隻腕の師匠と捨て子の弟子 作:銀髪っ娘にTS転生したいおじさん
ごめんね…
サバァンという波の音、鼻に突き抜ける特徴的な潮の香り。
「ふわぁぁぁ…すげえ…これが…」
感動したように周りを見渡すのは最近上位になったハンター、レオンだ。
彼はバルバレが基本的な活動拠点のために見渡す限りの水という光景を見たことがないのだ。
「ふふ、どうだい?これが海さ!」
なぜか得意げな表情で語るリーフ。彼女も久しぶりの大海原で興奮しているようだ。
「すごいです!すごいんですけど…なんで釣りなんてしているんですかあなたは…」
若干呆れたようにこちらをジト目で見るレオン。しかしそんなことも今は気にならない。
「何を言ってるんだい君は!海と!言えば!釣りだろう!?だからこうして糸を垂らしているんじゃないか!ちなみに私は釣りはうまいぞ!」
クワッとしながら返すリーフ。横に開きかけの酒瓶が置いてあるのを見るともはやおっさんである。
「いや、この船って試作で蒸気機関を動力としているやつなんじゃないですか?魚逃げちゃうでしょ」
そう、今2人が乗っているモノはギルドと国が力を合わせて試作した乗り物なのだ。
その船体はより大きく、外周部は金属製の装甲で守られている。攻撃手段もかなりの改良が施されているらしい。
しかし、何よりも特徴的なのはその動力源だろう。
「今さら蒸気機関とはねぇ。しかもこの最新式の大砲はまだ実践経験がないときた。まあここいらはそんなに凶悪なモンスターは来ないだろうけど…」
蒸気機関。それは一度発明されたもののすぐに改良が止められてしまった技術だ。
常に燃料を燃やす必要性に加えて、モンスターを引き寄せてしまうがとてもではないが使えないとの事らしい。
「おうさ、嬢ちゃんの言う通りだよまったく。わざわざこんなもん作りやがって…どうせ国家権力の増長が目的なんだろうがよ…」
2人の話に、横から男が入ってきた。筋骨隆々で片目には傷が走っている。
「おや、船長じゃないか。船はいいのかい?」
「バカ言え…俺はどうやら指示を飛ばすだけらしいぜ。ならこんな通り慣れた海域なんて部下どもだけで充分だ。あと、コイツは船じゃなくて『艦』つーらしいぜ。どうでもいいがよ」
船長と呼ばれた男は、意地の悪いその問いに顔をしかめながらそう答える。
その顔はかなり不機嫌だ。しかしそれも仕方ないだろう。今まで自分たちで動かしていたものが、多少の人手が必要とは言え機械仕掛けで動いてしまうのだから。
「そうかい…なら、釣りでもどうだい?こんなふ…じゃなくて艦では釣れるもんも釣れないかもしれないけどね」
「へ、わかってんじゃねえか。まあ気分ってやつか?そんじゃ俺もって…んん?」
そう言って横に腰をかけようとした時、艦長はリーフの釣り竿に違和感を感じた。
「おい、嬢ちゃんの竿、引いてねえか?」
「え?そんなこと…ってうわぁ!?」
こんな艦で何を、と言おうとした瞬間、強烈な引きを感じた。
「ぬぉぉぉぉ!?なんだいこれ!?魚!?いや違うよね!?」
「いいから早く上げるぞ!つーかなんで嬢ちゃんの竿と糸は耐えてるんだ!?ピュアクリスタルでも使ってんのか!?」
「大正解!よくわかったね!多分これなら海竜も釣り上げられるってわわわ!!」
「バカか!バカだろ!さっさとやるぞ!おい!そこの坊主も手伝え!うぉぉぉ!!!」
「は、はい!」
焦りながらもどこか間の抜けたやりとりをする2人とついていけない1人は、困惑しながらもとりあえず引っ張り上げる。そして釣りあがったのはーーー
「「「なぁぁぁぁぁ!?」」」
「シャァァァ!!!」
まさかまさかの水竜ガノトトスであった。
「ちょ、なんでコイツがここにいるんだい!?」
「知るか!とりあえず迎撃と船員の待避だ!悪いが嬢ちゃんは片腕がないから待避あたりに回ってもらうぞ!」
「是非もない!レオン、初見だろうが頼む!追い返すだけでいい!コイツは陸でも滑ってくるからそれに気をつけろ!」
緊急でありながらも即座に対応する2人。リーフはともかく船長もかなりの経験を積んでいるようだ。
「ええ!?くそ…やるしかないか…」
流れについていけない上に放置されたレオン。しかし彼もハンターであり、目の前にモンスターの危険が存在するなら逃げるわけにはいかない。
「シャィィィァ!」
「うわ!あぶね!マジかよ!」
水竜の滑走だ。それを可能とするのが鱗だ。その独特の鱗は水を多分に含み、ある程度の時間なら地上でも活動を可能としている。
「陸に上がっても強い魚ってなんだよ!そら!」
そう文句を言いながらディオスソード改で尻尾の付け根斬りつける。
「ギィィ!」
群青の刃が肉を断ち切り、さらに粘液を纏わりつかせる。下の方は鱗がなく、よく刃が通るようだ。
痛みに悶える水竜は、動きを鈍らせながらもタックルをしてくる。
「ぐぉ!」
角竜ほどの威力ではないが、それよりも素早い動きに対応仕切れずに当たってしまった。とっさに防御姿勢をとり離脱を図ったために直撃ではないものの、かなりのダメージだ。
「がはっ…くぅぅ…体が痺れるぅ…」
幸い、骨はどこも折れていないようだ。しかし全身に強い衝撃を受けたせいか動けない。
「シュイイイ…」
自らに傷をつけた小さな人間を確実に始末するべく、口を開ける。そしてその中を水で埋めて行く。
「やべ…動け…」
這いながらなんとか逃げようとする。だが無慈悲な水竜は得意の高水圧ブレスをレオンにぶつけーーー
「1番主砲、砲撃開始」
機械音にすら聞こえる、抑揚のない声が聞こえた。
そしてそれと同時に砲撃音が鳴り響く。
「ギッ!?」
完全な意識外からの攻撃。それも大砲という強烈なモノを受けた水竜はどうすることもできない。
「続いて2番主砲、砲撃開始。1番主砲は再装填を」
しかし無慈悲にもその攻撃は続いていく。
「ギッ」
第2射が水竜の顔面にヒットし爆炎と衝撃が辺りを飲み込む。
「砲撃やめ。砲撃手はバリスタへ移動し、万が一の場合は回収員の援護に回れ」
機械のような人の声がまたも聞こえる。近くにいたレオンが目を開けると、そこには顔面のなくなった水竜の死骸があった。粘液が誘爆したのか、尻尾付近も損傷がひどい。
「うわ…これはちょっと…」
はっきり言ってかなりグロデスクだ。助かったとはいえ、あまりいい気はしない。
そんな感想を抱いていると、横からリーフが走ってきた。
「おおい!大丈夫かい?さすがに唐突な上に初見ではコイツは厳しかったね…ってうわぁ…」
その惨状を前に、やはり彼女も顔をしかめる。
すると周りから見慣れぬ服を着た者達が現れた。おそらく死骸の軽い検査をするのだろう。ペタペタと触りながらメモを取っている。
一通り終わっあと、彼らは頭部のない水竜を回収していった。
「なんか…嫌な感じですね…」
「うん…冷たいというか…生き物としてみてないような雰囲気だね…」
機械のように指示を出した声や、黙々と回収した人達を見て、そんな感想を抱く2人であった。
★ ★ ★ ★ ★
「おおっし!ついたぞ嬢ちゃんたち!ここがモガの村だ!」
「ありがとう船長…じゃなくて艦長か。色々あったけど無事届けてくれて感謝するよ」
「何、海の運び屋をやってんだ。荷物を無事に届けるのは俺たちの仕事さ」
気前の良い船長改め艦長に感謝を述べ、村の中を進んで行く。
「ほへぇ…すごい、水の上に村がある…」
キョロキョロしっぱなしのレオンに苦笑をしつつ、とりあえずは村長に挨拶をしに行く。
「(あの村長は人の心の奥を見透かすからちょっと苦手なんだよなぁ…まあでも良い人なんだけどね)」
と、そんな取り留めもないことを考えながら歩いていると、目の前から人がやってきた。それをみたレオンは…
「し、師匠?あの方はもしかしてモガの専属ハンターさんですか?すっごい厳ついんですけど!」
ビビっていた。遠目からでもわかるゴツい防具にデカイ武器だ。
しかし師匠はそんなことなど気にせず、むしろ進んで行く。そして目の前に来た時、そのハンターが止まった。
「やあラクシュ。久しぶりだ。相変わらず君は厳ついね?ウラガンキン亜種の防具にガンランスとは。彼がビビってしまっている。せめて頭装備だけでも取ってくれないかい?」
その頼みに無言で応じるそのハンター。厳つい兜が取られた時、レオンの目は見開かれた。
「うそ…女性ハンターの方だったんですか…ごめんなさい!」
しかし当の本人は全く気にしていない様子だ。
「別に。事実だから」
しかも口数がかなり少ない。
「本当に相変わらずさっぱりしてるねぇ。まあ一癖も二癖もあるG級ハンターたちを考えると全然良いんだけどね」
「うん、みんなおかしい」
「ははは、随分と手厳しいね」
旧友と再会に談笑をする2人。レオンはそれについていけないが、ここは勇気を出して話しかけるしない!
「あ、あの!僕、レオンと言います!よ、よろしくお願いします!」
女子二人の会話に入るのは非常に神経を使うがこれは仕方ない!しかし、ラクシュと言われたガンランスのハンターは相変わらず気にしていないようだった。
「ん、よろしく。君、リーフの弟子?」
「そ、そうでしゅ!」
噛んだ。恥ずかしくて顔から火炎ガスが出そうである。なお師匠はニヨニヨしているだけだ。
「ぷぷ、噛んでやんの。あ、そうだ。村について多少落ち着いたら私は森へ行くけど、君たちはどうする?」
しっかりとバカにしつつ次の予定を立てるリーフ。羞恥と怒りがさらに加速する。
「うーん、そうですねえ。僕は今日は休もうかな。あと今度、師匠の義手に石詰めて海に蹴落としますね」
「ちょ、それ私死ぬんだけど?」
「3回くらい死んだほうがいいと思います」
「辛辣すぎない?ごめんね!」
ギャアギャアと漫才じみたやりとりをする二人。それを見ていたラクシュはーーー
「…ふふ」
「「ん?」」
「なんでもない」
★ ★ ★ ★ ★
「さて、挨拶も済んだ。早速モガの森へ行ってくるよ」
村へ着き、村長にも挨拶を終えた2人はマイルームに居た。まあリーフはまたすぐに出るようだが。すると…
「まって。私も、行く」
ラクシュが同行を求めてきた。リーフは意外と行った顔つきで見るが、特に断る理由もなかった。
「へえ?いいとも。まさかちょっと外に出るだけで『鉄壁』の護衛がつくとは」
「鉄壁ですか…アンネさんと言いG級ハンターにはなにか二つ名でもつく決まりがあるんですか?」
「そういうわけでもないんだけどね。ただG級ハンターってのは普通はなれない。逆になれるってことはなにか特筆すべきことがあるのさ」
なるほど、その二つ名がその人の戦い方な訳だ。そうレオンは理解する。
「くだらない。鉄壁なんて言いすぎ」
しかし本人は気に入っていないのかすぐに否定する。というよりは遠慮をしているのかもしれない。
「よく言うよ、君のガードは唯の一度も攻撃を通したことがないというのに。それがあったからそこ、単騎で古龍討伐なんて偉業を成し遂げたんじゃないのない?」
例の大海龍の単身討伐。そんなことをできるのは彼女くらいだろう。
しかし、そういうとなぜかラクシュは不機嫌そうな顔になってしまった。おや?なにか地雷でもあったのかな?とリーフは考えを巡らせる。だが思いたる節が全くない。
「人ごとみたい…あなただって、二つ「おっとそこまでだよ」…わかった」
それ以上は言わせないと即座に言葉を切らせる。申し訳ないがそれは
「すまないね。レオンは村の人たちに挨拶でもしてくるといいさ。さあ、森へ行くぞ!」
テンションを上げて出発するリーフ。果たしてなにがそんなに彼女を昂らせるのだろうか…
「あなた、やっぱりよくわからない」
「き、君も辛辣だね!?」
★ ★ ★ ★ ★
「よっしゃぁぁぁぁ!あったぞぉぉお!」
「うるさい」
自然豊かなモガの森。その中で、二つの声が響いていた。
「うるさくせざるを得ないよ!素晴らしいよこれは!これが私求めていた…厳選キノコだ!」
彼女の目当てのものはキノコであった。ちなみに厳選キノコとは、特産キノコのさらに良いものである。見た目、大きさ、香り、味、食感の全てが完璧だとか。
「見てくれ…この素晴らしさを!目で見て、手で触り、鼻で嗅ぐ!ああ!食べる以外でここまで腹を満たせるなんて!」
「ごめん、よくわからない」
意味のわからないレポートをし始めたリーフ。やはりいけないおクスリをやっているのではないかと疑われるレベルだ。
「さあ!これを早速キャンプに持ち帰って」
そこまで行った時だった。横から悪魔がやってきたのは。
その悪魔は2人の横からごくごく自然体でやってきて、そしてーーー
「ヴォー」
「あ」
パクりと、キノコを食べた。
「あ…?」
うまく状況が理解できない。なぜ、私の手にキノコがない?なぜ、横のアプトノスが口を咀嚼している?なぜ、なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ。
なぜ、私がキノコを食べられない?
その想いは、とてつもない怒りとなる。
「アプトノス…貴様…貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
吠える。それは、もはや狩人に非ず。それは、鬼。
「お、おちつい「黙れぇ!」ひっ」
既に友の言葉にも反応できない。
「獣畜生がぁぁぁ!!ぶっ殺してくれるわぁぁぁ!!!!」
「やっ、やっぱり落ち着いて!」
その日、モガの森に1匹の修羅が現れたのだった。
ーーーなお後日談であるが、農場に厳選キノコが少ないながらも栽培されていることを知ったリーフは農場主とそのアイルーに忠誠を誓ったそうなーーー
(一応)ストックしていたネタが切れてしまったZE★。
このクオリティで週一は笑えませんな…