ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第43話 混沌・飛翔・乱戦 1

 

 

オーブ、オノゴロ島。

 

モルゲンレーテ秘密ドッグに入るミネルバのブリッジで、副官のアーサーは通信官がキャッチした通信をインカム越しに聴きながら不安そうな顔で、艦長であるタリアへ報告した。

 

「艦長、これを」

 

タリアの了承を得てから、マイク音声へと切り替えた通信機から、老齢でありながら透き通ったような声がブリッジへと響き渡る。

 

《ミネルバ聞こえるか。もう猶予はない。ザフトは間もなくジブラルタルとカーペンタリアへの降下揚陸作戦を開始するだろう》

 

「秘匿回線なんですが…さっきからずっと」

 

《そうなればもうオーブもこのままではいまい。黒に挟まれた駒はひっくり返って黒になる。今のうちに脱出しろ。そうなる前に。聞こえるか、ミネルバ》

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスよ。貴方は?どういうことなのこの通信は」

 

タリアがマイク越しに答えたことに、通信先にある人物はニヤリと笑みを浮かべて、くたびれた地球側の帽子を深くかぶった。

 

《声が聞けて嬉しい限りだ。初めまして。どうもこうも言ったとおりだ。のんびりしてると面倒なことになるぞ?》

 

「匿名の情報など正規軍が信じるはずないでしょ?貴方誰?その目的は?」

 

そうタリアが問いかけると、マイクの向こう側にいる人物は少しばかり考えるような間を開けてから、悪戯っぽく抑揚した声を上げて答えた。

 

《んー…では、砂漠の流星を読んだものはいるか?これは流星たちからの伝言だ》

 

「ラリー・レイレナードから…?」

 

なぜ、彼らがザフト軍である自分たちを気遣うのか?そんな疑問がタリアの中によぎるが、通信機からの言葉が待ってくれることはなかった。

 

《兎も角警告はした。降下作戦が始まれば大西洋連邦との同盟の締結は押し切られるだろう。留まることを選ぶならそれもいい…しかし、もし脱するならば送ったデータの場所へと来るがいい。あとは君の判断だ、艦長。幸運を祈る》

 

そのままプツリと通信は途絶える。通信官が逆探知や、応答をかけてみるが、秘匿回線のセキュリティの壁は高く、ミネルバの標準的な通信機器では、その通信の後を追うことはできなかった。

 

「駄目です。地球軍側の警戒レベルが上がっているのか、通信妨害が激しくレーザーでもカーペンタリアにコンタクト出来ません」

 

タリアは送られてきた通信データを見つめる。そのデータの行く先は、太平洋の沖合。絶海の赤道付近を示していた。

 

「いいわ。命令なきままだけど、ミネルバは出港します」

 

「艦長…」

 

「全艦に通達。出れば遠からず戦闘になるわ。気を引き締めるようにね」

 

タリアの言葉に了承したアーサーはすぐさま全艦へと通信を発した。雲行きが怪しくなるオーブに長居するのは危険。その考えは、タリアも通信してきた男と同感だった。

 

だが、彼はなぜ逃げる場所まで指定したのだろうか。拭うことのできない不安を感じ取りながら、タリアはミネルバへの物資搬入を急がせるよう指示を出すのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「第二波!来ます!!」

 

「全員、対ショック姿勢!」

 

「とっくに対ショック姿勢!」

 

トランスヴォランサーズは突如として現れたオーブ軍の航空攻撃により完全に手鼻を挫かれていた。遠方から放たれたミサイルランチャーは、恐怖を煽るような轟音を轟かせて、トランスヴォランサーズの敷地内へと着弾する。

 

火が上がったのはアスファルトで舗装された滑走路だった。

 

「くぅ…!倉庫は無事ですが、滑走路とレーダーがやられました!通常電源もです!補助電源に切り替えます!」

 

「くっそー!!奴ら撃ち放題かよ!!」

 

「オーブ軍に連絡は!?協定はどうした!」

 

「攻撃しているオーブ軍!こちらはトランスヴォランサーズ!我々は正規の手続きを経て、オーブ国内で認められている民間PMCです!直ちに攻撃を停止してください!繰り返します!」

 

サイや他の通信官は、協定を結んでいるはずもオーブ軍への通達を懸命に連絡を取るが、そのどれもが返答なしだ。彼らは間違いなく、ここにいるラリーたちを亡き者にしようと攻撃を仕掛けてきているのだ。

 

「非戦闘員は退避!ルートは5Aを使え!走れ走れ!」

 

「通り過ぎた機体が戻ってくるぞ!」

 

他従業員の避難が進む中、MSの格納庫ではハリー技師主導のもと、歴戦のメカニックたちが最終調整を終えた機体に火を入れ始め、武装を装着する準備に取り掛かっていた。

 

「緊急スクランブル!なんでもいい!機体のエンジンだけでも火を入れるのよ!!」

 

そう指揮をとるハリーの目に、一機の影が映った。飛来するオーブのムラサメの切っ先は、間違いなくハリーを目指している。羽のハードポイントに装着されたミサイルランチャーには、MS格納庫を焼き払うには十分すぎるほどの武装が残っている。

 

「MS格納庫に敵機接近!」

 

死が、目の前からやってくる。ハリーは迫るムラサメに恐怖で足が動かせなかった。フレイとラリーも格納庫に急ぐが、その距離は残酷すぎるほど、遠かった。

 

「ハリー技師!」

 

「ハリーィイ!!」

 

ムラサメの翼から火を上げたミサイルランチャーは、ケースから解き放たれて大空へと舞い……

 

 

 

 

そして射出直後にビームに穿たれ、爆散した。

 

 

 

 

 

「まったく、まだテストもままなっていないと言うのに」

 

同時。倉庫の天井をビームサーベルと穿った穴を起点に突き破った一機のMSが立ち上がる。緑色の両眼を光らせ、駆動音をかき鳴らしながら立ち上がった機体は、向かいくるムラサメへビームライフルを構えていたのだ。

 

「隊長なら、上手くやれますよ」

 

「そう言ってくれると助かる。無事かな?ラリーの花嫁殿?」

 

ビームを吐き出すと、今度は翼を捥ぐ。リーク用に調整されていた機体、ムラサメTYPE-R、エクスカリバー。そのコクピットに乗り込んでいたのは、マッスルスーツのテストを行なっていたクルーゼ本人だった。

 

「クルーゼ!!この野郎!!」

 

「はっはっはっ!!私はクルーゼではないさ、今の私は…クラウド・バーデンラウスだ。ムラサメ、エクスカリバー、出るぞ!」

 

格納庫についたラリーが嬉しそうに声を上げるのを見てから、クルーゼはスラスターを吹かして突き破った倉庫の天井から大空へと飛翔する。

 

「一機上がってきた!?あの状態から!?」

 

「あの機体はムラサメ!?しかし機体形状が違いすぎる!!」

 

通常のムラサメの可変機構は、翼となる部分が背面にくるが、エクスカリバーは翼と出力装置が脚部へと装着されている。そのおかげか、MA形態だというのに空を飛んだ感触は非常に安定していた。

 

「ほう、この機体…レスポンスがいいな。気に入ったぞ」

 

MSから一気に戦闘機形態へと変形したクルーゼのムラサメは、鋭く旋回を打ってから戸惑っている敵へと距離を詰めてゆく。

 

「機体が上がったと言う事は、迎撃されると言う事だ!気負うな!敵は一機だけだ!」

 

「攻撃をしてきたと言うことは、君たちは私の敵ということで良いのかな!!」

 

先制したムラサメのビームを避けたクルーゼは、その機体出力にものを言わせて敵となったオーブの機体を翻弄する。

 

相手も、流星を相手取るために相当の手練れを揃えていた様子だが、クルーゼの超絶たる技巧に追従できるものは存在しなかった。

 

「ぐぅ…!!何という旋回性能だ…!!だが、その速度なら変形は…!!」

 

「その程度でみじろぎするとは…甘いな!!」

 

海面すれすれへと降りたクルーゼは、通常のムラサメでは変形できない速度の中でMS形態へと移行する。目の前に人型の影となったエクスカリバーを見て、オーブのパイロットは驚愕する。

 

「飛んだ!?ぐっはっ!?」

 

驚きも束の間。人型となったことで急減速したクルーゼのエクスカリバーは、そのまま通り過ぎようとした敵の上へと降り立ち、重力に任せて海面へと叩きつけた。亜音速で海へと突っ込むことになったムラサメは、意識を落としたパイロットと同じく海へと沈んでゆく。

 

「コクピットをやるのは不味いやもしれんな。早く上がれよ、ラリー!」

 

「わかってるっての!まったく、ウチの機体を勝手に持ち出しやがって!」

 

他の機体との空中戦を始めたクルーゼの言葉に愚痴を吐きながら、大急ぎでパイロットスーツに着替えたラリーがコクピットへと滑り込む。

 

「ラリー!コクピットは狙っちゃダメだからね!」

 

「お前はさっさと退避しろ!ハリー!」

 

「うるっさい!三番倉庫のフレームを乗せる作業があるの!私を守りなさい!絶対よ!」

 

さっき死にかけたというのに、まったく懲りないやつだとラリーがため息をつく横では、シンとキラもMSの発進準備を整えていた。

 

「シン・アスカ、エクスカリバー、準備できました!」

 

「キラ・ヤマト、エクスカリバー、行きます!」

 

昨夜調整し終わっていた新しい愛機へと乗り込む二人は、武装を手にして、そのまま格納庫の出口へと進む。そんな中、シンは隣でタキシングに入ろうとしていたラリーの機体を見てギョッとした。

 

「ええ!?ラリーさん!滑走路がズタズタですけど!?」

 

ラリーが行こうとする先は、ムラサメのミサイルランチャーによって使い物にならなくなった滑走路が広がっている。

 

あんなボロボロな滑走路では飛び立つことなど不可能だ。

 

そう言うシンに、ラリーは少しだけ舌舐めずりをしてから機体のスロットルを徐々に上げてゆく。

 

「この機体には、滑走路なんて必要ないのさ」

 

エンジンが本調子になったところで、機体の翼面がまるでムササビが滑空するときのように広がってゆく。機体の翼に施された新技術は、申し分ない性能を発揮した。

 

あとは飛ぶだけだ。

 

「ラリー・レイレナード、スピアヘッドmark2、出るぞ!!」

 

爆音と衝撃波を上げた新しい翼は、ズタズタになった滑走路に入る遥か手前で機体を持ち上げ、その大空へと飛びってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 





ルナマリア所属するオーブ軍特殊部隊

vs

シン&キラ&ラリー&クルーゼのドリームチーム

ファイ!!!!!!!!

今後のシナリオ展開について

  • カラードの一部合流ルート
  • カラードvsメビウスライダー

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