ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第65話 インド洋の大空中戦線 3

 

 

 

《迎撃!グーンの準備を!アクアマリン隊の発進、急がせろ!!》

 

アビスの出現はザフト軍の陣形を大きく変える起点となった。ニーラゴンゴの艦長から発せられる即応命令と同時に、手近なウィンダムを追い返したムウのエイドストライクが、背面に背負うバックパックの変換を進めていた。

 

「アクアパックを出してくれ!ビームライフルでは駄目だ!バズーカを!アークエンジェル!アビスの対応は俺とグーン隊で引き受ける!!」

 

外で指揮をしているフレイとマードックに通信で伝えたムウは、ヘルメットのバイザーを上げて飲料水のストローを咥えた。対空戦は大まかな対応をミネルバのハイネやアスランが引き受けてくれている。

 

とにかく、すぐに海中用のバックパックに換装し、海から迫るザフトの新型機に対応する必要があった。遠くで光る空戦の光景を見つめながら、ムウは焦ったそうに操縦桿を指で叩くしかなかった。

 

 

////

 

 

ネオ・ロアノーク率いる戦闘機部隊。隊長であるネオのコスモグラスパーと、スカイグラスパーの改造機で編成された部隊は、一癖も二癖もある手練れ揃いだ。

 

「こいつら、なんて動きを!ラリー!!」

 

リークの駆る機体よりも機敏に動いているように見える敵機。ミサイルアラートがコクピットに響き渡り、ありったけのフレアを後ろへとばら撒くと、追ってきていたミサイル群がすぐ脇を通過してゆく。

 

鋭く息を吐いてラリーは機体を翻すが、その翼端を放たれたバルカンが掠める。

 

『大気圏内での戦いは、どうやらこちらに分があるようだな、ラリー・レイレナード!!』

 

「こなくそ!!」

 

操縦桿を引き絞って太平洋の雲の中を飛ぶラリーとネオ。激しい挙動と旋回によって生み出される飛行機雲が絡み合い、その凄まじい戦闘機動を物語っていた。

 

コクピットの中でかじりつくようにハイGターンの負荷に耐える背後に、まったく同じ軌跡を維持してついてくるネオの機体を一瞥し、ラリーは心の中で舌打ちをした。

 

この凄まじい高負荷の中でも冷静な判断力を失わないのがラリーの強みであった。キラでさえ根を上げるというのに、背後の敵は何食わぬ顔で付いてくるのだ。

 

(本当にお前は人間かよ…ネオ・ロアノーク!!)

 

『空の王者から引き摺り下ろしてくれる…!!』

 

「くっそぉぉッ!」

 

機体を安定させる瞬間という嫌なタイミングでミサイルではなくバルカンを放ってくるネオのうまさに、ラリーは思わず叫んだ。

 

まだ中が残っているウェポンラックを強制的にパージし、それをバルカンの供物にするが、ネオは残弾によって巻き起こった爆煙もモノともせずにラリーの後ろを捉えて離さない。

 

加えて彼の部下も厄介だ。リークとトールが相手とっているが、その機動力もさることながら操縦センスもピカイチだ。

 

そこらにいるザフトや地球軍では考えられない練度を誇っている。そんな相手と戦いながらネオの機体の相手をするのは…!!

 

「隊長!ついてくる奴らは俺が相手します!!隊長機を頼みます!!」

 

部隊のオンライン通信で声を発したのは、ストライクワイバーンを駆るトールだった。

 

彼の機体はまさに対戦闘機向けに特化した攻撃機体だ。新たに乗り込んだ機体の感覚も掴んできたトールは、ラリーとリークの後を追おうとする戦闘機隊を鼻先に捉えていたのだ。

 

「任せたよ、ガルーダ3!!」

 

「お前たちの相手は俺だぁ!!」

 

リークの返事とともに、雄叫びを上げて後部ハッチからミサイルを射出するトール。張り付いていた敵の戦闘機隊は進路を変えてトールへと向かった。

 

ここからが第二ラウンドだ!ラリーはスロットルを全開にし、リークとともに悠然と飛ぶネオの機体へと向かってゆく。

 

 

 

////

 

 

 

「こちらメビウスライダー隊、ライトニング隊のフラガ機だ。潜航中のグーン隊、聞こえるか?」

 

《こちらアクアマリン隊、聞こえているぞ。敵反応が目前に来ている。海中はグーンの土俵だ。貴官は援護を頼む》

 

エイドストライクに用意された水中用のバックパックである「アクアパック」を装備したムウが、バズーカを片手に海中へと潜る。すでに展開していたニーラゴンゴのグーン隊が声を返したが、その瞬間、前方からアビスが放つビーム砲が迸った。

 

「早いな、さすがは海中用の新型機といったところか!!」

 

《抜かれた!!アクア1、アクア2、狙われるぞ!!》

 

水中用に調整されたアビスは、まるで甲殻類のような見た目へと可変しており、前衛を受け持ったムウやグーン隊の隊長の横をすり抜ける。隊長の忠告も虚しく、アビスが放った攻撃が戸惑った様子のグーンの二機を捕らえてしまった。

 

『あっはっはっ!ごめんね、強くてさッ!!』

 

「ええい!好き勝手やってくれる!!」

 

巻き起こったグーンの爆発の影に隠れるアビスへ、ムウとグーン部隊はバックパックの推力を引き上げて迫った。

 

「ミネルバ!!チェストフライヤーとフォースシルエットを!!」

 

空中では胴体とシルエットを失ったインパルスがミネルバから呼び出した残りのパーツとドッキングし、戦線へと復帰しようとしていた。同時に、海面に上がる白い水柱にレイは目を見開いた。

 

「今の爆発は!!」

 

《アビスだ!ニーラゴンゴのグーンとライトニングリーダーと交戦中!》

 

《敵の拠点は!そちらで何か見えるか!?》

 

戦況はまさに混乱だった。復帰したカオスの攻撃を躱しながら、接敵するサレナのヴァルキュリアがビームサーベルを構えるキラへと迫る。近接武器がない分、敵の攻撃は打撃系に限定されるが、その速度は異常なまでに早く、打撃というよりは体当たりに近かった。

 

身を翻すように避けたキラを見て、共に戦うシンは苛立ったように声を上げた。

 

「くっそ!!こいつ…手練れの上にしつこい!!」

 

『あはは!!まだまだ続けられるのね、ダーリン!!』

 

高速度の連射性を持つスラッグキャノンの餌食にならないためには、一撃離脱の戦術が必要であったが、相手も機敏に動くためにより高度な戦闘機動がシンやキラには求められた。

 

「シン!くそ…!この動き…尋常じゃない!!」

 

ビームサーベルで放たれたスナイパーライフルを切り払うキラだが、次の瞬間には迫るヴァルキュリアのスラッグキャノンを躱さなければならない。間髪入れずに後退し、攻撃タイミングを手放すキラを見て、シンは声を上げた。

 

「キラさん!!でえええい!!」

 

『潰れろ!!溶けちゃえ!!消えちゃえ!!』

 

地獄の底のような…まるで悲鳴だ。頭に微かに聞こえる声。シンはスラッグキャノンを十分な間合いで避けながら徐々にヴァルキュリアとの距離を詰めている、腰からビームサーベルを引き抜いたシンは、絶好のタイミングで前へとフットペダルを踏み込む。

 

『そこから来るのね!わかってたわよ、ダーリン!!』

 

レイの時と同じく、頭部だけを背面にグルリと向けたヴァルキュリアが赤い眼光を放ちながら迫るシンのエクスカリバーを迎え撃つ。

 

瞬間、衝撃と鉄を響かせたような音が響く。肩を打たれたのはシンの方だった。振り抜いたビームサーベルにあるはずの手応えがない。背後を見る余裕もなく、シンは機体を戦闘機へと可変させて一気にヴァルキュリアから距離とった。

 

「こいつを!こいつさえ落とせば!!敵のウィンダム!?迂闊な…!!」

 

サレナのヴァルキュリアの後ろからウィンダムの編隊が近づいてきているのが見えた。まったく、こんなタイミングで来るとは厄介な!!そう毒ついたシンは、次の光景を見て目を見開いた。

 

『邪魔をするな!!ダーリンじゃないやつら!!』

 

サレナは何の躊躇いもなく、自分とインパルスの前に入ってしまったウィンダム部隊に自身の武器を叩き込んだのだ。

 

『お、俺たちは味方だぞ…!?』

 

『うわぁぁ!』

 

容赦なくスラッグキャノンで削り取られてゆくウィンダム。その凄惨な状況を見たシンは思わず息を飲み込んだ。

 

「こいつ、味方の機体を!!」

 

何の躊躇いもなく落とすのか、邪魔という理由だけで!兵士や組織に属する者では考えられない暴挙を行ったヴァルキュリアを睨みつけ、シンはグッと操縦桿を握る。

 

そのプレッシャーを感じ取ったサレナは恍惚とした顔で微笑みをうかべる。

 

『死んじゃうんだから!!弱いくせに前に出て!!ダーリンじゃないなら黙っててよ!!』

 

火の玉と化して落ちるウィンダムの部隊のなか、サレナのヴァルキュリアはケタケタと笑っているように見えた。

 

 

 

 

 


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