ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
ブラックスワン隊。
シエラアンタレス隊。
地球軍、そしてザフト軍に属する彼らには一つの共通点があった。
それはヤキンドゥーエ戦役で勢力の垣根を越えて共に戦った戦友同士であり、そして同時に苛烈なヤキンドゥーエでの決戦を生きて潜り抜けてきた猛者たちだ。
イザークが指揮を取るシエラアンタレス隊は、現ザフトの宇宙軍の勢力で飛び抜けて戦闘力が高い部隊であり、カルロスが指揮するブラックスワン隊は、地球圏の宇宙の揉め事を一手に引き受ける力を持つほどだ。
そんな二つの部隊が揃うユニウスセブン。
《なんてこった、ボギーワンか!?》
その岩塊の上で、二つの部隊は〝たった一機〟のモビルアーマーに苦戦を強いられていたのだ。
「くっそー!!好き勝手しやがってコイツ!!」
シャムスとディアッカが高火力の雨を打ち込むが、現れたネオ・ロアノークのメビウスはひらりと攻撃を躱して周りに浮く岩塊の合間を縫ってゆく。その動きはあまりにも早い。
落下軌道上にあるユニウスセブンの磁気嵐と岩塊による重力変動によって、ネオが駆るメビウスを捕らえることは困難を極めた。
『動きがやはり速い…あの機体はなんだ!?』
「流星と同じような動きだ…!各機、油断するな!」
テロリストの駆るジンすらも食い散らすネオのメビウスに、その場にいる全員が戦慄した。特にイザークやカルロスは、その動きをよく知っていたのだ。あの機体の動きは、明らかに自分たちが最も心強いと思える味方と同じものだと、二人はすぐに理解してしまったのだ。
艶やかな軌跡を描きながら猛威を奮ってくるたった一機のモビルアーマー。
そのコクピットの中で、ネオ・ロアノークは狂気的な笑い声を上げた。
『ふふふ…はははは…そうか…これだったのか…俺が求めていた感覚は…!!』
ユニウスセブンの落下により訪れる世界の崩壊。地球圏とプラントが前大戦から振り返って積み上げてきた安明と平和が崩れてゆく。それを防ぐためにイザークたちが必死に作業に当たっている様を見て、ネオの狂気に拍車がかかってゆく。
「貴様!!地球が滅んでもいいというのか…!!多くの人が死ぬんだぞ!!」
降り注ぐビームの閃光を耐え忍びながら、イザークはこちらを容赦なく穿ってくるメビウスを睨みつけて叫んだ。多くの人が、生命が、命の営みを生み出す地球が滅亡するというのに、なぜ、その引き金を躊躇いなく引ける!!
『なんで止める?そうなった方が面白いだろうに…!!』
イザークやディアッカの機体に、声が走った。シエラアンタレス隊や、ジンを相手取るブラックスワン隊にも同様に。これは広域通信…!?
「こいつ…!!」
『残念だが…俺には守りたいと思えるものはないんだ。そう…無いんだよ。救いたい命も。守りたいものも…なにもかも…』
そんなもの、とうの昔に吹き飛んださ。この世界で初めて守りたいと思えた人も…共に戦った親友も!!すべては好きに振り回した世界だ!!ならば、その逆も然り!!
『世界に振り回され続けてきた人生だったが…今は違う。さぁ…跪け。世界よ!!』
ネオは慟哭する。笑い声のような悲鳴を上げて、彼はメビウスのフットペダルを踏み込んだ。
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ユニウスセブン外縁を目指したメビウスライダー隊は、新たに表示された探索値を見つめて荒れた瓦礫の側面を飛んでゆく。リークや、トールのメビウスが既に何点かの手がかりを発見しており、ラリーのデータが揃えばユニウスセブンに設置されている加速装置を特定できるはずだ。
「よし!エリアは絞れた!加速機は…あそこか!」
特定できた場所へメビウスを旋回させるラリー。だが、その進路を妨げるようにビームの一閃が遮ってゆく。
『これ以上はやらせん!』
ラリーたちのもとに現れたのは、サトーをはじめとしたジン・ハイマニューバの部隊だ。迫る敵に散開するラリーたち。相手は旧世代機だと思っていたが、それは間違いだ。あの機体の皮は確かにジンであるが、中身は全く異なる。見た目で判断すれば、即座に撃ち抜かれてしまうだろう。
「メビウスライダー隊!こちらミネルバのヴェステンフルスだ!援護するぞ!」
そこへ、ミネルバから発艦したハイネとレイも合流する。最新鋭機のインパルスとザクを相手取り、加速装置上空の宙域は一気に混線状態となった。
「ラリーさん!!ちぃ!こいつらまだ!」
「シン!援護する!回り込むよ!」
「はい!!」
シンとキラのストライカーもラリーへ群がるジンの部隊と大立ち回りをする中、サトーは広域通信でメビウスライダー隊や、レイたちに怒声を上げる。
『我が娘のこの墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!』
「そう言って貴方たちは…!!」
「そんなに戦争がしたいのかよ!!」
トールとリークがエレメントを組んでジンを落とす。仲間が落とされようが、サトーの迸る怒りは収まらず、さらに燃え上がってゆく。
『滅さなければならないのだ!ナチュラルなどという野蛮な存在は!!』
「そんな邪悪な思いだけで変えられる世界なんて無いんだ!それは前の戦争で証明されたはずだ!!なのに…なんで貴方達はこんなものを落とすのですか!!こんなものを落としたって、憎しみが増えて悲しいだけじゃないか!!」
ビームライフルがシンの機体の脇を掠める。シンやミネルバのMSを除く、この場にいる全員がヤキンドゥーエや、歴戦の戦いをくぐり抜けてきた猛者たちだった。
『此処で無惨に散った命の嘆き忘れ、討った者等と何故、偽りの世界で笑うか!貴様等は!』
「世界がそう進んでゆく姿を、貴方は認められないだけだ!!認められないのはいい!!こんなはずじゃなかったと言って前を見ないのは貴方たちの勝手だ!!けど、辛いからって…悲しいからって!!」
「その感情に他人を巻き込むなよ!!アンタたちは!!」
『その感情を、吐き出せなければ我々は何のために悲しみを抱いたのだ!!これを落とす権利が我々にはある!!打ってきたのは奴らだ!!』
その言葉は、ハイネの機体からミネルバにも届いていた。議長やラクスらと共に戦いの行く末を見ていたアスランの手に、グッと力が篭る。
『だが、軟弱なクラインの後継者どもに騙されて、ザフトは変わってしまった!何故気付かぬかッ!我等コーディネーターにとってパトリック・ザラの執った道こそが唯一正しきものと!』
言ったな!キラの中にある何かが弾けた。ストライカーを変形させると、鋭く挙動させるキラ。一気にサトーの機体と肉薄し、脇を通り過ぎる瞬間に変形し、引き抜いたビームサーベルでサトーの機体の腕を切り落とした。
「それしか見えてないから…貴方たちは!!」
『我らの思いを…世界に示さなければ…』
ライフルを持った腕を切り落とされたサトーは、反対の腕で斬艦刀を引き抜く。周りにある全員が行動不能に落とされていたことにも気づかず、サトーは感情のままにスロットルを上げて…
閃光に身を焼かれた。
『選民思想の異端児どもめ。リベルタリア気取りもそこまでだな。貴様らには、この墓標で散るのがふさわしい』
サトーのコクピットを貫いた閃光と共に響いた声に、誰もがその方向に目をやった。
「なんだ…?あの機体は…」
ユニウスセブンの廃墟の上に立つ、歪なシルエットのMS。そのコクピットに座る男は、笑みを浮かべて目を細めた。
『お初にお目にかかる。ザフト、連合の諸君。ランク1、ステイシス。君たちにこれを壊されては少々手間でね。このオッツダルヴァが君たちの相手をしよう…!!』
ユニウスセブン落下限界点まで、あと1000。