ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
「いい?この機体は戦闘機。可変MSの発展が目覚ましい今の時代に、戦闘機はもう時代遅れなのかもしれない」
スピアヘッドmark2の説明をあらかた終えたタイミングで、ハリーはなんの臆面もなく隣にいるラリーへそう告げた。
「おいおい、それを先に言っちゃうのかよ」
デュランダル議長の護衛についてゆくマードックが、出発前夜だというのに機体の最終調整に付き合ってくれていた。そんな彼は点検用のハッチを閉じてから、呆れたような困ったような顔をしながらスピアヘッドのボディから降りてくる。
ハリーが言ったことは、間違っていないとラリーは思った。人型の汎用兵器であるMSは、前大戦でザフトが導入してから戦局を大きく変えてしまった。Nジャマーというレーダーを潰す装置が開発され、航空戦力や、宙域戦略の時代は一気に中世時代へと後退。情報の目をレーダー網やGPS類に頼っていた戦闘機というジャンルも大きく衰退した。
「事実は事実よ。でも、それがこの機体の最大の武器になる」
そう言ってハリーはニヤリと笑みを零す。そうだとも。戦闘機分野が近代戦から中世へと後退したというなら、〝それに合わせた〟機体を組み立てればいい。
「可変MS…というより、MSが兵器として成功したのは、その汎用性にあるわ。人型という敵に与える印象、操作性、オプションの対応力、武装の豊富さ、そして機動力。どれをとっても、多くの場面に相応の回答ができる機体がMSの存在意義になるわ」
けど、万能機じゃない。
そうハリーは断言する。彼女が地球軍にいた頃、MSの研究よりもMAや既存機器を用いた研究に没頭した理由はそこにある。
「言うなら、テストで高得点は取れるけど100点を取れる機体はMSという汎用性に存在意義を置いた機体ではなし得ない」
たしかに、完成度をひたすらに上げたフリーダムや、ホワイトグリント、ザフトの新型などなど。限りなく100点に近い機体でも所詮は汎用性に重きを置いた機体。
だから〝専用機〟には勝てない。
「この機体は、戦闘機という限りある分野に専用性をおいた〝専用機〟。やれることは全てやった。あとは、ラリー。アンタがこの機体を手足のように扱えれば」
敵MSのすべてを、置き去りにして空中戦の覇者となれる。そう確信めいたハリーの目を、ラリーははっきりと覚えていた。
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『くぅうう!!』
あの戦闘機が上がってきてから、見えていた勝てるというビジョンの全てが断ち切られたように思えた。
機体負荷のアラーム。ストール危険域のアラーム。駆動装置への異常アラーム。
アラームの嵐だ。
そんなムラサメの中で急制動に耐えるルナマリアだが、逸らしてしまいそうな視界の中には必ず、あの戦闘機の姿が写っていた。
『援護するぞ、ルナマリア!』
『2機で仕留める!!』
想像絶する制動を駆使して躱した攻撃の最中、後方から上がってくる二機のムラサメが、苦戦を強いられるルナマリアの援護をするために機体を翻した。
並走するように飛ぶムラサメは、ルナマリアの背後にいる戦闘機を捉える。二機のムラサメに備わるビームライフルの銃口が、戦闘機を撃ち抜こうとしたとき。
戦闘機——スピアヘッドmark2は、コブラから横へ機体を傾けるようなストールマニューバーを繰り出した。
空中の高速域でいきなり縦に反るような姿勢へと変わったスピアヘッドは、背後から追ってきていたムラサメ二機の合間をすり抜け、背後へと回り込むとそのまま機首を下ろして切っ先をムラサメの背後へと向けた。
二つのロケットランチャーがウェポンラックから放出されると、ムラサメの推力の要である脚部スラスターを容赦なく吹き飛ばした。
そのままスピアヘッドは何事もなく撃破した二機のムラサメの頭上を飛び去って、再び新たなる獲物に狙いを定める。
その間、僅か2秒ほどの出来ごとだった。
『んぬぁ…!?な、なんだ…!?今の動きは…!?』
『い、意味がわからない…どうやって撃墜されたんだ!?』
側から見ていた敵パイロットでも認識できない速度と機動力に、オーブ軍内でエースパイロット候補と呼ばれ始めていたルナマリアは戦慄した。
MSは、近年で開発された最高峰の兵器だ。
MSの汎用性と展開力の前に、既存の戦闘機や兵器は時代遅れとなって衰退した。それらを上回るポテンシャルをMSは有しているという言うのに…!!
『追いつけない…!!』
なんだこれは。追いつく?追い抜く?そんな次元の話じゃない!追いつくどころか…
『くぅうう』
背中を見るのがやっとだ…!!
「シンくん。彼が流星と呼ばれる起因となる理由が、よく見えるな」
ムラサメとスピアヘッドの空戦を半天周囲型モニターで見つめるクルーゼは、隣にいるシンへと語りかけた。
「クラウドさんは、隊長をよく知ってるんですよね」
「彼が流星たる理由を述べろと言われたなら、私は真っ先に答える。その理由は比類なき速さである、とね」
何度も。何度も何度も何度も刃を交わしたからこそ、クルーゼはラリーの強さをよく知っていた。
反応速度、適応能力、それを可能にする柔軟な思考力と判断力、すべてをねじ伏せてでも成し遂げるという精神力とタフネスさ。
機体の性能や、機動性もあるだろうが、それは機体によってパワーバランスが左右されるというだけだ。ラリーにとってその問題は些細なことでしかない。故に彼は強い。あまりにも。
「何よりも、彼は速い。私ですら隣に並んで飛ぶのがやっとだったのだからな」
そう満足そうにいうクルーゼの言葉は、どこか過去の思い出を楽しげに話す、そんな印象を感じられた。
《おい!何をしている!たかが戦闘機に!》
『たかが!?あれを見てたかがと言えるのか!?あれは化け物だ!!』
まだ落とせないのかと吠える情報部に、今度はパイロットが吠えた。
『ついていけねぇ…!背中に張り付こうとすれば、こっちの機体がもたねぇ!エンジンも、機体耐久度も!』
こちらがMS形態となって小回りが効く機動を発揮しても、何の慰めにもならない。敵を目標に捉えようと振り返っても、もう〝追いつけない〟のだ。こちらが攻撃を受けても、反撃しようとしても、目を凝らせばすでに敵は攻撃範囲外へと離脱しているのだから。
「MSって、言わば器用貧乏の極地なのよ。反応性と活用範囲は、他兵器と比べても段違いだけど、どれにしても〝ひとつのことに特化した〟存在には敵わない」
梱包し終えた試作フレームを地下通路へと運び出す作業の最中、ハリーはラリーが出てからすっかり大人しくなったオーブ軍に心の中で合掌を送る。こうなることは、ラリーの操る機体が空に上がった段階でわかりきっていた。
単純な話。ラリーとカリカリにチューンしたスピアヘッドという組み合わせに追従できる〝能力〟を持った機体が現オーブ軍には存在しないのだ。
これがクルーゼやキラたちだけなら、こうはならなかったかもしれないが、その特異な力はラリーにしかないものであって、その結果。
それが空にいる以上、彼らは前時代の異物と見下していた飛行機に制空権を奪い取られることになる。
「メビウスでMSを食ったのはね、MAがラリーの動きに追従できる専門性を持っていて、MSがその専門性に届かなかっただけなのよ」
「そしてそれは、彼だからこそ為せる技。まさに人機一体ってところだ」
ハリーのしたり顔を知っているのか、クルーゼもニヤリと笑みを浮かべた。
久々のラリーとの模擬戦。スピアヘッドmark2とエクスカリバーから得られたデータは、ハリーの考えを証明するに至った。クルーゼがいくら機体を振り回そうとも、エクスカリバーがいくら空戦MSの中で秀でていようと、ラリーの乗るスピアヘッドには追いつけない。
クルーゼは自分の言った言葉を思い出す。
〝人に流れ星を撃ち落とすことはできるか〟と。
『は、早すぎる…!!あんな距離からもう後ろに——っ!!』
『嘘だろ!?あれを避け——』
スピードの幕を張って、風を切って、音速を超える。
MSが捨てた空の限界への挑戦。
汎用性に〝妥協〟した結果。
『これが…流星…!?』
彼らは思い知る。
〝その全てを追求した〟空の魔物を。
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現状を言えば、最悪の一言だった。オーブのパイロットである馬場は、軍人として命令が下されたこの作戦に参加していたが、人としての感性の中では疑問しか無い作戦であった。
そもそも、前大戦の英雄であり、オーブ軍と共に地球の反コーディネーター派によるテロや内乱の火種を阻止し続けてきたラリー率いるトランスヴォランサーズが、ウズミ・ナラ・アスハの暗殺を企てることなんてあり得るのか?
オーブという国を弄ぶために愚行を犯したというのが、オーブ上層部の考えであるが、ウズミの娘であるカガリが懇意にしてある相手でもある。
この作戦も、限られ、厳選されたパイロットたちや管制官を起用していると聞く。まるで、示し合わせたように。軍人である以上、上の命令に安易に逆らうことはできない。
しかし…これは…。
『くっそ!!離れない!だから流星に刃を向けるの、俺は反対だったんだ!』
僚機も仲良く叩き落とされ、あたりには救難信号だらけだ。コクピットを避けているのは目に見てわかるが、落とされる速度が尋常じゃない。数十分?いや、数分か?オーブが厳選したエースパイロットたちが、一矢報いることすらできずに、しかも気がついたら落とされているのだ。
まったく、冗談ではない。
馬場は長くパイロットをやってきた身だ。それこそ、前大戦のオーブ戦も経験している古強者。故に、白き流星の異名を肌で実感しているパイロットでもあった。
敵にするとこうも恐ろしいとは…!!
操縦桿を握る手が震える。目に見えてなくても、べったりと背中について、まとわりついてくる気配。抗おうものなら、信じられない動きで躱され、振り向く間も無く足をもがれ、翼を焼かれ、海へと落とされる。
馬場が生き残れたのは、戦線に到着するのが少し遅れたおかげだ。少し遠目から、あの驚異的な動きをするエクスカリバーや、スピアヘッドを観察することができた。
特にヤバいのがスピアヘッドだ。戦闘機が前時代のロートル機などとほざいた上層部は愚か者だ。
鋭い旋回。MSの追従を許さない加速性能。そして高負荷G内でも安定して飛ぶ堅牢さ。なにより、パイロットである流星の卓越した操縦技術。急制動からのストールマニューバー。まるで曲芸飛行だ。戦闘機であんな動きが可能なのか?パイロットは何故平気な顔をして、あんな動きを操れるのだ。
同じパイロットとして目を見張る場面は数えきれないほどあったが、見てどうにかなるものでもなく。
戦線に到着して僅か数秒で隣にいた僚機が落とされ、背後にいた後続機が落とされ、今、自分に狙いが定まっている。
『こなくそぉっ!!』
海面ギリギリで機首を持ち上げて追従してくるスピアヘッドと対抗してみるが…くっそ!なんだあの機能性は!こっちは速度ギリギリで突入しているのに、俺が飛んだラインよりさらにシビアなところで鮮やかに持ち直してやがる!化け物か!?
海面といえど、蒸発する水蒸気と波打つ影響で気流にはごく僅かにだが変化はある。そしてその乱れは速度が増せば増すほど顕著に現れるというのに…!!
そこで馬場は気がついた。このライン。この空路はまずい。敵の射線と被ったラインを飛んでしまったことに。
やられる…!!
そう覚悟を決めた馬場の身体に届いたのは、何かが機体に打ち込まれた音だった。
《その機体のパイロット!乗っているのは馬場だな!?》
コクピット内に反響した声に、馬場は言葉を失った。そしてすぐにそれが、自分を追ってきたスピアヘッドのパイロットであることに気がつく。
『ラリー…さん…』
《お前!!オーブ軍はなんで攻撃してきた!トランスヴォランサーズとオーブ軍は共同戦線の契約を交わしてるはずだぞ!》
小型の通信中継機へレーザー通信をするラリーの問いかけに、馬場は心の中にあった疑問を確信に変えて答えた。
『…ウズミ様の病院を爆破したのは、やはり貴方方ではないのですね』
《ウズミ様が…!?おい!それは本当か!?》
『はい、我々の任務はテロの主導者である貴方方の排除が目的です。ですが、私には信じられませんでした。カガリ様と懇意にされているラリーさんや、リークさんが…ウズミ様を!』
《当たり前だ。だが、オーブ軍の上層部が動いている以上、事態はかなり…》
『馬場一尉!!』
馬場の通信機越しに聞こえた声と同時、ラリーの機体と馬場のムラサメの間にビームの閃光が差し込まれた。
『ルナマリアか!?』
「ちぃいい!!」
バレルロールで差し込まれたビームを避けて距離を取るラリーは、切れてしまった通信音声に舌打ちをした。打ち込んだ中継機は、Nジャマー環境下でも作用はするが、その有効範囲はごく僅かだ。海面の乱反射もある以上、距離を少しでも置けば馬場との通信はできなくなってしまう。
『私たちの任務は、彼らの捕縛!抵抗するなら撃破も申し付けられています!!』
『しかし彼らは!!』
『任務は果たさなければなりません!彼らが内乱を呼ぶ原因となるというならば!!』
馬場とラリーの間に割って入ったのはラリーの空戦の中でなんとか生き延びたルナマリアだった。想像絶する追いかけっこに疲労困憊ではあったが、ストイックな彼女の操縦に乱れはない。
僚機の殆どが撃ち落とされてはしまったが、撤退命令がない以上、増援を待って相手を釘付けに——。
《ルナァアア!!》
濁りそうな思考の中、広域音声で大声を発しながら近づいてきたのは、ラリーではなくシンの操るムラサメ・エクスカリバーだ。
MS形態へと滑らかに変形したシンの機体は、ビームサーベルを抜き放つと無防備にいるルナマリアのムラサメへと突貫する。
《その機体!ルナマリアが乗っているんだろう!?ルナマリアならやめろよ!なんだってこんな…こんな戦いを!》
『うるさい…!!アンタも、私の敵になるのかぁ!!』
ギリギリでシールドで間合いをとったルナマリアは、聞いたことがない叫び声を上げてシンを迎え撃つ。
オーブで起こる内乱の兆しは、まだ覚めることない悪夢を呼び起こしてゆく。
今後のシナリオ展開について
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カラードの一部合流ルート
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カラードvsメビウスライダー