ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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新年あけましておめでとうございます。
今年は小説を完結させれるようがんばりますので、よろしくお願いします!!今回は番外編となります!!



オーブの新年

 

 

「ううー、寒っ」

 

1月1日。

 

世間でいう新年最初の朝は快晴。けれど、俺が感じた新年の朝はどこか肌寒さがあった。気がつけば肌着一枚で寝ていたせいだろうか。陽が登って少し経った辺りの寒さに軽く身を震わせて、俺は住み慣れた自宅の2階からリビングへと降りてきた。

 

「お兄ちゃん、おはよ!」

 

元気のいい声が響く。リビングにはすでに顔を洗って朝食をとっているマユと、新年のテレビを見ている父さん、そして朝食の準備を進める母さんがいた。

 

どこか、悪い夢でも見ていたような気がした。誰もいないこの家で、たった一人で今日という日を過ごす悪夢を。

 

「おはよ、マユ。それと、あけましておめでとう」

 

「はい、あけおめことよろ〜」

 

「軽いなぁ」

 

そんな悪夢はさっさと頭から追い出すに限る。オーブに定着した新年の挨拶を交わして、お決まりの席に座る俺の目の前に出来立ての朝食が乗ったワンプレートが置かれた。

 

出されたトーストとスクランブルエッグ、そして最近、仕事が落ち着いた父が庭で育て始めた野菜で作られたサラダが並んでいる。

 

家庭菜園なんて、昔はそんな暇など無いほど忙しかったけれど、前の戦争でオーブも軍事研究が減り、環境問題や、地球にまだ打ち込まれているNジャマーに対する問題や、核に変わる新たな効率燃料を研究する部門がモルゲンレーテで創設され、動力部門の部長だった父は新たな部門へと転属となったのだ。

 

父も母もずいぶんと穏やかな時間を過ごせるようになって、元旦は家族全員でゆっくり出来るようになった。

 

「お寝坊さんね、シン」

 

「今日は非番だし、昨日は遅かったからね…」

 

みずみずしい葉野菜にフォークを突き刺して頬張りながら、俺は昨日の夜を思い返す。

 

仕事先であるトランスヴォランサーズの長期任務。ヨーロッパ方面への仕事が終わって、クリスマスと年越し休暇となっていた。仲間であり、尊敬するパイロットでもあるラリーさんや、リークさん、ケーニヒ教官。そしてオーブ軍で度々お世話になっているムウさん。そして彼らの旧友たちも招かれたホームパーティーに招待され、夜遅くまでパーティーを楽しんでいた。

 

俺はまだ未成年なのでお酒には手をつけなかったけど、並んだ豪華な料理や、ゲームに遊び疲れて最後の方は寝てしまい、気がついたら自宅へと帰ってきていたのだった。

 

「またラリーさんに背負って帰ってきたんだから、今日会ったらお礼を言っとくんだぞ?」

 

「ええー?お兄ちゃん、またラリーさんに背負ってもらったの?羨ましぃー」

 

「まぁ、いろいろと大変だったからな…」

 

そう言ってから俺は無意識に遠い目をしていた。あのパーティーは楽しかった。けれど、後半に連れて全員が程よくお酒が周り、最終的には残念な男たちのナイトパーティーとなるというあり様だったのだ。特にラリーさんがひどかった。シラフだった俺は全てを覚えている。これがまた悲しくて、サラダを噛み締めながら尊敬する師の悲運な恋路に心の中で敬礼を打った。

 

「お父さん、シンったら遠い目をしてるわ」

 

「母さん。男には語らなくても良いことがあるのさ」

 

悲壮感あふれるシンの様子に何か察したのか、父は心配そうにしている母をそっと宥めた。

 

男には心にしまっておくべきものが出来るタイミングもあるのだと。息子の成長を噛み締める父とは裏腹に、シンが虚空を見つめる先でしまったものは残念すぎるものであったが。

 

「マユちゃーん!迎えにきたよ!」

 

ふと玄関の呼び鈴が鳴り、マユを呼ぶ元気のいい声が響く。外にはリークさんの妹たちで、マユの同級生でもあるカナミ・ベルモンドと、ハズミ・ベルモンドが、新年に好んで着られる姿で待っていた。なんでもブームの大元はオーブでライブをしたラクス様のステージ衣装だとか。

 

「マユちゃんも行くでしょ?カミタケ神社」

 

ヤラフェス島にあるオーブ建国記念に作られたという伝統ある寺院。カミタケ寺院や、神社とも呼ばれるそこでは、新年を祝った出し物や出店、そして神様を祭る催事が行われていて、年明けから人で賑わっているので有名だ。

 

「行くよー、お兄ちゃんは?」

 

「着いてくよ、人も多いしな」

 

じゃあ着替えてくるね!と、マユも母と一緒に部屋へと向かう。友達と一緒に買った服に着替えるらしい。さっさと朝食を片付け、まだ眠気が残る体を起こすために俺も洗面所へと向かうのだった。

 

 

////

 

 

「あー、頭痛…」

 

「隊長、昨日飲み過ぎですよ?」

 

カミタケ神社の入り口。神社を目指すもの、神社から帰るもので賑わう通りの中、ラリーをはじめ、トランスヴォランサーズに属する者や、関係者たちは、ここで合流する待ち人を待っていた。

 

ひどい頭痛だ。頭を近くの自販機で買ってきたペットボトル飲料で冷やしながら項垂れる。昨夜のホームパーティーで、ややヤケ酒気味に酒を煽った結果、少々グロッキーになっている。それもこれも全部ハリーのやつの仕業だクソッタレめ。

 

「リークは酒豪だから羨ましいよ。ありゃあ、飲みたくもなるさ」

 

「毎回思うけど、哀れというか何というか」

 

「ベルモンドさん、楽しんでます?」

 

「見てては面白いよ?」

 

一緒にいたムウやトールも、その悪態ぶりを思い返して遠い目をする。本人が悪酒に走った理由をよく知るが故であった。古株であるリークはどこか楽しんでいる様子だったが。

 

「お前はな、人の気も知らんで…」

 

「ラリーさーん!」

 

うんざりした顔で抗議の声を上げようとした時、賑わう人混みの中、ラリーたちをやっと見つけた様子で待ち人たちが集まってきた。

 

「あけましておめでとうございます!」

 

「今年もよろしくな!」

 

「良いのか?カガリ。護衛も付けずに」

 

やってきたのはカガリをはじめ、キラやアスラン、そして着替えを終えたハリーたち女性陣だった。快活に新年の挨拶をするカガリにトールが問いかけると、彼女は自慢そうにあまり大きく無い胸を張った。

 

「何言ってるんだ?ここには優秀な弟と、最高のボディーガードがいるだろ?」

 

「僕の方がお兄さんだけどね」

 

久々のオフであるカガリが、笑顔のキラと兄妹の立ち位置を巡って火花を散らしている。相変わらずこれだよ、とトールとアスランが呆れた様子で笑っていた。カガリたちと準備をしていたハリーたちが、男性陣の前で着替えてきた姿をくるりと見せる。

 

12月に本格的な夏シーズンに入るオーブでは、厚手の服よりも半袖半ズボンが重宝される時期。

 

それに合わせてか、ラクスがステージ衣装できたのがミニスカートと着物をミックスしたような衣装で、ラリーから見たら「くのいちかな?」と思うようなやや偏った着物だった。それがオーブで受けており、今では元旦にはオーブにくのいちスタイルの女の子が闊歩するのが普通となっていたのだ。

 

「ハリーさんも、似合ってるじゃない?」

 

「こういう服って初めてなのよね、どう?似合う?」

 

つまり、オーブの街中をあの際どい格好をしたラクス衣装の女性たちが往来しているということで。〝プロポーションだけは良い〟ハリーをはじめ、トールのガールフレンドであるミリアリアや、サイの嫁であるフレイもそういう格好をしているのだ。

 

着物風の衣服の裾から見える肌色や、胸を押さえるインナーのチラ見せ。そして大胆に晒された太ももが健全さから遠のくグラマラスさを演出している。くるりと衣装を見せてくれる女性陣を前に、サイとトールは静かに拳を重ねた。

 

「最高だな」

 

「ああ、最高だ」

 

ちなみにこの衣装は未婚の女性限定という暗黙のルールもあり、ムウの隣にいるマリューは普段着だ。ナタルは街中で見られるのが恥ずかしいのでノイマンの家に避難している。

 

「リークさん、オルガたちは?」

 

「オルガは人混み嫌だからってパス。クロトはオンラインゲームで所属しているチームが新年早々の大会に出るからそっちに行ってるし、シャニはバンドの年越しライブ終わったばかりで家で寝てるよ」

 

「イザークたちも、プラントの任務があるから朝一の便で帰っちゃったもんね」

 

「忙しいな、アイツらも」

 

オルガたちもそれぞれ思い思いの年越しを過ごしたようだ。三人とも今まで出来なかった趣味に傾倒しているため、女の子の気配など微塵もないことが兄でいるリークの悩みだとか。

 

プラントから降りてきたイザークたちは、オーブの温泉を堪能し、年末のホームパーティーにも来てはいたが、日付が変わった後プラントの任務のためにさっさと引き上げていったのだ。

 

「ラクス様とアズラエル理事は?」

 

「今頃、ユーラシア各国を回ってるんじゃないかな?ラクスはライブとプラントの使者、アズラエル理事はブルーコスモスの盟主としての挨拶回りもやってるみたいだし」

 

ちなみに、二人からはビデオメッセージが届いていた。ラクスとお付きのバルトフェルドたちもパーティーに来たかったらしく、ビデオメッセージでは来年には必ず参加するというラクスの強い決意表明が収められていた。

 

アズラエル理事は恒例の訓示とあまり羽目を外さないようにという釘刺しが届いていた。そういうところはしっかりしているのがあの人らしい。

 

「まさか誰も思わんだろうな、年の暮れにオーブに地球とプラントの主要人物が集まってホームパーティしてるなんてな!」

 

そう言ってカガリは楽しそうにキラの背中を叩く。たしかに、一傭兵企業のホームパーティーに国の姫君や、プラント前議長の息子、そしてユーラシアの最高責任者がやってきているなんて誰も思わないだろう。

 

「ハルバートン閣下が来た時は皆んなびっくりしてたもんな。ラミアス艦長の子供を抱いてる時はただの好々爺さんになってたけど」

 

ホフマンや護衛を連れてホームパーティーにやってきたハルバートンも、年明けの挨拶を終えるとオーブ国際空港からユーラシアへと帰っていった。彼も未婚の身ゆえに、マリューの子供が可愛くて仕方がない様子だ。そのためにプライベートジェットを使うのはどうかとは思うが。

 

「ラリーさん!」

 

傭兵会社のメンバーがほぼ集まったところ、妹の付き添いでやってきたシンも偶然合流した。

 

「シン!来てたのか?」

 

「妹の付き添いで。皆さんも初詣に?」

 

「まぁそんなとこだな」

 

相弟子と挨拶を交わすラリーの後ろでは、初詣のおめかしをしたマユとハリーがバチバチとメンチを切り合っている。見て見ぬふりを貫く。

 

「あらあら、これは年末にラリーさんにデートに誘われたくせにひよって最新機のテストに付き合わせたハリーさんではないですかぁ」

 

「別にひよってなんかないんだからね?新型機のベースがいい頃合いで組み上がって、たまたまラリーがその予定に合わせてくれたんだから」

 

「あっちはあっちで不毛な戦いが…」

 

リークが何か言ってるけど聞こえません。

 

ちなみにラリーが悪酒のグロッキーになった理由はマユが言った通りだったりする。クリスマス、そして年越しという一大イベント。告白タイミングを見計らうラリーが逃すはずがなく、マユのブーイングもモノともせずにプロポーズ大作戦を決行。

 

結果、クリスマスも年越しも新型機のテストやらエンジンのテストに使われて終わりました。

 

雰囲気がいいレストランで後一歩まで行ったというのに、まったく乙女心とはわからんもんだな!!はっはっはっ!そう言って年代物のウィスキーのロックを煽るラリーを、ムウたちはただ慰めることしかできなかった。

 

「ラリーさん、おみくじとか引きましょ!ここのおみくじ、当たるんですよ」

 

そう言って、二人が火花を散らしている隙間にラリーの手を引っ張ってゆくのはリークの妹であるカナミだった。

 

「その隙にラリーを掻っ攫うリーク妹…」

 

「はっはっはっ、我が妹ながら立派に育ったものです」

 

「ほんと、この人いい趣味してるな…隊長限定にだけど」

 

おみくじエリアへと駆り出してゆくラリーとカナミの後ろ姿を見ながら、当人たちが好き勝手なことを言っていると、カオス化した空気を締めるようにフレイが手を叩いた。

 

「はいはい!ここでダベってても人の迷惑になるし、さっさとお参りに行くわよ」

 

うぃーす、とフレイの号令に従って全員が境内へと入ってゆく。

 

「カガリ、二礼二拍手一礼…だっけ?」

 

「作法を間違えると天罰が下るとか」

 

「マジかよ、神様ってこぇえ」

 

「いいからさっさとする!」

 

「すいません!!」

 

それぞれが本堂へお参りをしていく中、シンと並んでお参りをしたマユがにっこりと微笑んだ。

 

「お兄ちゃん。今年も一年、よろしくね!」

 

「ああ、いい年になるといいな。マユ」

 

今年も、また平和な一年が始まる。

 

シンはそう思いながら、騒がしい仲間たちの中へと妹と共に進んでゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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