならないのだ!」

 

「いいえ、争いが無くならぬから、力が必要なのですよ、アスハ議員」

 

「デュランダル議長」

 

平行線を辿る二人の会話に、切って入る凛とした声があった。

 

「だからと言って、それを使って仕舞えばーーユニウスセブンの二の舞になります」

 

フレイが真っ直ぐとした目で、デュランダルを見つめる。たしかに、平和を維持するために軍事力を持つことは必要だろう。しかし、行きすぎた力や思想は、また争いを生むことをフレイはよく理解している。

 

「抑止力とは、使わずに示すからこそ、抑止力なのです。それはひけらかすものでも、ましてや振りかざして良いものでもありません」

 

軍事力も、そして核を保有していることも、Nジャマーを持っていることも。すべては互いに力を牽制するための抑止力なのだ。そうあるべきだったものをーー先の大戦では使いすぎたのだ。

 

「先の大戦で、プラントも地球も、大きすぎる犠牲を払いました。我々にとって為すべきことは、核も、Nジャマーも、それを使わずに抑止力の象徴に戻すことではないのですか?」

 

フレイの言葉に、デュランダルは深く席に座って思考をまとめていく。やれやれ、オーブの姫君だけならば、やりようはあったがな…。

 

思わぬ強敵へと成長したフレイをみて頭を悩ますデュランダル。ふと、フレイとカガリの視線が交差すると、フレイは周りにバレないように小さな笑みを浮かべて答えるのだったーー。

 

 

 

 


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