ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第72話 ジブラルタル入港

 

 

 

イベリア半島、ジブラルタル基地。

 

ヨーロッパ南西に位置する半島に設けられたザフトの軍事基地は、ユニウス条約締結後も2箇所のみ地球上に残すことが許された1つだった。

 

前大戦時、地球軍のMS量産が軌道に乗り、地上での戦局が徐々に悪化する中、C.E.71年7月24日の第二次カサブランカ沖海戦で、MS部隊に大敗。

 

これによりザフトはジブラルタル基地を放棄。ヨーロッパ方面からの撤退を余儀なくされたが、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦後に結ばれたユニウス条約により、ジブラルタル基地はカーペンタリア基地と共にザフトの条約監視団常駐基地や在地球公館として使用される事になったのだ。

 

 

『みなさーん!ミーア・キャンベルでーす!!』

 

『今日は、戦いに疲れていられる皆様に歌を届けに参りました』

 

 

基地としての機能だけではなく、地球公館としても使用されるジブラルタル基地に降り立ったラクスとミーア。

 

ダブルラクスユニットとして、戦時の慰安ライブツアーを行う二人がステージに立つと、ジブラルタル基地に配属される兵たちが歓声を上げた。

 

 

「うおおおーー!!」

 

「ラクス様とミーアちゃんだ!!」

 

「すげぇー!!」

 

 

華々しいステージと二人の歌声、そして敏腕プロデューサーであるバルトフェルトが手配した演出に酔いしれる兵士たち。大盛り上がりするライブの最中、港に面する艦艇ドッグは、まさに激戦が繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

「シン!電工セットを頼む!!」

 

 

MVF-X02 ムラサメTYPE-R、ストライクワイバーンの真下に潜り込んでいたトールが出てきて手を出すと、そばにいたシンがすかさず工具箱から要求されたセットを取り出して油に塗れたトールの手に渡した。

 

 

「ばか!その機体よりこっちの設定がまだ終わってねぇーんだよ!!」

 

「6番から8番!?そんな手順は後でいい!!先にこっちが重症なの!!見てわかるでしょ!?」

 

「おーい!装備は6番コンテナだ!!こっちのユニットは3番エリアに移動させるぞ!!」

 

 

ミネルバとアークエンジェル、およびガルナハン攻略に参加した艦艇やMS部隊が格納されるドックには、それぞれの持ち場に着く整備員たちの怒号と叫び声と悲鳴に覆い尽くされていた。

 

ガルナハンの攻略は成功したが、堅牢な対空兵装に手痛くやられた機体も少なくない。あっちではディンの機体修理が行われて、向こうではザクの整備が進み、向こうでは破損した母艦の修繕作業が進行している。

 

あたりには交換した部品やパーツが散乱しており、回収班や作業スタッフが目が回る勢いで後片付けと、次に搬入されてくる故障機に備えて必要な部品をコンテナから出す作業を延々と繰り返していた。

 

 

「装甲板は貨物エリアに放り込んどけ!!こんなところに置いていたらどやされるぞ!!」

 

 

作業チーフにドヤされながら作業にあたるヴィーノも、今まで経験したことがない作業量の多さと忙しさに忙殺される。

 

ジブラルタル入港前にラクス様のライブ楽しみだなという楽観的な感覚はとっくに吹き飛んでいた。

 

 

「ジブラルタルに入ったのに、何でこんなに忙しいんですか!?」

 

 

いつぞや、前大戦でハルバートン提督率いる第八艦隊と合流したばかりの頃も、キラは同じような質問のような悲鳴をあげていた。

 

 

「機体もガタガタ、故障してる、パーツの取り替えやエンジンのバラシもあるんだから!!とにかく人手が足りないの!!」

 

「ラクスのライブ見たかったのにー!!」

 

「はっはっはっ!!運が悪かったな!!俺たちの戦場はここだし、まだ終わってないんだよ!!」

 

 

キラの機体を整備しながら泣き言を言うフレイに、マードックがコクピット上にある点検口に上半身を突っ込んだまま慰めの言葉を投げる。

 

というより、これが平常運転でもあった。

 

ハリーもラリーの機体の整備で手一杯だし、リークやトールも駆り出されている。作業できる技量と知識があるものは総動員されて復旧作業にあたっていた。

 

 

「リークさん、セッティングプログラム作ったんでデータを見てもらってもいいですか?!」

 

「わかったよ、シン!」

 

「キラ!35番の溶着セットを取って!」

 

「了解!」

 

「ヨウラン!このバカ!!作業忘れて現場から離れるな!!」

 

「すいません!!」

 

「とにかく人手だ!人手!!あと飯!!」

 

 

ドッグの端の方では手隙になったオペレーターチームが炊き出しをしており、短時間の休憩で食事を胃に突っ込んだ作業員が入れ替わり立ち替わりで仕事に戻ってゆく。

 

ある程度落ち着いたのは、ラクスたちのライブが終わり、日付が変わり、空が明るくなってきたあたりだった。

 

 

「うわぁー朝日眩しー」

 

 

遠くに見えるヨーロッパの大陸の地平線から登った太陽を見つめながらリークがそんなことを言う。

 

その横では激戦を生き抜いた面々がドロドロの状態のまま死んだように眠りこけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

《久しぶりだな、美人な艦長さん》

 

「お久しぶりです、と悠長に話している場合では無さそうですね」

 

 

落ち着きが戻りつつあった艦艇ドック。その中に鎮座するアークエンジェルのブリッジに、マリュー、ムウ、ナタルは集まっていた。

 

通信機越しに久々に顔を見るアフリカのレジスタンスリーダー、サイーブ・アシュマンとの挨拶を軽くかわすと、相手はすぐに本題に入る。

 

 

《ハリー技師の要請でこっちで仕上がった装甲は出荷済みだ。悪いな、こちらもバタバタしているのさ。種族戦争の次は民族紛争だ。全く、ままならんものさ》

 

 

現在、サイーブたち含むレジスタンスは拠点であった北アフリカから離れ、中東エリアへと移っていた。ザフトの支配地域から解放された北アフリカはザフト軍が建造した探鉱場を丸ごと接収したことにより、地球連合政府との交渉を行えるほど力をつけていた。

 

故に、サイーブたち砂漠の夜明けは解散したわけであるが、今度は種族戦争から民族戦争へと発展。なし崩し的にサイーブたちは伝手を使って内戦を仕掛けようとする反対勢力との武力衝突を行っていたのだ。

 

そんな中、アフリカにある製鉄所から直入された素材を用いた装甲のオーダーが、遠く離れたオーブにある民間軍事企業家から委託されたのだ。

 

 

《明日の朝にはタスク隊の輸送機が到着するはずだ。ハリー技師や基地の連中にはよろしく伝えておいてくれ》

 

「わかりました。そちらも気をつけて」

 

 

そっちもな、と返したサイーブとの通信を終える。

 

ハリー曰く、本当はガルナハン攻略前に受け取りたいところではあったがローエングリン砲の危険もあった上に、ザフトに協力することで色々とごたついていたので、受け取り場をジブラルタルに変えたのだった。

 

 

「全く、嫌になるねぇ。大西洋が好き勝手やってるからどこもかしこも」

 

「中東の民族紛争は慢性化していますが…今回の戦争で戦火が拡大しているようです」

 

「なまじ、大昔からどっちかに大国のスポンサーが付いちゃって戦い始めたもんだから、大西洋一強になった折を見て攻め始めたんだろう」

 

 

呆れたようにいうムウに、マリューもナタルも同意見だった。

 

 

「宇宙と地球で戦っているというのに、地球でも争いが起こってるのは…嫌になるわね」

 

「未来の我が身より、明日の我が身の方が大切な連中がいるってことさ」

 

 

全体を見るよりも自分の場所を守ることで精一杯なのかもしれない。

 

それをどうにかしたいという思いがあるなら、まずは大西洋一強の地球側の状況を打開するしかないというのが結論だ。

 

 

「ハリー技師が依頼していた装甲ですが、やはり例の?」

 

「はい、トランスヴォランサーズで試作建造されていた新型機のものです」

 

 

提出された資料に目を通すナタル。それはオーブにいた頃から研究と開発が進められていた新型のMSであった。

 

型式番号、ORG-X01。

SEEDの技術で作る高高速域対応型MS。

 

ホワイトグリントの生みの親であるクルーゼの妻と、空の怪物とも言える流星の機体を手がけたハリー。そしてオーブの技術力を遺憾なく投入した機体は、まさにモンスターマシンと言えた。

 

 

「とりあえず、私はザフト軍と話をしてきます。輸送機が敵機扱いされて撃墜されでもしたら大変です」

 

「お願い、ナタル」

 

 

ブリッジを後にするナタルをマリューと共に見送ってから、ムウは改めてハリーが出してきた機体の仕様書を見た。

 

何度と目を通しているが、いつみても馬鹿げたスペックをしている機体だと思える。こいつは本当に人を乗せることを考慮しているのか?と言った具合だ。

 

 

「あのホワイトグリントの強化版だからな。一体どんなMSになるやら」

 

「出来上がったら乗ってみる?」

 

「勘弁してくれ」

 

 

悪戯っぽくいうマリューに、ムウはお手上げとウゲェと遠慮した。子供が出来たばかりなんだから死に急ぐわけにはいかん。

 

そう言う夫に、マリューは彼の部下であり、そんな機体を平然とぶん回すラリーとは一体と考えたが、すぐにやめた。

 

あの怪物に常識など通じない。

 

それがアークエンジェルに乗る全員の総意でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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