ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第59話 合流

 

 

 

 

オーストラリア。

 

ヨーク岬半島とアーネムランド半島にまたがるカーペンタリア湾に位置するザフトの軍事基地。

 

その基地の歴史は前大戦の記憶を紐解くことになる。

 

時は、C.E.70年4月2日。

 

前日のエイプリル・フール・クライシスの混乱に乗じてザフトは、親プラント国家である大洋州連合オーストラリア地区のカーペンタリア湾に軌道上から基地施設を分割降下。

 

たったの48時間という驚異的な時間と速度で、ザフト軍はカーペンタリア基地の基礎を建設した。

 

カーペンタリア制圧戦において、地球連合軍太平洋艦隊が迎撃したが大敗。

 

基地は施設開始からわずか1ヶ月という単納期で完成し、以降はザフトの地球侵攻における地上最大の基地として重要拠点になった。

 

ボズゴロフ級潜水艦をはじめグーン、ディンなどの戦力が配備されている。

 

C.E.71年5月のアラスカ基地攻略戦、パナマ攻略戦、6月の地球連合軍によるオーブ解放作戦と、ザフト軍が撤退と情勢が不利になっても、この基地はザフト最大の基地として機能し、C.E.71年8月に勃発した地球連合軍の物量に対し、ザフトと大洋州連合軍は苦戦を強いられたが、基地が陥落する前に終戦を迎えることとなった。

 

前大戦が終結してからは、ユニウス条約の発効でジブラルタル基地と共々、ザフトの条約監視団常駐基地や在地球公館として使用される事になり———ザフトの積極的自衛権の行使によって、再び地上基地の大黒柱として、その機能を発揮し始めていた。

 

 

 

////

 

 

 

「それで?カガリちゃんを連れ出してオーブから逃げてきたってわけか」

 

オーブから脱したミネルバ、そして事情も相まって合流することとなったアークエンジェルとドミニオンは、カーペンタリア基地へ同行する形で入港した。

 

前大戦で煮湯を飲まされ続けていた地球軍の新造艦であったアークエンジェルとドミニオンが、ザフトの新造艦であるミネルバと肩を並べてドッグへ入っている姿は壮観であり、前の大戦のことを知る兵士や、大戦後に入隊した多くの将兵たちも、野次馬のようにドックへ殺到。

 

オーブの制服やトランスヴォランサーズの制服を着る乗組員たちを物珍しげな眼差しで見つめていた。

 

そんな喧騒を知ってか知らずか、あてがわれた基地の一角にあるリラクゼーションルームにいるラリーは、予想外の人物との再会を喜んでいた。

 

「状況が状況でな…後手に回るしかなかったんだ」

 

近くにあるウォーターサーバーで水を汲みながら答えるラリーに、カーペンタリアで合流することになったリークは、それもそうかと肩を落として頷いた。

 

「国際テレビでは連日オーブの話題で持ちきりさ。国家認可の傭兵企業が首相と元代表を暗殺ってね。僕らはすっかり地球圏からのお尋ね者になってますね」

 

「オーブの氏族もそれが狙いだろうな。なにせ、色々と厄介だからな。俺たちの存在って」

 

リークの隣に座っているトールも、地球へ帰還する最中に見た映像を思い返す。ラリーが答えるように、事はオーブの氏族たちの思惑通りに進んでいた。前大戦の英雄でもあるウズミを亡き者にした傭兵企業を許すな。そう言った風潮をメディアで報じる事で得られるリソースは高い。

 

ラリーやリークたちの内情を知るザフトや地球軍の関係者は、それがでっち上げか陰謀か何かと気がつくが、情報に無頓着な市民や、ラリーたち流星を良しとしない勢力からすれば好都合とも言える情報だ。

 

言ったもの勝ちという側面もあるメディア戦略は、オーブの氏族からしても上々の効果を発揮しているに違いない。国内の情勢も割れはじめている以上、今更オーブに戻ったとしても、ラリーたちを待つのは国家反逆罪適用による処刑台か牢獄しかあるまい。

 

「しかし、リークとトールがまさかカーペンタリアで先に待ってるとはな。ハンガーから降りて出迎えられた時はびっくりしたぞ」

 

そう呟きながらラリーは引きつった笑みを浮かべる。なんとリークたちはラリーたちが入港する二日も前にプラント圏から地球へと降りてきていたのだ。目下の任務な、デュランダル議長から追加オーダーで頼まれた物資の搬送であったが、地球圏との連絡も取れない上に、オーブの国政がガタガタになっているという状態であったため、ひとまず連絡は地球へ降りてから、ザフト経由でトランスヴォランサーズへ入れるつもりであった。

 

だが、通信先は音信不通。

 

それも当然だった。リークらが連絡した先は、すでにオーブ軍による空爆で跡形もなく吹き飛ばされていたのだ。応答がないことに疑念を抱いたリークが、VTOL機を借りれないかザフト軍と交渉をしている最中、アークエンジェルとドミニオンが、ミネルバに連れられて入港してきたのだ。

 

「ある意味、デュランダル議長からの意思表示なのかもしれないね。帰還する僕らに、追加依頼でカーペンタリアに新型を運び込んで欲しいって言ってるくらいなんだからさ」

 

そう言ってリークが顎で差す先には、地球へと降下したオーブのイズモ級であるヒメラギ。本来は戦艦である艦だが、議長護衛とプラントへ送り届けることを前提にしていた為、オーブ所有のコロニー、ヘリオポリスと行き来する時と同じ輸送船として運用されていた。

 

軌道上で衛星に格納されている戦艦用のパーツとのドッキングも考えたが、ユニウスセブン落下による影響で衛星にも被害が出ていた上に、オーブの内情を考慮すれば、下手にドッキングなどせずに速やかに降りた方が得策だと判断したのだ。

 

輸送コンテナ部からザフト軍によって運び出されているのは、灰色の装甲色であるザフトの新型G兵器「セイバー」と、インパルスのオプションパーツもろもろだった。カーペンタリアに運び終えた段階で仕事は終えているわけであるが、ラリーたちの話を聞く限り、事態はより悪い方へ進んでいる。

 

「地球圏も、ユニウスセブンの残骸で衛星軌道上はズタズタなものでね。ザフトもジブラルタルとカーペンタリアに軍を下ろすのがやっとだったみたいだし、地球軍の月軌道艦隊も手詰まり状態さ」

 

「だから、彼らもこうやって合流できたわけか」

 

そう言ってラリーが目を向ける先には、地球軍の制服からザフト軍から支給された作業着へと着替えている3人の「地球軍兵士」だった。

 

スウェン・カル・バヤン。

 

シャムス・コーザ。

 

ミューディー・ホルクロフト。

 

3人は、ヒメラギ一行が地球圏へと降りる前に接触し、衛星軌道まで同行していたザフト軍のパイロット、イザークたちの立ち合いのもと、ヒメラギへと乗艦していたのだ。

 

「スウェン。…カルロスのことは残念だった。だが、君が隊長として共に来てくれたことは心強い。感謝してる」

 

ラリーが机へ視線を落とすと、そこにはブラックスワン隊の隊長であったカルロス・バーンの認識ドックタグが置かれていた。彼はユニウスセブン落下時に、突然襲いかかってきた〝メビウス〟の凶行からメテオブレイカーを身を挺して守り、戦死したのだ。

 

その後、第八艦隊が抱えるブラックスワン隊は副隊長的な立ち位置でもあったスウェンに任されることになり、彼らも自分なりにあの事件で仕掛けてきた謎の勢力について調べを進めていた。

 

その最中に、第八艦隊は同軍である地球軍からの襲撃を受けたのだ。

 

「こちらからも感謝する。我々第八艦隊の生き残りも、今は首脳陣がすげ替えられたユーラシアに追われる身だ。ケストレルII率いる艦隊は、ザフトとの共同戦線のおりに補給を受けていたので難を逃れられたが、ハルバートン閣下旗下の艦隊の消息は、未だに不明のままだ」

 

スウェンの語る事は事実だった。ユニウスセブン破砕作戦の後、ザフト軍に回収されたケストレルIIは、最寄りのボアズへと入港していたが、そこで大西洋がプラントへ宣戦を布告。それと同じくして、ハルバートンが指揮する月面基地の第八艦隊も襲撃を受けたのだ。

 

連合軍内で孤立することとなったケストレルIIは、ひとまずプラント預かりとなると同時に、原因究明のためスウェンたちが極秘裏に地球へと降り立つこととなったのだった。

 

ケストレルIIの艦長であるトーリャも同行しており、今はザフト軍の責任者やアークエンジェル、トランスヴォランサーズの関係各位と話し合いをしている。

 

「俺たちも、バーン隊長が居なくなって態勢を整えるのに必死だったからな…。まったく、やってくれるぜ、大西洋の奴らめ」

 

「けど、効果的な作戦展開でもあったわねぇ。あの動きはかなり前から謀られてた事よ。ハルバートン閣下の施策は、反コーディネーター、反プラント派にとっては受け入れがたいものだっただろうし」

 

スウェンの右腕と左腕的なポジションに位置するシャムスとミューディーの言葉に、返す言葉も見つからなかった。彼らにとっても、今回の強引な開戦は寝耳に水でもあったし、なによりユーラシアのトップでもあるハルバートンを襲った者たちに、オーブのウズミ暗殺と、地球圏を取り巻く環境がなによりもキナ臭すぎる。

 

デュランダル議長をはじめとしたプラント政府としても、今回の暴挙と大西洋連邦の暴走ともいえる事態の真相を知りたいはずだ。

 

「…どちらにしろ、ここにいる俺たち勢力は帰る場所を奪われた者たちだ。大手を振って帰るには、奪った者たちから取り返さなければならない。ここで逃げる事は、あの大戦で未来を信じて散っていった者たちへの冒涜となる」

 

ラリーの言葉に、それぞれの顔つきが険しくなる。

 

ボルドマンに、カルロス、PJ、コープマン…。あの大戦で失ったものは多く、そして取り戻すことができないものだ。でも、散っていった彼らは頑なに信じたはずだ。戦争を終わらせ、平和な未来が築いていけるはずだと、信じて命を散らしたはずだ。

 

故に、ここにいる全員が同じ思いを共有していた。

 

「だな、奴らはやりすぎた。今度はこっちがやり返す番だ」

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「はぁ…。傭兵企業に最新鋭の機体を与えてこの艦に寄こし…私がフェイスに?一体何を考えてるのかしらねえ。議長は」

 

「独立的な動きを期待して、ということと受け止めるしかありませんわね」

 

カーペンタリア基地の総司令への状況説明、デュランダル議長への説明、説明説明説明と、報告書と声帯を酷使したタリアはうんざりした様子で、食堂で共に激務をこなしたマリューへ愚痴紛いな声を漏らした。

 

広大な敷地を誇るカーペンタリア基地を練り歩いたタリアやマリューたちは、自分たちの置かれている状況と、これから先に待つ事柄を整理するために、邪魔者が入らないミネルバの艦長室で個人的な作戦会議を催していた。

 

「この命令内容を見る限り、そう思わざるをえないと言ったところね。なかなか面白い内容よ」

 

そう言ってタリアは、帽子を脱いでくつろぎモードとなっていた副官であるアーサーへ、議長から渡されたデータシートを渡す。

 

「ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへ向かえ。現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよって、スエズの駐留軍支援ですか!?我々が!?」

 

「反戦ムードから一気に開戦へと舵を切ったユーラシアでも、西側の紛争もあって今一番ゴタゴタしてる所よ。確かに、スエズの地球軍拠点はジブラルタルにとっては問題だけど。何も私達がここから行かされるようなものでもないと思うわね」

 

ユーラシア西側の紛争。

 

大西洋連邦に同調…というより、言いなりにされている感のあるユーラシア。その一部の地域が分離独立を叫んで揉めだしたのだ。

 

デュエイン・ハルバートンの力で、プラント寄りに政策を進めていたのに、プラントとの開戦を切った大西洋と連携したツケとも言えるその紛争が起こったのは、つい最近の事だ。

 

「…確かに、ユーラシアでは親プラント派と反プラント派でずっと火種はあったわけだが…いやはや、どうにも」

 

アーサーが目を通すデータと同じ内容が記された端末を見ているのは、スウェンたちと共に地上へと降りてきたケストレルII艦長、トーリャ・アリスタルフだ。全員が制服姿の中、オフィスカジュアルな様相をした彼は、困ったように唸って顎を指でさする。

 

「開戦で一気に火がついたのね。徴兵されたり制限されたり。そんなことはもうごめんだと言うのが、抵抗してる地域の住民の言い分よ。それを地球軍側は力で制圧しようとし、かなり酷いことになってるみたいね」

 

「つまり、そこへ行けということだろう?」

 

タリアの言葉に、奥でコーヒーを口にしていたバーフォードが言葉を落とした。その通り過ぎてタリアもため息しかでない。デュランダル議長からの要望を見る限り、無視して通る事はできそうにない。

 

「……我々の戦いは、あくまでも積極的自衛権の行使である。プラントに領土的野心はない。そう言ってる以上、下手に介入は出来ないでしょうけど。行かなくてはならないのはそういう場所よ」

 

それでもしなければならないのが軍人の辛いところだな、とバーフォードが付け加えるとタリアは頭痛を抑えるように額に手を置き、アーサーはガックリと項垂れる。

 

しかし、こちらとしては好都合だった。デュランダル議長がそれも見越しての采配だというなら、彼の思考力は底無しだろう。そんなことを考えながら、バーフォードは与えられたミネルバの航路図を見つめながら思考にふける。

 

そのルートは、インド洋、中東、アフリカを抜けて、まっすぐとアメリカ大陸へと伸びているのだった。

 

 

 

 

 

 

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