ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第62話 夜明け前の海で

 

 

 

「では、ラミアス艦長。アズラエル理事の救出は任せるぞ」

 

「はい、バーフォード艦長もお気をつけて」

 

夜闇の静けさに包まれるカーペンタリアのマスドライバー基地で、最後の挨拶を交わすドミニオンとアークエンジェルのクルーたち。宇宙に上がる部隊の中核はドレイク・バーフォード艦長だ。

 

クルーの多くも先の大戦でドミニオンに乗艦していたメンバーであり、艦載機であるMS部隊の隊長はクルーゼとなっていた。

 

「ラリー、しばらくの別れだ。なに、すぐに片付けて戻ってくる。それまで死ぬなよ?」

 

なし崩しの形であるが、クルーゼ自身もオーブに身を寄せる身だ。戦闘員が枯渇している中、知らぬ存ぜぬを通すわけにもいかない。ひとまずはドミニオンに詰めた予備のメビウス・ストライカーを駆り、ラグランジュポイントに向かう前に一度、ヘリオポリスへと寄港する予定である。

 

見送りに来たラリーにそんな言葉を向ける。その言葉にラリーはハッと鼻で笑って返した。

 

「それはこっちのセリフだ、クソクラウド。歳考えて行動しろよ?」

 

「はっはっは。早々に死ぬつもりはないさ。私が死ぬときは家族に見看られている時と決めている」

 

笑っていうクルーゼの言葉に、ラリーは感慨深い感覚を覚えた。あの大戦の末期、変えられなかったと思っていた後悔があった。そんな後悔を知らないのか、次にクルーゼと会った時は随分と変わっていた。大切な人を見つけて、子をなして、一人で世界を道連れにしようとしていた面影など感じさせないほどに。

 

ラリーは小さく笑うと改めてクルーゼと握手を交わした。

 

「気をつけてな」

 

「すまない、そちらの〝私〟を頼む。君には迷惑をかけてばかりだがな」

 

「まったくだ。今度何か奢れよ」

 

「では、新型機の模擬戦でも…」

 

「いるか!!」

 

魅力的な提案なのだがな、と笑うクルーゼの手を払うように離す。彼との戦いは文字通り命がけだ。まだ諦めてないのかこの野郎とジト目を向けるラリーに、クルーゼは快活に笑いながら荷物を取ってドミニオンへと乗艦していった。

 

「スウェンたちも気をつけてな」

 

「トール、そっちもな」

 

ドミニオン所属となるスウェンやシャムスたちと、リークやトールも別れの言葉を交わす。だが、今生の別れではない。次に会う時はお互いに要人を救出し、この馬鹿馬鹿しい戦いを終わらせる時だ。

 

「土産を持って帰ってくるよ」

 

そう言って乗艦したバーフォード艦長のあと、ドミニオンはマスドライバーへとセッティングされ、打ち上げ準備が進められた。

 

《リビジョンC以外の全要員退去を確認。オールシステムズ、ゴー。ドミニオン、発射シーケンス。ファイナルローズ!》

 

圧力が上がる音が響く。見送りに訪れたラリーたちが見つめる中、ドミニオンは射出レールを進み始め、そのまま宇宙へと続く橋をかけ始めた。

 

《マスドライバー、ドミニオン射出開始!!》

 

轟音を轟かせて宇宙へと向かってゆくドミニオン。ハルバート閣下のことは彼らに任せるとしよう。マリューは宇宙を見送ったあと、艦長らしい顔つきでその場にいる全員へと言葉を投げた。

 

「では、我々も出発準備を始めましょう。おそらく、敵も感づいてることですしね」

 

 

////

 

 

夜明けが迫る太平洋の海の上。地球軍の艦隊の中、MSを格納している船の上で、見回りをしていた大西洋連邦の兵士が、デッキの上で海を見つめている若い女性の兵士を見つけた。

 

「なんだ?このお嬢ちゃんは」

 

「あ…おい、よせって…」

 

「こんなとこで何してんの?ねえ」

 

連れの引きつった顔を無視して、船の乗組員である兵士はじっと海を見つめるブロンドの女性兵士に語りかける。まだ少女のあどけなさすら残すその少女は、ぼんやりと海を見つめたまま声を漏らした。

 

「海…」

 

ステラ・ルーシェ。ザフトから奪った新鋭MSの一機であるガイアのパイロットである彼女は、無垢な瞳のまま、夜明けが迫る海を見つめながら言葉を紡ぐ。

 

「海を見てるの。好き…だから」

 

「はぁ?変な奴だなぁ。まあいいや、ちょっと一緒に来いよ」

 

卑しい目をした兵士が、手すりにかけているステラの手を取った。その瞬間、無垢だったステラの目つきが鋭くなる。立ち上った殺気に気がつかないまま、ステラを手篭めにしようとした兵士の横に、人影が忍び寄った。

 

「やめときなよ。俺ら第81独立機分軍でさ。手を出すのはオススメしねぇぜ?それに、ボーっとしてっけどさぁ、そいつも切れっとマッジ怖いよ~?」

 

ステラの手を掴んでいた兵士の手を、現れたアウルが逆に捻り上げた。痛みで唸る兵士を見下ろしながら、アウルはさらに力を強めてゆく。嫌な予感を感じ取っていた兵士は、さらに顔を青ざめさせていて、現れた彼らの部隊名を口にする。

 

「ファ、ファントムペイン…」

 

「その名前、気に入らないから言うんじゃない」

 

苛立ちげに手を振り離したアウル。痛む腕を押さえながら、ステラとともに去ってゆく二人を見送り、地球軍の兵士は言葉を吐いた。

 

「まさか、あんなガキ達を…いよいよ、上層部も狂ってるのかね」

 

「俺たちも、だろ?」

 

たしかに、な。その言葉を返せなかった兵士は、ただ去ってゆく二人の後ろ姿を見送ることしかできない。

 

「ステラ、お前まだここ居んの?お呼びが掛かったったぜ?ネオから」

 

「ってことはまた戦争だね。ま、俺らそれが仕事だし」

 

「さぁて、今度は何機落とせっかなぁ」

 

年相応とは言えない、狂気に満ちた言葉を紡ぐ子供たちを見つめながら、改めて自分たちの狂気を思い知るのだった。

 

 

 

////

 

 

「つまり、例の船はカーペンタリアにいると?」

 

「そうなる。それに、オーブから出たアークエンジェル…いや、足つきと呼ぶべきかな?流星も、本格的に動き出したわけだ」

 

宇宙から地球へと降りてきたネオ・ロアノークは、ガーティ・ルーの艦長であるイアンとそう言葉を交わした。ジブリールの私兵でもある自分たちがなぜ、ミネルバを追う羽目になったのかとイアンは疑問に持っていたが、ミネルバと共に現れたアークエンジェル級の存在を知り、自分たちの役割が〝流星〟にあるということを改めて実感する。

 

「しかし…本当なのですか?流星たちがオーブでテロを起こしたなんて」

 

「事実も虚像も、一般市民の大多数が信じてしまえばそれが正義になるものだよ。それが虚像であっても、勝てば官軍、負ければ切り捨てやれるのは政府ってわけさ。便利なものだよねぇ、情報統制ってもんは」

 

「すべては、上層部の手のひらの上ということですかね」

 

「その上で踊らん奴らを倒すが俺たちの仕事ってわけだな、艦長。アズラエルの遺体が確認されていないこともある。奴らがザフト軍に隠れ続けてることはあるまいよ」

 

必然的に、流星たちはアズラエルやハルバートンを求めて動き出すことになる。与えられた役割は流星の討伐だ。ジブリールがそこまで躍起になるということは、少しでも長く彼らが戦争終結に動く前に足止めをしろと言うのが目的なのだろう。

 

「出てきたところを狙いますか?」

 

「当然。だから、ヘブンズベースから遥々やってきたんでしょう?」

 

イアンの言葉に、ブリッジへと上がってきた少女が高揚したような声色で言った。黒髪と赤い瞳をする少女は、子供らしい笑みを浮かべたままネオの隣へとやってくる。

 

「サレナ・ヴァーン…」

 

「会わせてくれるんでしょう?私の〝ダーリン〟に」

 

その目から感じ取れる狂気。彼女もまた、ステラたちと同じような存在であった。人為的に歪められた性質を持つ人間もどき。その精神が求めるものを与えるために、ネオは彼女をヘブンズベースから連れてきたのだ。

 

「ああ、約束通りだ。だから、それまで楽しみをとっておくといい」

 

楽しみだわ、そう言って彼女は長い髪を翻しながら踵を返す。

 

「ふふふ…待っていて。もうすぐ会えるからね…ダーリン」

 

ブリッジを出るまで、小さく声を発しながら去ってゆく少女の後ろ姿を見つめて、イアンは疲れたようにため息をつく。

 

「よかったのですか?まだ精神が安定していない状態で連れてきて。…使えるのですかね?」

 

「仕方ないさ。クライアントからの依頼だ。それを調べるのも俺たちの仕事っていうわけだな。警戒は厳にしておけよ、艦長。内側にも外側にも、な?」

 

そういうネオの言葉に「わかっている」と返すイアン。この夜明けが来れば忙しくなるぞ。ネオはその確信があった。

 

さて、壮大な地球での追いかけっこを始めようじゃないか。ネオが見つめる先には、地平線から星を照らす太陽が今まさに姿を見せようとしていた。

 

 

 

 

 

 

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