ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
第37話 動き出す世界
「では、リーク・ベルモンドとトール・ケーニヒが議長の護衛任務に就きます」
「すまない、よろしく頼む」
トランスヴォランサーズで用意したブレザー型の正装を身につけたリークとトールが、議長の敬礼に答えるよう規則正しく敬礼を放った。
この傭兵会社はVIPの護衛や送迎、小競り合いへの介入から救出任務までこなすオールマイティが売りな企業だ。故に、こういったVIP向けの正装も一式用意されている。
オーブのマスドライバーに極秘裏に乗り込むのは、プラントの要人であるギルバート・デュランダルや、歌姫であるラクス・クライン、ミーア・キャンベル、その他関係者多数だ。
今回のトランスヴォランサーズに任せられたオーダーは、そんな彼らを無事にプラント、アプリリウス市へ護衛し、送り届けることにある。
《ベルモンド機、ケーニヒ機、搬入作業完了》
軌道上でのドッキングに備えて、すでにマスドライバーで打ち上げられる船「ヒメラギ」にはトールとリークのメビウス・ハイクロスと、メビウス・ストライカーが搭載されている。
トールは非変形の機体を得意としているが、状況次第ではMSでの対応も求められるため、リークの機体には予備のメビウス・ストライカーが割り当てられている。
議長たちが乗り込むのを見届けてから、リークやトールも船へと乗り込んでいった。
「リーク兄さん!気をつけて!!」
「トール!無理はダメだからね!」
「お土産は今回は大丈夫だからなぁー!」
見送りに来た面々は、発艦の様子が一望できるデッキから手を振りながら二人へと聞こえることのない声を送る。
リークとトールは、ユニウスセブンの一件からとんぼ返りするように宇宙に上がってもらうことになったが、秘密裏に入国した議長をオーブ軍が送り届けるわけにもいかず、特定の国家に属していないリークたちが起用されたことはある意味では必然でもあった。
「よかったんですか?ベルモンドさんとケーニヒ教官が行くことになって」
「大丈夫さ。議長をプラントに送り届けるまでの警護任務だ。そこまでハードな任務にはならんさ」
共に正装姿で二人とVIPたちを見送ったシンから投げられた言葉に、ラリーは簡潔に答えた。内容としても、ユニウスセブンのテロリストたちの残党に備えて、所属不明機への迎撃、撃退だ。
オーブの雷光と、オーブの星光。
この2年の紛争介入により、白き流星と並ぶ異名を獲得した二人の腕があれば、間違いが起こることはないだろう。
「だと、いいんだけど」
そう言って顔をしかめるシン。どうやらこの企業一番の若手には他に気になる事があるらしい。
「やっぱり大西洋連邦が?」
思い当たることを言うと、シンはうなずく。どうやら嫌な予感には目星がついているらしい。
「かなりキナ臭いことになってるみたいです。各国にも圧力を掛けているのだとか」
昨日にアスカ家へと訪ねてきたカガリや、アスランの話を聞く限り、大西洋連邦は強硬な手段と姿勢を持って各国の丸め込みに入っているようだ。
前大戦から2年…。
いや、前大戦から〝もう〟2年だ。
ハルバートン提督、クライン議長、ウズミ首相により勧められた和平への道に不満を燻らせるには充分な時間であっただろう。現に、ユニウスセブンでの事件、そしてアーモリーワンでの事件にも、その影があることは明白だ。
件のACモドキの話もある。シンの妹であるマユや、アスカ夫妻、モルゲンレーテの総力を上げて解読に乗り込んでいるが、大西洋連邦があのACの開発に関わっている可能性は大きい。
さて、そんな国がユニウスセブン落下で何を始める気か…。
「今日にでもオーブに連絡が入る予定ですが…」
《リビジョンC以外の全要員退去を確認。オールシステムズ、ゴー。ヒメラギ、ファイナルローズ。ヒメラギ、発艦。ハウメアの加護があらんことを》
マスドライバーで打ちあがってゆくヒメラギを見上げながら、ラリーは何も言わずにいた。
アーモリーワンの事件。
そしてユニウスセブン落下事件。
被害は抑えられたとはいえ、それら〝事件〟が起こった以上、これから待つ史実の動乱も起こることなのだろう。地球とプラントの間で起こる第二次ヤキンドゥーエ戦役。だが、地球の情勢は史実と比べれば大きく異なっている。
大西洋連邦と徒党を組むユーラシア連合は、ハルバートン閣下がトップを抑えている以上、プラントとの融和政策を覆すことはない。
ムルタ・アズラエル理事が牛耳るブルーコスモスも同じくだ。彼が目を光らせているうちは、表立って動くことは困難だろう。
この激変した地球の勢力図。書き換えるには史実の呼びかけ程度ではとてもじゃないが足りない。…足りないように準備をしてきたつもりでもある。
激動する時代に備えて、準備をしてきたつもりだ。だが、心にある不安は否めない。
ラリーはその不安を胸に抱きながら、上がってゆく光をただ見上げているのだった。
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「なんだと!?新たなる同盟条約の締結!?一体何を言ってるんだ、こんな時に!」
オーブの首相であったウズミ・ナラ・アスハが病床に伏してる中で起こったユニウスセブン落下事件。
破壊し損ねた隕石が大西洋連邦の勢力圏内に多数落下したことにより、甚大な被害が出たことはカガリも深く理解していた。それによる説明責任、賠償、国と国が行うマネーゲーム自体も。
だが、宰相を務めるウナト・エマ・セイランから発せられた言葉は、カガリの考えを遥かに上回る事態であった。
「こんな時だからこそですよ議員」
驚きを隠せないカガリと、現首相であるホムラに対して、ウナトは冷静な声と目つきで言う。
「理念も大事ですが、我等は今誰と痛みを分かち合わねばならぬものなのか、ホムラ代表にもそのことを充分お考えいただかねば」
「皆、私の報告を聞いていなかったのか!?あのユニウスセブンの落下はプラントだけの問題ではない!明らかな外部勢力も加わった——」
「しかし、市民の耳にそれは入ってこないですよ。故に、こういった事態になっているのです」
情報誌や、メディアでは、ユニウスセブンの落下はコーディネーターのテロリストによって引き起こされたものであり、落下阻止が出来なかったのは全てプラントに責任があると説明しているばかりだ。
あの時、戦闘に参加した連合軍やザフト、そしてカガリたちが目撃したテロリスト以外の勢力による妨害工作、そしてアーモリーワンでの新型機奪取の件も全て情報規制されている状態で、だ。
「そんな馬鹿な話があるか!何かの間違いだ、それは!!」
「いえ、間違いではございません。先ほど大西洋連邦とそれに属する連合国は、以下の要求が受け入れられない場合は、プラントを地球人類に対する極めて悪質な敵性国家とし、此を武力を以て排除するも辞さないとの共同声明を出しました」
ウナトから渡されたデータ端末を見つめて、カガリの顔つきは青ざめる。
「なんだ…この馬鹿げた条件は!!」
そこに綴られていたことは、誰から見ても一つの〝目的〟に向けて仕組まれたことだった。
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「全く以て話にならん!一体何をどう言ってやれば、彼等に分かるのかね!?」
その衝撃は、プラント国内にもすでに響き渡っていた。最高評議会に参集した各市の議員たちも、提示された条件を見て驚きを隠せずにいた。
「何を今更、テログループの逮捕引き渡しなどと。既に全員死亡していると、こちらからの調査報告を大西洋連邦も一度は了承したではありませんか!」
その上賠償金、武装解除、現政権の解体、連合理事国の最高評議会監視員派遣。とても正気の沙汰とは思えない条件の提示だった。
「奴等だって、こちらが聞くとは思ってないでしょうよ。要は口実だ」
「例によってプラントを討ちたくて仕方がない連中が大西洋連邦で煽っているのでしょう。宇宙にいるのは邪悪な地球の敵だとね」
何かしろ口実をつけて前大戦の続きをしようと画策してきたのは間違いなく大西洋連邦だ。この二年間、その火種を消し続けたことで平安を取り戻しつつあったが、ユニウスセブン落下というあまりにも大きすぎる火種は、大西洋連邦にとってはまさに僥倖と言えただろう。
嬉々として手に武器を取って、彼らは条文の向こう側で戦争の準備を開始しているのだ。
「しかし、いくらなんでもこれは無謀です。ユーラシア連合も難色を示しています。大西洋連邦は、本気でこのまま戦端を開くつもりなのでしょうか。今そんなことをすれば、ユーラシアも黙っていない。むしろ彼等の方が…」
「従わなければそうすると言ってきているではないか、現に!」
「月の戦力は無事らしい。自国にも相応の被害が出ているというのに…大西洋は元気なものさ」
「戦争となれば消費も拡大するし、憎むべき敵が明確であれば意欲も湧く。昔から変わらぬ人の体質ですよ」
議員らの議論も過熱していた。この二年間、プラントと歩調を合わせて火種を消していたユーラシア連合も、大西洋連邦の発表に対してはかなり難色を示している。
このまま大西洋が一方的な開戦に踏み込んでも、地球圏の勢力の足並みが揃わない状態となり、最悪の場合、大西洋連邦とユーラシア連合の戦争に発展する危険もある。
そんなリスクまで犯して、大西洋連邦はプラントに戦争を仕掛けてくるというのか?
普通ならば、そんな感情的で政治的論理性が欠けた話など聞く耳もないことであるが、彼らは躊躇なく〝核〟を持ち出し、撃つという愚行を犯す者たちだ。
「やると言っているのは向こうですよ。我々ではない。弱腰では舐められるのも事実だ」
核を撃たれてからでは遅い。ある議員はそう言う。その言葉には、あらゆるプラント市民の思いが乗っていた。もちろん、議員である彼らの思いも。
「ともかく、こちらも直ぐに臨戦態勢を」
《皆さん、どうか落ち着いて頂きたい。お気持ちは解りますが、そうして我等まで乗ってしまってはまた繰り返しです》
議論の中で、今まで議員たちの言葉を聞くことに徹していたデュランダルが音声通信越しに声を上げた。
オーブからプラントに帰還する最中であるデュランダルの言葉に頷いたのは、アプリリウス市にいる前評議会議長を務めたシーゲル・クラインだ。
「連合が何を言ってこようが我々はあくまで、対話による解決の道を求めていかねばなりません。そうでなければ、先の戦争で犠牲となった人々も浮かばれないでしょう」
「だが、月の地球軍基地には既に動きがあるのだぞ。理念もよいが現状は間違いなくレベルレッドだ。当然迎撃体制に入らねばならん」
《軍を展開させれば市民は動揺するでしょうし、地球軍側を刺激することにもなります》
「議長!」
それでは間に合わないんですよ、と反対する議員は目で訴えている。それを見て、デュランダルは息を吐いて議会全員の目を見渡した。
《でも、やむを得ませんか。我等の中には今もあの血のバレンタインの恐怖も残っていますのも事実です》
そう。誰もが過剰に反応する根幹にあるもの。
血のバレンタイン事件。
あの事件から続く遺恨は、今もなお、プラント市民の心の奥底にある傷跡だ。大西洋連邦が刃を向けてくる以上、あの悲劇が脳裏に過ぎることは仕方がないことだ。
議員の座を降りたシーゲルも、議長の言葉に声をなくした議員の心情を理解している。あの悲劇だけは繰り返してはならない。かつてのシーゲルも、その想いを胸に、さらなる悲劇の引き金を引いてしまったのだ。故に、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。
「デュランダル議長、防衛策に関しては国防委員会にお任せしたい。それでも我等は、今後も対話での解決に向けて全力で努力していかねばなりません」
シーゲルが受け取っているのは国防委員会だ。とにかく万が一ということもある。市民に軍を動かすことを伝えなくとも、防衛網を構築することは国家を守る上での義務だ。
シーゲルの言葉に、通信越しのデュランダルも頷く。
《こんな形で戦端が開かれるようなことになれば、まさにユニウスセブンを落とした亡霊達の思う壺だ。どうかそのことをくれぐれも忘れないで頂きたい》
その言葉に議会全員が頷いた。その心に暗澹たる恐怖を抱いたままで。
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オーブ軍、通信施設。
プラントとのホットラインが敷設されているこの施設で、アスランは一人、プラントとの暗号通信を試みていた。
《アスラン》
「忙しいところにすまない、ニコル。状況はどうなっている?」
応答してくれたのは、プラントの防衛部隊に配属されている親友、ニコル・アマルフィだ。電子機器の扱いに慣れているニコルは、アスランにとってプラントの信頼出来る内情を知るための伝手の一つと言える。
《良くありませんよ。プラント市民は皆怒っています》
アスランの問いかけに、ニコルは顔をしかめたまま答えた。
デュランダル議長は、あくまでも対話による解決を目指して交渉を続けると言っている。だが、それを弱腰と非難する声も上がり始めているのも事実だった。
「そうか…。地球も落とし所を間違えば不満を抱く勢力との内戦になりかねない状況だ」
オーブはまだ比較的に安定しているが、ユーラシアや大西洋の情勢は酷いものだ。片方はプラントを滅ぼせとデモが起こり、片方では強硬姿勢となった大西洋のやり方に疑問の声を上げている状態だ。
このままいけば、プラントと地球よりも、地球圏での内戦に発展しかねない。
《アスランは、プラントには戻らないのですか?》
ニコルの言葉に、アスランは困ったような笑みを浮かべて言葉を返した。
「ニコル。逆に聞くが、俺が戻って何ができる?パトリック・ザラの息子として政治の世界に出れば事は収束するのか?」
あのパトリック・ザラの息子というだけで、両手を上げて受け止めてくれる勢力はあるだろう。だが、その先にあるものは何か。少し立ち止まって考えればわかることだ。気まずそうにしているニコルを見て、アスランは悪かったと謝った。
「わかってるさ。けれど、俺がプラントに戻るのは今ではないということだけははっきりとわかっている」
《カガリさんを守るんですね》
「いいや、違う。この世界を守るために」
真っ直ぐとした目でアスランは言った。自惚れるわけでも、自分の力を信じるわけでもない。それでも、この世界を守るために戦うと。
そんな親友の目を見て、ニコルも同じように笑みを浮かべて答えた。
「僕らも同じ思いですよ、アスラン」