ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第66話 インド洋の大空中戦線 4

 

 

 

ニーラゴンゴ所属であるアクアマリン隊。

 

前大戦では、紅海の鯱と恐れられたマルコ・モラシム隊が、連合の流星隊に撃破されて以降、カーペンタリア近海のMS主導権を維持してきた部隊であり、今回の積極的自衛権の行使でも彼らがカーペンタリア所属となることは必然であった。

 

UMF-4Aであるグーンに乗るアクアマリン隊の隊長は、かつて海を支配したモラシム隊を打ち破った流星隊の戦いを目の当たりにしていた。

 

モラシムの自尊心の強さや、ナチュラルに対する悪感情を軍務に持ち込む気質は気に入らなかったが、モラシムの扱う機体の巧さは十全に知っていた。だが、それを持ってしても、彼らの強さに敵わないと言うことを思い知らされる。

 

ムウの駆る水中戦パックを身につけたエイドストライクは、海中を縦横無尽に行くアビスの軌道を的確に読み、放たれる魚雷やビーム砲を避ける。そして交差する瞬間に腰に備わるアーマーシュナイダーをアビスの肩部装甲へと突き立てた。

 

「このぉッ!海中が得意だからと言ってな!!」

 

気泡が浮かぶが大したダメージは見受けられないことに、ムウは舌打ちをして離脱してゆくアビスの距離を測る。バズーカを狙うが動きがあまりにも早い。無駄弾を撃たせるつもりだろうがムウは冷静であった。射程距離内に捕らえられなかったと判断すると、すぐに場を捨てて回避と敵の軌道を読むことに専念したのだ。

 

『そんな旧式でこの僕をやろうって!?甘いんじゃないの!!』

 

アビスに乗るアウルが吠える。だが、その挑発も隊長を張るムウには無意味だった。彼は冷静を保つ。熱くなりやすいメビウスライダー隊の中で、ムウの戦いは洗練され、そして無駄を削ぎ落としてきた。

 

アビスから放たれるビームの放流を躱し、うち終わりの瞬間にバズーカを放つ。躱されたが、プレッシャーはかけ続けられている。足さえ止められればいい!!

 

《流星隊、援護するぞ》

 

援護に入るアクアマリン隊の協力も受け、ムウはザフトの最新鋭機であるアビスに挑む。長い持久戦の始まりだった。

 

 

 

////

 

 

ネオの引き連れてきた戦闘機部隊。トールはコクピットの中でも、背後にピタリとつく相手のプレッシャーを感じ取っていた。5機で編成される戦闘機隊だが、その中でも数機ほどやばい感覚を放っている戦闘機がいることを、トールはすぐに見抜いていた。

 

あの手の戦闘機乗りは放っておけばロクなことにならない。ラリーやリークたちと共に、前大戦が終わってから数年。数多くの紛争地域や、ミリアリアにも言えない極秘の任務に従事してきたトールは、相手の力量がどれほどのものかをすぐに判別できる観察眼を身につけていた。

 

とくに、自分の真後ろにつく先頭の機体が厄介だ。ざらざらと背中に張り付いて、こちらの動きを観察しているようで不気味だ。

 

隙あれば撃つのは二流、仕留めれると確信して撃つのが一流、そして当たると言い切れるのが空の化け物。背後にいるパイロットからは、そのオーラを感じる。トールはすぐに行動を起こした。

 

「ぐぅ…相対速度…距離計測…125…145…150…今だ!!」

 

海面すれすれ。機体下部に備わる機銃が海に接しようかしないかという具合の高度で急減速をしたストライクワイバーンは、腹に抱えた数発のミサイルを起爆タイマーをセットした状態で海へとばらまいた。

 

減速したとは言え、速度は800キロほど出ている。エンジンから放たれる衝撃波は海面をかき混ぜ、白波を機体後ろへと吐き出させているため、トールの機体がミサイルを吐き出したことを察知させることは困難となる。

 

「投下完了、エンジン全開!!」

 

ダメ押しと言わんばかりに減速から再度アフターバーナーを吹いたストライクワイバーンは、白い水柱を後部へと出現させ、爆発的な速度で空へと上昇した。背後にいた敵機は白波と水柱で視界を奪われ、さらに加速したトールを追おうと機首を上げた。

 

その瞬間、海中に放たれたトールのミサイルが弾け飛んだ。

 

『なに…!?』

 

反応できなかった数名のパイロットをミサイルから湧き上がった水しぶきと轟音が飲み込む。海水をもろに吸ったエンジンは強制的に停止し、浮き上がろうとしていた機体はなす術もなく海へと叩きつけられる。

 

その「凡人」たちを尻目に、残った敵戦闘機が空へと上がったトールを追い立てる。やはり、感じ取った通りか!!機体を傾けてトールは上がってくる戦闘機たちとの空中戦機動へと突入した。

 

『ええい、小癪な真似を…奴は!?』

 

数度の機動と交差。

 

トールの機体背面に付いていたはずだったが、可変翼を展開したトールのストライクワイバーンは身を翻して敵の後ろを逆に取る。

 

「取った!!落ちろぉお!!」

 

ポストストールマニューバを息を吐くように行ったトールの力量に目を見開きながら、敵パイロットはエンジンをバルカンで穿たれ、機体を制御できずに海面へと不時着したのだった。

 

「次!!」

 

翼を失った相手を一瞥して、トールは次の相手へと向かう。ウィンダム部隊や、ザフトの新型がいる以上、厄介な戦闘機をシンやキラの元に行かせる訳には行かない。

 

残った2機との壮絶な空中戦。それは、大気圏内での機動戦闘を最も得意と自負しているトールのプライドの張り場所であった。

 

 

 

////

 

 

 

「ネオ・ロアノーク!!貴様の目的はなんだ!!大西洋連邦で、またあの戦争を再現するのが目的か!!」

 

モニター越しに見える光景。空と海が凄まじい速さで入れ替わる。ラリーは操縦桿を引き絞り、機体を操る。横からのハイGに耐えながら機体をターンさせ、ネオの後ろへと回ろうとするが、相手のコスモグラスパーは驚くほどに早く、そして俊敏だった。

 

後部に備わるバルカン砲の銃口が、上から切り裂くように背後へと迫るラリーのスピアヘッドを捕らえる。

 

「……———っはあっ!!」

 

咄嗟の判断だった。砲塔が瞬く瞬間を察知したラリーは機体をバレルロールさせ、吐き出されたバルカン砲の合間を縫った。高速域での減速、ロールと身体に負荷が掛かり続ける機動の最中、通信ではない声がラリーの元へと入ってくる。

 

『戦争が終わった?何を寝ぼけたことを言っている、ラリー・レイレナード。お前が空にいる、飛び続けている以上、戦争は終わっていない。貴様がぬくぬくとオーブにいた時も、今こうやって戦線の前線へと出てきた時も、戦争はこれっぽっちも終わっていない!!』

 

殻になった弾倉を捨てて、ネオのコスモグラスパーは宇宙仕様の名残であるサブスラスターを吹かし、機体をジグザグに飛ばすような軌跡を描いた。追従する最中にも、攻防が目まぐるしく入れ替わり、ラリーの眼前にミサイルが迫った。

 

「くっそー!あいつ!」

 

スロットルを全開に引き、エアーブレーキとフラップを全開。コクピット横のノズル上に備わるブーストを解放したラリーの機体は、進行方向とは逆向きに動き始めた。〝バック〟するスピアヘッドは迫るミサイル群を撃ち落とすと、木の葉のように機体をひらりと反転させ、再びネオの機体の追従を再開した。

 

『それに、俺の目的は〝すでに完了している〟。お前たちがどう足掻こうか最早留める術もない!!』

 

マクスの下でニヤリと笑みを浮かべるネオ。すでに完了している?どういうことだ。その問いを出す前に、ラリーのコクピットにアラームが鳴り響いた。

 

『ネオ!はあぁぁッ!』

 

いつの間にか現れたザフトの新型機である「ガイア」がモビルアーマー形態となってラリーへと襲いかかってきたのだ。グリフォン2ビームブレイドを展開して飛来したガイアを難なく避けたラリーは、モニターに目を走らせて通信を開く。

 

「ガイアか!?リーク!!」

 

「ガルーダリーダーよりオービットへ!!敵拠点を発見した!!」

 

眼下に現れた島は、カーペンタリア基地から程近い。そこには、あきらかな地球軍の前哨基地が建設されている最中の様子だった。

 

『うるさい戦闘機のやつ!!落ちちゃえ!!』

 

「陸戦兵器が戦闘機に勝てる道理など!!」

 

ビームを放ちながら再び突撃していたガイアの攻撃を躱すラリー。すぐそこにはサレナのヴァルキュリアと交戦するシンとキラもいる。サレナの猛攻を凌ぐ二人が、無意識のうちにこちらへと流れてきていた。

 

「シン!ええい!」

 

『あははは!!みんな揃い踏みね!!ふふっ!!あはは!!楽しいね、ダーリン!!もっと踊りましょう!?』

 

『こいつ…いっつも、いっつも!』

 

『スティング!回り込め!』

 

混沌と化しつつある戦場。ガイアに加えて機体を立て直したスティングのカオスも加わり、ビームの応酬とミサイルが行き交う激戦区となりつつある空域。

 

「シン!下がれ!乗せられてるぞ!」

 

その中へ、ウィンダム部隊をあらかた片付けたアスランが駆けつけた。サレナに迫られていたシンへの援護に入る。

 

その瞬間、スラッグキャノンとスナイパーライフルの火力で押せ押せであったサレナの雰囲気が一変する。シンとキラ、そしてアスランもコクピットの中で背中が泡立つ感覚を覚えた。

 

「アスランさん!!やばい!!」

 

『ザラザラした不愉快な感じ!!体が痒くなる!!嫌!!嫌い!!嫌い嫌い嫌い!!ダーリンを誑かす声!!お前!!邪魔だあ!!』

 

まるで瞬間移動のように近づいてきたヴァルキュリア。背部に備わる排熱機構ユニットの一部がまるで意思を持ったかのように蠢くと、パーツが分割され無骨なアームへと変貌した。

 

隠し腕だと!?

 

驚愕と同時に機体を制御したアスランだが、突如として現れた隠し腕に備わるビームサーベルが閃き、回避したはずのアスランの機体に切り掛かったのだ。

 

「ぐぅう…!!」

 

機体を右に逸らしたのが幸いだった。肩から左腕を切り落とされたアスランの機体は、大きく姿勢を崩し、その頭部へとサレナがダメ押しの蹴りを放ってアスランを空の下へと叩き落とす。

 

「アスラン!?このぉ!!」

 

『ダーリンじゃない!!お前たちなんて、消えてしまえぇ!!』

 

ビームサーベルを抜いたキラのエクスカリバーを迎え撃つ形で、隠し腕を蠢かせながらサレナは叫ぶのだった。

 

 

 

 

 


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