ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第30話 処女航海からの大気圏突破後

 

 

「迎え角良好。フラットダウン」

 

大気圏を突破したミネルバは、落下したユニウスセブンの破片から距離を取るように南下し、太平洋上へとその巨体を下ろそうとしていた。

 

「推定海面風速入力。着水チェックリスト1番から24番までグリーン。艦長、着水時のエフェクトがシミュレーション値を超えています」

 

「カバーして。警報。総員着水の衝撃に備えよ」

 

メイリンの報告を聞いた上で、艦長は着水を指示する。宙域、大気圏内、そして海上での運用を想定されたミネルバは、惑星強襲揚陸艦として相応しい性能を有している。巨大な可変翼を調整しながら、ミネルバの船体は太平洋へと降り立った。

 

「着水完了。警報を解除。現在全区画浸水は認められないが今後も警戒を要する。ダメージコントロール要員は下部区画へ」

 

処女航海からデブリベルト、そしてユニウスセブンの破壊作戦に加えて大気圏突破、おまけに海に着水ときたものだ。システム上では異常は見られないが、どんな影響が及んでいるかわからない。この1時間程度の時間が、ミネルバの性能を確固たるものにする判断期間でもあった。

 

戦闘状態から通常状態へと戻るブリッジの中、タリアは疲れた様子で帽子を脱ぐと、隣には労わるように肩に手を置くデュランダルの姿があった。

 

 

 

////

 

 

 

モビルスーツハンガーから出てきた整備員や、補給兵たちは、大気圏内でボロボロになったザクやインパルスの整備を行いながら、青空の下に広がる海と、潮風をめいいっぱいその身に受けていた。

 

「…けど地球か」

 

「太平洋って海に降りたんだろ?俺達。うっはは、やっぱ海ってデケーな!」

 

呑気に言うヴィーノに呆れるヨウランはため息をつきながら額を抑えた。

 

「そんな呑気なこと言ってられる場合かよ…」

 

ふと、視線を動かすとメビウスライダー隊の面々もメンテナンスなどでこちら側に出てきているのが見えた。

 

〝今は力を合わせてユニウスセブン をなんとかしなければならない。俺たちが足並みを揃えなければ、その先にあるのは果てない闇と滅びだ〟

 

〝頼む、人の未来のため、今は力を合わせることに協力してほしい〟

 

そう言って自分たちに頭を下げてくれた流星のことをヨウランは思い出す。あの時は、まだ無自覚であったが、この広大な海を見て初めて思う。自分の放った言葉がどれだけ軽率であったかを。

 

「彼らが守った世界…か」

 

そう呟いたヨウランの言葉は、はしゃいでいるヴィーノには届いていなかった。

 

 

 

////

 

 

大気圏ギリギリのところでミネルバのハンガーに飛び込んだメビウスライダー隊と、ミネルバのモビルスーツたち。焼け焦げたザクのコクピットからようやく降りることができたアスランは、ワイヤーウィンチに捕まりながら久々の重力下に足を着いた。

 

「大丈夫か?アスラン」

 

そんな彼をブリッジから出たカガリが出迎えた。なぜ彼女がハンガーに?そんな疑問を抱えながら、アスランは駆け寄ってきたカガリを抱きとめる。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「けど…驚いた。心配したぞ?モビルスーツで出るなんて」

 

「すまなかった、勝手に…気がついたら議長に口を出していたんだ」

 

「いや、そんなことはいいんだ。お前の腕は知ってるし。私はむしろ、アスランが出てくれて良かったと思ってる」

 

そう言ってくれるカガリが、アスランにとって救いだった。あのテロリストたちの通信を聞いて悩んで悩んで…出ることを決断したアスランの行動を認めてくれるカガリが、なんと心の支えになるか。

 

そんなアスランたちのもとに、メビウスから降りてきたリークがやってくる。

 

「…とんでもないことになったが、ミネルバやイザーク達のおかげで被害の規模は格段に小さくなった。ラリーを助けられたのは、アスランくんが出てくれたおかげだよ」

 

「リークさん…」

 

頭を下げたリークに、アスランは困ったような顔をするが、顔を上げた彼の顔は事態の深刻さを物語るかのように暗い影があった。

 

「破片の多くは大西洋諸国へ落下したようだな。加えて、あのユニウスセブンの落下は自然災害じゃない。プラント…そして地球も絡んだ人災だ」

 

「けれど、君たちは最善を尽くしてくれたよ」

 

リークの溢すような言葉に答えたのは、カガリとともにハンガーに降りたデュランダル議長だった。アスランとリークの敬礼を手で制しながら、デュランダルは改めて尽力してくれた二人へ感謝を述べる。

 

「君たちの活躍がなければ、被害はもっと甚大になっていた。少なくとも、我々が降りることができる地上など無くなっているほどにね」

 

「議長、衛星通信の準備ができました」

 

駆け寄ってきた側近の言葉を聞いて、デュランダルは肩をすくめた。

 

「やれやれ、君たちとゆっくり話す時間も無いか。政治家というものは忙しいものだ」

 

側近共に歩んで行くデュランダルに、政治家としてカガリも同行する。また後でと手を振るカガリに笑みを送ると、リークの後ろからキラたちが入れ替わるように合流した。

 

「アスラン」

 

「キラ、トールも…そっちも大変だったみたいだな」

 

「うん。所属不明機にザフトのMSを奪った組織だもんね」

 

アーモリーワンで遭遇した敵は、イザークやカルロスたちの方へと向かったらしい。磁気嵐の影響で、彼らとの通信も満足に取れなかった。無事に離脱してくれればいいのだが…。

 

「しかも首謀者も元ザフトのテロリストだった…いったいどれだけの思惑が交錯してるんだろうなぁ」

 

トールの言葉にアスランも頷く。今回の事件の黒幕。単なるコーディネーター過激派による事件ではない。アーモリーワンのザフト新型機の奪取事件に、腕の立つメビウス乗り。地球もプラントも絡んだ事件だ。

 

「わからないさ。ともかく今は状況を整理するしか——」

 

「いっでぇええ!!」

 

リークの言葉を遮るような大声が響いた。全員が目を向けると、頭を押さえてのたうち回るシンと、般若の形相を浮かべたフレイが仁王立ちで、のたうち回るシンの前に立っているのが見えた。

 

「シン!アンタねぇ!!命令無視をして無茶をしたんですってえぇ!?」

 

カガリがハンガーに降りていた理由は、命令無視をしてステイシスに単身挑んだシンを説教するためだった。すでにカガリのゲンコツを食らってタンコブを作っていたシンの頭に、フレイがさらにゲンコツを下ろしたのだ。

 

某春日部少年のような二段タンコブを頭に乗せながら、シンは青ざめた顔で見下ろすフレイを見上げる。

 

「げぇ!フレイさん!!」

 

「正座!!」

 

「っス!!」

 

隣にいたマードックは気にしない様子でシンのメビウス・ストライカーの点検に戻っており、キラやトールも擁護する間も無く縮み上がっている。リークは困った笑みを浮かべるだけだった。

 

「何か弁明は?!」

 

「返す言葉もございません!!」

 

「おまけにストライカーもボロボロで、片腕も無くなってるもんねえ!!何考えてたの?ねぇ?」

 

「ごめんなさい!!」

 

生意気さなんて見せたら手に持っている特大の工具で何をされるかわかったものではないので、シンは凄まじく綺麗なDOGEZAでフレイに頭を下げた。見栄えもへったくれもない。メビウスライダー隊では整備士からの説教は絶対なのだ。

 

「まったくもうっ!パイロットは命あっての物種!MSは命を守るための手足!命令無視は社内でも厳罰もの!罰として1ヶ月トイレ掃除と点検の手伝い!わかった!?」

 

「はい、謹んでお受けいたします!!」

 

平伏するシンを見るアスランは、別の場所にいるラリーとハリーを見つめる。

 

「で、あっちもあっちか」

 

そう呟いた先では、ラリーが何も言われずとも正座の体制になろうとしていたところだ。

 

「すまない、ハリー。俺の力不足だった」

 

そう言って心底申し訳なさそうに言うラリーに対して、ハリーは手に持った端末から戦闘状況と、破損情報を見つめながら答えた。

 

「うん、あれは…仕方ないよ」

 

あまりにも覇気のない返事に、しばらく正座していたラリーは立ち上がりながらハリーを見つめた。

 

「ハリー?」

 

「え?何?」

 

「正座はいいのか?お説教は?」

 

「今回は無しよ。………何よ、今にも空から槍でも降ってくるんじゃないかって顔して」

 

もしくは天変地異の前触れかと言わんばかりに驚いた表情をするラリーは、端末に目を走らせるハリーの前で指を鳴らしたり、手を叩いたりして彼女が正気かどうか確かめる。

 

そして一発ぶん殴られた。それもグーで。

 

「もともと、ラリーのポテンシャルを充分に発揮するにも、この機体じゃ限界だったのよ。私も平和ボケしてたのね。この機体であしらえるだろうってタカを括っていたところもあるわ」

 

腫れ上がった頬をさすりながら頷くラリー。目の前には、メインエンジンに弾痕が刻まれたラリーの愛機が鎮座している。これはもう飛ぶことは叶わないだろう。漏れたオイルや電子機器が無造作に床に散らばっており、唯一無事なのはコクピットの内部くらいだ。

 

それを見つめながら、ハリーは小さくつぶやく。

 

「オーブに戻ったら、あの計画を進めなきゃ…」

 

「んー、うん?なんだって?」

 

「んーんー、なんでもないわ♪」

 

そう答えて、戦闘後のスクラップを見た後とは考えられない足取りで破損したメビウスから部品採りをしていくハリー。

 

その背中を見つめて、ラリーはどこか一抹の不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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