ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第34話 限界を超えろ

 

シン・アスカの朝は早い。

 

トランスヴォランサーズの中でも一番若手であり、オーブでも鬼神と恐れられる「ラリー・レイレナード」が育てる後継者と言われるシンは、自主トレーニングでも余念はない。

 

深夜まで仕事をしていた妹や両親が寝てる中、静かに家を出たシンは、お気に入りのメーカーで揃えたスポーツウェアを身につけている。

 

早朝ランニングは朝の5時半から始まる。4時半に起床し、身支度と朝食、そしてストレッチを行ったシンの足取りは軽い。

 

1ヶ月近く宇宙にいたことで感覚が違う体はすっかり重力の負荷を思い出したのか、帰港後と比べると、体力も重力下の時と変わらないものになってきていた。

 

お気に入りの音楽をイヤホンで聴きながらいつものコースを走っていると、向かい側から同じように走ってくる人影が見えた。

 

「ルナマリア…」

 

徐々にペースを落として、やってくる人影の前でシンは立ち止まると、向かい側の相手も足を止めた。帽子を深くかぶってストイックにランニングをしているのは、オーブのパイロット。

 

ルナマリア・ホークだった。

 

「どうも」

 

立ち止まってまじまじとルナマリアを見るシンに、彼女は事なさげに頭を下げてから走り出そうとシンの横を通り抜けた。

 

「あ、あのさ!助けてくれてサンキューな!」

 

そんな彼女に、シンは言葉をかける。ルナマリアは進めようとした足を止めたが、シンの方に振り返る事はなかった。

 

それでもシンは、言葉をかけるのをやめなかった。

 

「地球軍に追われてたザフトの船にさ。俺も乗ってたんだ。あの時、いい動きをしてたムラサメに乗ってたのって、ルナマリアだろ?」

 

ミネルバがオーブ領海前で地球軍のパトロール隊に捕捉されたとき。宙域専用の機体しかなかったシンたちは何もできずに、応戦するレイやハイネに事を任せることしかできなかった。

 

そんな交戦状態の中、オーブから迎えにやってきた部隊の中で、ムウやオルガ、クロトたち以外に、一番いい動きをしていたムラサメがいた。それがルナマリアの機体だと予想する事になんら難しさなどなかった。

 

「だから、お礼が言いたかったんだ。助けてくれてありがとうって」

 

「…別に。貴方たちが乗っていようが乗ってなかっただろうが、私は与えられた任務を果たしたまでよ」

 

シンの感謝の言葉に、ルナマリアは抑揚のない声で返す。トゲすら感じられる声に、シンはつっかえていたものを出す事に決めた。

 

「それが…ラリーさんたちが乗っていたとしてもか?」

 

わずかにルナマリアの肩が震える。それをシンは見逃さなかった。

 

彼女とシンは、ムラサメ教導の時に共に励みあった訓練生だった。トランスヴォランサーズから出向という形で訓練を受けていたシンとルナマリアは、同じコーディネーターとして仲を深め、共に訓練を乗り越えた戦友だ。

 

その後、シンが民間PMCのパイロットだと知ってから疎遠になってはいたが、シンにとってはルナマリアはあの時から変わらない戦友。そして、彼女の在り方を心配する仲間でもあった。

 

「ルナマリアが…親父さんのことでオーブにきて、軍に入って真相を調べようってのは知ってるけど…あの飛び方は…確実にルナマリアの命を…」

 

「うるさいっ!!」

 

まだ朝日が上がって間もない空にルナマリアの怒号に似た声が響き渡る。険しい目つきをしたルナマリアが、シンの方へと振り返る。

 

「アンタなんかに…私の何がわかるって言うの!?」

 

父を前大戦で失って…プラントを核から守ったと称えられ…英雄の死に泣くことすら許されない母は、夜に一人すすり泣くしかなかった。

 

核からプラントを守ってきた英雄なんかじゃない。父は私たちにとって唯一の父だった。なのに、世界はその事実すら許してくれない。

 

メイリンと一緒に泣くことしかできなかったルナマリアは、父の面影を知るために一人、彼が最後に属していたオーブ軍がある地球へと降り立ったのだ。

 

そこで、彼を鼓舞した存在と出会う事を知らずに。

 

「…ごめんなさい。少し、イライラしてる。じゃあね」

 

震えた肩を落ち着かせたルナマリアは、深く帽子を被ってシンに謝ると、踵を返してランニングへと戻ってゆく。

 

あの飛び方を支えているのは、ルナマリアの意地と、ああいったトレーニングの賜物だろうが…。

 

「ありゃあ…フラガ隊長も心配するわけだ…」

 

シンはムウの愚痴を思い出す。

 

ルナマリアの飛び方は確かに鋭く、側からみればいい動きをしているように見えるが、その実は体に大いなる負担を課す諸刃の翼だ。

 

あんな飛び方を続けていれば、いつか羽が折れる。そうなったときでは遅いというのに。

 

今は彼女の心をどうにかするしかないな。そう結論つけたシンも、ルナマリアとは反対方向に向かって走り出すのだった。

 

 

 

////

 

 

 

「トールたちや、シンとキラくんの機体も調整済みよ」

 

オーブ、オノゴロ島。モルゲンレーテ社の工廠でトランスヴォランサーズのパイロットたちは、エリカ・シモンズ博士の案内のもと、納入予定の新型テスト機を視察に来ていた。

 

「やっとできたんですね」

 

機体をハンガーから見つめるトールに、シモンズ博士は頷く。

 

「ええ、ムラサメType「R型」」

 

そこには納入用の梱包作業が進められる二機の戦闘機が並んでいた。一機はそのシルエットから大幅に変更されたもので、もう一機はムラサメの姿をさらにシャープにした印象がある。

 

「トール用に調整したのが非変形型のムラサメ、MVF-X02、通称「ストライクワイバーン」。リークやキラくんたち様に調整したのが、可変型のムラサメ、MVF-X01F「エクスカリバー」」

 

おお、とトールたちから声が上がる中、シモンズ博士は投下していたハンガーを見下ろせる窓を下ろしてから、プロジェクターを起動させる。

 

「本当は雷鳴(ライメイ)と風魔(フウマ)と命名したかったんだけど、出資者のアズラエル理事から「命名の権限は僕が貰いますね」って言われちゃってねぇ」

 

「あはは、あの人らしいや」

 

「ストライクワイバーンは、見た通りムラサメの可変機構をオミットした機体よ。けれど、機体性能は複雑な変形機構を排除したことによって、戦闘機ならではの高い航空戦闘能力を獲得してるわ」

 

MSの要素を排除したことによって取り付けられた大型カナード。

 

前進翼形態と後退翼形態をとる可変翼。

 

水平尾翼形態と角度のついた垂直尾翼となる形態をとる全遊動式尾翼。

 

徹底的に削り込まれた機体を構成するのは、スリーサーフェス構造。

 

後退翼と水平尾翼で構成され高いスーパークルーズ能力を発揮する高速飛行形態。

 

前進翼と外半角のついた垂直尾翼で構成され高い格闘戦能力を得ることができる高機動形態。

 

「ワイバーンの主翼は後退角を持つ内翼と、前進角を持つ外翼で構成されているわ。スーパークルーズ能力を発揮する際は、外翼を収納する際に開閉する機構になってるのよ」

 

可変MSというコンセプトを捨て、いち戦闘機としての技術を惜しげもなく導入されたワイバーンは、かつてないほどの戦闘機としての完成度を誇っている。

 

ウェポンベイも申し分ない。

 

大型兵装の複数搭載可能な兵装庫を中央部の左右エンジン間に1庫、短距離AAM用の小型兵装庫を中間下部に左右それぞれ1庫ずつ備える。

 

対空兵装はイーゲルシュテルン対空砲と、オーブ軍と地球軍、どちらの武装も装備が可能。さらにトール機専用に開発されたHEIAP弾などの特殊弾頭を射出できる長距離無反動砲を装備可能。

 

エンジンは高い排効率を追求したムラサメのエンジンと同規格のモノが2基搭載されという、まさにオーブの最新技術の粋を集めた戦闘機と言えた。

 

「まさにオーブが産んだ空の怪物ね。ロールアウトが間に合ったのは三機。内一機は技術試験機としてモルゲンレーテ預かりとなって、二機はそちらに売却される手筈となってるわ」

 

そう言ってシモンズ博士はモニターを切り替える。そこにはテストパイロットが操縦する「エクスカリバー」の姿が映し出されていた。

 

「エクスカリバー。この機体はワイバーンとは逆。可変式MSの利点を最大限に活かした機体となってるわ」

 

「ヒットアンドアウェイ」を主眼に、戦闘機能力を最大限に引き上げたワイバーンとは全く逆の発想で開発された機体、エクスカリバー。

 

対MSとの戦闘を前提として考案された本機は、コクピットモジュールからの見直しが行われた。

 

エースパイロットであるラリーやリーク、キラやアスランから意見を取り、戦闘時に必要なアプリケーションだけ抽出を行った結果、戦闘時に不要なモジュールを排除したMS史上類を見ない視認性を獲得した半天周囲型モニターが開発された。

 

戦闘機のバブルキャノピーに似たモニターをはじめ、ムラサメベースの2次元推力変更ノズル、ボディ下側に備え付けられた垂直カナードなど、格闘戦時のパフォーマンスを高めるであろう要素がふんだんに盛り込まれている。

 

エンジンもムラサメ専用のものをベースに、技術局とモルゲンレーテ社が共同開発した「フォルゴーレ」と呼ばれる強力な2基が取り付けられている。

 

出力は高いが前進翼や機首に大きく開けられた大型インテークによる空力特性のため最高速度は伸びず、一般機であるムラサメと比較して少し低いところに留まってしまっている。

 

だが、その分の空戦格闘能力は獲得しており、MS変形可能速度も大幅に伸びているため、高高度戦闘時もスムーズにMS形態へと変形が可能となっている。

 

高高度戦闘能力などは非常に高く、総合的に見ても母艦から出撃する迎撃機としての特徴が色濃い。

 

「基本的な操作性にシビアな部分はあるものの、 乗りこなす事ができればドッグファイトにおいて無類の戦闘能力を発揮することができるわ」

 

「まさに「作れるから作った」を地でゆく技術力ですね」

 

説明を聞き終えたリークがいつかラリーが言っていたセリフと同じ言葉をシモンズ博士に投げた。その苦言にも似た言葉に、彼女は苦笑いを浮かべてから真剣な顔で彼らに向き合う。

 

「それを作った責任を感じているからこそ、この計画は極秘扱いなの。オーブ軍でもこの機体のスペックを知る人はキサカ一佐とフラガ二佐くらいよ?」

 

そもそも、オーブ軍でもない民間PMCに最新鋭の機体を納入するのだ。アズラエル理事や、オーブ首脳陣、そして地球軍のハルバートン閣下の進言と工作もあるからこそ、成り立つ話ではあるが、一民間会社が持つ戦力としてはあまりにも過剰と言える。

 

故に、その責任をトールたちも深く理解していた。この力を使う事は無いだろうと思っていたが、アーモリーワンやユニウスセブンの一件でその楽観的な考え方を改めなければならないことを自覚する。

 

この世界は大きな変動を迎える。その時に何もできないでは、間に合わなくなることもあるということだ。

 

「で、ラリーさんの専用機は?俺と同じワイバーン?」

 

「それが…」

 

「ばっかじゃねぇの!?」

 

トールの問いに答えようとしたシモンズ博士より先に、工廠の中で大声が響き渡った。

 

 

 

////

 

 

 

「と言うわけで、新型機のロールアウトはまだ先だから、ラリーに用意したこの機体はスピアヘッドmarkⅡです。見た目は古いけど、エンジンと補助エンジンには、ムラサメのやつとフォルゴーレを使っています」

 

「馬鹿じゃないの???」

 

二機とは離れた場所で設置されていたのは、過去にラリーが乗りこなしていたスピアヘッド(?)をベースに改造された戦闘機だった。

 

いや、もはやスピアヘッドと呼ぶには外見に名残はない。バブルキャノピーも負荷の影響から機内へと配置変更がされている上に、半天周囲型モニターへと切り替えられている。機体の翼など輪郭は、言われたら気付くレベルで名残は残っているが、他の機器に目が行くため、この機体のベースがスピアヘッドだと気付くものは居ないだろう。

 

「一応、機体強度は大丈夫だけれど、念のためにリミッターは備えているわ」

 

「ふーん、で?リミッター外れたらどうなるの?」

 

「スーパークルーズでマッハ5は固いわね」

 

「馬鹿じゃないの??」

 

即答で答えたハリーに、ラリーは間髪入れずにそう言った。ラリーについてきたキラとフレイは、そのスペック表を見ながらついに白目を剥いていた。

 

「加速度でそれ…人が死ぬやつ…」

 

「だからリミッターを付けてるのよ。そもそも、そんな高機動下で戦闘機動なんてしたら、どれだけ頑丈な機体でも空中分解するわよ」

 

「そもそも、そんなエンジン設計をするなよ!!誰だよ!!これを乗せようとしたの!!」

 

「私ですけど?」

 

「ちっくしょう!!主犯目の前にいたわ!!」

 

思わず身につけていた帽子を地面に叩きつけるラリー。

 

このキチガイ機械屋、きっとルンルンノリノリな気分でエンジンを設計し、組み付けたに違いない。そもそもリミッター外すと空中分解する機体って何なのか。ついに人をやめろと頭のネジが外れた事を言い出したのか。ああ、ネジはとっくに外れてましたね。そうですね。

 

「あと、これ見間違えじゃないよね…」

 

恐る恐る指を刺すフレイの指摘に、ハリーは何食わぬ顔で答える。

 

「ああ、これ?空戦機動時にフラップとエンジン噴射によって空中で「バック」ができるやつ?本当よ」

 

「馬鹿じゃないの??」

 

「そんなお手軽感覚で実装するシステムなのか…?」

 

「だって便利じゃない。バックできたら」

 

フラップ全開で急減速できるならまだしも、バックなんて発想誰が思いつくというのか。通りで逆方向に大きめのノズルが付いてると思ったわ。馬鹿じゃ無いのだろうか。思ってる言葉を言っても足りんぞ、とラリーは頭を抱える。

 

とりあえず、今日の日程はこの機体のテストだ。すでにトールたちの機体は、アサギやマユラたちが実証実験を行なっているが、この機体のテストパイロットに志願する者は誰も居なかったらしい。理由はまだ死にたく無いと。まったく失礼なことであるが、その理由にラリーは納得してしまったのだから仕方がない。

 

「さて、じゃあテストといきましょうか!そのために相手を呼んでるんだから!」

 

そう言うハリーに恨めしそうな目を向けて、テスト相手を見てさらに頭を抱える。

 

「久々の地球の空だな。楽しんでくるとしよう」

 

「マッスルスーツのモニタリングはこっちでするから、隊長は存分に飛んでくださいね」

 

作業員姿の嫁とハグを重ねたクラウドこと、クルーゼがマッスルスーツを身につけてムラサメに搭乗する。

 

彼がオーブにやってきていたのは、確かに技術協力のためにやってきた嫁についてきたというのもあるが、体の影響でMSの反応速度に遅れが出てきた事に対して、オーブが開発したマッスルスーツのテストを行う目的もあったらしい。

 

と言うか、まだMSに乗っていると言うのか。加齢の影響を微塵も感じさせないクルーゼの姿に頭を抱えながら、ラリーもコクピットへ乗り込む。

 

《久々の戦闘だ。まずは慣らし運転からいこうじゃないか》

 

「と言いながら全開で機動するなよお前えぇえええーー!!」

 

《はっはっはっ!!まるであの時に戻ったようだな!!ラリィイイ!!》

 

「やっぱり殺しておくべきだった!!くそったれぇえええー!!」

 

模擬戦が始まった瞬間に、常人では理解できない機動をし始める二人を見上げながら、キラは思うのだった。

 

類は友を呼ぶのだと。

 

その日、計測されたデータは、MSと戦闘機の従来データを大きく更新する新記録となり、同時に二人揃って正座をする英雄の姿も、あるフリージャーナリストによって撮影される事になるのだった。

 

 

 

 

 

 




フォルゴーレのテストの時。

ハリー「どうよ!!いい音でしょ!!」

ラリー「あんまり鳴らすと!!!!モルゲンレーテの工廠が飛んじまうぞ!!!!」

ハリー「あーっはっはっ!!!あんなゲテモノMSなんて屁でもないわ!!!!」

バリバリバリ!!←工廠の屋根が吹き飛ぶ音
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