ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第29話 スカイフォール・ダウン

 

 

外殻が割れて長年溜まっていたガスが噴き出す地獄絵図と化したユニウスセブンの表層。

 

そこに墜落したメビウスの中で、ラリーはアラームが鳴りっぱなしなコンソールに抵抗することをやめて、投げ出すようにコクピットシートに身を埋めた。

 

「あーくそ、制御機器も全部やられて動けんか…まさか…アーマードコアとはな…俺がこの世界にいることによる変化か…?」

 

まさか、あんな得体の知れない機体が現れるとは…。だが、不思議なことにステイシスの動きは完全に実弾もビーム兵器も避けるような動きをしていた。完全にこちらからの攻撃に警戒する動きだ。

 

件のMSがアーマードコア・ネクストならば、〝プライマルアーマー〟というフェイズシフト装甲が逆さになっても勝てないインチキ兵装があるはずなのに。ラリーが目撃したことがあるプライマルアーマーは、クルーゼのプロヴィデンスと、ネオのメビウスくらいだ。

 

ふと考える。

 

あのステイシスは、『SEEDの世界にある技術で限りなく再現した模倣品』ではないかと。

 

それなら、ステイシスがプライマルアーマーに依存しない戦闘を駆使していた理由にも説明が付く。そもそもの話、あの機体にはコジマ粒子も、プライマルアーマーも無いのだ。現存する最高峰の技術でネクストを再現したMS…。

 

それでも、あれほどの性能だ。並のMSならばスペック差で手も足も出ないだろう。現に、自分がそうなっているのだから。ラリーはアラームが鳴り響くコクピットの中で哀れむように苦悶の表情を浮かべる。

 

「何もできないで死ぬのか…俺は…」

 

いつかは、こうなるという覚悟はあった。だが、これは無いだろう?神様。こんな幕引きがあっていいのか。自分というイレギュラーが、この世界に悪影響をもたらし始めた事実だけを知らされて死んでゆくなんて…。

 

この世界に来てから、何度も恨み、何度も嫌われているのだと自覚していた神だが、まさかこれほどまでとは…ラリーは落ちてゆくユニウスセブンの外壁の上で、そう感傷に浸る。

 

これまでか、と諦めかけたラリーの機体に通信のノイズが走った。

 

《ラリーさん!!》

 

ノイズに混じった声がラリーの耳に届く。顔を上げると、吹き出したガスを掻き分けて、一機の緑色のMSがラリーの元へと現れた。

 

「ザク…?」

 

通信が安定する距離まで来たザクは、高強度を誇るレーザー通信を使ってラリーの機体へ映像通信を繋げる。

 

サブモニターしか動かなくなったそれに写ったのは、アスランの顔だった。

 

《あの時の借りを返しにきましたよ、ラリーさん》

 

呆気に取られるラリーに、笑みを浮かべてそういうアスランに、ラリーはひとしきり笑い声をあげてから顔を上げた。どうやら、神はまだ俺を殺す気はないらしい。

 

「今回ばかりは、タイミングがいいな。アスラン」

 

そう言ったラリーに、アスランは気持ちが良くなるような笑みと、サムズアップを送るのだった。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

光が走る。

 

ユニウスセブンの頭上では、歪な形をしたステイシスと、シンのメビウス・ストライカーが複雑な戦闘機動を繰り出しながら死闘を繰り広げていた。ステイシスが機体中に張り巡らされたブースターで加速する中を、シンは躊躇いなく突っ込み、距離を置かれないように肉薄した。

 

「うおおおおーーっ!!」

 

《くっ、力負けしているだと!?あのような機体に!!》

 

ビームライフルを構える暇すら与えない。高機動、高高速度の中での戦闘を想定して建造されたステイシスには、シンのストライカーのような柔軟な近接戦闘武装が備わっていない。ビームサーベルを引き抜き迫るシンだが、見たこともない加速性を持つステイシスに一閃を当てるのは至難の技だった。

 

「逃すものか!!」

 

だが、シンは諦めない。向こうが圧倒的な加速で逃げるなら、こちらは退路を絶って複雑な戦闘機動で追い詰めるまでだ!距離を置いて放ったステイシスのビームがシンの脇を掠めるが、彼は恐れることなくさらに肉薄してゆく。

 

「シン!戻って!地球圏に引っ張られるぞ!!」

 

「シン!!あのバカ!!」

 

「くそぉおお!!機体が重たい!!」

 

リークたちはもちろん、ミネルバのハイネたちも徐々に地球の引力圏に惹かれつつあった。挙動が鈍くなってゆく重力場の中で、シンの動きは目に見えて速さを保っていた。

 

瓦礫の中で見え隠れするステイシスとストライカーの動き。その垣間の中で、リークには〝ホワイトグリント〟と〝プロヴィデンス・セラフ〟の死闘が一瞬ブレて映ったように見えた。

 

「ミネルバの機体は帰還を!貴方たちまでくる必要はない!」

 

「俺たちだけで戻れるかよ!」

 

リークの打診を断るハイネ。こちらもメビウスライダー隊も命がけでユニウスセブンの落下を阻止しようとしているのだ。まだ充分な破砕ができていない上に、敵がいるという中でメビウスライダー隊を置いて撤退することはできない。

 

そして、後方のケストレルⅡでは驚愕のデータが観測されていた。

 

「ユニウスセブンの一部が地球に落ちる!?」

 

艦長のトーリャ・アリスタルフが席から立ち上がって声を上げた。

 

「メテオブレイカーの威力が分散されたんですよ!岩塊は砕けましたが、砕けた衝撃でブレーキが…!」

 

観測班から上がってきたデータでは、たしかにメテオブレイカーの効力でユニウスセブンの破砕はできたが、その巨大な一部が完全に地球圏の軌道に乗ってしまっていたのだ。二機という想定外の損害を受けた結果かもしれないが、トーリャはズルりと席にもたげて顔を青ざめる。

 

「俺たちが…落下の手伝いをしたのか…」

 

その言葉に、オペレーターはすぐに答えることはできなかった。

 

 

 

////

 

 

 

ステイシスのコクピットの中で、オッツダルヴァは相対する敵のしつこさに舌を巻いていた。こちらの機体は、ネオのメビウスに備わるような防御面のプライマルアーマーは備わっていない。

 

クイックブースト時に、急加速によるGから機体を保護するために局所的なプライマルアーマーを展開できるだけで、防御面にエネルギーを回せるほどの電力が確保できていないのだ。

 

永続的にプライマルアーマーを展開しようとするならば、もっと電力効率がいいバッテリーか、それともNジャマーキャンセラーを使った核エンジンくらいだろう。

 

《くぅ、いくらこの機体とて、大気圏に突入して耐えれるものでは…!!》

 

「落ちろよ!!こいつ!!」

 

高度計を確認するオッツダルヴァに迫るシン。咄嗟にライフルの銃口を構えるステイシスに、シンはアーモリーワンで痛んだストライカーの片腕を突き出し——、放たれた一閃はシンの機体の腕を吹き飛ばす。

 

「シン!!」

 

キラの悲鳴のような声の中、くるくると姿勢を崩したストライカーが赤く染まり出したユニウスセブンのデブリの中へと落ちてゆく。

 

息をついたオッツダルヴァは、次の瞬間に信じられない光景を見た。

 

落ちていったはずのストライカーは、デブリの一つにタイミングよく両足を乗せると、最大出力でステイシスへと迫ったのだ。

 

機体を半身だけ変形させ出力を上げたシンは、意表を突かれたステイシスの片腕をお返しと言わんばかりに切り裂く。

 

《まるで正気を失った鬼だな!貴様は!!》

 

「はぁああーー!!」

 

《間もなくフェイズ3!》

 

ケストレルやミネルバの忠告を聞かずに戦闘を継続するシン。その光景をレーダーで観測していたミネルバは、決断を迫られていた。

 

「砲を撃つにも限界です!艦長ぉ!!」

 

「シエラアンタレス隊と、ブラックスワン隊の離脱を確認!ですが、メビウスライダー隊とハイネ、レイ機が確認できません!特定出来ねば巻き込み兼ねません!」

 

宙域仕様である第八艦隊の船では大気圏の摩擦熱に耐えきれない。落ちてゆく巨大な岩塊を破壊できるのは、宙域にも大気圏内でも運用ができるミネルバだけだ。

 

大気圏突入フェーズに移行しながら、タリアは最後のチャンスをどう判断するか決断を迫られる。そして…。

 

「タンホイザー起動」

 

その言葉に、座席にしがみ付いていたカガリが怒声を上げた。まだあの岩塊のどこかにアスランやキラ、ラリーたちが戦っているというのに!!

 

「グラディス艦長!!」

 

「ユニウスセブン落下阻止は、何があってもやり遂げねばならない任務だわ!照準、右舷前方構造体!」

 

淡々と命令を下すタリアに歯を噛むカガリ。ユニウスセブン表面でも、機体の高度限界を迎えつつあるリークたちが離脱を開始しようとしていた。

 

「くっ!限界か!離脱するぞ!」

 

「シン!!」

 

リークの言葉すら届かない怒りに当てられたシンは、なんとか離脱しようとしているステイシスをモニターに捉えながら重たいスロットルを操る。

 

「逃げるな…!!アンタは…俺の尊敬する人を…!!」

 

ブレるターゲットアイコンに遠くなってゆくステイシスを捉え続けながら、地獄の底のような声を放つシン。ターゲットが赤色に変わった。ゆっくりと重力に引きずられてゆくコクピットの中で、シンは銃口の引き金を——。

 

《シン!!聞け!!》

 

シンの元に、慣れ親しんだ声が届いた。瞬きをすると光を失っていたシンの眼に光が戻る。通信から聞こえてきたのは、間違いなくラリーの声だった。

 

「ラリー…さん?」

 

《アスランに助けてもらった!離脱するぞ!ミネルバへ帰るんだ!》

 

ふと、横を見るとザクと合流したメビウスライダー隊や、ハイネたちの機体が見える。シンはターゲットアイコンに目を戻したが、ステイシスはすでに離脱域まで撤退しているのが見えた。

 

「りょ、了解!!」

 

機体を翻してメビウスライダー隊に合流するシン。ユニウスセブンを離れた隊を、ミネルバも捕捉していた。

 

「メビウスライダー隊、補足しました!」

 

「艦長ぉ!」

 

「タンホイザー照準。右舷前方構造体!」

 

船を操りながら砲口に光が滾ってゆく。眼前には地球を滅さんと落ちてゆく巨大な岩塊が写った。光の極光は頂点に達し、タリアは赤く染まるブリッジの中で叫んだ。

 

「てぇえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いてのニュースです。

 

落下したユニウスセブンは、その岩塊の殆どが地球軍とザフト軍の協力のもと無力化されましたが、一部が大西洋諸国へ落下。落下した被災地では懸命な救助活動が続けられていますが、被害は甚大です。

 

被災国は国際社会に対し、『ユニウスセブンの落下はプラント側による人災』と指摘し、国際社会へ強く言葉を———。

 

薄暗い部屋の中、多くあるモニターの中の一つに映るニュースを見つめながら、ロード・ジブリールは笑みを浮かべる。

 

「ふふふ…ははは…あっはっはっ!!」

 

その笑い声は、誰もいない彼だけの世界に響いた。そして彼は、真っ暗な瞳をしたままニュースで語られる世界へと言葉を発する。

 

 

 

 

「ついに始まるぞ…我々による〝国家解体戦争〟がな!!」

 

 

 

 

 

 

 

世界は、大きく動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

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