ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第42話 裏切りの策謀

 

 

 

 

 

「積極的自衛権の行使…やはりザフトも動くのか」

 

PJたちの墓参りを終えたリークたちは、墓前の前でザフト軍の現場を聞いた。

 

イザークたちが所属するプラント防衛部隊は、第二次の核攻撃を懸念した軍の方針により残留となったが、前大戦で引き上げたザフトの地上戦力の再配置が決定。

 

ジブラルタルとカーペンタリアへの降下作戦が着々と進んでいるという。

 

「仕方なかろう。核まで撃たれてそれで何もしないというわけにはいかん」

 

「第一派攻撃の時も知ってるだろ?奴等間違いなくあれでプラントを壊滅させる気だったと思うぜ」

 

ディアッカの言葉通り、リークとトールは議長護衛の際に地球軍の核攻撃部隊と遭遇している。なんとか撃退しようとしたが、ザフト軍の新型兵器が無ければ、プラントに核が落とされていた危険は否めない。あの攻撃に間に合うことができなかったのは事実だ。

 

地球軍の作戦はあまりにも電撃的であり、速攻性があり、なによりプラントを亡き者にする執念ともいえる意志があった。

 

血のバレンタイン…そしてリークの両親を奪うことになったエイプリルフールクライシス。両者に残る遺恨は根深い。その片割れが目の前に迫ったのだ。あんなものを見せつけられた以上、プラント政府による外交努力による停戦など、言葉の飾りにしかならない。

 

「で、貴様らはどうする。何をやっているんだこんな所で…オーブは?どう動く?」

 

イザークの問いかけに、リークは首を横に振って答えた。

 

「まだ分からない。けれど、こんな状態となった以上、ハルバートン閣下や、アズラエル理事が黙って見過ごしてるはずがない」

 

あの作戦は、地球方面の勢力図を知るリークから見たら、あまりにも強引すぎる作戦だった。部隊や艦隊の大部分も大西洋連邦所属の船だろう。だが、ユーラシア連合のトップに立つハルバートン閣下や、その軍事力を陰で支えるアズラエル財団の理事であるアズラエルが、そんな杜撰で強引な作戦を認めるはずがない。

 

ユーラシアの反戦ムードもある。それを強行的に無碍にした大西洋連邦の立場も危ういはずだ。だが、こうなってしまった以上、もうプラントにとってユーラシアも大西洋も関係ない。武力的な衝突は避けられないだろう。

 

「…無理を承知で言う。リーク。ラリーたちと共にプラントに来い」

 

リークたちへ、イザークは真っ直ぐとした声で言った。その目に、リークもトールも驚いた様子であったが、イザークは気にしない様子で言葉を紡ぐ。

 

「事情はいろいろあるだろうが、俺がなんとかしてやる。俺たちは、本当ならとっくに死んだはずの身だ」

 

軍令違反。離脱。理由はあれどプラントに反旗を翻した身だ。大戦後の軍事裁判で、イザークたちは然るべき罪状を負い、銃殺刑や終身刑を言い渡されることになるはずだった。

 

だが——。

 

「デュランダル議長は言った。大人達の都合で始めた戦争に若者を送って死なせ、そこで誤ったのを罪と言って今また彼等を処分してしまったら、一体誰がプラントの明日を担うとな」

 

だから俺は今も軍服を着ている、とイザークは言う。

 

それしか出来ることがないが、それでも、この軍服を着ているだけでも何か出来ることはあるはずだと信じている。

 

プラントや、あの大戦で命を賭けて為すべきことを成した仲間達の為に。

 

「イザーク」

 

「それほどの力、ただ無駄にする気か」

 

リークやトール、まだ地球にいるラリーたちの力は、まさに行先を変える何かがある。イザークはそれを確信していた。

 

現に、あの大戦で彼らはザフトにいるコーディネーターも、地球軍にいるナチュラルも関係なく、その心のあり方を変えたのだ。

 

再び始まろうとしている地球と宇宙の全面戦争。その行先を大きく変える力があるのはコーディネーターでも、ナチュラルでもない。あの凄惨な戦いを止めたいと願い、そのために剣を取った彼らのような存在が必要なのだ。

 

イザークの目を見たトールが、ちらりとリークの方を見ると、彼は意を決したように答える。

 

「ありがとう、イザーク。けれど、俺たちは地球へ行くよ」

 

リークはそう言ってから、PJたちの墓へと振り向く。遺体すらない空っぽの墓標に、あの戦いで散っていった多くの者達の名が刻まれている。その全てが、リークたちが背負うべき使命と同じなのだ。

 

「失ったもの、過去から来る恐怖、それを無視することはできない。だから守らなきゃならないんだ。僕たちもそうさ。あの大戦から守り抜けたものもある。だから、今度も同じように果たすさ。僕たちが成すべき使命を」

 

〝生きて、生き延びて、使命を果たす〟

 

地球軍にいたときも、軍関係なく戦っていた時も、そしてトランスヴォランサーズにいる今も、その指針が変わることはない。

 

あの戦いで守りたいものは見定まっている。迷うことは何もない。故に、リークやトールの答えも決まっていた。

 

「プラントの軍門に降ることはできない。けれど、僕やトール、ラリーたちと、イザークたちが目指す世界が同じならば、必ず道は重なる。その時は、差し伸ばした手を取り合おう」

 

そう言って握手を差し出すリークの手を見るイザークが、顔をしかめる。その様子を見たディアッカが、呆れたような口調でイザークの肩を叩いた。

 

「イザーク、俺たちの負けだぜ」

 

「彼らには、彼らの戦いがあります」

 

戦友たちの言葉を聞いて、イザークも諦めたのか、納得したのか、よくわからないようであったがディアッカの手を振り払いながら鼻を鳴らした。

 

「わかっている!だが、敵として…プラントを焼く者として立ちふさがることだけは許さんぞ!死んだ仲間たちのためにもな!」

 

リークたちへ指を刺してイザークは吠えた。共に戦った戦友たちと銃を突きつけ合うのはゴメンだと言わんばかりに。

 

その様子をみたリークとトールは、顔を見合わせてからおかしそうに笑って頷いた。

 

「ああ、それだけは誓って」

 

そう答えて、イザークとリークたちは改めて握手を交わした。

 

「イザーク!」

 

そんな中で、ニコルの悲鳴のような声が響いた。彼が取り出していたのは携帯端末だ。それも衛星回線をいくつも利用できる暗号通信に特化した代物だ。

 

前大戦の教訓で情報の裏取りを行うためにニコルが手配したものであり、あの時に戦った戦友や情報処理班の旧知の仲の者たちとコミュニティを形成するために持っていた。

 

その端末を見つめるニコルは、青ざめたような表情をしていて、イザークやディアッカも、それがただ事でないことを察したのか、ニコルが持つ端末を覗き込んだ。

 

「暗号通信ですが、確かな情報です」

 

情報の出所は、なんとブルーコスモス。コーディネーターとの融和派だった組織の人間が、プラントやユーラシア、そしてオーブの仲間へと一斉に伝令を送っていたのだ。

 

その解読された暗号文を見て、リークとトールは驚愕する。

 

「なんだと!?」

 

その一文は、これから先の世界を大きく変えるものだった。

 

 

 

////

 

 

 

 

《ザフトの降下作戦が始まりました。もうユーラシアも大西洋も関係はない。地球と宇宙の全面戦争の開始は、最早待ったなしですねえ。そちらの氏族様たちは大丈夫でしょうか?》

 

薄暗い通信室の中で、ウナトはモニターに映るジブリールと言葉を交わした。彼がいうように、すでに地球の軌道上に展開されたザフト軍は、ジブラルタルとカーペンタリアへの降下を開始している。急な開戦で制空権を抑えられなかった各国は、好きに降下して行くザフトの軍勢を指を加えて見ておくことしかできない。

 

そして、その牙はオーブにも向くことになるだろう。

 

「ああ見えても、それほど馬鹿な者たちではありませんよ。大丈夫です。私がちゃんと説得します」

 

《この話は貴方が言い出した事だ。私としてもオーブの技術や戦力には大きな価値があるとは思います。だが、今の状況では前大戦のように貴方たちの力を武力で奪いとるまで執着すると言われればそうとも言えないのです》

 

ジブリールにとって、オーブが〝どちら側〟に付くのかなど勘定にも入っていない。目の前にいるウナトが前大戦で大西洋側へNジャマー・キャンセラーの技術を横流ししたという実績があるから故に、大統領の要請と大西洋からの同盟の話に応じているに過ぎない。

 

《国を焼かずに、貴方の手にオーブを収める絶好の機会。貴方たちの判断に期待しておりますよ》

 

そう言って、ジブリールはウナトとの通信を切った。深く息をついて、ウナトは席へともたれる。もはや猶予は残されていない。決断をするにも、戦争が始まってしまうことにも。それだというのに代表のホムラや、前代表であるウズミも、同盟の件に頷こうとはしない。

 

「さて、ザフトと地球軍の全面的な激突はすぐそこだ。我々のやるべきことはわかっているな?」

 

鋭い目つきでいうウナトに、ごく少数のオーブ兵は敬礼を打つ。彼らはウナト派に属する過激派士官であり、ウズミによる中立という立場に反感を抱いている者たちだ。彼らの原動力は、前大戦で家族を失った憎しみ。ならば、その原動力に薪をくべてやろう。

 

「ユウナとカガリ様の結婚もある。いい加減、今の自分の立場ってものを自覚してもらわないと」

 

「では、計画通りに」

 

そう答えた指揮官が足早に出ていくのを見つめながら、ウナトは小さく、邪悪にほくそ笑むのだった。

 

 

 

////

 

 

 

「そんな…」

 

数回に渡ったオーブ首長国の議員会議で出た結果は、カガリを落胆させるものであった。士族の大多数が賛成した結果、大西洋連邦との同盟が可決したのだ。

 

「積極的自衛権の行使、などとは言ってはいますが、戦争は生き物です。放たれた火が何処まで広がってしまうかなど誰にも分かりません」

 

「我等は大西洋連邦との同盟条約を締結します。再び国を灼くという悲劇を繰り返さぬ為にもね」

 

再びオーブを焼くことを恐れた士族たちの決断は、ある意味正しいのかもしれない。しかし、大西洋連邦とプラント、そしてユーラシアやブルーコスモスが戦争に傾倒してゆけば、オーブに降りかかってくる戦争の火は、前大戦とは比べ物にならないほど大きくなって行くだろう。

 

「私は無力だ…」

 

議会を終えたカガリは、一人通路のソファに座りながら思考を巡らせていた。出せる情報や、疑わしい点を出したとはいえ、彼らの恐怖からくる考えを覆せなかったのは、自身の人望と政治家としての経験不足が起因している。

 

「仕方ないさ、カガリ。政治は理想じゃない。神頼みや祈りでは解決できない事を話し合うため。この決断は…現実なんだ」

 

「ユウナ…」

 

項垂れる彼女の前に現れたユウナは、険しい表情のままカガリへと言葉を告げた。政治とは利益と損失、国民の生活の保護や、国の運営のために行うものだ。そこに感情的な議論は必要とされない。淡々と、綿密に、国を守るために議会を動かして行く必要がある。

 

「故に誠実さが求められる。国民の意思や、僕らが議員として認められている意味をよく知る必要があるのさ。だから…」

 

そう続けたユウナの言葉は、扉を開けた議員秘書や政府関係者の手によって遮られた。

 

「大変です!!カガリ様!!」

 

「なんだ!?」

 

「ア、アスハ代表が療養する病院が…爆破テロに!!」

 

その報を受けてカガリの手から握られていた書類が地に落ちる。その隣にいたユウナは、驚愕するカガリを横目に踵を返して歩き出す。

 

くそっ!動き出したか…!!

 

予想していた父の悪行が現実のものとなって、ユウナは頭を金槌で殴られたような気分だった。

 

仲間がうまく動いてくれていたら良いが…!!

 

彼女から十分に離れてから、ユウナは走り出した。邪魔な議員の上着を脱ぎ去って走る。

 

向かう先は、慣れ親しんだオーブ軍の格納庫だ。

 

 

////

 

 

「アズラエル理事とハルバートン閣下が!?」

 

「ええ、暗号通信ですが、確かな情報です。お二人は何者かの手によって…」

 

ニコルたちへと届いていた通信は、ラリーたちの元へと届いていた。暗号通信の連絡先は、ブルーコスモスの秘書官だ。彼はアズラエル理事の側近であり、同時にユーラシア連合所属の屈強な軍人でもある。

 

「二人は無事なのか!?」

 

「アズラエル理事は、側近の者たちが何とか運び出したものの重症で…危険な状態です。ハルバートン閣下は行方不明と…」

 

「くそっ!!」

 

サイからの報告を受け止めて、吐き捨てるようにラリーは机へ拳を落とした。大西洋連邦の独断のような開戦。そして政治的な声明を出さないユーラシアの方針に違和感を感じていたが、まさか裏側に手を回されていたとは…!

 

自分というイレギュラーがいる以上、史実通りに事は進まないとは思っていたが、これはあまりにも不味い。ユーラシアのトップと、ブルーコスモスのトップが総入れ替えになった今、反コーディネーター派である彼らが戦争に踏み込むのは時間の問題だ。

 

「ブルーコスモスでは、アズラエル派の幹部たちが襲撃を受けている。何者かか、何かしらの勢力が動いている可能性が高いと考えられるな」

 

「アズラエルさん…」

 

アズラエル理事は、フレイの後見人でもある。不安そうに瞳を揺らして手を握りしめるフレイも思うところはあるだろう。

 

それに、ひとまず離脱できたとはいえ、状況説明するニックの言う通り、存命しているアズラエル理事を狙う勢力はいるはずだ。

 

「とにかく、我々のいるオーブも大西洋連邦との条約を進めている状況下だ。自体は緊急を要する。トランスヴォランサーズは至急、アメリカへと赴き、身動きが取れないアズラエル理事の救出任務を…」

 

ブリーフィングへと入ろうとした瞬間、ラリーたちがいるトランスヴォランサーズの施設が激しい揺れと轟音に襲われた。

 

「なんだ!?」

 

「第四倉庫から出火です!!」

 

施設管理を司るモニターを見たサイが簡潔に答えた。備品倉庫である第四倉庫には、MSとMA用の燃料も置かれている。火の扱いには細心の注意を払っていると言うのに、なぜ?

 

その答えは、再び襲いかかってきた揺れによって明らかになった。

 

「爆撃されている…!?どこからだ!!」

 

「IFF応答なし!機体照合…これは!?」

 

レーダーによって捉えた機影は、信じられないものだった。モニターを見つめたサイが、震える声でニックの言葉に答えた。

 

「攻撃してきている機体はムラサメ…オーブ軍です!」

 

「オーブ軍が、攻めてきたと言うのか!?」

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

『目標確認。第一攻撃は成功』

 

驚愕にさらされるラリーたちから遥か。湾岸沿いに上がってきたムラサメの小隊の隊長は、打ち込んでしまった武装を見つめて呼気を鋭くする。

 

『おい、本気で彼らに刃を向けるのか…?』

 

《彼らはウズミ様暗殺の容疑者だ。抵抗する場合は排除することも厭わないと、本部から通達が来ている》

 

無線越しの通信官は、抑揚のない言葉で淡々と繰り返すだけだ。未明に起こったウズミ・ナラ・アスハを狙った爆破テロ事件。自分たちが相手にしようとするのは、その容疑者たちである。だが、その判断はオーブの軍人に深い疑問を与えた。

 

『そんな。彼らは前大戦の英雄なのですよ!?』

 

《英雄であろうと罪人に変わりはない。以降一切の通信を禁ずる。以上》

 

一方的に切られた通信機に拳を叩きつけた隊長機は、意識を切り替えて操縦桿を握る。

 

『くそっ!各機、抜かるな!相手は流星…手にかけたくはないが』

 

相手はあの流星だ。仮にウズミの暗殺をしたのが彼らとはいえ、攻撃するこちらを黙って見過ごすわけがない。

 

すると、隊長機の横を飛んできた一機のムラサメが、鮮やかな軌跡を描いて飛び去って行く。

 

『命令です。攻撃を実行します』

 

『ルナマリア!ええい!各機、指示された通りに攻撃しろ!彼らは——〝ウズミ様を亡き者にした反逆者〟だ!!』

 

これから行おうとする戦いが、オーブの運命を大きく変えるものになるということを、彼らはまだ理解することができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

今後のシナリオ展開について

  • カラードの一部合流ルート
  • カラードvsメビウスライダー

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