ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第55話 ベーリング海の一攫千金 3

 

青い空の下。

 

白き光を放った機体は四肢を踏ん張り、機体を翻す。

 

キラの操るエクスカリバーは、その性能を上回るであろうサベージビーストとの戦いの中で、新たな局面を迎えようとしていた。

 

「くっ…!!まだダメか!!」

 

機体を挙動させる中で、キラは今まで合っていなかったズレを痛感して奥歯を噛み締める。自分が思い描いたイメージを、エクスカリバーはワンテンポ遅れてなぞってゆく。

 

正直に言って機体は悪くない。

 

エクスカリバーの駆動源はバッテリーではあるが、瞬間的な加速性は、過去のフリーダムに迫る力強さを持っている。

 

だが今までは相手が出してくる歪な形状をしたMSであるレイテルパラッシュや、サベージビーストの方が、純粋にMSとしてこちらを上回っていると、キラは心のどこかで〝決め付けていた〟。

 

頭を振って雑念を振り払う。余計なことを考える前に、今はしなければならないことがある。

 

もう何度目か、数えることをやめたキラは、コクピットの脇へ収納されているキーボードを引き出すと、片手でMSを最低限挙動させながら、もう片方の手でキーボードを凄まじい速さで打ち始めてゆく。

 

「サンプリングデータを元にモーメントポイントとCPCを再設定…チッ、この数値じゃダメならニューラルリンケージを4%修正、制御モジュールと分子イオンデバイスをバイパス接続、ニュートラルリンクゲージ再接続、ネットワーク再構築、メタ運動野パラメータ更新。フィードフォワード制御更新、伝達関数更新、コリオリ偏差修正、運動ルーチン再起動!」

 

その動きは神がかりと言えた。もしかすれば、フリーダムと同等、それ以上の動きをするはずの敵MSを目の前にして、逃げ回っているとはいえキラは〝片手運転〟で渡り合っている。

 

しかも、機体制御を司るOSを弄りながら戦っているのだ。下手を打ってシステムエラーが出れば、機体が停止し、墜落してしまう恐れがあるというのに、キラは全く躊躇う様子すら見せることはなかった。

 

『なんだ、アイツ…!動きが変わってゆく…?』

 

徐々に変化してゆくキラの機体への違和感に最初に気がついたのは、ラリーを相手とって戦っていたはずのレイテルパラッシュに乗るウィン・Dだった。

 

カニスは、良くも悪くもハイテンションと楽観視性で敵を推し量り、自身の有意な位置と精神力を保ったまま相手を撃破するスタイルのパイロットだ。

 

たしかにパイロットに必要な要素の中には冷静さや堅実さや実力もあるだろうが、もっとも重要な要素の一つとして、精神的な余裕と自身が相手よりも優位であると自信を持ち続けて戦えるセンスがある。カニスには、訓練や〝処置〟では身につかないセンスが最初から備わっていた。

 

だが、その絶対的な精神の優位に、隠せない焦りや変動がウィン・Dには見えた。

 

キラは数度、サベージビーストとの交差を繰り広げると、再び距離を開けながらキーボードを叩く。

 

「ドルイド数値解析、関節モーメントをマイナス20に再設定、エンコードデータ反応値をプラス40、軸加速度修正、減速比率修正、フィードバック値更新時間修正、モーメントポイント更新、制御モジュール再接続、運動ルーチン再起動」

 

機体を戦闘状態で動かしながら「トライ・アンド・エラー」で機体を調整してゆく。今自分が乗る機体の限界値を見極めるために、キラは機体の隅々まで感覚を研ぎ澄ました。

 

今の動かし方じゃ、ただパワーのある機体をイタズラに振り回しているに過ぎない。もっと繊細に。もっと鋭く。空を飛ぶ感覚を指先や、フットペダルに触れる感触へと当てはめてゆく。

 

もっと効率よく、もっと合理的にシンプルで。

 

昔、リークから教えてもらったメカニックの基礎知識を呼び起こしてゆく。

 

「ちぃ…まだ間に合ってない…!!」

 

あと半歩届かないと言った歯痒さがあった。そこでキラは気がつく。その半歩の隔たりがあるのは、自分が〝地球〟で戦っているという自覚が希薄しているということに。空気抵抗がない宙域ならまだしも、ここは地球だ。空気抵抗や重力も機体の挙動に影響してくる。故に、OSにはそれら地球環境を加味したセッティング施されている。

 

なら、その絶対的な機能制限を取り払ったら?

 

「空気抵抗値を想定よりマイナス20に設定、摩擦係数も併せて再設定、イオン濃度正常、メタ運動野パラメータ更新。フィードフォワード制御更新、伝達関数更新、コリオリ偏差修正、運動ルーチン再起動!」

 

そこから、キラの行動はとてつもなく早かった。重力下における機体制御のリセッティングを行うと、即座に機体挙動へと反映させたのだ。

 

そこから、キラの機体の動きは朧げな変化から、覚醒的な変化へと変貌を遂げた。

 

『アイツ…まさか…OSを再構築してるのか!?あんな機動戦をしてる最中に!?』

 

繋がってゆく。今まで噛み合わなかった全てが。思考とイメージが先走って、体がついてこなかったものが、そのイメージをなぞる様に描けてゆく。機体が軽い。踏み込めば踏み込むほど伸びてゆく。

 

操縦桿を握る手から、ペダルに乗せる足先から、この機体のエネルギーや息吹を感じ取ることができる。

 

足りなかった一歩。先を行っていた思考に、その一歩が追いついていくのが手にとる様に分かった。

 

『ついてくる…おいおいおい…なんなんだよコイツは…』

 

カニスには、目の前で起こったことを理解する暇もなかった。緑色のデュアルアイを煌めかせるキラの機体の動きは、最初に相手をしていた時とは確実に違っていた。

 

こちらの振り回す動きに、完全に付いてきている。それどころか、まるでサベージビーストの動きが完全に読まれている様な動きを、目の前の機体はしていたのだ。

 

機体がぶれる。こちらが打った攻撃をまるで点と点の間をワープする様に、キラの機体は挙動し、こちらへと距離を詰めてくるのだ。

 

「ふっ…ひとつまた壁を超えたな。キラ」

 

レイテルパラッシュとの激闘の中で、ラリーはキラの動きの鋭さが増していくのを見て、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

ならこちらも!!、と操縦桿を絞ってスロットルを上げる。機体の前方左右に振り分けられたスラスターが、進行方向と逆向きに火を迸らせると、機体はグンッと急減速し、レイテルパラッシュが放ったビームランチャーを避ける。

 

その急加速、急減速について行くのがやっとだった。ウィン・Dは敵の底知れないタフネスさと、それを可能にする驚異的な技術と実力に圧巻される。

 

こちらの機体も、ほかのウィンダムやダガーと比べればかなり「人を乗せること」から逸脱した機体であるはずなのに、相手はさらに一歩先を行くのだ。

 

ふと、機体の中にあふれていたアラームに、新たなものが加わった。目をやると、こちらのエネルギー残量がわずかになっている。レッドゾーンぎりぎりだ。ミサイルも弾切れだし、ビームランチャーの出力を維持することも困難になりつつある。

 

そんな彼女の元へ、後方にいる艦隊から通信が入った。

 

《こちらコーラルスター。レイテルパラッシュ、ウィン・D・ファンション。ザムザザーが落ちた。こちらの艦隊も左舷の戦力が多くやられている。敵の隊長機も侮れんぞ?》

 

『…撤退しろと言うことか』

 

オペレーターの凛とした声を聞いたウィン・Dは、苦虫を噛みしめたような声で応答した。そんな声にオペレーターは、「ほう、存外冷静なのだな」と鼻を鳴らす様に返す。全く、相変わらず偉そうな口ぶりだとウィン・Dは息をついた。

 

《指揮官も馬鹿ではあるまい。あの船を落とせなかったことは痛いが…情勢を知れただけでも良しとするしかないだろう》

 

オーブ軍も今回は加勢をするつもりもないようだ、ともオペレーターは付け加えた。今回の要請は、ザフト新造艦の退路を断つことだけ。オーブへの直接的な攻撃がなかった以上、彼らが無闇に戦線に参加することはないだろう。

 

それに、本来の目的であるザフトの新造艦のデータ取りや、ザムザザーの運用テストも残念な結果ではあったが入手することはできたのだ。こちらとしては作戦目標をすべて達成したことになる。

 

『…了解した。レイテルパラッシュ、帰投する。カニス、生きているか?』

 

『ちょ…待っ……!』

 

目をやる先には、驚異的な動きでサベージビーストを追う敵と、もう攻撃する余裕もなく追い回されてる僚機の姿が見える。カニスもウィン・Dの言葉に答える余裕がなさそうだった。

 

『逃げ回るだけでは死にはしないだろう。私は先に帰る。そっちも程度のいいところで引き上げるんだな』

 

『そりゃ…ねぇ…っすよ!!姉御ぉ!!こいつ…マジで…!!』

 

今にも〝蜂の巣〟にされそうなカニスとの通信を切ったウィン・Dは、こちらの戦意がなくなったことを察したのか、追って来なくなったスピアヘッドもどきを見上げながら呟く。

 

『流星…恐ろしい敵だ。だが、これではっきりした。次にあったときは、その翼を貰うぞ』

 

強者との戦い。ウィン・Dが生きていると実感できる数少ない感覚。それを噛み締めて、彼女は機体を反転させると撤退を始めた地球軍の艦隊へと帰投してゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「地球軍艦隊、引き上げてゆきます」

 

メイリンの言葉を聞いて、タリアは深く息をついた。なんとか凌げたようだ。あの馬鹿に大きなMAを落としてから、地球軍の攻勢は一気に萎えたように思える。

 

それに、艦隊から出てきた正体不明のMS。途中で加勢した流星隊がいなければ、こちらの被害は予測できないものになっていただろう。下手をすればミネルバが堕ちていた可能性もある。

 

だろう、な思考を切り替えたタリアは、戦闘ブリッジから通常へと戻すよう指示を出すと、進路を指定した。

 

「進路をカーペンタリアへ、トランスヴォランサーズの皆様にもご同行願います。聞きたいことも多くありますしね?」

 

タリアの言葉に、マリューたちも異存はなかった。浮上したドミニオンも含め、ミネルバ、アークエンジェルは進路をカーペンタリアへ向ける。

 

そんな彼らの背中を、領海線淵にいるオーブ軍は黙って見つめているのだった。

 

 

 

 




メッセージでキャラクターのクロスレイズ準拠のアビリティを考えて貰えたのでご紹介いたします。



ラリー・レイレナード
(CV:森久保祥太郎)
アビリティ
SEEDの流星(覚醒+60 移動力+1 機動力300以上の機体の場合、クリティカル率、回避率+20パーセント)
戦闘機乗り
傭兵(DESTINYで追加)

リーク・ベルモンド
(CV:花江夏樹)
アビリティ
流星(移動力+1 機動力300以上の機体の場合、クリティカル率、回避率+10%)
戦闘機乗り
ブースデッドマンステージ4(DESTINYで追加 ブースデッドマンもしくは流星のアビリティを持つ味方への支援攻撃時のダメージ+10% 支援防御時の被ダメージ-10%)

アイザック・ボルドマン
(CV:三木眞一郎)
アビリティ
流星
戦闘機乗り
空中適応能力
兄貴分

トール・ケーニヒ
(DESTINY)
アビリティ
流星
戦闘機乗り
空中適応能力
傭兵

フレイ・アルスター
(DESTINY)
アビリティ
機械知識レベル4
傭兵(DESTINY)

ニコル・アマルフィ
(DESTINY)
アビリティ
コーディネイター
英雄

ドレイク・バーフォード
(CV:橋詰 知久)
アビリティ
平静
統率力レベル5
危機管理能力レベル3
傭兵(DESTINY)

ニック・ランドール
(CV:佐藤拓也)
アビリティ
索敵能力レベル3
作戦補佐レベル3
傭兵(DESTINY)

トーリャ・アリスタルフ
(CV:平川大輔)
アビリティ
索敵能力レベル3
サポートクルー

ハリー・グリンフィールド
(CV:早見沙織)
アビリティ
機械知識レベル5
異端児(整備クルー時、小型機及び戦闘機の攻撃・防御・機動力+50)
傭兵(DESTINY)

ムルタ・アズラエル
アビリティ
投資家(ゲスト時所属グループの獲得経験値及び獲得キャピタル+10%)

サイ・アーガイル
アビリティ
傭兵

ムウ・ラ・フラガ
アビリティ
エンデュミオンの鷹
流星
傭兵
空間認識能力

カルロス・バーン
(CV:小林正寛)
アビリティ
リーダーシップ

パトリック・ジェームズ・ホーク : PJ
(CV:小山力也)
アビリティ
コーディネイター
平静

シン・アスカ
アビリティ
コーディネイター
傭兵
流星
SEED

ラウ・ル・クルーゼ/クラウド・バーデンラウス
アビリティ
空間認識能力
平静
白い閃光(宇宙・空中での戦闘時、射撃・格闘・反応・守備+60)
パワードスーツ装備(守備+50 ほかのアビリティによるステータス補正1.1倍)

リリー・バーデンラウス
(CV: 藤村歩)
機械知識レベル5
異端児


ナタタク様、ありがとうございます!!

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