アルジュナ(オルタ)SSまとめ   作:いざかひと

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※2024 4/13 読みやすく、改稿しました。


『戦闘巨神アルジュナ』コラボイベント風SS 第36話~第42話

  第36話 2020/07/19

 

 

 ──艦内、マスター自室

 

 

A2

「全身がゾルテトラで拘束され、動けない。

 なぜ……こんなことを……。

 それに、どうして君が艦内に……」

 

カーマ

「はぁ……何回説明させるんです?

 私は貴方達の敵、マーラ、その分裂体。

 だからゾルテトラを操れる」

 

A2

「君が、敵?」

 

カーマ

「ただの子どもと思っていたんですか? 

 ほんと、馬鹿な人。

 抵抗は無意味ですよ、助けを呼ぶなんて、しようとすれば」

 

A2

「うっ……かはっ!」

 

カーマ

「首、潰しちゃいますからね」

 

A2

「ふぅっ……ぐっ……」

 

カーマ

「今は、拘束しているゾルテトラを通じて、貴方を少しずつ食べている最中。

 ああ、とてつもない力が流れ込んでくる!

 どろどろで甘くて、どうしようもないエネルギー……。

 チョコレートみたい、こんなの初めて……」

 

A2

「うう……」

 

カーマ

「くすっ、貴方ってすごく愚か。

 脆弱な肉の体を得たせいで、物理的に殺されるという()()を生んでしまったのですもの。

 巨神の精神体のままだったら、苦しい目に遭うことも無かったでしょうに」

 

A2

「そ……れは、ちが……う……」

 

カーマ

「……」

 

A2

「ごほっ、こほっ。

 首の拘束だけ解かれた、なぜ……」

 

カーマ

「貴方を食べ終わる前に、恨み言の一つや二つ、聞いてあげようと思いまして。

 私の名である"カーマ"って、愛を司る神の名だったそうですし?

 愛の神の気まぐれですよー、ほらほら。

 泣き叫んだら? 懇願したら? 私を憎んだら?

 何か言いなさい! ねぇ!」

 

A2

「……ごめん」

 

カーマ

「は?」

 

A2

「君が苦しんでいること、気がついてあげられなくて、ごめん」

 

カーマ

「訳が分かりません。

 苦し紛れに出てきた言葉がそれ?

 私を哀れむと?!」

 

A2

「そんなんじゃない。

 君と私、出会ってから数ヶ月間、同じ時間を過ごしていた。

 なのに、苦しんでいることを見抜けなかった。

 それが辛かった、情けなかったんだ。

 

 ……ラヴィニアやアビーと遊ぶ君は、大人びていたけど、楽しそうだった。

 甘いお菓子を食べていた時も、艦内を探検していた時も。

 ちょっとはにかんで、嬉しそうで」

 

カーマ

「ぽわぽわと生きていたお前に、何が分かる! 

 何を知る!

 私が生み出されたのは、お前達の艦に潜り込み、現在地を本体たるマーラに知らせるため! 

 ただのビーコン!

 いつ死ぬのか定められていた私の、深遠なる恐怖がお前に分かるものか!」

 

A2

「君の気持ちは分からない。

 けど、死への恐怖なら、分かる」

 

カーマ

「私のような、持たざる者の気持ちなんて、あなたには分からない!

 理解者面しないで!」

 

A2

「ぎっ……首が……あぐっ……」

 

カーマ

「本体からの命令ひとつで、体は腐り落ちる!

 役目を終えれば、吸収されて死ぬ!

 そんな、そんな使い捨ての道具!

 自分の存在は不確で、感情を覚えれば覚えるほど、死に対する恐怖は、増すばかりで……」

 

A2

「わ、たし、は……」

 

カーマ

「だから私は、永遠の存在になろうと考えた! 

 本体の都合で生み出される物ではなく、強大で、確固たる存在……『マーラ』に!

 その足がかりとして、貴方を取り込み、巨神アルジュナオルタナティブを乗っ取る」

 

A2

「ふぅ……うう……」

 

カーマ

「首の締め付け、弱めてあげますね。

 最後に遺言、いかがです?」

 

A2

「……もうやめよう、君がそんなことをする必要はないんだ。

 みんなに、相談してみよう。

 この艦には沢山の人が乗っていて、みんな、色んな分野のスペシャリストなんだ。

 解決策は必ず見つかる、だって君は」

 

カーマ

「……」

 

A2

「子ども、なんだから。

 子どもが苦しんだり悩んでいる時は、大人に、相談するべきなんだ」

 

カーマ

「……はーい、死んでくださいねー」

 

A2

「う、ぁ」

 

カーマ

「意識は奪った、吸収を始めないと。

 ……これは危険な賭け。

 自我を保てるかどうかは不明。

 ただ分かっていることは、この悪足掻きをしなければ、私は遠からず死ぬということ。

 

 マーラとて馬鹿じゃない。

 制御から離れた分裂体は、溶けて死ぬように細工してある。

 

 ……本人は物扱いを嫌っていたのに、いざ上の立場になると、平気な顔で使い潰すなんて。

 『自分だけは例外』、とでも思っているのか。

 いいえ、違うか。

 『大嫌いな自分』だからこそ、使い潰せてしまうのでしょうね」

 

A2

「……」

 

カーマ

「もう聞こえていないでしょうけど、私、貴方が羨ましかったんです。

 マスターや他の人から守ってもらえて、子どもであることを許されていた、貴方が。

 弱みや涙を他者に見せることが出来る、貴方のことが。

 でも、そんな憧れも今日でおしまい。

 ……さようなら」

 

A2(ゾルテトラに包まれている)

「……」

 

カーマ

「くっ、なんて膨大なエネルギー。

 これが、巨神と人の間に立つ者が秘めた、運命から(きた)る力だとでも言うの?

 けど、耐えてみせる。

 これを乗り越えれば、私は、確固たる存在に……!

 誰にも、自分の生死の権利を侵させない。

 そんな、そんな存在に──!」

 

 

 ──マスター自室→???

 

 

アビー

「あなたの番よ!」

 

カーマ

「……えっ?」

 

ラヴィニア

「す、すごろくの、順番よ。

 私も、アビーも、(さい)を振ったから、次は……あなた」

 

カーマ

「じゃあ……はーい、ころころー」

 

アビー

「いけないわ! 6の目が出るように振るなんて!」

 

ラヴィニア

「ふ……振りなおしてちょうだい、卑怯よ」

 

カーマ

「勝つための方法を使って、何が悪いんですー?」

 

ラヴィニア

「わ、悪いことばかり、していると、誰にも遊んでもらえなくなって、ひとりぼっちに……なってしまう、わよ」

 

 

カーマ

「(突然、世界が切り替わるなんて。

 まさか私の走馬灯?

 けど、何か違和感が……)」

 

 

 ──???→カーマの走馬灯?

 

 

カーマ

「(子どものフリをして、邪気の無いように演技をして。

 実に、実にくだらない日々でした)」

 

 

アビー

「お散歩に付き合ってくれてありがとう。

 友達がたくさんだと、やっぱり楽しさも増えるものね!」

 

カーマ

「別に……暇だっただけですし……」

 

ネームレス・レッド

「おーい、君達」

 

ラヴィニア

「あっ、シェフ、よ。

 こっちに、来る……」

 

ネームレス・レッド

「ちょうど良いところに。

 実は、パンケーキの試食をしてくれる人間を探していてね。

 良ければ……」

 

アビー

「わぁ! とっても素敵なお誘いね! 

 行きましょう、二人とも!」

 

 

 ──カーマの走馬灯?(食堂)

 

 

カーマ

「……美味しい」

 

ネームレス・レッド

「気に入って貰えるとは幸いだ。

 好きなだけ食べると良い、ほら」

 

カーマ

「なんですかぁ? 

 私をぷくぷくに肥え、太らせようとでも?」

 

ネームレス・レッド

「そんな意志は無いさ。

 ただ、君の顔を見ると、優しくしたくなって。

 昔、生き別れになった友人に似ていてね」

 

カーマ

「……ふーん。

 じゃあ優しくしてくださいよ。

 クリームとベリー、もっと乗せてください」

 

ネームレス・レッド

「ああ、もちろんだとも」

 

アビー

「私とラヴィニアにも、おかわりくださいな」

 

ネームレス・レッド

「少々お待ちを、お嬢さん方。

 追加のものを、こんがりと焼き上げているところだ」

 

 

 ──カーマの走馬灯?(娯楽室)

 

 

カーマ

「(また場面が変わった……今度はなに?)」

 

 

きょしんさん

「はらはら、はらはら」

 

アビー

「もう少し、テレビから離れて見た方が……」

 

きょしんさん

「むっ、すまない。

 スペース極道ドラマが佳境で……うむむ」

 

カーマ

「それ、一日に三回も流しているんですよ?

 クライマックスも三度目ですよ?

 飽きませんか?」

 

きょしんさん

「良いものはな、何度見ても感動できる、飽きないものだ。

 ゆえに私は、今日も再々々放送を視聴する」

 

カーマ

「はぁ……シンプル馬鹿……」

 

きょしんさん

「主人公の決め台詞が特に良いな。

 『過去は色んな事を教えてくれもするが、それに囚われてはいけないんだ』、か。

 今度誰かに言ってやろう。

 土方か、それとも」

 

カーマ

「……過去」

 

きょしんさん

「この台詞も良い。

 『やる前なら、どんな事だって考え直せる、やり直せる』。

 きょしんさんの心メモにメモだ」

 

 

 ──カーマの走馬灯?→カーマの精神世界

 

 

???

「過去に、囚われてはいけない。

 だって私達は、『今』を生きているんだから」

 

カーマ

「誰?!」

 

???→A2

「……」

 

カーマ

「さっきまでの映像、貴方が見せていたのね。

 融合しつつあるが故の力業で、私の記憶を漁って、感傷的な場面を並べ立てたと。

 それで? 何がしたかったの?」

 

A2

「まだ、引き返せる。

 だって君は、まだ何もしていないんだから」

 

カーマ

「は? ストレート馬鹿?」

 

A2

「今までを振り返って見たけど、そうなんだ。

 君の本体のやったことは別に置く。

 君は、カーマちゃんは、まだ何もしていない。

 アビー、ラヴィニア、きょしんさん。

 彼女達の大切な友達、ただ、それだけなんだ」

 

カーマ

「本当に馬鹿な人ですね! 

 私はゾルテトラ! 人類の天敵にして捕食者!

 確固たる悪で」

 

A2

「悪ではない。

 だって、君は悪いこと一つもしていない。

 君が、A2やマスター、艦の人に危害を加えたことなんて、あっただろうか?」

 

カーマ

「あるじゃないですか! 

 オデュッセウスA012の大怪我、森長可の襲撃!

 なにより、今の現状がそう!

 それから、それから……」

 

A2

「彼の怪我は治った。

 マーラをきっかけとして、ジナコと出会うことも出来た」

 

カーマ

「さっき言ったこと、もう忘れたの?! 

 私は位置情報を送るためのビーコン! 

 存在自体が、悪い、悪い存在なんです! 

 だからっ」

 

A2

「そう産まれたからといって、無理に『悪者』になる必要は……無い」

 

カーマ

「なっ……?!」

 

A2

「少し自分の話をします。

 私は、巨神のマスターの生まれ変わりとなるはずでした。

 前の続きとして……ティアマトを倒す運命を背負う、はずだった。

 でも、違った。

 私の前身であるA1は、私が何者でもなく産まれるよう、取りはからってくれたのです。

 

 だから、A2は生き方を選ぶことが出来た。

 

 A1や私のマスターが、見て、守ってくれたから……」

 

カーマ

「見て、守る……」

 

A2

「遅くなってしまったけど、私は、カーマちゃんを守りたい。

 カーマちゃんが抱いている『自らを嫌い、悪になろうとしている』、その気持ちからも。

 ほら、あれを見てください」

 

カーマ

「アビーとラヴィニア、それに私の、記憶の映像……」

 

 

 ──カーマの精神世界→カーマの走馬灯?

 

 

カーマ

「何しているんです? 

 二人で抱き合って」

 

ラヴィニア

「アビーがね、怖い、夢を見たそうなの。

 だからこうして、抱きしめているの……よ」

 

アビー

「私が、とても悪い子になってしまう夢だったの。

 怖くって……」

 

カーマ

「ふーん。

 悪い子になることの何が怖いんです? 

 どうせ、悪いことする存在なんて、そう生まれついたからそうなるんです。

 だから」

 

アビー

「誰だって、突然に悪い人になることはあるものよ。

 だから、怖いの」

 

カーマ

「……ふーん」

 

アビー

「だからこうして、大切な人に触れて、忘れないようにしているの。

 大切な人を傷つける前に、この暖かさを思い出して、立ち止まれるように」

 

カーマ

「そう、ですか。

 私は別にいらな」

 

アビー

「こっちに来て、ハグしてあげる。

 あなたが──悪い子になってしまいそうな時、友達の暖かさが思い出せるように……」

 

 

 ──カーマの走馬灯?→カーマの精神世界

 

 

カーマ

「こんなものを見せて、私が思い直すとでも?

 くだらない、くだらない、くだらない……!」

 

A2

「ではなぜ、あなたは泣いているのですか?」

 

カーマ

「そんなはずは……うそ……」

 

A2

「あなたが悪い子になってしまったら、悲しむ友達がいるのです。

 だから」

 

カーマ

「……私」

 

 

 ──カーマの精神世界→艦内、マスター自室

 

 

A2

「ゾルテトラによる拘束が解かれた、これは」

 

カーマ

「貴方に(ほだ)された訳じゃありませんから」

 

A2

「カーマちゃん……」

 

カーマ

「私は、私の思い出に負けたのです。

 短い、けれど暖かな人生によって、"悪く"なれなくなってしまった。

 あーあ、このままだと、何者にもなれず死んじゃいまーす」

 

A2

「そのこと、なんだけど……」

 

 

 ──艦内、ブリッジ

 

 

新艦長

「つまり、カーマはゾルテトラたるマーラの分裂体で、私達の位置情報を流す、スパイだったということ?」

 

A2

「完璧で迅速なご理解、助かります」

 

新艦長

「……いやおかしいと思っていたのだよ! 

 三ヶ月の旅の途中、次から次へとゾルテトラは来るし」

 

カーマ

「はいそうでーす、情報流してましたー」

 

新艦長

「おお……おおおお!!」

 

A2

「ですが彼女は、私達に協力してくれるみたいです」

 

新艦長

「……どゆこと?」

 

A2

「マーラ含むゾルテトラの位置を、貴方達に教えてあげる。

 平たく言えば、探知レーダー強化イベントです。 

 こんな芸当、森長可には出来ないでしょうし」

 

新艦長

「魅力的な提案だ。

 地球に向かう最中に、敵と交戦するのはなるべく避けたいからな」

 

カーマ

「……あの、艦長さん。

 私のこと、怒っていないんですか? 

 憎んでいないんですか?」

 

新艦長

「怒ってもいるし、憎んでもいる。

 ……だが、それはゾルテトラ全体に対しての私の感情だ。

 君個人には、怒りや憎しみを抱いてはいない。

 恩もあるからな」

 

カーマ

「は? 恩?」

 

新艦長

「君含む子ども達が、笑顔で元気で、健やかでいてくれたこと。

 大人達は精神的にかなり救われた。

 それが恩だと言っておるのだよ、私は。

 子を守るために軍へ入り、この艦で働いているという者もいるからな」

 

カーマ

「……ふーん、そうですか」

 

新艦長

「この重要な局面において、新たな仲間が出来た!

 戦いの見通しは未だつかないが、今はこのことを嬉しく思う」

 

カーマ

「調子のいい人ですね」

 

A2

「再度、作戦会議を行った方がいいのでは。

 カーマちゃんの体のこともそうですし、敵の進路や行動、地球へ向かうための航路を定めるためにも」

 

新艦長

「私もそう考えていたところだ。

 メンバーを集め、決戦前の会議としよう」

 

 

 第37話 2020/07/23

 

 

 ──艦内、会議室

 

オデュA012

「これより、『マスター奪還作戦』の会議を行う。

 進行役は俺が務めよう」

 

A2

「よろしくお願いします」

 

オデュA012

「参加者が揃っているかの確認をする。

 艦長、ドクターキルケー、土方、きょしんさん。

 ジナコ=カリギリ、森長可、カーマちゃん。

 そして……A2。

 全員着席しているな。

 始めよう、まずは位置関係の確認だ」

 

きょしんさん

「どきり、どきん」

 

オデュA012

「この映像を見てくれ。

 カーマちゃん、ジナコの協力により、ゾルテトラの位置まで詳細に明らかとなった。

 空域の立体展開図だ。

 デブリなどは簡略、敵味方は色の違う光点で表示してある」

 

A2

「これは……」

 

オデュA012

「最も後方に位置しているのが、我々の艦。

 中間地点に帯状に広がっているのが、マーラ率いるゾルテトラ群。

 地球に最も近い位置にあるのが、人類防衛軍の艦隊。

 そして、地球を覆っているのが、ティアマトが生み出したゾルテトラの大群だ」

 

A2

「人類防衛軍は、挟み撃ちの形になっていると」

 

カーマ

「マーラはワープで先回りしたのでしょう。

 それほどまでに、アプスーを脅威と考えている」

 

A2

「どちらが勝つと見ますか?」

 

カーマ

「マーラとアプスー、両機体ともにフェイトエンジンを搭載している。

 どちらの運命が勝つかなんて、戦わせてみないとなんとも。

 

 まぁ……機体に魂を預け、命を削れば、どんな相手でも殺せる芽があるから、巨神は恐ろしい兵器なのですけど」

 

A2

「マーラは焦っているのでしょうか。

 だからゾルテトラを集め、群れとした」

 

カーマ

「アプスーの力を見て、マーラは自信をなくした……と言ってもいいでしょう。

 A2さんの質問には答えましたので、進行役さん、お話を本流に戻してください」

 

オデュA012

「ここで、我が艦の目的を今一度振り返ろう。

 『A2のマスター』を取り戻すこと。

 それが、我ら一丸となっている理由だ。

 マスターの体を奪った者、アプスーはティアマト討伐のため、地球へ向かっている。

 

 我らはゾルテトラ、人類防衛軍、その両方と戦いになる可能性がある。

 一番始めに接触するのは、マーラ含むゾルテトラの軍勢になるはず。

 倒さねば、アプスー率いる軍には近づけない。

 どのように突破するか……」

 

カーマ

「それに関しては考えが。

 皆さんに分かるよう、説明をしますね

 

 マーラを倒せば、指示を受けていたゾルテトラの動きは止まる。

 一瞬ですが、私の介入する余地が生まれる。

 なので討伐後、指示系統にすかさず侵入、乗っとります。

 上手く行けば、ゾルテトラに邪魔されることなく、軍を追いかけられる」

 

A2

「あなたはそれでいいのですか?」

 

カーマ

「元々、自分が死なない方法を見つけるため、この艦に密航したんです。

 ゾルテトラの指示系統への介入は、私の目的に叶う」

 

A2

「時が来たら、任せます」

 

森長可

「じゃあ、オレがマーラをブチ殺すわ」

 

カーマ

「きゃあ、同族殺し。こわーい」

 

森長可

「A2はマスターを救わなきゃなんねぇ。

 オデュッセウスA012ときょしんさんには、艦の護衛っつう役割がある。

 なら、浮いた戦力であるオレが出るしかねぇだろ。

 向こうの手の内も知ってるしな」

 

ジナコ

「戦闘の補助と見張り役は私が。

 コイツが土壇場で裏切る可能性も、0じゃないっスから。

 

森長可

「オレは大殿と暴れたいだけだぜ?」

 

ジナコ

「敵に寝返るような動きを見せたら、殺す」

 

A2

「……ぴりぴりしていますが、対マーラはお二人に任せましょう」

 

オデュA012

「次は人類防衛軍。

 相手は人間、俺としても戦いたくない相手だ。

 

 ドクターキルケーが、エレナより預かったデータから、防衛大臣へ直接繋がる回線の情報を得てくれた。

 まずはそれを用いて対話し、戦闘回避の可能性を探りたい」

 

A2

「戦闘になった場合、出る者は?」

 

土方

「俺と、沖田総司オルタナティブだ」

 

きょしんさん

「待て、それはおかしな話だぞ。

 きょしんさんにはマスターがいない。

 AIである私だけでは、巨神は動かせない。

 いったい誰が乗る──」

 

土方

「言っただろ、俺だ。

 俺が、お前のマスターになってやる」

 

きょしんさん

「なっ……! 

 前言っていたことと、まるっきり違うぞ!?

 どうしてしまったんだ!」

 

土方

「俺も人間だ、考えが変わることくらいある」

 

きょしんさん

「誤魔化そうとするな! 

 巨神のマスターになること……それは……それは!」

 

土方

「俺の考えは後で話す。

 今は抑えちゃくれねぇか」

 

きょしんさん

「う……わ、分かった」

 

土方

「俺とコイツの問題だ。

 気にせず会議を続けてくれ」

 

オデュA012

「……ああ、了解した。

 軍と戦闘になってもならなくても、俺達は地球へたどり着く。

 アプスーもティアマト討伐のため、地球へ降り立っていることだろう。

 有重力下での戦闘が想定される、心配はないか」

 

A2

「ジナコお手製のシミュレーションで訓練しました。

 無経験より、ましな動きが出来るかと。

 

 私は一人で出撃し、アプスーと戦闘を行う。

 そして、近距離で融合治療機能を発動。

 マスターを、敵巨神の内部から取り戻す」

 

オデュA012

「戦闘中の間、我らがゴルドルフ艦は地球近辺で待機」

 

カーマ

「前にお伝えした通り、側にはティアマト直轄のゾルテトラがいるかと。

 手強いやつ、ですよ」

 

オデュA012

「襲ってくるのであれば、掃討する。

 事態が落ち着き、通信が入り次第、A2とマスターを迎えに行こう」

 

A2

「迎えをくださるのはありがたいです。

 回収したマスターには、迅速な治療が必要だ」

 

キルケー

「医務室で私が控えているから、安心して帰っておいで」

 

A2

「はい! 二人で帰ってきます!」

 

オデュA012

「では、会議するべきことは全て終わったな!」

 

A2

「ゴルドルフ艦長……」

 

新艦長

「うむ」

 

A2

「会議中、ずいぶん静かでしたね」

 

新艦長

「私のやるべきことは、どの作戦でも変わらないからな。

 『艦長として、作戦の全責任をとり、乗組員の安全を守る』。

 いつも通り、いつも通りさ。

 私の出来ることをやるだけだ」

 

A2

「艦長、お言葉、とても格好いいですよ!」

 

新艦長

「(……軍学校の教本に書いてあったとは、言いづらい雰囲気に!)」

 

ネームレス・レッド

「会議中、失礼する。

 皆、食事の支度が出来たぞ」

 

A2

「食事?」

 

新艦長

「士気高揚のため、作戦前夜である今日はパーティーを行うことにした!

 全員、鬱々とした会議室を飛び出し、ブリッジへ集合!

 これは艦長命令である!」

 

A2

「イエス! マイキャプテン!」

 

新艦長

「その返事はマスターの真似だね? 

 ふっ、すっかり人間くさく育ちおって……」

 

 

 第38話 2020/07/28

 

 

 ──艦内ブリッジ(にぎやかパーティー仕様)

 

 

A2

「だし巻き卵、おむすび、サラダ、ハンバーグ。

 中華料理もありますね。

 さすが謎多き謎の料理人ネームレス・レッド、どれも絶品。

 たくさん食べて、思い出としておきましょう。

 写真も撮って、これでよし。

 スタッフ達も、和気藹々と食事をしていて。

 ……、……、……。

 彼らは、自分が戦いに巻き込んでしまった人達だ。

 自分の存在と感情で起きた、この争いに。

 それを忘れず、絶対に守り抜かなくては。

 

 ふむ、何名かの姿が見えませんね。

 別の場所で食べているのか。

 それとも、決戦を前に、大切な人と居るのだろうか……」

 

 

 ──艦内、展望廊下

 

 

カーマ

「ゾルテトラの未来は」

 

森長可

「だとするとマーラの野郎も」

 

ジナコ

「二人で、何を話しているの」

 

カーマ

「あら、ぷにぷにジナコさん」

 

森長可

「おう、ぷんすかジナコ」

 

ジナコ

「……まさか」

 

カーマ

「ジナコさんって、敏感と言いますか、過剰反応と言いますか。

 自分が裏切った側だから、気になっちゃうんです?」

 

森長可

「煽んなって。

 ジナコのヤツ、ぶち切れるとおっかねぇんだからよ。

 ……カーマとなに話してたか、気になんのか」

 

ジナコ

「当たり前でしょ! 

 だって、あなたとカーマは」

 

ゾルテトラ

『?』

 

ゾルテトラ

『!』

 

森長可

「斥候が帰ってきたな。

 おう、よーしよーし」

 

ジナコ

「あなたとカーマは、人ではなく、ゾルテトラなのだし」

 

森長可

「俺とカーマが組んで、この艦に乗ってる奴らバリボリ喰っちまう……とでも、考えたのか?」

 

ジナコ

「出来るでしょ、やろうと思えばさ」

 

森長可

「出来るぜ。

 オレもゾルテトラになったからなぁ!」

 

ジナコ

「……あのさ、人間辞めるの、怖くなかったの?」

 

森長可

「おう、何も」

 

ジナコ

「私は、死ぬのも怖いくせに、生きるのも怖くて。

 全部、中途半端。

 それで、こんな所まで逃げて来ちゃった」

 

カーマ

「自分は生まれつきのゾルテトラ。

 なので、人間辞めるとか辞めないとかのお悩みは分かりませーん」

 

ジナコ

「ごめんね、カーマちゃん。

 戦いを前に変な話を聞かせちゃって。

 ……私、一緒に逃げてきたみんなが、目の前でティアマトに食われるのを見た。

 皆がゾルテトラになったのを知って……逃げた。

 

 怖かったから。

 

 でも、森長可は違った、変わることを受け入れた。

 最後の戦いの前に、逃げなかった理由を聞きたい」

 

森長可

「理由、ねぇ。

 そういや、言ってなかったな。

 

 オレはずっと、大殿を探してたんだ。

 ガキのころ、離れ離れになった大殿のことを。

 ゾルテトラになった信勝に自分を喰わせた、大殿のことを。

 ……馬鹿だよなオレ! 

 少し考えりゃあ、大殿は死んじまったんだって分かる」

 

ジナコ

「……」

 

森長可

「けど、違った。

 オレは、巨神へ改造された大殿を見つけた。

 いや、『見つけてもらえた』って方が正しいか。

 大殿は何か考えがあって、ゾルテトラに自分を喰わせた。

 そして、巨神となり戻ってきてくれた。

 

 ……すげぇ嬉しかったよ。

 でも大殿は、オレに何も言わなくなっちまった。

 ここ十数年、ずーっとだんまりだ。

 だからオレは」

 

ジナコ

「ゾルテトラに喰われれば、その大殿……さんと、もう一度話せるって考えたの?」

 

森長可

「おう!」

 

ジナコ

「大切な人なんだね、大殿さんは」

 

森長可

「と言うよりは、な。

 ゾルテトラから逃げたくなかったんだわ、オレ。

 昔、大殿も信勝も置いて、逃げちまったからさ」

 

ジナコ

「……ねぇ、ゾルテトラになるってどんな感じ?」

 

森長可

「んー、説明が面倒いな、なった方が早ぇんじゃねぇの?」

 

ジナコ

「嫌です、お断りっス」

 

カーマ

「えー? そこそこ楽しいですよ、ゾルテトラって」

 

ジナコ

「苦労してなっても、そこそこしか楽しくないの?!

 ……はぁ、悩んでいた自分が馬鹿みたい。

 勇気出して話して、すごくすっきりした。

 これで心置きなく、最後の戦いに集中できる。

 

 死ぬのも生きるのも、戦うのも嫌で逃げてきた、中途半端な私。

 けど、『居て良いよ』って言ってもらえる場所、見つけたんだ。

 皆を守りたい一心で、戦うだけっス!」

 

カーマ

「じゃあ私、『目指せ! 本体乗っ取り』の一心で頑張ります」

 

森長可

「じゃあオレは、『目指せ! ハイスコア!』の一心で殺しまくるか!」

 

ジナコ

「本番よろしく……大丈夫かなぁ」

 

 

 ──艦内医務室

 

 

キルケー

「オデュッセウス、私は……」

 

オデュA012

「呼んだか?」

 

キルケー

「ぴゃっ!  

 なななな何できみが、こんなところに!」

 

オデュA012

「パーティー会場で姿が見えなかったからな。

 医務室にいるだろうと、当たりを付けてやってきた。

 どうした?

 食欲がないのか? 体調が悪いのか?」

 

キルケー

「ううん、そんなんじゃないさ。

 昔の思い出に浸っていただけ」

 

オデュA012

「そのロケットペンダント、お前は昔から大切にしていたな。

 時々手のひらに乗せ、じっと見ていたことも知っている」

 

キルケー

「大切な人から預かった、大切なものだからね。

 ……オデュッセウスA012、聞きたいことがある。

 作戦会議の時、きみは『ある敵』の存在について言及しなかった。

 あえてのことだろう?」

 

オデュA012

「『ある敵』。

 戦場で出会った俺のオリジナル、1000年前のオデュッセウスのことだな」

 

キルケー

「どうして言わなかったんだい」

 

オデュA012

「ゾルテトラと融合した巨神の能力は……未知数。

 それに、彼の所在が掴めていない。

 未知の情報を加え、いらぬ心配事は増やしたくなかった」

 

キルケー

「……嘘だな」

 

オデュA012

「……ああ、嘘だよ、俺の育て親。

 戦うという可能性すら、考えたくなかったからだ。

 もし彼が出てくるのであれば、俺達の勝利の可能性は、限りなく低くなるだろう」

 

キルケー

「全戦力を投入しても、勝てないと考えたのだね、きみは」

 

オデュA012

「口を閉ざした理由には、マスターエレナから話されたことも関係している。

 俺は聞いた、『俺のオリジナルを救う術は、あるか』と。

 彼女は答えてくれたよ、『それは不可能だ』と」

 

キルケー

「っ!」

 

オデュA012

「ゾルテトラに喰われ、融合状態となってから、あまりにも時間が経ちすぎた。

 そう、彼女は言っていた」

 

キルケー

「あ……ああ、オデュッセウス……!」

 

キルケー

「もし、もしもだ。

 俺のオリジナルが戦場に現れた時は……俺が彼と戦い、彼を殺そう。

 それが、彼のクローンとして生まれた者の責任だと考えた。

 救うことは出来なくとも、終わらせることは出来る」

 

キルケー

「……きみと出会った時のこと、今でも鮮やかに思い出せるよ。

 成長不良で運び込まれてきた、小さな男の子。

 それがきみ、面倒を見たのが私」

 

オデュA012

「突然どうした。

 最後の戦いを前にして、思い出話か?」

 

キルケー

「ふふっ、そうだよ。

 年寄りだから、昔の話をしたくなるのさ。

 きみには困らされたな。

 治療中に脱走もされたし、大怪我で運び込まれたことだって、数え切れないね……」

 

オデュA012

「ははっ、そうだな。

 苦労、迷惑をかけてばかりで。

 されど、俺がどれほどやんちゃをしても、キルケーは見放さなかった」

 

キルケー

「当たり前だろう! 

 目を離したら、死んでしまいそうだったから。

 私、きみのこと結構好きなんだぞ。

 ……最後にこのペンダントの秘密、話しておこう。    

 前置きは長くなったけど、それが本題さ」

 

オデュA012

「ペンダントについて、俺は何も知らないな」

 

キルケー

「耳、貸しておくれ」

 

オデュA012

「うん?

 ……、……、……。

 そうか、そういうことか!」

 

キルケー

「きみ、さっき言っていたね。

 『救うことは出来なくとも、終わらせることは出来るだろう』。

 その終わりを、ただの終わりとしないために、私も力を貸す。

 

 きみが拒んだとしても、無理矢理に付いていくからな!

 それがきっと、私が生きてきた理由なんだ!」

 

オデュA012

「分かった。

 戦場において、俺の背中を預けよう!」

 

キルケー

「任された! 

 なんていったって大メカニックだからね! ふふん! 

 空を舞う鷹のようにきみを守ってやるとも!」

 

オデュA012

「うん? お前……泣いているのか?」

 

キルケー

「あう、こ、これは嬉し涙! 

 きみと共に戦える喜びから、あふれ出したものだよ!

 きっと、きっとそうさ!」

 

オデュA012

「そうか……そうか!」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

土方

「探したぞ、こんな所にいやがったのか」

 

きょしんさん

「巨神沖田総司オルタナティブの近くにいると、安心するんだ」

 

土方

「お前、何も食っていなかったろ。少し持ってきてやった。

 出汁巻き卵、好きだったよな」

 

きょしんさん

「食べる。

 『食べない』とでも言おうものなら、子どものワガママだからな。

 きょしんさんは大人なんだ、大人……。

 あむ、もぐ、出汁巻き卵、温かくて美味しいな。

 土方も何か食べたか?」

 

土方

「少しもらった。

 俺のことは気にすんな」

 

きょしんさん

「……」

 

土方

「……」

 

きょしんさん

「……私は怒っている」

 

土方

「だろうな」

 

きょしんさん

「前に言っていたじゃないか! 

 『巨人や巨神のパイロットになったとしても、沖田と同じ景色は見れない』って! 

 だから、『俺は俺の見える景色の中で、出来ることをする』って!

 

 その心が今も変わっていないのだとしたら、会議のあの発言はなんだ?!

 

 土方が私のマスターになる? 

 巨神に乗って共に戦う?

 

 それは、人間として死に、機体に喰われ、お前が死ぬことに繋がる!

 どうして、そんな……そんな……ことを……言えるんだ……!」

 

土方

「手ぬぐいだ、少し涙を拭け」

 

きょしんさん

「うう……ううう……」

 

土方

「俺は学がねぇ男だ。

 だから、己の名である『土方歳三』の意味や歴史について、知りもしなかった」

 

きょしんさん

「ずび……ずびび……」

 

土方

「鼻までかんでいいとは言ってねぇ。

 ちり紙やるから布返せ」

 

 

 ──きょしんさんが落ち着いてから、数分後

 

 

土方

「その男、『土方歳三』は最後まで諦めなかったそうだ。 

 死んじまうその瞬間までな」

 

きょしんさん

「地球の歴史の中に生きた、土方か」

 

土方

「まぁあれだ、俺も諦めたくないってことだ。

 数日前、オデュッセウスA012やA2が、『戦力がどうしても足りない』って話しているのを聞いちまった。

 だから志願した、『俺があいつのマスターになる』と。

 少しでも勝ちの可能性が高くなるなら、良いだろうと」

 

きょしんさん

「……」

 

土方

「二人とも、案を出した瞬間に怒り出してな。

 説得は骨が折れた」

 

きょしんさん

「……」

 

土方

「沖田に、仲間達。

 俺は、今までずっと置いて行かれる側だった。

 だがな、勘違いするんじゃねぇぞ。

 俺は追いつきたいから、お前のマスターに志願したんじゃない」

 

きょしんさん

「では、どうして……」

 

土方

「お前を守るため。

 巨神を守ってやれるのは、マスターしかいねぇからな。

 A2とあいつのマスターを見て、強く思うようになった」

 

きょしんさん

「(なんだ、この感情は……。

 胸がとっても、どきり、どきん)」

 

土方

「きょしんさん、いや、OSA2。

 俺はお前を守りたい。

 そのために、最前線へと志願した。

 俺をマスターだと、共に戦う同士だと、認めてくれねぇか?」

 

きょしんさん

「……しょうがないなぁ、土方は。

 いいぞ、お前をきょしんさんのマスターだと認めよう。

 そして、お互いの背を預け合い、戦い抜こう。

 この最終決戦を勝ち、共に人生を生きていこう」

 

土方

「OSA2」

 

きょしんさん

「なんだ? 握手、か?」

 

土方

「お前、握手好きだろう?」

 

きょしんさん

「うん、大好きだ!

 ああ……土方の手は、ごつごつで荒れていて、私と全然違う。

 もう少しだけ、手を繋いでいても良いか?」

 

土方

「そろそろ戻らないと、パーティー会場の飯が無くなっちまう。

 ほどほどにな」

 

きょしんさん

「ほどほど、ほどほどにするぞ……ふふ……」

 

 

 ──艦内ブリッジ(にぎやかパーティー仕様)

 

 

新艦長

「美味い……。

 冷凍肉と大豆ミンチの混合とは思えないほど、ジューシーで食感の良いハンバーグだ。

 大豆の方に調味液を染み渡らせたのか?

 レシピを是非聞きたい……が、ネームレス・レッド、彼も彼で謎めいているからな……。

 

 む、あそこにいるのはA2か。

 料理の写真を熱心に撮っているな」

 

A2

「艦長、こんにちは。

 パーティー、楽しんでいらっしゃいますか?」

 

新艦長

「それは私が聞くべき言葉だな。

 おっほん、パーティーを楽しんでいるかね?」

 

A2

「とても楽しいです! 

 お食事も美味しく、艦内が、久方ぶりの笑顔に包まれていますから」

 

新艦長

「防衛大臣の宣誓後、コロニーを逃げ出してから、危険な戦いが続いたからな。

 乗組員達にも、極度のストレスがかかっていたことだろう。

 故に、パーティーを企画、開催した。

 少しでも、皆のストレスが緩和出来たといいのだが」

 

A2

「皆さんの笑顔に、偽りや建て前など感じません。

 心の底から喜んでくれている。

 

 ……申し訳なく思うべきなのは、A2の方でしょう。

 自分の感情で、大勢の人を戦いに巻き込んでしまった」

 

新艦長

「何を言うとるかね。

 今この場に居るのは、自らの意志で戦うことを選んだ者ばかりなのだぞ。

 

 コロニー脱出の前、私は乗組員達に再三聞いたのだ。

 『この艦から降りたとしても責めはしない』。

 『降りた後のお前達の安全も、出来る限り保障する』と。

 

 ……君が知らないだけでな、何人かの乗組員が降りている」

 

A2

「!! ……そう、だったのですね」

 

新艦長

「降りることを選んだ者達は、逃げたわけではない。

 別の戦いに向かったのだ。

 家族や愛する者を守る、故郷を守るための戦いに。

 

 A2、『戦いとはこれ日常なのだ。人はみな、それぞれの敵と戦っている』。

 

 今回は君がリーダーになったが、他者を強制したわけではない。

 戦う意志がある者達を、君が導いただけのこと。

 気に病まなくてよろしい」

 

A2

「あなたの言葉を聞いて、救われた気持ちになりました。

 ……ありがとうございます」

 

新艦長

「(って、生前の父の言葉とは言い辛い雰囲気に! 

 またしても!)」

 

A2

「料理の写真と一緒に、私の写真も撮ってはくれませんか?

 全てが終わった後、思い出として見返せるように」

 

新艦長

「良いとも。にこりと笑って写るのだぞ」

 

ジナコ

「ん? 何してるんスかー?」

 

新艦長

「ジナコくんだけでなく、カーマちゃんに森長可も帰ってきたか」

 

オデュA012

「すまない艦長、席を外していた。

 ん、記録写真か?」

 

新艦長

「オデュッセウスA012のみならず、キルケーくんも来てくれたのだね」

 

きょしんさん

「出汁巻き、出汁巻き卵はまだあるか?!」

 

新艦長

「姿が見えなかった者達が集まったか!

 こうなったら、全員で記念撮影といこう。 

 乗組員達も集合集合!

 ネームレス・レッドくんも、厨房からこっちに来たまえ!

 よしよし、全員、顔が写るように並んだな。

 タイマーをセットして……私も写るように、と」

 

みんな

「はい、チーズ!」

 

 

 ──艦内、マスター自室

 

 

A2

「本当に、楽しいパーティーでした。

 お腹もいっぱいで、色んな人との写真も撮って。

 ふふ、我ながら変な顔。

 ケーキのクリームを無防備に頬へ付けて、それを見てみんなが笑って。

 

 ……この戦いが上手くいってもいかなくても、私は全てを失います。

 記憶を、思い出を。

 この写真が、誰かの笑顔に繋がったのなら、幸せだな。

 

 マスター、待っていてください。

 私、あなたを助けに行きます。 

 どんな運命が待ちかまえていようと、どれほどの強敵が待っていようと、絶対に!」

 

 

 第39話 2021/06/26

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

A2

「背筋が冷たくなってきた」

 

カーマ

「私のマーラ(本体)が近づいているの、貴方も感じるんですね。

 そして、護衛のゾルテトラの気配もたっぷりある。

 出撃の準備を始めないと。

 お願いしますね、私のマスターさん?」

 

A2

「うう……そうでした、そうでした……」

 

 

 ──数時間前

 

 

きょしんさん

「土方が私と共に出撃するなら、誰がA2の補佐をするのだ? 謎み」

 

カーマ

「はーい、私がやりまーす」

 

きょしんさん

「なっ……! 正気か、A2!」

 

A2

「私一人では、巨神もエンジンも動かすのは不可能。

 人員も足りなくて。

 ドクターキルケーといくつか検証をした結果、カーマちゃんにお頼みすることに」

 

きょしんさん

「……」

 

カーマ

「じと目で見ないでください。

 裏切りも、後ろから刺すような真似もしませんから。

 はぁ……」

 

 

 ──現在

 

 

カーマ

「さっさと支度、ハリーアップ」

 

A2

「あっ、ごめんなさい。

 パイロットスーツ着るの、慣れていなくて」

 

カーマ

「下部コクピットで、機体起動の準備してますねー」

 

A2

「ここに腕、じゃなくて足を入れて、よし。

 そう言えばマスターは、ウキウキとした様子であっという間に着ていましたね。

 次に会うことがあれば、コツを聞けるといいな。

 その時間が……あるといいな」

 

森長可

「殺し合った相手と、こうして背中預け合うとは思わなかったぜ。

 お前もそうだろ?」

 

A2

「ですね、本当に予想外のことばかりの人生です」

 

森長可

「人生、か……」

 

A2

「どうかしましたか?」

 

森長可

「いいや……なんでもねぇよ!」

 

A2

「戦闘中、フルネームで呼ぶのも長いですので、森君、とお呼びしてもいいでしょうか」

 

森長可

「おう!」

 

A2

「森君、出撃前ですが、体に不調などありませんか?」

 

森長可

「人の形とってても、オレはゾルテトラだかんなぁ。

 風邪とか花粉症とか寝冷えとか、そういうのは無いぜ」

 

A2

「お元気のようで良かったです」

 

森長可

「出撃したら手始めに、マーラ周りのゾルテトラをブチ殺さなきゃなんねぇ。

 キツい(いくさ)になる、覚悟出来てるか」

 

A2

「ずっと前からは、覚悟は決まっていますとも!

 カーマちゃん、出撃前の最終確認、頼めますか?」

 

カーマ

「はいはい、やりますよ、形式通りにね。

 すー……はー……。

 脊髄からの神経交感経路形成。

 緊急時の薬剤投与のため、両内太股静脈に簡易シャント設置。

 診断のため、全身スキャンを開始……健康状態良好。

 精神、平常。

 意外と落ち着いているんですね。

 昨日の今日まで、殺し合っていた相手を乗せているのに」

 

A2

「殺し合ってません、あなたとは。

 それに私は、信じると決めたので」

 

カーマ

「どうぞご勝手に。

 私は、私の目的のため頑張るだけですし」

 

A2

「フェイトエンジン、回転開始。

 パイロットとAIの運命経路、交差開始。

 回転数正常……出力正常! 

 よし、これなら発進できる。

 行こう! カーマちゃん! 

 巨神、アルジュナオルタナティブ、発進!」

 

 

 ──宇宙空間

 

ジナコ

「ハイハーイ! 今回のオペレーターっすよ!

 長期戦闘が予想されるので、人員は適宜交代していく予定!

 パイロットさん達、そこんところ了承してる?!」

 

A2

「はい! 理解してます!」

 

ジナコ

「良い返事! ゾルテトラによる通信阻害は起きてないね!

 A2さん、改良したレーダーを見て。

 今の敵の位置と数、どのくらい?」

 

A2

「目視で300、レーダーで800を確認しています」

 

ジナコ

「計算と同じくらいの数が来ているか……倒せそう?」

 

A2

「私1騎では難しかったでしょう。

 が、今は艦の援護射撃、森長可との協力も出来ます。

 5分、いただければ」

 

ジナコ

「頼もしい返事。

 じゃあ、ゾルテトラ殲滅任せた! 

 オペレートは続けてるから、何かあったら報告して!」

 

A2

「行こう! フェイトエンジン、フルドライブ!」

 

カーマ

「はいはい、はーい。

 ……ほんと、ゾルテトラ使いが荒い人ですね」

 

A2

「──武装、追想。

 展開せよ! 弓の名は……ガーンデーヴァ!

 続いて、上位命令インドラを使用! 

 武装起動! 銘は、煉獄弐:インドラカスタム!」

 

ジナコ

「説明しよう!

 煉獄弐とは、きょしんさんの武装『煉獄』を雛形に作り出したレプリカである!

 本物に比べ、ちょっと出力落ちるけど、実体剣としての切れ味は抜群!

 近距離武器を持ってなかったA2のために、みんなで作った新兵器ー!」

 

 

 ──宇宙空間

 

 

カーマ

「遠距離と近距離の二刀流、欲張り仕様ですね」

 

A2

「武器の展開に際し、大量のエネルギーを使いましたが、大丈夫ですか?」

 

カーマ

(あなど)らないでくれます? 

 私はゾルテトラ、この程度の負荷、なんてことありません」

 

A2

「なら良かった、このまま行こう!」

 

カーマ

「戦闘中、下部コクピットより補佐しまーす」

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

森長可

「やるじゃねぇか、A2にカーマ!

 800近くいたゾルテトラを、剣と弓でばったばったと蹴散らして、まさに一騎当千!

 っと、見()れてる場合じゃないな。

 オレも敵ぶっ殺して、ポイント稼が──」

 

???

「裏切ったのね、貴方まで」

 

森長可

「戦場に響き渡るこの声……マーラか!!」

 

???→マーラ:オリジン

「話が早くて助かります。

 ……この裏切り者がぁぁ!!」

 

 

 ──宇宙空間、森長可より先行しているA2達

 

 

ジナコ

「船の前方に大量のゾルテトラ出現!

 プラスして、巨神に似た形のゾルテトラ、マ……マーラが!!」

 

A2

「前方、森長可が居る方向……。

 しまった、私だけ遠くに釣りだされた形か!

 今から引き返す!」

 

カーマ

「別に反対しませーん。

 けど、そんな甘い行動を許すお相手だと?」

 

A2

「敵接近を確認。

 この反応、覚えている、"彼"か!」

 

???

「させんよ。

 もはやお前は、どこにもたどり着けまい」

 

A2

「巨神と融合してしまった、オリジナルのオデュッセウス。

 貴方と、この時この場所で戦うことになるだなんて」

 

???→オデュッセウス:オリジン

「……俺の盟友がまもなく地球に着き、ゾルテトラの母を殺す。

 そして、全てのゾルテトラは滅び、人類が地球に帰るのだ。

 お前は、その救済を邪魔するのか?」

 

A2

「私は、私のマスターを取り戻したいだけだ。

 貴方の古き友が奪った、あのマスターを」

 

オデュッセウス:オリジン

「俺は、人、世界を救うという使命を遂行できなかった。

 戦いの果て、名も記憶も失い、ただのゾルテトラとなって宇宙を彷徨っていた。

 そんな俺が、もう一度あのマスターに会った。

 戦う意味と死に場所を見つけられたんだ!

 ……これが嘘、夢幻でも構わない! 

 俺と戦え、ここをお前の墓標とする」

 

カーマ

「熱いアプローチかけられましたが、どうするんです?」

 

A2

「艦と森長可を助けに行くため、彼に時間を奪われるわけにはいかない。

 だからここは、『彼』と『彼女』に任せます」

 

オデュッセウス:オリジン

「何を言って──」

 

オデュA012

「お前の相手は、俺だということだ!

 補佐、任せたぞキルケー!!」

 

キルケー

「ばっちり任された!!」

 

オデュッセウス:オリジン

「この機体、巨人、は、いったい……」

 

キルケー

「オデュッセウス、オデュッセウスなんだろう?

 私だキルケーだ! 

 1000年前、きみと一緒に戦った──」

 

オデュッセウス:オリジン

「知らない知らない知らない、覚えてなんていない!

 後悔以外、何も……俺には何も無いんだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

オデュA012

「フェイトエンジンの異常回転から生み出された、広範囲を覆うビーム攻撃か。

 案ずるなキルケー、俺の機体の中に居れば大丈夫だ」

 

キルケー

「う、うん……」

 

A2

「彼のこと、頼みました!」

 

オデュA012

「そんな心配そうな声を出すな、A2。

 俺にはキルケーもついていてくれている。

 彼を倒し、お前に合流してみせるさ。

 背中は、俺が守ってやる。

 これからも、これまでも」

 

A2

「ありがとう、オデュッセウスA012、キルケー。

 カーマちゃん、マーラを止めるために戻ろう!」

 

 

 第40話 2021/06/27

 

 

 ──宇宙空間 

 

 

オデュッセウス:オリジン

「巨神ならばいざ知らず、たかが巨人に俺が倒せるとでも?

 悪辣なクローンめ、存在ごと握りつぶしてやる!!」

 

オデュA012

「くっ、これが俺のオリジナル!

 1000年前の英雄、オデュッセウスか……!

 フェイトエンジンの出力といい、技量と冴えといい、別次元の強さだ!」

 

キルケー

「近距離戦闘は、機体への負荷が大きすぎる。

 撤退を……」

 

オデュA012

「呼ぶな! キルケー! 

 お前が声をかけるべきは俺ではない、オリジナルの方だ! 

 どうか!」

 

キルケー

「分かっている、そういう作戦だものな!

 あ、えっと、わた、私……。

 私のこと、本当に覚えていないのか?

 きみと私と『彼女』は同じコロニーの生まれで、そして……」

 

オデュッセウス:オリジン

「そして?! 白々しい口ぶりだな、女!

 我らが故郷はゾルテトラに喰われ、俺達は軍に入った!

 結果どうなったか、俺は覚えていなくとも、お前は覚えているだろうよ!!」

 

キルケー

「『彼女』は、きみを支えるため軍医に。

 私ときみは、巨神の操縦者(マスター)に」

 

オデュッセウス:オリジン

「なった、人類を守るため、人間を辞めた。

 ……女、それで守れたものがあったか? 

 人は死に、仲間割れは頻発。

 ようやく見つけた『世界を救う方法』とやらも、土壇場で失敗した。

 ……失敗、そうだ失敗だ。

 俺はもう、失敗するわけには、いかない。

 盟友を一人で逝かせるわけには、いかない。

 だから俺、俺は……お前達を殺すぅぅぅ!!!!」

 

オデュA012

「ぬぅ!

 俺のオリジナルとは思えぬほどの見苦しさ!」

 

オデュッセウス:オリジン

「クローン体とはな。

 あははっ、軍の方がよほど見苦しい。

 俺の遺伝子と尊厳をいじくりまわし、出来たのがこんな虚弱な個体か?

 ならばやはり、盟友にしか世界は救えない。

 救えない、救え、救え救え救え……」

 

オデュA012

「かつての英雄よ! キルケーの言葉に耳を貸せ!

 ぐぅ! 機体は半壊状態になったが……問題ない、まだ戦える!」

 

キルケー

「……私達のオデュッセウス。

 お願い、したいことがあるんだ。

 最後のお願い」

 

オデュA012

「お前が俺に、お願い?」

 

キルケー

「いいだろ? 

 きみを小さい頃から面倒見ていた、かかりつけ医からのお願いだぞ?」

 

オデュA012

「内容はなんだ」

 

キルケー

「下部コクピットを開いてくれ。

 宇宙服を着ているから、このまま機体外に出る。

 あの男には、直接ガツンと言う必要があるみたいだ」

 

オデュA012

「なっ……! 

 外はゾルテトラとレーザー、実弾とデブリが飛び交う戦場だぞ!

 何より、俺のオリジナルは完全に正気を失っている。

 出れば命の保証は」

 

キルケー

「きみ、エレナから託されたんだろう? 

 『オリジナルを終わらせてやってほしい』って。

 それを果たすため、必要なことなんだ。

 心配そうな声を出すなよ、やけっぱちになったんじゃない。

 作戦がある、きみに話したことだ。 

 協力してくれ、頼む」

 

オデュA012

「……分かった、幸運を祈る」

 

 

 ──宇宙空間、オデュッセウス:オリジン前

 

 

オデュッセウス:オリジン

「女が機体外に出てきた……なんだ……?」

 

キルケー

「き……こえるかい? 

 通信している私の名前は、キルケー。

 きみの幼馴染で……きみを、好きだった女の子だ」

 

オデュッセウス:オリジン

「キル、ケー、キルケー。

 その音の塊が、何の意味を持つ?

 この、魂がざわめく感覚は? 

 俺の心、揺れているのか?

 あの女、なにか手に持っている。

 小さなロケットペンダント──」

 

キルケー

「でも! 私よりもっと、きみを好いてた『彼女』が居たんだぜ!

 愛し合っていたのに、綺麗さっぱり忘れているだなんて。

 モテ男と言えど、許されることじゃないぞ!

 聞けよ! そして思い出せぇぇぇぇ!!」

 

オデュッセウス:オリジン

「な、なにか、音が、聞こえる。

 ペンダントから発せられているのか?!」

 

女性の音声メッセージ

「オデュッセウス」

 

オデュッセウス:オリジン

「あ……」

 

女性の音声メッセージ

「オデュッセウス」

 

オデュッセウス:オリジン

「あ、ああ……ああああ!!」

 

 

 ──宇宙空間、巨人オデュッセウス付近

 

 

オデュA012

「キルケー! キルケー!

 もういいだろう、機体内に戻ってくれ!」

 

キルケー

「私のことは気にしないで。

 きみは、A2の元へお行き」

 

オデュA012

「……死ぬつもりか?」

 

キルケー

「そうだ、と言ったらどうする?

 考えてもみておくれよ、私、1000年も生きたんだ。

 もう目蓋を閉じたっていいはずだ。

 幼馴染の元で、さ」

 

オデュA012

「……」

 

 

 ──宇宙空間、オデュッセウス:オリジン前

 

 

オデュッセウス:オリジン

「頭に、女の声が響く、俺の名を何度も呼んで……。

 誰だ、この声の持ち主。

 思い出したいのに、思い出せない……。

 う、うう……」

 

キルケー

「オデュッセウス、思い出すんだ! 

 きみが帰りたい場所、きみが帰って来ると、死ぬまで信じ続けていた『彼女』の名前を!!」

 

オデュッセウス:オリジン

「この、女の、声、持ち主、名前は……」

 

女性の音声メッセージ

「オデュッセウス!」

 

オデュッセウス:オリジン

「『ペーネロペー』……。

 俺、泣いているのか……? 

 ゾルテトラに喰われ、巨神との融合体になり、1000年も彷徨っていたのに。

 いまさらの……涙だ……」

 

女性の音声メッセージ

(以下ペーネロペーの音声メッセージ)

「オデュッセウス!」

 

オデュッセウス:オリジン

「思い出した、思い出したぞ!

 ペーネロペー! ああペーネロペー! 

 愛しい人、俺の戦う理由、帰りたい場所!」

 

ペーネロペーの音声メッセージ

「(自分が病気ひとつなく、40歳になったと話している)」

 

オデュッセウス:オリジン

「ずっと、お前の元へ帰りたくて。

 でも、帰り道が分からなくて……」

 

ペーネロペーの音声メッセージ

「(80歳記念のパーティーを開催している)」

 

オデュッセウス:オリジン

「痛みと苦しみ、憎しみで体が凍てついた。

 大切なことから、忘れていったのに……」

 

ペーネロペーの音声メッセージ

「(100歳のお祝いに、彼女を慕う人々がメッセージを送っている)」

 

オデュッセウス:オリジン

「どうして今になって、思い出したんだ……。

 これじゃもう、盟友のために戦えないじゃないか……」

 

ペーネロペーの音声メッセージ

「(彼女の声は無く、葬儀を進める司祭の声と、嘆く大勢の声が入っている)」

 

キルケー

「……。

 ペンダント、彼女から預かっていたんだ。

 『私はもう待っていられないけれど、貴女ならきっと』と言われ、きみ宛てのメッセージと共にね。

 彼女、しわくちゃのおばあちゃんになっても、毎日笑顔を絶やさず、きみの帰りを待っていた。

 ……『今にあの人は帰って来る』が口癖だった。

 きみに返そう、ペンダントを」

 

オデュッセウス:オリジン

「俺は……どうすれば良かったんだ……」

 

キルケー

「きみを眠らせてあげるのが、運命が私に与えた役割だったのかもしれない」

 

オデュッセウス:オリジン

「俺、盟友を見つけたんだ。

 あいつは、1000年経った今でも、世界を救おうとしていて。

 使命だけが、亡霊となり蘇ったんだ。

 痛々しくて、俺は心配で、守ろうと」

 

キルケー

「もういい、もういいんだよ。

 きみの戦いは終わった。

 (オデッセイ)を終え、愛する人の元へ帰るべきだ。

 昔、地球で物語られた()の英雄のように。

 めでたし、めでたしにしよう」

 

オデュッセウス:オリジン

「俺は、怪物になってしまった。

 ペーネロペーと同じ場所には……行けないさ……」

 

キルケー

「心配しないで、きっと行けるよ。

 あんなに愛し合っていたのだもの。

 二人を引き裂くような真似、誰にもできやしない。

 そんなことする奴がいたら、私が蹴り飛ばしてやる」

 

オデュッセウス:オリジン

「キルケー……ありがとう……。

 俺の……クローンのことも……ありが……」

 

キルケー

「違うと分かっていても、放っておけなくてね。

 きみのことが大好きなの、私の唯一の弱点だ」

 

オデュッセウス:オリジン

「ありが……とう……」

 

キルケー

「オデュッセウス、強すぎた人、おやすみ……」

 

 

 ──宇宙空間、巨人オデュッセウス前

 

 

キルケー

「……A2のとこにお行きと、言ったのに」

 

オデュA012

「俺は、君を放っておくことは出来ないらしい」

 

キルケー

「ぐすっ……泣き顔見るために待っていたのかよぉ……。

 わざわざ宇宙空間へ出て、迎えに来てさぁ……。

 悪趣味だぞぉ……」

 

オデュA012

「そんなつもりではなかった、すまない。

 ああ……オリジナルの機体、崩れつつあるな。

 彼はもう行ってしまったのか、愛するペーネロペーの元へ」

 

キルケー

「今頃きっと、再会の涙で顔をぐしゃぐしゃに……。

 って、ええ?

 きみ、泣いてるぞ?」

 

オデュA012

「キルケーの無事を確認したら、涙が」

 

キルケー

「訓練でも治療でも泣かなかったきみが、こんなことで泣くのかぁ?」

 

オデュA012

「おかしなことか? 

 俺は君のことが好きなんだぞ。

 好きな人が無茶したり、戦場から無事に帰って来てくれれば、泣きもする」

 

キルケー

「へー、好き……好き?」

 

オデュA012

「ああ、好きだ。

 俺は君のことが、かなり好きだ。

 前から抱いていたこの感情、『好き』と分類出来たのは今の今だが」

 

キルケー

「……わー!! 

 待って待って、聞かなかったことにする!」

 

オデュA012

「なぜだ? 俺は君のことがす」

 

キルケー

「作戦中、いま作戦中だから! 

 こういう時に色恋の話をするのは、古くから縁起が悪いと言われていてね!

 全部終わった後、改めて聞かせてくれ!」

 

オデュA012

「分かった、約束だ」

 

キルケー

「ああもう……これ絶対、家族愛か何かとはき違えてるやつだぞ……!

 舞い上がるな私……!

 うう、ともかく、A2を援護するためにも移動しよう」

 

オデュA012

「行こうか、キルケー!

 そしてどうか安らかに、英雄オデュッセウス!」

 

 

 第41話 2021/6/28

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

マーラ:オリジン

「裏切ったのね! 貴方まで!

 家族に軍! 誰も彼も私を裏切る! 

 ゾルテトラだけは違うと、信じていたのに!」

 

森長可

「他人に期待するのなんざ止めとけ。

 世界を作ってんのは己、その己を腐らせたら、世界まで腐ってくぜ」

 

マーラ:オリジン

「また訳の分からないことを……!」

 

森長可

「ヒャハハハ! ──横っ腹、隙だ」

 

マーラ:オリジン

「くっ、少しかすった……」

 

森長可

「何だよ、以外と大したこと無いのな。

 この戦場で一番弱いの、お前じゃね?」

 

マーラ:オリジン

「馬鹿にして!!」

 

 

 ──ゴルドルフ艦ブリッジ

 

 

ジナコ

「他のオペレーターと同じく、状況の変化を確認。

 ゾルテトラの数は一時減ったけど、マーラ出現と共に増援が。

 800以上の個体がいる。

 けれど、森長可とマーラの戦いに巻き込まれ、やられているものも。

 艦の武装、弾幕により接敵と浸食は防げているけど、いつまで保つか……。

 A2、みんな、早く戻ってきて……!」

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

マーラ:オリジン

「もう誰にも私を、()を馬鹿にさせるもんか!

 力を極限解放! 

 見せてあげます、これがビーストモード!

 どう? 炎で作られた群青の四肢、美しいでしょう?

 続いて、フェイトエンジン逆回転!

 負の運命より来たる力で、貴方を殺す!」

 

森長可

「ふぅん、ちょっとは見れる姿に変形しやがったな。

 ありゃ犬か獣か……。

 んじゃあオレも、ゾルテトラとして本気出すわ」

 

マーラ:オリジン

「貴方に私は倒せない。

 巨神との完全融合を拒み、人の形に留まっている貴方には!」

 

森長可

「……大殿」

 

マーラ:オリジン

「(纏う雰囲気が変わった。

 何をしようとしているんだ、こいつは)」

 

森長可

「冥土の土産だ! 目ん玉に焼き付けとけ!!」

 

マーラ:オリジン

「なっ、腕が四本に……そして槍も同じ数だけ……!」

 

森長可

「人間無骨、四槍流! 

 いくぜ大殿ぉぉぉぉ!!」

 

マーラ:オリジン

「腕と武器が増えたから何だと言うの! 

 行け、ゾルテトラ! 

 露払いくらいしなさい、この役立たず!」

 

森長可

「行けよォ! ゾルテトラ! 

 そんで、オレと大殿のために派手に死んどけ! 

 ヒャハハ!!」

 

マーラ:オリジン

「相手側に下ったゾルテトラが、続々と!

 そのせいで攻撃が届かない!

 私が僕が主人だぞ! 言うことを聞けこの……!」

 

森長可

「だーかーらー……期待すんの止めろって言ってんだろ。

 生きるも死ぬも、上手くいくもいかないも、全て己の責任だ」

 

マーラ:オリジン

「違う! 

 やることなすこと全て上手くいかないのは、他人のせいだ!

 僕がこうなったのも、さく……姉さんがああなったのも!

 もう一人の姉さんと、離ればなれになったのも!」

 

森長可

「言い訳……すんじゃねぇ!」

 

マーラ:オリジン

「こんなにも苦しいんだ!! 

 言い訳ぐらいしたっていいじゃないか!

 

 運命を閉ざせ! マーラ・アヴァローダ!

 マーラ・アヴァローダ!!

 マーラ・アヴァローダ!!!」

 

森長可

「びびって技連発と来たか。

 見ていてくれよ、大殿。

 ぜーんぶ避けきってやっから!!」

 

マーラ:オリジン

「ちょこまかと逃げ回って!

 なんで、どうして捉えられないの。

 私、動揺しているのか、あの裏切り者に煽られたせいで」

 

森長可

「もういっちょ……隙だぁぁぁー!!!!」

 

マーラ:オリジン

「ぐぅ! 腕が!」

 

 

 ──ゴルドルフ艦ブリッジ

 

 

ジナコ

「やったぁ! マーラの腕が切り落とされたッス! 

 森長可、優勢!

 でも、この反応はなに? ……まさか!」

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

マーラ:オリジン

「(誰か、助けて。

 あと少しでぶち殺せるってのに、障害ばかりあるの。

 足止めくらっている場合じゃないのに!

 ……落ち着いて考えよう、パワーでは相手を上回っている。

 

 あいつより僕が弱いはずがない、何が違う……?

 

 森長可は、機体との融合を拒み、わざわざ搭乗するという形で戦っている。

 

 それはなぜだ?

 

 ああ分かった、分かっちゃいました、相手の弱点。

 だったら、同じことをすればいいだけ、でしょう?)」

 

森長可

「A2との約束とは違ぇが、ここでテメェをぶっ殺す!!」

 

マーラ:オリジン

「出来るわけないですよ! ばーか!」

 

森長可

「なっ!」

 

マーラ:オリジン

「ふふっ、こんな分裂体を作るのは初めて。

 今生み出したこいつに、巨神の操縦は任せる。

 大きく作った別の分裂体で、貴方の機体を羽交い締めです!

 そして、機体より分かれた私自身の腕で……こう!」

 

森長可

「がっ……かはっ……」

 

マーラ:オリジン

「はい、こんにちはこんばんは。

 機体の下部を穿たれ、無理やりコクピットから引きずり出された気分はどうです?」

 

森長可

「最……悪だ……」

 

マーラ:オリジン

「ゾルテトラになっていて、本当に良かったですね。

 そうでなければ、宇宙空間に出た瞬間、死んでいる。

 でも安心して、貴方を殺すのは最後。

 時が来るまで、私の大きな大きな手のひらの上で、のたうち回っていてください」

 

森長可

「なに……するつもりだ、テメェ……」

 

マーラ:オリジン

「貴方、どんな攻撃も避けようとしますよね、それはなぜ?

 貴方、私のように機体と融合すれば強くなれるのに、しなかった。

 それはなぜ?」

 

森長可

「……」

 

マーラ:オリジン

「答えは知っています! 

 ()()()()()()()()()()()!!

 はははは! くだらなーい! 

 巨神なんてただの兵器、道具、力でしょうに!

 けれど貴方は守ることに固執して、あまつさえ失った者の姿まで重ね合わせた!

 軟弱で臆病、それが貴方の本質」

 

森長可

「かも……な……」

 

マーラ:オリジン

「私は寛大です、今なら許してあげないことも無いですよ?

 惨めな人間のように、額を私の手のひらにこすりつけ、土下座してくれれば」

 

森長可

「大殿が……オレに手ぇ差し伸べてくれた時……。 

 『怖い』って理由だけで逃げちまった……」

 

マーラ:オリジン

「はぁ……もういいです。

 これから、貴方の大切な巨神『織田信長』を壊します。

 ただ壊すだけでは絶望の深みが足りませんね、私が吸収しましょうか。

 ああ! それはいい! 

 貴方の大切な人、私が食べちゃおっと!」

 

森長可

「は……ハハ」

 

マーラ:オリジン

「笑える余裕があるの? 

 握りつぶさないと、自分の今の立場が分かりませんか?」

 

森長可

「大殿が、そんなしょぼいな終わり方するわけねぇだろ」

 

???

『──』

 

マーラ:オリジン

「はっ、え? なんで。

 乗り手を引きずり出したのに、勝手に巨神がうごい」

 

森長可

「それでこそ! オレ達の大殿だぜぇ!!」

 

マーラ:オリジン

「馬鹿なっ! 

 巨神が貴方を守るために、自らの意志で動き出したというの?

 嘘だ、有り得ない。

 そんなことしてくれるなら、どうして僕と姉さんの時は──」

 

森長可

「やっちまえ大殿ー!!」

 

???

『──』

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

カーマ

「居ました、マーラです! 

 森長可の巨神、『織田信長』と交戦中!

 3体に分裂していますね、厄介なことに」

 

A2

「艦は無事かな?!」

 

カーマ

「目立った損傷は無いですよ、良かったですねー」

 

A2

「本当に良かった……間に合ったんだ!

 いま助けに行く、みんな!」

 

 

 第42話 2021/06/29

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

A2

「無事か! 森長可!

 返事をしてくれ、森君!」

 

森長可

「聞こえてる……ぜ、そんなに叫ぶなや……」

 

A2

「マーラにやられたせいで、ひどい怪我だ。

 今すぐ治療しないと」

 

森長可

「オレはゾルテトラだ。

 手当てが無くったって、あとちょいは持つ。

 それより……大殿は?」

 

A2

「貴方の機体のことですね。

 マーラの分裂体の手にかかり、壊されて」

 

森長可

「大殿、が。

 大殿さ、オレのこと、守ってくれたんだ。

 小っちぇころみたいに、オレのこと……」

 

A2

「森君……」

 

森長可

「期待に応えてぇけど、いまのオレじゃ無理だわ。

 ……だからよ」

 

A2

「分かっている、貴方の想いを背負って戦いましょう。

 事前に立てた作戦通り、私がマーラを倒します」

 

森長可

「ん……そうか」

 

A2

「はい、森君、任されました。

 ……怪我のせいで気絶してしまったか。

 ひとまずポッドに入れて、身の安全を確保してあげよう」

 

カーマ

「使おうとしてるそれ、貴方のための脱出ポッドじゃないですか」

 

A2

「いいんだ。

 これを私が使う事態には、絶対にならないから」

 

カーマ

「どういう意味……」

 

マーラ:オリジン

「敵を前にして……ぺちゃくちゃ……おしゃべりですか」

 

カーマ

「どうしたんです、その姿。

 全身は火傷、巨神の方に至っては、片腕とられちゃってるじゃないですか」

 

マーラ:オリジン

「うるさい! 分裂体如きが!

 人間に組し、勝ち馬に乗ったつもりでしょうけど、とんだ思い上がりね!

 ゾルテトラの未来がため、握りつぶしてやるんだから!」

 

カーマ

「あいつを倒す機会は今しかありません、A2。

 マーラは巨神との融合を解き、続けて分裂体まで生み出した。

 見た目には現れずとも、かなり弱っている」

 

A2

「私に……協力してくれますか?

 フェイトエンジンを回し、未来を拓き、運命を変える力を共に掴んでくれると」

 

カーマ

「ゾルテトラとマスターの協力なんて、宇宙が始まって以来のことかも。

 いいですよ、カーマちゃんは面白いこと大好きですから」

 

A2

「素直じゃないなぁ、全く」

 

カーマ

「はいはい。

 ……フェイトエンジン、封印完全解除。

 操縦者及び、補佐AIとの運命接続開始」

 

A2

「人と、神」

 

カーマ

「異なる運命混ざりし時、見える天地、現れる力」

 

A2

「そして私は今ここに、誰もが夢見た未来を拓く!」

 

マーラ:オリジン

「出来ませんよ! そんなこと!

 ゾルテトラと人の運命が交わるなんて、ありえないのだから!

 

 ゾルテトラは天地の捕食者!

 人はただの贄!

 

 まだ分かっていないの?

 ゾルテトラは正真正銘、新世界に適応した神々なのですよ?

 神と人が手を取り合い、未来を拓くなど、できやしない!」

 

A2

「うぐ、カーマちゃん、苦しくないですか?」

 

カーマ

「……っ、ええ、平気ですよ。

 お気遣いどーも」

 

A2

「……、……、……。

 何度も聞いた、おとぎ話がある。

 『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』。

 そんな一説。

 でも、剣がどこにあるのか分からなかった」

 

カーマ

「フェイトエンジン、逆回転から正回転へ。

 回転数、出力共に上昇」

 

A2

「今なら分かる。

 最後の剣は、私の心のことだったんだ。

 

 私の覚悟、私の想い、私の──1000年前のやり残し。

 

 最後の巨神が握るべき、最後の剣はわが胸に!

 武装、追想!!」

 

マーラ:オリジン

「させません! マーラ・アヴァローダ!

 今なら間にあ──」

 

???

「ちょっと時間、かけすぎッスね」

 

マーラ:オリジン

「誰?!」

 

???

「雑魚過ぎて、記憶にも残ってない感じッスか?

 お忘れのようなので自己紹介。

 ジナコ=カリギリっすよ。

 成績だけなら貴方より、いいえ、慎■君より上だった乙女ッス」

 

マーラ:オリジン

「な、今、私のことをなんて呼んで」

 

???→ジナコ

「遠坂、慎二君。

 貴方の本当の名前は、マーラなんかじゃない。

 思い出してよ、人間だった時のこと」

 

マーラ:オリジン

「ゾルテトラに蝕まれた人と、ただの戦闘機か。

 対抗手段を持ってない兵器なんて、ひとひねり……」

 

ジナコ

「だーかーらー……人間舐めすぎ」

 

マーラ:オリジン

「うわ?! 煙幕?!」

 

ジナコ

「時間稼ぎ完了~。

 森長可を回収して、すたこらさっさ~」

 

マーラ:オリジン

「分裂体! ゾルテトラ!

 煙幕を早くかき消して!

 なんだこれ、特殊な薬剤でも使っているのか、全然消えない。

 早くしないと、()、殺され──」

 

A2

「……マーラ」

 

マーラ:オリジン

「ひっ!」

 

A2

「あなたを倒して、私は地球に向かいます。

 たった一人のマスターを取り戻すために」

 

マーラ:オリジン

「そして、ゾルテトラの母たるティアマトまで殺すのでしょう?!

 ……止めて許して! 

 私が全部悪かったの! だから殺すのは私だけにして!」

 

A2

「ティアマト神をどうするかは、まだ決めていない。

 けど、貴方のことは……倒すと決めた」

 

マーラ:オリジン

「いいえ! やっぱり私も殺さないで!!

 だって私悪くないもん、みんな周りが悪いんだもん!

 

 どうしてどうしてどうして!? 

 どうしてこんなに苦しいの? 

 

 軍も人間も、僕の苦しみに寄り添ってくれない!

 ゾルテトラになって人を辞めても、寂しいばかり! 

 辛くなるばかり!!

 おかしいだろ! どうして報われないの、ねぇ!!」

 

A2

「それは、貴方が」

 

カーマ

「やりすぎたから、ですよ、マーラ。

 初めは被害者だったのかもしれない。

 けど、貴方は被害者意識を膨らませ、暴力の形にして他者に振るった、振るってしまった。

 

 ……ようやく私にも分かりました。

 貴方が分裂体を生み出して来た、理由が。

 

 貴方、最後まで自分が被害者でいたいんですよ。

 全て周りのせいにして、誰かに救ってもらいたかった」

 

マーラ:オリジン

「使い捨ての分裂体如きに、僕の心が分かるものかぁぁぁ!!!!」

 

A2

「最後の剣よ! 今ここに力を示せ!

 これぞ、新たな世界を生み出す剣!

 未だ無名なる光の道!」

 

マーラ:オリジン

「やめて、やめろ、やめろぉ!!

 ごめんなさい、ごめんなさい!

 もう人間を殺したりなんてしません食べたりなんてしません!

 分裂体を生むこともしません!

 ゾルテトラ達と一緒に、世界の端っこで小さくなって暮らします、だから」

 

A2

「……さようなら」

 

マーラ:オリジン

「ひっ……ひぎゃぁぁぁぁぁ!!!!

 体、焼かれていく、痛い!

 僕を助けろゾルテトラ!

 助けて! 衛宮ぁ! さくらぁ! お姉ちゃ……」

 

カーマ

「では行ってきますね。

 痛みで自我を失いつつある本体を乗っ取り、ゾルテトラの支配権、その大部分を奪う」

 

A2

「カーマちゃん、ありがとう。

 貴女が居なければ、私、最後の剣を見つけ出すことは出来なかった」

 

カーマ

「……はいはい、どういたしまして」

 

マーラ:オリジン

「いやっ、ゾルテトラ!

 来ないで! 僕を食べないで……!!」

 

カーマ

「報いをあげます。

 ずっと欲しかったのでしょう?」

 

マーラ:オリジン

「や、いや……」

 

カーマ

「可哀想な本体、可哀想な男の子。

 そしてさようなら、人類の大敵、マーラ」

 

マーラ:オリジン

「いやだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方→???

 

 

マーラ:オリジン

「……はっ、ここ、どこ?」

 

???

「お昼寝から起きたの? 慎二君」

 

マーラ:オリジン→遠坂慎二(以下、慎二)

「あ……お姉ちゃん……。

 パールバティーになってしまう前の、小さい頃のお姉ちゃんだ……」

 

 

 ──???→遠坂慎二の走馬灯

 

 

遠坂凛(以下、凛)

「ちょっと桜! 

 ピクニックへ行くのだから、慎二のこと、起こして来てと言ったでしょ!」

 

???→遠坂桜(以下、桜)

「なかなか起きてくれなくて……」

 

「早く起きなさいってば、慎二。

 あらどうしたの? 泣いてる?」

 

慎二

「こ、怖い夢、見て」

 

「夢? 

 内容、この凛お姉ちゃんに話してみなさい」

 

慎二

「僕が、化け物になる夢で。

 ほんとはなりたくなかったのに、無理やり」

 

「うんうん、それで?」

 

慎二

「化け物になった後、沢山の人を食べて殺して。

 そしたら自分がどんどん増えて、怖くてっ……!」

 

「……とても怖い夢だったわね」

 

慎二

「うわーん!

 お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

 

「桜、お母様に『慎二が泣いてるから少し待ってて』と伝えてきて」

 

「分かった」

 

慎二

「ひぃ……ひぃぃ……」

 

「私も桜も、少しお部屋から出ていくわね。

 大丈夫、直ぐに戻って来るから」

 

慎二

「ほ、ほんと?」

 

「私が嘘ついたことある?」

 

慎二

「いっぱいあったよ! いっぱい……」

 

「そうだったかしら?

 ともかく、お部屋で良い子で待ってなさい」

 

慎二

「分かった!!

 は、ははは……良かった……。

 夢だったんだ、怖かったぁ……。

 そうだよな、僕が怪物になるなんて、あるはず……。

 あれ、部屋の隅に何か──ひぃ!!」

 

???

「……」

 

慎二

「なんだあれ! ぐずぐずに溶けた男の人?!

 怖いよ! 助けて、お姉ちゃーん!!」

 

???

「マ……」

 

慎二

「部屋のドア、開かない、なんで?!」

 

???

「マーラ、よくも……俺達を……殺したな……」

 

慎二

「溶けてる人が増えてきてる!

 開けて! 誰かドアを開けろ!

 僕の命令が聞こえないのか!!」

 

???

「マーラよくも……私達を……使い捨てた……な」

 

慎二

「女の人まで増えた! 怖いよぉ!!

 部屋いっぱいにどろどろが広がって……。

 いやだ、こっち来るなぁ!!」

 

???

「マーラ、マーラ、マーラ。

 ゾルテトラ、怪物、化け物、人殺し……」

 

慎■

「ぼ、僕は、遠坂慎二は化け物じゃない!

 遠坂■■は──」

 

???→報い

「                  」

 

■■

「……あれ、僕の名前、なんだっけ」

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

A2

「……乗っ取ったんだね、マーラの体を」

 

カーマ

「ええ。

 マーラ支配下のゾルテトラすら、私のものに。

 私が消える、という心配も無くなりました。

 くすくす……いい気分。

 強くなった感覚が、こんなに甘いものだなんて」

 

A2

「力に溺れないでくださいね」

 

カーマ

「その台詞、そのままお返ししまーす」

 

A2

「……本当に、殺すしかなかったのかな。

 他の手段があったかもと思うと」

 

マーラ

「殺すしか無かったと思いますよ?

 彼女と私達は相容れなかった。

 言葉を交わしたとしても、平行線を辿っていたことでしょう」

 

A2

「……」

 

マーラ

「今は作戦が上手くいったことと、貴方が『黒い剣』を手に入れたことを喜びましょうよ。

 いえーい、いえーい。

 そうだ、剣の名前、どうするんです?」

 

A2

「マスターに、マスターに付けてもらおうと思います。

 色々考えたのですが、しっくりくるものが浮かばなくて」

 

カーマ

「マスターさんのこと、大好きですね」

 

A2

「私を"私"にしてくれた人でもありますし、パートナー……ですから」

 

ジナコ

「こちらオペレーター!

 帰艦できたので連絡ッス。

 作戦が成功したようで何より。

 うぉ……カーマちゃん、でっかくなったね。

 100m級、いわゆる巨女ってやつじゃあないですか」

 

カーマ

「森はどうしたの?」

 

ジナコ

「私が戦闘機で回収して、医務室に運んだ。

 ドクターキルケーが診てくれてる」

 

A2

「体も万全ではないのに、前線まで来てくれて、ありがとうございます」

 

ジナコ

「いいんスよ。

 ……アタシも、慎二君との決着を見届けたかったし」

 

カーマ

「報告もいいですが、あれを見て」

 

A2

「森長可の巨神、『織田信長』。

 半壊したまま、戦場から離れていく……」

 

カーマ

「どこか遠くへ旅立つのでしょう、きっと」

 

A2

「森君はあの機体を、とても大切にしていました。

 機体と森君、思いが通じあったのに去っていくなんて。

 知ったら悲しむだろうな……」

 

ジナコ

「良いんじゃないッスか。

 いつまでもべったりじゃ、お互い成長しない。

 子離れ親離れってことで」

 

A2

「離れることで生まれるものも、あるのですね……」

 

ジナコ

「さてと、一旦状況を整理ッス。

 

 A2さんとカーマちゃんの活躍で、進路を阻むゾルテトラはほぼ無し!

 オデュッセウスA012とキルケーも、一度戻ってくるみたい。 

 

 足並み揃え、万全の状態でいざ行かん! 

 本丸、人類生存域防衛軍宇宙艦隊へ!」

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