隻腕の師匠と捨て子の弟子   作:銀髪っ娘にTS転生したいおじさん

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これでいいのだろうか…?


11話 水没林調査と鉄の殴打

「くそ!どこにいる!くそったれ!出てこい!出てこいよぉ!」

 

悲鳴とも言える男の声が虚しく響く。

 

「ふ、ふざけんなちくしょう!誰かまだいるだろ!?助けてくれ!」

 

そう言って男は周りを見渡すが、そこには荷物とそれを運んでいただろう荷車の残骸、そしてそれを牽引していたアプトノスと護衛をしていた傭兵の死体が散らばっているだけであった。

 

「ひっ」

 

自分以外は誰もいない、その事実を無理やり突きつけられて男は心が折れそうになる。

 

「に、逃げなきゃ…死にたくない…死にたく…」

 

漂う死の気配に、腰を抜かしかけながらも彼はその場から脱出を試みる。もう荷物などどうでもいい、自分の命助かればそれでいい。

しかしそんな僅かな願いすらも、大自然の中では儚く散ってしまうのだ。

 

赤い光が2つ、こちらを見たような気がした。

 

「あ…?」

 

それを警戒して、少しずつ後ろに下がって逃げよう。そう思った時、軽い衝撃と共に、何か黒い影が一瞬で自分の横を通ったのが見えた。

 

「え?」

 

何かと思い体をひねる。否、捻ろうとした。

 

「あ…れ?」

 

なぜか身体に力を込めれず、振り向くことができない。何が起こったのかと思い、自分の身体を見るとーーー

 

「は?」

 

自分と上半身と下半身が、繋がっていなかった。

 

「な、がぶっ…」

 

身体が二つになっている事も驚きだ。しかし何よりも驚くべきは、本人がその眼で確認するまで自身が即死する傷を負いながらも気づかない事だろう。

まさしく暗殺。そこいらの雇われ暗殺者とは比べるべくもない美しき殺害術。

結局男は、死ぬその瞬間まで痛みを感じることはなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「え?水没林に緊急の調査依頼?」

 

日が昇る前に来た突然の依頼にレオンは当惑する。自分は朝早く起きるのでこの依頼を受け取れたが、普通のハンターだった場合はどうするのだろう?

そんな事を考えながらも準備を進める。場所は水没林というところらしい。

 

「水没林って確かモガって村からの方が近いような…まあ何かあるのかな?」

 

ここよりも近い場所にある村に依頼を出せばいいと思ったが、何か理由があるのだろう。

 

「へぇ…最近たびたび話に上がっていた水没林の件の事か…どうやら最近、商人隊やそれを襲おうとする盗賊団が見境なくやられてるらしいよ。生存者は皆無だとさ」

 

横から首を突っ込んきたのは師であるリーフだ。全く気配が読めなかったことに驚くしかない。

 

「どこにいたんですか…?もしかして師匠、実はギルドナイトのスパイでは?」

 

そんな少し物騒な想像をすると、リーフが不満そうに頬を膨らませる。

 

「君は全く…モンスターに気配を読ませない事は重要だろう?それとこの件なんだけどね、大方予想はついている」

 

「さすがっす師匠。一生ついていきやす」

 

そんな軽い口調で言われてもバカにされているようにしか思えない。なのでここは…

 

「よしわかった。もう耳かきはやめよう、うん」

 

すると…

 

「ごめんなさい!それは許して!」

 

ものすごい勢いで謝ってきた。予想外のリアクションに思わずたじろぐリーフ。

 

「き、君のその耳かきへの執着はなんなんだい?ちょっと引くよ…耳かきやってる時も『ふぁぁ…』とか言ってるし…」

 

まあそれは置いておいて、と言葉を切ってレオンに今回の件を伝えるのだが…

 

「うーん、今回の件は伝えるとこが特にないんだよね。憶測でしかないからさ。それに、こういう時にどうするかを一度知っておいた方がいい」

 

「え?あー、わかりました。頑張ります!」

 

意外な返答だったが、自分のことを信頼してくれているような気がして嬉しいようだ。

 

「私も信じる事にしたからね。君はもう、子供ではない。もう立派なハンターだ。それこそ独り立ちをしてもいいくらいにはね」

 

どこか遠い目をしながらそう語るリーフ。そのまま彼女言葉を続ける。

 

「だから、君もそろそろ私から「いやです」ん?」

 

その先は、言わせない。

ここでお別れなど絶対にごめんだ。なぜならまだ、何も返せていないから。

 

「僕はいつまでも貴女の弟子です。そして貴女も、僕の師匠です!」

 

強い言葉だった。

それを聞いたリーフはーーー

 

「ふ…わかったよ。さぁ行ってらっしゃい。我が弟子」

 

穏やかな表情で弟子を送るのだった。

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

「おっすレオン。水没林だろ?俺らも行くぜ」

 

もはやいつも通りなった光景に思わず口元が緩む。

 

「それにしても朝は熱かったわね〜?」

 

「ええ、『僕は貴女の弟子です!』ですもんね。ひゅう〜カッコいい〜」

 

「な、なんでそれを!?」

 

なぜだ。あのやり取りは家の中でしてたはず。それなのになぜ彼らが知っている!?

 

「そりゃあこっそり聞いてたんだよ」

 

「盗聴じゃねえか!」

 

まさかまさかの盗聴宣言。まあ本来は迎えに来るだけのつもりだったらしい。

 

「いや〜それにしてもキマってましたね〜。私はレオンの弱みが握れて大満足です。これで道連れ仲間ができました!」

 

嬉々として語るアオイ。しかしこちらは全く嬉しくない。なるほど弱みを握られる気分とはこういう事か。

 

「知りたくなかった…」

 

絶望感に打ちひしがれながら準備をするのであった。

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

「ここが水没林…」

 

「確かに森の半分くらいが水没してるわね」

 

「密林とはまた違った雰囲気だな。水中にも道はあるみたいだが…」

 

「やめておきましょう。水中戦は陸上とは勝手が違うはずです。モガ出身のハンターに聞くなりしておかないと厳しいでしょう」

 

満場一致で水中は無しになった。まあ事件現場は陸上らしいしちょうどいい。

 

「お、ここからあの崖の上に行けそうだぜ」

 

そう言って脇道を見つけるウィレム。それを見た3人は呆れながらも感心する。

 

「君って一番体がでかくて武器もでかいのに、小さな道を見つけるのが得意だよね」

 

「うるせえ、別に悪い事じゃねえだろ。おらさっさと行くぞ」

 

少し怒ってしまったようだ…3人に怒らせる気は無かったのだが

そんなこんなで崖の上、つまり例の事件の現場に到着にたわけだがーーー

 

「うわぁ…これはひどいわね…」

 

アリスがそうこぼす。

端的に表すなら、そこは地獄だった。

散らばった荷物の残骸に千切れたアプトノスと人間の死体。

 

「これは…なかなかですね…」

 

アオイもその凄惨さに息を飲む。

逃げようとして背をやられた人間、立ち向かおうとして握った獲物と鎧ごとバッサリ来られた人間、そして苦悶の表情すら浮かべない異様な死体。

 

「全滅…だね…死体も時間が経ち過ぎてる」

 

比喩抜きに死が積み重なっていた。

 

「仏さんの埋葬は後にしよう。申し訳ないが周りの確認が先だ」

 

ウィレムの提案に反対はない。この状況では先に安全確認をするべきなのだ。

 

「ええ…ってあれ?今なにか…」

 

そう言って行動を開始しようとした時、アオイが何かに気づいたのだろうか、森の中をじっと見ている。

 

「どうした?なんかあったか?」

 

「今、赤い光が見えませんでしたか?2つほど」

 

そう言われて目を凝らす3人だが何も見えない。

 

「いや?何も見えないね…」

 

「私もよ。ガンナーやってるから目はいい方だけどわからないわ」

 

誰も見ていないという。気のせいだったのか…そう思い確認作業に戻ろうとした時、不意に悪寒が走った。それは、こちらを狙う刃のそれだ。

 

「全員散らばって!」

 

直感に従い仲間に怒号をあげる。既に難しいクエストにも行っている3人は聞き返す愚行を犯さず無言で散らばった。直後ーーー

 

「っ!!!」

 

アオイのいた場所にある木片が両断された。もしアレに当たっていたら、そんな想像をして冷や汗が出る。

しかし先の奇襲を避けれた事でこの事件の下手人が姿を現した。いや、下手竜だろうか。

 

「ギュルルルル…」

 

その下手竜は自慢の奇襲が失敗し、少なからずイラついているようだ。

 

「あれは…」

 

ウィレムがソレみて信じられない、というような声をこぼす。

 

「ウィレム!コイツの事を知ってるの!?」

 

アリスが聞き返す。それにウィレムは静かな声で返す。

 

「ああ、アレはーーー」

 

ーーー迅竜:ナルガクルガだーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

バルバレギルドにてーーー

 

「ほっほっほ、水没林の件はやはりナルガクルガの仕業と思うのう」

 

「まあそうだろうね。闇に紛れて暗殺するとことか、赤い光が2つとか、どう考えてもナルガクルガだ」

 

「随分と余裕そうじゃのう?前はアルセルタスごときで取り乱しておったのに。肝が座ったようになったのかの」

 

不思議そうに尋ねるギルドマスター。

しかしそれにすらリーフは余裕の表情で返答した。

 

「大丈夫さ、彼は『我が弟子』だからね」

 

「ほ…そうかそうか。ほっほっほ、それは確かに頼もしいのう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ナルガクルガって…」

 

迅竜ナルガクルガ。攻撃を受け流すことに特化した黒い体毛に長い尻尾、何より特徴的なのはその腕だろう。外側が刃になっており、自慢の機動力を生かして敵を高速で切り裂く暗殺者だ。

 

「どうする?依頼は調査だから一応達成だろうけど…ここで帰る?」

 

3人に問うアリス。だが3人の返答はーーー

 

「「「戦おう(ましょう)」」」

 

全員一致だった。

 

「わかったわよ…私が撃つからみんなはそれと同時に突っ込んでね」

 

4人は武器を構える。対する迅竜は警戒を露わにしている。

今までとは違う、恐怖ではなく戦意を湛えて逃げない人間ーーー

 

「ギュイイイイイ!!!!!」

 

独特の高い咆哮が響く。迅竜は彼らを敵と認めたようだ。

 

「行くわよ!」

 

それを皮切りに、戦いが始まる。

 

「はぁ!」

 

先に攻撃を当てたのはアオイだ。迅竜も驚く速さで肉薄し、お得意の連続攻撃を仕掛ける。しかし、表面の体毛に流されて上手くダメージが入らない。

 

「ちっ、この毛は鱗の一種ですね。強度と柔軟性を兼ね備えている」

 

だがいくら効かないとは言え何度も攻撃され続けるのは誰だって不愉快だろう。故に迅竜は腕を振る。翼についた刃はアオイを切り裂かんと迫るがーーー

 

「させるか!おお!」

 

横からウィレムが割り込んでガードする。巨大な武器は時として盾にもなるのだ。

 

「ぬぅ!だがその隙は貰ったぁ!」

 

お返しと言わんばかりにデカイのを1発

お見舞いしてやる。

 

「ギュイィ!?」

 

さすがに大剣は受け流せなかったのか、体毛の受け流しを無視して胸を叩き斬り、そこに大きな傷が出来る。

 

「ギィィイ!!!!」

 

自身が血を流す事など滅多にない迅竜は怒り狂う。その事実に憤慨し、徐々にその目は赤くなる。動くと2本の帯を引く様は不吉な流星に思える。

 

「へへっ怒ってんな。相当痛かったみてえだ」

 

しかし4人は動じないばかり。

その事にさらに怒りを増した迅竜は、目につくものすべてを引き裂かんと飛びかかりーーー

 

「ギィャン!?」

 

ーーー脳天をぶち斬られた。

 

「その速度は凄いですが、怒りのあまり動きが単調ですね。」

 

正面から馬鹿正直に向かった迅竜は、置いておくように攻撃した大剣にまんまと突っ込んできてしまったわけだ。

 

「ギャイイイ!!!」

 

さらに怒る迅竜はおもむろに長い尾を振り回し始めた。そうして勢いをつけた後ーーー

 

「ウィレム、アオイ!逃げるのよ!」

 

さらに伸びた尾が高速で叩きつけられた。

 

「ぬぉわ!」「くっ!」

 

半ば転がるようにして逃げる2人。なんとか回避できたようだ。だがまだ攻撃は終わらない。

 

「ガルァァァァァ!!!」

 

叩きつけによって地面に埋まった尻尾を戻した反動を使って回転攻撃をして来ようとする。

だがハンターとてやられっぱなしではない。一か八か、ウィレムは力を貯める。

 

「おおおおお!!」

 

振り下ろされた大剣。同時に赤い液体と紺色の物体が飛び散り、鮮血の花園を作り出す。

 

「ギィ!?」

 

尾を切られた迅竜はあまりの痛みに動きが鈍る。出血もひどく、既に目も元に戻っている。怒る余裕すらないようだ。

 

「ギュイ…ガ…」

 

手痛い程度では済まないダメージを負った迅竜は必死に離脱を試みるが…

 

「ここで逃すわけにはいかないな」

 

ーーー既に囲まれていたーーー

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こちらが調査依頼とナルガクルガ討伐の報酬になります!お疲れ様でした!」

 

受付嬢が報酬を渡す。しかしそんなことよりも、彼らは初見で迅竜に善戦出来たことの方が嬉しいようだ。

 

「俺たちよくやったよな!」

 

「ええ、結構凄いんじゃないかしら?」

 

「今夜は宴会ですね!」

 

喜ぶ4人。しかし厄災というのはいつも気まぐれだーーー

 

「おいおいおいガキ共よぉ、なーに騒いでんだクソうるせえ」

 

低くしゃがれた下品な声が響く。

その方向を見れば男が2人、こちらを見ていた。その顔はこちらを嘲笑っている表情だ。

 

「何なんですかあなた達は…」

 

喜びに水を差されイラついているのか強目の言葉で睨むアオイ。するとその態度が不愉快だった男達はーーー

 

「生意気なんだよクソアマァ!」

 

「がふっ!?」

 

いきなり殴りかかってきたのだ。

 

「何をするんだ!?」

 

油断していたとはいえ攻撃を捉えられなかった事に最大限の警戒をする。身のこなしから見ても上位のハンターだろう。

 

「てめえらみてえなひよっこが一丁前にやってんのがムカつくんだよ!」

 

もう1人の男が怒鳴る。もはや言いがかりの領域だ。

 

「あ、あの、ギルド内での抗争は「ああ!?」ひぃ!」

 

恐る恐る受付嬢が注意をするが聞かないどこかドスを効かす2人。ふと、彼らの目線がレオン、いや、レオンの太刀に注がれる。

 

「あ?おいそこのクソガキ、ディオスソードなんて持ってんのか。下位のゴミハンターが調子付きやがって…おい、それよこせよ」

 

なんとカツアゲをしてきたのだ。しかも金銭ではなくハンターの命とも言える武器をだ。

 

「そ、それはダメです…これは僕の力で作った武器です…」

 

それはダメだ。これだけは渡せない。

しかしそんな事など御構い無しに男達は怒鳴り散らす。

 

「何わけわかんねぇこと言ってんださっさとよこs「アイアンパーンチ!」ごはぁ!?」

 

言い終わる前に男の1人がが吹き飛んだ。

 

「な、なんだぁ!?」

 

何が起こったのか全く理解できないもう片方の男。しかしすぐに同じ結末を迎える羽目になった。

 

「くらえ!鋼鉄の義手パンチ!」

 

「うぼぁ!」

 

物理的に硬い拳が男の頬を打ち抜く。哀れな男は地に伏してしまった。

 

「し、ししょ?」

 

突然の出来事に混乱するレオン。

 

「大丈夫かい4人とも。あんなチンピラに絡まれるとは飛んだ災難だね…」

 

どうやら助けてくれたようだ。安心して腰が抜けてしまった。

 

「やれやれ、この左腕は動かないから疲れるんだぞあの動きは…」

 

リーフはそう愚痴をこぼした後、こちらを見て微笑んだ。

 

「さぁ、帰ろう。仲間も連れてね」

 

「っ、はい!」

 

ーーーなお、この後に本来動かない義手を無理に動かした事で重度の破損が確認され、リーフの懐が寒くなったというーーー




実際義手で殴られたら痛そう
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