ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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第5話 宇宙への穴

 

 

アーモリーワンが揺れている。

 

ザクから降りて、ザフト軍の軍用車に乗ったリークとトールに合流したアスランたちは、地響きのような揺れにタタラを踏みながらも、なんとか耐える。

 

遠方に見えるモビルスーツ同士の戦いの揺れだけでは無い。まるでコロニー全体が揺れているような感覚だ。

 

「この揺れは…アスラン!」

 

フレイを支えながら、キラが声をかけてくる。擬似的な空の向こう側にある外縁部との区切りを示す防護ガラスから、薄らと閃光が瞬く。あれは明らかに星の光などでは無い。

 

「外部からの攻撃?敵艦が直ぐ近くにいるのか!?」

 

『こいつーッ!』

 

アスランたちがリークたちの車に乗り込んでいるのをモニターで見つめながら、シンは迫ってくるガイアの攻撃を受け流す。大剣であるシュベルトゲベールの持ち方を巧みに変えながら、シンの操るメビウス・ストライカーは、超近距離から中距離の流れを制しており、ガイアは攻めきれずにあしらわれていた。

 

その後方では、レイのインパルスがカオスとの戦いに苦戦を強いられている。モビルアーマーへと変形するカオスのヒットアンドアウェイ戦術、そしてモビルアーマー形態ならではのトリッキーな戦い方に、攻め手を決められずにいる。

 

「くっ…やはり実戦では…!」

 

エクスカリバーを振り回して距離を取ろうとするが、それを逆手に取ったスティングは、脚部からビームクローを展開して、隙ができたインパルスへ迫る。

 

その真横。ガイアの脚部をシュベルトゲベールの峰で払い飛ばして転倒させたシンは、パンツァーアイゼンに移植されたマイダスメッサーを引き抜き、インパルスへ迫るカオスへと投擲した。

 

ビームの円盤をシールドでなんとか防ぐが、進路は完全に変えられた。スティングは舌打ちをして、再び空へと逃げていく。

 

「下がれよザフトの新型!そんな動きじゃ、墜としてくださいって言ってるようなもんだぞ!?」

 

「何を…!!」

 

戻ってきたマイダスメッサーを格納しながら、シンはインパルスの前に立った。

 

インパルスの動きは明らかに近接戦に不慣れな者の動きだ。ビームライフルを使わない点は褒められるが、敵の前で無闇にあんな大剣を振るえば、隙ができて当たり前だ。

 

それに、ビームは使わないとは言え、エクスカリバーで吹き飛ばした瓦礫による被害もある。

 

「そうやって周りに気を配れないから戦いはーーそこぉっ!!」

 

インパルスのパイロットへ言葉を投げながら、シンは背後からビームランスを構えて近づいてきたアビスへ、バットのように振りかざしたシュベルトゲベールを叩きつけた。

 

『こいつ!背中に目がついてるのか!?』

 

運良くビーム部分では無いところで受け止めたアウルだが、シンの目的は別にある。

 

叩きつけた大剣を返してアビスとの距離を詰めると、そのままアビスとすれ違いざまに頭部へアイゼンを装備した拳を叩き込んだ。

 

『この可変機、近接兵器でよく…!!』

 

ちぃ、この程度では失神しないか…!!駆動部から火花が散るのを確認したシンは、相手のモビルスーツの図太さに嫌気が差していた。

 

わざわざ〝斬らない〟ように気をつけていると言うのに、向こうは撃ち放題だ。

 

「みんなは後退を!ベルモンド教官、ケーニヒ教官!議員やアルスター事務次官を頼みます!」

 

「ごめん、シン!」

 

「シン!あまり無理はするなよ!」

 

軍用車にアスランたちを乗せたリークたちは、無線機越しにシンへ言葉をかける。もとより無茶はするつもりはない。片腕がうまく動かなくなりつつも、まだ大剣は持てている。

 

シンは破損した片腕を庇うように大剣を構えて、グッと体に力を込めた。

 

「了解!!」

 

アビスはカオスと合流し、大剣を隙なく構えているメビウス・ストライカーを前にしている。現れた2機の不明機。一機はこちらと同じザフト製だろうが、目の前にいるこの機体は明らかに毛色が違う上に、パイロットが手強いと来ている。

 

『スティング!さっきの!』

 

アウルが接触回線で、思考を巡らせるスティングへ声をかけた。

 

『分かってる!お迎えの時間だろ?』

 

本来なら、敵基地を破壊してアーモリーワンから脱出、外にいるガーティ・ルーと合流してから、次の段階に移行する手筈だった。

 

『遅れてる。バス行っちゃうぜ?』

 

『分かってると言ったろうが!このぉ!!』

 

苛立ちを顕にするスティング。

 

現れたイレギュラーのせいで、計画は大きな変更を余儀なくされていた。あの可変機はこちらが逃げられないように、一機は必ず手中に収めた上で戦いを組み立てているのだ。

 

『大体あれなんだよ!新型は3機のはずだろ!可変機なんて!!』

 

『俺が知るか!』

 

『どうすんの?あんなの予定にないぜ!?』

 

面白くない。アウルもスティングと同じ思いだった。こちらとしても、この日のために訓練や〝処置〟を受けてきたと言うのに、こうもあしらわれるなんて。シンの強さは、三人の根幹にあるプライドを激しく揺さぶり、刺激している。

 

今も、襲いくるステラのガイアを相手取って容易く逃げ、打ち、叩き、そして足蹴にしている。

 

『けど放ってはおけないだろ!追撃されても面倒だ!!』

 

『ハッ!あのふざけた機体の首でも土産にしようっての?』

 

ステラのガイアをビームを遮断したシュベルトゲベールでなぎ倒したシンのメビウス・ストライカーに、アウルが急襲する。

 

『カッコ悪いってんじゃねえ?そういうの!』

 

インパルスのバルカンが飛んでくるが、そんなもの足止めにもならない。ビームは無駄だ。幾度と撃った中で、相手の危機察知能力は把握している。

 

ならばと、アウルはビームランスを起動させて、機体前方へと突き出した。リーチに分があるビームランスなら、こちらの攻撃を当てつつも、向こうの攻撃範囲に入ることはない。

 

「動きはいい…けれど!!」

 

その突撃を、シンは機体を屈めて最小限の動きでビームランスを掻い潜る。ビームの合間を縫うように避けるのは、〝流星〟との模擬戦で幾度となく体感しているシンにとって、アウルの放ったビームランスの突きなど大した障害にはならない。

 

『んなっ、下!?』

 

「攻めるだけじゃ崩せないならッ!!」

 

拳がダメなら、とシンは破損した片腕を前に出して迫ったアビスへ逆に突撃を敢行する。自身の前身の力と、メビウス・ストライカーの体当たり。

 

シンは衝撃時に踏ん張っていたが、意表を突かれたアビスは体当たりを受け、アウルはコクピットの中でシートベルトとシートの間で数回バンドするような衝撃に襲われた。

 

『うっ!!』

 

『アウル!ちぃ…このパイロット…!!』

 

なす術なく倒れたアビス。いくら〝措置〟されているとは言え、モビルスーツの体重を乗せた体当たりをーーそれもこちらも前進している時に受けてしまっては、ひとたまりもない。

 

カオスに備わる機動兵装ポッドを射出したスティングは、アビスに迫るメビウスを追い払うために、ビーム突撃砲と、ファイヤーフライ誘導ミサイルを吐き出した。

 

「こいつ…!コロニー内だぞ!そんなものを使うなんて…!!」

 

背後にはまだ避難しているザフトの非武装員がいる。動きが鈍い片腕に備わるパンツァーアイゼンを無理やり動かし、ビームを防ぎながら、ミサイルの雨にシンは耐える。

 

「お前たち!!何を考えてる!!やめろぉおお!!」

 

爆煙の中で、シンは咆哮する。明らかなダメージを負うメビウスだが、シンは逃げなかった。後ろにいる非武装員が、過去の自分と重なる。

 

自分もこうやって、助けられたのだ。

 

だったら、それをやらずにしてーーー何があの人の弟子だ!!

 

咆哮したシンは、スラスターを吹かし、空へと逃げる三機のモビルスーツに向かっていく。

 

 

 

////

 

 

カガリたちがたどり着いたアーモリーワンの行政府は酷い有り様だった。下士官たちが慌てた様子で行き来しているが、一部の建物がビームの直撃を受けて死傷者まで出ている。

 

行政府としての機能は麻痺状態となっていた。

 

「誰がここの指揮を執ってる!あの3機はどうした?状況を説明してくれ!」

 

カガリたちが施設に入ると、先に到着していたデュランダルが状況の説明を要求していた。しかし、通信インフラも寸断されている状態であり、外縁部の状態も何ら応答がない。

 

パトロール艦も敵の母艦の発見情報を知らせてから音信不通だ。

 

「議長!ここはまだ危険です!有毒ガスも発生しています。シェルターへお入り下さい!」

 

「そんなことが出来るか!事態すらまだよく解らぬというのに!!」

 

港口では、機能停止したターミナルに閉じ込められている人たちもいる。今シェルターに入ってしまえば、なんら情報を得られぬまま事態が治るのを待つ身となってしまう。それでは、なんら一般市民と大差はない。

 

デュランダルは議長としての任を全うしようとしている。それを察した士官は、通信室へ連絡を取った。

 

「ーーならばせめてミネルバへ!!」

 

 

////

 

 

「その三機を行かせるわけには…!!」

 

アーモリーワン中心部へと飛翔する三機を追って、インパルスとメビウスもコロニー外縁部へと向かっていた。

 

『こいつ!何故落ちない!?』

 

いや、シンのメビウスはステラのガイアに追い回されている状態だった。シンとしては、敵が逃げてくれるならそれで良いことだった。

 

こちらの目標はカガリやフレイ、キラたちを無事に逃すこと。三機の行く末など、オーブにとっては関わりがないことだ。

 

「銃口…!!」

 

しかし、ステラのガイアがそれを許さない。数発撃ったビームの閃光の一発はシンが食い止めたものの、他はアーモリーワンの地上へと飛んでいき、遠くで爆発が起こった。

 

「何でこんなことが平然とできる!!お前たちはーー!!」

 

民間人がいるはずのコロニー。さっきまで街は人々の賑わいの中にあったというのに、ここはすでに地獄と化している。人道的にもこれ以上撃たせないために、シンはガイアへと接敵してビームを阻止する戦いを繰り広げる。

 

『スティング、きりがない!こいつだってパワーが…!!』

 

『このまま離脱するぞ!ステラ、そいつを振り切れるか!!』

 

『すぐに沈める!こんな…私は…私はっ!』

 

片腕が使い物にならなくなっているはずのメビウス相手に、ステラは攻めきれずにいる。ビームサーベルで切り裂いても、敵は紙一重でそれを避けて、頭部のイーゲルシュテルンでガイアにダメージを与えていく。

 

『離脱だ!やめろステラ!』

 

スティングの制止の声など、もはや関係ない。ここまで小馬鹿にされたのだ。私は、私はーーそんなことをされるためにーー!!

 

『私がこんなぁーッ!!』

 

『ステラ!』

 

『じゃあお前はここで〝死ね〟よ!!』

 

慟哭にも似たステラの叫びに、アウルの声がこだまする。途端、ステラの衝動に駆られた動きが止まった。

 

『アウル!』

 

『〝ネオ〟には僕が言っといてやる。さよならってな!』

 

スティングの諫める声を聞かずに、アウルは続けて彼女にとっての〝引き金〟につながる言葉でトドメを刺した。ステラは頬に指を走らせて、瞳を揺らした。

 

『…死ぬ?』

 

それはステラ自身にとってのトリガーだった。死というイメージ。その言葉で甦るフラッシュバックが脳内を駆け抜けて、ステラの表情を一変させた。

 

『あたし…そんな…あぁぁーーっ!嫌ああああーー!!!』

 

シンのメビウスを前にしながら、彼女は暴れるように機体を挙動させる。警戒したシンが機体を下がらせると、彼女は逃げるようにアウルたちの元へと飛び上がっていく。

 

それはシンから逃げる動きではない。まるで、見えない巨大な何かから逃げるようなーーそんな感覚をシンは覚えた。

 

『アウル!お前…』

 

『止まんないじゃん、しょうがないだろう?』

 

『黙れバカ!余計なことを!!』

 

スティングの言葉を無視して、アウルは見えてきた外縁部に胸部と肩に備わるビーム兵器の一斉射を浴びせる。

 

『結果オーライだろ?とにかく撤退だよ』

 

それによって出来た大穴に、アウルが先行して入り、スティングは力を失ったステラのガイアを掴んでそれに続いた。

 

「奴ら、宇宙に…」

 

インパルスに乗るレイが、外縁部から宇宙へと逃げた機体を見つめながら目を細める。このまま逃してなるものか。

 

「追うぞ、貴様もーー」

 

「こちらは撤退する」

 

通信で帰ってきた言葉に、レイは目を剥いた。撤退する?敵を前にして?凛とした声を理解できなかったレイに、シンは改めてインパルスのパイロットへ〝自分の立ち位置〟を伝えた。

 

「俺が出たのは、あくまでオーブの要人の救助が目的だからな。あの新型…あとはザフトの問題だろ?」

 

そう、シンはオーブのパイロット…強いて言うなら、アズラエルが雇った護衛の民間PMCの社員だ。腕の一本くらいなら切り落とせた相手だが、ザフトの新型をオーブ製の機体が撃ったら、のちの国際問題に成りかねない。

 

出撃前の簡易ブリーフィングで、師匠であるラリーやハリーから注意を受けていたため、シンは手心を加えて敵を傷つけることなく、キラやアスランたちを守ってみせた。

 

敵が空へと逃げ、キラたちの身の安全が確保された段階で、シンとしてのミッションは完了していたのだ。

 

「まだ民間人の避難も済んで無いんだろ?まずはそっちを優先するべきだと俺は思うぜ?」

 

ガイアの猛追に付き合わされたシンは、疲れたように肩を回して機体を反転させる。

 

「ーーミネルバへ。インパルスは敵を追撃する」

 

後方モニターには、空いた穴から外へ向かって飛んでいくインパルスの姿が見える。シンは気にしない様子で機体を飛ばした。

 

片腕が破損した為かモビルアーマー形態へ変形できないことを知ったシンは、ハリー技師からの怒りを予想しながら深く肩を落として帰路へと着くのだった。

 

 

 

 

 


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