ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第35話 守るべき景色

 

広いホールの中。

 

少しのざわめきがこだまする。

 

ユニウスセブンの落下事件からまだ日が経っておらず、人々の心にはまだ暗澹たる思いが燻る中、このホールでの出来事は催された。

 

暗闇に包まれた中で、多くの者たちが目を向ける先へ、一条の光が天から降り注ぐ。

 

その光の下にいる彼は、ゆっくりと目の前にある〝マイク〟へと、その手をかけた。

 

《悲しいほど、光だした。白い闇、切り裂く翼になれー》

 

シャニ・A・ベルモンドは愛用のギターを手にして、その手を一閃させる。演奏するメンバーにも光が向けられ、暗闇に包まれていたホールは、鮮やかな色彩に染められ、人々は熱狂する。

 

ここはオーブ首都、ヤラファス島。

 

今日は、オーブ国際高等学校の学園祭だった。

 

 

 

 

////

 

 

 

「シャニくん、歌もギターもかなり上達したよね」

 

「…まぁね」

 

そう言ってライブ後に自由行動となったシャニたちと歩くラリーたち一行。ライブを最前列で楽しんでいたハリーやフレイ。ユニウスセブンの一件と議長との請負費の件で、戦闘部隊を担うラリーやキラたちも休暇を言い渡されていた。

 

「相変わらず、歌声は棒読みっぽかったけどな」

 

「うわ、オルガ厳しぃ。けど、校内でもかなりシャニのファンいるみたいだよ」

 

オーブ軍のパイロットスーツではなく、学校指定のブレザーに袖を通しているオルガとクロトが、一仕事を終えたシャニの両隣にいる。その後ろには、リークを先頭にキラとアスラン、トールとミリアリアもいる。

 

「へぇ」

 

「こういう表情のくせに喜んでますよ、これは」

 

「兄ちゃんうるさい」

 

照れ隠しと同じだよと、表情に変化があまりないシャニの心を見通すリーク。心底うんざりした様子ではあるが、シャニもまんざらではない様子だ。

 

あの大戦から2年。

 

オーブも深い痛手を負っていたが、地球軍との戦闘で被害を受けたのはオノゴロ島。ヤラファス島は条約通りに非戦闘地帯となっていたため、戦後の復興で政治能力を回復させたのはオーブでもあった。

 

一般にも解放されている学校内には来賓の人々や、父兄、そして近隣の住民も多く訪れており、出店や出し物で大いに賑わっている。

 

オルガやクロトたちも、戦時下の張り詰めたような雰囲気は無くなり、この学校に通う同年代の若者と変わらない和気藹々さを取り戻していた。

 

「カガリ、来れなくて残念だったな。泣いて悔しがってたぞ?」

 

どうしてシャニのライブに私はいけないんだ!と、執務室に突っ伏しながら唸り声を上げていたとアスランが言う。彼女も彼女で仲間意識が非常に高い。

 

シンをはじめに、あの大戦で共に戦った者たちへの愛情っぷりは言うまでもなく、オルガたちやリークのベルモンド家や、アスカ家ともに個人的な付き合いもあるカガリが、今回の学祭に来られなかったことは非常に残念だっただろう。

 

「ユニウスセブンの後だからな、こうやって学祭が出来ただけでも奇跡さ。録画はしてあるからたっぷり見せてやるとしよう」

 

そのためにシアタールームまで作ったからなぁ、と遠い目で言うアスラン。何度かシンたちとのバーベキューや、海に行った思い出も上映して、みんなで集まりながら見たこともあるな、とラリーやキラも思い出す。

 

「次はライブハウス借りるのが目標だっけ?」

 

「まぁね。バンドメンバーも乗り気だし」

 

「楽しみだなぁ、最前列で見るね!」

 

「ハリーさんとフレイさんは、目立つからダメ」

 

「えーひどーい」

 

そう言って残念がるハリー。その隣にあるフレイの2名は、ラリーたちが知る中でも抜群のプロポーションを誇っている。トールの彼女であるミリアリアも美人ではあるが、プロポーションで言えばハリーとフレイの方が上だ。道ゆく人々もハリーとフレイを見て振り返る者も多い。

 

フレイの夫であるサイは自慢げだが、二人が水着でも着て写真集を出せば増刷は間違いないだろう。

 

「これで普段のアレが無ければなぁ…」

 

「え、何よ…人のこと残念なふうに」

 

オルガの残念そうな目に不満げにいうハリー。この見た目と外見だけを知っていれば、寄る男も多いだろうが、普段からの意中の相手であるはずのラリーの扱いを知るオルガやスタッフたちで、ハリーに恋心を抱く者はいない。

 

いたとしたらよほどの猛者である。そして第二関門で凄まじい速さで「替わろうか?」とモルモットポジを提示してくるラリーがいるので大抵死ぬ。

 

「残念だから仕方なっいてててて!!」

 

「そんなことを言うのはこの口かなぁー?んー?」

 

「わかった!わかったから離して!!」

 

ついに口を滑らしたクロトの頬を抓るハリー。その様子を見て、キラがちらりとラリーを見るとどこか遠くを見ている顔が見えて、すぐに視線を逸らした。

 

「キラくんたち、楽しんでる?」

 

体育館から学食があるエリアに出たあたりで、待ち合わせをしていたマリューたち、フラガ家とラリーたちは合流した。

 

まだ一歳と少しの息子である「ミコト・ラ・フラガ」を抱く優しげな表情のマリューと、微妙な表情をするムウがラリーたちを出迎えた。

 

「ムウ、いい加減に慣れたらどうだ?」

 

「一生慣れる気がせんのだがなぁ…っ」

 

ムウの微妙な表情の答え。それは隣にクラウドことクルーゼがいることだ。

 

クラウド・バーデンラウスと妻であるリリー・バーデンラウスは、形はどうあれ血縁上ムウの親族に位置する。クラウドの中にはフラガの血が流れている。ムウもクラウドもそんな血のことに一切因縁は抱いていないが、互いに天涯孤独の身。マリューとリリーの奥さんたちに後押しされて、二人は親族としての付き合いを始めていたのだ。

 

「ほら、ミコトちゃんだよ。挨拶しなさい?」

 

「こんにちはぁー♪ミコトちゃん!」

 

クラウドとリリーの娘である「サーヤ・バーデンラウス」が、マリューの腕の中にいるミコトに触れる。

 

クラウドとムウの過去に因縁があっても、サーヤやミコト、二人の子供たちに罪はない。親族として付き合える相手がいるということは、後の子供達にとってもプラスになることが多いだろう。

 

サーヤとミコトが触れ合うのを見つめてるうちに、ムウの顔にあった微妙さも和らいでいるようだった。

 

「お兄ちゃん!」

 

フラガ家とバーデンラウス家のふれあいの横で、リークの妹たちが手を振りながら校舎から出てきた。

 

「カナミ!ハズミー!元気してたかぁー!お土産たくさん買ってきたぞぉー!」

 

カナミ・ベルモンド。

 

ハズミ・ベルモンド。

 

前大戦ではアジアと宇宙で離れ離れになっていた兄妹たち。リークは駆け寄ってきた二人を抱き上げるとぐるりと一回転して喜びを体で表した。リークに抱き上げられて、わはーと喜ぶ妹たちも、しばらく甘やかされたあと、ライブを終えたシャニへと向き直る。

 

「シャニ兄さん、ライブとてもカッコ良かったですよ!」

 

「よかったー!」

 

そう言われてシャニは短調に返事をしてそっぽを向くが、ニヤニヤとするリークと目が合う。

 

「おー、喜んでる喜んでる」

 

「うっざ」

 

シャニの会心の一撃。だが兄であるリークには効かぬ!!わしゃわしゃと薄緑色の髪を撫でるリークに、シャニは抵抗する気も起きずになされるがままだった。

 

「ところでカナミ。その紙袋は?」

 

「シャニ兄さんのファンから預かってきたものが多くて…」

 

パンパンになった紙袋を除くと、ファンレターや花束やプレゼントがぎっしりと詰まっているのが見えた。

 

「oh…」

 

「割とすげぇな、シャニって」

 

「ヴィジュアルと歌声のギャップってやつだな!」

 

改めてシャニの人気ぶりを痛感するオルガとクロト。

 

ちなみに二人もそれなりに人気があり、すでに何人かからも告白はされているが、ブーステッドマンの時代で取りこぼした青春を取り戻している二人には、まだ彼女を作るつもりはないらしい。

 

「リーク兄さんはしばらく居るのですか?」

 

「うん、任務も無いし。しばらくはオーブでゆっくりできるね」

 

「なら、今晩はシャニ兄さんのライブとリーク兄さんの帰還を祝ってご馳走ですね」

 

「マユちゃんも呼ぶ?」

 

ハズミの言葉にリークは色をなくした顔で答える。

 

「うちを簡単に戦場にするんじゃあないよ」

 

その言葉にオルガたちも無言で頷いた。過去に数度、ハリーとマユたちを呼んで食事会をしたが、ラリーを巡って火花を散らす二人の威圧感のせいで、気が気ではないのだ。

 

「ハリーさんとマユちゃんが揃うと飯の味がしなくなる」

 

「いや、もうほんとに申し訳ない」

 

そう言って謝るラリーに、カナミは若干頬を赤らめて答えた。

 

「い、いえ…私は大丈夫ですけど…」

 

その様子はまさに恋する乙女。ラリーとは前大戦の時から付き合いがある彼女も、ハリーやマユと同じく慕う恋心を持っているのだった。

 

「ラリーさん」

 

「ん?」

 

「撃滅」

 

間髪入れずにクロトから放たれたストローからの直射ゲロビ。緑色の一閃は目標を逸れずにラリーの眼球へ吸い込まれる。

 

「メロンソーダが目にぃい!?」

 

「ほらほら揚げたての唐揚げもどうぞどうぞ」

 

オルガも満面の笑みの追撃。羽交い締めにするようにラリーを捕まえてぐいぐいと頬に唐揚げの容器を押し付ける。

 

「熱い熱い熱い!?どうなってるの!?どっち!?オルガとシャニのどっち!?え、なに!?頬に唐揚げの容器が押しつけられてるの!?あちちち!」

 

「妹を泣かせたら、殺すよ」

 

「シャニ、ガチトーンやめてもらえる?!いや、俺はちゃんとしたじゃん!?」

 

涙目を擦りながら抗議するラリー。

 

カナミの告白をラリーはすでに受けて答えを出しているのだ。オルガたちの殺気を受けながらも、涙を流して断った答えを受け止めたカナミ。

 

そんな健気な彼女の決意を無駄にしないために、ラリーも再度ハリーへの告白を計画した。

 

そして気がついたら新型エンジンのテストショットを積んだワイバーンの試作品に乗らされてテストを行なっていた。なんだろうか、彼女は本当にラリーを好きなのだろうか。研究用に飼っていたモルモットに気がついたら愛着が湧いていたとかいう感情ではないのだろうか。

 

その仕打ちと、ワイバーンを振り回してふらふらになったところで、キラとシンに慰められた時は思わず泣きそうになったが気にしない。気にしないったら気にしない。涙はすでに枯れておる!!

 

「ラリーさん?奪うことで始まる愛もあるじゃないですか」

 

「ほう?面白いことを言うね、カナミちゃん」

 

「ラリーさんをモルモット扱いすることでしか愛情表現できない人に負けるつもりはないですから」

 

バチバチと火花を散らすハリーとカナミ。リークやオルガたち伝いに聞いたラリー告白返り討ち事件を機に、カナミもマユに劣らずにラリーを落とす方向で動き出したのだった。

 

地球圏での職務中にラリー用に作られるお弁当はすべてカナミの手製の弁当である。技術面で攻める二人に対して、胃袋を掴みに行く豪胆さは、さすがのリーク譲りの妹といったところだろうか。

 

「え、なに…空気が冷たく感じる…」

 

二人に挟まれて困惑しているラリー。キラから見たラリーは普段よりも小さく見えた。

 

「いやぁ、若いっていいねぇ」

 

「兄貴はそれでいいのか…」

 

「カナミちゃんもかなり…アレだな。ワイルドになったな」

 

「ねぇ?ワイルドで済ませていいの?アレ」

 

「前門の虎、後門に狼ってやつだね」

 

「シャニ。それ使い方間違ってるから…いや、あってるのかな」

 

妹の成長ぶりに笑うリーク。それに呆れるオルガ。心配するムウやトールなどなど、当の本人そっちのけで場を楽しむ一行。

 

賑わう学園祭。

 

笑い合う人々。

 

風船を持って喜ぶ子供たち。

 

そんな光景を一人離れた場所から眺めているアスラン。何か思い詰めた表情をするアスランの肩を、喧騒から抜け出してきたラリーが肩を叩いた。

 

「ラリーさん」

 

「決めたのか?どうするのか」

 

そう問いかけるラリー。実を言うと、トランスヴォランサーズや、アスランを指名した議長直々の依頼案件があった。

 

極秘裏にマスドライバーでプラントへと帰還する議長の護衛任務。依頼内容としては、ラリーたちトランスヴォランサーズのメンバーの誰かか、アスラン・ザラと言う指名があったくらいだ。

 

すでに連絡を受けていたアスランがそれを受けるか否か、ラリーはまだ答えを聞いていない。

 

「俺は…」

 

アスランは少し、伏せるように目を下げてからまっすぐとラリーを見つめて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残ります。オーブに」

 

 

 

はっきりとした口調で答えた。

 

アスランの答えに、ラリーも喧騒へ視線を移して言葉を紡ぐ。

 

「いいのか?仮にも前議長の息子だ。デュランダルも下手には扱わんだろうし、ザフト軍の復帰も…」

 

それこそ、特務隊の復帰も可能になるはずだ。〝正史〟ではそうであったように。アスランはザフトに戻り、自分なりにできる何かを探そうとするはずだと思っていた。

 

するとアスランはラリーを見て可笑しそうに笑った。

 

「貴方はおかしい人だな。一人で考えるなと言って、出した答えを惑わすようなことを言うなんて」

 

「悪いな、意地悪なのさ」

 

ええ、知ってますよ。そう言ってアスランは楽しげに話しているキラたちを見つめた。

 

「俺が残るのはカガリが理由だけという訳じゃありませんよ」

 

たしかに、今の大事にカガリを一人残してザフトに行くことは考えるものもあった。だが、それ以上にアスランにとってオーブに残る決意をさせるものがあった。

 

「この景色を、守りたいんです」

 

カガリや、キラ。多くの人と守ったこの景色を守りたい。

 

最初は、それができるのはザフトに戻ることが良いと思った。

 

けど、それは違うと思い知らされた。カガリやキラが…皆がそばに居るから、この景色がある。

 

そう言ってアスランは改めてラリーを見つめる。

 

「だから、俺はここで守るよ。ラリーさん」

 

その目には確固たる決意があった。些細な揺れ動きでは覆ることのない芯の通した光が、アスランの瞳に宿っている。それだけ見れたら、ラリーには充分だった。

 

「みんなで、だろ?」

 

肩を叩いてウインクする。一人では何もできない。だから〝みんなで守る〟。そうやって、自分たちは生き延びて、前大戦を生き延びることができたのだから。

 

「ラリー!今日来るんだろう?」

 

騒いでいた中からリークが手を振っているのが見えた。今日はみんなでリークの家に遊びに行くようだ。

 

「ああ!アスランも一緒だ」

 

もちろん、キラたちも来るのだ。アスランの方に向くと彼もまた楽しげに笑って答えた。

 

「もちろんですよ、隊長」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべぇ、やっちまったかも」

 

その一方、ランニングをしていたシンは予定時間を大幅に超えて、疲れ切った少女を担いで海から上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

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