ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第28話 終わる時の中で

 

 

 

 

 

「イザーク!」

 

「このぉおおお!」

 

イザークとディアッカが挟み込むようにネオのメビウスを追い込むが、張り巡らせた包囲網をネオの機体はするりと猫のようなしなやかさで躱し、二人を容易く出し抜く。

 

『MSの特性に頼りきるから…そこだ!』

 

その二人を抜き去って放った一閃は、ディアッカの駆る高出力のエネルギー砲を構えるシエラザクを捉えて、ウィザードパックと砲身を根こそぎ破壊した。次いで発射されたミサイルは防御姿勢を整えていないディアッカ機の頭部を捉え、黒煙を上げさせてゆく。

 

「ぐぅう…くそ!なんだよ!こいつは!」

 

半壊させられた僚機を見つめながら、イザークは包囲網を抜けてメテオブレイカーへと近づいて行くネオに銃口を構えたまま叫ぶ。だが、その鋭い一撃も、まるで背中に目でもついているかのような反応速度でネオはひらりと避けた。

 

『全部は落とすなと言われているが…作戦にミスは付き物だよなぁ!』

 

狂気的な笑みを浮かべたまま引いた引き金は、眼前に設置されていたメテオブレイカーの中枢部を極光で貫く。護衛していたザクも追い抜くネオのメビウスの背後では、メテオブレイカーが派手に爆煙を吹き上げた。

 

「メテオブレイカー、二番機大破!隊長!」

 

「くっそー!これ以上はやらせてなるものか!」

 

『あーはっはっはっ!足掻け足掻け!貴様らが守る背後にある、あのどす黒い塊を知らないまま、死んでゆけ!』

 

こいつは…本気で世界を滅ぼすつもりなのか!?その場にいる誰もが、驚異的な力量を待つネオのメビウスに恐怖すると同時に、そこまでの恨みを持つ個と言う存在に戦慄する。

 

笑みを浮かべながら、大多数の人の命を軽んじる敵の正体は狂気的な殺戮者の他ない。

 

「メテオブレイカー三番機に敵機!」

 

「止めろ!これ以上やられればユニウスセブンが破壊できなくなるぞ!」

 

メテオブレイカーの威力はユニウスセブンを破砕する力を有しているが、それはあくまで理論的なものだ。現に、プラントが下したメテオブレイカーの機数も安全マージンを考慮した機体数だ。

 

数を減らされれば破砕する力バランスも崩れてくる。そうなれば、大気圏で燃え尽きるサイズに砕くことは不可能になる。

 

それを承知の上で、ネオはメテオブレイカーに襲い掛かった。立ち塞がるように機体を滑り込ましたスウェンのストライクノワールが、腕部からワイヤーを放ちメビウスの行手を遮る。

 

だが、そのワイヤーの普遍的な動きをネオはまるで舞うかのような鮮やかな軌跡で避けて、驚愕するスウェンに無反動砲を打ち込んだ。

 

「くぅう!」

 

「スウェン!」

 

『邪魔をするなら退がっていろ!』

 

衝撃で吹き飛ぶスウェンを援護するように、シャムスとミューディーのMSが前に出るが、手練れである二人すら凌駕する技量を持って、ネオは包囲網を突破してゆく。

 

「シャムス!ミューディー!」

 

同じく吹き飛ばされた二人を受け止めるスウェンの背後では、ガラ空きになったメテオブレイカーへネオが銃口を向けた。

 

『世界が変わるんだ…なら、派手にやらないとな。さて、審判の時だ!』

 

躊躇いなく放たれた光の極光がユニウスセブンを走る。イザークたちが顔を真っ青にする中、無防備なメテオブレイカーの前へ一機の影が猛スピードで滑り込んだ。

 

「やらせん!うおおおおーー!!」

 

鈍い音が響く。ネロブリッツを滑り込ませたカルロスへ、ネオの放った一閃が直撃した。

 

「隊長…!?」

 

それはスウェンたちの目の前で起こった。コクピット側の腹部を貫かれたカルロスは、体の半身を高熱のビームに焼かれ、コクピットモジュールはズタズタになってしまっていた。

 

「がふっ…貴様は…何も知らないのだな…この世界の美しさを」

 

広域通信でカルロスは自分を見下ろすネオに言葉を投げた。たしかに、ヤキンドゥーエで起こった凄惨な戦いは、人類が始めた。

 

だからこそ、神でもない、自らの手で終わらせたのだ。

 

「憎んでいたはずの敵と手を取り合って.…そんなことはあり得ないと唾棄したことが現実になって…あの戦いを止めたんだ」

 

カルロスはひび割れたヘルメットの中に血を吐き出しながら、憎悪に塗れたネオのメビウスに手を差し伸ばした。

 

「ガルーダ隊も、アンタレス隊も…多くの戦友たちが守った星を…お前たちの好きにはさせない。お前は…見えていないんだ…世界はこんなにも——」

 

腹部に滾っていた熱が引火し、ブラックスワン隊を率いていたカルロス・バーンの機体は火の玉に包まれ、ユニウスセブンの果てへと流れていった。

 

「カルロォォス!!」

 

「隊長ぉおお!!」

 

イザークとスウェンの慟哭が響く中、ネオは狂気的な面持ちから何も感じられない表情へと豹変して、すでに聞こえないであろうカルロスへ声を返す。

 

『——美しさなんて、とうの昔に忘れたさ。俺は…』

 

《大佐!阻止限界点が間もなくです!帰還してください!》

 

『ランク1も頃合いか。データは取れた。あとは神に身を委ねるとするさ』

 

ガーディ・ルーのイアンから通信を受けたネオは、「大佐」の仮面を被ると先程までの狂気度を完全に隠してユニウスセブンから離脱してゆく。この件にザフトのテロリストが絡んでいた、その情報だけ手に入ればこちらとしては充分な収穫だった。

 

《スウェン!お前が隊長をやれ!》

 

静寂に包まれる現場では、ケストレルⅡからの通信を受けるスウェンの姿があった。歯を食いしばって耐えるスウェンは、わかっていながらも理解できていない現実を確認するように、AWACSのソリッドアイへ問い直した。

 

「…くっ…バーン機は」

 

《爆発した。彼は…戦死した》

 

そのはっきりとした言葉に、シャムスは無言のままコンソールへ拳を叩きつけた。ミューディーも聞こえないように涙を流している。彼もまた、スウェンたちにとっては恩人だったのだ。

 

人として見られず、兵器として教育された自分たちに兵士としての信念と人としての尊厳を取り戻させてくれたのは紛れもなくカルロスだった。

 

《スウェン、君がブラックスワンを率いるんだ。できるな?》

 

悲しみを押し殺したソリッドアイのオペレーターの声を聞いてから、スウェンはしばらくじっと声を黙らせてからうなずく。

 

「…了解した」

 

「メテオブレイカー、全機始動!ユニウスセブンの外殻が割れます!」

 

無事に起動したメテオブレイカーの動作を確認したニコル。割れてゆくユニウスセブンから、ブラックスワン隊とシエラアンタレス隊は離脱してゆくのだった。

 

 

////

 

 

 

「加速装置を破壊!ラリーは!?」

 

メビウスライダー隊も、特定したソーラーセイル加速器を無事に破壊していた。だが、速度に乗ったユニウスセブンを止める術はない。

 

割れ始めた外殻から離脱しながら、リークは一人残ったラリーの安否をソリッドアイへ確認する。

 

《ソリッドアイよりメビウスライダー隊へ!メビウス1の信号が途絶!》

 

信じられない言葉が帰ってきた。リークが「え…」と、言葉を失う。あれほどの強さを持つラリーが?信じがたい事実に全員が驚愕した。

 

「ラリーさんが…!?」

 

「そんな…」

 

そんな中、レーダーはいち早く敵の反応を捉えた。即座に意識を切り替えたリークが、呆然とする各機へ通信をつなげた。

 

「メビウス2より各機!敵機がくる!」

 

すると、頭上からビームの光が降ってきた。ハイネやレイも回避軌道に入る中、一人沈黙を守っていたシンが、頭上に現れた異形の機体を視界に捉えていた。

 

《ほう、まだ残っていたのか。殊勝なことだ》

 

「オッツダルヴァァアアアッ!!!!!!」

 

誰の指示もなく、シンはスロットルを全開にすると悠然と現れたステイシスへ、メビウス・ストライカーを突貫させる。

 

「シン!?」

 

隣にいたキラが、普段では考えられない怒りに溢れたシンの動きを見て驚いた声を上げる。誰もの静止を聞かずに、シンは脚部に備わるミサイルを佇んでいるステイシスへと放った。

 

「ラリーさんをどうした!!」

 

クイックブーストでミサイル群をいなすステイシスを見て、ならばとシンは機体をMS形態へと変形させるとミサイル群に混ざって回避に専念するステイシスへ体当たりをぶち当ててゆく。

 

《こいつ、落下しているユニウスセブンでよくやる…!》

 

「答えろ!!ラリーさんは…!!」

 

《流星なら俺が落としたさ。あんな時代遅れの存在、このユニウスセブンと地に落ちてゆく末路が相応しい》

 

接触回線で聞こえた侮蔑や哀れみに満ちた声を聞いて——シンの怒りは限界を超えた。

 

「この…野郎!!」

 

自分の中で割れかけていたSEEDが遂に弾けた。シンは瞳から光を無くすと、腰に備わるビームサーベルを引き抜き、接触したままステイシスへ振りかざした。

 

咄嗟にステイシスがクイックブーストで後退しようとしたが、シンはすぐにビームサーベルを投げて、刀身にビームライフルを放つ。

 

「シン!!」

 

「あの動きは…!!」

 

撒き散らされた粒子状のビームは、チャージしていたビームランチャーを食い破り、爆煙を上げさせる。各部に設けられたスラスターにも影響が出ていることに驚愕するオッツダルヴァへ、シンは鬼の形相のままもう一つのビームサーベルを構えて突撃した。

 

「アンタだけは!!」

 

《なんだ、この動きは…!!》

 

「アンタは、ここで落とす!!俺が!!今!!ここでええ!!」

 

崩壊してゆくユニウスセブンの中で、シンとオッツダルヴァの戦いが始まる。磁気嵐と地球圏の引力の影響で遠のく通信では、ソリッドアイのオペレーターが声を荒げていた。

 

《ソリッドアイより全機へ!降下シークエンス、フェイズ2!!繰り返す!降下シークエンス、フェイズ2!!》

 

ユニウスセブン阻止限界点まで——残り300。

 

 

 

 

 


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