ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
オーブ、ヤラフェス島。
オーブの中核を担うこの島には四つの都市と、首都であるオロファトが所在する。
その行政府にある内閣府官邸で、ムウとの訓練を終えたユウナ・ロマ・セイランが急ぎ足で自身の邸宅へと向かっていた。
「父上!!」
パイロットスーツすら着替えずにやってきたユウナを見た父、ウナト・エマ・セイランは、驚いたような顔つきでやってきた息子を出迎える。
「大西洋連邦との条約の件、本当なのですか!?」
驚く父に、ユウナは間髪入れずに問いただす。ユニウスセブン落下による被害を受けた大西洋連邦が、物資や救助の協力のみならず、軍事的な面の協力要請まで打診していること。ユウナがそれを知ったのが、皮肉にもムウと訓練をしている最中だった。
オーブ軍に士族の息子が配属されることも珍しくなく、そのコミュニティの中で、ユウナはオーブの宰相である父が、その条約を結ぶ方向で士族や政府関係者に働きかけていることを知ったのだ。
「ユウナ、お前が気にするようなことではない」
「気にします!オーブの置かれている状況は、それほど明確なものではないでしょう!?」
「ユーラシアも大西洋との交渉に着くさ。お前が心配せずとも良い」
「父上!!」
用があると言わんばかりにその場を後にしようとするウナトを、ユウナは呼び止める。父もわかっているはずだ。
戦後、ナチュラルとコーディネーターの間に生まれた溝はあまりにも大きく、その火種を消すためにオーブ…いや、認めたくはないが、ラリーたちという〝国家に属さない〟勢力がどれほど尽力したか。
オーブはそれらの後ろ盾として機能し、ナチュラルもコーディネーターにも分け隔てない政府運営をしてきたというのに、ここで大西洋連邦に組すれば、地球圏の勢力図にも影響が及ぶことになりかねない。
「これからはオーブの獅子と恐れられたアスハ家ではなく、我々士族がオーブを統べるのだ。これからはお前も忙しくなるぞ」
そのユウナの心配を他所に、父は息子の肩に手を置いて緩やかな声でそう言った。オーブを統べるアスハ家、カガリや、ホムラ代表、そして病床に伏しているウズミ様。そのアスハ家を蹴り出すような発言ではないか。
父の言った言葉を、ユウナは理解することができなかった。
「お前が希望していた文官として、総司令官として活躍してもらう。アスハの忘形見との結婚もな?」
「忘形見…?どういうことですか、父上」
「…お前が気にすることではない。ユウナ、お前は目の前に起こることを飲み込み、それを正しく解釈すれば良いのだ」
ねっとりとした声がユウナの首筋に纏わりついてくる。その幻惑を見て、ユウナは震えた。過去の自分ならば、それにすら気付かずに、ただ自惚れて、父の言葉を鵜呑みにしていただろう。
〝甘ったれるな!戦争になれば身分なんて吹き飛ぶぞ!〟
ムウの叱咤に似た声がユウナの中に響く。まったく触れたことのない兵器類に触れて、初めて空を飛んだ感覚をユウナは覚えていた。
ウナトの息子として甘やかされてきた自分には、想像すらできなかった過酷な環境。それを導いてくれたのは、紛れもなくムウや、教官を務めてくれたオーブの軍人たちだ。
彼らはオーブの平和、そして世界にとっての中立軍としての誇りがある。その誇りを胸に空を飛んでいるというのに、自分は?
父の言葉をゆっくりと咀嚼する。
今、大西洋連邦と手を取れば、今まで守ってきたものの意味が無くなる。それは、それを守るために飛んでいる彼らへの裏切りではないのか?オーブの軍人への…!
「その下らないパイロットごっこもじきに終わる。お前に教える者も居なくなるからな」
その言葉で、ユウナは完全にウナトの放つ言葉の幻影を見た。自分を縛る声を、振り払ってユウナはウナトを見た。
「下らない…パイロットごっこ…だって…?」
足早に去ってゆく父の背中。その背中にもう文官としての憧れなど残っていない。父の言う方針を取れば、間違いなく大西洋連邦は軍を手配しろと要請するし、連合軍をオーブに駐留させろとも言うだろう。
そして、今大西洋が行おうとしているのは、プラントとの再度の全面戦争だ。ナチュラルともコーディネーターとも分け隔てなく平和を維持しようとする軍人たちへの明らかな裏切りだ。
〝その下らないパイロットごっこもじきに終わる。お前に教える者も居なくなるからな〟
ウナトが吐いた言葉が、ユウナの中でフラッシュバックする。
上等だ。
あれほどの訓練をごっこ呼ばわりにし、平和を守るために尽力する軍人を裏切ると言うのなら、こちらにも考えがある。
ユウナは踵を返して、ポケットに入っている通信端末のボタンを乱暴に操作すると耳へと押しやる。
「ユウナ・ロマ・セイランだ。ああ、すぐにフラガ二佐に連絡を取ってくれ。それと彼が最も信頼するオーブの軍人、パイロットを速やかに、誰にも悟られず集めてくれ」
電話越しの軍関係者に、ユウナは今まで出したことない腹にすえた声を上げて怒鳴った。
「用件?そんなもの何でもいい!僕の口座からいくら金を使ってもいい!場所は押さえろ!いいな!!」
とにかく時間はない。父が言っていたことが事実ならば……危うくなるのは、ムウやウズミよりの軍人たち。
そしてカガリを含めたアスハ家だ。
////
《是より私は、全世界の皆さんに非常に重大かつ残念な事態をお伝えせねばなりません》
大西洋連邦の首都。
そこに備えられた大型モニターに、大西洋連邦総理大臣が映し出され、緊急放送が始まった。
「そうだ!予備機も全て戦闘ステータスで起動しろ!」
「第44戦闘団は搭載機の発進を完了した。作戦は発令された!現時点を以てオペレーションをフェイズ6に移行する。全ユニットオールウェポンズフリー!」
アルザッヘル基地では、多くの艦船が出撃準備を始めていた。積み込まれてゆく物資とMS。一艦隊として編成されたそれらが向かう先。
《だが、未だ納得できる回答すら得られず、この未曾有のテロ行為を行った犯人グループを匿い続ける現プラント政権は、我々にとっては明かな脅威であります》
アルザッヘル基地からの進軍。
それはプラントにとっても異常事態だった。彼らは猶予後の協議もなく、その決断を断行する。ありったけの武装と戦力を積んで、船はまだ無防備なプラントへと進軍を開始したのだ。
《よって先の警告通り、地球連合各国は本日午前0時を以て、武力による此の排除を行うことをプラント現政権に対し通告しました》
最初に動いたのはザフトの防衛軍だった。
《コンディションイエロー発令、コンディションイエロー発令。艦内警備ステータスB1。以後部外者の乗艦を全面的に禁止します。全保安要員は直ちに配置について下さい》
スクランブルに備えて警戒態勢へと入っていた防衛部隊も、この事態によって最悪のケースへと転がり落ちてゆく。
「開戦!?そんな…」
パイロットスーツに袖を通したイザークは驚きを隠せないままMSの発進デッキへと急いだ。
《第一戦闘群、間もなく戦闘圏に突入します。全機オールウェポンズフリー》
だが、敵の展開の方が早い。すでに大西洋連邦が放った先陣はMSとMAを展開して、プラント圏へと侵入を開始していた。
「防衛軍の司令官を!最終防衛ラインの配置は!」
「全市、港の封鎖完了しました!」
「警報の発令は!?パニックに備え軍のMPにも待機命令を!脱出したところで、我等には行く所などないのだ!なんとしてもプラントを守るんだ!」
議長不在の最高評議会も、この事態に焦りを隠せない様子だった。水際での防衛戦にはなるが、シーゲルが用意していた防衛網の展開は素早く、柔軟に機能してゆく。各市に分離して用意された艦船が展開する地球軍側の勢力を網で包むように包囲する配置だ。
《シエラアンタレス隊、発進スタンバイ。射出システム、エンゲージ!》
その中核を担うのは、ザフトの中で最も実戦経験が豊富なイザーク率いるシエラアンタレス隊だ。射出機へと入った白いザクに乗るイザークは、息を吐きながら操縦桿を握りしめる。
「結局はこうなるのか。こちらシエラアンタレス1、ジュール隊イザーク・ジュール、出るぞ!」
続くように、濃い茶色のディアッカのザク、そして漆黒のザクになるニコル、蒼いザクのシホの機体が射出機へと搬入されてゆく。
「シエラアンタレス2、ジュール隊、ディアッカ・エルスマン、ザク発進する!」
「シエラアンタレス3、ジュール隊、ニコル・アマルフィ、ザク出ます!」
「シエラアンタレス4、ジュール隊、シホ・ハーネンフース、行きます!!」
射出されたシエラアンタレス隊は、各々が若手のパイロットや部隊を引き連れて戦線へと向かってゆくのだった。
////
突然の宣戦布告。大西洋が下した愚かな結論に議長は気を揉みながらも、刻一刻と変化する情勢を目にしながら判断を考えるしかなかった。
「議長!!」
「ええい!!こんなにも早く展開してくるとは!!」
大西洋連邦が主導する地球軍の動きは素早い。すでにザフト軍との戦闘状態へと突入している宙域もある。
オーブの船、ヒメラギに乗るデュランダルが観測された映像を見つめていると、後部座席に座っていたラクスがふわりと宙に浮かび、デュランダルの元へとやってくる。
「デュランダル議長、まさか大西洋は…」
「始めるつもりだぞ、戦争を」
そのデュランダルの言葉に、ラクスも表情を険しくする。ユーラシア連合がまだ納得できていないという状況なのに、大西洋連邦は戦争を始めると言うのか。
だが、ザフトもそれを警戒していないほど甘くはない。すでに快進撃をしていた地球軍はザフトの防衛網に引っかかり、その足を留めさせられている。戦力的にも、大西洋連邦の所有する部隊と限られているため、このまま戦いが膠着し消耗戦となれば、不利になるのは明らかに地球側だ。
この攻撃をしてでも得られるメリットが地球軍側にあると言うのなら…。
「ちょっと!こっちは大丈夫なの!?」
デュランダルとラクスの思考を絶ったのは、後ろにいるミーアだった。プラントと地球が戦争になったなら、今から戻ろうとする自分たちはどうなるのか。ミーアの不安は至極当然のものだ。
「こちらの軌道は交戦エリアから外れてはいますが、迂闊に近づくことは」
オーブの士官がそう答えると、ミーアはプロデューサーであるバルトフェルドやアイシャに宥められながら落ち着きを取り戻している。
だが、万が一ということもある。デュランダルは後方で待機していた二人の〝英雄〟へと視線を向けた。
「ベルモンドくん、ケーニヒくん。頼めるか?」
そう問いかけられたリークとトールは、互いに顔を見合わせてから立ち上がる。
「報酬は上乗せになりますがね」
「頼む」
しっかりと〝対価〟を約束させてからトールは先に通路へのドアを潜り、リークは格納庫への連絡を取った。
「マードックさん!」
《ベルモンド機、ケーニヒ機、スクランブルだ!そうだ!ファストパック装備だ!行って戦って帰ってくる分の燃料は確保しろ!装備し終わり次第、直ちに発艦させるぞ!》
インカム越しに応答したマードック指揮下のもと、急ピッチで二機の機体へ装備が取り付けられてゆく。
「こりゃあ、楽な仕事では終わらなさそうだ」
パイロットスーツに着替えた二人は通路を行きながら、これから待つ戦いに心を鋭くさせてゆくのだった。