ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第71話 ローエングリン砲を撃て! 3

 

 

 

「トール!!!」

 

太陽を背にしたヴァルキュリアの構えるスラッグキャノンが火を吹く。ラリーの怒声と共に、坑道から出たばかりの編隊はそれぞれが離脱できる姿勢へ向かうが、それよりもスラッグキャノンの拡散弾の方が早かった。

 

拡散範囲が狭い距離にいたラリーは全弾避けることができたが、航続するトール、シン、レイは拡散した弾頭に襲われることになる。

 

「うぉおおっ!?」

 

右へ旋回したトールの翼に備わるミサイルコンテナに弾頭が直撃。火を吹いたコンテナをトールはすぐさまパージするが、その爆風はトールとシンの機体を激しく揺らした。

 

特に被害が大きかったのは最後尾にいたレイだった。コアスプレンダーは奇跡的に無事であったが、半自動操縦だったチェストフライヤーは頭部が破損。レッグフライヤーは直撃を受けて姿勢を崩し、そのまま岩山へと墜落。ソードシルエットを抱えた機体もダメージを受けた為、レイのインパルスは実質的に戦闘能力を削り取られたのだ。

 

「レイ!!くっそぉー!!」

 

『あはは!!やるぅ!!次も避けられるかな!?』

 

矢継ぎ早にスラッグキャノンをぶっ放すサレナのヴァルキュリアに、シンは機体を地面に接触させながら何とか致命打を逃れた。機体先端に備わるシールドが完全にやられた。

 

迷ってる暇はない!

 

地面に半ば不時着する状態のまま、シンは機体を人型へと変形させた。片腕や脚部に負荷が掛かっているがそれを気にしている余裕なんてない。すぐさまビームライフルを構えるが、スラッグキャノンの一撃を受けてライフルは爆散する。

 

「がっ…ぐぅ!!…っアンタはぁ!!」

 

爆煙を切り裂いて、シンのエクスカリバーはビームサーベルを抜き、サレナのヴァルキュリアの懐へと飛び込んだ。隠し腕からビームサーベルを展開したヴァルキュリアの一閃を躱し、シンとサレナの機体は激しくぶつかり合う。

 

接触回線がオンラインとなったと同時に、コクピットの中でサレナは歓喜の声を上げた。

 

『あはぁ❤︎ダーリンから来てくれた!!嬉しい!!一緒に踊りましょう?ダーリン!!』

 

「ダーリンダーリンってしっつこいんだよ!!」

 

『ガンダムなんだから、もっと頑張ってもらわないと…みんな死んじゃうんだから!!』

 

出力で勝るシンのエクスカリバーの押し問答を受け流し、振り向き様にスラッグキャノンを見舞うが、その火砲をシンは卓越した反射速度でくぐり抜け、再びビームサーベルを振るった。

 

全力を出さなければ、やられる!!

 

極度の緊張感がシンのSEEDを目覚めさせていた。動きの変化にサレナの表情は恍惚と解ける。ああ、ガンダム!!もっともっと、愛し合いましょう!!サーベルを振りかざすシンに、サレナは隠し腕を展開して迎え撃ったのだった。

 

「シンがあの機体を引き付けている!!今しかないぞ!!」

 

出待ちしていたヴァルキュリアがシンのエクスカリバーに構ってる隙に、ラリーとトール、そして頭部が半分壊れたチェストフライヤーとドッキングしたレイのインパルスが、ソードインパルスの大剣を手に取ってローエングリン砲へと飛ぶ。

 

『あの機体、サレナ・ヴァーンか!?なぜあの部隊がこちらまで後退している!さっさと前に出させろ!!』

 

『司令!ローエングリン砲の直上に敵反応!』

 

『なっ!?すぐに迎撃しろ!ローエングリンを戻せ!』

 

ラリーとトールの攻撃に周辺を守っていたダガーが次々と戦闘不能になってゆく。その様子をゲルズゲーはムウやハイネの相手をしながら谷間から目撃した。

 

『くっそー!撃て!あのモビルスーツを落とすんだ!』

 

「行かせるかよ!!」

 

反転しようとするゲルズゲーに、ハイネがセイバーの背部に備わるアムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を放つ。ビームライフルを持つゲルズゲーの腕が溶け、その隙にムウのエイドストライクが化け物MAの頭部を切り飛ばした。

 

アークエンジェル、そしてミネルバ周囲でも激戦が繰り広げられている。

 

『どこを見ている!あの戦闘機モドキはどこだ!!』

 

別エリアから出現したのは、オーブで遭遇したファントムペイン所有の特殊MS「レイテルパラッシュ」と「マイブリス」だった。

 

『ウィン・D!迂闊に前に出過ぎるなよ!』

 

リークのスカイグラスパーと交戦するロイの忠告を聞き流して、ウィン・Dは戦闘機形態から人型へと可変したキラのエクスカリバーへとレーザーブレードを振りかざす。

 

「ええい!!こいつら、オーブで襲ってきた機体か!!ここまで追ってきたと言うのか!?」

 

キラは即座に応戦。

 

リミッターを外して稼働力を100%引き出すモードへと切り替えた。あとでフレイにこっぴどく怒られることになるだろうが、今は相手をどうにかしなければ始まらない。

 

振りかざされたレーザーブレードを紙一重で躱し、振り抜いたレイテルパラッシュの頭部へ蹴りを叩き込んだ。

 

『はあぁぁぁッ!』

 

吹き飛ばされた反動を気迫で堪えたウィン・Dは、ブースターを全開にしてビームサーベルを構えたキラのエクスカリバーへと突撃するのだった。

 

 

////

 

 

『なぜ敵MSを倒せん!あの機体は何をやってる!!さっさと落とさんか!』

 

ガルナハンの司令室は混乱の中にあった。遠くにいたはずの敵が基地の目と鼻の先に現れたからだ。

 

ローエングリン砲を何とか格納しようとしているが、時間がかかり過ぎている。護衛のMSもすでにやられていた。

 

《ハロー、司令部の皆さん。ファントムペイン所属のサレナ・ヴァーンです》

 

渦中の中、司令室中に若い女性の声が響く。スピーカーが流したのはサレナの言葉だった。

 

『な、なんだ?直接通信?』

 

『いえ!音声データです!』

 

《私たちの任務は貴方たちの終わりを見届けることにあります。残念ですけどガルナハン基地、およびローエングリン砲は廃棄となりまーす》

 

その言葉に、司令官は目を見開いた。何を言っている?そんなはずがあるわけない。

 

『ふざけるな!!貴様たちファントムペインは、この拠点の重要性を全く理解していない!!ヨーロッパ方面の侵攻を我々が食い止めると同時に…』

 

《邪魔になったんですよ》

 

基地司令の怒号をサレナの録音音声が凛とした声で切り裂いた。

 

《シナリオは順調、ルートも順調、彼らザフトとミネルバには、ヨーロッパのベルリンを目指してもらわなければならない。ここて躓いている暇が勿体無いんです》

 

『な、何を言ってるんだ…お前は…!?』

 

《すべては盤上の上の出来事、そしてここは特異点ではない、ということですよ。おバカな大西洋連邦の軍人さん》

 

司令部がどよめく。何を言ってる。何を考えている。あまりにも軍事組織らしくない、非現実的な言葉だ。そんな相手に、自分たちの基地は見捨てられるのか?不安と恐怖、そして怒りが入り混じった顔をする司令は震える声で呟く。

 

『お前は…お前たちは…一体…なんだと言うんだ!?』

 

その最中、格納寸前のローエングリン砲へ到達したレイが、上半身だけとなったインパルスを手足のように操作し、ソードシルエットの大剣を砲身の中央へと投擲した。

 

爆轟と衝撃。次射のためにエネルギーを蓄積していたローエングリン砲は、大剣から発せられるビームで切り裂かれ、そのエネルギーを内包できずに自壊を始めた。

 

爆発は軍事施設まで達し、厚さ20メートルという強度を誇る司令部の天井が吹き飛んだ。

 

《私は軍は嫌いではないです。しかし、貴方たちは例外。……人の頭を散々いじり倒した、その報いを受けなさい》

 

炎と衝撃波が襲いかかる中、基地司令が最後に見たのは、真っ暗に染まる目でこちらを見つめるサレナ・ヴァーンの顔だった。

 

 

////

 

 

『ガルナハンは落ちたか。まったく、歯に応えのない奴らだ』

 

『ウィン・D!!引き上げだ!!』

 

『わかっている!サレナ!!』

 

炎と煙に包まれるローエングリン砲とガルナハン基地を見下ろすウィン・Dとロイ。彼らの任務は基地が落ちるのを確認することだ。地球軍としては多大なる損失ではあるが、ファントムペインにとっては問題はない話だ。

 

むしろ、そうなってもらわないと困ると言う話でもある。撤退姿勢となるウィン・Dに従い、シンと死闘を繰り広げていたサレナも戦線を離脱してゆく。

 

『あーん悲しいわね、ダーリン。けど、貴方が〝ガンダム〟ならきっと辿り着けるわ。楽しみに待ってるからね、私のダーリン❤︎』

 

飛び立ってゆくヴァルキュリアを見上げながら、シンはコクピットの中で脱力感に身を委ねていた。かなり精神を擦り削る戦いだった。操縦桿を持つ手に力がまったく入らない。

 

しかし、そこまでやってもあの機体に致命傷を負わせることができなかったことに、シンは深く息を付いた。

 

「引いて…いくのか…?」

 

「敵基地、および陽電子砲、沈黙!!」

 

「全機、作戦完了。RTB」

 

ガルナハン基地、陥落。

 

ザフト軍の制圧隊が遅れて到着。現地協力者達とともにガルナハン基地を制圧にかかる姿を見届けながら、その日の戦いは唐突な終結を迎えたのだった。

 

 

 

 

 


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