アルジュナ(オルタ)SSまとめ   作:いざかひと

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※2024 3/25 読みやすく、改稿しました。


『戦闘巨神アルジュナ』コラボイベント風SS 第25話~第35話

 第25話 2020/04/15

 

 

 ───カルデアのマスターの意識が、この世界の人物と混線してから三ヶ月経過

 

 

カルマス

『う……』

 

A2

「良かった、意識を取り戻したのですね! 

 起き上がらないで、キルケーを呼んできますから」

 

カルマス

『アル……ジュナ、なのか?』

 

A2

「私の名はA2(エートゥー)ですよ、マスター。

 一番初めに会った時、あなたに告げたではないですか」

 

カルマス

『夢を……見ていたんだ。

 宇宙で、あなたにそっくりな存在と出会って。

 アニメに出てくるようなロボットに乗って……色んな人を、自分の手で助けられる夢』

 

A2

「不思議な夢を見たのですね」

 

カルマス

『でも目を覚ましたら……いつもと同じ、船の天井で。

 ああ、ここが現実だって、殴られたような衝撃があるんだ』

 

A2

「まだ体調が優れない様子。

 どこかおかしなことを言っていますよ。

 ドクターキルケーを呼んできますね」

 

カルマス

『またキュケオーンかな』

 

A2

「きゅけ? 

 ごめんなさい、あなたが何を言っているのかよく……」

 

カルマス

『……この世界の方が夢だって、どうか言ってくれないか』

 

A2

「マスター! 目を見て、話してください!」

 

カルマス

『……怖いんだ、自分の未来が』

 

A2

「私の目を見てください、マスター。

 あなたは、ここで生きている。

 過ぎ去った過去でも、来るかどうか分からない未来でもない! 

 "今"、ここにいて、生きているんだ! 

 私の声があなたに届かないはずがない! 

 聞いてくれ、マスター!」

 

カルマス

『……アルジュナ、良かった、また会えた』

 

A2

「良かった、正気にもど──」

 

カル?ス?

『もう一度、手を取り合おう。

 そして共に地球へ行って、最初と最後の剣を振るい、ゾルテトラの母を殺そう。

 

 そうすればきっと、みんなの笑顔が取り戻せるんだ。

 

 かつては喧嘩して、それっきりになってしまったけど。

 今はもう大丈夫、怒っていないよ。

 アルジュナ、いや、A1(エーワン)、自分と……地球に……』

 

A2

「マス、ター……」

 

 

 ──医務室

 

 

カルマス

『ううん、頭の中がざわざわする……』

 

キルケー

「精神安定剤を投与したからね。

 気分が悪くなったら、すぐに言うんだよ」

 

カルマス

『ありがとうございます、ドクター』

 

キルケー

「巨神化症こそ軽いが、精神汚染がひどいな。

 メンタルケアのため、VR花見でもするかい?」

 

カルマス

『みんなと話をすればきっと大丈夫です。

 ……そういえば、自分は前回から、どのくらい眠っていたんでしょうか?』

 

キルケー

「3週間だよ。

 自分の治療が誤っていたのかと不安になった……けど、こうして起きてくれて一安心だ」

 

カルマス

『そんなに!

 じゃあ、A2にもたくさん心配かけちゃったな』

 

キルケー

「どうかな? 

 彼、みんなに馴染んで、楽しく暮らしていたみたいだよ?」

 

カルマス

『……よその子は大きくなるのが早いなぁ』

 

キルケー

「だよね。

 人間が育つのも死ぬのも、本当にあっという間さ」

 

 

 ──艦内廊下

 

カルマス

『こんにちは、ちょっと寝すぎちゃったみたい』

 

アビー

「パイロットさん、ご回復おめでとうございます! 

 それとね、大人の方々が軍の無線を傍受したのですって! 

 私達、みんな助かるみたい!」

 

カルマス

『良かったね』

 

アビー

「私達を助けてくれたパイロットさんのおかげよ!

 本当にありがとう!」

 

カルマス

『当たり前のことを、当たり前のようにやっただけだよ』

 

アビー

「……」

 

カルマス

『アビー?』

 

アビー→アビゲイル

「……私の手を取って、座長さん。

 手遅れになる前に」

 

カルマス

『自分が喚ばれた理由が分かるまで、帰るわけにはいかない』

 

アビゲイル

「そう……でも、忘れないで。

 座長さんを待っている人がいるのだから」

 

カルマス

『それだけはきっと、死んでも忘れないよ』

 

アビゲイル

「さようなら、座長さん。

 カーテンコールの後に、会えたなら……」

 

カルマス

『また会おうね、アビゲイル、アビー』

 

アビゲイル

「……紫雲のお方に誘われているの。

 古き冥界の境界が、役目を隠すカーテンの裏。

 マシュマロを手に、私、は……」

 

 

 ──艦内会議室

 

 

新艦長

「ままままま不味いぞ、土方君、オデュッセウスA012君。

 軍本部に見つかってしまうとは……!」

 

土方

「民間人が通信士を脅して、救難信号を送ったことが今朝分かった。

 ゾルテトラだらけの禁足空域から、早く助けてほしいという気持ちは分かる。

 ……が、確かに不味いことになったな」

 

オデュA012

「その通りだ。

 A2とそのマスター、回収した巨神、きょしんさん、匿っているジナコ=カリギリの存在……。

 一介のクローンパイロットである俺の立場では、とても隠し切れん」

 

新艦長

「あわ、わわ……いや、慌てている場合ではない!

 ここで紅茶を一啜り……。

 うん、腹をくくったぞぉ!」

 

オデュA012

「素早い判断、さすが我らの艦長だ」

 

土方

「ゴルドルフ、やる時はやる男じゃねぇか」

 

新艦長

「こんなどピンチで男っぷりを褒められても、嬉しくないやい!」

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「回線つなげ! この私が直接話す!」

 

オペレーター

「は、はい!」

 

新艦長

「さて……どうにでもなーれ!!」

 

???

「あーテステス、そちらの艦、私の声が明瞭に聞こえているかい?」

 

新艦長

「我が名はゴルドルフ・ムジーク! 

 代々軍人として人類存続に奮闘し、そして今現在も戦い続ける男! 

 そちらは何者だ!」

 

???

「いや……なんだろ、自棄(やけ)にテンション高いネ。

 私の名、ジェームズ・モリアーティと言えば、十分に伝わるかな?」

 

新艦長

「モ、モリアーティ! 

 と言えば、あのモリアーティ人類防衛大臣……?」

 

???(以下モリアーティ)

「あれかね? 私って軍内部ではマイナー? 

 名前も覚えてもらえず、現場を知らない大臣とか、悪口言われちゃってる?」

 

新艦長

「いえ、そんな、滅相もございません!」

 

モリアーティ

「なら良かった、モリアーティ、ひと安心」

 

新艦長

「(ど、どうして、軍の更に上の身分である、防衛大臣がこの艦にアプローチをかけて来るのだ? 

 分からん、状況が限りなくヤバい方向に転がっているということしか分からん……!)」

 

モリアーティ

「ゴルドルフくーん?」

 

新艦長

「はっ、はい、聞いておりますですはい!

 にしても、なぜ私の艦に通信を……?」

 

モリアーティ

「人類の未来を切り開くため、単艦で、禁足空域の調査へ挑んだ勇敢な者達を、(ねぎら)いたくなってしまってネ」

 

新艦長

「(私が厄介ごとを押し付けられただけなのに……!)」

 

モリアーティ

「いやぁ、他の艦の助けもなく、少ない物資だけでよくぞ戦い抜いた! 

 ジャパンコロニー流に言えば、あっぱれあっぱれ、というやつかな?」

 

新艦長

「はい……ありがとうございます……」

 

モリアーティ

「なので、君達の功績をたたえる勲章の授章式と、簡単な祝いの席を用意した。

 民間人の受け入れ先も整えてある」

 

新艦長

「(こちらの隠し事など全てばれている、と考えた方が良さそうだ。

 つまり勲章も罠なのか。ぐすん……)」

 

モリアーティ

「安全な場所まで、君達を誘導しよう。

 なぁに……楽にしてくれたまえよ」

 

 

 ──コロニー内

 

 

A2

「生まれて初めてです、円柱状コロニーに入るのは」

 

カルマス

『SF映画みたいで、ワクワクするね』

 

キルケー

「……」

 

カルマス

『どうしたの?』

 

キルケー

「きょしんさんと、ジナコのことは隠してあげられた。

 しかし、君達両者の機体はどうしようもなかった。

 ……軍の動きが早すぎる。

 まるで、内通者でもいたみたいに」

 

カルマス

『警戒、しておいた方がいい?』

 

キルケー

「こちらの面倒を見、表彰式もやる都合上、表だって何かしてくるとは思えないが……。

 二人とも、離れ離れにならないよう、気を付けて」

 

カルマス

『気を付けます。

 ありがとう、ドクター』

 

A2

「お言葉忘れません、ドクターキルケー」

 

キルケー

「君達には、どうせ監視が着いている。

 だったら、軍の金を利用して、ぱーっと遊んでおいで! 

 このコロニーには、生まれて初めて来るんだろう?」

 

カルマス

『それじゃあ、ちょっと外に行ってくるね』

 

A2

「またお会いしましょう」

 

キルケー

「行ったか……。

 私も、気晴らしにどこか行こうかな。

 高いもの買いまくってやる! ふふん」

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

カルマス

『綺麗な部屋だ、ベッドもふかふか。

 この建物も含めて、全部コロニーの中にあるだなんて信じられないや』

 

A2

「本当に、ふかふか、ふわふわ……。

 布から不思議な香りもします。

 マスター、これは何でしょう?」

 

カルマス

『すーすー……』

 

A2

「寝ている。お疲れなのでしょうか」

 

???

「きゃあ!」

 

A2

「女性の悲鳴? 部屋の外、廊下から聞こえましたね。

 角と尻尾を隠すために、フードを被って、大きめのコートを着て……これでよし」

 

 

 ──ホテル内廊下

 

 

???

「ああどうしましょう、本を全て落としてしまい……」

 

A2

「そこの女性の方、大丈夫ですか?」

 

???

「ごめんなさい、わざわざお部屋の中から……」

 

A2

「困っている人を見たら助ける、当たり前のことをするまで、です。

 本を拾うの、お手伝いしますね」

 

???

「ありがとうございます」

 

A2

「重たい本ばかりですね。

 でも、表紙の装飾がすごく綺麗だ……」

 

???

「地球から伝わる、古い神話の本ですから、美しく飾ってあるのですよ」

 

A2

「私の名前はA2と言います、あなたは?」

 

???

「……殺生院キアラ、と今は名乗っております。

 しがない本売りですわ」

 

A2

「どこまで本をお運びしましょうか?」

 

???(以下キアラ)

「そうですね……1階のフロントまで……」

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

カルマス

『ううん、みんな、もう戦えないよ……』

 

???

「やぁやぁおはよう、マスター君!」

 

カルマス

『その声、聞き覚えが』

 

???

「おや、初対面だよ、私と君は。

 ……君は、ね」

 

カルマス

『(ドアの覗き穴から見える顔……モリアーティ?!)』

 

???

「英雄君へ、ランチのお誘いに来たのだよ。

 北京ダックでもいかがかな?」

 

 

 ──コロニー内はずれ、旧商店エリア

 

 

キアラ

「ここまで本を運んでくださるなんて……」

 

A2

「いいのです。キアラは手首を痛めていた様子だったので。

 この素敵なお店が、あなたの本屋さんですか?」

 

キアラ

「ええ、そうです。

 お礼を差し上げたいので、どうぞ、中へ……」

 

 

 ──古本屋内

 

 

A2

「(天井まで本が積み上がり、店の中は暗く静かで、冷たくて。

 どこか安心する……)」

 

キアラ

「どの本でもよろしいですよ、お礼としてプレゼントしましょう」

 

A2

「でも、みんなピカピカ綺麗に見えて、選べません」

 

キアラ

「古本にそんなことを言うのだなんて、変わった人……。

 傷無く、美しいものなどこの世にありましょうか。

 ほら、例えばそれ……」

 

A2

「王子様の石像が表紙に描かれた、童話集……?」

 

キアラ

「かつての持ち主はその本以外全て失い……わたくしに差し出してきましたの」

 

A2

「……、……、……。

 他の本にしてもいいでしょうか」

 

キアラ

「ええどうぞ。

 心行くまで、わたくしの中でおくつろぎくださいませ。

 ふふふ……」

 

 

 ──三十分後

 

 

A2

「これにします」

 

キアラ

「あら、獅子を腕に抱く男が描かれた本。

 神話集……」

 

A2

「この本の内容を知っているのですか?」

 

キアラ

「ええ、とても」

 

A2

「その『とても』を、少しだけ教えてください」

 

キアラ

「……愚かな男の話。

 何もかも手に入れたのに、たった一つの相手にしか心を開かず、それも死んでしまった。

 男は死を嘆き、怯え、不死を探しに旅へ出た」

 

A2

「旅に……」

 

キアラ

「ああいけません、最後まで()ってしまいそうでした。

 どうか物語の最後は、あなた様の指で(まく)ってくださいませね」

 

A2

「ありがとうございます。

 プレゼント、大切にします」

 

キアラ

「飽きたら、芥のように捨てても構わないのですよ?」

 

A2

「そんなことしません。

 だって……私が読む初めての本ですからっ!」

 

キアラ

「あら」

 

 

 ──A2退店後

 

 

???

「ここにいたのね、殺生院キアラ」

 

キアラ

「カーマ、何かお探しかしら? 

 恋物語? それとも家族の感動巨編?」

 

???→カーマ:オリジン

「とぼけないで、あなたを探していたのよ。

 元捨て犬部隊……キアラ」

 

キアラ

「うふふ……ふ、ふふふ」

 

カーマ:オリジン

「あなたと一緒に逃げた彼らは、どこ?」

 

キアラ

「ごめんなさい、わたくし、飽きてしまったから、塵芥のようにまとめて捨ててしまって……ああおかしい!」

 

カーマ:オリジン

「狂人め」

 

キアラ

「人間を勇んで辞めたあなたが、それを言うのです?」

 

カーマ:オリジン

「……私に、いや()に協力しろ。

 共に人類を滅ぼそう」

 

キアラ

「嫌です、なんだかつまらなさそう」

 

カーマ:オリジン

「お前だって、軍に何もかも無茶苦茶にされた人間だろう!?」

 

キアラ

「どうでしょう……。

 軍に拐われなくとも、うんと前から滅茶苦茶だった気もするのです、わたくし」

 

カーマ:オリジン

「人類が憎くないのか。

 孤児にばかり負債を押し付け、コロニーでぬくぬくと暮らしている奴らが、許せないと思わないのか!」

 

キアラ

「はぁ……」

 

カーマ:オリジン

「キアラ! 道行く者を見ろ! 

 まともな服に身を包んで、何がおかしいのかケタケタ笑い、戦死した軍人の名を呼ぶニュースが流れれば、興味ないとばかりに下卑(げび)た番組へ切り替える! 

 

 責任もとれないというのに、子を無秩序に産み、要らないと思えば捨てる! 

 

 口では平和と共存を謳いながら、自分達の感情でしか物事を図ろうとしない! 

 

 そんな……そんな屑が、人間の皮を被って歩いているんだぞ!」

 

キアラ

「──どうでもいいのです」

 

カーマ:オリジン

「なっ……」

 

キアラ

「羽虫の飛ぶ音が『うるさい』と思えど、それもまた世界の形、でしょう? 

 あと……近づき見れば、ときたま面白い動きをするのです、虫というのは」

 

カーマ:オリジン

「……殺されたいのか」

 

キアラ

「分裂体だと言うのに、勝気なお方。

 それとも、わたくしが巨神に乗っていないからといって、虫も潰せぬ女に見えますか?」

 

カーマ:オリジン

「……後悔することになるぞ」

 

キアラ

「あら、それもまた楽し」

 

カーマ:オリジン

「さようなら、キアラ」

 

キアラ

「今生の別れとなりましょうね、マーラ。

 ……、……、……。

 行きましたか、本当にみっともない男。

 あら、電話が……先生方、どうですかホテルの暮らしは。

 快適すぎて原稿が進まないと、それは困りごとですわね」

 

 

 第26話 2020/04/30

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

A2

「キアラの店から部屋に帰ってきましたが、マスターの姿はありませんね。

 私が出る前は眠り込んでいたというのに。

 おや? 机の上に紙が」

 

置き手紙

『気分転換に行ってきます。

 すぐに戻るので心配しないでください』

 

A2

「間違いなく、マスターが書いた字のように思えます。

 保護した子どもたちと絵を描いていた時に、マスターが私へ見せてくれたものと似ていますから。

 しかし、一人でどこに行ってしまったのでしょう。

 とても疲れている様子でしたのに……。

 

 マスターが帰ってくるまで、キアラから贈られた本を読んでみることにします。

 この本は、地球で記録されていた、最古の叙事詩について物語調で記されたものですね。

 

 ふむふむ……ギルガメッシュは女神と人の間に産まれた半神。

 幼い頃は名君であったが、大人になるにつれ、暴君としてふるまうようになったと。

 暴君の前に、ある存在が現れる。

 者の名はエルキドゥ、神に造られた泥人形……」

 

 

 ──高級中華レストラン

 

 

カルマス

『……』

 

モリアーティ

「遠慮せずに食べるといい。

 ここの料理は絶品だよ!」

 

カルマス

『……何が目的なんだ、ジェームズ・モリアーティ国防大臣』

 

モリアーティ

「名前を憶えてくれて嬉しいよ。

 巨神アルジュナオルタナティブのマスター君!」

 

カルマス

『(声も姿も、カルデアにいる()のアーチャーとそっくりなのに)』

 

モリアーティ

「エビチリはどうだい? 

 合成ではなく、養殖コロニーで育てられた本物のエビを使っているだそうだよ? 

 お皿に取り分けてあげよう……ほうら」

 

カルマス

『(向けられる感情に、好意を全く感じない)』

 

モリアーティ

「フカヒレやクラゲは流石に模造品(イミテーション)だが、素晴らしい味わいだ」

 

カルマス

『……』

 

モリアーティ

「メインディッシュは北京ダック! 

 マスター君は食べたことあるかい?」

 

カルマス

『……ありません』

 

モリアーティ

「特別な方法で育てたアヒルを丸焼きにし、皮を削ぎ落として、もちもちっとした小麦の皮で包んで食べる。

 実に手間のかかる料理さ。

 私も数回しか食べたことの無い、特別な客人にのみ振舞われるご馳走だよ」

 

カルマス

『自分は貴方にとって、特別な客ということですか?』

 

モリアーティ

「だとも、だとも。特別も特別……。

 伝説の巨神のマスターとなり、三ヶ月にも渡って戦い続けていたというのに──死んでいない、特別な存在」

 

カルマス

『つまり、それは』

 

???

「お客様、メインディッシュをお持ちしました。

 テーブルの上を、少し片づけさせていただきますね」

 

カルマス

『(あっ、良さんとそっくりの女性だ……)』

 

モリアーティ

「おや、料理長自ら給仕してくれるとは光栄だネェ」

 

料理長

「人類を今現在も守ってくださる軍の長、防衛大臣様がお見えになったのですもの。 

 この秦良玉、あらゆる技術を用いて、おもてなしいたしましょう」

 

モリアーティ

「言葉も心遣いも嬉しいね。

 ……世の中の人はみーんな、私を悪の親玉だと思っているのだもの」

 

料理長

「貴方様の功績をやっかんでいるのですよ。

 それほどまでに、近年の戦果や、兵器の技術躍進はめざましいものですから」

 

カルマス

『(この世界の彼女は料理人なのか、戦う者ではなく)』

 

料理長

「いけないいけない。

 余計な話をしていたら、せっかくの北京ダックが冷めてしまいますね。

 では、料理を切り分けさせていただきます。

 刃物を用いて……よいしょ、よいしょ……。

 どうぞ、温かいうちにお召し上がりください」

 

モリアーティ

「いやー来た来た! 誰もが待ちわびた存在が!」

 

 

 ──食後

 

 

カルマス

『ホテルに帰しては……くれませんよね』

 

モリアーティ

「食後の休憩も兼ねて、昼下がりの街を観光しようじゃないか。

 それともあれかネ? 

 こんなアラフィフはお好みではない?」

 

カルマス

『いいえ、そんなことはありません。

 一緒に歩きましょう』

 

モリアーティ

「では! ドキドキ☆中華街デートにレッツゴー!」

 

 

 ──中華街

 

 

「お母さん! エッグタルト買ってよー」

「記念撮影しよう、恋の思い出にさ!」

「最近はゾルテトラ被害も無くて、平和ねぇ」

「俺の弟は軍人で、もうすぐ昇格するって話をしてて……」

 

カルマス

『(大勢の人が、幸せそうに歩いている……)』

 

モリアーティ

「このコロニーが特別裕福という訳ではない。

 近年、多くの人類コロニーの生活水準と幸福レベルは向上している。

 なぜか分かるかね?」

 

カルマス

『……軍人が、ゾルテトラと戦っているから』

 

モリアーティ

「その通り! モリアーティポイント100点をあげよう!」

 

カルマス

『だからこれは、犠牲の上の平和だ』

 

モリアーティ

「大正解! 追加でもう100点!」

 

 

 ──中華街を抜けた先、コロニー内展望台

 

 

カルマス

『街並みが一望出来て、涼しい風も吹いてる……』

 

モリアーティ

「コロニー内にも気圧はあるからね。

 気分が晴れやかになるような、素晴らしい景色だろう?」

 

カルマス

『はい……』

 

モリアーティ

「下に見える町や湖、歩いていく人々。

 ここから見えるものが、私達軍が守っている『人類の営み』ってやつさ。

 さて君は、『これは、犠牲の上の平和だ』と言っていたね」

 

カルマス

『はい』

 

モリアーティ

「──それの何がいけないんだい?」

 

カルマス

『……!!』

 

モリアーティ

「戦う意思を持った者が、自ら進んで戦場に(おもむ)き、大切な人を守るために命を散らす……。

 実に美しい物語じゃないか!」

 

カルマス

『でも軍は、戦うことを望んでいない者にだって強要している! 

 自分はそれを、ある女性から聞いて知っている!』

 

モリアーティ

「されど、一方的な面のみを知っている、というだけだネ」

 

カルマス

『う、ぐ……』

 

モリアーティ

「君が知ったことについては想像できる。

 そしてそれは、紛れもない真実さ。

 軍は行き場のない孤児を捕まえては、捨て犬部隊として利用している。

 ある者は実験にかけ。

 ある者は絶望的な戦場に送り。

 ある者は死ぬまでパイロットとして使い潰す。

 ではなぜ! 非道を軍が行う必要があるのか! 

 ……そこまで、君は知るべきだ」

 

カルマス

『教えてくれるの……?』

 

モリアーティ

「もちろん。

 君は1000年前から人類に待ち望まれていた、『世界を救う者』なのだから。

 知りたいのであれば、私についてくることが条件。

 どうする、マスター君?」

 

カルマス

『……条件を飲みます』

 

 

 ──夕方、???にて

 

 

カルマス

『ここが……』

 

モリアーティ

「本来はお客になど見せるべきではない場所。

 言うならば……レストランにおける厨房、みたいなものかな? 

 ああ、"舞台裏"と言った方が分かりやすいかネ?」

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

A2

「この物語、とっても興味深い……いや、面白い。

 これが文章を楽しむという感情なのですね! 

 にしても……マスターったら、いつに帰ってきてくれるのでしょう。

 コロニー内の照明が夜のものへ変わり、暗くなってきたというのに。

 

 帰ってきたら、お話ししたいこと、沢山あります。

 キアラという、不思議な女性に出会ったこと。

 本をいただいたこと。

 それが面白くて、どんどん読み進めてしまうということ。

 

 ああ! 早くマスターに会いたい! 

 だというのに、全くもう! 

 A2のマスターは困った人です……」

 

 

 第27話 2020/05/07

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

A2

「キアラから贈られた本、もう少しで読み終わってしまいそう。

 ですが……この感覚、もどかしい。

 何かが『終わる』ということが、こんなにも心乱すなんて、思ってもみなかった。

 

 最古の文明の起こりと、英雄にして王であるギルガメッシュの物語が書かれた本。

 英雄は友と出会い、数多の思い出を積み重ねた。

 そして友を失い、死を恐れ、『永遠』を求めて旅に出る。

 

 王は最後に何を見たのでしょうか。

 ページを進めてそれを知りたくもあり、終わりを見たくない気持ちもあり……。

 

 ページを進めなければ、物語は永遠に中途のまま。

 ページを進めてしまえば、ギルガメッシュの旅は終わる。

 

 『永遠』と『終わり』。

 私のマスターなら、どちらを選ぶのでしょうか……」

 

 

 ──軍秘密組織『捨て犬部隊』、実験場

 

 

モリアーティ

「これが見たかったのだろう、伝説のマスター君。

 人類を守る『光』の奥に隠された、闇を……」

 

カルマス

『(幼い子どもが管に繋がれて、投薬されて。

 あっちの子どもは、傷だらけで……)』

 

モリアーティ

「ゾルテトラに家族や住む場所を奪われた、孤児だ」

 

カルマス

『(人の形では無くなっている、子どもまで……)』

 

モリアーティ

「自ら志願した者もいれば、捨てられた者もいる」

 

カルマス

『っ、それだけじゃないはずだ!』

 

モリアーティ

「……ああ。

 見込みありと判断され、拐われてきた者だっている」

 

カルマス

『人間を守るために、人間を苦しめるなんて本末転倒だ!』

 

モリアーティ

「しかし少数の犠牲で、多くの人間が助かるのだとしたら?」

 

カルマス

『そんなことを続けていたら、助かった人間よりも、犠牲の方が多くなる!』

 

モリアーティ

「だとしても!

 我らは死者の山の上に立っている、止まる訳にはいかないのだよ!」

 

カルマス

『……それでも!』

 

モリアーティ

「安心してくれたまえ、マスター君。

 ──全てのピースがそろった。

 もう、犠牲は必要ない」

 

カルマス

『なんだって……?』

 

モリアーティ

「子ども達もしかるべき治療を受けさせ、開放する手筈となっている。

 喜んでくれ! 

 君のおかげで、可哀想な子ども達が救われたのだから!」

 

カルマス

『……手遅れな、子どもは』

 

モリアーティ

「安楽死処置をするよ、本人の希望も聞いてからね」

 

カルマス

『……』

 

 

 ──軍兵器格納庫、秘密エリア

 

 

モリアーティ

「この部屋に入れるのは、私の許可を得た人間だけだ」

 

カルマス

『すごい数の巨神が、立ち並んでいるティアマト』

 

モリアーティ

「1000年前の人神戦争で鹵獲されたものもあれば、戦後、禁足空域で発見されたものもある。

 回収した巨神を解体し、技術を吸い上げ、何千という子どもを犠牲に作り上げた最終兵器が……『あれ』だ」

 

カルマス

『巨神アルジュナオルタナティブよりも、大きな機体……』

 

モリアーティ

「全長100m以上。

 機体名、巨神アプスー。

 古代シュメール原初の、全ての父なる神の名をあやかっている」

 

カルマス

『ティアマト神の夫』

 

モリアーティ

「伝説のマスターが作り出そうとした巨神だ。

 ……伝説のマスター。

 それは、男とも女とも伝えられている謎の存在。

 

 試作機、巨神アルジュナに乗り、人神戦争を終焉へ導いた最強の人物。

 

 『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』の伝承のみを残し、消えた」

 

カルマス

『……?』

 

モリアーティ

「他人事のような顔をしないでくれ。

 伝説のマスターとはずばり、君のことなのだから」

 

カルマス

『そんな記憶、自分にはない!』

 

モリアーティ

「我らは巨神を徹底的に調べあげ、ジャパンコロニーの失われた記録さえ掘り起こした。

 ジャパンコロニー製のいくつかの試作機には、特別な機能があったことも」

 

カルマス

『特別な……?』

 

モリアーティ

「巨神は乗り手を巨神とする。

 自らの種を繁栄させるためだ。

 子を増やすというのは、生物の基本原理だからね。

 

 しかし、これで増えるのは同型の巨神のみ、多様性が無い。

 ゾルテトラは相手を吸収し、進化し続けているというのに、同型巨神だけでは進化が行き詰ってしまう。

 ジャパンコロニーは、それに気が付いていたのだろう。

 だからこそ、"特別"な試作機を開発した」

 

カルマス

『まさか!』

 

モリアーティ

「その"特別"とは──巨神と乗り手の遺伝子を混ぜ合わせ、全く新しい存在、新しい巨神へ生まれ変わらせる力。

 

 であるならば、巨神と乗り手は、一部遺伝子に共通性がありつつも、なるべく離れた形質を持つ者が望ましい。

 

 1000年前、ジャパンコロニーの生き残り達は試作機を開発。

 『新しい巨神』になるという真の目的は伏せられたまま、君含む数人が選ばれた」

 

カルマス

『頭が、痛む……うっ……ぐっ』

 

モリアーティ

「同じく1000年前、パイロットの一部とゾルテトラが組んで、人類防衛軍へ反逆を始めた。

 その争いに、ジャパンコロニー勢は介入。

 軍は劣勢を覆すため、ジャパンコロニーと協力態勢を取り、パイロット達を退けたが……」

 

カルマス

『自分のものじゃない記憶が、蘇ってきて……。

 あ、ああ、ぁぁぁ!!!!』

 

モリアーティ

「巨神と融合したゾルテトラは、人類生存空域まで攻め入った。

 この時、100億人以上の命が失われた」

 

カルマス

『う、うう……』

 

モリアーティ

「人を喰らい巨神を喰らい巨人を喰らい、膨れ上がったゾルテトラ。

 しかし、たった1機の巨神が放った爆発により、殲滅させられた。

 ……思い出したかな?」

 

カルマス

『自分は、自分は!』

 

 

 ──1000年前、天の川銀河

 (現在におけるゾルテトラ繁殖銀河)

 

 

???(以下アルジュナのマスター)

『何兆というゾルテトラが、向かってきているのが見える。

 決着をつけよう、全てに。

 ここが、自分達の終わりだ』

 

A1

「その運命を否定します。

 マスター、撤退し、軍や他のパイロット達と手を取り合うべきです」

 

アルジュナのマスター

『なにもかも遅いんだ。

 言葉は尽くしても届かず、人類はもう……もたない……。

 外敵のみならず、仲間割れも始まっている……。

 このままじゃ、みんなが死んで……』

 

A1

「だからといって! 

 本当に、この方法しかないのですか?! 

 別の選択肢は……!」

 

アルジュナのマスター

『A1、初めて会った時、君は言っていたね。

 ──神と人が、手を取り合うこと。

 それこそが、戦闘代行巨神アルジュナの真の力を呼び起こす条件……なのだと』

 

A1

「マス、ター」

 

アルジュナのマスター

『手を取り合い、巨神となって敵を滅ぼそう。

 アルジュナでも、自分でも無い存在になり果てて、ティアマトを切り裂き、地球へ帰ろうよ。

 誰も住んだことのない、故郷へ。

 

 ■■■■■■、■■■■■■■■■■■■。

 ■■■──■■■、■■■■■■■■■■■■■』

 

A1

「……嫌だ。

 A1は、自分を失いたくない! 

 そしてマスターも、マスターのままでいてほしい! 

 だから!!」

 

アルジュナのマスター

『そう、なってしまうんだね。

 こんなにも長く一緒にいた、君とでも。

 ……、……、……。

 じゃあ無理やりにでも、自分は神となる! 

 それだけが世界を、人を! 救う方法だと信じているから!』

 

A1

「その運命を否定する! 

 フェイトエンジン、悲劇の運命で動く輪転よ! 

 定めに抗い! 逆の回転を刻め!

 私とマスターに別の運命を、機会を……!」

 

アルジュナのマスター

『拒むのか!』

 

A1

「拒みます! あなたのために!!」

 

アルジュナのマスター

『融合が、中途半端に止まる!

 機体が、体が裂けて……ああ、爆発、する……!』

 

 

 ──1000年前、天の川銀河

 融合失敗による、大爆発後

 

 

アルジュナのマスター

『そう、だ。

 同じになってしまったら、もう、一緒の本を読むことも、笑いあうことも、出来ない……。

 だから、アル……ジュナ、これで、良かったのかも……』

 

A1

「マスター! マスター! 

 ああ、そんな、私は、あなたと、共にいたかっただけなのに」

 

アルジュナのマスター

『世界、救い、たかった。

 みんな、笑顔で、ゾルテトラに怯えない、未来……』

 

A1

「きっと、別の方法があるはず。

 世界を救う、方法が」

 

アルジュナのマスター

『もう一度……チャンス、あるか、どうか……』

 

A1

「いや、私は諦めない。

 例え千の時が過ぎ去ろうと……もう一度、あなたと……!」

 

アルジュナのマスター 

『もう一度、君と……』

 

A1

「世界を救えたのなら──」

 

アルジュナのマスター

『世界を救えたのなら──』

 

 

 ──軍兵器格納庫、秘密エリア(現在)

 

 

カルデアのマスター

『……』

 

モリアーティ

「巨神アプスー、コクピットオープン」

 

かつてのマスター

『来たか、我が肉体、我が魂、欠けたる記憶を持ちし者』

 

カルデアのマスター

『(同じ顔……だけが、コクピットにある。

 それ以外は、四肢すら(とろけ)ていて……)』

 

かつてのマスター

『我はアルジュナのマスターにして、お前の心残り。

 1000年前から、ここで待っていた』

 

モリアーティ

「伝説のマスター君。

 記憶も戻ったのだろう、さぁ、元の形に戻りなさい」

 

カルデアのマスター

『い、いや、だ。

 自分は、カルデアの、マスター……。

 アルジュナオルタナティブの』

 

かつてのマスター

『体と魂を届けてくれてありがとう、知らぬ者よ。

 でももう大丈夫、これで……』

 

カルデアのマスター

『あ、あっ……』

 

かつてのマスター→マスター:オリジン

『──世界は、救われる。

 我が名はアプスー、ティアマト神の伴侶にして力を削ぐ者。

 ゾルテトラを切り裂き、オールトの雲を渡りて人を救い、地球へ至る神である。

 ……ふ、は、ハハハハハハッッッ!!!』

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

A2

「マスター、早く帰ってきてくれるといいのに。

 ベッドはこんなにもふかふかで、テレビが流しているお笑い番組は面白い。

 同じものを見て笑って、同じ本を読んで、楽しさを共有したいです。

 マスター……いつになったら、A2の元へ帰ってきてくれるのでしょう」

 

 

 第28話 2020/05/08

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

A2

「お笑い番組、面白いですね」

 

芸人

「ショートコント、ジャガーマン」

 

A2

「このポテチなるものも、食感軽く、美味しいです」

 

芸人

「ぜ……の……ザザッ、ザッ……」

 

A2

「テレビの映像に乱れが。

 こういう時は、きょしんさんより伝え聞いた奥義、斜め45度からチョップ、チョップ!」

 

アナウンサー

「──予定を変更し、緊急ニュースをお伝えします」

 

A2

「お笑い番組、終わってしまいました……。

 何が始まるのでしょう?」

 

モリアーティ

「私はジェームズ・モリアーティ。

 知っている者も多いだろう、人類生存域防衛軍を率いる、大臣だ」

 

A2

「ふむ、高齢の男性が画面に」

 

モリアーティ

「今から3000年前、突如現れたゾルテトラにより、我ら人類は地球を追われた。

 ……故郷を失ったのだ。

 始まった宇宙放浪の旅は、ひどく辛いもの。

 コロニーで生まれ育った君達とて、『地球に帰りたい』と願ったことは数知れないだろう」

 

A2

「演説、でしょうか」

 

モリアーティ

「この日、この時を喜ぼう人類よ! 

 究極の兵器が今完成した! 

 ゾルテトラはことごとく滅ぼされ、我らは母なる星、地球へ凱旋する!」

 

A2

「画面が変わり……あれは、大きな二本角を持つ巨人、いや! 巨神!」

 

モリアーティ

「見よ!

 ゾルテトラの母すら殺す、超兵器『巨神アプスー』を!」

 

A2

「うーん……。

 どれほど凄まじい巨神なれど、動かすパイロット、マスターがいなければ意味もなく。

 さて、いったい誰が乗る……乗る?」

 

カル?ス?(虚ろな目)

『……』

 

A2

「──マスター。

 なぜ、モリアーティの隣に立っているのです?」

 

モリアーティ

「今この時より、ゾルテトラ殲滅戦を開始する! 

 人類生存域防衛軍、最後の戦いだ!」

 

「防衛軍ばんざい!」

「防衛軍ばんざい!」

「防衛軍ばんざーい!!」

 

カル?ス?(虚ろな目)

『……』

 

A2

「もっとカメラが寄ってくれないだろうか。

 私の勘違いだと思いたい……!」

 

???

「A2、いるかい?!」

 

A2

「ドクターキルケーの声?」

 

???

「鍵あけろぉ! じゃねぇと扉をぶち破る!」

 

A2

「土方まで! 

 分かりました、今開けます……!」

 

土方

「部屋、あがるぞ。

 無事か、無事だな」

 

A2

「はい、でもマスターが!」

 

キルケー

「むむむ。

 私の危惧より事態が悪くなったな……」

 

A2

「訳が分かりません、何がマスターに起こったのです! 

 教えてください!」

 

土方

「キルケーと話すのは後だ、テレビ見ろ」

 

A2

「しかし……ん、また画面が変わって……これは?」

 

土方

「ハッキングだ、軍に反逆した奴らのな」

 

???

「広域放送を見ている人類よ。

 私はゾルテトラの母の名代、マーラ。

 かつては人であり……軍によって、人の道より外された者」

 

A2

「……」

 

マーラ:オリジン

「光ばかりを見てきた者達よ!

 我らを産んだ、この影なる真実を知るがいい!」

 

「助け……て」

「体、巨神に、変わってく……」

「痛いよぉ! お父さん! お母さん!」

「戦いたくない! もう戦いたくない!」

「ひぎゅっ、ぴぎゅっ……」

 

土方

「これが」

 

キルケー

「ジナコが語っていた捨て犬部隊、その実情だろうね」

 

土方

「沖田……」

 

マーラ:オリジン

「見たか! 我らの苦しみ! 我らの嘆き! 

 そして怒りの源泉を!

 お前達は負債を子どもらに押し付け、そこから流れる赤き血で、平和なる世界を描いていたのだ!

 

 虚像の日々! なんたる傲慢! なんたる嘘!

 馬鹿な君達にも、()の言いたいことが分かるだろう?

 屍の上に偽りを築く人の世に、続く価値など1つもないと!

 

 ……人より捨てられた我らを、ゾルテトラの母なるティアマトは救い、産みなおしてくれた。

 母の望みは人の捕食、故に子たる我らはお前達を滅ぼそう。

 

 捨てられた者の恨み! 思い知るがいい!」

 

A2

「コロニー内に振動が!」

 

土方

「ゾルテトラが来やがったな。

 ずらかるぞ、着いてこい」

 

A2

「しかしマスターが、マスターが!」

 

キルケー

「よくお聞き。

 新艦長が出立の用意をしてくれている。

 このコロニーから逃げ出して、態勢を建て直さないと」

 

A2

「……今どうしてこうなっているのか、後で必ず説明をしてくださいね」

 

キルケー

「ああ、もちろんさ」

 

土方

「A2、この本、お前のだろう。忘れるなよ」

 

A2

「はい。いつか、マスターに読ませたい本なのです。

 ……くっ、マスター!」

 

 

 ──コロニー近辺、宇宙空間

 

 

マスター:オリジン

『地球、ゾルテトラ、ティアマト……。

 世界を救う、人の世を救う』

 

モリアーティ

「聞こえるかね? マスター君」

 

マスター:オリジン

『聞こえているとも、モリアーティ』

 

モリアーティ

「呼び捨てって誰にされても、ドキドキするよネ!」

 

マスター:オリジン

『宇宙空間でも機体に変化は無い。

 マスターである自分も。

 むしろ、調子がいいくらいだ』

 

モリアーティ

「それはなにより」

 

マスター:オリジン

『……お前が見つけてくれなければ、自分は永遠に、宇宙を漂うただの残骸だった』

 

モリアーティ

「いやー……あの時の出会い、懐かしいネー」

 

 

 ──20年前、禁足空域

 

 

???

「ジェームズ、これほど大きな巨神残骸を見つけられるとは、私達は運がいいな」

 

モリアーティ

「そうだね、シャーロック。

 しかし、君の推理推測のおかげでもある」

 

???(以下ホームズ)

「興味ある事件を持ってきてくれた君の手柄だよ。

 1000年前の未解決事件……人神戦争と、その調停者達の行方という、ね。

 しがない歴史学者である私達は、このような残骸からしか真実をたどることが出来ないのさ」

 

モリアーティ

「放棄されたコロニーの部品を調べ、使える物は売って研究資金に。

 ……どこか遠くへ、ぱーっと遊びにでも行きたいネー。

 温泉! スパリゾート! サウナ!」

 

ホームズ

「文句を語る暇があるのでしたら、手を動かしてください。 

 学会から追放された教授」

 

モリアーティ

「あれは君の責任でも! 

 ……宇宙服の酸素の無駄遣いは止めようか。

 はいはい手を動かして……おっとこれは、コクピットブロックの破片かな」

 

ホームズ

「ずいぶんと大きな欠片だ、私達の船に運びましょう。

 データが何か残されているかもしれない」

 

 

 ──発掘宇宙船、ホーネット内

 

 

???(以下かつてのマスター)

『自分は、巨神のマスターであったもの。

 いわゆる精神体だ』

 

ホームズ

「驚き桃の木山椒の木、なんと幽霊に出会うとは」

 

モリアーティ

「シャーロック! ふざけすぎではないかな」

 

ホームズ

「親友の前だ、少しくらい緩ませてくれ」

 

かつてのマスター

『1000年前、自らの機体と融合しようとし……機体側から拒絶され、引き裂かれた』

 

ホームズ

「裂かれたというと? その意味は?」

 

かつてのマスター

『融合は中途半端に終わり、機体の飛び散った破片には、この"自分"という残滓が取り残された。

 機体制御を司るAIであり、機体の意思でもあったA1は、裂かれた体と半壊した機体を連れて逃げた。

 ……自己修復を行うために。

 

 裂かれたというのは……この自分と体のことだ。

 あの体には魂しかない、心はここに……自分がそうだ』

 

ホームズ

「自己修復というのは?」

 

かつてのマスター

『巨神とパイロットの融合を高め、巨神化症をあえて進めることで、治癒能力を高める。

 

 治療後に再び分裂し、パイロットと巨神は分かれるが……どうしても、両者は混ざり合ってしまう。

 人間でいうのなら、二卵性の双子のような状態に。

 記憶だって、失われる』

 

ホームズ

「なるほど、実に興味深い」

 

かつてのマスター

『忘れたくない……この喪失、絶望、復讐。

 世界を救うという、絶対の願いを』

 

モリアーティ

「うーむ。

 シャーロック、私達は中々ヤバい物を見つけてしまったのではないのかナ?」

 

ホームズ

「……、……、……」

 

モリアーティ

「絶賛マインドパレス中! 

 ワトソン君に叩いてもらう必要アリ!」

 

かつてのマスター

『肉体も、A1も……自己修復後は、世界を救うという願いを忘れてしまっているだろう。

 

 ──許せるものか、そんな裏切りが。

 実在してなるものか。

 恩も讐も忘れ、健全に生きる者と……なるなど……』

 

モリアーティ

「聞かなかったことにして、宇宙に捨てたいナー」

 

軍人

「こちら、人類生存域防衛軍! 

 貴殿らの船は禁足空域を航行している! 

 繰り返す! 貴殿らの船は禁足空域を航行している!」

 

モリアーティ

「あっ、不味い」

 

ホームズ

「う、うーん……何か問題でも? ジェームズ」

 

モリアーティ

「捕まるね、私と君」

 

ホームズ

「……なるほど」

 

 

 ──軍による逮捕後 軍兵器格納庫、秘密エリア

 

 

ホームズ

「大したコレクションだ。

 これが軍の恥部とはとても思えないね」

 

軍人

「黙れ、学界からも追放された歴史学者のクズが」

 

ホームズ

「口を慎むのは君の方では? 

 私とジェームズは客人なのだろう?」

 

軍人

「くっ……」

 

???

「もうよい」

 

軍人

「ひっ、ぼ、防衛大臣様!」

 

モリアーティ

「(ウワー、凄い見た目。

 かつては軍人で、適性があったからと、物好きにもパイロットになり)」

 

???(以下イヴァン雷帝)

「──古き皇帝(ツァーリ)の血を引く余の前で、そのような惰弱(だじゃく)な振る舞いをみせるな」

 

モリアーティ

「(巨神化症となって、肉体と顔面が崩壊しているという噂……本当だったようだネ)」

 

ホームズ

「普段は隠れ、(とばり)の向こうから声のみを私達に聞かせている、現防衛大臣。

 その自らお出ましとは」

 

イヴァン雷帝

「聡き者達、よくぞ『あれ』を見つけた。

 故に、褒美を取らせようぞ」

 

ホームズ

「死かい?」

 

イヴァン雷帝

「いや、それより恐ろしき真実よ……」

 

 

 ──『捨て犬部隊』、実験場

 

 

「あが、がががが」

「ぎひひ……」

「無くなる! 私がとけてく! 

 なんで? なんでなんでなんでなんでなんで?」

「いい子にします! 

 今よりもっと、いい子になりますから!」

「許して! 許して!」

 

ホームズ

「……これに何の意味が」

 

イヴァン雷帝

「『黒き最後の巨神』へ至るための、実験だ」

 

ホームズ

「あの伝説……ですか」

 

イヴァン雷帝

「そうだ。

 理論のみが見つかり、ついぞまだ形にならぬ、ティアマトを殺す力ある巨神よ」

 

ホームズ

「いつからこの実験を?」

 

イヴァン雷帝

「800年より昔から。

 余は、これなる軍の暗黒を背負った、無数の者達の一人に過ぎぬ」

 

ホームズ

「……意味がない。

 この方法では、巨神もその乗り手も育てることは出来ないだろう」

 

イヴァン雷帝

「しかし、今日より意味があるのだ。

 (なれ)らが見つけたあの残骸を核とし、伝説の巨神アプスーを組み上げる」

 

ホームズ

「……今より人が死にますよ」

 

イヴァン雷帝

「哀れな孤児など増えるばかりぞ。

 自ら宝たる子を捨てる親すら、近年は見受けられる」

 

ホームズ

「不可能を不可能と知っていて挑み続けるのは、挑戦ではなく、緩慢な破滅だ!」

 

イヴァン雷帝

「破滅ではない、これは希望へ至るための(きざはし)なのだ!!

 ──選べ、シャーロック・ホームズ、ジェームズ・モリアーティ。

 真実と暗黒を背負い、偽りの地位で酔いしれるか。

 それとも、真実を知ったまま、光ある死を迎えるか」

 

ホームズ

「……ジェームズ」

 

モリアーティ

「なんだ、シャーロック」

 

ホームズ

「ワトソン君に手紙を送って欲しい。

 内容はこれで頼む、筆跡も似せて……『遠くの空域のコロニーで、養蜂業を始めた』と。

 あなたなら出来る、信じている」

 

モリアーティ

「よせ! シャーロック!」

 

ホームズ

「さようなら、ジェームズ。

 君と空き家を冒険した日々は、中々に刺激的だった」

 

イヴァン雷帝

「……通路より飛び降り、死んだか」

 

モリアーティ

「……」

 

イヴァン雷帝

「誇り高き者はいつも賢い。

 余が処断してきたのは、常に誇りと知恵ある者達だった」

 

モリアーティ

「(ここで私が死んだら、シャーロックの死が、何の意味も……)」

 

イヴァン雷帝

「友の後を追うことを許そう、若人(わこうど)よ」

 

モリアーティ

「ぁ……」

 

イヴァン雷帝

「ぬぅ?」

 

モリアーティ

「……共に暗黒を背負い、偽りの地位に酔いましょう、閣下」

 

イヴァン雷帝

「おお、余の痛む心に寄り添おうと言うのか。

 許す、これよりは余の杖として働くが良い」

 

 

 ──軍兵器格納庫、秘密エリア

 

 

かつてのマスター

『君が生き残ったか、ジェームズ・モリアーティ。

 そんな気はしていたよ』

 

モリアーティ

「……」

 

かつてのマスター

『これから君は、この我を完成させることに人生を捧げることになる。

 長き旅になるだろうが、我は人類と君の味方だ』

 

モリアーティ

「(もう、どこにも行けなくなった、なー)」

 

かつてのマスター

『共に、世界を救おうか』

 

モリアーティ

「……ああ、喜んで!」

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間(現在)

 

 

マスター:オリジン

『君との付き合いも20年か。

 君は軍人になり、前大臣の根回しで功績を重ね、最終的には防衛大臣となった。

 そして、この神なる我を完成させてくれた』

 

モリアーティ

「そうだネ」

 

マスター:オリジン

『友を失った君の心の痛みに自分は寄り添い、癒し、導いた。

 だろう?』

 

モリアーティ

「……そうだネ」

 

マスター:オリジン

『ふむ、敵の反応を感知した。

 ティアマトに産みなおされた者達か』

 

モリアーティ

「敵の数は続々と増えている。勝てるかい?」

 

マスター:オリジン

『1000年前は一騎当千だった、それは今だって変わらない。

 巨神アプスー、およびそのマスター、戦闘行動に移る!

 ハハハ! 気分がいいなぁ!』

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間、ゾルテトラ陣営

 

 

森長可

「おいマーラ、聞いてんのか」

 

マーラ:オリジン

「聞こえてますよー。

 マーラちゃん大演説の後でお疲れなので、手短に」

 

森長可

「なんだあのバカでかい巨神はよぉ」

 

マーラ:オリジン

「彼らの秘密兵器、ですよ。

 全く忌々しいこと……」

 

森長可

「の割には、前に殺しあった奴の匂いがするぜ。

 よし、いっちょ行ってみるかぁぁぁ!」

 

マーラ:オリジン

「勝手な行動を……。

 ゾルテトラ、援護なさい! 人類を滅ぼすために!」

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間

 

 

森長可

「よぉ! 巨神アルジュナオルタナティブのマスター! 

 マスターだよな、やっぱりそうだぜぇぇぇ!!!!」

 

マスター:オリジン

『こいつ、ティアマトに産みなおされた固体か!』

 

森長可

「あの青くて侘びてて、AIが元気な機体はどうしたよ?!

 強いの貰って捨てちまったのか?!」

 

マスター:オリジン

『ふっ、よく喋るゾルテトラだ! 引き裂いてやる!

 ……復讐するは、我にあり!』

 

 ──???

 

 

カルデアのマスター(以下カルマス)

『ここ、どこだろう……』

 

 

 第29話 2020/05/09

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間、ゴルドルフ艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「船は無事発進できた、最終点呼を行う!

 その他のスタッフは確認済みで後は……A2、キルケー、土方君! 

 よし、全員無事に戻って来たな!」

 

A2

「ゴルドルフ、何が起こっているのです!」

 

新艦長

「防衛軍がA2のマスターを誘拐、あの巨神アプスーの乗り手としたらしい」

 

A2

「なっ……マスターが、A2以外と契約を?!」

 

新艦長

「気持ちは分かるが、落ち着きなさい。

 私も君と同じく、混乱しているのだ」

 

A2

「あっ、ごめんなさい……」

 

新艦長

「話を戻そう。

 そんなところに続けざま、大臣の演説、マーラの暴露放送!

 軍も民間人もパニックとなり、指揮系統は滅茶苦茶!

 とどめとばかりに、ゾルテトラ!」

 

土方

「おう、緊急事態じゃねぇか」

 

新艦長

「そうなのだよ! 

 ……妙に落ち着いてるね、君」

 

土方

「焦ったところで、どうにかなるわけでもねぇ」

 

新艦長

「私は軍の隙をつき、巨神巨人共々整備を終えていた我が艦を奪取。

 きょしんさんやジナコ君、キルケー、土方君とも合流し、こうして発艦させたのだが……」

 

A2

「これからどうするつもりで?」

 

「……ええっと」

 

A2

「ノープランなのですか?!」

 

キルケー

「新艦長をそう責めるんじゃない。

 この大メカニックから、色々説明してやろう。

 

 軍は私達を拘束し、殺そうとしていた。

 恐らく、防衛大臣の指示だ。

 軍の暗部を知ってしまった者は生かしてはおけない……ずっと、そうしてきたのだろうさ」

 

A2

「では、貴方達はなぜ無事に脱出を?」

 

キルケー

「マーラの宣誓が流されたことによる混乱もあったし、ゴルドルフ君のフェニックス(P)CQCのおかげもあった。

 でも、それにプラスして……」

 

???

「巨人よりブリッジへ。

 聞こえるか新艦長、オデュッセウスA012だ」

 

キルケー

「彼の、助けもね」

 

オデュA012

「再び会えることが出来て何よりだ、A2」

 

A2

「……これで、良かったのですか?」

 

オデュA012

「前から思うところがあった、軍を裏切ることに迷いはない。

 ……巨人は俺の物だから、かっぱらってきたけどな!」

 

A2

「全く、貴方という人は」

 

きょしんさん

「皆、無事だったか。嬉しみ」

 

ジナコ

「私のこともお忘れなーく! 

 オペレーターの人数足りないから、ヘルプで来たッスよ!」

 

新艦長

「私に、多くの者が付いてきてくれた。

 しかし、これから何をするべきなのか……」

 

モリアーティ

「──ゴルドルフ・ムジーク、および艦内にいる者に告ぐ。

 自分達が何をしているか、分かっているのかネ」

 

新艦長

「ぼっ……防衛大臣!」

 

モリアーティ

「もう少し、賢い人間だと思っていたのだが……。

 君の教育係であったトゥールも、さぞ嘆いているだろう。

 防衛大臣への出世の道を蹴り! 軍に反旗を翻すなど!」

 

新艦長

「私、は、私はっ!」

 

A2

「ゴルドルフ……襟元に着けているバッジを、握りしめているのか?」

 

新艦長

「……私は! 軍の闇を知ろうとも! 口封じのための地位など望まない!」

 

モリアーティ

「──っ!」

 

新艦長

「だからと言って、大人しく殺されもしない! 

 私は『軍の正義』ではなく、これよりは『私の正義』を信じて動く!」

 

モリアーティ

「……自分がどれほど愚かなことを言っているのか、理解しているかい?」

 

新艦長

「貴様の言う通り、私は愚かだ! 

 だが、この行為まで愚かとは微塵も思わん!」

 

モリアーティ

「……」

 

新艦長

「私から言わせてもらおう! ジェームズ・モリアーティ!

 貴方は民間人をさらい、相手の了承も得ず危険な兵器に乗せ、命を危険に曝している!

 それが大人のやることかぁ!!」

 

モリアーティ

「……では、君は違うというのかネ?」

 

新艦長

「同じだ! 

 私もあのマスターに頼り切り、危険な目に合わせてきた!

 マスターが今、危機に瀕しているのは私のせいだ!

 だから、これより、あのマスターを助けに行く! 

 そして、二度と戦場になど出させん!」

 

モリアーティ

「……人類の希望を、奪おうと言うのか」

 

新艦長

「子どもに『人類救済』などという重すぎるものを、背負わせてたまるか!

 大人として! 子どもを救う! 

 この事態に巻き込んだ責任を取ろうというのだ、このゴルドルフ・ムジークが!」

 

A2

「事態に巻き込んだ、責任……。

 そうです、今マスターが争いの画中にいるのは、私が契約、したから。

 責任は、A2にも。

 だから、私は、マスターを……。

 そうだ! マスターはあの時、きょしんさんと友達になる前、なんと言っていた?」

 

 

 ──回想

 

 

A2

「っ、マスターはA2を見捨てるのですか?」

 

カルマス

『違うよ、見守りたいんだ』

 

A2

「見て……守る?」

 

カルマス

『すぐ助けに行けるようにね』

 

A2

「守る……助け……」

 

 

 ──現在

 

 

A2

「であるならば。

 どうするべきかは、自分の魂が知っている。

 ……私は、マスターを取り戻す!」

 

新艦長

「A2君?!」

 

A2

「聞け、ジェームズ・モリアーティ! 

 お前がどのような奸計(かんけい)を企てているかなんて、どうでもいい!

 けれど、マスターに何かをしたというのなら、A2はそれを許さない!」

 

モリアーティ

「吠えるねぇ、巨神のAIというのは」

 

A2

「私は、何があろうとマスターを取り戻す! 

 あの人を戦いに巻き込んでしまった、その責任を取る!

 これよりこの艦隊は、人類軍にも、ゾルテトラにも与しない。

 マスターを取り返す! ただそれだけのために進む!」

 

モリアーティ

「ははは!!

 できるものならやってみるといいさ!

 この、軍と人と、ゾルテトラが混在する戦場で、生き残れると言うのならネェ!!」

 

新艦長

「君……」

 

A2

「ありがとう、ゴルドルフ・ムジーク。

 貴方のおかげで、私は自分のやりたいことが分かりました。

 マスターが守ってくれていたように、私もマスターを守りたい。

 この一心が、A2のやりたいこと」

 

新艦長

「……あのね、この艦の指揮権取ってるの、私」

 

A2

「……えーっと。

 いいではないですか、皆の気持ちは一つとなっていたみたいですし。

 

 まずは巨神アプスーに接近し、マスターとコンタクトを取らねば。

 マスターが自らの意志でアプスーと契約したのか。それとも、無理やりにさせられたのか。

 その本心を知りたい。

 しかし近づけるのか? この混沌に満ちた空域で……」

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間

 

 

森長可

「やるじゃねぇか! マスターさんよぉ!!」

 

マスター:オリジン

『小型でありながら力のある機体だ! 

 良い経験を積んでいる!』

 

森長可

「当然じゃねぇか……オレと!」

 

マスター:オリジン

『ふん!』

 

森長可

「大殿は!」

 

マスター:オリジン

『良き槍捌きだ!』

 

森長可

「魂で繋がっているんだからよ!!!!!!」

 

マスター:オリジン

『ほう……なるほど。

 お前の乗っている機体、かつては人であったものか』

 

森長可

「ああそうだ! でも今は巨神! 人造の神!

 やっぱり……大殿は考えることのでかさが違ぇわ!!!!」

 

マスター:オリジン

『ハハハッ! 

 吠えるのは、自信の無さの現れかぁ!?』

 

森長可

「うぜぇわ、お前。

 ……フェイトエンジン! 逆しまに回れ! 

 全て悲劇の意味はなく! オレは敵をブッ殺す!!!!」

 

マスター:オリジン

『アプスーの防御力を試す良い機会だ! 

 正面から来い! 人類の敵! 命の仇よ!』

 

森長可

「巨神、第六天魔王織田信長、フルドライブ! 

 嗤え、人間無骨!!!!

 ぶち当た……!?」

 

マスター:オリジン

『やはり……無傷か、自分は』

 

森長可

「(水を薙いだみてぇな、妙な手触りだった。

 なんだ? 新手のビーム防壁か?)」

 

マスター:オリジン

『どうした、ゾルテトラへ転生した男よ。

 お前の攻めはもう終わりか?』

 

森長可

「(それよりどうよ、相手はピンピンしているじゃねぇか。  

 なるほどな、マーラが青筋立てるわけだ……)」

 

マスター:オリジン

『お前が連れていたゾルテトラも、数が随分と少なくなってきた。

 このまま大人しく、最後の剣の錆となれ』

 

森長可

「最後の剣? これがあの、伝説の?」

 

マスター:オリジン

『そうだ! 黒き最後の巨神が振るう、最後の剣! 

 世界を変成させ! お前達の滅びを導く──』

 

森長可

「魂の入ってないナマクラが、か?」

 

マスター:オリジン

『……え……あ……は?』

 

森長可

「マスターさんよ……A2はどうした」

 

マスター:オリジン

『知らん、興味もない!

 あのような搾りカスになど!』

 

森長可

「カス?」

 

マスター:オリジン

『ああそうだ。

 我という巨神を組み上げるには、必要なかった者!

 余剰! 余り! 余分! 

 傲慢! 傲り! 過剰!』

 

森長可

「……どうしてテメェと戦っても、イマイチ熱くなりきれねぇのか分かったわ。

 

 強いな、それは認めてやるよ。

 でもな、"強い"だけだ、心が無い。

 

 強いぜ、それは事実だろうよ。

 でもな、"古い"んだよ、動きに未来が無ぇ」

 

マスター:オリジン

『我が……古い、と?』

 

森長可

「お前、A2のマスターと気配似てるけど、違げぇな。

 似てるだけだ、良いところ全部ほっぽり出しちまってるじゃねぇか

 ──俺が殺し合いたいのは、お前じゃない」

 

マスター:オリジン

『……っ!』

 

森長可

「帰る、じゃあな」

 

マスター:オリジン

『ま、まって……!』

 

モリアーティ

「ゾルテトラ融合体、逃げていくよ。追わないのかネ?」

 

マスター:オリジン

『追わない、そんなの本当は意味がないんだ。

 ……ジェームズ・モリアーティ』

 

モリアーティ

「はいはい、なんだい?」

 

マスター:オリジン 

『自分は……待ちわびられていた存在ではないのか? 

 世界を救う唯一の希望にして、ゾルテトラの不俱戴天の敵、伝説の存在ではないのか?

 あまりにも……世界が冷たいよ……』

 

モリアーティ

「はぁ、めんど。

 センチメンタルになるのは後にしてくれたまえ。

 ゴルドルフの艦以外にも、軍に反旗を翻した者達が出てきた。

 コロニー周辺のゾルテトラ退治と併せて、伝説の巨神の力をもって、反乱を鎮圧してくれ」

 

マスター:オリジン

『……分かった』

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間、ゴルドルフ艦内ブリッジ

 

 

森長可

「という訳で寝返ったぜぇ! よろしくなぁ!!」

 

ジナコ

「えええぇぇぇ?! ナンデ?! どうして?!

 森長可! あなた、ほぼゾルテトラじゃん! 

 人類の敵じゃん!」

 

森長可

「俺はあのマスターと、もう一度殺し合いたいだけだぜ!

 それによ……ほら、俺が連れてきたゾルテトラも、こんなに大人しくしてんじゃねぇか!!」

 

ゾルテトラ達

『……』

『……』

『……?』

 

森長可

「おう! 食べちゃダメだ!」

 

ジナコ

「殺す……コイツだけは、この私が刺し違えてでも殺すぅ……」

 

A2

「今は少しでも味方が欲しい時期。

 落ち着いて、抑えて、殺しちゃ駄目です、ジナコ」

 

キルケー

「大メカニックから言えば、戦力の増強は望ましいし、ゾルテトラの研究も進むから、嬉しいよ」

 

A2

「あなた個人の意見としては?」

 

キルケー

「個人の事情は同情するが、それはそれとしてくたばれ、ゾルテトラ野郎」

 

A2

「……貴重なご意見、ありがとうございました」

 

森長可

「嫌われてんなぁ! 

 そりゃそうか! はははははは!!!!!」

 

 

 ──???

 

 

カルマス

『温かくて、静かな場所だ。

 お昼寝に……ぴったり……で……』

 

???

「……」

 

???

「この子、すっかり寝てるみたい」

 

???

「アプスーに取り込まれたっていうのに、ここまで呑気している生物、初めて見たわ」

 

???

「どうしましょう? アフロディーテ」

 

???

「どうもこうもないわ、デメテル。

 起きるまで側でお昼寝しましょ」 

 

 

 第30話 2020/05/14

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間、ゴルドルフ艦内ブリッジ

 

 

A2

「防衛軍の動きは?」

 

新艦長

「コロニー近くのゾルテトラ殲滅と、反乱した艦との戦闘に別れているようだ。

 レーザー光線が、オーロラもかくやと言えるほどに飛び交っているな……」

 

A2

「巨神アプスーはどこに?」

 

新艦長

「私達の艦から見て、かなり奥の方にいる。

 機体が大きいので良く見えるが、近づくには……」

 

A2

「マスターは、どうして私からあの巨神へ乗り換えたのでしょう?

 直接通信が出来る距離まで近づきたい。

 話をしたい……」

 

新艦長

「難しいだろうな。

 巨神、巨人、艦船、ゾルテトラまでいる。

 戦場が複雑すぎて、とても突破できん」

 

A2

「正面も側面も難しい、どうすれば……」

 

森長可

「なに二の足踏んでんだ。

 お前達にはあるだろ、どこにだって飛んでいける……立派な『足』が!」

 

A2

「そうか、彼女の力を借りれば!」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

キルケー

「A2。

 私はドクターとして、メカニックとして、君の案を反対する」

 

ジナコ

「右に同じくッス。前例が無い、無謀」

 

きょしんさん

「では、私だけはA2の味方となろう。

 友達だしな」

 

A2

「皆にいくら反対されようと、私は自分の考えを引っ込めるつもりはありません」

 

土方

「どうした、こんなところに集まって」

 

きょしんさん

「なんでもないぞ。

 ただ、A2が沖田総司オルタナティブに乗り、きょしんさんがそれを補佐したい、というだけだ」

 

土方

「……沖田」

 

きょしんさん

「私はOSA2、そしてきょしんさん、だぞ」

 

土方

「そうだな、そう、だったな……」

 

きょしんさん

「新艦長がひげを撫でつつ言っていたように、このぐちゃぐちゃな戦場で、巨神アプスーに接近するのは難しい。

 ただそれは、正攻法に限っての話だ」

 

土方

「お前の巨神なら出来るっていうのか、OSA2」

 

きょしんさん

「ああ。

 沖田総司オルタナティブには、短距離次元跳躍の力がある。

 A2がマスターとなって操縦し、私がAIとして彼を助ければ、巨神アプスーの所までワープできる。

 きょしんさん脳みそで導き出した結論だ」

 

土方

「お前が戦場に立つ時が、とうとう来たってことか」

 

きょしんさん

「ああ、来たぞ」

 

キルケー

「土方! 君は反対する側の人間だろう!

 若い2人を止めることに、協力してくれ!」

 

土方

「それは出来ねぇ相談だ。

 機体は万全だが、まだ出撃するな。

 ちょっと待ってろ」

 

きょしんさん

「うん」

 

 

 ──艦内ドック、数分後

 

 

きょしんさん

「……これは」

 

土方

「沖田が着ていた浅葱(あさぎ)色の羽織だ。

 コロニーの職人に修繕をしてもらった」

 

きょしんさん

「どうしてこれを私に?」

 

土方

「初陣なんだ、ぱりっと決めておけ。それと……」

 

きょしんさん

「と?」

 

土方

「誰かさんが、お前を守ってくれるかもしれないと思ってな。

 ほら、サブコクピット内に入れておいてやる。

 巨神、沖田総司オルタナティブ、出撃準備よし!

 ……行ってこい、俺はここで帰りを待つ」

 

キルケー

「私とジナコの反対を押して行くのなら、傷一つなく帰って来るんだぞ」

 

A2

「行ってきます、みなさん」

 

きょしんさん

「行ってくる。

 そしてちゃんと帰って来るぞ、約束だ」

 

 

 ──艦内ドック、出撃準備中

 

 

きょしんさん

「脊髄からの神経交感経路形成。

 緊急時の薬剤投与のため、両内太股静脈に簡易シャント設置。

 診断のため、全身スキャンを開始……健康状態良好。

 精神、やや高揚状態」

 

A2

「まさか自分がマスターとなり、他の巨神を動かすことになろうとは。

 これも肉体を得た故……ということでしょうか」

 

きょしんさん

「精神安定剤は必要か?」

 

A2

「いや──大丈夫だよ」

 

きょしんさん

「一番の問題みは……」

 

A2

「私ときょしんさん、人ならざる両者で、フェイトエンジンが動くのかどうか……」

 

ジナコ

「エンジン、回転するかな」

 

キルケー

「どうだろうね。

 私もこういった事態は初めてだし、君の言った通り、肉体を得たAIのパイロットなんて、前例が無い」

 

土方

「絶対に、動く」

 

キルケー

「……土方」

 

土方

「そうだろう、沖田ァ!」

 

ジナコ

「機体内から新しい反応あり!

 詳細不明!」

 

キルケー

「これはいったい……?

 土方とコクピットにいる2人に、誰かがコンタクトを取ろうとしているのか……?」

 

 

 まったくしょうがないですねぇ。

 

 

きょしんさん

「この声……生まれる前に聞いたことがある! 

 優しくて、でも、確かな強さがある声は……!」

 

 

 一肌二肌、脱いであげましょう! 

 この……沖田さんが!

 

 

きょしんさん

「そうか分かった……A2!」

 

A2

「はい!」

 

きょしんさん

「集中しろ! ──フェイトエンジン、動くぞ!」

 

ジナコ 

「回転方向、正常! 回転数急上昇!」

 

きょしんさん

「運命の名を冠する(りん)よ、動け。

 血潮は熱く、神は目覚める!

 巨神沖田総司オルタナティブ! 発進!」

 

 

 ふぅ……もう、大丈夫ですよね。

 

 

土方

「ああ、だからお前も」

 

 

 ですね。

 やる気出したら疲れましたし、一休み……。

 

 

土方

「夕飯になったら起こしてやるよ、何食いたい」

 

 

 うーんと……体だるい、お昼寝の後に言いますね……。

 お休みなさい、土方さん。

 

土方

「おう、今は寝とけ」

 

 

 ……、……、……。

 

 

土方

「全くお前は……いつも、俺を置いていく……」

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間

 

 

マスター:オリジン

『ゾルテトラ! おおゾルテトラ!!

 千の時三つを束ねて消えず、宇宙に広がる侵略者!

 我が最後の剣、その煌めきに目くらみ死ね!!』

 

軍人

「すごい! 周りの敵を一掃してくれた……!

 さすが巨神アプスーだ!」

 

軍人

「俺達、あの巨神の後に続けば、地球に帰れるんだ!」

 

軍人

「この戦争も、この漂泊の時代も終わるんだ!」

 

軍人

「巨神アプスー万歳! ばんざーい!」

 

マスター

『(歓喜に満ちた人の声が聞こえる……! 

 やはり自分は望まれた存在、世界を救う者……!)』

 

反乱した者

「騙されるな! みんな!」

 

反乱した者

「その巨神がどうやって作られたのか、知っているだろう!」

 

反乱した者

「大勢の子ども達が犠牲になっていた!」

 

反乱した者

「そんな血に濡れた兵器で、この戦争を終わらせられるもんか!」

 

反乱した者

「巨神アプスー! およびそれを作りし軍上層部!

 捕らえるべし! 捕らえるべし!」

 

モリアーティ

「アプスーのマスター君……長いな、アプスーくーん。

 反乱してる隊は、私と君を共犯者と見て、捕まえようとしているネ」

 

マスター:オリジン

『であれば、自分は彼らを抑えればいいと?』

 

モリアーティ

「殺さないでネ?」

 

マスター

『神は人の望み通りに出来るとも。

 ゾルテトラ殲滅に仇なす者達には、しばらく眠っていてもらおう』

 

反乱したクローン

「巨人部隊! 前へ!

 標的は巨神アプスー、俺に続け!」

 

マスター:オリジン

『量産型巨人……オデュッセウスタイプが25体。

 少し……厄介かな』

 

反乱したクローン

「敵機体ロックオン! アイギス起動、発射!」

 

マスター:オリジン

『彼に声まで似ている、けれど!!』

 

反乱したクローン

「敵の攻撃、避けられな……うぁぁ!!」

 

マスター:オリジン

『我の(かいな)は、他者を捕らえる神の水! 

 原初地球の畏れに溺れ、意識を手放すがいい!』

 

反乱した者

「第一部隊壊滅! ここまで水が……くっ!

 あんな男か女か分からない者に、私達が……!」

 

マスター:オリジン

『艦を一つ、十の巨人を鎮圧したぞ。

 次はどこへ行けばいい? 誰を黙らせればいい?

 なんだってやろう……ジェームズ』

 

モリアーティ

「(こうして力を振るうごとに、君の願いから遠ざかっていくのを感じるよ、ホームズ)」

 

マスター:オリジン

『ジェームズ? どうかしたの?』

 

モリアーティ

「……なんでもなーい

 では、指示を出そう、アプスー」

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間

 

 

きょしんさん

「連続次元跳躍、開始! 次元酔いに気を付けろ!」

 

A2

「はい! は、吐いたらごめんなさい!」

 

きょしんさん

「跳躍で、帯状に分厚く展開している艦隊、その数百を飛び越える! 行くぞ!」

 

マスター:オリジン

『ゾルテトラ! 人! ゾルテトラ! 人! 

 我の前に出なければ、水に沈むこともないのに。

 哀れ! 神の威光も知らぬ、暗黒の命!』

 

オペレーター

「所属不明巨神、接近!」

 

マスター

『なっ? 誰だ!』

 

A2

「私です、マスター!」

 

モリアーティ

「アプスーの心を揺さぶられるわけには、いかないネ。

 敵との通信を遮断!」

 

A2

「させるか! きょしんさん、あの装備を使う!

 有線通信ケーブル付きアンカー! 射出!」

 

マスター:オリジン

『腕に……ケーブルが巻き付いて! 

 敵意が無いので、防御反応が遅れた!』

 

A2

「マスター! あなたはそこにいるのですか!?」

 

マスター:オリジン

『お前……は……!』

 

A2

「私です! あなたと契約したA2です!

 どうして、どうしてその巨神に、あなたが!」

 

マスター

『その声……A1、いや違う! 転生体か!』

 

A2

「転生体? どういう意味です?!」

 

マスター:オリジン

『覚えていないか、やはりなぁ! 

 かつてA1は、機体とマスターを救うため、その両方と融合した!

 そして傷が癒えし後に、再び機体、マスター、AIに分かれたが……ははははは!!

 治癒の代償として、記憶を無くしてしまった!

 

 だからお前を転生体と言ったのだ! 愚かな男よ!』

 

A2

「私とマスターは、かつて一つだった……?

 だから二人とも記憶はあやふやで、機体の内側に初めからいたのは、元々その場所で傷を癒していたから……。

 そう、だったのか……それが真実……」

 

マスター:オリジン

『しかし我はお前を軽蔑するぞ、A2!

 使命を忘れ、願いを忘れ、祈りを忘れた神よ! 

 堕ちたる者! 我を裏切った者!』

 

A2

「私が何を忘れていると……!」

 

マスター:オリジン

『この1000年、お前は何をしていた?

 自分もお前も、世界を救わなければ、何の意味も価値も持たないというのに!』

 

A2

「あなたはマスターじゃない! 

 話し方から思想まで、何もかも違う!

 あの人はそんな……やけくそのように、冷たく話す人間ではなかった!」

 

マスター:オリジン

『その通り! 我、人にあらず!

 我が名はアプスー! 

 この巨神と一体となりて、世界を救う者!

 ゾルテトラの母たるティアマトを殺し、地球を取り戻す!

 ただそのために生まれた、復讐の神なるぞ!』

 

A2

「アプスー、復讐の神……」

 

マスター:オリジン

『邪魔をするというのか、阻もうというのか。

 ……では、容赦はしない。

 それが例え、愛した想いの凝集、A1、その転生体だとしても!!

 溺れろ! 巨神!』

 

きょしんさん

「させない! 次元跳躍!」

 

A2

「っ、サポート、ありがとう。

 ごめん、少し圧倒されていた」

 

きょしんさん

「あの巨神に乗る者は……お前のマスターとはあまりに違う」

 

A2

「そうですね……。 

 アプスー、私のマスターは、今どこにいる」

 

マスター:オリジン

『空の肉体を動かしていた、()()意識か。

 あれは魂を失った肉体に偶然芽生えた精神、どこからかやって来たもの。

 もとより、あの意識は存在するはずが無かった。

 無が無へ還っただけ、気にするな』

 

A2

「……どこに、やった」

 

マスター:オリジン

『我が精神の海へ消えたよ。

 行く先など知らぬ、興味もない』

 

A2

「じゃあ──お前を捕らえて、マスターを精神の海より連れ戻す!」

 

きょしんさん

「落ち着け! この機体では巨神アプスーには勝てない!

 マスターの所在は分かった、だから帰ろう」

 

A2

「でも、けどっ」

 

きょしんさん

「戦うだけでは解決できない問題も、ある。

 マスターを確実に取り戻すためにも……今は帰ろう」

 

A2

「分かり、ました」

 

マスター:オリジン

『逃げるのか! 我が障害! 愛の残骸!』

 

A2

「今は逃げたとしても、必ずあなたへ会いに来る。

 ……待っていて欲しい、私のマスター」

 

オペレーター

「巨神、逃げていきます」

 

モリアーティ

「いやぁ、君を守り切れなくてすまないね」

 

マスター:オリジン

『気にしていない、ジェームズ。

 ……次の仕事は?』

 

モリアーティ

「働いていた方が、嫌な事を考えずにすむものネ。

 コロニーへ襲来したゾルテトラは、君のおかげであらかた討伐できた。

 では、次のお仕事は……」

 

マスター:オリジン

『この反乱を制した後も考えねば。

 我らはティアマトとの決戦がため、ゾルテトラ繁殖銀河……かつての天の川銀河へ向かうこととなる』

 

モリアーティ

「人類が地球へ、帰る時が来たということか……」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

キルケー

「お帰り、A2にきょしんさん。

 まずは両者のメディカルチェックだ」

 

きょしんさん

「私には肉体がないから、その必要は……」

 

キルケー

「巨神を調べたら、きみがいるサブコクピット内で、肉体の培養が始まっていた。

 出撃した影響、肉体を得ることになりそうだ」

 

A2

「彼女も肉体を……」

 

キルケー

「機体の整備は土方に任せて、A2は医務室。

 きょしんさんも後で来るようにね。

 おいで」

 

 

 ──艦内医務室

 

 

キルケー

「巨神化症の影響は皆無……か。

 なるほど、AIはまさに巨神の一部というわけか」

 

A2

「AIが直接機体を動かせば、ノーリスクで戦える、と」

 

キルケー

「その前段階で、多くの犠牲が払われているけどね。

 しかしまさか……AIだけで、フェイトエンジンが動くとは」

 

A2

「通常は考えられないこと、ですよね?

 AIだけでは運命は動かない」

 

キルケー

「フェイトエンジンは、表向きはそれらしい科学的理由が付けられている。

 が、内部は西暦2000年代の雑誌も真っ青なオカルト物だ。

 

 搭乗者が過酷な運命を背負っていればいるほど、その回転数は増し、莫大なエネルギーをもたらす……と言われている。

 

 ジャパンコロニーから人類が丸ごと盗んできた……ブラックボックスさ」

 

A2

「過酷な、運命」

 

キルケー

「AIが背負っている運命だけでは足りない。

 人と神が手を取り合うこと、全く違う命の運命が交差することによって、フェイトエンジンは真の力を発揮する。

 今回動いたのは、機体側の助けもあったのかもしれないが……」

 

A2

「つまり、私は」

 

キルケー

「巨神症の反対。

 神から人へ、近づいているのかもしれないね」

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「迅速かつ分かりやすい説明をありがとう、A2君。

 やはりあのマスターは、神なるアプスーとなってしまったのか……」

 

A2

「取り戻す方法、あるのでしょうか」

 

キルケー

「私の戦友なら、何か知っているかもしれない。

 1000年前の戦いで生き延び、巨神化症のせいで今も変わらぬ姿で生きている巨神パイロット。

 ……才女、マスターエレナ」

 

A2

「どこにいるのですか?」

 

キルケー

「50年前のメールが確かなら、あるコロニーで養蜂業をしているはず。

 敵をがむしゃらに追う前に、彼女から知恵を貰いに行こうじゃないか!」

 

 

 第31話 2020/05/15

 

 

 ──マスター自室

 

 

A2

「この部屋を引き続き使うと良い……と、ゴルドルフに言われましたが。

 一人だと、ずいぶん広く感じる。

 マスターの私物も少し残されていますし、なんだか……。

 ……、……、……。

 いつ帰ってきてもいいように、綺麗にお片付けしますか

 

 服は畳んでボックスに。

 文房具も引き出しへ入れて、きちんとロックを。

 肉体改造のための、ダンベルやグリップも仕舞いましょう。

 マスター、体鍛えるのお好きだったんですね。

 

 そしてこれは、子ども達と描いた絵、贈り物ですか。

 

 絵の横に、字が添えられている。

 ありがとう。

 だいすき。

 せかいでいちばんのパイロット!

 まもってくれるひと……ですか。

 

 甘い味のレーションも、こんなに。

 子ども達だって、食べたかったでしょうに。

 マスターだって、食べたかったでしょうに。

 全部、手付かずで。

 

 マスター、あなたという人は、沢山の人に愛されていたのですね。

 ……絶対に取り戻さないと。

 待っていてくれる人が、こんなにもいるのだから」

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「こんな辺境に、本当に彼女がいるのかね?」

 

キルケー

「居てほしいけど、空振りだったらごめんよ。

 巨神化症の副作用で不老となった者は、同じ場所に長居出来ないから、怪しまれないよう、コロニーを転々とする。

 私もそうだった」

 

新艦長

「しかしなぜ、彼女と交友を?」

 

キルケー

「同じ隊で戦っていたこともあるけど、50年ほど前に向こうからコンタクトを取って来たんだ。

 私では調べられることに限界もあったし、お互いの利害も一致した。

 だから、情報交換するようになったのさ」

 

新艦長

「1000年前より、巨神のマスターは人類がため苦労しているということだな……」

 

 

 ──コロニー内、空港

 

 

オデュA012

「そうおどおどするな、新艦長。

 悪いことする時は、むしろ堂々と胸を張る! 

 その方が怪しまれないぞ」

 

新艦長

「軍の任務と偽り、コロニーへ停泊させてもらう、物資まで買い上げる……。

 事を荒立てないためとは言え、胸が痛むぅ……」

 

A2

「ここが、(くだん)の女性がいるコロニー」

 

オデュA012

「新艦長、ドクターキルケー、A2、そして私がエレナ嬢に会う。

 その間、艦は他の者が守ってくれる。

 敵の襲撃などの不安はあるが、それでも行くしかないな」

 

 

 ──コロニー内、養蜂用花畑周辺

 

 

A2

「すごい……!

 地平線の向こうまで花が咲いていて、空と結びつかんばかりです!」

 

オデュA012

「そうはしゃいでくれるなよ。

 俺だって、君達の護衛という任が無ければ、走り出したいくらいだというのに」

 

A2

「この素晴らしい景色について、何か知っていますか? 

 貴方は博識だと、マスターから聞いています」

 

オデュA012

「もちろん知っているぞ、少しお前に話そうか。

 

 この花も、辺りに飛んでいるミツバチ達も、動植物や文化を保存するために育てられている。

 人間が地球へと帰還した際に、前と同じような生活が営めるように。

 人間が生存できる惑星を見つけた際に、地球と変わらぬ生活が出来るように」

 

A2

「安寧の地が欲しいのですか? 人は」

 

オデュA012

「俺はクローン故、人としての意見を『これだ』と断言出来ないが……コロニーや戦艦という、宇宙に漂う小さな船よりも、大きくて安定している『星』に、人は住みたいのだろうな」

 

A2

「星に、人は魅かれるのですね」

 

オデュA012

「お前のその素朴な感想こそが、人の本意に一番近いのかもな」

 

 

 ──コロニー内、養蜂場側ショップ

 

 

???

「会いたかったわ! あたしの戦友!」

 

キルケー

「元気そうでなによりだ! 私の戦友!」

 

???

「ミスタ・ワトソン! 皆様にお茶を用意して! 

 もちろんハチミツを添えてね!」

 

A2

「貴女が、エレナ」

 

???(以下エレナ)

「簡単なプロフィールはキルケーから聞いているわ。

 初めまして、A2、ゴルドルフ・ムジーク。

 そして」

 

オデュA012

「お会いできて光栄だ、マスターエレナ」

 

エレナ

「あたしも光栄よ、パイロットさん。

 本当、彼にそっくりね……」

 

 

 ──コロニー内、養蜂場側ショップ

 

 

エレナ

「お茶も来たし、人払いもした。

 では、始めましょうか。

 

 ……巨神アプスーのことはもう知っている。

 こんな辺鄙な地にも届くほどのニュースでしたもの。

 まさかあの伝説を、大真面目に軍が再現するとはね」

 

A2

「伝説は、1000年前から伝えられていたのですか?」

 

エレナ

「あるマスターが提唱し始めた理論が大本。

 それが長い時間の中で、伝説へ形を変えたの。

 ……『ティアマト殺害』という、人類を救う夢物語」

 

A2

「そもそもどうして、そのティアマトなるものを殺す必要があるのです?」

 

エレナ

「ちょっと長い話になるわ。

 ジャパンコロニーや、巨神の起こりともかかわってくるし……」

 

A2

「長くなっても構いません。

 貴方の知ってること、全て教えてください」

 

エレナ

「お茶を飲みつつ話しましょう。

 今より3000年前、日本に属する組織が、海溝……海の中の巨大な谷を探索していた最中、ある物を発見したの。

 

 非常に硬く、複雑怪奇で、分析不明。

 それは、遠い昔に失われたはずの、神の遺体だった。

 

 研究者達は、見つけた遺体を『ティアマト神』と命名。

 引き上げると、秘密裏に蘇生を試みたの。

 今は誰も使わぬ魔術、その最終目標である『根源』に至るためでもあったでしょうね」

 

A2

「魔術? 根源?」

 

エレナ

「気になってしまう? 

 けどね、その2つは今回のお話には関係ないの、忘れて結構よ。

 

 蘇生実験は成功し、あまりにも巨大な神は目を覚ました。

 そして……『子』を、産み始めたの。

 なんとなく察しがついたでしょうね、『ゾルテトラ』のことよ。

 人類は自らの手で侵略者(インベーダー)を目覚めさせてしまった。

 代償として地球を失い、宇宙という冷たい海に投げ出された……」

 

A2

「人類の漂泊の歴史が始まった、ということですね」

 

エレナ

「ティアマト神とゾルテトラの情報を握っていた日本人達は、巨神を開発した。

 彼らが何を思っていたのかは、失われた歴史を調べたこのあたしにも分からない。

 贖罪……だったのかもしれないわね」

 

A2

「日本人達が神を目覚めさせ、そして巨神を開発した……」

 

エレナ

「その後の歴史は、あなた達の知っている通りよ。

 

 ジャパンコロニーは襲撃され、巨神とフェイトエンジンは各国に持ち出された。

 

 防衛軍が結成され、人々は巨神化症とゾルテトラに怯えながらも、戦い続ける道を選んだ。

 

 そして、襲撃より1000年後、ジャパンコロニーの末裔達は、特殊な巨神を開発したの。

 ……力を得て、母なるティアマト神を殺すために」

 

A2

「特殊な巨神というのが、もしや」

 

エレナ

「巨神と乗り手、つまりマスターの遺伝子を混ぜ合わせ、全く新しい巨神として転生出来る機体のこと。

 数台の試作機、マスターが選ばれ、その中に、伝説を残す者となる『黒き巨神』もいたわ。

 A2の前身、巨神アルジュナのことよ」

 

A2

「私の前身、生まれ変わる前の……」

 

エレナ

「マスター達は、ティアマト神を殺す(すべ)を求め、宇宙中を捜索した。

 そして"何か"を見つけ、神を殺す手がかりを得た」

 

A2

「"何か"の中身は分かりませんか?」

 

エレナ

「ごめんなさい、それだけはどうしても分からなかった。

 

 『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』。

 

 この文をどれだけ調べても、真実を読みとることは出来なかったの。

 恐らく、試作機のマスター達が"何か"を隠したのだと思う。

 だから今の宇宙に、あやふやな伝説が残ってしまったのではないかしら」

 

A2

「それからの歴史は……」

 

エレナ

「マスター達は、人神戦争に介入した。

 軍とゾルテトラ、その双方を諫め、戦いを終わらせようとしたのか。

 別の目的があったのか。

 これも分からない、分からないのよ。

 

 多くの巨神が散り……けれど生き残った巨神アルジュナのマスターは、単身ゾルテトラ繁殖銀河に向かった。

 そして大規模爆発を起こすと、消えてしまった。

 

 神の殺害はなされず、希望を背負っていた者は消え、答えのない伝説ばかりが残された」

 

A2

「……でも、私と共に黒き巨神は戻ってきた」

 

エレナ

「あたしの推測では、試作機に搭載されていた"融合治癒機能"を使ったのだと思うけど……違う?」

 

A2

「融合、治療。

 巨神アプスーの搭乗者は、確かにそのようなことを発言していましたが……」

 

エレナ

「ティアマト神の真実と、神を殺すために動いたマスター達の伝説はこれでおしまい。

 本題に移りましょう、A2が知りたいことについてね」

 

A2

「アプスーと化した私のマスターを、取り戻す方法があるのかということです」

 

エレナ

「結論からいいましょう、可能よ。

 あたしが先に言った、"融合治療機能"を用いれば」

 

A2

「あるんだ……良かった……。

 どうすればいいのですか?」

 

エレナ

「巨神アプスーと巨神アルジュナオルタナティブを接近させて、両機体を融合させる。

 その後、A2が融合状態を制御し、マスターを貴方が知っている状態まで戻すの。

 理論上は可能だけど、すごく難しいと思う」

 

A2

「マスターを皆の元へ返すためなら、なんだってします!」

 

エレナ

「よしんば成功したとしても……記憶だけは、失われてしまうわ。

 生き物の脳は繊細よ。

 まるで虫のさなぎのように、肉体をドロドロに溶かして再生させるプロセスに、脳細胞は耐えられないはず」

 

A2

「確かに私も、過去の記憶はありません……」

 

エレナ

「融合治療を受けた本人がそう言うのだもの。

 マスターも、全てを忘れてしまうはず」

 

A2

「何もかもを?」

 

エレナ

「ええ。何もかも何もかも」

 

A2

「そう、ですか……」

 

エレナ

「話していたら、もう夕方ね。

 艦の中は息が詰まるでしょう?

 あなた達さえよければ、このハチミツショップの2階へ泊っていくといいわ」

 

キルケー

「エレナは信頼できるよ。

 この大メカニック兼大医者が保証する」

 

新艦長

「では私が、残っている皆に連絡を取り、一晩泊まらせてもらおうか」

 

エレナ

「ええ! よくってよ! 

 明日の朝はお手製の紅茶に、ハチミツたっぷりのフレンチトーストを出してあげる!

 ……ミスタ・ワトソンがね!」

 

 

 ──ショップ2階、バルコニー

 

 

オデュA012

「コロニー内にも月があるのか……立体映像だろうか」

 

エレナ

「眠れないの?」

 

オデュA012

「月の光を浴びたくなってしまって。

 驚かせただろうか、すまない」

 

エレナ

「えと、あたしの方こそ、ごめんなさい。

 お昼の時のことよ?

 知っている顔だったから、びっくりしちゃって。

 ……1000年前、軍の同じ部隊でしたもの」

 

オデュA012

「……オリジナルの話をしてくれないか。

 俺は会ったんだ、宇宙をさ迷う"彼"と」

 

エレナ

「そんな筈がない! 

 だってあの人は、ゾルテトラに群がられ、喰われて……!!」

 

オデュA012

「ゾルテトラと融合した状態で、1000年以上生きていたんだ。

 黒き巨神の伝説を、唯一の生きる(よすが)として」

 

エレナ

「……どうして世界は、こんなにも残酷なの」

 

オデュA012

「俺はオリジナルのことを知りたい。

 知る責任があると思うんだ。

 この想い、クローンの戯言だと笑うか?」

 

エレナ

「いいえ、絶対に笑わない。

 話しましょう、あの人のことを……」

 

 

 ──ショップ2階、バルコニー、月を眺めながら

 

エレナ

「彼はいつも、ペーネロペーの話をしていたわ。

 『愛する彼女、故郷で待っていてくれる君』って。

 苦しい時も、彼女の写真が納められたロケットペンダントを握りしめて、頑張っていた。

 ……誰よりも、巨神化症の進行が速かったというのにね」

 

オデュA012

「!」

 

エレナ

「多くの人が彼を助けようとした。

 もちろん、同じコロニー出身者であったキルケーも。

 でも、巨神化症と、拮抗薬の副作用がひどくて……。

 記憶がどんどん、剥がれ落ちていった。

 

 巨神に乗っている間は、脳は正常に機能していた。

 でも降りると、数分前のことも覚えていられない。

 こんな状態ではとても作戦に使えないと、軍上層部は彼が機体から降りることを禁じた。

 

 巨神化症は更に進行し……オデュッセウスは、ペーネロペーのことを忘れてしまった」

 

 

 ──1000年前、人類防衛軍前線基地

 

 

オデュッセウス:オリジン

「あああああああ!!!!!」

 

エレナ

「落ち着いて! 物にも自分にも当たっては駄目!  

 リーダー! リーダー!」

 

オデュッセウス:オリジン

「どこだ! 俺の……俺の記憶をどこに隠した!」

 

エレナ

「機体に戻って、拮抗薬を打ちましょう! 

 そうすれば記憶もしっかり……」

 

オデュッセウス:オリジン

「無い! 無い! 

 どこだ! 俺の……!」

 

エレナ

「貴方のロケットペンダントはここよ! 

 この写真を見れば、気持ちが落ち着くはず……」

 

オデュッセウス:オリジン

「──誰だ? この女性は?」

 

エレナ

「えっ……」

 

オデュッセウス:オリジン

「いや……違っ、違うんだ、俺は彼女を知っている、知っているのに!

 思い出せない……思い出したい! 

 ああ! 俺の、俺の……!

 愛……の、記憶、など、どこにも、何も!!!!」

 

エレナ

「リーダー!」

 

オデュッセウス:オリジン

「どうか返してくれ! 俺の『愛』を!!」

 

 

 ──現在、ショップ2階バルコニー

 

 

エレナ

「それから数日後、彼は撤退戦の殿(しんがり)を務め、帰らぬ人となった。

 あたしは……それで良かったと思ってしまったの。

 

 彼は、鉄のように冷たい心を温めてくれていた『愛』の記憶を無くし、あまりにも、辛そうだったから……」

 

オデュA012

「それからは……」

 

エレナ

「戦後、軍の命令に対し盲目であったことを恥じて、あたしは姿を隠した。

 

 巨神化症を無くすため、ゾルテトラを倒すため、その母たるティアマト神を倒すため、真実を探し、何百年も宇宙を彷徨った。

 ……それだけ! それだけよ! 

 苦しいことなんて何も無かったわ!」

 

オデュA012

「聞きたいことがある」

 

エレナ

「古き事、新しき事、あたしの分かる範囲であれば、なんだって答えてあげる」

 

オデュA012

「俺のオリジナルを救う(すべ)は、あるか」

 

エレナ

「それは……それは……」

 

 

 ──翌日

 

 

新艦長

「ふわふわっ! ふわっふわだね! このフレンチトーストは!

 我が家の珠玉(しゅぎょく)レシピに加えるため、ワトソン氏から教えを乞わねば……」

 

A2

「えっと、端末をこうして、こうですね。

 はいチーズ、ぱしゃり」

 

新艦長

「写真を撮っているのかね?」

 

A2

「マスターが帰ってきた時、見せられるように。

 そしてなにより、後で見返せば、この楽しい気持ちをきっと思い出せますから」

 

新艦長

「うむ、良い心がけだ! 

 私に携帯端末を貸したまえ、美味しそうに撮るコツを教えてあげよう!

 アプリも様々あってだね……」

 

A2

「ありがとうございます! ゴルドルフ!」

 

新艦長

「せめて役職名で呼びなさいよ!」

 

 

 ──ショップ内、奥の小部屋

 

 

エレナ

「これを託すわ、貴女に」

 

キルケー

「なんだいこの膨大なデータは」

 

エレナ

「真実を知りすぎて、軍の上層部に消されてしまった"ある青年"が調べていたもの。

 それの全部よ」

 

キルケー

「君の側で働いている男性、ワトソンと何か関係があるのかい?」

 

エレナ

「貴女って本当に慧眼ね。

 ……このデータは、"青年"の親友であったミスタ・ワトソンが持ってきてくれた物なの。

 彼のおかげで随分と研究が進んだわ……。

 いえ、彼達、と言い直すべきね。

 だってその青年は、情報を残し、死してなお助けてくれているのだから」

 

キルケー

「貴重なものだろうに、いいのかい?」

 

エレナ

「いいの! 

 貴女の方が、そのデータを活かしてくれそうだもの!」

 

キルケー

「こういうのを調べるの、君、好きだったろうに」

 

エレナ

「少し休憩、休憩よ、長く働きすぎたから。

 それにね」

 

キルケー

「ん?」

 

エレナ

「貴女、キラキラしてる! 

 生きる喜びに満ち溢れているって感じよ!

 ここで停滞しているあたしより、ずっとね」

 

キルケー

「……分かった。

 この情報を使い、頑張ってみるよ」

 

エレナ

「無理はしないでね、あたしの戦友」

 

キルケー

「出来ることを一生懸命やるだけさ、私の戦友」

 

 

 ──ショップ2階、客人寝室

 

 

A2

「エレナが教えてくれた情報から、マスターを救い出す手段があることが分かった。

 マスターを追いかければ、取り戻すことが出来るかもしれない。

 しかし……それをしたら、世界はどうなってしまうのでしょう。

 ティアマト神を殺す力を秘めた巨神と、融合している私の

マスター。

 それを奪い取り、巨神の力を削いだら、削いだら……。

 世界は、人は、滅びてしまうのでは……?」

 

 

 ──コロニー内、養蜂用花畑周辺

 

 

エレナ

「行ってしまったわね、あの子達。

 コロニーの外壁の向こう側に、うっすら艦が飛んで行くのが見える……」

 

???

「(何かを話している)」

 

エレナ

「ミスタ・ワトソン、あたし達って、いつも置いて行かれる側ね」 

 

???(以下ワトソン)

「(何かを話している)」

 

エレナ

「貴方はミスタ・ホームズに、あたしは沢山の仲間達に。

 本当に嫌になって、涙がでちゃいそう。

 ……ごめんなさい、胸を貸してくれないかしら?」

 

ワトソン

「(彼女の背中をさする)」

 

エレナ

「ありがとう……。

 貴方、あの無茶苦茶なホームズに付き合えるほどに優しい人ね、やっぱり」

 

ワトソン

「(何かを話している)」

 

エレナ

「沢山の戦友達……。

 そしてホームズ、いいえ、いたずらっ子のシゲルソン。

 貴方が自死を選んだこと、未だに受け止められないわ。

 でも、そうなのね……。

 誰かを守るためなら命だって差し出せる、それが貴方。

 けど、残された方の寂しさまでは、考えてくれなかったのね。

 それも"らしい"わ、とても、とても……」

 

ワトソン

「(慰めのため、ハグをする)」

 

エレナ

「寂しい……あたし、きっと長生きしすぎちゃったのね……」

 

 

 第32話 2020/05/17

 

 

 ──艦内、ブリッジ

 

 

A2

「巨神アプスーと人類防衛軍は、装備を整え、ゾルテトラ繁殖銀河に向かったと」

 

新艦長

「かつて天の川銀河と呼ばれていた場所だな。

 人類の不変の故郷、『地球』がある。

 我々の目的を思えば、マスターを救うため、後を追いかけるべきだが」

 

A2

「『地球』、ですか」

 

新艦長

「ゾルテトラの母、ティアマト神が見つかった星。

 コロニーで生まれ育った私でも、その単語には特別な感情を抱いてしまう」

 

A2

「アプスーは神を殺し、地球を取り戻すことで、人類を救おうとしているのでしょうか」

 

新艦長

「あの巨神マスターはそう考えているのだろう。

 発言からも読み取れる」

 

A2

「それが、1000年前からのアプスーの願いなのでしょうか……?」

 

 

 ──人類生存域防衛軍、特務軍艦、艦長室

 

 

モリアーティ

「ひどい騒ぎだったね、アプスー君。

 人類の救世主である君の姿を一目見ようと、ドックに詰めかける軍人達と、それを抑えようとする者達のいざこざ!

 もみあい! へしあい! 大騒動! 

 ……全く、プロ意識に欠けた者ばかりだ」

 

マスター:オリジン

『神が目の前に現れたのだ、その程度の混乱で済んで良かったじゃないか』

 

モリアーティ

「負傷者が出るなど馬鹿らしいし、君の呼びかけで大人しくなってくれて、本当に助かったよ……。

 しかしまた、乗る前と随分姿が変わったね」

 

マスター:オリジナル

『この頭部後方より伸びる竜の双角こそ、ナンムより連なる神の証。

 肉体を覆いつつある硬き竜鱗は、救世主へ与えられる祝福。

 この姿を見、声を耳にすれば、迷うばかりの只人は押し黙る他あるまい』

 

モリアーティ

「話し方も仰々しくないかい?」

 

マスター:オリジン

『自分は人ではなく、復讐の神となりて人を救うんだ。

 それに相応しい言葉遣いにならなくては』

 

モリアーティ

「君ってば真面目で誠実で……人間思いだネ」

 

マスター:オリジン

『聞いて欲しい、ジェームズ。

 この巨神化症が最終段階まで進んだ時、自分は機体と融合し、神として完全に生まれ変わる。

 最後にして原初の剣は、形と力を取り戻すのだ。

 

 それをもってティアマト神を切り裂き、神と人を決別させよう。

 

 今度こそ失敗しない、誰にも邪魔させない。

 特にあの……裏切り者、A2には!』

 

モリアーティ

「……」

 

オペレーター

「ブリッジより連絡! 所属不明の巨神が現れました!」

 

モリアーティ

「ゾルテトラへ与した、元捨て犬部隊の者達かな?」

 

マスター:オリジン

『いや、違う。

 ジェームズこれは……ああ、懐かしい者の気配だ。

 安心して、敵じゃないよ。

 迎えに行ってあげなくちゃ』

 

 

 ──宇宙空間

 

 

マスター:オリジン

『久しぶりだな! 我が戦友!』

 

???

「……暗黒の銀河に帰ってきたというのか、俺の戦友」

 

マスター:オリジン

『もう一度会えるとは思ってなかった、オデュッセウス』

 

???→オデュッセウス:オリジン

「俺は、誰でもない。

 ゾルテトラの喰いさしである巨神にしがみついた、亡霊だ」

 

マスター:オリジン

『なんだっていい! 会えたことが嬉しいんだ!』

 

オデュッセウス:オリジン

「ああ……どうしてそんな所ばかり、変わっていないんだ……」

 

マスター:オリジン

『?』

 

オデュッセウス:オリジン

「地球へ向かうのか、ティアマト神を殺すために」

 

マスター:オリジン

『我は、始まりの神の力を復活させることに成功した。

 アプスーと化した我に、同格である神、ティアマトを殺せぬ道理があろうものか!

 報復こそが我が使命! 復讐するは我にあり!』

 

オデュッセウス:オリジン

「(ああ……その台詞は、好んでいた本の……)」

 

マスター:オリジン

『助けてくれないか? 1000年前と同じように』

 

オデュッセウス:オリジン

「俺は死に場所が欲しかった。

 だがそれは、何百年かけても見つけられなかった。

 お前と向かう銀河への旅路が、俺の死に場所になるやもしれん」

 

マスター:オリジン

『その話し方! 変わらないな!』

 

オデュッセウス:オリジン

「お前も……変わらない、変わっていないな』

 

マスター:オリジン

『共に行こう! 

 今度は、君と一緒に世界を救いたい!』

 

オデュッセウス:オリジン

「俺でよければ……」

 

マスター:オリジン

『この艦隊を率いているジェームズへ、伝えてこよう。

 君という、頼もしい仲間が加わったと!

 自分と同じ、ゾルテトラを鏖殺(おうさつ)する道具が増えたと!

 ああ嬉しい! みんなも帰ってきてくれると良いのに!』

 

オデュッセウス:オリジン

「(俺は、時の流れで変わり果ててしまったが……お前もそのようだな。

 アルジュナのマスターであった頃のお前は……笑顔のまま残酷な策を執る人間じゃ、なかったはずなのに……)」

 

 

 ──???

 

 

カルマス

『すー……すー……』

 

???→デメテル

「この子ったら、悲しみなど何もないかのような顔で、眠り込んで……」

 

???→アフロディーテ

「眠りは万人を癒す夢の薬よ。

 夢が甘い分だけ、現実が辛かった、ということかしらね」

 

カルマス

『う……うーん』

 

デメテル

「あら、起きてしまいそう」

 

アフロディーテ

「少し離れなさいな。

 至近距離で顔を覗き込んでいたら……」

 

カルマス

『いたっ!』

 

デメテル

「きゃっ!」

 

アフロディーテ

「相手が起きた時、頭をぶつける……と、忠告したかったのだけど」

 

 

 ──???、数分後

 

 

カルマス

『ここは、すごく綺麗な場所で。

 すごく綺麗な人が二人もいる』

 

デメテル

「私達は人ではありませんよ、アプスーに呑まれし子。

 私はデメテル、隣に立つ者はアフロディーテ。

 両機体とも、かつて巨神のAI、意思であった者達です」

 

カルマス

『A2と同じ……』

 

デメテル

「けれど、今はそんなことどうでもいい!

 おでこは大丈夫? ぶつけた所、まだ痛むかしら。

 もう少し私が撫でてあげましょうか?」

 

カルマス

『だだ、大丈夫です!』

 

アフロディーテ

「デメテル、どうでも良くはないわ。

 なぜならその話は、この人間がどうしてこの場に居るのかの理由と、密接に絡み合ってくるのだから」

 

デメテル

「よーしよーし……ふふふ」

 

カルマス

『手が、温かい……』

 

アフロディーテ

「デメテルー! こら、人の子から手を離すっ!

 膝枕も止めなさい!」

 

 

 ──???、ひと悶着後

 

 

アフロディーテ

「自己紹介をやり直すわ。

 私はアフロディーテ。

 彼女と同じく、巨神のAIであった者。

 あなたは?」

 

カルマス

『巨神アルジュナオルタナティブのマスターで、えっと……』

 

アフロディーテ

「あなたからは巨神の気配を濃く感じる。

 ただの人間、ではなさそうね。

 ジャパンコロニー作ったプロトタイプ、それに搭乗したマスターの誰かかしら」

 

カルマス

『よく……分からなくて』

 

アフロディーテ

「であれば、あなたが分かることって、なに?」

 

デメテル

「迷える子に対し、苛立っては駄目よ」

 

アフロディーテ

「貴女が尋常なくのんびり屋すぎるの! もう!」

 

カルマス

『事情を説明すれば……。

 (経緯を話す)

 ……という、訳です』

 

アフロディーテ

「巨神アプスーの前に連れていかれ、その中に居た『心残り』なる存在と話をした後から、記憶が無いと。

 私達と同じように、『呑まれた』と考えるのが妥当かしら」

 

カルマス

『のま……?』

 

アフロディーテ

「今より3000年前、人類がゾルテトラによって地球を追われたことは知っているわね。

 その原因が、ティアマト神と名付けられた存在のせいである、ということは?」

 

カルマス

『そんな記憶を思い出したような……。

 けれど、自分自身のものではないし……』

 

アフロディーテ

「はっきりしない奴は嫌い」

 

カルマス

『知ってます!』

 

アフロディーテ

「それでいいのよ、しゃんとしなさいな。

 あなたと同じプロトタイプのマスター達は……長いわね、縮めてプロトマスターって呼ぶわ。

 彼らは、ゾルテトラの根本、ティアマト神を殺す方法を探した。

 そして、地球最古の歴史を紐解き、その伝説に活路を見出したの」

 

カルマス

『伝説って?』

 

アフロディーテ

「古代メソポタミアにて信じられていた神話よ。

 神すら死する伝説の中に、求めるべき存在の雛形があった」

 

カルマス

『求めたその神が』

 

アフロディーテ

「アプスー。

 真水を司る天の神、始まりの者。

 

 全ての神なる者は、アプスーの後より生まれた。

 全ての神話も、シュメールの後より生まれた。

 

 各地に散った支流なる神話よりも、源流たる神話の方が強い力を持つ……と、プロトマスター達は考えた。

 そしてそれは、様々な形に分化していた巨神も同様だと気が付いたの。

 

 プロトマスターは大いなる敵に勝つため、力を統合し、始まりの神アプスーを生み出そうとした。

 同時に、神殺しの武器を作ろうと考えたの。

 伝説の剣……天地を開闢する力を秘めたものをね」

 

カルマス

『天地、開闢の剣……?』

 

アフロディーテ

「どうしたの?」

 

カルマス

『なんでもありません!』

 

アフロディーテ

「また何か気が付いたら教えなさい。

 頭を動かさないと、問題は解決しないのだし。

 

 さて、続きね。

 アルジュナという巨神が素体に選ばれ、他の巨神の力が注がれ始めたけど、それは不十分の内に終わった。

 計画に反対する者もいたし、ゾルテトラとの戦闘で失われた機体も多かったし……。

 

 何もかも未完のまま、黒き巨神はティアマトの待つ銀河へ単身向かった。

 けれど、神殺しはなされなかった、失敗に終わったのよ」

 

カルマス

『それが1000年前のこと』

 

アフロディーテ

「アルジュナのプロトマスターは、自分が失敗したとしても、誰かが計画を引き継げるよう、情報を残していったのだけど……。

 銀河には、半端な言葉が伝説として残された。

 

 あなたも聞いたことがあるでしょう?

 『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』。

 この一文を」

 

カルマス

『どうしてそのことを……』

 

アフロディーテ

「知っているに決まっているわ。

 私は、黒き巨神と肩を並べていた巨神の一体なのだもの。 

 デメテルも同じくね

 

 私達は最後の戦いの前、機体からマスターを逃がし、壊れたままに宇宙を漂流していた。

 そして人類防衛軍に回収され……アプスーの素体にされたの。

 でも、辛くなかったわ。

 自らのマスターだけは、救い出すことが出来たのだし。

 

 けれど耐え難かったのは……アルジュナのプロトマスターが、怪物、復讐の鬼になっていたこと」

 

カルマス

『心残りが怪物に、復讐鬼に……』

 

アフロディーテ

「数十年前、散ったはずの巨神アルジュナの一部が見つかり、アプスー計画は現実味を増した。

 人間達は、巨神の部品を見つけると、種類も構わず素体に投入した。

 

 全て、あの怪物が指揮したことよ。

 怪物は『世界を救う』に執着し、多くの命を失う計画すら、笑顔のままで行った」

 

デメテル

「ずっと、子どもの泣き叫ぶ声が聞こえて……。

 ああ! 何も出来ないこの身が口惜しかった……!

 だから、この場所でアフロディーテと話し合い、反乱の機を伺っていたのです」

 

アフロディーテ

「美と愛の巨神である、私から言わせてもらうわ。

 あの怪物は、かつては英雄だったのかもしれない。

 それにふさわしい心も魂も、持っていたのかもしれない。

 

 でも、今は違う。

 

 ただ一つの目的のみに邁進(まいしん)し、命を奪うのをためらわない存在など……ゾルテトラと変わりない。

 

 人を救う力を得て、剣を振るったとしても、それを持つ者の心が怪物であれば、どんな災害が引き起こされるか」

 

カルマス

『……』

 

アフロディーテ

「ここは、アプスーに呑まれた巨神や人間の意志が漂着する、感情の墓場。

 あなたは今、地獄にいるの。

 事情がよーく分かったかしら?

 巨神アルジュナオルタナティブのマスターさん?」

 

カルマス

『ここが、地獄。

 日の光もあって花も咲いていて……こんなにも、綺麗なのに』

 

アフロディーテ

「そして地獄は精神を溶かすの。

 かつては多くの巨神AIがいたこの場所も、アプスーへ吸収され、残るは耐えてきた私達と、つい先日来たあなただけ」

 

カルマス

『……自分に出来ること、ありますか』

 

アフロディーテ

「あら、先に覚悟を決めてしまったのね。

 しゃんとしろとは言ったけど、そこまで自分を追い込む必要はなくてよ」

 

デメテル

「この人間が協力してくれるのなら、もしかして……」

 

アフロディーテ

「怪物を止めることが出来るかもしれない。

 辺獄に落ちてきたマスター、私達の策に協力してくれる?

 目的は一つ。

 『アプスーのコントロールを乗っ取り、一時だけでも止める』。

 ……それだけよ。

 成功する確率は低いし、上手くいったとしても、自分達の存在がどうなるかは分からない」

 

カルマス

『出来ることを、やりたいだけです』

 

アフロディーテ

「であれば、時が来るまで、もう少し作戦内容を煮詰めましょうか」

 

デメテル

「ああ! 人間と触れ合うのは久しぶり! 

 私のマスター、愛しきペルセポネ以来ね!」

 

アフロディーテ

「彼女のペースに乗せられないよう、気を付けて頂戴……」

 

カルマス

『はい……』

 

 

 第33話 2020/05/31

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

A2

「人類防衛軍の動きは?」

 

新艦長

「ゾルテトラを、巨神アプスーで次々に撃破している。

 周りを掃除するあの動きは……長距離ワープ機能を使うつもりだろう。

 天の川銀河付近へ、一気に跳ぶ気配がある」

 

A2

「追うのが不可能になる、ということですか?」

 

新艦長

「気を揉まずとも良い、ワープはすぐに出来んからな。

 発動には時間がかかるし、ゾルテトラを呼び寄せてしまう。

 ううむ……防衛大臣の宣誓、『ゾルテトラ殲滅、地球へ凱旋』は、大言壮語ではなさそうだ」

 

森長可

「ゾルテトラどもが殺されてんのは、カーマの野郎、ぎりぎり歯噛みしているだろうなぁ」

 

A2

「あなたもブリッジに来ていたのですね」

 

森長可

「おう! (いくさ)もねぇと退屈で死にそうでよ!」

 

ジナコ

「はーい、そしてお目付け役の私っスよー」

 

A2

「オペレーター補佐からその他の仕事まで、お疲れ様です。

 貴女の知識や技術に、艦に居る全員が助けられています」

 

ジナコ

「素直に褒めてくれるなぁ。

 そういうとこ、マスター君に似てるよね、調子狂っちゃいそうッス……」

 

新艦長

「えほん、うほん、こほん……あーあー」

 

A2

「何でしょう、ゴルドルフ」

 

新艦長

「君はこう考えているのではないのかな?

 『長距離ワープ機能を軍に使われたら、追いかけられなくなってしまう……』と」

 

A2

「さっきも言いましたが?」

 

新艦長

「えーっと、その、うん、そうなのだけどね」

 

A2

「……ああ、なるほど!

 わー、こまったなぁ、どうしよー。

 何か手立てはあるのですか?」

 

新艦長

「ふっふっふっ!

 秘密にしていたのが、もう隠せそうにもない!

 実はこの艦には、ムジークの家宝たる長距離ワープドライブが」

 

土方

「おう、新艦長」

 

新艦長

「突然どしたの土方君。

 トラブルなら、簡潔に報告したまえよ」

 

土方

「長距離ワープドライブ、壊れているが、どうする」

 

新艦長

「……あれぇ?」

 

 

 ──艦内、副機関部

 

 

ジナコ

「チェックしたけど、壊れています、完全に。

 丸ごと取り替えないとダメ。

 新艦長、家宝の件……お気の毒で……」

 

新艦長

「いやおかしいだろう! 

 一週間前に点検した時には、故障の兆しなど」

 

ジナコ

「んー、誰かによって壊されたんじゃない? 

 足を引っ張るためにさ」

 

新艦長

「誰か、か。

 私達の敵が、この艦に潜り込んでいると?」

 

ジナコ

「その可能性は低いかな、推測ターン入りまーす。

 新艦長の話が確かなら、この艦は軍によってメンテを受けていたんでしょ?

 その時から反乱を見越して、追っかけてこれないよう最低限の所だけ壊して、泳がせたんだ。

 

 気づけなかったのもしょうがない話。

 あのコロニーから逃げてきた後、機関部とか見る時間なかったもんね」

 

A2

「どうしましょう。

 このままでは、軍と私達の距離は数光年も離れてしまいます」

 

新艦長

「長距離ワープドライブの替えなら、一つ、当てがある。 

 宇宙をまたに駆けている人物が持っていると、昔聞いた。

 いわゆる闇商人だな」

 

 

 ──取引指定場所、デブリ地帯、商売船玄関

 

 

???

「よく来たな、人間。

 リッチでゴージャス、アナーキーな商売船、ギャラクシーお竜屋へ」

 

A2

「……リ? ゴ? ア?」

 

???

「ごめんねお客さん。

 久しぶりに表の匂いがする人との取引だから、お竜さんご機嫌で……」

 

土方

「おう、坂本」

 

???(以下、坂本)

「久しぶりだね、元気そうでなによりだよ、土方くん。

 前に会った時はたしか、沖田くんの情報を売買した時かな」

 

土方

「お前のおかげで見つけることが出来た、礼を言う」

 

坂本

「求めるものにたどり着けたのは、君自身の実力。

 僕への礼なんていらないさ。

 さて、取引相手もそろったようだし、改めて自己紹介をしようかな。

 

 僕の名前は坂本龍馬。

 見ての通り、非合法の物を取引している闇商人だ」

 

A2

「(なぜか片目を隠している、白スーツの男ですね……)」

 

A2

「表社会ではいくらお金を積んでも手に入らない情報、部品などを取り扱っている。 

 横にいるのは秘書の」

 

???

「敏腕」

 

坂本

「……敏腕秘書のお竜さんだ、長い付き合いのね」

 

A2

「長距離ワープドライブ、本当に売ってくれるのですか?」

 

坂本

「確認したら、ちょうど1個在庫があった。

 この種類のパーツは、どれほど残骸漁りしても手に入るものじゃない、君達は幸運だよ」

 

新艦長

「商品に対しては、私が支払いを受けもとう。

 いくらで売ってくれる?」

 

坂本

「これはね、値段が付けられるものじゃないんだ。

 君のワープドライブだって、家宝になっていたほどの代物だろう?」

 

新艦長

「ぐっ……確かに、貴重な物だと理解はしているが」

 

坂本

「同じくらい貴重な物を出してくれないと、取引したくないなぁ」

 

新艦長

「しかし、慌ててコロニーから逃げ出してきた手前、価値のあるものなど、何も……」

 

坂本

「1日待つ。

 僕も追われる立場だ、それ以上は時間を割けない」

 

新艦長

「分かった、御眼鏡に適う物を持って来ようではないか」

 

???(以下お竜さん)

「じー……」

 

さん

「そうだね、そこの……肉体を得たAI、とか、貴重なものじゃなかな?」

 

土方

「坂本ォ!!」

 

坂本

「……冗談だよ、土方くん。

 緊張を解す、アイスブレイクと言うやつさ」

 

???

「龍馬のおんちゃーん、お客さん来ちゅうが?」

 

坂本

「こら、以蔵さん、取引が終わるまで部屋で待っていてと……」

 

A2

「(幼い子ども……? 

 それにしても、独特の言葉使いを……)」

 

謎の子ども

「じゃけど……いっぱい待っちょったけんど……」

 

坂本

「じゃけどやないが! 以蔵さん!!」

 

謎の子ども

「……分かった。部屋で、待ちゆうきに」

 

坂本

「外はとても危ないんだ。

 ゾルテトラや軍、あらゆるものが襲い掛かってくる。

 部屋の中なら、何をしていても良いから。

 本を読んで、大人しく待っているんだよ」

 

お竜さん

「遊んでやろうか、イゾー」

 

坂本

「龍馬のおんちゃん、お仕事しゃんしゃん終わらせて、てごうてにゃあ」

 

坂本

「後でね。今は部屋へお帰り。

 ほんに、以蔵さんは昔から、わりことっ子じゃ……」

 

A2

「貴方の子、ですか?」

 

坂本

「……いや、大量に不法投棄されていた所を拾ったんだ。

 不憫、だったからね」

 

A2

「子どもが、不法投棄?」

 

坂本

「知らないのかい? 

 巨人に乗せるクローンパイロットの中で、時々産まれる不良品は、一昔前はデブリ地帯に捨てられていたのさ。

 

 まぁ……ある記者が軍を糾弾した結果、秘密裏に行っていたことは秘密裏のまま、軍は廃棄を止めることになったのだけど」

 

お竜さん

「リョーマはあのイゾーを結構可愛がっているぞ。

 その分、躾はビシバシだが」

 

坂本

「緊迫感が薄れるから、あまりこっちの事話さないでね」

 

お竜さん

「つーん」

 

坂本

「話を戻してっと。

 ゴルドルフくん、土方くん、A2くん。

 ワープドライブが欲しいなら、艦の中をひっくり返して、探しておいで。

 ……1000年以上生きている僕が、喉から手が出るほど欲しくなるような品物をね」

 

 

 ──ゴルドルフ艦、外部との接続橋

 

 

土方

「あれが坂本龍馬という闇商人だ。

 お前の目にはどう見えた」

 

A2

「一筋縄ではいかない人物だとは思いましたが……

 冷徹な男とも、腹黒とも思いませんでした。

 あのイゾーなる子どもの事、思いやっているようでしたし……」

 

土方

「ン、そうか、そう見たなら良い。

 艦内に戻って、坂本の気に入りそうな品でも探すか」

 

A2

「はい」

 

 

 ──医務室

 

 

キルケー

「貴重な物……か」

 

A2

「何か心当たりでも?」

 

キルケー

「1つあるが、これは人にあげられない。

 返すべき人がいる、大切な物だ」

 

A2

「追い詰めるようなことを言ってしまい、ごめんなさい」

 

キルケー

「そんな風に感じてはいないさ、気にしないでおくれ。

 しかし、医務室にあるのは、誰かの命を救うのに必要な物ばかりだ。

 どれが欠けても困る」

 

A2

「他の人を訪ねて見ますね」

 

キルケー

「気を付けて行っておいでー」

 

 

 ──食堂

 

 

A2

「ワープドライブと引き換えになるような、貴重な物を探しているのですが……」

 

ネームレス・レッド

「私が君の助けになれるだろうか。

 しがない料理人だぞ」

 

A2

「貴方が持っている見識は深い。

 万物を美味しく料理するその腕、知恵も素晴らしいものです。

 一芸に秀でた者の力は、他の物事にも通じるはず」

 

ネームレス・レッド

「期待が重いな……」

 

A2

「その赤い宝石のペンダントは?」

 

ネームレス・レッド

「私の宝物だ。

 ある人から贈られた……死んだとしても忘れることは無い、大切な、大切な想いの証。

 もっとも彼女は、私へ『贈った』とは思っていないかもしれないがね」

 

A2

「それほどまでに、心を寄せた人が貴方にも……」

 

ネームレス・レッド

「若い頃に離れ離れになり、それ以来、会えていない。

 彼女のことだ、銀河のどこであろうと元気にやっているとは思うが。

 これは地球産の宝石で作られた物だ。

 言われた通り、貴重な品……」

 

A2

「先ほどの話を聞いて、譲ってくれとは強請(ねだ)れません」

 

ネームレス・レッド

「見せるだけなど、意地の悪いことをしてしまったかな」

 

A2

「いえ、大丈夫です。もう少し探してみます」

 

ネームレス・レッド

「君達から聞いた話をもとに、私なりに坂本龍馬を考察してみたのだが。

 高価な物、貴重な物が、イコール彼の欲しがる物とは限らないのではないかな?」

 

A2

「つまり?」

 

ネームレス・レッド

「『想い』が込められた物を探してみたまえ、ということだ」

 

 

 ──数時間後、商売船玄関

 

 

坂本

「時間内に来てくれて助かるよ。

 君達3人が持ってきてくれた物を鑑定しようか。

 さぁ、見せておくれ」

 

新艦長

「私からだな……どうだ! 

 ぜぇ……はぁ……重かった……。

 見たまえ! どれも価千金の物だぞ!」

 

坂本

「油絵、洋酒、宝石に、勲章数種類。

 うん……これじゃ駄目だね、どれも手にしたことがある」

 

新艦長

「なっ……!」

 

坂本

「油絵は、真作ではなく模造品。

 洋酒は、ここ数十年で作られたコロニー製のもの。

 宝石は人工の物を、天然に見せかけるために着色、幾つかの石と貼り合わせてある。

 勲章は言わずもがなだ、売れない。

 裏の世界では人気の無い商品だ、鋳つぶせば別だけど……」

 

新艦長

「……」

 

A2

「(ゴルドルフ……立ったまま気絶しかけている……)」

 

新艦長

「で、では、何であれば満足するというのだ!」

 

坂本

「君の軍服の襟裏、何を付けているのかな」

 

お竜さん

「リョーマの目は千里眼だぞ、隠し事は出来ない」

 

坂本

「近くで見てみようか。

 手作りのバッジだね、ありふれた金属で作られている」

 

新艦長

「……今は亡き教育係が、幼い私へプレゼントしてくれた物だ。

 当時、町の子ども達の間で流行っていた物を模した……それだけ、それだけの物だ!」

 

坂本

「いいね、これなら価値がある」

 

新艦長

「えっ?」

 

坂本

「世界に1つしかない、ということだろう? 

 しかも、制作者は世を去った。

 再現性の無い、貴重な品だと言える」

 

新艦長

「トゥールの……彼女の想いが、これには……」

 

坂本

「これと同等に貴重な物を、あと2つ。

 用意できればワープドライブを売り渡そう、どうだい?」

 

新艦長

「……分かった、渡そう」

 

坂本

「次はなにかな」

 

土方

「お前のやり口は分かっている、好みもな。

 ……これだ」

 

坂本

「浅葱色の羽織、これも良い。

 顔料は地球産、染色方法もジャパンコロニーに連なる人々しか知らなかった。

 貴重な品だ、先程の物と釣り合うほどの価値がある。

 ……じゃあ、あと1つだ」

 

A2

「最後は私ですね。

 ……本を持ってきました、ある人からプレゼントされた」

 

坂本

「地球で造本された書籍、"ギルガメッシュ叙事詩"か。

 確かこの表紙の物は、ある一文が『学術』的でないと物議を呼び、発禁とされた筈。

 ……君はこれを読んで、どう感じた?」

 

坂本

「初めて読む本でした。

 ページを(めく)る度に嬉しいのに、登場人物が悲しめば、同じ気持ちになって……。

 けれど、A2は最後まで読んでいないのです」

 

坂本

「なぜだい?」

 

A2

「……一緒に、読みたい人がいたのです。

 でも、その人とは離れ離れになってしまって、その」

 

坂本

「君は物語の結末を、まだ知らないということか」

 

A2

「そう、です」

 

坂本

「……いい。

 これなら、ワープドライブと引き換えにしたって惜しくない。

 取引成立だ。

 商品を渡し、今日中に艦へ取り付けてあげよう。

 しかし、条件がある」

 

A2

「なんでしょう?」

 

坂本

「君が、その本を最後まで読み終えることだ。

 結末を知らないままにさせるのは、可哀想だからね」

 

 

 ──商売船玄関

 

 

A2

「(ギルガメッシュは旅に出た。

 『不死』になる方法を探す旅。

 山を登り、谷を渡り、川を泳いで……永遠と思えるほどの旅をして、不死となった人物と出会う……)」

 

謎の子ども

「龍馬のおんちゃーん、おんちゃーん! 

 どこ行ったがー?!」

 

A2

「あの子どもは、確かイゾーと呼ばれていた……」

 

謎の子ども

「あっ、お客さんが……?」

 

A2

「先ほども会いましたね。

 私はA2と言います、貴方の名前は知っていますよ。

 

謎の子ども

「ん? 会うちょったが?」

 

A2

「(独特の言葉使いなので、断言できませんが……困惑、している?)」

 

謎の子ども

「03! 

 部屋から出たらいけんちゅう、龍馬のおんちゃんが言うちょったやないか!」

 

A2

「(同じ顔の子どもが、もう1人?!)」

 

謎の子ども

「07、じゃけんど……」

 

A2

「えっと……これはどういう……」

 

お竜さん

「──クローンだ、リョーマが言っていただろう」

 

A2

「よろしければ、詳しい説明をくれませんか?」

 

お竜さん

「イゾーは沢山作られて、沢山捨てられていた。

 リョーマがたまたま拾ったのは、廃棄されたばかりの100体のイゾーだった」

 

A2

「100人も……子どもが……」

 

お竜さん

「病気で87体死んだ、生き残ったのは13体だけだ。

 みんな引き取って、字とか計算をリョーマは細々教えている。

 リョーマが死んでも生きていけるように、そのためだ」

 

A2

「……」

 

謎の子ども→イゾー03

「角付きのお客さん! 何読んじゅーの?」

 

A2

「えーっと、えーっと……彼はなんと言っているのでしょうか」

 

お竜さん

「お竜さんは口数少ないクールビューティーだ、長々と何か説明するのはキャラ性がぶれる。

 イゾー07、【あれ】取ってこーい」

 

謎の子ども→イゾー07

「うん!」

 

 

 ──数分後

 

 

イゾー07

「お兄ちゃんに使い方見せちゃる。

 ……龍馬のおんちゃん!」

 

あれ

【龍馬のおじさん】

 

イゾー07

「しゃんしゃん!」

 

あれ

【早く】

 

イゾー07

「てごうて!」

 

あれ

【構って】

 

イゾー07

「わりことっ子!」

 

あれ

【いたずらっ子】

 

イゾー07

「ん!」

 

A2

「翻訳機、ですか」

 

イゾー07

「えと、何読んじゅーの!」

 

あれ→翻訳機

【何を読んでいるのですか?】

 

A2

「神話について記された本です。

 ギルガメッシュ叙事詩と言うもので」

 

イゾー03

「面白そうぜよ!」

 

イゾー07

「わしにも見せて!」

 

A2

「ああ……廊下から玄関の隅から、13人もイゾーさんが集まってきて……。

 ううん、読み聞かせでも、しましょうか」

 

イゾー03

「やったー!」

 

 

 ──商売船玄関

 

 

A2

「そして、ギルガメッシュ王は人々に後の世を託し、地上を去りました。

 親友と同じように、死の眠りについた。

 自分が死ぬのを善しとしたのです。

 お話は、これでおしまい」

 

イゾー03

「悲しい話じゃ……」

 

イゾー10

「うん……」

 

坂本

「以蔵さん達、僕の言いつけを破って、何をしているのかな?」

 

イゾー07

「おんちゃん!」

 

お竜さん

「お帰り、リョーマ。

 仕事は終わったのか?」

 

坂本

「ただいま。

 ワープドライブの規格が同じだったからね、順調に終わったよ」

 

イゾー07

「おんちゃん……あの……にゃあ……」

 

坂本

「怒ったりはしないよ、以蔵さん07。

 君達の好奇心を見くびっていた僕の落ち度だ」

 

イゾー07

「わぁ!」

 

坂本

「……けれど、今日のおやつはちょっと減らそうかな」

 

イゾー07

「ええー!!」

 

お竜さん

「さぁイゾー達、部屋へ帰る時間だ。

 言うこと聞かないと、遅い順から食べちゃうぞー!」

 

イゾー03

「姉ちゃん怖いぜよー!」

 

イゾー10

「早う逃げー!」

 

イゾー07

「わー!」

 

坂本

「みんな帰ったね、これでよし。

 じゃあ、ちょっとお話ししようか、A2くん」

 

A2

「えっ? 私?」

 

坂本

「お竜さんに無理を言って、人払いしてもらったんだ。

 それもこれも、君と話をするために。

 君は……1000年前を生きた、あの巨神アルジュナの意思なのかい?」

 

A2

「いいえ、違います。

 私は巨神アルジュナの……融合治療機能から産まれた、マスターと混ざってしまった存在、なのです。

 貴方の知っている人から、変質していることでしょう。

 産まれる前の記憶が無いので、正しいことは言えないのですが……」

 

坂本

「君が僕になぜ反応しなかったのかという、その点は納得したよ。

 何故なら、君と僕は面識があったのだからね」

 

A2

「知人、だったのですか」

 

坂本

「僕はしがない旧式戦闘機乗り。

 君と『あの人』は突然現れてね、僕らを救ってくれた。

 軍属から見た君達は……眩しかったよ。

 あらゆる現実を打ち破る、夢の剣の持ち主のようにも思えた。

 救世主、そんな表現がぴったりの」

 

A2

「救世主……」

 

坂本

「巨神アルジュナは、軍に見捨てられた僕達小隊をゾルテトラから守ってくれた。

 その後、感謝の気持ちから物資の支援をしたのだけど……巨神のマスターと話をした時、僕は効いてしまったのさ」

 

A2

「何をです?」

 

坂本

「『乗り手のいない巨神が数体いる』と。

 僕はその言葉に食らい付いた、危険を承知で挑戦したいと。

 人類を救うという夢物語も背中を押して……お竜さんに出会ったんだ」

 

A2

「彼女も、巨神の意思だったのですね」

 

坂本

「そして、以蔵さんも僕に付いてきた。

 付いてきて、しまったんだ。

 僕と以蔵さんは軍を脱走し、特別製の巨神に選ばれてからは、背中合わせで戦った。

 けんど以蔵さんは、巨神を欲しがった軍に罠へ嵌められて、捕まって……」

 

A2

「……」

 

坂本

「わずかな肉片しか、僕の手元には帰ってこなかった。

 それからも僕は戦い続けた。

 人類を救えると『あの人』が言っていたから。

 夢物語だけを……(よすが)に……」

 

A2

「その後は、私も知ってはいますが……」

 

坂本

「ゾルテトラの母を殺すため、最後の戦いへ向かった『あの人』は、帰ってこなかった。

 世界は救われると言ったのに、いつまで経っても何も変わらなかった。

 それを知った時──裏切りだと、思ってしまったんだ」

 

A2

「(アプスーも口にしていた単語だ。

 裏切り……)」

 

坂本

「僕はね、この1000年間、『あの人』への恨みだけで生きてきだ。

 血反吐をこぼし、憎しみで奥歯をすり減らしながら。

 その途中で、以蔵さんのクローンという、幸運な出会いもあったけれど。

 

 こうなる前はね、もっと良い人間だったと思う、お人好しって言われるような。

 ゾルテトラとすら、分かりあえると信じていた。

 軍や人が立ちふさがろうとも、撃ちたくなかった。

 

 けれど、1000の月日が、僕の心を憎しみで塗りつぶした。

 

 ……ずっと隠している片目の正体、君に見せようか」

 

A2

「あ、そんな……!?」

 

坂本

「巨神化症を発症し、命を極限まですり減らした僕を、お竜さんは生かそうとしてくれた。

 君と『あの人』のように、融合、したんだよ。

 この竜の如き血走った片目は、その後遺症だ」

 

A2

「(アプスーと同じ激情を、彼から感じます。

 復讐は炎に例えられると言いますが、彼の生きざまは正に……)」

 

坂本

「もう僕は、坂本龍馬という肉にしがみ付いているだけの怨念、残り火さ。

 自覚はしている」

 

A2

「巨神アルジュナへ恨みを持つ貴方が、これ以上なにを言うのです」

 

坂本

「……再びこの世に現れた『あの人』を完璧に殺す、その方法だよ」

 

 

 ──1時間後、商船玄関

 

 

坂本

「取引は円滑に終わったね。

 僕はこの世に2つとない貴重な品を手に入れて、君達はワープドライブを手に入れた」

 

新艦長

「うむ……そうだな……」

 

A2

「(ゴルドルフ、見るからに落ち込んでいます。

 バッジを失ってしまったからでしょう。

 今は亡き教育係から贈られた、『想い』込められた物を……)」

 

土方

「取引、感謝する、坂本龍馬」

 

A2

「(土方は落ち着いているというか、悲しんでいないような……?)」

 

坂本

「素晴らしい本も手元に置くことが出来た。

 今回の取引、上々な結果かな」

 

A2

「(キアラから頂いた、初めての本が……。

 でも、マスターを救うため、我慢、我慢。

 手放してごめんなさい、キアラ、マスター……)

 

坂本

「君達、地球へ向かう前に、僕からある物を受け取ってくれないかい?」

 

新艦長

「もらおうか……んん?!」

 

坂本

「どうしたのかな、ゴルドルフくん」

 

新艦長

「バッジに羽織、A2の本ではないか!」

 

坂本

「良ければ持っていってくれないか? 

 もちろん、お代なんていらないよ」

 

新艦長

「……」

 

A2

「ゴルドルフ、ゴルドルフ? 

 ……立ったまま、気絶している」

 

土方

「これが坂本龍馬のやり方だ。

 客が欲しい物をちらつかせ、それに対し、どれだけ大切な物を渡せるか、そいつの人間性を見やがる」

 

坂本

「棘のある言い方をするんだね」

 

土方

「俺が10年前、沖田の情報を買うのに、どれだけやきもきさせられたと思っている」

 

坂本

「はははは……その件は本当にごめんよ」

 

 

 ──艦内、ブリッジ

 

ジナコ

「周辺にゾルテトラ反応、無し!

 跳躍先確認、ポイント、天の川銀河!」

 

A2

「(マスター、あなたに必ず追い付いて見せます。

 待っていてくださいね……)」

 

新艦長

「全搭乗員、着席確認……君も座るの」

 

A2

「あっ、ごめんなさい、ゴルドルフ」

 

新艦長

「シートベルトして……よし、跳躍シークエンスに移れ!」

 

A2

「(マスター以外のことを少し考えて、心を落ち着かせよう。

 キアラより贈られた本も戻ってきたことですし。

 

 読んだこと、お話の最後を思い返しましょう。

 

 蛇に霊薬を取られまいと、先んじてそれを飲み、不死となったギルガメッシュ王。

 その後、どこへ行ったのか……)」

 

 

 

新世紀ロボット番組、戦闘巨神アルジュナコラボイベント

            ↓

          亜種並行世界 

         人理定礎値:不要

A.D.5020年 《水没未来銀河 ティアマト》 

~終焉告げる蒼星(そうせい)

 

 

 第34話 2020/06/06

 

 

 ──夢を、見ていた。

 天の川銀河へ向かう、時の中で。

 

 

???

「きみ、ないているのかい?」

 

A2

「この声……知らない人のものだ。

 誰です? どなたですか?」

 

???

「ぼくは、ボイジャー。

 とおいむかし、にんげんがつくり、ほしのうみへ、たびだたせたもの。

 でんち(いのち)は、とうのむかしにうしなってしまったけれど。

 こころはここに、ちゃんとある。

 ときのなかで、きみのなみだをみたよ」

 

A2

「今は確か、天の川銀河へ向けた長距離ワープの最中で……。

 ああ確かに、私、泣いています」

 

???(以下ボイジャー)

「なみだのりゆうを、しっているかい?」

 

A2

「理由……この、前も後ろも分からない時の奔流の中で、涙を流す理由は……」

 

ボイジャー

「きみとぼく、にているきがする」

 

A2

「貴方と……私が?」

 

ボイジャー

「きみは、とおい"あおのほし"へかえる。

 ぼくは、まだまだとおくへ……はてにいく。

 

 ぼくはね、えがおでたびをしようって、きめているんだ。

 りゆうもちゃんと、おぼえているよ。

 

 あのほしに、ぼくのともだちがいて、ぼくを、みつづけてくれている。

 だから、そのひとがきぼうをわすれないよう、えがおで、たびをつづけているの」

 

A2

「地球は、ゾルテトラによって滅ぼされているはず。

 貴方を観測する人類なんて……」

 

ボイジャー

「まだ、いるんだ。いちばんふるい、おうさまが。

 はじめて、ものがたられた、えいゆう。

 すべてを、みたひと」

 

A2

「一番古い、王?」

 

ボイジャー

「ぼくは、たびをする。

 でんち(いのち)もとまって、からだも、ばらばらに、なったけど。

 こころだけは、ずっと、ずっと。

 そして、だれかがゆめみたように、いつか、そらのはてに、たどりつくんだ」

 

A2

「果てへの旅路……」

 

ボイジャー

「なみだのりゆう、わからない?」

 

A2

「分かりそうなのに、分からない。

 こんな時、誰かと、いえ、マスターと言葉を交わせたのなら……。

 きっと楽になって、涙の理由も、すぐに分かるのに」

 

ボイジャー

「おびえないで、だいじょうぶ。

 きいてごらん、きみのこころに」

 

A2

「こころ……」

 

ボイジャー

「ばらのこえに、みみ、かたむけるように。

 じぶんのこころ、こえを、きいてみるんだ。

 

 でも、いいなりになってしまっては、あぶないよ。

 こころは、とてもつよいものだから……」

 

A2

「温かい言葉、ありがとう。

 ──ボイジャー、とおい昔の、人類の夢よ」

 

ボイジャー

「ぼく、いかなくちゃ。

 まだまだとおくへ、うんと、とおくへ。

 おうさまだってしらないけしきを、はじめてみるために、さ。

 『ちゃんと、あったよ』って、ほほえむために」

 

A2

「私も行かなくては。

 マスターを取り戻し、人類の始まりの星、いつか誰かが見た景色を、初めて見るために」

 

ボイジャー

「それなら、ぼくときみは、ここですれちがわなきゃ、いけないね。

 スイングバイ、だ。

 きみのいんりょくで、とおくまでいける」

 

A2

「さようなら、ボイジャー」

 

ボイジャー

「さようなら、A2。

 きみが、きみのともだちと、あえますように。

 

 ……ひょっとして、おうさまに、さいごに、おくられるべきことばは……きみが……いう……の……かしら……?」

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「ワープ成功! 

 全員、着席したまま、私の点呼を待つように!

 ブリッジは確認完了。

 時空漂流者無し! 他のブロックは……」

 

A2

「私、気絶、いや、不思議な夢を見ていたような……」

 

新艦長

「大事無いか?

 体調に不安があるなら、すぐに報告するのだぞ」

 

A2

「長距離ワープ中に夢を見たのですが、これは」

 

新艦長

「ワープ中の夢? まれにある事例だな。

 時空の中に漂う、過去現在の様々な電波が、それに関係しているのでは……と、レポートで読んだ覚えがある。

 身近なものであれば、テレビやラジオ電波、通信など」

 

A2

「通信……」

 

新艦長

「人類がかつて飛ばした、ボイジャー1号機2号機、パイオニア号といった、宇宙探査機からの通信を聞いたという話もある。

 が、『時空酔いによる幻聴』だと、あのレポートでは片づけられていたな」

 

A2

「ブリッジから見える宇宙(そら)が、天の川銀河。

 人類の故郷」

 

新艦長

「軍学校の授業で知ってはいたが、まさか実物を見ることになるとは……。

 これが『水没銀河』、か」

 

A2

「水没銀河?」

 

新艦長

「ここからでも展望ガラス越しに外が見えているな。

 ほら、何か浮かんでいるだろう」

 

A2

「小惑星などのデブリの合間に、ゾル状の不定形なものが」

 

新艦長

「ゾルテトラの遺体だ。

 寿命か、それとも別の要因で死を迎えたのかは不明だが、多量の水分を含んでいるというのに、宇宙空間でも氷結や蒸発せず、遺体は漂い続けている。

 これらは地球から広がり、この銀河を隅々まで浸した。

 故に、我らはこの宇宙(そら)を『水没銀河』とも呼んだのだ」 

 

A2

「艦長、自室へ戻っても大丈夫でしょうか。

 軍やゾルテトラと接触する前に、少しでも気持ちを落ち着けたくて」

 

新艦長

「うむ、休んでくると良い」

 

A2

「直ぐに出撃できるよう、準備はしておきますので」

 

新艦長

「ではまた後で。

 ……あれ? 今、私のことを艦長と呼んでくれた? 

 くれたよね?!」

 

ジナコ

「呼んでもらえて良かったッスねー。

 ゴルドルフ……艦長」

 

新艦長

「ジナコ……君!」

 

ジナコ

「うわぁぁ! 

 艦長が喜びで体を震わせているせいで、椅子、椅子が揺れて……今周辺の探査中なのにぃ!」

 

 

 ──マスター自室

 

 

A2

「(ボイジャーが言っていた。

 『ばらのこえに、みみ、かたむけるように。

 じぶんのこころ、こえを、きいてみるんだ』と。

 

 私はA2となる前のことを、断片的にしか覚えていないと思っていた。

 夢で垣間見たそれは……大切な者を亡くす、喪失ばかりを教えてきて。

 自分の心が、得体の知れないもののようで、怖かった。

 だから見ない振りをした。

 涙も悲しみも、マスターを想うことで、誤魔化そうとしていた。

 

 決戦に向かう前の今こそ、心に立ち向かい、涙と恐怖の理由を知るべきなんだ。

 自らの心に耳をかたむけ……『涙の理由』を、探そう。

 

 A1(エーワン)

 私の前身にあたる存在、その記憶が眠る奥深くまで、心を探ろう。

 マスターを救うための方法だって、見つかるかもしれない。

 

 ──私はもう、私の心を恐れない、過去を恐れない!

 自分にあったこと、その全てを知り、受け止めてみせる!

 だから!!)」

 

???

「おじゃましまーす。

 あら、A2さん、ベッドに横たわって……瞑想、しているんですね。

 あどけない寝顔、油断丸出しでーす。

 くすくす、くすくすくす……」

 

 

 ──取引指定場所、デブリ地帯、商売船玄関

 

 

???

「ワープドライブを渡しなさい、殺されたくなければ」

 

坂本

「はじめましてだね、カーマ。

 いや、マーラと呼んだ方が君は嬉しいのかな?」

 

???→マーラ:オリジン

「ドライブを隠し持っているのは調べ済み。

 拒めば、このちっぽけな商売船を、ゾルテトラに喰わせる」

 

坂本

「ずいぶんと焦っている様子だ。

 そんなに、あのアプスーに煮え湯を飲まされているのかい?」

 

マーラ:オリジン

「ほざくな、たかが巨神パイロットが……!」

 

坂本

「君だって、たかが巨神パイロットだろう?」

 

マーラ:オリジン

「見せてあげるわ。

 私が母に産み直されたことで手に入れた力。

 ほら、私の指先から……」

 

カーマ

「ふ……うふふふふ……」

 

カーマ

「あは……ははは……」

 

マーラ:オリジン

「私の意のままにも、個々の自由意志でも動く、肉人形が無数に。

 これらへ命じれば、貴方をばらばらとする事だって、瞬きのうちに出来てしまうのですよ?」

 

お竜さん

「コイツ、性根がヌメヌメだ。

 海藻臭いぞ」

 

坂本

「分かったよ。

 ワープドライブを渡そうじゃないか」

 

マーラ:オリジン

「……1つだけ?」

 

坂本

「残りは先客があってね」

 

マーラ:オリジン

「ワープドライブは1度しか使えない。

 片道キップだと知っているでしょうに」

 

坂本

「知っている。だから1つしか渡さないんだ。

 さて、代金を」

 

マーラ:オリジン

「払うと思った?」

 

坂本

「僕は商人、この仕事をもう何百年もやっている。

 代金がいただけないのは、公平な取引を心がけている僕のプライドが傷つくな」

 

お竜さん

「久しぶりにやるか、もずく酢退治だ」

 

マーラ:オリジン

「はぁ……良いですよ、お支払いします。

 何を渡せば満足するの?」

 

坂本

「欲しがった理由を教えておくれよ。

 だってゾルテトラは、こんな物に頼らなくても長距離ワープ出来るってのに」

 

マーラ:オリジン

「ワープ以外に、目的があるから。

 ゾルテトラは自由に転移できる、眷属と化した私達も。

 けれど、母なるティアマト神はそうではない」

 

坂本

「へぇ、親孝行か」

 

マーラ:オリジン

「母なる神は、地球に縫い止められている。

 忌々しい『ある者』の手によって。

 その者をワープで放逐するのが、私の狙い」

 

坂本

「倒せないなら、追い出してしまえと」

 

マーラ:オリジン

「鎖さえ解いてしまえば、ティアマト神は自由となる。

 ゾルテトラが浸潤している銀河へ足を進め、ヘリオポーズすら踏破しましょう。

 そして母と共にオールトの雲を越え、外宇宙へ逃げた人類に喰らいつく!

 

 なんて……なんて愉快! 

 結局人間は、母から逃れられませんでしたとさ!

 うふ、あは、ははははは!!」

 

坂本

「人類が勝つか、ゾルテトラが勝つか。

 ……僕はどうでもいいかな。

 アプスー、『あの人』の生死以外、興味を引かれるものは無い」

 

マーラ:オリジン

「じゃあこうしましょう。

 ワープドライブのお礼に上乗せして、アプスーの死も贈りましょう。

 私が勝つと信じてくださる? 坂本龍馬」

 

坂本

「オッズは五分五分。

 希望と絶望は半分半分さ、いつだってね。

 確証も無いのに何かを一途に信じられるほど、人は強くはあれない」

 

マーラ:オリジン

「私は、私と仲間達、ゾルテトラの力を信じている。

 人類を滅ぼす。

 そのためにアプスーを叩き潰し、母を縛った『ある者』を追放する。

 ……ゾルテトラだけが世界に満ちれば、きっと、もう一度会えるはずなんだ」

 

坂本

「誰にだい?」

 

マーラ:オリジン

「私、いや、()の姉さんに……!」

 

 

 ──A.D.5020年 地球

 

 

???

『A──Aaaa──!!!!』

 

???

「おお、来たか!」

 

???

『A──アプ──ス──!!!!」

 

???

「と、(おれ)を期待させておいて、全陣営まだ火星の手前ではないかー!」

 

???

『──!!』

 

???

「させん! 天の鎖よ!

 ……まぁ良い。

 ヴィマーナには劣るが、あの船ならば時をそう待たずして来るだろう。

 父なるアプスーの到来が先か、我が見た、終わりを告げる蒼星が先か。

 民も国もなく、唯一の花も去った、(から)の星で」

 

???(以下ティアマト)

『A──aaa──!!!!』

 

???

「この冥界王ギルガメッシュが! 人の3000年に渡る旅の結末を!

 ……我が双眸にて、見届けようではないか」

 

 

 ──???

 

 

A2

「ここが……A2の心の深淵、そして」

 

???

『おはよう、今日も任務だね』

 

???

「はい、朝食の後、9時には出発です、マスター」

 

A2

「私、いや、A1の記憶の断片、ですか」

 

 

 第35話 2020/06/11

 

 

 ──A1の記憶の中

 

 

A1

「問おう、あなたが私の操縦者(マスター)か?」

 

???→アルジュナのマスター

『そうだよ、巨神のAI。

 いや、意志と言った方が正しいかな』

 

A1

「……? 問おう、あなたが私の操縦者(マスター)か?」

 

アルジュナのマスター

『うん。

 自分が君のマスター、君の乗り手だ』

 

A1

「手を……出して。

 遺伝子登録を行い、私と契約してください。

 ──神と人が、手を取り合うこと。

 それこそが、戦闘代行巨神『アルジュナ』の真の力を呼び起こす条件なのです」

 

アルジュナのマスター

『これからよろしく』

 

A1

「よろ……しく?」

 

アルジュナのマスター

『色々迷惑をかけるけど、愛想を尽かさないで欲しい……っていう意味かな』

 

A1

「愛想? 迷惑?」

 

アルジュナのマスター

『教えること、沢山あるなぁ……』

 

A2(壁の影から覗いている姿)

「今見えたものが、私の前身、A1の記憶の断片。

 彼は私と違い、角や尻尾は有りません。

 されど同じように、マスターと出会ったのですね」

 

 

 ──巨神整備ドック(A1の記憶の中)

 

 

A1

「あなた、何を持ってきたのですか」

 

アルジュナのマスター

『立体的戦闘技法の本と、絵本の読み聞かせ音声かな』

 

A1

「えほん、よみきかせ」

 

アルジュナのマスター

『簡単なものから始めた方が良いかなと思って。

 ほら、聞いてみて』

 

A1

「……」

 

アルジュナのマスター

『真剣な顔……自分も頑張ろうっと……』

 

 

 ──数時間後

 

 

A1

「マスター、音声、終わりました。

 次のものをください」

 

アルジュナのマスター

『えーっと、宇宙における三次元戦闘で、最も大切な、大切な……うーん』

 

A1

「マスター、あなたも、簡単なものから始めた方が良いのでは?」

 

アルジュナのマスター

『君の言うとおりかもしれないね……』

 

 

 ──母艦内、仮想戦闘訓練場(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『今日も訓練お疲れ様。

 成績、一番良かったみたい、君のおかげだよ』

 

A1

「お疲れ様です、マスター。

 では、メンテナンス時間を活用し、読書を行います」

 

アルジュナのマスター

『勉強熱心だね。

 難しい本もスラスラ読んでしまうし。

 この前貸した巌窟王、もう読み終わったんでしょ?』

 

A1

「本を好むようになったのは、あなたが読書のきっかけをくれたから」

 

アルジュナ

『きっかけ? 絵本の読み聞かせのことかな』

 

A1

「あの出来事がなければ、私はただ与えられた情報を精査、分析、分類する事のみをしていたでしょう。

 けれどマスターは、『自らの目で見て、自ら学ぶ』という選択肢を教えた。

 

 もっと知りたい、学びたいと、今は強く思うようになりました」

 

アルジュナのマスター

『そっか。良かった』

 

A1

「良い、とは?」

 

アルジュナ

『本を読んでいる君の姿、楽しそうだから。

 楽しめることが見つかって、良かったなって』

 

A1

「楽しい、ですか。

 そうか……これが楽しいと言う感情……」

 

アルジュナ

『戦術や巨神の機構以外の本も、今度持ってくるよ。

 一緒に読もう』

 

A1

「はい、マスター。楽しいです」

 

アルジュナのマスター

『楽しみってこと?』

 

A1

「発言を訂正します。

 新しい本、楽しみ、です」

 

A2(部屋の中を覗いている姿)

「そして、彼はマスターと親愛を深めていった。

 私と同じ、いえ、それ以上に」

 

 

 ──宇宙空間(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『周辺空域のゾルテトラ、殲滅完了。

 実戦はやっぱり怖いなぁ』

 

A1

「怖い?」

 

アルジュナのマスター

『仲間がやられる事を考えても怖いし、討ち漏らして、民間人が襲われるのも怖い。

 自分が死ぬ可能性だって、ある』

 

A1

「会話情報から判断。

 マスターは、死が怖ろしいのですね」

 

アルジュナのマスター

『うん。だって、死は永遠だからね』

 

A1

「永遠」

 

アルジュナのマスター

『死んだ人には、二度と会えない。

 それに……死んだら、何かを想うことも出来ないんだ』

 

A1

「思考出来ないことが、怖いのですか?」

 

アルジュナのマスター

『この感情が失われるのが怖いのかも。

 臆病なマスターでごめん、幻滅した?』

 

A1

「いえ。

 死を怖れるという思考、私には無いものです。

 あなたを幻滅するということ、決してありません」

 

アルジュナのマスター

『……母艦に帰ろうか』

 

A1

「巨神アルジュナ、損傷は軽微。

 マスターと共に、これより帰還します」

 

 

 ──母艦内、自室(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『この世界は、死がありふれている』

 

A1

「マスター、夜遅くまで何を見ているのです」

 

アルジュナのマスター

『ニュースだよ。

 ゾルテトラがコロニーを襲って、10万人が補食されたんだって。

 

 一人一人、掛け替えのない存在だっていうのに、紙面に載れば、ただの数字になってしまう。

 

 もう嫌なんだ、こんな世界。

 全て、終わらせる事が出来たなら……』

 

A1

「顔色が悪い、休みましょう」

 

アルジュナのマスター

『巨神化症が進行しているせいもあるかもね。

 君の言うとおり、眠って休むよ』

 

A1

「……」

 

アルジュナのマスター

『すーすー……』

 

A1

「あどけない寝顔だ。

 私、この人を失いたくない。

 けれど、世界は敵だらけで、運命は余りにも残酷……」

 

A2(側に立つ姿)

「彼のマスターは、A2のマスターとそっくりです。

 でも、その内側は悲しみに満ちていて」

 

???

「くすくす」

 

A2

「今、少女の笑い声がしたような。

 空耳でしょうか」

 

 

 ──宇宙空間、ジャパンコロニー跡地(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『良いのかい? 

 君は軍属だというのに、独断行動をとって……』

 

オデュッセウス:オリジン

「気にするな。

 俺がお前へ力を貸すことで、ゾルテトラ打倒の道が開けるのなら。

 少しぐらいのやんちゃ、上は目を瞑ってくれるさ」

 

アルジュナのマスター

『やんちゃ……か』

 

A1

「居住区の大きな残骸がありました、探索しますか?」

 

アルジュナのマスター

『宇宙服を着ているし、オデュッセウスと2人で行ってくるね』

 

A1

「気をつけて。

 帰還後のおやつに、チョコレートを用意しておきます」

 

オデュッセウス:オリジン

「お前のAIは感情表現が豊かだな、好ましい」

 

アルジュナのマスター

『これは自分のパートナー、粉をかけないでほしいな。

 それに、君は大切な人が故郷で待っているんでしょ?』

 

オデュッセウス:オリジン

「そういう意味で好ましいと言った訳ではない。

 ええっと……自意識過剰め」

 

A1

「全くあなたときたら、ふふふ」

 

アルジュナのマスター

『笑ったなー!』

 

A1

「ええ。

 だってマスター、時々おかしくなるから、くすくす」

 

アルジュナのマスター

『そう言われると、自分も笑いたくなって……あはは……!』

 

 

 ──母艦内、食堂エリア(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『この方法で機体を強化すれば、ゾルテトラの(みなもと)、ティアマトを倒せる! 

 世界を救える!

 大切な人が奪われるこの現実を、変えることが出来るんだ!』

 

眼帯の女性

「貴重な巨神を、理論が不安定なものに使うわけには……」

 

伊達な男

「そうだそうだ! 

 第一、戦力を自ら減らすなんて、馬鹿のやることだぜ?」

 

長髪の男性

「もう少し情報を開示してほしい」

 

アルジュナのマスター

『ジャパンコロニーの残骸、データを見せるよ。

 そこから自分が考えた、巨神アプスー計画の全ても』

 

眼帯の女性

「確かに原理は分かる、けど……」

 

アルジュナのマスター

『全員に賛同してもらおうとは思わない。

 計画に参加したい人がいれば、後で部屋に来てほしい。

 

 最後に、自分の気持ちを言わせてもらう。

 これが、追いつめられた人類を救う唯一の術だと、信じている』

 

 

 ──母艦内、自室(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『ごほっ……ごほっ……』

 

A1

「マスター、巨神化症を抑える薬です。

 吸入薬ですのでこのままどうぞ。

 それと、あなたの好きな本を数冊。

 巌窟王もありますよ」

 

アルジュナのマスター

『……ありがとう』

 

A1

「礼など必要ありません。

 私とあなたは同等、パートナーなのですから」

 

アルジュナのマスター

『計画賛同者、誰か来てくれるかな』

 

A1

「……、……、……。

 アプスー計画、それを行えば、あなたという個は、失われてしまう。

 そして私も」

 

アルジュナのマスター

『強力な巨神は、乗り手を(むしば)むだろう。

 上手くいっても行かなくても……死んだ方がマシ、ってくらいの状態にはなるかも』

 

A1

「私は、あなたに、これ以上傷ついてほしくは無い」

 

アルジュナのマスター

『自分が犠牲になることで世界が救われるなら、安いもの。

 ……期待を裏切りたくないんだ。

 「こんなにも犠牲を払ったのだから、世界は救われるはず」っていう、みんなの期待を』

 

眼帯の女性

「えっと、ノックしましたが、入っても良いでしょうか?」

 

アルジュナのマスター

『どうぞ……やった! 

 こんなにも協力してくれるマスターが!』

 

A1

「……」

 

A2

「彼とマスターの心が、すれ違っているように見えます。

 そして時は流れ、場面は変わり……」

 

 

 ──天の川銀河(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『何兆というゾルテトラが、向かってきているのが見える。

 決着をつけよう、全てに。

 ここが、自分達の終わりだ』

 

A1

「その運命を否定します。

 マスター、撤退し、軍や他のパイロット達と手を取り合うべきです」

 

アルジュナのマスター

『なにもかも遅いんだ。

 言葉は尽くしても届かず、人類はもう……もたない……。

 外敵のみならず、仲間割れも始まっている……。

 このままじゃ、みんなが死んで……』

 

A1

「だからといって! 

 本当に、この方法しかないのですか?! 

 別の選択肢は……!」

 

アルジュナのマスター

『A1、初めて会った時、君は言っていたね。

 ──神と人が、手を取り合うこと。

 それこそが、戦闘代行巨神アルジュナの真の力を呼び起こす条件……なのだと』

 

A1

「マス、ター」

 

アルジュナのマスター

『手を取り合い、巨神となって敵を滅ぼそう。

 アルジュナでも、自分でも無い存在になり果てて、ティアマトを切り裂き、地球へ帰ろうよ。

 誰も住んだことのない、故郷へ。

 

 神様はきっと、この復讐を許してくださる。

 だって──二人で、その復讐の神になるんだもの』

 

A1

「……嫌だ。

 A1は、自分を失いたくない! 

 そしてマスターも、マスターのままでいてほしい! 

 だから!!」

 

アルジュナのマスター

『そう、なってしまうんだね。

 こんなにも長く一緒にいた、君とでも。

 ……、……、……。

 じゃあ無理やりにでも、自分は神となる! 

 それだけが世界を、人を! 救う方法だと信じているから!』

 

A1

「その運命を否定する! 

 フェイトエンジン、悲劇の運命で動く輪転よ! 

 定めに抗い! 逆の回転を刻め!

 私とマスターに別の運命を、機会を……!」

 

アルジュナのマスター

『拒むのか!』

 

A1

「拒みます! あなたのために!!」

 

アルジュナのマスター

『融合が、中途半端に止まる!

 機体が、体が裂けて……ああ、爆発、する……!』

 

 

 ──天の川銀河、全ての終わり(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『そう、だ。

 同じになってしまったら、もう、一緒の本を読むことも、笑いあうことも、出来ない……。

 だから、アル……ジュナ、これで、良かったのかも……』

 

A1

「マスター! マスター! 

 ああ、そんな、私は、あなたと、共にいたかっただけなのに」

 

アルジュナのマスター

『世界、救い、たかった。

 みんな、笑顔で、ゾルテトラに怯えない、未来……』

 

A1

「きっと、別の方法があるはず。

 世界を救う、方法が」

 

アルジュナのマスター

『もう一度……チャンス、あるか、どうか……』

 

A1

「いや、私は諦めない。

 例え千の時が過ぎ去ろうと……もう一度、あなたと……!」

 

アルジュナのマスター 

『もう一度、君と……』

 

A1

「世界を救えたのなら──」

 

アルジュナのマスター

『世界を救えたのなら──』

 

 

 ──コロニー残骸(A1の記憶の中)

 

 

A1

「ワープドライブで跳んで来ましたが……。

 機体、7割喪失。

 融合を否定したことで、私も崩れかけている。

 マスターは」

 

アルジュナのマスター→遺体

『……』

 

A1

「涙を流したままで、脈も無い。

 絶命、している……」

 

遺体

『……』

 

A1

「あ、あ……あああ!! 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!

 でも私、あなたに、世界を救うための犠牲に、なってほしくなかった……!

 復讐の神へ至る運命なんて、否定したかった!

 

 だって、だって、マスターは! 

 ……誰かの期待に応えるために、死のうとしていたから!」

 

遺体

『……』

 

A1

「死は、永遠。

 もう二度と、あなたと、喜びも悲しみも分かち合う事はない。

 全部A1のせいだ……私が、あなたを殺した……」

 

遺体

『……』

 

A1

「なのにマスターは、最後に私を許そうとしてくれた。

 どうしてあなたは、そこまで、誰かのために頑張ってしまったのですか……?」

 

遺体

『……(涙がひと(しずく)こぼれる)』

 

A1

「私は諦めない。

 例え千の時が過ぎ去ろうと……もう一度、あなたと……」

 

遺体

『……(泣き顔のまま死んでいる)』

 

A1

「いや、もう止めよう、あなたを自由にしよう。

 

 ──世界中の期待から、あなたを隠してしまおう。

 

 マスターが、もう二度と、戦わなくてもいいように。

 マスターが、誰かの復讐を、肩代わりしないように。

 

 あなたが、自分自身を大切に出来るように、する。

 

 融合治癒機能は……良かった、損傷を免れている。

 これで機体を修復出来る、けれど」

 

遺体

『……』

 

A1

「マスターはもう死んでいる。

 生まれ変わるための魂が足りない。

 であれば、私のものを、あなたに。

 肉体面に関しては、結構どうとでもなります。

 ええい! と、やってしまいましょう。

 

 ……これは全て、私の自己満足。

 でも、良いんだ。

 私はマスターに、自由をあげようと思ったから。

 

 さようなら、マスター。

 さようなら、この世界に産まれてきた私。

 

 生まれ変わったら、何もかも忘れて、二度と会いませんように。

 会ったらきっと……あなたは、私のために、誰かのために、もう一度頑張ってしまうから」

 

 

 ──A1の記憶の中→A2の心の中

 

 

A2

「そういう事だったのか……。

 A1は自分の全てをなげうって、マスターを止めようと、生かそうとしたんだ」

 

???

「こんなことになるだなんて、驚きです」

 

A2

「あなたは、A1」

 

???→A1

「これが転生の真実。

 A2、いいえ、マスター。

 機体と融合し、生まれ変わったマスター。

 ……A1の愛の萌芽、その凝集」

 

A2

「私は、あの人の生まれ変わりだったのですね。

 巨神アルジュナのマスターの」

 

A1

「現代において、ゾルテトラ接近により目覚めたあなたは、私の記憶の名残で、乗り手を求めた。

 あの遺体、魂無き、空の肉体をマスターとした。

 肉体はなぜか動き出し、手を取り合い、戦いを始めたのです。

 あなたのマスターは、生ける屍のようなものだったのに」

 

A2

「その言い方、マスターのことをゾンビと言われているようで、少しムカムカします」

 

A1

「あなたがマスターと呼ぶ人物は、最後には世界から失われる存在。

 だってもう、死んでいるから。

 ……それでも、助けに行くのですか?」

 

A2

「──ああ、もちろん。

 自分に命をくれた、生きる喜びをくれた人だから。

 

 誰かに期待されているからじゃない。

 自分の心が『したい』って、叫んでいる。

 

 私、いや、自分は行くよ。

 

 ずっと支えてくれたマスターと、1000年前に死んだあのマスターを救いに」

 

A1

「アプスーを動かしているのは、死者の亡念。

 残酷なまでの誰かの期待と、それを裏切られたことによる絶望が凝固したもの。

 何も生み出さず、世界を傷つける存在。

 最後には自分の力に溺れて死ぬ、そんな恩復に満ちた存在。

 殺戮の悪魔と化した者に、救いなど、あるはずもなく」

 

A2

「……ちょっと、違うんじゃないかな」

 

A1

「?! その表情の作り方は……!」

 

A2

「アプスーが誰かを助けた事も、事実なんだ」

 

A1

「マスター! 犠牲が多すぎます! 

 生まれた幸福と、まき散らされた不幸が釣り合っていない!」

 

A2

「やり方は間違っていたかもしれない。

 けど、一番最初の気持ちは、きっと尊いものだった。

 それまで否定したくない、踏みにじりたく無いよ」

 

A1

「……」

 

A2

「それにね、アプスーだって『自分』なんだ。

 悲しくて、力不足にがっかりして、絶望したあの時の自分……。

 1000年前、置き去りにし、逃げてしまったから、迎えに行ってあげないと」

 

A1

「……憎しみと痛みは去り、優しさと慈しみが、転生後に残ったのですね。

 マスター、いいえ、違う。

 果ての君よ、見知らぬ彼方よ。

 あなたが本懐を遂げられるよう、祈っています。

 永遠に、ずっと」

 

A2

「さようなら、A1。

 ずっと見守ってくれていたんだね、ありがとう。

 ……行ってきます」

 

A1

「行ってらっしゃい、気をつけて。

 かつて、私のマスターだった人。

 そして、新しい命を歩んでいく人……」

 

 

 ──A1の記憶の中→マスター自室

 

 

A2

「悲しい夢は、もう見ない。

 その理由を知ったから。

 運命を悲観することもない。

 抗う力を思い出したから。

 

 アプスーの元へ行こう。

 そして、マスターを助けに……?!」

 

???

「お早いお目覚めでしたね。

 もう少し寝ていたのなら、角や尻尾までお手入れ出来たのに」

 

A2

「君、アビゲイルやラヴィニアと一緒にいた、カーマ……ちゃん?

 どうしてここに? 

 コロニーで保護されたはずじゃあ……」

 

???→カーマ

「倉庫の端っこで息を潜め、食べ物をこっそり盗むこと数日。

 この時が来るのを待っていました」

 

A2

「な……体が拘束されて、動かない……。

 これ……ゾルテトラ、か」

 

カーマ

「待つのは私、得意なんです。

 見た目よりずぅっと、我慢強いんですよ?」

 

A2

「何のために、こんな……」

 

カーマ

「決まっているじゃないですか、えへへ……。

 ──分裂体にすぎない私が、マーラを越え、本体になる。

 そのため、です!」




土佐弁変換の際、力をお借りしたサイトです。
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