ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 作:紅乃 晴@小説アカ
「浮上完了!海面航行へと移行します!」
「排水と同時に火器管制システム起動。ラミアス副艦長。任せます」
「イーゲルシュテルン、バリアント起動!後部ミサイル発射管、ヘルダート装填!1番から5番、コリントス装填!他はウォンバット装填!アンチビーム爆雷展開!」
浮上したドミニオンは、海水を吐き出しながら同時に武装を展開。MS用のハンガーを開き、近寄ろうとするムラサメを対空弾幕やミサイルで追い払って行く。
《オービットよりライトニング隊へ!基地主要システムの移行は完了した!現時刻をもって基地を放棄!各機着艦後、海中潜航へ移行し、離脱する!》
待ってました!そう言わんばかりにラリーを筆頭に、部隊は撤収の準備に取り掛かった。爆撃機を荒らし回ったシンもドミニオンへと合流。追いすがってくるゲテモノMSも、ラリーとクルーゼの相手でかなり消耗しているようだった。
「ブルー55、アルファにオーブ軍の追撃があります!」
「構わん、すでに脱出ルートは確保されている」
敵増援が向かってくる中、シンに続き、キラのエクスカリバーがドミニオンへと着艦する。MS形態で着艦したキラは、コクピットの中でヘルメットを脱ぐと、口惜しげに手を握り締めた。
今回現れたマイブリス相手に、自分は何もできなかった。まだ慣らしていない機体だからと理由は山のようにあるはずなのに、キラにとっては、そのどれもが言い訳じみているように思えて仕方がなかった。
『流星!』
クルーゼを先にいかせて、殿を務めるラリーに、出力が落ちたレイテルパラッシュでウィン・Dが追いすがる。
だが、煙幕とミサイル、そして空になったファストパックが煙幕に紛れて投下されたことで、それを受けたウィン・Dに、ラリーのスピアヘッドを追う手立ては残されていなかった。
『ウィン・D!その機体では無理だ!』
『ロイ!しかし…!!』
『諦めろ…今の俺たちじゃ、奴らには勝てない』
片腕から火花をあげてボロボロになったトランスヴォランサーズ所有の滑走路に佇むマイブリス。パイロットであるロイの言う通り、自分たちの力不足は否めない。
あったはずの自信は折られ、目の前には敗北という事実が横たわっている。海上沖へと逃げ出したドミニオンを追うこともできない口惜しさに、ウィン・Dは晴天の中へと消えるスピアヘッドの軌跡をジッと見つめるのだった。
「対空迎撃!牽制でいい!弾幕は絶やさないで!」
「ラリー機、着艦しました!」
最後の機体を格納し終えたドミニオンは、すぐに行動を起こす。
「よし!ハッチ閉鎖!潜航準備!」
大きな船体を海へと沈め始める。姉妹艦と同じく潜水機構を導入したドミニオンは、レーダー波でもキャッチできない海底へとゆっくりと降り始めていく。
『アークエンジェル級が逃げるぞ!』
『追え!逃すな!何としても撃破を!』
その進路を阻止しようとムラサメや、爆撃機がミサイルや爆弾を投下しようと潜水を始めたドミニオンを追跡するが、彼らの視線の先に、編隊を組んだ部隊が現れた。
《こちら、オーブ国境警備隊。貴官らの作戦行動はこちらに伝令されていない。これ以上の戦闘行為は国家反逆罪を適用し、貴官らを迎撃する》
青と白を基調にしたムラサメは、オーブの領域を監視する国境警備隊所有の機体だ。進軍しようとするオーブ軍と向き合う形で部隊を展開した警備隊に、隊長格であるパイロットは苛立ちげに声を漏らした。
『こちらは極秘作戦を実行中だ。邪魔をするな』
《ほう?なら、空軍の幕僚長からも承認は出ているのだろうな?確認はするが、君らの長がその作戦を認可していなかった場合、諸君らは軍法会議にかけられることになる》
放った言葉に、まさに返す刃のような返答が突き刺さる。この作戦は、ある氏族が主導となって行われた極秘作戦だ。オーブ軍内でも限られた人員しか選出されず、任務を認可する上層部もすっ飛ばして行われたものだ。彼らが航空部隊の幕僚長へ進言すれば、いくら氏族の力があろうと一介のパイロットたちの処遇は火を見るよりも明らかなものになる。
《根回しが足りなかったな。彼らを取り逃した段階で君たちは敗北しているのだよ。大人しく帰りたまえ》
余裕すら感じる警備隊長の声に、隊長格のパイロットは口惜しげに歯を食いしばってから、機体を翻した。
『…全軍、引きあげろ』
どんな理由があるのか。私利私欲のためか。あるいは弱みを握られているか。あるいは流星と戦ってみたいと思った愚行か。前大戦の英雄たちへ牙を向けたオーブ軍は、海中へと去ってゆくドミニオンを一瞥してから、基地へと帰還してゆく。
『流星…』
機体を落とされ、同僚に救助されたルナマリアは、太平洋の中へと消えていった船を見据えながら呟く。
その表情は風に揺られた髪のせいで垣間見ることはできなかったが、瞳には燃え滾る〝意思〟が宿っているのだった。
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ドミニオンに着艦したラリーたちは、パイロットスーツのままブリッジへと上がった。
「バーフォード艦長!」
「ご苦労だったな。待たせて申し訳ない。このレディは寝起きが少々悪くてな」
いつもと変わらない口調でパイロットたちを出迎えたバーフォードは、トレードマークでもあるくたびれた地球軍の帽子を脱いで、ラリーたちを労るように肩へと手を置いた。
この作戦は非常事態を想定したものだ。本来ならば、ザフトや過激派組織に襲撃された時のプログラムであったが、よもや懇意にしているオーブ軍相手に使うことになるとは想定していなかった。
「ドミニオンは、どこに向かっているのですか?」
キラの質問に、ラリーたちも同意だった。プラン通りならば、この船はモルゲンレーテのドックに向かう手筈になっているが、オーブ軍が牙を向けてきた以上、オーブ国内の主要港は全て危険域と化しているだろう。
故に、自分たちが向かう先は限られてくる。
「マルキオ邸…いや、我々の極秘ドックだ。そこで今回の件の説明をしてくれる人物が待っている」
「説明…?」
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アカツキ島。マルキオ導師の孤児院があるこの島の地下には、ドミニオンの姉妹艦であるアークエンジェルが隠蔽された海底ドックがある。
注水されたドッグへと入港したドミニオンは、一時の暇を持つことができた。ドタバタと乗り込むことになったマリューたちやクルーたちも一度下船することになる。
大西洋連邦はもちろん、ユーラシアでハルバートン閣下が行方不明になったこと、そしてアズラエルが重傷を負い、今も命を狙われていることもある。どちらにしろ、今後の方針を固める必要もあった。
「ムウ!」
「マリュー!無事に戻ってきてくれて何よりだ!」
海底ドックにあるブリーフィングルームへ入ると、息子を抱っこしていたムウが帰還したマリューを出迎えた。軽いハグを交わすマリューとムウ。
その様子を見ていたクルーゼこと、バーデンラウ夫妻は、解放されたマリューの横に並んで、ハグのポーズ。クルーゼのそのポーズを見たムウは、なんとも言えない表情となった。
「私とのハグはしないのかね?」
「心の準備すら整ってねぇよ」
そう切って捨てたムウ自身は、本来なら非番であり、トランスヴォランサーズへ出向いていたマリューに変わって息子の相手をしていたはずだが。
そう思ったラリーが辺りを見渡すと、ブリーフィングルームに置かれた点在する座席に、顔を知っているオーブのパイロットたちが並んでいるのが見えた。
「ムウさん、それにオーブのパイロットたちも…これはいったい」
「それについては、僕から説明させてもらうよ」
遅れてブリーフィングルームへやってきたバーフォード。その後ろにいる人物が、部屋にいる全員へと言葉を放った。
「みんな。オーブは…君たちと敵対する道を選んだ」
真剣な眼差しでそう言い放ったのは、パイロットスーツ姿のユウナ・ロマ・セイランだった。