※2024 03/17 読みやすく、改稿しました。
読み方
・『』から始まるのは、主人公のセリフです。
・「」の上についているのは、それを話しているキャラクターの名前です。
・──から始まる文は、場面名や時間経過を意味しています。
・→はキャラ名の変化、または移動などを表現しています。
・台詞に出てくる『』で囲われた単語は、重要な単語、または過去に出た台詞の表現です。
以上を参考に、お読みください。
第1話 2020/03/06
──廃棄コロニー内
???
「目を覚ましましたか、一般人。
ここは戦闘代行巨神、『アルジュナオルタナティブ』のコクピット内です。
気絶していたあなたを、生命保護のため格納しました。
私の名はA2、この巨神の戦闘補助を行うAIです。
この姿……立体映像は、人間との円滑なコミュニケーションをはかるためのものに過ぎません。
何か質問はありますか? 一般人」
カルデアのマスター(以下カルマス)
『うわぁまたすごい世界と混線しちゃったぞ……』
???(以下
「混線? 言っている意味が……くっ、この振動は!」
カルマス
『目の前に出て来たのは……緑色ゼリーな体をもった大きな怪物?』
A2
「ええ。あれは通称『ゾルテトラ』。
人類を
しかし予想外です、格納庫までこの速度で来るとは。
……手段を、選んではいられませんか。
一般人、遺伝子登録を行い、私と契約してください。
──神と人が、手を取り合うこと。
それこそが、戦闘代行巨神『アルジュナ』の真の力を呼び起こす条件なのです。
……このジェル内部へ両手を入れて、操縦桿であるレバーを握ってください。
遺伝子を採取し、あなたと巨神を接続、契約します。
少し痛みますが、構いませんか?」
カルマス
『分かった! うぉぉぉぉ!!!!』
A2
「別に叫ぶ必要は無いのですが……よし、契約完了。
これより、あなたは私の
……まさか、再び戦う事になろうとは。
千の時を超え目覚めよ巨神!
アルジュナオルタナティブ、フルドライブ!!」
カルマス
『うわぁぁ! 戦闘モードになるとコクピット内が360度が見える全天周囲モニターになるんだ格好いいー!!』
A2
「神経接続により、あなたの思い通りに巨神は動きますが、その分、受けたダメージがあなたの体にフィードバックしてしまいます」
カルマス
『うわぁぁぁ!! 知ってる設定だぁー!!』
A2
「過度の興奮が見られますので、精神安定剤と鎮痛剤、静脈注射しますね」
カルマス
『……急に落ち着いてきた』
A2
「何よりです。では、目の前のゾルテトラを倒してください。
体内のどこかに四角いコアがあります、それを破壊すると倒せます」
カルマス
『物語中盤でコアの中身について重大な秘密が明らかになりそう』
A2
「この巨神は長らく封印されていたので、武装はありません。
素手で戦ってください。
私も補助しますが……出来ますか?」
カルマス
『──出来るさ、君と二人なら』
A2
「何やら頼もしい返事です。
初陣であっさり負けないでくださいね、我が
第2話 2020/03/06
──廃棄コロニー内
A2
「巨神とあなたの全神経同期完了。
いつでも戦闘可能です、
カルマス
『これが……戦闘代行巨神、アルジュナオルタナティブ……』
A2
「全長約100m、現在武装は無し。
フェイトエンジンにより、起動時間に制限はありません。
体の感覚が拡張されていますが、違和感などは?」
カルマス
『自分が巨人になったみたいだ……機体表面にチリがつく感覚が分かる……』
A2
「ゼリー状の敵……ゾルテトラが動き始めます、気をつけて」
カルマス
『……っ!』
A2
「落ち着いて! 顔面にゾルテトラが着いても窒息しません!
息苦しいのは神経接続による錯覚だ!」
カルマス
『くぅ!』
A2
「引き剥がしましたね、冷静な判断です。
次は」
カルマス
『巨神拳!!』
A2
「打撃により敵の体がほどけた!
弱点である四角のコアを叩いてください!」
カルマス
『わぁぁぁぁ!!』
A2
「よし、コア破壊確認。
敵が蒸発していきます」
カルマス
『ゾルテトラ……なんとか倒せた……』
A2
「初陣でもあり、不定形故に戦い辛い敵だったでしょうに、上手く倒せましたね」
カルマス
『アルジュナ……じゃなくて、A2がサポートしてくれたおかげだ』
A2
「ありがとうございます、
私もあなたが無事で嬉しいです。
……さて、この封印格納庫から脱出しませんと。
今私達のいる廃棄されたコロニーは、ゾルテトラの襲撃を受け、衛星軌道を外れ、近くの天体重力に引かれ始めています。
巨神全体のスキャンを行いましたが、故障個所はありませんでした。
問題なく宇宙遊泳出来ますよ」
カルマス
『脱出したらどうしよう』
A2
「人類生存域防衛軍宇宙艦隊が近くに居るようです」
カルマス
『もう一回お願いします……』
A2
「? ですから、人類生存域防衛軍宇宙艦隊です。
縮めて人類防衛軍とでも呼びましょうか。
彼らと合流し、保護を打診しましょう。
あなたの生存に必要な食料や水、空気は限りがありますからね。
……なぜだか気は進みませんが」
カルマス
『……帰れるかなー』
A2
「どこに帰りたいのか知りませんが、あなたは運命すら書き換える巨神のパイロット。
帰りたい場所に帰られるかどうかは、あなたが決めることです」
カルマス
『
A2
「はい、
ん、この亀裂からコロニー外部へ出られそうです、よいしょ……」
カルマス
『本当に、外は宇宙空間なんだ……』
──廃棄コロニー内→宇宙空間、デブリ群
A2
「このコロニーは、かつて人を運んでいた船でしたが……戦争により壊れ、そして私と機体は封印されたのです」
カルマス
『さっき倒した敵……ゾルテトラって何?』
A2
「この世界における一般常識ですが、聡明なA2はあなたに説明しましょう。
今から3000年前、地球に突如出現した生命体、ゾルテトラ。
彼らは人類を好んで補食し、当時の兵器では太刀打ちできませんでした。
よって人類は宇宙船を建造、地球を捨てオールトの雲を越えて……長い逃亡生活の果てに、巨神を開発したのです。
ゾルテトラは、あらゆる衝撃や熱を吸収する体を持っていますが、それを巨神ならば打ち砕ける。
コアを捉え、破壊することが出来る。
巨神は……絶滅寸前である人類の希望なのです」
カルマス
『じゃあ、パイロットは責任重大だね』
A2
「そうですよ、簡単にやられたりしないでくださいね。
ん……この反応は……」
カルマス
『さっき言っていた、人類なんとかかんとか宇宙艦隊が見つかったの?』
A2
「いえ、民間の船が一
カルマス
『ゾルテトラが宇宙船を覆ってる?!』
A2
「内側に居る人間ごと、補食しようとしている……。
けれど、助けたくともあの大きさの敵に挑むのは、武装を持たない今の私達では無謀」
カルマス
『──関係ないよ、助けに行く』
A2
「はぁ……A2の話を聞いていましたか?」
カルマス
『倒せなくても、剥がしたり、自分が囮になるくらいは出来るから』
A2
「では向かいましょうか、マス……一般人。
ああ、勇気と蛮勇は違うと知っていますか?」
カルマス
『知っているさ! だから行くんだ!』
第3話 2020/03/08
──宇宙空間、デブリ群
カルマス
『敵を……ゾルテトラを民間船から引き剥がす事は出来たけれど……』
A2
「あなたの想像以上に速いでしょう。
かの敵は、質量を増すごとに身体能力が向上していくのです」
カルマス
『民間船が逃げられるまで、自分が囮になる!
目の前のデブリ群に突っ込んで、少しでも距離を……!』
A2
「敵の分裂を確認。総数は3」
カルマス
『分裂?!』
A2
「小惑星の間に緑のゼリー状の体を薄く広げ、網目状に」
カルマス
『なるべくジグザグで高速移動して、敵を
A2
「眼球からの出血と、筋肉の断裂を確認。
一般人、無理な操縦はあなたの細胞破壊を引き起こす。
後遺症の可能性だけでなく、死んでしまいますよ」
カルマス
『止まったら、船に乗っている人達が死んでしまう!』
A2
「……一般人、あなたは無駄と言われても仕方のない事をしている。
たかだか数百人の命と、巨神パイロットの命。
どちらが大切だと思っているのですか」
カルマス
『無駄なことじゃ、ないよ』
A2
「あの民間船からメッセージが届いている、なんだ?
開封を……」
「たすけてくれて、ありがとう」
「見捨てないでくれて、ありがとう」
「俺達に気がついてくれて、ありがとう」
A2
「これって」
カルマス
『誰かが生きていてくれる、こと。
それだけで、自分は嬉しいんだ』
A2
「……
カルマス
『ごめん、負けちゃったね』
「謝る必要も意味もありません。
……もとより全て、無謀な夢だったのです」
カルマス
『……』
A2
「マスター、私、あなたに──」
???
「無事か! 所属不明のパイロット!」
カルマス
『ゾルテトラが吹き飛ばされて……?』
A2
「あれは人類生存域防衛軍宇宙艦隊!
そうか、民間船の救難信号を拾って……!」
???
「後は俺に任せてくれ! はぁっ!」
カルマス
『すごい! ビームでコアをあっという間に打ち砕いた!!』
A2
「……これが人類側の『巨人』の力、ですか」
???
「パイロット、君と機体を保護しよう。
名前を教えて……いや、先に名乗るのが礼儀か。
俺の名前はオデュッセウスA012、この戦闘代行巨人のパイロットだ。
君は?」
A2
「……、……、……。
戦闘代行巨神アルジュナオルタナティブとそのAI、A2です。
この人間は、緊急で契約しただけの……ただの一般人です」
オデュッセウスA012(以下オデュA012)
「宇宙の暗黒に消えたと伝説残る、黒き最後の巨神と同じ名か」
カルマス
『伝説……?』
オデュA012
「ああ。
……何やら事情がありそうだな。
艦隊で保護しよう、俺に着いてきてくれ」
第4話 2020/03/09
──宇宙戦艦内、客室
カルマス
『人類生存域防衛軍と出会えて良かったね』
A2
「私達が救った船の乗組員、数百人まで保護するとは。
異様なまでに気前が良い」
カルマス
『目と筋肉の怪我もナノマシンで治してくれて、個室に食事まで……』
A2
「ただのパイロット待遇です。
向こうは別に、私達に好意など抱いていないでしょう」
カルマス
『それにしても、A2が機体の中から離れて活動できるなんて!』
A2
「コクピット内の立体映像から、巨神内で培養した肉体へ精神を移し替えました。
肉体があった方が便利でしょう。
これもあなたと契約したから行えたことです。
感謝します、一般人。
おや、ドアブザーが鳴っている」
???
「オデュッセウスA012だ。
怪我の具合を確かめに来たのだが、入っても構わないだろうか」
カルマス
『大丈夫でーす』
オデュA012
「こんにちは、
我が艦隊の食事を先ほど届けさせたが、口に合ったかな?」
カルマス
『美味しかったです。怪我の治療もありがとうございます』
オデュA012
「うん! 裏表のない誠実な態度。
気に入った、俺はお前のような者が好きだ。
いや、いきなり『お前』呼びとは、礼節を欠いているな……」
カルマス
『好きなように呼んでください』
オデュA012
「そう言ってくれるのはとてもありがたい。
お前とはパイロット同士として、肩に力を入れない間柄になりたいものだ。
さて、改めて自己紹介をしよう。
俺は戦闘代行巨人のパイロット、オデュッセウスA012。
人類を守るため、ゾルテトラと戦う軍人だ」
カルマス
『えっと……アルジュナオルタナティブのパイロット……です』
オデュA012
「ただのパイロットではなく
カルマス
『違いがあるんですか?』
オデュA012
「全て説明してもいいか、A2」
A2
「……私の前で口にする勇気があるのでしたら、どうぞお好きに」
オデュA012
「パイロットと
それは、機体と遺伝子レベルで契約しているかどうかだ。
俺達は
カルマス
『っ?!
(それって、バビロニアのティアマトの……)』
オデュA012
「契約した者は、巨神と塩基レベルで融合。
包み隠さず言えば、その時点で人間では無くなっている、巨神と人間の中間の存在となるんだ。
ここからがややこしい話なのだが、機体搭乗時、
存在が振り子のように揺らぐんだ。
この揺らぎが、フェイトエンジンの生み出すエネルギー量に関わってくるのだが、その話は今は置いておこう。
A2、ここまでの俺の説明で何か誤りはあるかな」
A2
「正しい。全て真実です」
オデュA012
「話を続けよう。
その傷を癒すために、機体側がお前の体を、遺伝子を侵食していく。
すると、どうなるかというと」
カルマス
『最終的に、自分が自分ではなくなる……?』
オデュA012
「正解だ。しかし、その過程をお前は知らない。
端的に言えば、神経麻痺や筋繊維の硬質化、身体の異常膨張、内臓や骨の増殖、人間性の喪失などの症状が体に現れる。
この一連の流れを『巨神化症』と呼ぶ、死亡率は9割だ」
カルマス
『きゅう、わり……』
オデュA012
「戦闘代行巨神は、俺達の駆る巨人と比べて強い。それは事実だ。
神と人、2つの運命が交差し、重複することで引き出されるエネルギーは、巨人に内蔵されているフェイトエンジンよりも莫大なんだ。
星と同じ大きさのゾルテトラ討伐が、巨神によって成されたという記録もある。
だが、先に言った症状により、現在は非人道的とされ、表向きは使用されていない」
カルマス
『……』
オデュA012
「なぜ、これを俺が言うのか。
まだお前は『戻れる』からだ。
適切な投薬と治療を受ければ、健康な人間として生活を送れる。
だが、軍上層部や悪人がお前の存在を知れば、その選択肢を握り潰そうとするだろう。
巨神はすでに失われた技術であり、契約できる人間も希少だからな。
……残酷なことばかりを言った、俺を責めてもらっても構わない」
カルマス
『A2と、話し合います。2人にさせてください』
オデュA012
「分かった。お前がどんな決断をとろうと、俺は応援しよう」
カルマス
『どうして、そこまで良くしてくれるんですか?』
オデュA012
「ははっ、自明の事! されど俺に言わせたいのか!
……お前達が民間船を迷うことなく全力で助けた、良い奴だからだ。
俺は艦内のドックにいる、心が定まったのなら来てくれ。
では、また後で」
第5話 2020/03/10
──宇宙戦艦内、空き部屋
A2
「
『命の危機だから』とあなたを言いくるめ、塩基レベルで強制的に融合し、知らぬ間に人間を辞めさせた、この私に」
カルマス
『そんな気持ちは無いよ』
A2
「では、あなたは何を感じているのです?
悲しみ? 嘆き? 諦観? それとも……」
カルマス
『(いつもの混線かと思っていたら、なんだか大変なことになっちゃったな……)』
A2
「──私を、殺したいと?」
カルマス
『考えてもいないって!』
A2
「……、……あなたは怒るべきだ!
怪物である私を拒絶するべきだ! なぜそうしない!」
カルマス
『だって──A2は、自分を助けようとしてくれたから』
A2
「?!」
カルマス
『気絶していた自分を保護してくれて、戦う力までくれたA2のことを、一方的に責められない。
それに、選んだのは"自分"だ。
どっちが悪いとか無い。
責任は……お互いにあるかもしれないけど』
A2
「……あなたは、もっと他者に怒りを抱くべきだ」
カルマス
『たまに言われるよ』
A2
「誰にです? あなたにはもう、"A2"以外いないというのに」
カルマス
『それってどういう……?』
A2
「何でもありません。
少し、一人にさせてください」
カルマス
『うん、分かった』
──艦内ドック
オデュA012
「気分転換に来たのか、
艦内通路は一部無重力だったが、うまく移動できたか?」
カルマス
『問題なく。ええと』
オデュA012
「オデュッセウス、と呼び捨てにしてくれて構わない。
パイロット同士、お前と俺は対等だ」
カルマス
『ここで整備されている機体が、オデュッセウスの乗っていた……』
オデュA012
「そう、戦闘代行巨人。
巨神と同じく、ゾルテトラに通用する唯一の兵器だ。
……目が輝いているぞ、こう言ったものが好きなのか?」
カルマス
『す、ご、く』
オデュA012
「そうか! では、簡単な概要だけでも教えてやろう。
深く突っ込んで話すと、軍事機密に触れてしまうからな。
こほん……今目の前にあるのが、巨人オデュッセウス。
俺と同じ名の機体だ、お前の巨神とはそこも違うな」
カルマス
『どう言った違いが?』
オデュA012
「実を言えば、巨人と俺は同一存在なんだ。
俺は巨人オデュッセウスの生体部品に過ぎない。
例えるなら、俺が脳、巨人は体だ」
カルマス
『生体部品?!』
オデュA012
「パイロットは、その巨人に合わせて製造される人造人間。
俺はオデュッセウスタイプで、アカイア工場で作られた巨人ナンバー012のパイロット。
だから呼び名が、オデュッセウス、アカイア、012。
縮めれば『オデュッセウスA012』となる。
俺と同タイプの人造人間は、工場違いも含めれば現在10000体以上いたはずだ。
……驚かせてしまったかな。
軍事機密ではないが、民間人が知る
カルマス
『オデュッセウスタイプっていうことは……』
オデュA012
「大元となったオリジナルは、今から1000年前、
彼は軍に自らの遺伝子を提供すると、歴史の表舞台から消えたそうだ」
カルマス
『人神戦争ってなんですか?』
オデュA012
「過酷な戦いに疲れ果てた一部の
その結果起きた戦争。
巨神の発展系である戦闘代行巨人も、この戦いの最中に生み出されたもの。
人と神の争い。故に人神戦争と呼ばれた。
……軍から教育を受けた俺の知識、それが正しければの話だがな」
カルマス
『(この世界にも、色々と事情があるんだな……)』
オデュA012
「始めに巨神があり、次に巨人が作られた。
まるで太古の神話の如く。
そう言えば、たしかこういった歴史は、一般の教育機関でもカリキュラムに含まれていたと記憶しているが」
カルマス
『べ、勉強嫌いでっ』
オデュA012
「俺は好きだぞ、知らぬことを知識へ変えていくのは楽しい。
む、なんだ、この怖気は」
オペレーター
「ブリッジより通達! ゾルテトラ接近!
繰り返す! ゾルテトラ接近!
総数、確認できているだけでも50……。
いや……嫌ぁ! 100です!!」
カルマス
『3体でも苦戦したのに、そんなに!』
オデュA012
「
カルマス
『オデュッセウスは……』
オデュA012
「俺は当然出撃する。
人間を守るために生み出された、戦闘を代行する巨人だからな」
カルマス
『自分だって、A2と一緒なら戦える!』
オデュA012
「その気持ちだけ受け取っておこう。
……
巨神化症には個人差がある。
次に乗った時、お前の体がどうなるか分からないんだ」
カルマス
『自分は、自分は!』
オデュA012
「──傷つくのは、俺のような存在だけでいい。
戦うために生み出された、俺のみが。
分かってくれるな?」
カルマス
『……』
カルマス
『(パニックになっている人達の声が聞こえる……)』
「ゾルテトラが来たって?」「そんな……軍に保護されれば安全だと」「みんなしんじゃうの?」「艦隊の中は安全なんだよね? ねぇ!」
「ああ……どうか」「神様! みんなをお守りください!」
A2
「お帰りなさい、
カルマス
『……たい』
A2
「ええ、あなたの想い、A2へ伝わってきます」
カルマス
『守るために、戦いたい!
もう一度、アルジュナオルタナティブに乗せてくれ!』
A2
「……いいでしょう。
巨神は東ドックにあります、着いて来てください」
第6話 2020/03/11
──艦内ドック
カルマス
『あった! 巨神アルジュナオルタナティブが!』
A2
「ハッチオープン! さぁ
カルマス
『オデュッセウスを助けに行こう! 発進!』
???
「うーん……なんとまぁ元気がいい。
あれが伝説の巨神とそのマスターか……」
──宇宙空間
オデュA012
「こちら、オデュッセウスA012! ゾルテトラと接敵した!
確認できるだけでも100体以上いる!
ブリッジ、聞こえているか!」
オペレーター
「し、新艦長に代わります!」
新艦長
「A012!
私は発進も戦闘も許可していないぞ! 即刻戻って来なさい!」
オデュA012
「それは無理だ。
今戻れば艦は落ちる、数百の民間人と共に」
新艦長
「この分からず屋め!
我が艦に所属している巨人は、貴様しかおらん!
貴様が死……落ちれば、戦う術を失う。
そんな軍艦など、ゾルテトラから見たらローストビーフのマッシュポテト添えのようなものだ!」
オデュA012
「……敵を撃破。
すまない聞いていなかった、繰り返してくれ」
新艦長
「滑ったギャグをもう一度言えるほど、面の皮は厚くないのだがね?!」
オデュA012
「俺が囮となる、その間に少しでも距離を稼いでくれ」
新艦長
「くぅ、もうどうにもならんのか?!
無謀な任務を出した上層部を、貴様の分まで恨んでやる!」
オデュA012
「(新艦長は良き人間だ。
俺の気持ちを汲み取り、逃げてくれるだろう……。
そして俺は、ゾルテトラに囲まれて死ぬ。
人命救助がため、これは必要な犠牲だ)」
機械音声
「機体浸食率、30%」
オデュA012
「報告ありがとう。
……弾丸状に変形し、飛んできたゾルテトラによって、装甲が幾つか奪われたか。
だが、背部のレーザー兵器がまだ動く。
足掻いてみせるさ、最後まで」
A2
「あの男を見つけました。ですが、あれは……」
カルマス
『間に合ってみせる! オデュッセウスー!!』
──数分後
オデュA012
「(これが、俺の終わりか……)」
機械音声
「機体浸食率、90ぱーせ、せせせせせ……」
オデュA012
「補助AI、今まで良く俺を助けてくれたな。
最後にその任を解こう」
機械音声
「……」
オデュA012
「これが……ゾルテトラの捕食……巨人が溶かされ食われていく……。
その食われたものが新たなゾルテトラとなり……。
そして、俺の精神まで貪られ、奴らの巨大な精神ネットワークの、思考機能の一部にされるのか……」
機械音声
「敵接近……」
オデュA012
「(俺のオリジナルにあたる男も、最後には敵の海に還ったのか。
それとも、愛する者の腕の中へ帰ったのか……。
分からない、心が消えていく、ああ、こうなるならばせめて……)」
オデュA012
「終わる前に、オリジナルのように、誰かを愛してみたかった……」
???
『──まだ終わりじゃない!』
オデュA012
「その、こえは、マスター……なのか?」
???→カルマス
『ああ! オデュッセウス、もう大丈夫、今助ける!』
A2
「マスター、ゾルテトラの数が多すぎます」
カルマス
『武器は!』
A2
「私本来のものはありませんが、ここに、オデュッセウスの武装の一部が」
カルマス
『使えるかな?』
A2
「ロックがかかっています、A2に少し時間をください。
上位命令『インドラ』使用、コード書き換え完了、破損個所を改良修復。
フェイトエンジンとの接続……成功、エネルギー充填。
よし、いつでも撃てます」
カルマス
『ゾルテトラから少し離れて……A2! 標準任せた!』
A2
「名付けるならば! アイギス:インドラカスタム!
ファイヤー!!」
オデュA012
「敵が、次々と蒸発していく……」
カルマス
『もう安心だよ、オデュッセウス。さぁ船へ帰ろう』
オデュA012
「ありが、とう、マスター、A2」
A2
「私はマスターに従ったのみです、礼など要りません」
カルマス
『(ツンツンしてるなぁ)』
──艦内ドック
???
「オデュッセウス! オデュッセウスー!
無事……じゃないな、医務室へ運ぼう。
侵食部位を切除しなければ」
カルマス
『うわぁ!!』
???
「なんだ、失礼なパイロットだな。私の顔を見るなり驚くなんて」
カルマス
『(キルケーにそっくりだ!)』
???(以下キルケー)
「私はこの艦の大メカニック兼大医者だぞ! 一番偉いんだぞ!」
新艦長
「一番偉いのは私だ!
ええい全く、どいつもこいつも勝手に動きおって……!」
カルマス
『(新所長にそっくりだ……)』
A2
「知らぬ顔が増えてきましたね、マス……一般人。
どうしたのです、戦いの後だというのに、頬をだらしなく緩ませて」
──宇宙空間
???
「1000年前、銀河の暗黒に消えた神は言いましたー。
『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』……って。
まぁ、巨神であり
にしてもすごいですねぇ、巨神アルジュナ。
ゾルテトラ数百体を簡単に片づけちゃうだなんて。
……本当に、むかつく存在。
マーラちゃんの望みはただ一つ、私をぐちゃぐちゃにした人類を滅ぼすこと。
そのためには……あの巨神はとっても、邪魔……」
第7話 2020/03/12
──艦内ブリッジ
A2
「この男が新艦長。
ふくよかな男ですね、カイゼルひげも剃った方がいいのでは?」
新艦長
「君のAIは少々辛辣すぎやしないかね?」
カルマス
『本当はいい子なんです』
A2
「一般人、あなたが私の何を知っているというのですか、全く……」
新艦長
「うぉっほん、えへんおほん……私は艦長のゴルドルフ・ムジーク!」
カルマス
『(やっぱり)』
新艦長
「この未踏地域にて、巨神探索を行っていた軍人だ。
その最中、オデュッセウスが貴様等を見つけてきたという訳だな!」
カルマス
『保護してくださり、ありがとうございます』
新艦長
「うむ、礼は大切だぞ礼は……誰も彼も私を軽んじおって。
もう艦長になって数年経つしさ、『新』をとって呼んで欲しいよねホント」
カルマス
『(この世界でも苦労しているみたいだ)』
新艦長
「えー、私が貴様に命じることは1つ。
……今すぐ医務室へ行って検査を受け、その後は自室待機だ!」
カルマス
『2つでは?』
新艦長
「君の体の心配をしているんだから、早く行きなさいよ?!」
──艦内医務室
キルケー
「おっ、来たねマスター。
私はこの艦の大メカニック兼大医者、名をキルケー。
長いつきあいになりそうだから、これからよろしく」
A2
「長いつきあいになどなりません」
キルケー
「きみのA2はなかなかツンケンしているな。
まぁ、巨神付きAIなど、みなそんなものか。
マスター、医療用ベッドへ横におなり。
巨神化症の検査をしよう」
──1時間後
キルケー
「ふむふむ、今のところ、引っかかるほど変化は出ていないな。
きみは運がいい
なのでー……進行を抑えるため、巨神化症拮抗薬を投与する」
カルマス
『すごく太い……注射……』
キルケー
「はい! ぶすっといくよー!」
カルマス
『ぎゃあああ!』
カルマス
『……腕がずきずきする』
キルケー
「艦に拮抗薬があって良かったね。
さぁ、自室で休んでおいで。
これから忙しくなるかもしれないし」
カルマス
『その前に』
キルケー
「うん?」
カルマス
『──オデュッセウスのお見舞いをさせてください』
──艦内医務室、特殊治療室
カルマス
『こんな、ひどい……』
キルケー
「そうでもないさ、浸食部位は全て切除出来たのだし。
今は治療用カプセルに浸からせて、クローニングした腕やら足やら定着させているところ。
カプセルから出るのに一ヶ月、リハビリ二ヶ月。
合わせて全治三ヶ月」
カルマス
『大丈夫……なんですか……?』
キルケー
「もちろんさ。なんていったって私は」
カルマス
『大魔女?』
キルケー
「大メカニック! だよ!
なんだい魔女って……」
カルマス
『治療ありがとうございました! 自室に戻ります。
A2、行こう』
A2
「はい、一般人」
キルケー
「ふぅ、行ったか。
私は本当に愚かなメカニックだよ、オデュッセウス。
1000年前と同じ事を、変わることなく繰り返している。
何時になったら、この運命から解放されるんだろう。
お前が傷つき、死んでいく姿をあと何回見ればいい……?
いや、あの戦争で最後までどっちつかずでいた、私への罰だと思えば、これが相応しいのか。
……羽が生えてもどこにも行けないだなんて……あの頃は思ってもみなかった……」
──1000年前
キルケー
「オデュッセウス! 聞いておくれー!
私も、きみと同じように巨神パイロットの適性があったんだ!
これで隣に並び立って戦えるよ!」
オデュッセウス:オリジン
「……そうか。
過酷な戦いになると分かっていても、お前はそんな風に笑うのだな」
キルケー
「大丈夫だ! この戦争はもうすぐ終わる!
そうしたらきっと、みんな故郷へ帰れるさ。
……きみも、大好きなペーネロペーの元へ帰れる」
オデュッセウス:オリジン
「そう、だな。俺は、ペーネロペーの元に帰らなければならないんだ。
そう……だったな」
キルケー
「どうしたんだい、きみらしくもなく弱気で」
オデュッセウス:オリジン
「新型拮抗薬の副作用だ、気にするな。
……戦場で共に戦うことあれば、俺の背中は預けるぞ、キルケー」
キルケー
「任された! なんていったって大パイロットだからね! ふふん!
巨神ヘカテに乗り、空を舞う鷹のようにきみを守ってやるとも!」
第8話 2020/03/13
──艦内空き部屋、もといマスター自室
カルマス
『A2、どこかに行くの?』
A2
「アルジュナオルタナティブの整備状況を見てきます。
直ぐに戻りますから」
カルマス
『分かった。
……その間暇だなぁ、注射の後だから、筋トレも出来ないし』
???
「ごめんください。
あの、扉を開けてくださいませんか、パイロットさん」
カルマス
『(女の子の声だ、どことなくアビーに似ている)』
???
「戦いの後で、お休み中でしょうに……。
こんなお願いをしてしまって……」
カルマス
『待って、今、開けるよ。どうぞ中へ入って』
???
「えっと……はじめまして、私達を救ってくださったパイロットさん」
カルマス
『(アビーに見た目もそっくりだ)』
???(以下アビー)
「私は保護された民間船に乗っていた者で……。
勇敢なあなたにお礼を差し上げようと思って、来たんです」
カルマス
『そんなことしなくていいよ』
アビー
「でも、あなたとオデュッセウスさんが助けてくださらなかったら、ゾルテトラに溶かされ食われて……人の敵になっていたの。
そんなのとても嫌だったから、神様にお祈りをしたの。
みなをお救いください、お守りくださいって。
そしたら……助けが来てくれた。
黒と青と金色のロボットが」
カルマス
『……』
アビー
「オデュッセウスさんにもお礼を伝えたかったのだけど、今は眠っていて会えないと、お医者様に言われたから……。
だからあなたの元へ。
チョコレート味の甘いレーションが配られたんです。
パイロットさん、どうぞ、遠慮なさらずに……きゃっ」
カルマス
『危ない、転んで頭をぶつけるところだったね、怪我はない?』
???
「──あら、座長さん。
今日は随分と遠い空にいらっしゃるのね?」
カルマス
『……、……、……アビゲイル』
???
「ええ、その通り。
セイレムの魔女にして白銀の鍵、アビゲイル・ウィリアムズ。
私によく似たこの子と、魂で繋がってしまったみたい。
不思議なこともあるわ……ふふふ……」
カルマス
『久しぶり、旅は順調?』
???(以下アビゲイル)
「まだ大図書館にいるの。
知識を蓄える時間が必要だと、叔父様が仰るから。
色んなことを知ったわ。
座長さんにお話ししたら、星が消えるほどの時間がかかってしまいそう……」
カルマス
『元気そうで良かった』
アビゲイル
「この異界の空から、カルデアへお帰りになる術を、あなたは知っているかしら」
カルマス
『その方法を、アビーが?』
アビゲイル
「大図書館のご本に記されていたの。
遠い未来……人が母なる星より追われ、流浪の旅人となる歴史書……ある
──世界をお救いくださいませ、巨神の
最後に消えた黒い神の、最後の剣と振るう者の心を見つけて」
カルマス
『最後に消えた黒い神の……剣と、心を?』
アビゲイル
「ええ。
剣を振るう者には、心がなければ意味がないの。
心だけあっても、剣がなくては何も成し得ないの。
あなたは心を目覚めさせるために招かれ、剣を手にするためにここにいる。
……ねぇ、座長さん」
カルマス
『なぁに?』
アビゲイル
「あなたが望むなら……私はあなたの手をとって、帰還の門を開けるわ。
まだこの世界は、私の指の届く空。
ここならきっと……何もかもから、あなたを」
カルマス
『──途中で放り出すわけには、いかない』
アビゲイル
「そう……なら、今日は笑顔でお別れできそうね」
カルマス
『教えてくれてありがとう。探してみるよ、剣と心を』
アビゲイル
「たくさんお話をしたから、お借りしているこの子の口と体、疲れていないと良いけど……」
カルマス
『話が出来て、嬉しかった』
アビゲイル
「あのね、最後にもう少しだけ、伝えたいことがあるの。
座長さん、カルデアのマスターさん……。
この世界は良く似ていて、けれど違う人々が生きているわ。
あなたの瞳は彼らの心と魂を見通し、相応しい姿を見せるけど──気をつけて、全て同じとは限らない。
この子もアビゲイルだけれど……運命も人生も全て違うわ、生まれた日の星空だって」
カルマス
『そう……なんだね』
アビゲイル
「ああでも……ふふ、この世界の私の隣には『あの子』がいるみたい。
分かってしまう」
カルマス
『アビゲイル……』
アビゲイル
「名残は尽きないけれど、もう時間ね。
それではまた……星辰の揃うときに、会えると……」
カルマス
『うん、また会えると嬉しい』
アビー
「……ううん。
私、少し気を失っていたみたいです。
びっくりさせちゃってごめんなさい、パイロットさん」
カルマス
『気にしてないよ』
アビー
「そうかしら? なんだか目元が腫れているような……」
???
「ぁ……アビー、そこにいるの……?」
アビー
「ラヴィニア!
ええと、彼女は私の友達で……きっと帰るのが遅かったから、心配して探しに来てくれたのね。
パイロットさん、またお会いしましょう、ごきげんよう!」
カルマス
『……うん』
曲がり角からA2
「部屋から少女が出てきた……つまり彼は、また私以外の者と話していたのか。
1000年前から、そう決まっているはずなのに……!
おかしい、どうしてこんなにも執着してしまうんだ。
理由が思い出せない。
思い出せるのは……」
──1000年前?
???
『アル……ジュナ、これで、良かったんだ』
A2?
「マスター! マスター!
ああ、そんな、私は、あなたと、共にいたかっただけなのに。
いや、私は諦めない。
例え千の時が過ぎ去ろうと……もう一度、あなたと……!」
──現代
A2
「思い出せるのは、悲劇の記憶ばかりで……。
私はA2、アルジュナオルタナティブのAI。
けれど、本当にこの自己認識は正しいのか?
そして……私が目覚めた時すでに、機体の内側にいた我がマスターは……何者なのか?」
第9話 2020/03/15
──カルデアのマスターの意識が、この世界の人物と混線してから数日。
──艦内ブリッジ
カルマス
『おはようございます、新艦長』
新艦長
「……この艦を預かってから数年経つというのに、オデュッセウスを初めとして、誰も私を艦長と呼んでくれんのだ。
君は民間人だそうだが、一般的な感性から見て、これをどう思う?」
カルマス
『自分も、貴方の顔を見ると新艦長! って呼びたくなるので……』
新艦長
「なんでだね?! そんなに馴染んでいないかね?!」
カルマス
『親しみからです』
新艦長
「……そうなの?」
A2
「二人とも、A2を置いてけぼりにして会話をしないでください」
新艦長
「本題に入ろう、えーっと」
カルマス
『マスター呼びでいいです』
新艦長
「うむ、マスターよ。今の状況について話そう」
新艦長
「この艦は、軍の任を受けてこの空域を航行していた。
その内容は……巨神の捜索だ。
1000年前の人神戦争の際、多くの巨神と
カルマス
『巨神兵だけじゃなく、
新艦長
「戦後の混乱もあり、捜索活動は打ち切られたのだが……。
現代になり、事情が変わった。
ゾルテトラが過剰増殖し、巨人だけでは人類を守りきれなくなってしまった」
A2
「自業自得では?」
新艦長
「……」
カルマス
『新艦長が落ち込むから、あまり責めないの』
A2
「はい、マスター」
新艦長
「えへんおほん……続けるよ?
軍は、行方知れずであった巨神を探す事に決めた。
新兵器開発の助けとするためだ。
そして、このゴルドルフ・ムジークに捜索任務を命じたと」
カルマス
『なるほど』
新艦長
「しかし、イレギュラーな事態ばかり起こっている。
……禁足空域だというのに、民間船が漂流していたし。
……貴様のような人間と巨神を保護してしまうし」
カルマス
『……』
新艦長
「……唯一戦えるオデュッセウスは、全治3ヶ月のひどい怪我を負ってしまうし」
A2
「それで? 何が言いたいのです、ゴルドルフ」
新艦長
「まさかの名前呼びぃ?!」
カルマス
『自分が、戦います』
新艦長
「キルケーも言っていた、『きみならそう言い出すだろう』と。
私としても、戦う術を失った我が艦が、頼れる相手は君しかいないと考えていた。
友軍や物資の支援を乞いたくとも、ここは禁足空域。
軍への連絡も届かぬ、宇宙の僻地だ」
カルマス
『連絡が届く空域まで、みんなを守ればいいんですね』
新艦長
「そうする以外、私達も保護した民間人も、無事に帰られる方法は無いのだろう。
訓練も受けていない一般人に、このような事を頼むのは……うぐぅ……」
カルマス
『大丈夫です、覚悟していましたから』
新艦長
「私より若いというのに、腹をくくるのが早いな……。
うむ、安全な場所までたどり着けたら、君に然るべき報償を与え、解放しよう。
それまでの3ヶ月間、私達と君は一蓮托生というわけだな」
カルマス
『よろしくお願いします!』
A2
「では、マスターは再び巨神に、A2と共に……」
新艦長
「あんな! 危険きわまりない兵器に! 民間人を乗せられるか!
君はほら、巨人オデュッセウスに乗るといい。
巨神パイロットは、巨人への適性もあるからな」
カルマス
『別機体への乗り換えイベント!?』
A2
「いけません! 何があるか分からないではないですか!」
新艦長
「何を言っておるのだね、A2。
過去の人神戦争のデータから、巨人の安全性は確かめられている。
むしろ、巨神に乗る方が危ないのだぞ?」
A2
「そういう問題では……ああもう!」
──艦内ドック
カルマス
『オデュッセウスに悪い気がするけど……是非もないよネ!』
A2
「その前に、このA2へ何か言うことがあるのでは?」
カルマス
『おー……起動できたー……。
これがオデュッセウスの乗っていた巨人……』
A2
「うううう!!」
カルマス
『神経接続もあるけど、一部は考えて操縦する必要があるのか』
A2
「もうマスターなんて知りません!
その巨人と、せいぜい仲良くしていてください!」
カルマス
『待ってA2……行っちゃった』
──艦内ドック、訓練室
???
「おう、マスターじゃねぇか」
カルマス
『土方さん?!』
???(以下、土方)
「まだ名乗りもしてねぇのに、俺の名前を知っているのか。
面白いやつだ、それに
俺はただの軍人だ、お前を鍛える命令を受けて来た。
さて、モニター起動!!」
カルマス
『仮想空間で、訓練……?』
土方
「そうだ、仮想敵の役は俺。
巨神と巨人じゃ操縦の勝手が違う。
殺す気で来い、ゾルテトラは情けなんてかけちゃくれないからな」
──3時間後
土方
「休憩にするぞ、マスター」
カルマス
『手も足も出なかった……』
土方
「新人にしては動けている方だ。
こっち来い、軍用レーションを支給する」
カルマス
『コスモアップル味』
土方
「俺のコスモタクアン味は分けてやらねぇぞ、栄養価が高すぎるからな。
そうだな、お前が食べている間、世間話でもしてやろう」
──数分後
カルマス
『孤児だったんですか?』
土方
「ああ。
そして孤児院へ恩を返すため、軍人になった。
俺の幼なじみもそうだった。
……あいつは、民間人にしては珍しいことに、巨人パイロットの適正があってな。
上の人間に連れて行かれた」
カルマス
『(コスモアップル味だぁ……)』
土方
「初めの数ヶ月は、稼ぎと一緒に孤児院に手紙が届いた。
やれ訓練が厳しいだの、みんな私より弱いだの。
あいつらしい手紙だった。
1年経つころ、ぱったり途絶えた。
俺は……後ろ黒いこともやり、情報を集めて、所在を調べた。
手に入れた極秘文書には、『新兵器の実験パイロットになり、行方不明』と。
軍はこの事実をひた隠しにしていた」
土方
「だから俺は今回の作戦に参加した。
──沖田を見つけだす、ただそれだけのために。
あいつはきっと、この銀河のどこかで戦い続けている。
ガキの頃にやった
カルマス
『……』
──マスター自室
カルマス
『(オデュッセウス、新艦長、キルケー、土方さん……A2。
知っている顔をした知らない人達は、それぞれの人生と運命を背負っている。
どうしたら、この世界を救えるんだろう。
アビゲイルの言ってた事も気になる。
最後に消えた黒い神の……剣と、心……)』
オペレーター
「ブリッジより通達! ゾルテトラ接近! 数は3!」
カルマス
『考えるのは後だ! 巨人オデュッセウスで出撃しないと!』
第10話 2020/03/16
──艦内ドック
カルマス
『A2、どうして巨人の前に……』
A2
「あなたが出撃するなら、A2は着いていく。当然のことです。
それに、あなただけでは処理能力に限界があるでしょう。
私が補佐します」
カルマス
『操縦席は一人用だよ』
A2
「では……システムを少しいじり……補助AIを私へ置き換え……。
これで良いはずです」
カルマス
『あっ、A2が立体映像になって、コクピット内に出てきた!』
A2
「意識のみをこの巨人に転送しました。
肉体はキルケーへ預けることにしましょう、それでは出撃!」
カルマス
『複座もロマンあるよね……』
A2
「私達の機体で出撃すれば、まどろっこしい事をせず済みますのに。
はぁ……」
──宇宙空間
カルマス
『アイギス:インドラカスタム、ゾルテトラをロックオン!
……いっけぇぇぇ!』
A2
「敵の体が霧散、コア露出!」
カルマス
『連続射撃で叩く!』
A2
「後方から敵接近、数は──」
カルマス
『1体だよね! 分かってる!
デブリを盾にして攻撃を逸らし……せいやー!』
A2
「マスター、凄いです! 凄い成長速度で……!」
──艦内ドック
土方
「おう、無事に帰ってきたな、マスター」
カルマス
『訓練のおかげです』
土方
「メディカルチェックを受けたら、自室で少し寝ておけ」
カルマス
『分かりました』
土方
「新しい訓練プログラムを作っておく。
起きたら、俺のところへ連絡よこせ」
カルマス
『しっかり休んできます』
土方
「ずいぶんとやる気があるじゃねぇか、お前のマスターは」
A2
「はい……そう、ですね」
──マスター自室
カルマス
『(カルデアのみんな、今頃どうしているかな……)』
A2
「……マスター」
カルマス
『A2! どうしたの?』
A2
「マスターは、A2より巨人の方が……好ましいのですか」
カルマス
『どっちも好きだし、同じくらい大切だよ』
A2
「……! そうですか、なら良いのです、ええ、良いのです。
……ベッドに腰掛けても構いませんか?」
カルマス
『いいよ』
A2
「……あなたのことが心配なのです。
その、目を離したら、どこか遠くへ行ってしまいそうで」
カルマス
『(いずれ、カルデアに帰らないといけない。
A2とはお別れになるかも……)』
A2
「そんなことを予感させる、恐ろしい夢を見るのです。
AIが夢など、人間が聞いたら笑うかもしれませんが」
カルマス
『どんな夢を見たの?』
A2
「コクピットの中に、誰か分からないパイロットがいる。
その人物は傷だらけで……私によく似たAIが側に。
AIは涙を流していた」
カルマス
『どんな姿だった?』
A2
「えっと、角や尻尾が無い以外は本当にA2とそっくりなのです。
不思議なことに」
カルマス
『(アルジュナと同じような姿をしていたのかな?)』
A2
「マスターに伝えていないことがあります。
それは、その……実は、私の記憶は完全ではないのです」
カルマス
『記憶喪失みたいなもの?』
A2
「みたいなもの……です。
自分は、巨神アルジュナオルタナティブのAIであると言うことは、分かります。
が、なぜ1000年前に封印されたのか。
どうしてあの機体が産まれたのか、自分が産まれたのか、覚えていなくて。
……ごめんなさい、マスター。
A2は不出来なAIです」
カルマス
『最近ちゃんと眠れている?』
A2
「肉体を得る前は睡眠の必要など無かったのに、今の体には不可欠で。
けれど、うまく眠れないのです、へたくそなのです」
カルマス
『ベッドを貸すから、少し眠りなよ』
A2
「……眠るまで、側にいてくれますか、マスター」
カルマス
『もちろん』
カルマス
『(アビーは「黒い神の、最後の剣と振るう者の心を見つけて」と言っていた。
分からないことだらけだけど、A2の夢にヒントがあるかもしれない。
時々こうして話を聞いてあげよう……)』
──2時間後
A2
「……マスター、あなたはそこにいますか?」
カルマス
『いるよ。
おはよう、よく眠れた?』
A2
「夢も見ず、ぐっすりと」
カルマス
『訓練の前に、食堂へ一緒に行こう。
美味しくて温かいものとか食べよう』
A2
「それは興味深い誘いです。
A2はお味噌汁が食べてみたい、出汁巻き卵も」
カルマス
『よく知ってたね』
A2
「はい、なぜかそんな事は思い出せるのです……おっと」
アビー
「ごめんなさい! 私ったら前を見ないで走っていて!
パイロットさんと、そちらの方は?」
A2
「えっと……なんと言えばいいのでしょうか」
カルマス
『自分のパートナーだよ』
A2
「!!
……そうです、私はA2、マスターの唯一無二のパートナーです」
アビー
「はじめまして。
私、アビゲイル・ウィリアムズと言います。
パートナーさん、ぶつかってしまってごめんなさい」
A2
「A2は心がとっても広いので、許します」
カルマス
『今日は友達と一緒なんだね』
アビー
「後ろに隠れているのはラヴィニア! 私の大切な友達!」
ラヴィニア
「しょ……紹介なんて、しなくていいわ。
相手のめいわ」
アビー
「そんなことを、自分に対して言わないで……。
私、胸が張り裂けてしまいそう……」
カルマス
『どうしてここへ?』
アビー
「お髭が素敵な艦長さんが、こんな感じにおっしゃってたの。
『狭い区画に押し込められては、ストレスもたまり、健康に悪い!
邪魔にならない範囲であれば、民間人は出歩いてよし!』と。
ですから、朝から友達みんなで探検を。
……艦長さんの真似、似ていたかしら?」
カルマス
『とっても似ていたよ』
アビー
「ありがとう、パイロットさん。
ああそうだ、友達、もう1人いるの!
この子の名前はカーマ! つい昨日友達になったのよ!」
???
「こんにちは、パイロットさん」
カルマス
『(幼い姿をしたカーマだ……)』
アビー
「カーマは色んな事を知っていてね……あら、艦内アナウンスが」
オペレーター
「ブリッジより通達、巨人パイロットは直ぐに艦長室に来られたし」
カルマス
『ごめんね、行かなくちゃ』
アビー
「またお会いしましょうね、パイロットさん」
カーマ
「……パイロットと、そのパートナー」
アビー
「どうしたのカーマ? お顔を両手で隠して」
カーマ
「何でもないですよー……くすくす」
──艦長室
新艦長
「うむ、よく来てくれたな」
カルマス
『お話は何でしょう?』
新艦長
「これを見てくれ」
カルマス
『レーダーに映っている点が、消えたり、別の場所に跳んだりしている……』
新艦長
「数日前から反応が出るのだが、どうもゾルテトラでは無いらしい」
A2
「前回のように民間船ですとか、または壊れた艦の残骸などで?」
新艦長
「我が艦のAI、『DA☆VINCI-TYAN☆』の分析結果によると、反応の正体は巨神であるそうだ」
カルマス
『消えたり、現れたりする巨神……?』
新艦長
「この艦の本来の任務は、失われた巨神の捜索である。
覚えているな?
なので、私は君に命令する。
──謎の巨神とコンタクトし、搭乗者がいなければ回収。
内部に人間がいるようであったら、速やかに保護せよ!
分かったかね?」
カルマス
『イエス! マイキャプテン!』
A2
「……それはどういう意味の返事なのですか、我がマスター」
第11話 2020/03/17
──宇宙空間
カルマス
『レーダーによるとこの辺りらしいけど。
あるのは、大昔の戦艦の残骸くらいだ……』
A2
「巨神の痕跡も無し、と。
残骸は1000年前の戦争の跡でしょうか、痛ましい」
カルマス
『たくさんの人が亡くなって、巨人も巨神も壊されたんだっけ』
A2
「勉強したのですか、マスター」
カルマス
『休憩時間に少し。
ゾルテトラとの過酷な戦い、その中で進む巨神化症には、効果的な治療方が少なかった。
そして、多くのマスター達が亡くなった。
死を恐れたマスターは、自分達に戦いを強いた軍を脱走。
ゾルテトラと組んで、人間を滅ぼそうとした……』
A2
「巨神とそのマスターを軽んじた結果、自業自得です」
カルマス
『……そう、なんだろうか』
A2
「A2の考えはそうです」
カルマス
『ゾルテトラと手を組んだってことは、彼らとコミュニケーションする方法があるのかな?』
A2
「過去のマスターは、どうやって協力関係となったのでしょう?
謎ですね。
おや、反応があります。そこの戦艦の残骸の裏に……何か……」
カルマス
『──凄く綺麗な、巨神だ』
A2
「ボディラインは女性的。
腰に下げている武装は実体剣ですか。
頭頂部は白色、胴体や腕の外装の色は黒で、それを縁取るように金。
そして、全体のあちらこちらに、えんじの差し色が」
カルマス
『アルジュナオルタナティブと似ているね』
A2
「いいえ! 全然違います!
わた……こちらの方が断然かっこいいです!」
カルマス
『誰かいませんか? 乗っていませんかー?』
A2
「生体反応は無し。
1000年前に作られ、放棄された機体でしょうか。
詳しく調べてみないと分かりませんね」
カルマス
『じゃあ持って帰ろう。
ケーブルで繋いで……
A2
「障害物が多い、気をつけていきま──。
ゾルテトラ?! 反応がなかったのに、どうして!」
カルマス
『残骸を身に纏ってる! それでレーダーを騙していたのか!』
A2
「数は1体ですが、状況が悪い、荷物が大きすぎて……」
カルマス
『ケーブルを一度切って、荷物を離す!
近いと、運んでいる巨神を巻き込んでしまう!
十分に距離を取れたから……牽制射撃!』
A2
「いけない、マスター!」
カルマス
『なっ! ゾルテトラが巨神の方に!』
A2
「同化しようとしているのか!
巨神とゾルテトラの融合体なんて……不味い!
更に新たな敵反応、数は100以上!」
カルマス
『まさか、この巨神は囮?』
A2
「分かりません。
けれど、こんな短時間で100も集まるだなんて、何かがおかしい!」
カルマス
『艦に一度戻って、アルジュナオルタナティブに乗り換える!
帰還しつつ敵を減らす!』
A2
「分かりましたマスター、全力で補佐しましょう」
カルマス
『(巨神、ごめん。
せっかく見つけてあげられたのに……!)』
──艦へ帰還途中
カルマス
『アイギスのチャージ時間の隙に、次から次へと……!』
A2
「マスター! 敵の体当たりが!
衝撃来ます、備えて!」
カルマス
『ぐっ……くっ』
A2
「脚部破損、スラスターの出力50%低下。
破損個所からゾルテトラ侵食。
……どうしますか」
カルマス
『パージ、頼む!』
A2
「分かりました、右足パージ!」
カルマス
『(神経リンクしているから、まるで自分の足がもがれたみたいだ……!)』
A2
「鎮痛剤の量、増やします」
カルマス
『……ありがとう』
──艦へ帰還途中
カルマス
『あと何Kmで帰れる……? 凄く、遠く感じる……!』
A2
「覚醒作用のある薬剤、追加投与。
気をしっかりもってください、マスター。
敵の迎撃はA2が。
マスターは、機体を前へ動かすことだけ考えて」
カルマス
『う、前面に、ゾルテトラの体が網のように広がって……』
A2
「アルジュナオルタナティブであれば、こんな奴ら!
どうする? アイギスを自爆させるか?
しかしそれでは戦う術が!」
オペレーター
「こ……ち……らブリッジ! 聞こえるかパイロット!
君達の機体とゾルテトラを確認した! 援護する!」
カルマス
『そんなことしたら、艦の方に、敵が……』
土方
「マスター! 俺だ!」
カルマス
『土方さん!』
土方
「艦の一部に爆薬を積み込んで切り離す!
それをゾルテトラにぶち当てて、爆風で飛ばす!
その間にお前達を回収する! 良いな?」
カルマス
『分かりました。作戦の時間まで、耐えて見せます!』
土方
「いい返事だ! 生き延びて見せろ!」
オペレーター
「こちらブリッジ! ゾルテトラの数を確認……あれ?」
土方
「迅速に報告!!」
オペレーター
「報告します、数、80、50、30……」
A2
「マスター、あれを見てください」
カルマス
『さっきの巨神が動いて、実体剣で、ゾルテトラを切り裂いている……」
土方
「おい」
カルマス
『土方さん? どうかしたんですか?』
土方
「──沖田、お前、そこにいるのか?」
第12話 2020/03/18
──宇宙空間
カルマス
『誰か巨神の中にいる……?
だとするなら、呼びかけに答えてほしい!』
A2
「マスター、巨神、再び動きます!」
カルマス
『実体剣でゾルテトラを一刀両断、すごい……!』
A2
「あの巨神が引きつけてくれている内に、艦へ戻りましょう!」
カルマス
『見捨てるような真似できない。
まだ20体以上の敵がいるんだ!』
A2
「右足も無く、出力が低下している機体で、何ができると言うのです!
一度戻るしか……!
あっ」
カルマス
『ゾルテトラが刃状に変形して、巨神のコクピットを貫いて……!
そんな……そんなことって』
A2
「マスター?」
カルマス
『……よくも』
A2
「マスター! A2の声を聞いてください!」
カルマス
『よくもぉぉ!!!!』
A2
「フェイトエンジンの出力、急激に上昇。
まさか、怒りに呼応して?」
カルマス
『アイギス:インドラカスタム! 敵を射抜け!』
A2
「凄まじい衝撃……。
武器が、供給されるエネルギーに耐え切れていない……。
これほどまでの力が、人間にあるだなんて」
カルマス
『巨神! 今助け……コクピットに、穴が、空いて……』
A2
「当機体とこの巨神に、牽引ケーブルを結びました。
艦も迎えに来てくれています、帰りましょう、マスター」
カルマス
『……ああ』
──艦内ドック
土方
「帰ったか! あの巨神も一緒だな。
早速だがコクピット、開けるぞ」
カルマス
『立ち会い、ます。
A2、できそう?』
A2
「システムとコンタクトがとれました。コクピット、開きます」
土方
「沖田!」
カルマス
『あっ……』
土方
「……」
A2
「古びた浅葱色の羽織だけが、コクピットの中に落ちています……。
これは」
土方
「……すまん。少しの間、一人にしてくれ」
カルマス
『分かりました。行こう、A2』
A2
「……」
カルマス
『コクピットを開けてくれて、ありがとう』
A2
「はい、あれくらいお茶の子さいさい……? です、えっへん」
──自室
A2
「マスター、もう一度ご説明しますよ。
あの黒とえんじ色の巨神の中に、人はいませんでした。
だからあれが動いたのは、きっとAIが」
カルマス
『もしかしたら、誰かがいたのかもしれない』
A2
「コクピットの中に、人間やその他生き物の痕跡もありませんでした。
1000年ではありませんが、数年以上放置されていた。
そも巨神がひとりでに動くなど──」
カルマス
『気分転換に廊下を歩いてくる、部屋で待っていて』
A2
「……はい」
──艦内廊下
???
「こんにちは、マスターさん」
カルマス
『君はたしか、カーマ』
???(以下、カーマ)
「ええ。カーマ……ちゃんですよ」
カルマス
『こんな所で会うだなんて、偶然だね』
カーマ
「ええ偶然……くすくす。
そうだ。これ、アビーの代わりにお渡ししまーす」
カルマス
『マロン味の、甘いレーション?』
カーマ
「彼女、いつも言っているんです。
『頑張っているパイロットさんにお礼をあげたいのに、断られてしまう』って。
? カーマちゃんの顔をじっと見て……なんですか」
カルマス
『君によく似た人を、知っているんだ』
カーマ
「へぇ。それじゃあ、この単語もご存知かしら?
……『捨て犬部隊』、とか」
カルマス
『捨て?』
カーマ
「なーんだ。あなた、何にも知らない……本当に一般人なんですね。
捨て犬部隊については、軍人である艦長さんが詳しいんじゃないかしら。
カーマちゃんはただ、都市伝説について教えただけですので」
カルマス
『聞いてみるよ』
カーマ
「ええ、ぜひ……うふふ……」
──艦長室
新艦長
「すすすすすすす捨て犬部隊だとぉ!?」
カルマス
『(分かりやすく動揺している)』
新艦長
「ままま待て。紅茶で唇を湿らせて……うむ、落ち着いた。
さて、捨て犬部隊について。
これは一種の都市伝説なのだ」
カルマス
『どんな内容なんですか?』
新艦長
「……身よりのない子ども達を連れてきて、軍の実験に使うとか。
薬などで服従させ、秘密部隊を作り、表には出せない任務をやらせている、そんな話だ。
しかし軍属である私でさえ、影も形も見たことがない。
聞き分けのない子どもに、大人が言う作り話の一つだよ。
『いい子にしていないと、捨て犬部隊にされるぞ』と。
私も幼い頃、意地悪な大人にささやかれたことがあってな。
震えていたら、トゥールが言った奴を蹴り、殴り飛ばしてくれたが……」
カルマス
『教えてくれてありがとうございます』
新艦長
「うむ! 分からないことがあったら何でも聞いてくれたまえ!
私は結構、君を頼りにしているのだからな。
うん……って、もう帰ってるー!?」
──民間人用居住区
カーマ
「あのパイロット、カーマになった後の私の顔を知っているなんて、何者なの?
……ちょっと探ってみる必要がありそうですね。
……ああ、本当に面倒」
第13話 2020/03/20
──カルデアのマスターの意識が、この世界の人物と混線してから1週間。
──自室?
カルマス
『ううーん……おはよう、A2』
???
「……? 何を言っているのですか、私はアルジュナですよ?
角と尻尾が生えていますのでオルタの方です、お間違えないよう」
カルマス
『えっ?』
???(以下アルジュナ(オルタ))
「混乱しているご様子。少し説明しますね。
マスター、あなたが突如眠りから目覚めなくなり、カルデア中が厳戒態勢へ。
キャスタークラスのサーヴァントと、霊基違いのナイチンゲール2騎が問題調査に当たった。
現在もその作業中です」
カルマス
『アルジュナ(オルタ)は、どうしてここに?』
アルジュナ(オルタ)
「実体として居るわけではありません。
意識だけ、あなたの中に入り込んでいるようです」
カルマス
『つまり今の自分は、夢の中で会話しているようなもの?』
アルジュナ(オルタ)
「その認識が近しいかと。
ジェロニモが用意した、オジブワ族由来の礼装が、今の状況を生み出してくれたのでしょう。
礼装の別名はドリームキャッチャー。
あなたがベッドから落ちそうになり、私は思わず手を伸ばした。
その時、礼装とあなたに触れた……のが、きっかけとなったのか?」
カルマス
『カルデアのみんなは元気?』
アルジュナ(オルタ)
「マシュ・キリエライトは、冷静であろうと努めています。
他の職員も。
サーヴァント達の多くは、あなたの帰還を確信しているため、混乱してはおらず。
あなたが謎の眠りに陥ってから、数時間しか経っていませんもの」
カルマス
『──数時間?』
アルジュナ(オルタ)
「どうやら、マスターの体感時間は違うようですね」
──状況説明後
アルジュナ(オルタ)
「1週間近くもその世界で過ごした。
私と同じに見える存在、A2なるものと特殊な契約をしたと。
巨神、巨人なる全長約100mの大型ロボットに乗り、ゾルテトラというゲル状の敵性生命体と戦っている。
巨神に乗るごとに、あなたの体は人から外れていく。
しかし、ゾルテトラと渡り合える存在はマスターしか居らず、戦艦には保護した民間人が……」
カルマス
『だから、一生懸命に戦っているんだ』
アルジュナ(オルタ)
「あなたから伝え聞くA2は、ずいぶんと幼い印象を受けます」
カルマス
『アルジュナ(オルタ)の子どもの頃は?』
アルジュナ(オルタ)
「機会がありましたら、お話ししますね。
長い、長い話になるでしょうから。
……マスター、あなたはこれよりどうしたい、ですか?」
カルマス
『みんなを守りたい。
それに、この世界に自分が喚ばれた意味が、きっとあるはずだ』
アルジュナ(オルタ)
「しかし、戦うごとにあなたの人間性は削られていく」
カルマス
『削られたりなんてしない。
今から3ヶ月間、戦い抜いてみせる』
アルジュナ(オルタ)
「喚ばれた意味……か。いえ、何でもありません。
マスターの決意は固く、私はただ語らう以上の力を持たない。
であるならば、一介のサーヴァントとして、あなたを信じて待つしかありませんね」
カルマス
『待っていて欲しい、必ず帰るよ』
アルジュナ(オルタ)
「では、待っています。皆と共に。
……誰かがあなたを呼んでいる。さぁ、目を開けてください。
「マスター」
──艦内自室
???
「……スター、マスター! 起きてください!
あのゴルドルフとキルケーが、あなたを呼んでいます!」
カルマス
『おはよう、A2』
A2
「はい、A2ですよ! きちんとあなたを起こすことが出来ました」
カルマス
『(似ているけど、やっぱり違うなぁ)』
A2
「どうかしましたか? さっさとドックに向かいましょう。
そして用事を直ぐに終わらせ、今日こそ食堂のネームレス・レッドに、出汁巻き卵をねだりましょう」
──艦内ドック
新艦長
「あわわわわわわ」
キルケー
「ちょっとは落ち着きなよ!
この大メカニックが控えているんだぞ!」
カルマス
『新艦長! キルケー!』
新艦長
「お、お、遅いぞ君ィ!」
カルマス
『何があったんですか?』
キルケー
「説明しよう!
きみが牽引してきた謎の巨神、修理がてら調べようとしたら……。
あー、これ以上は本人から聞いた方が早そうだ」
???
「……」
カルマス
『あの立体映像の彼女は』
???
「む、ようやく話が通じそうな存在が来たな。うれしみ」
A2
「マスター、間違いありません。彼女は……」
???
「我が機体名、巨神、沖田総司オルタナティブ。
そして私はそのAI、名前はOSA2だ。
きょしんさん、と親しみを込めて呼んでくれると嬉しい」
A2
「巨神とその管理AI。私以外の……!」
第14話 2020/03/22
──艦内ドック
A2
「私はアルジュナオルタナティブのAI、A2。
お前は何者なのです、OSA2」
OSA2(以下きょしんさん)
「きょしんさん、と呼んでくれないと悲しい」
A2
「……」
カルマス
『ええっと、きょしんさん?』
きょしんさん
「なんだ? 私のものではないマスターよ」
カルマス
『聞きたいことがあるんだけど、いいかな』
きょしんさん
「構わないぞ。
きょしんさんには、大きな許容みがある」
カルマス
『レーダーに映ったり消えたりしていたのは、君だね?』
きょしんさん
「……? たぶんそうだ、きょしんさんの移動方法はすごいからな」
カルマス
『たぶん?』
きょしんさん
「生まれたて故、いくつか記憶がすっぽ抜けている。
が、自身の機体スペックは把握している。
心配するな、ふわふわ……していないぞ」
カルマス
『ゾルテトラに襲われた時、戦ってくれたのは君?』
きょしんさん
「そんなことはしていない。
それに、AIだけでは巨神が目覚めるほどの運命が動かない。
フェイトエンジンは運命で回るのだから、とても大きなロマンがいるんだ」
A2
「……」
土方
「おう、マスター。遅くなってすまんな。
あいつが、回収した巨神についていたAI。
……よく似ていやがる、そっくりじゃねぇか」
カルマス
『行方不明の幼なじみに、ですか』
土方
「俺に話をさせてくれ。いいか?」
カルマス
『どうぞ』
土方
「俺の名は土方歳三。お前は?」
きょしんさん
「機体の名前は沖田総司オルタナティブ、そして私はOSA2。
愛称はきょしんさんだ」
土方
「名前は誰からもらった?」
きょしんさん
「分からない。
ただ、目を覚ました時、脳内に浮かんできたのだ。
自分は巨神のAIであるという認識が、その次に名前が」
土方
「いつ目覚めた」
きょしんさん
「ほんの数十分前だ。
それより前の記憶はない……いや、少しある。
どれも霞のようだが、はっきりしたものは一つ。
──『命尽きるまで戦い続けろ、それがお前に与えられた責務だ』と。
女性の、血を吐きそうなほどの決死な声。
それが私に遺された言葉、生まれる私への贈り物」
土方
「……そうか。
新艦長!」
新艦長
「なんだね、土方君」
土方
「こいつは、生まれたての赤ん坊と同じだ。
尋問しようが、情報なんぞ持ってねぇ。
機体を調べた方が、製造年数やどこで作られたかが分かり、建設的だろうよ」
新艦長
「う、うむ、ではそのようにしよう。
我々の目的は巨神の捜索なのだからな」
きょしんさん
「待て、土方歳三」
土方
「なんだ」
きょしんさん
「私は、お前達に要求したいことがある。
……体が欲しい、そのためにマスターが欲しい。
誰か、私のマスターになってくれないか?」
──艦内食堂
???
「お待ちどうさま。出汁巻き卵だ。
私が鰹節を秘匿していて良かったな、パイロットとそのパートナー」
カルマス
『ありがとう、ネームレス・レッド』
A2
「ありがとうございます、ネームレス・レッド。
さっそく食べましょう、あつあつ、ふわふわのうちに!」
???(以下ネームレス・レッド)
「しかし、和食を知っている者が居たとはね。
君達まさか、ジャパンコロニーの末裔か?」
カルマス
『ジャパンコロニー?』
ネームレス・レッド
「ふむ。その反応は何も知らないといった様子だな。
私の勘違いか……。
今聞いたことは、どうか忘れてくれ」
カルマス
『……はい』
A2
「ふわふわなのに、どろどろではなく。
あつあつなのに、良い香りで……。
幸せな味! とっても美味しいです!
マスター! A2は毎日これでもいいです!」
カルマス
『栄養が偏るから、それはダメ』
A2
「そんな……!!」
──食後、艦内廊下
A2
「マスター、あのAIのこと、どう思います?」
カルマス
『分からないことばかりで、大変そうだ』
A2
「そうです! 大変なやつです!
突然現れて、あんな要求までしてくるだなんて……!」
カルマス
『きょしんさんが、大変そうだという意味だよ』
A2
「あっ……そちらの意味でしたか、勘違いしていました。
……、……、……マスターは、A2だけのマスターです。
他のAIと契約なんて、してはいけないのです」
カルマス
『うん、分かった』
A2
「……あのAIと、お話なんてしないでくださいね」
カルマス
『……』
A2
「マスター、どうして返事をしてくれないのですか、マスター……」
──マスター自室
A2
「すー……すー……」
カルマス
『お腹いっぱいになったからかな、寝てしまった……。
ごめんね、少し出かけてくるよ』
──艦内ドック
カルマス
『こんにちは、きょしんさん』
きょしんさん
「む。マスター、私に何か用か?」
カルマス
『少しお話したくて』
きょしんさん
「お話……きょしんさんには何も無いぞ」
カルマス
『じゃあその分、自分が何か話すよ』
──艦内ドック
きょしんさん
「これがお前の機体。
かっこいいな、ちょっと金色なのが私好みだ」
カルマス
『そう、アルジュナオルタナティブ。
前回の戦いで、巨人オデュッセウスは修理中。
今戦えるのはこの機体だけなんだ』
きょしんさん
「では、今何かあればお前はこれで出撃するのだな。
しかし……武器がないのか」
カルマス
『借り受けていたアイギスも修理中だし……』
きょしんさん
「素手み、だな」
カルマス
『ぷるぷるゾルテトラ相手に素手かぁ……』
──艦内ドック、歩きながら
カルマス
『どうして、体が欲しいの?』
きょしんさん
「私の中の遠い記憶の景色に、理由がある。
……小さな女の子と、男の子数人がじゃれ合っている。
喧嘩のような、稽古のようなものをしているのだ。
女の子はとても強くて、私とよく似た顔をしていた」
カルマス
『(沖田さん……)』
きょしんさん
「女の子はひとしきり笑った後……男の子ひとりひとりに手を伸ばして助け起こし、棒で叩いて、また打ち倒してしまうのだ。
でもなぜか、勝った方も負けた方も、楽しそうで嬉しそうで」
カルマス
『……』
きょしんさん
「私は、その光景にひどく魅せられてしまった。
A2のマスター、私は──誰かと、手を繋いでみたい。
でも、それが叶わぬ願いだとは分かっている」
カルマス
『きょしんさん……』
オペレーター
「ブリッジより通達! 不明の敵性存在が接近!
出撃可能パイロットは」
カルマス
『行かなくちゃ、みんなを守るために』
きょしんさん
「……そうか。
きょしんさんは、お前の勝利を祈っているぞ」
第15話 2020/03/23
──艦内ドック
A2
「遅くなってしまいごめんなさい、マスター」
カルマス
『大丈夫、来るまでの間に出撃準備をしていたから』
A2
「おや、そのパイロットスーツは」
カルマス
『キルケーが渡してくれた。
巨神化症の進行を抑える効果があるんだって。
今回は巨人ではなく、巨神で出撃することになるから。
それに、あらかじめ注射とか投薬とかも受けてきたんだ』
A2
「……マスター、あの、私……」
カルマス
『敵性存在の正体は分からないけれど、一緒に行ってくれるかな?』
A2
「……はい! 我がマスター!
さぁ、操縦レバー前のゲルへ両手を入れて。
巨神と再び、有機的接続を」
カルマス
『分かった……ぅっ!』
A2
「マスター?」
カルマス
『冷たくて少しびっくりしただけ。接続準備を続けて』
A2
「では。
脊髄からの神経交感経路形成。
緊急時の薬剤投与のため、両内太股静脈に簡易シャント設置。
診断のため、全身スキャンを開始……健康状態良好。
精神、やや高揚状態。
マスター、必要であれば精神安定剤を投与しますが」
カルマス
『大丈夫だよ』
A2
「フェイトエンジン、回転数正常、出力に異常もなし」
カルマス
『巨神、アルジュナオルタナティブ、発進する!』
──宇宙空間
カルマス
『A2は機体下部にいるんだね』
A2
「私の肉体を培養していた場所は、補助コクピットとして機能しています。
ここからあなたを補佐できる、何も心配することはありませんよ」
カルマス
『そうだ、伝えておかないと……これ』
A2
「なんでしょう、ふむ?」
カルマス
『戦うための武器、借りてきたんだ』
A2
「……マスター、後で言いたいことがあります」
カルマス
『はいはい』
A2
「はい、は、1回です! そういう決まりです!」
──出撃から30分後
カルマス
『レーダーによると、この辺りに反応が』
A2
「マスターは念のために戦闘準備を。A2が探してみます。
……いました。あの大きな艦隊残骸の後ろに」
???
「こんばんは、
カルマス
『!』
???
「今日はお話しするのにぴったりの……素敵な夜ですね」
カルマス
『(女性的なラインを持つ機体で、手足が透けて見えるほど青く燃えている。
武器、身に付けていないように見えるけれど……)』
A2
「マスター、目の前の存在は巨神です。
ただ、所属部隊のデータが無い」
???
「お話しする前に、えーいっ」
A2
「なっ!? この巨神、私達と艦の通信を遮断した!」
???
「話を盗み聞きされるの、私、だいっきらいなんです」
カルマス
『何を話に来たんだ』
???
「くすくす……くすくす……」
カルマス
『(大人の姿をしたカーマと声も話し方も似ているけれど。
アビーが言っていた通り、「──気をつけて、全て同じとは限らない」んだ。
知っている要素を持っただけの、知らぬ存在。
気をつけていかないと……)』
???
「お話の内容?
えっと──どうして人類に生きている意味がないか、でしょうか?」
──艦内、医務室
キルケー
「採ってきてくれたのかい?」
土方
「おう。
巨神アルジュナオルタナティブと、巨神沖田総司オルタナティブの装甲パーツの削りクズ。
それぞれの筋肉組織だ。
このシャーレに入れてある」
キルケー
「確認するよ……うん、私がきみに頼んだとおりのサンプルだ。
ありがとう」
土方
「これで何が分かるんだ」
キルケー
「ううん、えーっと」
土方
「はっきり話せ」
キルケー
「──どうして人類に生きている意味がないか、かな……」
──宇宙空間
カルマス
『どういう意味だ、謎の巨神』
???
「ふふふ……。
ねぇマスターさん、どうしてあなたは、そんな怖い怖ーい巨神に乗っているんです?
今この瞬間にも、あなたは人間を辞めさせられているのに」
カルマス
『……みんなを、守るためだ。
艦にいるクルーや、保護している民間人を』
A2
「マスター……!」
???
「──嘘、ですね」
カルマス
『!!』
???
「だってあなた……楽しんでる、強い機体に乗って敵を倒すことを。
人を守れるのはその結果。
玩具に付いてるオマケのまっずいガム……みたいなものですよね?」
カルマス
『違う!』
???
「あなたの本心、当ててあげましょうか。
──ずーっとずっと、力が欲しかったんですよね?
困難を打ち倒せる力を、自分で自分の運命を切り開くことが出来る力を。
……目の前で誰かが傷ついて、倒れるのを後ろで見ているしかない自分が、嫌いで嫌いで仕方がなかった」
A2
「黙れ巨神!
お前の浅ましい推測を、私のマスターに当てはめるな!
マスター、何か言い返してください! マスター!」
???
「守られてばかりで、何にも力がない自分。
価値がない自分。
絶叫するしかない自分。
それでも生き残ってしまう自分。
嫌い、嫌い嫌い嫌い、だーいきらい……」
カルマス
『うう……ああ……』
???
「だから、巨神に選ばれて、マスターになった時、きっと嬉しかったはず。
これで自分の力で戦えるんだ。
これで──『ようやく、自分だけが傷つくことが出来る』って」
A2
「マスター? どうして黙っているんです?
マスターは、みんなを守るために、A2を頼ってくれているんですよね?
みんなを守るために、巨神に乗るんですよね?
傷つくために……痛みを得るために、乗っているんじゃないんですよね?」
カルマス
『……そうだ、自分は、みんなを守るため巨神に乗るんだ』
A2
「マスター!」
カルマス
『だって、そうじゃないといけないんだ。
それが、それが』
???
「くすくす……ふふふ……」
カルマス
『──みんなの、求めている答えなんだ』
???
「あははははは!!!!
きひっ! やぁっぱり、人類に生きている意味なんてない!」
A2
「うるさい! 下品な巨神め!」
???
「10年前と、1000年前と、3000年前も人間はおんなじ!
自分達に都合の良い神様を作って!
都合の良い台詞を吐かせるように、コントロールしている!」
A2
「お前が何を知っている!」
???
「知っていますよ。私はね、人間に作られた都合のいい神様ですもの。
我が名はマーラ、この世全ての害なれば!」
A2
「レーダーに反応が……これは!」
???
「私に協力してくれている、ほんのちょっぴりのゾルテトラですよ。
ここであなた達を溶かしてあげる……」
A2
「数は1000以上……貴様! ゾルテトラに人類を売ったのか!」
???(以下マーラ:オリジン)
「先に
安心してください、人類を恨んでいる神は、マーラちゃん以外にもたくさんいますから!」
A2
「マスター! 起きてマスター!
……心神喪失状態、そんな!」
カルマス
『みんなを……守る……それが……』
A2
「救援信号は使えない。
ならば! A2だけで操縦する!
煉獄:インドラカスタム、使わせてもらうぞ!
殺してやるマーラ!
よくも……よくもA2のマスターを壊したな!!!!」
オリジン:マーラ
「ええ、かかっていらっしゃい、生まれたての巨神とそのAI。
ふふっ……これで、世界を変える伝説の、最後の剣が手に入る」
第16話 2020/03/24
──宇宙空間
A2
「殺してやるぞ! マーラ!」
マーラ:オリジン
「有言実行も出来ないくせに、そんなこと言わないでくれます?
よちよち歩きのAIさん?」
A2
「フェイトエンジン、フルドライブ!
私に、奴を殺せる力を寄越せぇぇぇ!!!!」
マーラ:オリジン
「きゃあ! こわーい!
ふふっ、切断能力の高い大太刀ですか。
けれど……魔王たる私に、そんなものは効かない!」
A2
「手で止められた?! ならば、出力を上げて……!」
マーラ:オリジン
「すごいパワー、マーラちゃん押し負けちゃいそうですー」
A2
「ふざけるな!
まだ機体スペックの1割も見せていないだろうに!」
マーラ:オリジン
「分析能力はやや高め……少しだけ、厄介かしら?」
──戦闘開始から数分後
A2
「ゾルテトラが次々と飛んできて、壁状に!
奴に近寄れもしない!」
マーラ:オリジン
「宇宙の暗黒を背景にふわふわするのも疲れまーす」
A2
「くっ……やはり、私だけではフェイトエンジンからエネルギーが引き出せない!
マスター、マスター!
起きてください! 答えてください!」
マーラ:オリジン
「あらあら? なんて自分勝手な子なの?
普段はべったり甘えて、嫌なことがあったら盾にして。
それにほら! あなたが巨神を振り回したせいで」
A2
「……! マスター!」
マーラ:オリジン
「巨神症、進行しちゃっているじゃないですか。
AI付きの巨神なんて久しぶりに見るから、期待していたんですけど……。
A2
「違う! 私は、マスターのことを……!」
マーラ:オリジン
「ただの部品としか思っていない!
しかも! いくらでも代わりが利く安いパーツ!
だってそうでしょう……?
巨神は必要に迫られれば、どんな人間だって
ぐっちゃぐちゃにして、ね?
あはははは!!!!」
A2
「……私、は、A2は」
マーラ:オリジン
「ゾルテトラ、あの巨神を拘束して。
私達の拠点に連れ帰って、解体、バラします。
そうすれば、世界を変える最後の剣の使い方、隠された場所が分かるでしょう」
A2
「や、やめろ……」
マーラ:オリジン
「マスターは……そうですね、あなたの目の前でゾルテトラに喰わせましょうか。
楽しいですよ、大切な人が変わり果てていくのを、自分の目で見るのは」
A2
「動け、動いてくれ! アルジュナオルタナティブ!
神と人が手を取り合うことで、目覚める巨神よ!」
マーラ:オリジン
「はーい、捕まえた」
A2
「……! ……!」
マーラ:オリジン
「恐怖で歯がガチガチぶつかり合う音、私にまで聞こえていますよー?」
A2
「……マスター!!」
──???
カルマス
『……』
???
「先輩、どうかしましたか?」
カルマス
『……』
???
「……いいえ、そんなことはありません。
このマシュ・キリエライト、先輩がお側にいてくださるから、震える足を真っ直ぐに伸ばして、戦いの場へ向かえるのです。
指示を、マスター。あなたの期待に応えたい」
カルマス
『……違う』
???(以下マシュ)
「マスター?」
カルマス
『これはマシュの言葉じゃない……。
自分が、かけてもらいたい願望の言葉だ!!』
マシュ
「先輩……泣いていらっしゃるのですか?」
カルマス
『うぅ……あぁ……』
──心の底
カルマス
『暗く、重い世界。
まるで深海にいるみたいだ……』
???
「マスター」
カルマス
『キャスターの、クー・フーリン……』
???
「マスター」
カルマス
『ジャンヌ・ダルク……』
???
「マスターよ」
カルマス
『ネロ・クラウディウス……』
???
「マスター!」
カルマス
『フランシス・ドレイク……』
???
「マスター」
カルマス
『モードレッド……』
???
「マスター」
カルマス
『フローレンス・ナイチンゲール……』
???
「マスター」
カルマス
『ベディヴィエール……』
???
「マスター」
カルマス
『……みんな』
「マスター」
「マスター」
「マスター」
「マスター」
「マスター」
カルマス
『こんなに……沢山の仲間と、旅をしてきたのに……』
(サーヴァント達)
「──」
カルマス
『こんなに、色んな人達と出会ったのに……自分は……』
(人々)
「──」
カルマス
『あそこに見えるのは……命を落としたカルデアのスタッフ達と……自分以外の、マスター達……。
それから、あの人、は……』
(気弱に微笑む男性)
「──」
カルマス
『……もっと、力があれば。
……もっと、賢ければ
……もっと、努力を重ねていれば。
……もっと、もっと、もっと』
──あなたは、どうしたい?
カルマス
『(聞き覚えのない声がする……。
けれど、知らないが故に落ち着く……)』
──あなたは、どうしたい?
カルマス
『……助けたい。
一人でも助けたい、その手をつなぎ止めたい!
この気持ちが強がりでも! 嘘でもかまわない!
みっともなくてもいい! 浅ましくてもいい!
それで……誰かを救えるのなら!
──立って、戦い続ける! 生き続けてみせる!
だから、だからっ!』
──心の底→宇宙空間
マーラ:オリジン
「なに? エネルギーの増大?
……この私と競い合おうとでも言うの?」
A2
「マスター! やった!
A2の声にマスターが応えてくれた!」
カルマス
『……』
マーラ:オリジン
「マスターの纏う雰囲気が変わった。
これは、ゾルテトラの『神』と同じ……」
カルマス
『A2、倒そう、目の前の害を』
A2
「っ、はい……はい!」
マーラ:オリジン
「ずいぶん、ビッグマウスですこと!
来い! ゾルテトラ!」
カルマス
『煉獄:インドラカスタム! フルセイバー!』
マーラ:オリジン
「光波が刃以上に増幅して……巨大な炎の剣に!
一瞬にして、500のゾルテトラを切り裂いたというの?!
あーあ、これだから人間って嫌いです……。
急に勢いづいちゃったりしてぇ!」
A2
「マーラとゾルテトラが融合していきます!
あの姿、まるで角を持つ四足の獣!
神の枠からも外れようとしているのか!」
マーラ:オリジン
「じゃあ私も、ズル、しちゃいますね。うふふふふ……」
A2
「敵機体のフェイトエンジンが逆回転?! これは……!」
マーラ:オリジン
「──運命を閉ざせ! マーラ! アヴァローダ!」
A2
「ゾルテトラの性質を持った超攻撃が来ます!
シールド、最大出力で展開!
だが……防げるか!?」
マーラ:オリジン
「丸ごとぺろり♪
食べちゃってから、あなた達の解体をしますね。
さぁ! これでお仕舞い!」
カルマス
『終わりなんかじゃ、ない』
マーラ:オリジン
「その実体剣とシールドだけでは防ぎ切れませんよ?
愚かなマスターさん?」
カルマス
『──武装、追想』
マーラ:オリジン
「は?」
A2
「新しい武器が、当機体の背部から!
こんなの、A2は知らない……」
カルマス
『大丈夫、自分が知っている。
展開せよ! 弓の名は……ガーンデーヴァ!』
マーラ:オリジン
「──くっ、浅いけれど、一撃もらった……」
A2
「やった!
敵の攻撃が放たれる前に、防ぐことが出来ました!」
マーラ:オリジン
「あーあ、冷めちゃった……帰ります」
カルマス
『待て! マーラ!』
マーラ:オリジン
「さようなら、可哀想で哀れなマスターさん。
あなたが駄目になるか、人類が駄目になるか……。
チキンレースの始まりです」
A2
「反応、ロスト。
マスター、マーラは詳細不明の力で転移しました。
ゾルテトラも散り散りになっていきます。
艦の方へは行っていないようで、一安心……」
カルマス
『じゃあ、帰ろうか』
A2
「はい、マスター。
その……体は大丈夫ですか? なんともないですか?」
カルマス
『元気だよ! むしろ調子がいいくらいだ』
A2
「……では、帰りましょうか」
──帰還途中
A2
(マスターを守ろうとすればするほど、マスターが傷ついていく……。
機体は新たな武装も得て、強くなっていくのに……。
A2は……)
第17話 2020/03/25
──艦内廊下
A2
「マスター、キルケーに看てもらわなければ」
カルマス
『いま向かっているから、心配しないで。
……失礼します』
キルケー
「無事に帰ってきたね、
検査するから、きみだけ奥においで」
──医務室
キルケー
「ちょっと舌出して」
カルマス
『ひゃい?』
キルケー
「綿棒で表面を拭って……よし。
気にしないで、これは巨神症の検査とは関係ないことだ。
では、採血する、少し痛むよ」
カルマス
『よろしくお願いします』
──数時間後
キルケー
「きみの、巨神化症の進行についてだが」
カルマス
『(ドキドキするなぁ)』
キルケー
「私特性パイロットスーツのおかげもあり! ほとんど進行していなかった!
わー! ぱちぱちぱちー!」
カルマス
『良かった。A2が気に病んでいるようだったので』
キルケー
「軽い疲労くらいだね。
A2にも『何もなかった』って、伝えておくと良い。
拮抗薬は出撃前に投与済みで、診断も終わった。
私はオデュッセウスA012の治療と、スーツの改良に勤しもうかな」
カルマス
『自室で休んできます。
ありがとうございました!』
キルケー
「うん、しっかり休んでおいでー!
……行ったか」
──医務室→特殊治療室、液体カプセル前
キルケー
「オデュッセウス、私、頑張っているよ。
きみのような結末を迎える
彼を支えることが、1000年、世界に取り残された私の、最後の使命なのかもしれないな……」
──自室
A2
「お帰りなさい、マスター……その」
カルマス
『体、大丈夫だったよ』
A2
「! 良かった! 本当に良かったです!」
カルマス
『でも出撃の疲れがあるから、少し眠るね』
A2
「A2はこの部屋の、臨時ベッドで眠りますね。
マスターのおかげで、眠るのが上手くなりました」
カルマス
『お休み』
A2
「はい、お休みなさい……私のマスター……」
──夢の中
???
「ゾルテトラ多数! ガーンデーヴァで迎撃します!」
???
「任せた!」
カルマス
『(これ、夢だ。
自分はコクピットの中にいる。
周りは戦場だ。
ゾルテトラだけじゃない、見たこともない巨人や巨神の姿が、たくさん見える)』
???
「マスター! 敵の出現に切りがない!
彼を置いていくしか……」
???
「そんなことできるもんか!
ずっと自分達を……彼は……!」
カルマス
『(パイロットの声、マーラと戦っているときに心の中で聞こえたものと同じだ!
姿は、自分とどことなく似ている)」
???(以下、謎のマスター)
「仲間を見捨てたりしないって! 決めたから!」
???(以下、謎のAI)
「マスター、あなたは勇敢で優しい。
けど、今の状況は」
カルマス
『(機体AIの声、A2に似ているような、違うような)』
マスター:オリジン
「──オデュッセウス! 通信、聞こえるか?
今助けに行く! 持ちこたえてくれ!」
???
「逃げて、くれ」
カルマス
『(オデュッセウス?!)』
???(以下オデュッセウス:オリジン)
「お……れは、ここでゾルテトラを、食い止める。
確実に数人を助けることが出来る、機体もな」
謎のマスター
「もう限界だろう! それに、拮抗薬の副作用で……」
オデュッセウス:オリジン
「俺が、人間の心を持っている内に、礼を言いたい。
ありがとう、巨神アルジュナとそのマスター、そしてプロトタイプAI。
俺は、お前達と共に戦えて幸せだった」
謎のマスター
「よせ、止めろ! オデュッセウス!」
オデュッセウス:オリジン
「俺のクローンに会うことがあれば、優しくしてやってほしい。
……あばよ」
謎のAI
「マスター、オデュッセウスの反応が変化。
これは、ゾルテトラと」
謎のマスター
「……行くしかない、アルジュナ。
彼の決意を無駄にしないために!」
謎のAI
「……はい」
──夢の中→自室
カルマス
『辛い、夢だった。
A2はまだ寝ているや……あれ。
自分の髪、少し長くなっているような?』
──ゾルテトラ繁殖銀河
マーラ:オリジン
「失礼します。母なる神よ。
貴女の子がひとり、マーラ、帰還しました。
これより、結果をご報告させていただきます」
???(以下ゾルテトラの母)
『……』
マーラ:オリジン
「最後の剣の座標を示す、巨神アルジュナオルタナティブと接敵しました。
が、確保は出来ず、取り逃しました」
ゾルテトラの母
『……』
マーラ:オリジン
「最後の剣の探索と、アルジュナオルタナティブの居る艦からの情報収集を続けます。
それでは」
ゾルテトラの母
『……』
マーラ:オリジン
「(やっぱり、少し似ている。
母なる神と、あのマスターの纏う空気は……)」
──ゾルテトラ繁殖銀河内アステロイドベルト
マーラ:オリジン
「さっさと報告なさい、我が分裂体。
あのマスターの様子は?」
カーマ
「今はぐっすり眠っていますよ、くすくすくす」
マーラ:オリジン
「……何が言いたいの?」
カーマ
「自信満々で向かったのに、無様に負けちゃったなんて。
我が本体は情けなーいと、思ったんでーす」
マーラ:オリジン
「わきまえなさい、分裂体。
いくらでも替えの効く消耗品の癖に」
カーマ
「はーい、黙りまーす。
そういえば、なぜ、
まるで──昔の自分を見ているようだったから?」
マーラ:オリジン
「うるさい!!」
カーマ
「ひっどーい。
足の小指、あなたの命令で腐り墜ちちゃいましたー」
マーラ:オリジン
「下らない事を言うな、考えるな。
命令に従い、艦の情報と座標を定期的に送りなさい。
カーマ
「はーい」
──10年前
マーラ:オリジン
「目を覚まして、コードネーム、パールヴァティー。
……いや、姉さん!」
???
「……カーマ」
マーラ:オリジン
「薬を打つから!
それで、ゾルテトラの侵食が止まるはず……!」
???
「ねぇ、昔を……覚えている?
お父さんがまだいたころ。
一番上のお姉ちゃんと遊んでいたころ。
お母さんの手料理を家族みんなで食べていたころ。
……みんな死んで、私達だけ、二人ぼっちになったこと、覚えている?」
マーラ:オリジン
「覚えているに決まっているじゃない!」
???
「じゃあ……本当の名前は?
私がパールヴァティーになる前の、あなたがカーマになる前の名前は?」
マーラ:オリジン
「──……あっ」
???→遠坂桜(以下、桜)
「思い出せない、そうでしょう?」
マーラ:オリジン
「あ、あっ、ああああああああ!!!!」
桜
「でも、その方がいいのかもしれません。
悲しいことも、苦しいことも、全部、溶けて、消えてしまえば……辛くない……」
マーラ:オリジン
「あっあっ、姉さんの体、溶け、なんで、薬打ったのに、どうして」
桜
「可愛くて頼りになる、私の弟」
マーラ:オリジン
「やだ、やめて、誰か助けて、そんな、いやだ」
桜
「私の夢を、最後に聞いて。
……古い神話によると、パールヴァティーって、シヴァという神様のお嫁さんだったのですって。
私、花とドレスの似合う……お嫁さんに、なりたかったな……」
マーラ:オリジン
「姉さん! 姉さん!」
桜
「でも、実験と戦いで傷だらけ。
おまけに薬漬けの女の子は、誰も好きに……なって、くれない……よね……」
マーラ:オリジン
「お姉ちゃん!」
桜?
「……?」
マーラ:オリジン
「あ……あああああああ!!!!
死ねぇ! お姉ちゃんを返せ! 化け物!!!!」
桜???
「……」
──別れの後
マーラ:オリジン
「巨神に乗れば乗るほど、自分が失われていく。
ゾルテトラと戦えば戦うほど、自分が奪われていく。
私達『捨て犬部隊』に、未来なんて無い……。
なのに、なのに! 何も知らない人間達は!
戦いを孤児やクローンに押し付け! 安全圏でぬくぬくと!!
……滅ぼしてやる!
私から家族と
皆殺しにしてやる!」
──現在、ゾルテトラ繁殖銀河
マーラ:オリジン
「ゾルテトラと化した姉を殺した後、決めた。
──生きる価値など、とうの昔に失った人類を滅ぼすって」
???
「ずいぶん大きなひとりごとじゃねぇか」
マーラ:オリジン
「乙女のプライベートルームに入ってくるなんて、殺されたいんですかぁ?」
???
「オレは別にそれでもいいけどよぉ。
オレが死んだら、大殿が寂しがるんだわ」
マーラ:オリジン
「……あなた」
???
「でもよ、大殿ときたら最近はだんまりで、オレも調子狂うっつーか」
マーラ:オリジン
「森長可」
???(森長可)
「……軽々しく呼ぶんじゃねぇよ」
マーラ:オリジン
「あなたの大好きな、命の取り合いが出来る相手……教えてあげましょうか」
森長可
「……」
第18話 2020/03/26
──艦内食材倉庫
A2
「まさか倉庫整理を頼まれるとは……」
カルマス
『A2、在庫のリスト読み上げて』
A2
「はい!
乾燥卵のkg……冷凍肉の在庫は……」
ネームレス・レッド
「はかどっているかね?」
カルマス
『後は食材量の確認だけです!』
A2
「できました、マスター。
数値におかしな所、ありませんでしたよ」
ネームレス・レッド
「ありがとう、二人とも。
では、礼として昼食を馳走しよう」
カルマス
『やったぁ!』
A2
「やったぁ!」
──艦内食堂
カルマス
『お味噌汁に卵焼き……炊きたてのご飯……』
A2
「とっても美味しいです。
その、その、ありがとうございます」
ネームレス・レッド
「どういたしまして。
それにしても……君達は本当に、日本食が好きだな」
カルマス
『珍しいことなんですか?』
ネームレス・レッド
「ああ。
大っぴらにジャパン文化が好きだと吹聴する人間は、少ないだろう」
カルマス
『何か理由が?』
ネームレス・レッド
「あるにはあるが、2000年以上前のことだからな……」
A2
「もぐ、ずずっ、ぷはっ。
こんなに美味しいのに、みんなは嫌いなのか……。
なぜ、ジャパン文化は忌避されているのです?」
ネームレス・レッド
「長くなるが、話してあげよう。
人類がゾルテトラに追われ、地球を離れた後、国ごとに移動式のコロニーが作られた。
アメリカならアメリカコロニー、日本ならジャパンコロニー……とね」
A2
「アメリカ?」
ネームレス・レッド
「君のような若い世代にとっては、歴史の本でも読まない限り、知りようがない知識か。
人類は母なる星を離れた後も、お互いに区分を作り、牽制しあっていたという訳だ」
A2
「なるほど」
ネームレス・レッド
「だがある時、大きな変化が起きた。
西暦3000年ごろ、現在が西暦5000年なので、2000年前。
ゾルテトラへの対抗手段を、ジャパンコロニーが開発したんだ」
カルマス
『もしかして』
ネームレス・レッド
「巨神と、それを動かすフェイトエンジン。
……君の考えていた通りだったかな? マスター。
当然、各国が対抗手段であるそれを求めたが、ジャパンコロニーは譲渡も、技術解放もしなかった。
理由は不明だがね」
A2
「それから、どうなったのです?」
ネームレス・レッド
「……戦争だよ。
敵を倒すための行き過ぎた兵器開発は、ずっと続けられていたからな。
各国は兵器を
巨神とフェイトエンジンの技術は奪われ、ジャパンコロニーは破壊された。
皮肉な話だ。
人を殺して、人を守る力を得るなど」
カルマス
『どうしてその後に、ジャパン文化の忌避へ繋がったんです?』
ネームレス・レッド
「戦後、彼らは恐れたのさ。
故郷を滅ぼされた者達が、復讐に来るのではないか、とね。
……ジャパンコロニー出身者狩りが始まり、それは関連文化にも波及した。
現在に至ると、理由もなく文化が恐れられるようになった」
カルマス
『……』
ネームレス・レッド
「おかしな話だよ。
皆、けろりと忘れ、その血、文化を差別する」
カルマス
『あの、自分は』
ネームレス・レッド
「私はね、君達が日本食をねだってきた時、嬉しかった。
憐れみも恐怖もなく、真っ直ぐに文化に向き合い、喜んでくれたからね」
カルマス
『ネームレス・レッドさん……』
ネームレス・レッド
「また来るといい。
食材は残り少なくなってきたが、まだまだやれるとも。
日々、新鮮で美味な料理を君達に振る舞ってあげよう」
──艦内食堂→廊下
A2
「マスター、食糧、だいぶ残数が減っていましたね」
カルマス
『保護している民間の人達、大丈夫かな……』
A2
「人類生存域防衛宇宙軍、略して軍と、通信可能な領域に到達するまで、あと1ヶ月半」
カルマス
『食糧も水も、保つといいな』
A2
「……。
そうだマスター!
オデュッセウスA012のお見舞いにいきませんか?
意識も戻り、リハビリを始めているかもしれません」
カルマス
『だね、行こう!』
──艦内特殊治療室、液体カプセル前
A2
「キルケーによれば、培養四肢は繋がったけれど、意識が戻っていないそうです」
カルマス
『早く元気になってくれると良いね』
A2
「……ですね。
その方が、マスターの負担も減り……ますから」
カルマス
『そんなつもりで言ったんじゃない』
A2
「ごめんなさい、マスター。
A2は、人間の気持ちを読み取るのが下手ですね」
カルマス
『これから上手になるよ』
A2
「上手になるまでの時間、残されているのでしょうか」
カルマス
『?』
A2
「なんでもありません。そろそろ帰りましょう」
カルマス
『うん。またね、オデュッセウス』
A2
「……」
──宇宙空間
???
「──見つけた、あの艦だ。
マーラから盗み聞いた情報どおり、座標、形状、ともに間違いない。
あそこに行けば、私、助かるかも……。
でも、こんな体じゃあ……!
やだ、死にたくないよ、パパ、ママ……。
私、このコクピットの中で、最期までひとりぼっちなの……?」
第19話 2020/03/27
──カルデアのマスターの意識が、この世界の人物と混線してから1ヶ月半
A2
「……」
きょしんさん
「……?」
A2
「……」
きょしんさん
「むっ」
A2
「……!!!!」
カルマス
『A2、きょしんさんに怖い顔しないの』
A2
「だって彼女は、マスターを欲している巨神AIなのですし。
つまり、その……体を」
きょしんさん
「A2と友達になりたい、すぐにでも!
……だめなのか?」
A2
「友達?!
だめ、ではないですが、それをしたら……うう。」
きょしんさん
「きょしんさんは、A2もA2のマスターも好きだ。
冷たいひとりぼっちの宇宙から、暖かいこの艦に連れてきてくれたからな。
大切に思っているぞ、だから煉獄も預けたんだ」
A2
「とも、ともだ……」
カルマス
『(あと一息! がんばれ!)』
A2
「友達になんて、絶対になりません!!」
カルマス
『あー……行っちゃった……』
──艦内ドック、巨神沖田総司オルタナティブ前
きょしんさん
「A2に何かしてしまったのだろうか」
カルマス
『気に病むことはないよ、きっとただの照れ隠し』
きょしんさん
「照れ……タレ? 照り焼きの、タレ」
カルマス
『お腹空いているの?』
きょしんさん
「そうかもしれない。
けれど、私には肉体が無い。
空腹を楽しむことも、食事を感じることも無い」
カルマス
『肉体は、マスターと契約すれば出来るんだよね』
きょしんさん
「けれど、きょしんさんはそれを望まない」
カルマス
『……そっか』
土方
「沖田にマスターか。
一緒とは珍しいな、A2はどうした」
カルマス
『A2は、ちょっと別のところにいます』
土方
「そうか。
おい、沖田」
きょしんさん
「きょしんさんと呼んでくれ」
土方
「きょしんさん、良いもの持ってきてやったぞ」
きょしんさん
「これは……私の目には、丸いお掃除ロボットに見えるが。
どういう用途に使うものなのだ、土方」
土方
「形はよく似ているが、機能は全く違う。
このスイッチを押すと、ほらよ」
きょしんさん
「むむっ……立体映像が投写された」
土方
「きょしんさん、お前、自分の機体から離れて動けねぇんだろ?
だから作ってきてやった。
こん中に意識を移せば、艦内を歩き回れるようになる」
きょしんさん
「土方はすごいな!」
土方
「軍の下っ端は、何でもかんでもやらねぇと生きていけないからな」
きょしんさん
「でも、本当にいいのか?」
土方
「俺がお前のために作ったもんだ。
やったんだから、好きに使ってくれ」
きょしんさん
「ありがたく使わせてもらおう。
では……意識を移しみ」
カルマス
『なんだかバーチャルアイドルみたいだね、きょしんさん』
きょしんさん
「すごいぞ! つつつーと歩けるぞ!」
土方
「地面を滑るように移動する、大きな段差には気をつけろ」
きょしんさん
「気をつける! わぁ……楽しいな……ふふふ……」
『せっかくだし、土方さんと艦内をお散歩してきたら?』
きょしんさん
「土方、時間はあるか?」
土方
「ちょうど暇していたところだ」
きょしんさん
「では、お散歩に行こう! 嬉しみあふれる!」
──民間人用居住区
アビー
「はじめまして!
貴女、きょしんさんと言うのね! お友達になりましょう!」
ラヴィニア
「ぁ……アビー、そんな急に……つ……詰め寄ったら」
アビー
「この子はラヴィニア! この子はカーマ!
私達三人、とっても仲良しなの!」
カーマ
「はーい、仲良しでーす。
ぴーすぴーす」
きょしんさん
「きょしんさんと土方も仲良しだぞ!」
土方
「……おう」
──艦長室
新艦長
「おかしくないかね?
この艦で一番偉い人の部屋に、どうして子どもがたくさん来ているの?
おかしくないかね?」
アビー
「わぁ! なんて素敵なボトルシップ!」
新艦長
「おお分かるかね、アビゲイル君。
ドクターキルケーに作ってもらった一点物で……」
土方
「絵の裏の隠し棚には……ドライフルーツと茶葉、上物のブランデーか。
これはどういうことだ? 納税逃れか?」
新艦長
「土方くーん! 違うのだよ!
それはきっと前の艦長の忘れ物で……。
えっ、私も初めて見るぞこの品々、怖い」
──艦内食堂
ネームレス・レッド
「何度来ようが、同じことを言おう。
コスモタクアン味レーションの在庫は、残り少ない」
土方
「……、……、……嘘を言うんじゃねぇ」
きょしんさん
「コスモハンペン味が気になる、きょしんさん」
アビー
「コックさん、この間のパンケーキ、とってもおいしかったわ!」
ラヴィニア
「わ……私の家族も、お腹いっぱい食べられて……よかったの」
カーマ
「あーずるーい、カーマちゃん、ぜんぜん食べてませーん。
『食の味方』を公言するなら、贔屓せず、人類平等に作ってくださーい」
ネームレス・レッド
「分かった! 分かったから! 一人ずつ順番に話してくれ!」
──艦内ドック
きょしんさん
「今日は三人もお友達が増えて、色んな物を見ることが出来た。
きょしんさんは嬉しい」
土方
「おう、良かったな」
きょしんさん
「……、……、……土方、私と少し話をしよう」
土方
「いいぞ」
きょしんさん
「……私が沖田総司に似ているから、お前は優しくしてくれるのか?」
土方
「それも理由の一つだ、見抜かれていたか」
きょしんさん
「目には自信がある。
そうか、他にも理由がある"み"なのか」
土方
「お前は、沖田の忘れ形見みたいなもんだからな」
きょしんさん
「忘れ形見?」
土方
「今キルケーと調べている。分かったら、話す」
きょしんさん
「では、待っている。
……土方は、マスターになりたくはないのか?」
土方
「なぜ聞く」
きょしんさん
「……気になったからだ」
土方
「昔は、なりたくてたまらなかったな」
きょしんさん
「私は、土方をマスターにする事が出来るぞ?」
土方
「キルケーから話は聞いている。
巨人パイロット適性より、巨神マスター適性の方が、判定は広いそうだ。
それに、巨神の方が人間に寄り添うとも」
きょしんさん
「もしお前がマスターになってくれるのなら、私はとっても嬉しい」
土方
「……そうか」
きょしんさん
「けれど、土方がマスターになるということは……人で無くなるということ。
そして」
土方
「いずれ、巨神化症に殺されるか、ゾルテトラに喰われるか、だろ」
きょしんさん
「そう考えると、胸が、嫌な気持ちにもなった。もやみ」
土方
「……俺の話をしてもいいか」
きょしんさん
「かまわない、私は聞き役に徹するぞ」
土方
「……俺は、幼なじみである沖田と同じ景色が見たかった。
あいつは昔から化け物みたいに強くて、何を考えて喧嘩しているのか、分からん所もあった」
きょしんさん
「うん」
土方
「あいつと軍に入って、あいつがパイロットに選ばれて……俺はこんなことを考えちまった。
パイロットになれば、沖田が見ている景色が分かるんじゃないかと」
きょしんさん
「うん」
土方
「追いかけて追いかけて……だが、最後まで追いつけなくて。
とうとうあいつは、俺の手の届かない世界に行っちまった。
コクピットに遺されたあの羽織りを手に取った時……分かったんだ。
巨人や巨神のパイロットになったとしても、沖田と同じ景色は見れないと」
きょしんさん
「うん……」
土方
「そして、お前がやってきた」
きょしんさん
「嫌、だったか?」
土方
「驚きはした。だがな、俺は嬉しかった」
きょしんさん
「どう、して?」
土方
「決まってんだろ、お前は沖田の生きた証だ」
きょしんさん
「生きた証?」
土方
「あいつは、最後まで全力で生きた。
だからお前が現れたんだ」
きょしんさん
「そう、なのかな」
土方
「そう思っている、俺は。
……だからこそ、俺はお前のマスターにはならん、出来ん」
きょしんさん
「その言葉を聞いて、なぜだかほっとした」
土方
「そうか」
きょしんさん
「うん。
大切だからこそ、簡単に乗せたくないと思ったんだ、私はな」
土方
「俺は俺の見える景色の中で、出来ることをするさ」
きょしんさん
「きょしんさんにお手伝いできること、あるか?」
土方
「おう、山ほどある。ついてこい」
きょしんさん
「土方に頼られるのは、なぜか嬉しみが高い」
土方
「俺も、お前に頼るのは悪い気持ちじゃねぇ」
きょしんさん
「? それはどういう意味だ? よく分からない……」
土方
「ふっ、これから分かるようになるさ」
──自室前廊下
カルマス
『A2ー、ここ開けてー』
A2
「……どうぞ、マスター」
カルマス
『部屋にいたんだね。
何事もなく帰ってきてくれて、良かった』
A2(体育座りの姿)
「マスターは、A2に、きょしんさんとお友達になって欲しいのですか?」
カルマス
『そう思っている。
けど、A2が嫌だと感じているのなら、強制はしたくないな』
A2
「……友達に。
本心では、友達になりたいと思っています。
ですが、怖いんです」
カルマス
『怖い?』
A2
「きょしんさんに『好きだ』と言われたとき、嬉しかった。
けど、そう言ってくれた彼女が失われてしまったら……。
考えたら、恐ろしくてたまらなくなり、胸に穴が空いたような気持ちになったのです。
マスター、A2には無理です。
誰かと友達になることなんて出来ない。
だって……最後にはきっと、失われてしまうから」
カルマス
『A2は優しいね』
A2
「私が……優しい?」
カルマス
『周りの人が傷ついたり、居なくなってしまうのを恐れることが出来る。
君は、優しいよ』
A2
「……マスター」
カルマス
『きょしんさんとお友達になるかどうかは、A2が決めること。
自分からは、もう何も言わない』
A2
「っ、マスターはA2を見捨てるのですか?」
カルマス
『違うよ、見守りたいんだ』
A2
「見て……守る?」
カルマス
『すぐ助けに行けるようにね』
A2
「守る……助け……」
カルマス
『今日はもう眠ろうか』
A2
「……はい、私のマスター」
──翌日、艦内ドック
A2
「え、A2……と、A2と友達に……」
きょしんさん
「なる、きょしんさんはなるぞ! やったぁ!」
A2
「……はい、ようやく言えた。
……苦しくなくなった……ほっとしました、ふぅ……。
貴女に何かあった時は守ります、助けてみせます、から。
その、友達として」
きょしんさん
「これで四人目のお友達だ! ふふん!」
A2
「四人目?」
きょしんさん
「? そうだが?」
A2
「……」
カルマス
『A2、きょしんさんに怖い顔しないの』
第20話 2020/03/31
──自室
カルマス
『巨人オデュッセウス、直すのに時間がかかるって』
A2
「ゾルテトラや所属不明巨神との戦闘も連続。
巨人修理も含め、食料以外の物資不足も目立ってきましたね……」
カルマス
『しばらくは巨神で出撃することになるのかな』
A2
「はい……そう、ですね」
カルマス
『暗い顔しないで。
新型スーツもあるし、巨神化症はきっと大丈夫だよ』
A2
「だと、いいのですが」
オペレーター
「ブリッジより通達。
パイロットとそのパートナーは至急ブリッジまで来られたし。
繰り返します、ブリッジより通達……」
A2
「なんでしょう? 敵襲などでは無さそうですが」
──艦内ブリッジ
新艦長
「うむ、迅速に来てくれたな、マスターとそのパートナーよ」
カルマス
『何かご用ですか?』
新艦長
「信号をキャッチしたのだ、しかも音声のものを」
カルマス
『自分が助けた時のように、相手は民間船ですか?』
新艦長
「まずは聞いてみてくれたまえ、ぽちっとな」
???
「……私は、巨神のマスターです。
名前は……ジナコ=カリギリ、機体名はガネーシャ。
私は、あなた達にとって有益な情報を持っています。
お会いできることは、お互いにとって良いことになると思います。
この座標で、待っています」
新艦長
「というメッセージだ、怪しいことこの上ない」
A2
「艦内の誰かのいたずらでは? ゴルドルフ」
新艦長
「(また呼び捨てにされた……)
その可能性も考え、機材を調べたが、いたずらではなかった」
A2
「マスター、どうします」
カルマス
『声を聞く限り、罠ではないと思う。会いに行きたい』
新艦長
「君の意見を採用したいが、ここ数週間、ゾルテトラの動きが活発なのが気にかかっている。
巨神で出撃したのなら、その後ろにこの艦も控えさせよう。
……無理しないでねホント。
オデュッセウスA012が復帰するまで、君達二人だけが頼りなのだから」
カルマス
『無理しません。それではちょっと行ってきます』
──宇宙空間、指定座標付近
カルマス
『巨神反応は?』
A2
「見つけました。
マスター、そのまま真っ直ぐに進んでください」
カルマス
『オーケイ、イエケイ、ライブ感。
チャーシューわしわし、もやししゃきしゃき』
A2
「?」
カルマス
『伝わらないネタ言って、ごめんね……』
A2
「? はい」
──数分後、宇宙空間、指定座標付近
A2
「宇宙船の残骸が多い、身を隠すのにはぴったりです」
カルマス
『ゾルテトラの反応は?』
A2
「今のところはありませんが、油断なさらず。
私も油断しませんから」
カルマス
『うん、分かったよ』
A2
「いました!
あの壊れかけの機体が、私達に信号を送ってきた者で間違いないでしょう」
???
「……来てくれたんだね」
カルマス
『はじめまして、自分はこの機体の
A2
「私は補佐AI、A2です」
???
「AI付き機体……。
嘘じゃなかったんだ、本当にいたんだ……」
A2
「なにか?」
???
「な、なんでもない。
私はジナコ=カリギリって言うの。
巨神の、マスターで……い、いた、痛い……ああああ!!」
カルマス
『どうしたの?!』
???(以下ジナコ)
「なんでもない、なんでもありません! 上官殿!
いや、違う、ここは
鎮痛剤、打ったのに、効かない……使いすぎて、耐性が……。
いや、痛いのもういや……パパ……ママ……」
カルマス
『母艦が近くにあるんだ、お医者さんもいる。
君を連れて行くよ!』
ジナコ
「やめて! そんなつもりで呼んだんじゃない!」
A2
「落ち着いて、ジナコ=カリギリ。
貴女は巨神に乗っている。
感覚をリンクさせてる貴方が、暴走したら──」
ジナコ
「いや、いや!」
カルマス
『危険な状態かもしれない。
無理矢理だけど連れて行こう!』
──艦内ドック
キルケー
「呼ばれて来たぞ!
負傷した
カルマス
『この……巨神を、押さえ込みながら来ました!
A2、彼女の機体コクピット、開かせること出来る?』
A2
「出来ます。ハッキングして……よし!」
ジナコ
「やめて!!」
カルマス
『キルケー、彼女の治療をお願いします!
すごく、痛がっているみたいで……』
ジナコ
「み、見ないで……!」
カルマス
『彼女の腕が四本に、まるでガネーシャ神のよう……)』
キルケー
「状態がひどい、緊急処置が必要だ。
降ろして医務室に運ぶぞ、手伝え!」
カルマス
『はい!』
──数時間後、医務室前廊下
カルマス
『ジナ……彼女は、大丈夫でしたか』
キルケー
「鎮痛剤数種類と、精神安定剤を投与した。
痙攣で自傷してしまうかもしれないから、今は緊急にバンドで身体を拘束している」
カルマス
『命が助かったなら、良かったです』
キルケー
「彼女、かなり巨神化症が進行している。
体には浮腫や腹水の症状あり、
骨と腕の増殖、神経が混線することによる強い痛みも出ていた。
そして、人間性の喪失も。
誰かによって、長期間、強引に乗せられていたんだろう」
A2
「……、……、……これが、巨神化症」
キルケー
「そうだ。
巨神が、戦う力と引き換えに人類へもたらしたものだ」
カルマス
『お見舞いしてもいいですか』
キルケー
「眠っているだろう。
顔を見るくらいしか出来ないよ?」
──医務室
カルマス
『(カルデアのガネーシャ神とよく似た顔の、ジナコ=カリギリさん、か)』
A2
「起きたようです、マスター」
ジナコ
「ぅ……私、まだ生きているんだ。
今度こそ死んじゃったと思っていたのに」
カルマス
『動かない方がいいよ。
後で甘いものでも持ってこようか、好きでしょ?』
ジナコ
「……いらない。
もうすぐ死ぬ人にあげたって、意味ないじゃん」
カルマス
『君は死なない、自分が守るもの』
ジナコ
「死ぬよ。それくらい自分でも分かる……」
カルマス
『どうして、この艦にメッセージを送ってくれたの?』
ジナコ
「伝説の巨神がいるって、聞いたから。
世界を変える力を持つ、青と黒と、金色の巨神。
捨て犬部隊の私にとって、その伝説だけが暖かい夢だった。
……情報を渡したら、去ろうと思っていたの。
助かるつもりなんて、希望なんて、もう捨てていたのに」
カルマス
『捨て犬部隊って、あの都市伝説の』
ジナコ
「そっか、一般人からはただの噂だと思われてるんスね。
でも、捨てられた子ども達にとっては、紛れもなく現実だから。
……私に両親はいない。
目の前で巨人の戦いに巻き込まれて、潰された。
足と壁の間、ぺしゃんこ、全身
その後、軍の人間がやってきて、小さかった私を
カルマス
『……』
ジナコ
「何十時間も、それこそ吐くまで戦闘シュミレーションに乗せられた。
優秀な奴は上へ、そうでない奴はもっと暗い場所へ。
どうなったかは知らない、たぶん死んだ」
カルマス
『冷たい言い方しなくても』
ジナコ
「自分が生きるのに精一杯で、周りと助け合うなんて心の余分、無かった。
食事が足りなければ、他者から奪って。
眠る場所が無ければ、誰かを蹴って得るしかなかった。
マスターさん、そういう、冷たいどうしようもない世界が、確かにあるんだよ」
カルマス
『……』
ジナコ
「私は12歳の頃から巨神に乗せられた。
運が良いから、今日までもったの。
『乗りたくない』ってわがままを言った奴は、消えていった。
乗った奴らも、すぐ巨神化症になって死んでいった。
口から何百本も歯を吐いて死んだ奴。
腕が両目から生えた奴。
自分で自分の頭を割って自殺した奴。
増えた肉で窒息死した奴、巨神に喰われた奴……」
カルマス
『巨神に喰われる?』
ジナコ
「降りた後ね、巨神が勝手に動いて、マスター掴んでぱくっと食べちゃうの。
どうしてそんなことするんだろうね、ふふふ……」
A2
「マスター、ジナコ=カリギリはひどい状態です。
寝かせてあげた方が良いのでは」
カルマス
『今は何も考えず、休んで。
また来るね』
ジナコ
「余分な話したら疲れたッス。
またね、救世主のマスターさん」
カルマス
『(……救世主?)』
──自室
A2
「マスター」
カルマス
『大丈夫。巨神に乗ること、怖がったりしないよ』
A2
「どうして、A2の考えを……」
カルマス
『もし巨神化症が悪化しても、キルケーが付いてくれている。
なんとでもなるはず』
A2
「マスターの巨神化症は、悪化したりなどしません」
カルマス
『気遣ってくれて、ありがとうね』
A2
「……マスター」
???
「あーあー。
そこの船、オレの声が聞こえるか?」
カルマス
『ブリッジからの放送……じゃない?!』
???
「船ん中によ、ジナコって奴、居んだろ、居るよな?
それじゃあ、あいつ寝返ったってことだよなぁ!!」
カルマス
『艦に振動が!』
???
「我が名は森長可!
我が機体名、第六天魔王織田信長!
ちぃっと
第21話 2020/04/02
──宇宙空間
カルマス
『自分は、巨神アルジュナオルタナティブの
森長可
「来たな、伝説を駆る者。
ん、友軍はいねぇのか」
カルマス
『今戦えるの、自分だけなんだ』
森長可
「つまり、お前がそっちの艦の大将首。
殿様だな」
カルマス
『……自分はただのパイロット、それだけだ』
森長可
「良い返しすんじゃねぇか。
カルマス
『A2! 頼む!』
A2
「ガーンディーヴァ、煉獄:インドラカスタム、どちらもエネルギー充填完了。
いつでも戦闘に移れます、マスター」
森長可
「殺し合いに作法無し、どこからでも来な」
カルマス
『どうして、ここに来たんだ』
森長可
「ジナコが逃げ出しやがったからな。
裏切り者は、追いかけてやらねぇと」
カルマス
『君は、青い炎をまとった女性型巨神の仲間なのか』
森長可
「マーラと
……ヒャハハ! 何だよ情けねぇ!
ブッ殺しておけばよかったぜ!!」
カルマス
『質問に答えてくれ!』
森長可
「連んではいるが、仲間じゃねぇよ。
オレもアイツもジナコも、それぞれ勝手に動いてんだ。
あの『神』の下でな」
A2
「『神』? ゾルテトラの神のことか」
森長可
「伝説の巨神にAIが付いてるっつー話は本当だったか、名乗れよ」
A2
「A2だ」
森長可
「んー……そうか、なるほどなぁ分かったぜ」
A2
「何が分かったと言うんだ、獣のような男」
森長可
「教えてやっても良い。
……けどよ、最後までオレに殺されなかったらの話だなァ!!」
カルマス
『煉獄:インドラカスタム! 力を貸してくれ!』
A2
「同時にガーンディーヴァ起動! 発射!」
森長可
「面白れぇ! おめぇら本当に面白いぜ!
血が沸き立つ戦いなんて、何年ぶりだぁ?!!」
カルマス
『自分はっ! 面白くない!』
森長可
「なんでだよ?
思うがままに相手を切って、
オレみたいな孤児が、気に入らねぇ大人どもをブチ転がせる!
腹が裂けそうなほど愉快じゃねぇかよ!
巨神の
カルマス
『君もまさか、無理矢理に
森長可
「ああそうだ! だからどうした?
オレを哀れもうとすんのなら! ブッ殺す!!」
カルマス
『君を傷つけたくない!』
森長可
「……。
フェイトエンジン、逆回転! 行くぜ大殿ォ!!!!」
???
「──やめて」
森長可
「んだよ、邪魔すんなや……」
カルマス
『ジナコさん、そんなボロボロの機体で、体で、どうして?!』
森長可
「オレと
ジナコ
「……裏切りを咎めに来たのなら、私だけ殺せば?」
森長可
「無抵抗の女殺してハイお終い、で満足しろと」
ジナコ
「殺し合いたいなら、それでも良いよ。
私の方が、いつも成績は上だったけど」
森長可
「ジナコは戦闘シュミレーションの成績"だけ"は良かったからな!
実戦はからっきしだったけどよ! ヒャハハ!」
ジナコ
「あなたにはあなたの目的があるでしょ。
ここで余計な時間を食ってる暇、無いんじゃない?」
森長可
「……冷めた、帰る。やる気ない奴殺しても面白くねぇわ」
ジナコ
「マーラに付け口、するの?」
森長可
「つまんねぇことばかり言うなや……。
ああそうだ、A2、お前の名前の意味、教えてやるよ」
A2
「突然なんだ、お前」
森長可
「昔、伝説の巨神にはAIがついててな。
古文書によれば、名は──『アルジュナ1』」
お前、二代目だからA2なんじゃねぇか?
オレの勝手な推測だけどよ。
……またな! 弱っちくて甘っちょろいマスターと、そのAI!」
──艦内ドック
カルマス
『無茶をして!』
ジナコ
「でもそのおかげで、君を助けられたし。
良い結果になったッスよ……」
カルマス
『キルケー!』
キルケー
「もうスタンバイしているさ!
彼女の脱走を許した私の落ち度だ! きっちり治療するよ!」
──自室
カルマス
『ジナコさん、体、良くなるといいな』
「私、少し艦内を歩いて来ます」
カルマス
『行ってらっしゃい』
「……止めないのですか? 何か聞かないのですか?」
カルマス
『止めないし、聞かないよ』
「……では、行ってきます。夕飯までには帰ってきます」
カルマス
『さてと、今のうちに寝て、体力回復しないと……あれ?
こんなところに白髪生えてる、前からあったっけ?』
──宇宙空間、森長可、帰還途中
森長可
「それにしても久々に楽しい
今日もだんまりか、そりゃそうだわな。
……、……、……巨神になってんだから」
──20年前、森長可6歳、コロニー内にて
織田信長(以下、信長)
「相撲と合戦ごっこ以外の遊びをしたいのぅ……」
織田信勝(以下、信勝)
「でしたら姉上、その、子どもらしく室内遊戯を……!」
信長
「飽きた、信勝しか相手おらぬもん」
信勝
「そ、そんなぁ……!」
森長可
「大殿ォ! 家からスイカ持ってきたぜ!
水耕栽培だから、味シャバシャバのヤツだけんどよ!」
信長
「勝蔵でかした! よし、今日は庭でスイカ割りじゃあ!」
信勝
「勿体ないですよ、普通に切って食べましょうよー」
──コロニー内、家屋、裏庭
信長
「いけいけ鬼武蔵!
そのまま真っ直ぐ、ずどーんと棒を振り下ろせー!」
森長可
「よっしゃ行くぜ! 全身スイカ汁で赤く染まってやらぁ!」
信勝
「姉上とご友人が揃うといつもこうです……はぁ……」
森長可
「(楽しいなァ! 大殿と遊んでいると、楽しくて仕方ないぜ!
こんな毎日が、ずっと続くといいのにな!)」
──数時間後、家屋内
信勝
「姉上、コロニー全域に避難警報が発令されたみたいです。
僕、表の様子をちょっと見てきますね」
信長
「うむ、わし、勝蔵にリベンジマッチしておるから。
わしはこの第六天魔王を使うぞ!
ステージは焼け寺でアイテム無しな」
森長可
「新作ゲームは遊び倒さねぇとなぁ!」
信勝
「二人とも仲良しですねぇ……それじゃあ、行って来ます」
──数分後
信長
「信勝」
信勝
「あ、姉上、ごめ、ごめんなさい。
僕、僕じゃなくなって、しまっ……うっ」
信長
「ゾルテトラに侵食されておるな。
ふむ、人間と融合する性質は、授業で教師から学んだ通りか」
信勝
「姉上、逃げて。
僕が、もう、どんどん、とろけて……」
信長
「床に寝そべれ。わしがお前を診る」
森長可
「大殿!」
信長
「吠えるな勝蔵。どちらにせよ、もう助からん。
ならば有効活用するまでよ」
──数時間後
のぶかつ
「う……うぉ……おぼ……」
森長可
「(目の前で、信勝がゾルテトラへ変わっていきやがる……。
大殿はノートに何を書き記しているんだ……?)」
のぶか
「ぎゅ……ぎゅぎー……」
信長
「信勝、良く耐えたな。
あとはもう、好きにせよ」
のぶ?
「みぎゅ! ぎゅー!」
森長可
「大殿! 何を……!?」
信長
「勝蔵、どうした、お前もこっちに来ぬか」
森長可
「な、なんで、自分をゾルテトラに喰わせるような真似……!」
信長
「そうか、お主には分からぬか。
では良い、どこぞ勝手に行ってしまえ」
森長可
「大殿! ぁ、ああ……大殿ォ!」
──コロニー内、炎上状態
森長可
「(オレは、その場から逃げ出した。
オレは大殿が何を知っちまったのか、理解もできなかった……。
住んでいたコロニーはゾルテトラによって破壊。
多くの子ども達が孤児となり、軍へ回収された……)」
──6年後、軍、秘密施設、捨て犬部隊訓練場
軍人
「お前達は、誰にも必要とされなかった子どもだ。
そんなお前達でも、新兵器の実験台となり、技術発展の
森長可
「(野郎、話が長いぜ)」
軍人
「お前達に見せよう、これが人類を救う新兵器。
1000年前の巨神を鹵獲、調べ上げることで開発された……新型巨神だ!」
森長可
「めちゃくちゃデケェロボットが、十以上も……」
軍人
「戦闘シミュレーションの成績不振者から乗ってもらう。
迅速に並べ!」
──数分後
森長可
「オレの番か、さて、どうな……」
勝蔵。
森長可
「大殿?!」
軍人
「No.0251。
どうした、遺伝子登録も脊髄神経接続も終わっているぞ。
さっさと動かせ、殴られたいのか?」
森長可
「……なんだよ、大殿」
軍人
「No.0251。
今回お前が許されている操作は、歩行と腕の上げ下げのみだ。
それ以外の操作は」
森長可
「こんなところにいたのかよ!
オレ、全然分からなかったぜ……ヒャハハハハ!!!!」
軍人
「0251……ひっ! や、やめろぉ!!」
森長可
「──大殿をちんけな鎖で繋いでんじゃねぇ、殺すぞ」
軍人
「じじじ、実験中止!
巨神に乗ったパイロットが暴走を……あああー!!」
──現在
森長可
「大殿は全部分かってたってことで……やっぱりすげぇぜ、大殿は!
オレはこの巨神、第六天魔王織田信長に乗り続ける!
そうすりゃあ、いつかきっと、大殿は……!!
その日が来るのが楽しみだぜ! ヒャハハハハ!!!!」
第22話 2020/04/03
──森長可との戦闘から数日後、艦内ドック
A2
「本当にいいのですか?」
ジナコ
「これが一番、みんなのためになると思うし。
それに、私も巨神化症が進みすぎて、もう戦えない。
機体の方も……損耗が激しすぎて、この空域まで飛ばすのがやっとだったから。
巨神ガネーシャは分解して、君達の機体修理とかに使って欲しいッス」
カルマス
『ジナコさんが、そう言うのなら……』
A2
「巨神の解体……ですか。
私はマスターの自室にいます。
その、見ていると気分が悪くなりそうなので」
カルマス
『分かった、また後で会おうね』
「巨神のAIだけあって、思うところがあるのかな」
カルマス
『それ以外にも、最近何か悩んでるみたいで』
「自分一人で背負い込むタイプ、なんスかねぇ……」
──艦内ドック、訓練室
ジナコ
「戦えない私が出来るせめてもの事として、シミュレーションの改良をしておいたッスよ、。
マスターさんの戦い方とか戦歴データ読んだ。
けど、機体の性能で力押し、ってパターンが多かったのね。
だからこの特製! 辛口シミュレーション! で、びしばし鍛えるッス!」
カルマス
『数日でそこまでしてくれたんだ?!
ジナコさんは凄いね!』
ジナコ
「……そんなに、凄いこと?」
カルマス
『自分にはとても出来ないから』
ジナコ
「そっか、えへへ……。
誰かに褒められるなんて、子どもの時以来かも……」
カルマス
『今からやってみる!』
ジナコ
「ではでは、疑似コクピットに座ってもらって……スタート!」
──艦内食堂
きょしんさん
「むむむっ」
A2
「OSA2……ではなく、きょしんさん。
こんにちは……」
きょしんさん
「今日も元気な私だぞ、えっへん。
それにしても、お前が一人でいるとは珍しい。
しかも、こんな食堂の隅っこで」
A2
「誰とも……話したくない気分なのです」
きょしんさん
「元気がないのか。
つまり、腹が減っている、ということか?」
A2
「……私は、そこまで単純な生き物ではありません」
きょしんさん
「巨神もAIも人間も、根っこはみんな同じで単純だ。
土方がそう言っていた。
待っていろ、ネームレス・レッドから何かもらって来よう」
──十分後
きょしんさん
「おごりだ、食べるといい。
土方からもらった資金より払った。
お小遣い、とも言う」
A2
「出来立ての……卵焼き……」
きょしんさん
「ネームレス・レッドから、これが好きと聞いたからな」
A2
「……どうして、私に構うのです」
きょしんさん
「友達だからだ。
そう感じているのは、きょしんさんの思い込みだったか?」
A2
「友……ですか」
きょしんさん
「友達とは、上も下もなく対等で、強みも弱みも見せあえる。
そんな間柄なのだと、スペース極道ドラマで言っていた。
お前の友達であるきょしんさんに、胸を見せてくれ」
A2
「……胸の内では?」
きょしんさん
「そうとも言う、ちょっと間違えた」
A2
「……あなたは夢を見ますか?
己の夢ではなく、知らない人間の過去を覗き見るような」
きょしんさん
「うん、見るぞ」
A2
「どんな夢、でしたか」
きょしんさん
「……痛い夢、苦しい夢、辛い夢」
A2
「!」
きょしんさん
「そして、誰かと離れ離れになる夢を」
A2
「……この頃、そんな夢ばかり見ます。
目の前で誰かが散っていって、泣いて、叫んで」
きょしんさん
「そうか」
A2
「でも、私が夢の中で出来ることは、何もないのです。
磔にされた蝶のように、身動きが取れず。
だからこそ、見るも聞くも、辛くて……」
きょしんさん
「本当に、そんな景色ばかりだったのか?」
A2
「……あなたは違うのですか?」
きょしんさん
「ああ、楽しい夢も見たぞ。
満開の桜。
落ちてくる花びらを、幼なじみと追いかける景色。
コロニー内に流れる川で遊んだ、小春日和のこと」
A2
「私の夢は、いつも涙と血の景色ばかりです。
これが……私の生まれる前、我が身に降りかかった過去、なのでしょうか。
だとしたら、これから先、同じような事態が……」
きょしんさん
「私達巨神付きAIは、確かに過去の夢を見ているのかもしれない。
人間風に言うのであれば……前世の記憶、というやつなのだろう」
A2
「前世?」
きょしんさん
「けれどな、その記憶は"今"ではない、全て過去の事なんだ。
きょしんさんもA2も、この艦に乗っている者達は、未来にも過去にも生きていない。
"今"を、生きているんだ」
A2
「……」
きょしんさん
「悲しい夢を見たらしょんぼりする、私もな。
でも、それは過去。
私は過去という後ろへは歩かない、"今"だけを見つめていたい」
A2
「あなたと同じに、出来るでしょうか」
きょしんさん
「一人では出来なくとも、A2には側で支えてくれる人達がいるじゃないか」
A2
「それが、友?」
きょしんさん
「私や艦の仲間、お前のマスター。
"今"を生きる人達」
A2
「"今"を……生きる」
きょしんさん
「過去は色んな事を教えてくれもするが、囚われてはいけないんだ。
分かったか?」
A2
「あなた、発生してから数か月も経っていないのに、とても良いことを言うのですね」
きょしんさん
「褒めるな。
スペース極道ドラマ主人公の、台詞のまねっこだ」
A2
「……暗記していたんですか」
きょしんさん
「一日三回、録画された同じ話を放送しているからな。
好きでも覚えちゃうぞ」
──数時間後、艦内ドック、訓練室
カルマス
『終わったぁ……』
ジナコ
「いやー見事な爆散爆散、大爆散! ッスね……。
有り体に言うとゲームオーバーっす……」
カルマス
『難易度の設定おかしくない?
仮想敵の数が多くない?』
ジナコ
「そりゃあ、ゾルテトラってガンガン増えるし。
こっちの武装を次から次へと奪い取っていくのが、向こうのやり口ッス。
今までの戦闘、イージーモードすぎたってこと」
カルマス
『運が良かったんだなぁ……』
ジナコ
「本当に運が良いマスターなんですよ、巨神化症も進行が遅いし。
これは、キルケーの腕の良さもあるのかな」
カルマス
『自分は色んな人に支えられているんだね』
ジナコ
「感謝の気持ちがあるなら、言える内に言っておいた方がいいよ。
この時代、大切な人はどんどん居なくなっちゃうし」
カルマス
『うん、そうするよ』
ジナコ
「では私は、今日のデータを基にシミュレーションの改善するね。
ん? なにこれ、敵感知レーダーに反応が……」
カルマス
『どうしたの? またゾルテトラ?』
ジナコ
「ただのゾルテトラじゃない。
最も会いたくなかったタイプの敵。
……数は1体、巨神と融合した、ゾルテトラだ」
第23話 2020/04/04
──艦内ドック
カルマス
『あれ? A2ー? どこに居るのー?』
A2(走ってきた姿)
「……申し訳ありません、マスター!」
カルマス
『良かった、自分一人ではとても出撃できないから』
A2
「マスター、その、私……」
カルマス
『?』
A2
「私、"今"を生きることにします。
どれほど過去と未来が恐ろしくても、"今"を生きたいと思ったのです」
カルマス
『……良かった』
A2
「何がです?」
カルマス
『顔色、少し良くなったように見えるから。
安心したんだ』
A2
「……では、行きましょう私のマスター!
敵は、巨神と融合したゾルテトラ。
戦闘経験は無いですが、貴方とA2なら、きっと勝つことが出来ましょう!」
カルマス
『巨神アルジュナオルタナティブ、出撃します!
行こう、A2!』
──宇宙空間
A2
「敵との距離、残り100m。そろそろ目視できるかと」
カルマス
『見えた! ……あれは』
A2
「巨神の形こそ保っていますが、四肢がゾルテトラに変化していますね。
恐らく、1000年前の人神戦争のおり、敵に奪取された機体かと。
実に痛ましい姿です」
カルマス
『ここまで近づいたのに、何もしてこないね』
A2
「ゾルテトラの生体反応はありますのに、おかしなことです。
ん、あれは?」
カルマス
『こちらに、手を差し伸べているようにも見える……』
A2
「っ! いけない、不用意に近づいては……!」
カルマス
『どことなく、見たことがある巨神だ』
A2
「艦内データと照らし合わせました。
巨人オデュッセウスと類似部分、40%です。
もっと詳しく調べないと、詳細は……」
カルマス
『──しなきゃ』
A2
「マスター、機体距離と敵から離してください。
近すぎると、ゾルテトラに浸食された際、抵抗が出来ません。
マスター? あの、マスター……?
A2の声が聞こえないのですか? マスター!」
カルマス
『この差し伸べられた手を、取らなきゃ』
A2
「コクピットを開いて、何をしようというのです!
確かに宇宙遊泳用の装備をしていますが……人が直接、ゾルテトラに触れなどしたら!」
カルマス
『手を、取らなきゃ──』
A2
「っ、やめて! マスター!」
──白い、謎の空間
カルマス
『(ゾルテトラと融合した巨神の手に、直接触れた瞬間、目の前が真っ白に……)』
???
「……」
カルマス
『(この光に満ちた空間に誰か居る……。
あれは、オデュッセウス?)』
???(以下オデュッセウス?))
「……マスター」
カルマス
『オデュッセウス、なのか?』
オデュッセウス?
「まさかお前と、再会できるなんて」
カルマス
『貴方はいったい……』
オデュッセウス?
「巨神アルジュナのマスターよ、俺と手を繋いでくれ。
さすれば、分かる。
俺が何者で、どこにいるのか。
どうしてお前が、この世界に生きているのか」
カルマス
『分かるの、なら』
???
「……マス……目を……覚まし……」
カルマス
『(A2の声が遠くから聞こえる。
いや、アルジュナ(オルタ)の声かもしれない)』
オデュッセウス?
「手を……」
カルマス
『手を……』
──???の記憶 断片の連続
謎のマスター
「オデュッセウスは本当に強いな!
キルケーとのコンビネーションもばっちりだし」
オデュッセウス?
「そう褒めてくれるな。
俺はまだまだ、未熟なマスターなのだから」
──???の記憶 断片の連続
謎のマスター
「こんなものが巨神の真実だというのか!
こんな……こんなもののために、罪のない人達が死んで!
ジャパンコロニー、皆の故郷すら焼かれて……」
オデュッセウス?
「落ち着け、アルジュナのマスター!」
謎のマスター→アルジュナのマスター
「オデュッセウスは悔しくないのか!
くっ、なんで……!」
──???の記憶 断片の連続
アルジュナのマスター
「世界を、救うにはこれしかないんだ。
オデュッセウスにだけ、打ち明ける」
オデュッセウス?
「『母』を
アルジュナのマスター
「地球から全ては始まった。
だから、地球に、最後にして最初の剣が……」
──???の記憶 断片の連続
アルジュナのマスター
「やめろ! そんなことしたら、君は!」
オデュッセウス?
「いいんだ。
俺の巨神化症は末期。
拮抗薬の副作用のせいで、一番好きな人の名前すら思い出せない……。
こんな俺など、オデュッセウスではない!」
──白い、謎の空間
カルマス
『(まるで映画を見るみたいに、過去の記憶が流れ込んでくる……)』
オデュッセウス?
「……違う」
カルマス
『えっ?』
オデュッセウス?
「お前は、巨神アルジュナのマスターではない!
肉体も魂も、あいつそのものなのに、心だけ違う。
お前は誰だ!」
カルマス
『自分は、巨神のマスターで……』
オデュッセウス?
「お前は俺の盟友ではない! 違うものだ!」
──白い、謎の空間→宇宙空間
カルマス
『……はっ!』
A2
「マスター! お願いです!
すぐにコクピットを閉じて、機体内部に戻ってください!
ゾルテトラの攻撃が……来ます!」
カルマス
『待ってくれ、オデュッセウス! 自分は!』
A2
「正気に戻ってください!
よく似ていても、あれは違うものだ!」
カルマス
『っ! 攻撃、目の前に来て……』
A2
「煉獄起動!
防ぎましたが、相手の方がパワーは上か!」
オデュッセウス?
「お前は、誰だ」
カルマス
『自分は、ただのパイロット、人間を守るものだ!』
オデュッセウス?
「違う、お前は、世界を救うもの。
違う、違う違う違う……。
世界を救う、救うため、救うだけ救う。
救う救う、救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う……。
あああ! 何もかも違うだろ!
盟友の心を! どこにやった!!」
カルマス
『自分は、そんなの知らなっ』
「マスター、敵の言葉に耳を貸さないで!
くっ! フェイトエンジン、回転数減少!
マスターが混乱したせいか!
武装へのエネルギー供給が足りない……押し負ける……!」
???
「──借りを返しに来たぞ、巨神のマスターよ!」
A2
「その声は……オデュッセウスA012!」
オデュA012
「アイギス、完全復活! フルバースト!
近距離で撃ち……放つ!」
A2
「助けてくれて、ありがとうございます!」
オデュA012
「久しぶりだな。
ずいぶん明るい声になったじゃないか」
A2
「マスターが敵と接触してしまい、精神汚染を……!」
オデュA012
「では、迅速にこの脅威を退けるとしようか!」
オデュッセウス?
「……」
A2
「なんだ、急に動きが止まった?」
オデュッセウス?
「剣があっても、心が無いのなら……。
世界救済の
オデュA012
「俺と同じ声、か?」
オデュッセウス?
「あのマスターに伝えろ。
『ゾルテトラ繁殖銀河の中心部、地球に、最後にして最初の剣がある。
けれど、振るう者の心が無ければ何の意味もない』とな」
オデュA012
「お前は、俺のオリジナルなのか?!」
オデュッセウス?→オデュッセウス:オリジン
「……英雄の始まりを忘れた俺は、誰でもない。
さらばだ、俺のクローンの1つ」
──艦内ドック
キルケー
「オデュッセウス! ばかばかばか!
きみ、まだリハビリもしてないってのに……!」
オデュA012
「すまなかった、説教は全て聞こう。
だが、あいつを助けるのには、この方法しかなかったものでな。
巨人オデュッセウスが直っていて助かった、ありがとう」
キルケー
「ううん……なんだよ、熱っぽく謝ってさ……。
お説教はひとまず後、A2のマスターを治療しないと!」
──医務室
A2
「マスター、ごめんなさい、私が、止めなかったから。
この埋め合わせ、どうすれば……」
キルケー
「きみのせいじゃないぞ。
考えなしにコクピットの外へ出て、ゾルテトラに触れるなんて馬鹿なことしたからだ」
A2
「でも、マスターを守れなかった……」
キルケー
「汚染度は低い、明日には目を覚ますだろう。
きみはもう、部屋に帰ってお休み」
A2
「……眠っているマスターの顔を、見てきても良いですか?」
キルケー
「良いともさ!
その見舞いが済んだら、私の言う通り休むんだぞ」
A2
「はい……」
──A2が隣室に移動後、医務室
オデュA012
「少しいいか」
キルケー
「なんだい」
オデュA012
「……、……、……。
俺の、オリジナルと思われる存在に会った」
キルケー
「嘘……だろ、私をからかわないでおくれ!」
オデュA012
「話して、直ぐに分かったんだ。
声、思考、それらが俺に類似していて」
キルケー
「う……ぁ……。
そ、そんな残酷なこと、あるか、あってたまるか」
オデュA012
「そしてお前は、キルケーは……1000年前に戦っていた巨神マスター、だな?」
キルケー
「どうして、それを……」
オデュA012
「俺とお前は、親子ほどの付き合いがあるんだぞ?
隠し事があるくらい、分かっていたさ。
ただ……今日の出来事があるまで、問うつもりは無かった」
キルケー
「A2のマスターが目を覚ましたら、全てを話すよ。
ジナコ=カリギリも、この艦に何か伝えに来たのだろうしね」
オデュA012
「彼は目覚めるのか?」
キルケー
「大メカニック兼大ドクター兼……元巨神マスターが治療したんだぞ。
目覚めるに決まっているじゃないか!」
──医務室、隣室
A2
「マスターが早く目を覚ますよう、毎日お見舞いに来ますね」
カルマス
『……』
A2
「声も漏らさない寝顔を見ていると、まるで、死んでいるような──」
カルマス
『……』
A2
「マ、マスター、が、もし、死んだ、ら。
私は、A2は、どう、すれば。
死……死んでしまったらっ!」
カルマス
『ううん』
A2
「……、……、……ああ。
なに馬鹿な事を考えているんだ、私は。
マスター、今はとにかく休んでください。
そしてまた、食堂で一緒に、ご飯を……」
第24話 2020/04/05
──艦内会議室
キルケー
「よく来てくれたね。
A2、OSA2、オデュッセウスA012、土方、新艦長。
そして……ジナコ=カリギリ」
新艦長
「こういうのって普通、偉い人順に名前を呼ぶものじゃないかね?」
土方
「俺をここに呼んだということは……全て話してくれる気になったのか?」
きょしんさん
「難しい雰囲気になってきた。
土方の右隣のきょしんさんは、緊張みを感じている」
ジナコ
「……キルケーさんがいるなら、大切な話をしてもいいかなって、気持ちになったッス。
まぁ、元々そのつもりだったし」
A2
「……私、ここにいて良いのでしょうか」
キルケー
「もちろんだよ。
だってこれは、きみにも関係のある話なのだから」
新艦長
「……総責任者である私が、一番疎外感を覚えてしまっているぞ、ううむ」
キルケー
「言葉をこねていても仕方がないし、結論から言おうか。
……巨神の正体は、人間だ」
新艦長
「なっ……!
私が軍人として、ムジーク家の長子として学んできた事実と、全く違うではないか!
土方
「おうそうか、だと思っていたぜ」
きょしんさん
「私は元人間だったのか、ヤバみ」
新艦長
「(あれー?! 反応が薄み?!)」
オデュA012
「だから、俺のオリジナルは……」
A2
「巨神は、人、ですと」
新
「(良かった……私以外も驚いていて……)」
キルケー
「そうさ。
ジャパンコロニーで開発された技術を用い、加工された人間が、巨神の素体。
その素体に、フェイトエンジンやコクピット、装甲、武装を後付けして、戦闘用へ整えるんだ。
……1000年かけて研究したけど、全貌は完全には分からなかったけどね」
新艦長
「ん? 今、1000年と……」
キルケー
「そうだ、私は1000歳と少し生きている」
新艦長
「な、ななななな……!!」
キルケー
「この話もしないといけないな。
ふぅ……やるべきことが多くて困るよ」
きょしんさん
「気絶するな起きろ、ジャガーパンチ(弱)」
新艦長
「はっ!」
キルケー
「さて、彼も起きたし話を戻そうか。
……私はね、1000年前の戦争で死にぞこなった、巨神マスターなのさ」
新艦長
「ひ、人がそんなに長く生きられるものか!
そんな酷い話があって良いはず──」
キルケー
「巨神マスターは、人ではない」
新艦長
「あっ……」
キルケー
「私はある機体に乗り、巨神化症となった。
私の症状は……異形の羽が生えたこと。
それ以外は、肉体の強化や不老」
新艦長
「不老……」
キルケー
「幸運なことに、私がマスターとなってから直ぐ、人神戦争は終わった。
……オデュッセウスA012のオリジナルを含む、多くの犠牲者を出して」
新艦長
「では君は、1000年もこの宇宙を彷徨っていたというのかね?
何を、生きる寄る辺としていたのかね……」
キルケー
「──巨神で死ぬ者を無くす、ただそれだけのために。
人神戦争の原因は、巨神化症も絡んでいたからね。
長い、長い時間をかけて、巨神化症の仕組みや、正体を調べた。
時には軍へ入り、時には為政者へ取り入り……。
まぁ、ちょーっぴり、危ないことして調べたものもあったけど。
そして分かったことがある。
巨神化症はその名が示す通り、人を巨神へ変える病だ。
けれど、ジャパンコロニーの技術が失われた現代においては、病にかかった人間を巨神へ昇華する術がない」
新艦長
「昇華、だとぉ?」
キルケー
「そうだよ、巨神は彼らなりの生態を持つ生き物だ。
……繁殖方法に難があるだけのね」
新艦長
「その話しぶりだと、巨神化症を治す方法は無いと聞こえるぞ!」
キルケー
「私が調べた限り、マスター達を完全に人へ戻す治療方法は無い」
新艦長
「な……な……」
キルケー
「1000年前、この真実を知ったマスター達は、発狂した。
ゾルテトラと戦わなければ、死ぬ。
でも、戦い続けていても死ぬんだ……とね」
A2
「マスターとなったものは……遅かれ早かれ、死ぬ」
キルケー
「巨神は、人を巨神とすることで増える。
この生態、何かに似ていると思わないかい、ジナコ=カリギリ」
ジナコ
「……ゾルテトラ、でしょ」
キルケー
「そう、巨神とゾルテトラには近似性がある。
私は考え、こんな仮説を建てた。
『巨神とは、何らかの方法で加工したゾルテトラなのではないか?』」
ジナコ
「……半分正解。
じゃあ、ここからは私が話すね。
ゾルテトラにはコアがあるでしょ?
実はね、これと同じものが巨神にもある。
A2は分かる?」
A2
「……分かりません、それはなんなのです?」
ジナコ
「マスター乗せる、コクピット。
あれがね、言わば巨神のコアなの」
A2
「コクピットの必要性は分かります。
が、コアは何のために存在しているのです?」
ジナコ
「私も完璧には知らないんだけど……ものを考えたり、仲間や『母』と、連絡を取ったりするためにあるみたい」
「『母』?」
「それについては後で話すね。
……私や仲間達は、『捨て犬部隊』ってところにいたんだ。
世界に必要とされなかった子どもを集めて、人体実験や表に出せない殺し、戦いをさせるための部隊」
新艦長
「都市伝説では無かったのか……」
ジナコ
「貴方みたいなエリートですら知らないくらい、隠された情報だから」
新艦長
「人類を守るための軍が、そんな恐ろしいことをしていたとは……」
ジナコ
「気にしないで。
誰にも顧みられることの無い……だから『捨て犬部隊』って名前なんだもの。
軍の暗部である私達の間には、色んな噂が飛び交っていた。
『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』ってカッコイイ伝説もそうだし。
『ゾルテトラの母に会えば、マスターは救われる』ってお話も。
ある日、噂を信じた十数人が、軍から脱走した。
私もね、みんなと一緒に逃げたんだ」
A2
「それから、どうしたのですか」
ジナコ
「ゾルテトラの『母』の場所なんて見当つかなかったから、マーラって名乗っていた子をリーダーにして、地球方面に向かったの。
放浪の間に、多くの仲間が死んでいった。
飢え、発狂、巨神病……生きながら地獄にいるような時間。
その果てに、『繁殖銀河』と呼ばれる場所へたどり着いた。
マーラが見つけたんだ、『母』を。
多くの仲間が、『母』に救いを求めて近づいたけど、乗っていた巨神ごと喰われて……何日か後に吐き出された」
A2
「喰われたとは、どういう……」
ジナコ
「私は、喰われなかったから分からない。
ただ、ある仲間が言うに『俺達は生まれ変わった、母の子どもになった』って……」
キルケー
「彼らに、どういう変化が表れていたんだい?
医師としても、マスターとしても興味があるよ」
ジナコ
「まず、巨神化症は止まった。
いくらでも巨神に乗れる体になっていたの。
そして……人を越えた力を使えるようになっていた」
キルケー
「例えば?」
ジナコ
「マーラの例を上げれば、自分と同じ能力を持った個体の無限生産。
ゾルテトラの分裂増殖と似ているかな。
材料があれば、いくらでもマーラは生まれるようになったの」
キルケー
「おぞましい話じゃないか……」
ジナコ
「『母』の下には、私達より前に、軍から逃げてきていたマスター達もいた。
マーラは彼らをまとめて、人類を滅ぼそうって、指揮を執るようになったんだ。
……私、『母』に喰われたくも、人を滅ぼしたくもなかったから、また逃げた」
A2
「なぜ、逃げたのです?」
「人を滅ぼしたい気持ちを、持てなかったから。
ちょっと自分語りするね。
私、パパもママも居ないの、死んじゃった。
遺産はいっぱいあったけど、知らない大人に取られちゃって。
毎日悲しい辛いと泣いてたら……あるおじさん、いや、おっさんに出会ったの。
『ミラクル求道僧』とか名乗っていたから、始めはそりゃあ警戒したけど……。
泣いてる私の話を、うなずきながら、真剣な顔で聞いてくれて。
背中を押してくれる言葉も、沢山くれたの。
美味しいお粥も、作ってくれた。
……そんな人に会うの、初めてだったから、嬉しかったことを覚えてる。
だから、その人の顔を思い出した時、こう考えちゃったんだ」
A2
「それは……」
ジナコ
「ああ、あの親切なおっさんだって、人間じゃないか。
世の中には、私をひどい目に合わせた人もいたけど、大切にしてくれた人だっていたじゃないかって……。
そしたら、マーラの話に気乗りしなくなっちゃった」
A2
「良い出会いがあったのですね」
ジナコ
「うん、幸運だった。
だからかな、この艦の話を聞いた時、伝説の黒い巨神が現れたって聞いた時、なんだか手助けしたくなって。
まぁ、ワンチャン巨神化症を治してくれないかなーとも、思っていたッスけど。
いけないいけない、話が大脱線。
うんとね、ゾルテトラの銀河には貴重な資料も放置されていて、ジャパンコロニー関連のものもあって。
巨神の作り方も、記されていた」
新艦長
「ど、どのような、ものかね?」
ジナコ
「顔、青くなりすぎ。
うん、半分はキルケーの言う通りかな。
原材料は人間。
ジャパンコロニーでは、志願兵の親が提出した新生児を使ってたみたい。
やり方は……新生児をわざとゾルテトラに喰わせ、融合させる。
その後コアへ信号を送り、巨神の素体となるよう成長。
既定の大きさまで育てたらコアを抜き取って、そちらはコクピットに加工する」
新艦長
「あわ、あわわ」
ジナコ
「巨神になった新生児は、自我を持たないようセーフティをかけていたみたい。
じゃないと、勝手に動いたりするから……。
そして、巨神と似た遺伝子配列を持つ生き物を、マスターとして乗せる。
ジャパンコロニーでは……母親や、父親のケースが多かったんだって」
新艦長
「親が子に乗り、戦っていたのか。
言うべき言葉が見つからんな……」
きょしんさん
「では、私やA2の存在はなんなのだ?」
ジナコ
「……セーフティが外れ、新生児の意思が、機体制御システムと融合しつつ表に出た存在、じゃないかな。
私の推測が正しければ、の話だけど」
A2
「……」
新艦長
「待て待て! では巨神化症の正体とは……!」
ジナコ
「ゾルテトラと同様の侵食能力を持つ巨神による、マスターとの融合行動……って感じッスかね」
キルケー
「で、ここで謎が1つ解明出来るんだ。
巨神、沖田総司オルタナティブの存在についてだね」
土方
「おう、ようやく俺の関わる話が出てきやがったな」
キルケー
「巨神の筋線維を調べた結果、あの機体は沖田総司が変化したものだと判明した。
そして……ジナコから聞いた──」
土方
「軍が開発していた、新兵器」
キルケー
「……沖田総司は、搭乗しているマスターを高確率で巨神とさせる、そんな性質をもった巨神に乗っていたのではないのかな」
土方
「……あいつ」
きょしんさん
「では、私はどうして私なのだ?
そのまま沖田さんが巨神になったのなら、私はどこから来たのだ?」
キルケー
「巨神と沖田総司が混ざり合った結果、きみは生まれたのだとそこは考えられる。
まさしくオルタナティブ。
その人物の、もう一つの可能性……」
きょしんさん
「うーん、納得、納豆、豆み」
キルケー
「でも、最後に大きな謎が残った。
巨神アルジュナオルタナティブの存在だね」
A2
「私も、彼女と同じものなのでは?」
キルケー
「きみとマスター、機体を調べたが……別存在の遺伝子が3つ混ざってる。
詳細を話そうか。
マスターの遺伝子とA2の肉体の遺伝子、この2つは両者の体に少し混ざり合っていた、機体にも含まれていた。
だが、巨神本体の遺伝子、その多くの領域に、全く未知なるものが組み込まれていた」
A2
「……では私は、何者なのですか? 」
キルケー
「あのマスターの存在も、よくよく考えれば意味不明だ。
きみの言葉を信じるなら、ただの一般人なんだろ?」
A2
「それは……」
オデュA012
「キルケー、止まれ、皆に混乱が見られる。
ここで一度、情報を整理しないか?
会議室のプロジェクターとスクリーンで、まとめを作ろう」
新艦長
「頼むぞ、オデュッセウスA012!
私が後で読み返せるようにな!
……話が難しすぎて、こんがらがってしまいそうなのだ」
オデュA012
「了承した」
今回のまとめ
・キルケーは1000年前から生きている元マスター。
(巨神化症により不老)
・巨神化症は巨神となる病気。
マスターを人間へ戻す方法は、現在見つかっていない。
だがジャパンコロニーでは、これを巨神へ昇華させる技術があった。
・巨神の素材は、ゾルテトラと融合させた人間。
コクピットはコアを改造したもの。
・巨神付きのAIとは、巨神となった人間の意思が、機体制御システムと融合しつつ表に出た存在か?
・軍は孤児を集め『捨て犬部隊』と命名。
様々な人体実験を行っていた。
その中には、搭乗者を巨神に変える秘密兵器もあったと推測できる。
(巨神沖田総司オルタナティブの存在から)
・捨て犬部隊から脱走した者達は『ゾルテトラの母』と出会い、喰われ改造され、人知を超えた能力を手に入れた。
(巨神化症の停止と、搭乗可能時間の無制限化。
マーラの場合、自己増殖機能も手に入れた)
・マーラは軍脱走者達を束ね、人類を滅ぼそうとしている。
・巨神アルジュナオルタナティブには、3つの別存在の遺伝子が混ざってる。
(1つはマスター、1つはA2、1つは全く未知の存在)
オデュA012
「このようなまとめになったが、どうだろうか」
新艦長
「うむ、助かるぞ。
それにしても、軍には提出できん情報ばかりだ。
どうしたものか……。
ってあれ?
巨神が人間ベースに作られていることは、つまり巨人も……」
オデュA012
「残った謎については、次回以降にしよう。
なぜならば……A2のマスターは依然、目覚めていないのだから」
──医務室
カル?ス?
『……行かなくちゃ、世界を救うために』