ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第64話 インド洋の大空中戦線 2

「CIWS、トリスタン、イゾルデ起動。ランチャー1、2、全門パルジファル装填!モビルスーツ戦用意!!」

 

「対モビルスーツ戦闘用意!イーゲルシュテルン起動!ミサイル信管、1番から18番へコリントス装填!アンチビーム爆雷展開、ゴットフリート、1番、2番起動!バリアント照準、目標敵モビルスーツ!!」

 

ミネルバの護衛艦として随伴するボズゴロフ級の大型潜水母艦であるニーラゴンゴには、海中からの敵哨戒を担ってもらい、ミネルバとアークエンジェルが武装を即座に展開する。

 

すでに出撃したメビウスライダー隊とミネルバ所属のモビルスーツは、向かってくる30機近い地球軍のウィンダム部隊と、鹵獲されたカオスを含むファントムペインの部隊と交戦を開始し始めていた。

 

『あん?なんだあの機体は』

 

『また新型か。カーペンタリアで?ザフトもオーブも、こりゃあ凄いねぇ』

 

『はっ!新型だって!』

 

ウィンダム隊を引っ張っていた戦闘機部隊と混ざるカオスが、人型へと可変する。ハイネのセイバーを先頭にレイのインパルス、そしてラリーとリークを頭としたライトニング隊とガルーダ隊も即座に応じた。

 

「敵機確認!!カオスか!!ハイネ!!」

 

「俺に命令するなっての!!」

 

モビルスーツが相手なら!そう言って前に出るアスランとそれに文句を言いながら続くハイネが、ビームライフルを放つカオスと交差する。飛行形態で即離脱してゆく二機めがけて、スティングは背面に背負う機動兵装ポッドを射出し、一気に巴戦へと持ち込んだ。

 

『ええい!数ばかりゴチャゴチャと!ここらで落ちていけよ新型ぁ!!』

 

ポッドから放たれるミサイルとビームを避けて、二機はカオスと同じく人型へと可変する。一機あたりに二機というフォーメーションは、ザフト軍の基本戦術。目まぐるしく攻防が入れ替わる中、後続のウィンダム部隊も交戦を開始した。

 

「ザフトの新型!!一機と言うことは!!」

 

 

『ダーリン!!』

 

 

戦線の真っ只中。ラリーの脳内に声が響いた。その違和感は今まで感じたことがない感覚。操縦桿を握って、大西洋の軍を迎え撃っていた誰もが、その感覚を感じとる。

 

特に強く感じたのは、ラリーの元で修行を重ねてきたシンと、ストライクワイバーンを駆るトールだった。

 

「なんだ…!?この…ザラザラした感覚は…!!」

 

尋常ならざるプレッシャーというべきだろうか。コクピットという外界から閉鎖された場にいるというのに。肌で感じる違和感に戸惑う最中、そのプレッシャーの元凶は嬉々とした声色で、シンたちの前に現れた。

 

『ここにいたのね!!ダーリン!!その顔、間違いないわ!!貴方よね!!ダーリン!!』

 

「レイ!!敵機が急速接近してるぞ!!」

 

フラガの血が近くにいるときに感じる感覚とは別の何か。レイは冷や汗を背に感じながらウィンダムの合間を縫うように上がってくる一機のモビルスーツを見た。

 

背面の排熱装置とスラスターによる機動力に優れた機体構成。遠目で見る限り、武装はスナイパーライフルと肩部の〝スラッグキャノンのみ〟という極めてシンプル構成。だが、その機影とはかけ離れたオーラを、向かってくる相手はさらけ出していた。

 

体が反射的に逃げる方へと動く。

 

だが、それよりも〝サレナ・ヴァーン〟の機体の方が早かった。

 

「インパルスに張り付いてる!!なんだよ、あの機体は!!」

 

『サレナ・ヴァーン!!ええい!迂闊に前に出るとは!!まぁいい、彼らの相手はスティングたちに任せる。俺は古い馴れ合いと戦うとしよう!!』

 

レイのインパルスへと食らいついたサレナの「ヴァルキュリア」の好き勝手な動きに舌打ちをしながらも、ネオもまた自分の感覚の赴くままに操縦桿を絞った。

 

随伴するパイロットは全員〝調整済み〟だ。ネオの打った旋回に鋭く反応する部下たちだ。

 

「スカイグラスパー…!?いや、コスモグラスパー!!奴か!!ネオ・ロアノーク!!」

 

「またラリーの友達かな!?まったく、モテる男は辛いね!!」

 

「戦闘機相手なら任せてくださいよ、隊長!」

 

ウィンダムの平凡な動きとは異なる動きを見たラリーとリーク、トールも、操縦桿に力を込める。相手は相応の手練れだ。ウィンダム部隊の相手をシンたちに任せ、戦闘機らしく交戦に応じる。飛行機雲を作って入り組んだ戦闘機動にもつれ込みながら、ネオはマスクの下で小さく笑った。

 

『宇宙では落とせなかった手前、ここで引導を渡してくれる!!』

 

 

 

////

 

 

 

「ランチャー1、ランチャー2、てぇ!」

 

《そんなことは解っている。だがこちらのセンサーでも潜水艦は疎か、海上艦の一隻すら発見できてはいないのだ》

 

ウィンダム部隊の対応に追われながら、ミネルバの艦長であるタリアは現れた敵の出撃地点の探索を進めていた。

 

海中から索敵をするニーラゴンゴの艦長からの声に顔をしかめながら、タリアは思考を巡らせる。あれだけの数だ。敵艦空母も膨大。その艦影すら捉えられないということなると。

 

「では彼等はどこから来たと言うのです?付近に基地があるとでも?」

 

《こんなカーペンタリアの鼻っ先にか?そんな情報はないぞ》

 

《もしくは、大西洋連邦が新設した前線基地の準備部隊なのかもしれません》

 

ニーラゴンゴの艦長との通信の中、同じく加わっていたアークエンジェルのマリューも意見を出した。空母の影もない。新基地の情報もないとなれば、考えられる要素は絞られてくる。

 

ザフトの一大降下拠点であるカーペンタリアを落とすための橋頭堡を構築するために派兵された部隊か、もしくはすでにその陣地が出来ているかの二つだ。

 

《あの大部隊だぞ?そんなもの前線基地を作るために持ってきた全部隊を動員せんと話にならんぞ?それを決行したというなら、相手の指揮官は大した愚か者だがな》

 

「艦長!ソナーに感!早い!これはモビルスーツ…アビスです!」

 

ニーラゴンゴの艦長から放たれる呆れもある言葉に応じるよう、大西洋連邦はさらなる一手を打ったようだ。航空戦に駆り出されている隙を狙ってやってきたのは、海中を制するために開発されたはずのアビスだった。

 

 

 

////

 

 

 

「レイ!その機体から離れろ!!何かやばい!!」

 

まさに直感だった。間髪入れずに入れたシンの言葉に耳を傾けながらも、インパルスを操るレイは自分の手足に神経を研ぎ澄ますことで手一杯であった。

 

「離れろと言っても…くぅ!!」

 

すぐ横を大口径の弾頭、それも収束した散弾が連射して通り過ぎる。遠目で見る限り、武装はスナイパーライフルと肩部の〝スラッグキャノンのみ〟という極めてシンプル構成と判断した過去の自分を呪いたい気分だった。

 

なんだあのスラッグキャノンは。大口径の散弾をまるでマシンガンのように連続して穿ってくるではないか。あんな連射速度では銃身が焼けて使い物にならなくなるはずなのに、なぜか相手はそんなもの気にする様子もなく遠慮なしにバカスカと弾丸を放ってくる。

 

『あはは!!避けて避けて!!当たったら死んじゃうんだから!!』

 

サレナの感極まった声はレイには届いていないが、それから発せられる危険性とプレッシャーは感じ取ることができてしまっていた。馬鹿みたいに降り注ぐ散弾を潜り抜ける。あんなものに捕まったいくら装甲があろうが根こそぎ食い尽くされる。

 

「なんだよアイツ、無茶苦茶だ!!」

 

『よそ見してんじゃねぇよ!!』

 

サレナのヴァルキュリアに構い続けていると、今度はポッドを携えたカオスがやってくる。追い詰めたインパルスを二機がかりで落とそうと向かってくるカオスの前に、シンのエクスカリバーが立ち塞がった。

 

「カオスか!!ちぃ!!さすがは新型か、レスポンスはいい…けど、まだ振り回されてるぞ!!」

 

機動ポッドから放たれる小型ミサイルを、頭部に備わるイーゲルシュテルンで叩き落としたシンは、巻き上がった爆煙に紛れた。

 

煙の中、カオス目掛けて真っ直ぐという最短ルートを突っ切ったシンは、突如として迫った機体に動揺したカオスを踏み台にし、すれ違いざまにカオスの背面に備わる飛行ユニットをビームライフルで撃ち抜いた。

 

『ぐはっ!!』

 

緑色の閃光と共に背面装甲が真っ赤に溶解したカオスの中で、衝撃に襲われたスティングは相手と自分の技量の差を痛感させられた。アーモリーワンといい、ユニウスセブンといい、オーブという国には煮湯を飲まされ続けている。

 

アラームが鳴り響き続ける中、脚部スラスターと呼び戻した機動ポッドで姿勢を制御していると、真横から突如として衝撃がきた。

 

サレナの乗るヴァルキュリアと、後退するインパルスの直上に入ってしまっていたのだ。

 

『ヘタクソ!!アンタ邪魔!!』

 

『なんだとぉ!?俺の方が訓練もMSにも載ってるんだぞ!!』

 

『それを相手が言って、落ちて貰えれば?偉いんでしょ!?偉いんならさぁ!ダーリンになってみせなさいよ!!」

 

ふらつくカオスに横蹴りを入れて射線から無理やり退かせると、サレナはスラッグキャノンとスナイパーライフルから閃光を放つ。

 

必死に逃げるインパルスを追い立てていた彼女は、言い返すスティングに弱いくせに前に出てくるな!と、苛立ちを隠せずにいた。

 

「仲間割れだと!?そんな余裕など…!!」

 

その隙をレイは見逃さなかった。フォースシルエットを装備するインパルスを鋭く反転させ、ライフルを構えて動きが止まったヴァルキュリアへと突っ込む。

 

あの連射可能なスラッグキャノンはどうにかしなければならない。

 

その思いの元、レイはヴァルキュリアの背面への回り込むが、相手は機体頭部をぐるりと回転させて、回り込んだインパルスの視線を捉えた。

 

 

『あは!!ダーリンがきたぁ!!』

 

 

ゾッと背筋に冷たい何かが流れる。レイは即座にビームライフルを放つが、サレナ操るヴァルキュリアはその一閃を紙一重で躱した上、スナイパーライフルを撃ち、インパルスのビームライフルを吹き飛ばしたのだ。

 

「あんなデタラメな機動でよく…!?」

 

衝撃にこわばったのが悪手だった。硬直したレイの機体。そのコクピットモニターを爛々とした真っ赤なカメラアイが覆った。

 

スナイパーライフルを撃った直後に前進したサレナは、インパルスの眼前へと迫り、その上半身にスラッグキャノンの連射を放ったのだ。

 

「レ…ッ!!」

 

爆発に包まれたインパルスを目の当たりにして、声にならないシンの声がヘルメットの中で響く。

 

幸い、チェストフライヤーを即座に分離したレイの機転のおかげで散弾によって削られたのは上半身とフォースシルエットのみに留まった。

 

コアスプレンダーを晒したインパルスの下半身が落下してゆくのを見下ろして、サレナは嘲笑うように言葉を吐いた。

 

『ダーリンはこんなに弱くない!!あなた偽物ね!!だったら消えちゃえ!!』

 

「させるかよ!!レイは…やらせない!!」

 

抵抗のしようがないレイに向けられた銃口を見て、シンの中で何かが弾けた。スロットルを全開にし、真っ直ぐにサレナのヴァルキュリアへと突貫する。コクピットの中で衝撃に揺られながら、サレナは歪みきった笑みを浮かべていた。

 

『良いわ!!あなたすごく良い!モビルスーツをただ飛ばしても、結局は拙い小鳥さんね!羽が小さいんだから羽を毟ったら飛べないのよ、人はぁ!!』

 

「いい加減にしろよ、アンタは!!」

 

『嬉しいわ!あなたもダーリンなのね!!ガンダムの顔!!』

 

「ガンダム…!?」

 

『その顔なんだから、ダーリンだって言いなさいよ!!』

 

突撃してきたシンのエクスカリバーを払い除けるサレナは、スラッグキャノンを打ち放つ。驚異的な連射速度を誇る散弾を前に、シンは機体を鋭く、細かく挙動させ、隙を見つけた瞬間に飛行形態へと変形し、一気に距離を取った。

 

「くぅっ!!なにをぉ!!」

 

『あはは!!良い!!いいわよ!あなた!!まさか手加減してるんじゃないでしょうね!?私はあなたの強い所が好きなのよ!?もっと頑張りなさいよ!!』

 

スラッグキャノンの一閃がシンの機体の脇をかすめる。これほどの機動戦で動いているというのに、徐々に当ててきてるのか…!?驚愕と冷や汗がシンの額に流れる。サレナはベッタリとした笑みを顔に貼り付けた。

 

『頑張らなかったら、私がダーリンを殺しちゃうんだから!!!』

 

旋回してイーゲルシュテルンを放つエクスカリバー。その攻撃を恍惚とした目で見るサレナは、狙えると判断した瞬間にスナイパーライフルでシンの狙撃を試みる。高密度に圧縮されたビームの一撃を躱し続けながら、シンは距離をとって攻略法を模索する。

 

だが、その隙が一切見えてこない。明らかに異常な相手だった。

 

「なんなんだよ、この機体は!!」

 

『ダーリン!!あぁ、こんなに近くに感じられるなんて!!とても嬉しいわ!!』

 

背面のスラスターに火を灯してシンの元へと近づこうとするサレナ。その行手を外側から放たれたビームの一閃が遮る。

 

「シン!!乗せられてるよ!!冷静になるんだ!」

 

レイの救難信号を受けたキラが、ウィンダムの迎撃をアスランとハイネに頼み援護に来たのだ。

 

「キラさん!!」

 

『何よ、コイツ…!!ざらざらと…気持ち悪い!!ダーリンじゃないくせに!!入ってくるな!!私のダーリンの間に!!』

 

瞬間、キラのエクスカリバーから放たれたビームをサレナはスナイパーライフルを使って穿ち、相殺させる。その技量を見て、キラは目を見開いた。

 

「ビームを…!?」

 

『あははは!ダーリンじゃない男なんてさぁ!ぜんぶぜんぶ、消えちゃいなよ!!』

 

 

 

 

 

 


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