隻腕の師匠と捨て子の弟子 作:銀髪っ娘にTS転生したいおじさん
戦闘シーンありません。この話は特にこれから物凄く絡む予定は(今現在)ないので呼び飛ばしてもいいかもです。
穏やかな波の音、潮の香りを含むそよ風。
モガの村は、今日も平和であった。
ごく一部を除いてはーーー
「いや、誰?」
「お忘れですか!ですが構いません!俺は貴女に逢いに来たのです!」
そう言われても、ラクシュは全く思い出せない。この目の前のロン毛の優男は誰なのだろう。とりあえず言いたいことはーーー
「あなたの装備、防御が足りない」
そんなんで狩りができるのか、いや、できないだろう。
なぜそのような青熊獣のような装備で死地へと行けるのだろう。なめてんのか、なめてんだろ。
そんな思いしか出てこない。
「ふふ、貴女ならそのようにおっしゃると思いました!これは確かにアオアシラです。ですが!G級個体の素材でできている、すなわち!アシラXシリーズ!」
この男、いちいち行動が大げさでうざい。だが実際につけている防具はアシラXだ。これでも本当にG級ハンターらしい。
「あなた、本当にG級ハンターだったんだ…でも、G級なら有名になるはず」
いくらモガが辺境にあるとはいえ、数が極端に少ないG級ハンターともなれば大部分の人物は知っている、或いは耳にしたことがあるはず。だが目の前の男については全く知らない。
「おや?なんだか元気な声が聞こえたと思ったから見に来たんだが…君はつい最近昇格したハンターじゃないかい?」
するとひょっこりとリーフが出てきた。さらに、どうならこのアシラ男について知っている様子だ。
「リーフ、この人のこと知ってるの?G級だっていうけど、私知らない」
「私も聞いただけだけどね、どうやらタンジア所属のハンターみたいだ。性格は見るまで分からなかったけどね…ま、腕は確かだろうさ」
「ふ、ご説明ありがとう小さな
ものすごい勢いで褒められた。いや、褒めるというより讃えるの方が適切かもしれない。
「え、あ、うん。ありがと?(ちょっと、随分とやりにくい相手だけど君の知り合いなのかい?)」
「(ううん、知らない)…あなたはここに何しに来たの?」
ヒソヒソと聞こえないように話し合う2人。男はそれに気づかずにさらにまくし立てる。
「ふ、俺が来た理由など知れたことでございますよ」
「いや分からない」
この男が一人で知っていてもこっちは知らないのだ。説明を求めるぞ。
「よろしい!ならば!端的に申し上げましょうぞ!私が来た理由は一つ!あの日の約束を今、果たしにもらいに来ました!」
ドドン!という効果音でもついてそうな宣言をする怪しい男。なぜかそのタイミングで後ろの岩に波がドッパァン!とぶつかって様になっている。なぜだろう、無性に腹が立ってしまう。
「約束って…君、なんかしてたのかい?」
「ええっと…だめ、思い出せない。私、なんかあなたに言ったっけ?」
うんうんと唸りながら記憶を掘り出すラクシュだが、しかしそれでもその約束とやらは思い出せない。
「貴女が忘れていても俺は覚えています。一瞬すら忘れたことなどありませんとも!」
「ふーん、その約束って?彼女は君になんと言ったんだい?」
「よくぞ聞いてくれましたマドモワゼル!その約束とは、我が恋の成就!即ちーーー」
「「す、即ち?」」
息を飲む2人。それを見た不審者はここぞとばかりに貯めに貯めて…
「結婚であります!ラクシュさん!」
「「…え?結婚?」」
「左様です!」
「「「ええええええええええええええ!!!!!!??????」」」
とんでもない
★ ★ ★ ★ ★
あれから3人、いや4人は村から離れた崖の上に来ていた。ここは静かで景色もいいので、立ち入った話をするのにはちょうどいいのだ。
「さて、では話の続きと行こう…と言いたいんだが…アイシャ?なんで君はここに居るんだい?」
4人目とは、つまり受付嬢であった。ギルドからの仕事があるのではないのか、という意味を込めて批判じみた声で問いかける。
「むしろ私はここにいる権利があります!だってだって!あのラクシュさんが恋色沙汰ですよ!?村の一員として、ギルド職員の一人として、そして友人として私は知りたいのです!それに、お相手は同じG級の『騎士』のアベルさんですよ!?」
アイシャはそう語る。とても熱い。ここだけ砂漠なのかと思うくらいに暑い。
「ふふ、元気の良いお方だ。さて、では話すとしましょう!あれはまだ俺が下位の時でした」
そうしてアベルと呼ばれた男はつらつらと語り始める。
「あれは7年8ヶ月12日5時間31分42.5秒前の時です」
「待ってさっそくおかしいんだけど!?君詳しすぎじゃない!?」
異常なまでの記憶に戦慄しつつ突っ込むリーフ。しかしアベルは自身の世界に入っているのか全く反応を示さない。
「俺はその時、自分の実力もわきまえない愚か者でした。ちょうどその頃、HRが3になったのもあって有頂天になっていたんです。そして己の力を過信した俺は、こっそり上位のモンスターを狩りに行ったんです」
身の丈に合わぬ相手に挑み、呆気なく散る。ルーキーを卒業し、波に乗ってきた頃合いのハンターがよくやらかす愚行である。
「ふーん、言っちゃアレだけど、珍しくもないバカな行動だね。それで?何に挑みに言ったんだい?」
「ちょ、リーフさん。さすがに辛辣なのでは…」
アイシャが若干焦って諌める。
しかしアベルはリーフのかなりきつい言い方にも怒らなかった。むしろその時の自分を恥じている様子にすら見える。
「いや、いいんだ。小さなマドモワゼルの言う通り、あの時の俺は本当にバカでアホなお調子者だったんだ。
…続きを話そう、俺はその時、ティガレックスの亜種に挑んだんだ。いや、挑むと言うより自殺といったほうがいいな」
つい最近下位のティガレックスを討伐できたこともあり、つい調子に乗ってしまったらしい。だが一人前の上位ハンターですらパーティーを組み、十全な準備をして挑む黒轟竜に、下位ハンターなどひっくり返っても勝てるはずがないのだ。
「一瞬だった。目があって向こうが咆哮したら、俺はそれでポッキリ折れちまった。今思えば、アレは得意の特大咆哮じゃなくてただのつぶやきみたいなもんだったんだな。…とにかく、俺はそこで諦めちまった。だがその時だ!ラクシュさんが来てくれたのは!」
「あ、あー…思い出した。あの時の」
それを聞いてようやく思い出したようだ。額に手を当て、うんうんと言いながら記憶を呼び起こしていく。
「お、思い出してくれましたか!」
「うん、確かに7、8年前にそんなハンターが居た。それで、確かに助けた…と思う」
「その時、俺は一目惚れをしてしまったんです!俺よりも小柄で、恐らくですが歳下だったのに…ガンランスを構え、その城塞のような防御でティガレックス亜種の猛攻を全て防いだ。それどころか、貴女は表情一つ崩さなかった!俺は、その出来事から三日後、貴女に告白をしたんです。そしたら…」
「そしたら!?そしたら!?」
なぜかこの中で一番興奮しているアイシャが食い気味に続きを促す。残り2人もなんやかんやでしっかり聞き入っていたようだ。
「『私はG級を目指す。だから、あなたもG級になったらまた話を聞く』そう言いました。だから!俺はその日から必死に腕を磨きました!貴女は天才だった。あれから2年でG級になった。それでも俺はとにかく強くなろうとした!そして約5年の歳月をかけて、G級になったんだ!」
今までよりも一層熱く激しく心情を吐露するアベル。言いたいことは言い切ったと清々しい顔で海を見ている。それを聞いていた3人はというと…
「ロマンチックですねぇ〜!ラクシュさん!これは答えるしかないのでは!?」
「え、ええ?」
「すまない、私は力になれそうにない…ただ…個人的にはこれ、いい案件じゃないかい?」
3人中2人はわりかし乗り気のようだ。やはり予想に反して非常に綺麗で純粋な動機であったからだろう。
「え、ごめん、これ私どうすればいいの?よくわからないからヤダって言えばいいの?」
なお本人は何一つとして察していないようだった…
「いや、あの話聞いてそれは酷ですよ!というか、ラクシュさんが『鉄壁』呼ばれている理由のもう一つ、知ってますか?」
なんともう一つ原因があるというのかと、ラクシュだけでなくリーフも気になってしまう。それを見たアイシャは大きくため息をつく。
「はぁ〜…これだからラクシュさんは〜。いいですか?『鉄壁』とは狩りでの戦い方だけではありません。恋愛系統の感情に異常なまでに疎いからですよ!」
「?」
何を言っているのだろうか、さっぱりもってわからない。確かに恋愛は良く分からないが、それだけで鉄壁と言われるのか。
「ぐ…首をコテっと倒さないでください尊い!ごふっ…ふう、吐血で済みました」
「「いや、ダメじゃない(かい)!?」」
2人揃って的確なツッコミ。アイシャはそれに思わず苦笑してしまう。
「いいですか、ラクシュさん。貴女、はっきり言って非常に男性ウケが良いんですよ。綺麗な容姿も、そのクールで純粋な性格も、ぴこぴこ動く猫耳も!ああ触りたい!触らせて!」
「え!?ちょ!みぎゃー!触らない!」
途中から己の欲望に負けて暴れ出すアイシャ。そしてそれから必死で耳を守るラクシュ。さすがは鉄壁、伸びる魔の手全てはたき落としている。
「失礼、小さなマドモワゼル。突然だが、貴女に聞きたいことがある」
その漫才を見ていると、先程まで風を浴びていたアベルが戻ってきた。
「ん?なんだい?…というのは少々意地が悪いかな。大方、ラクシュが君を認めてくれるかが聞きたいんだろう?」
「そうだマドモワゼル。貴女は彼女の友人とみた。ならば、俺に力を少しでも貸して欲しい!」
アベルはガバリと頭を下げる。ここまでされては断る方が難しいと言ったものだ。
「あー、私もそこらへんは全く分からないからね。力にはなれないかもしれない。それでもいいなら1個だけ案がある」
「む、マドモワゼルは一度も恋愛をしたことがないと?では一瞬見えた栗色の髪のハンターは…?あ、いやそれは踏み込むことではないな。それより、案があると?」
気にかかることがあっても無断で聞かないようにしているようだ。見た目や最初の態度に反してかなり気を遣える人らしい。
「いや、彼は私の弟子さ。というより、彼がこちらを師として立てているんだがね。…さて、ラクシュの案だけね、彼女はそう言ったことにとことん鈍感だ。常に一緒にいれば変わるだろうがそれは難しい。だから、力を見せるのはどうだい?」
「力を見せる?」
いまいち理解ができないと言ったように首をかしげるアベル。その動作は先のラクシュとほぼ同じものだが何故か感じる気持ちが違う。やはり美少女というのはそれだけでステータスなのだ。
「うん、彼女に認めてもらう。そうすれば、今すぐ結婚や付き合いは無理でも友にはなれる。足がかりが掴めるって訳さ」
その手の事に疎い人に直接自分のゴールを求めたところで失敗するのが関の山。そんな事はジャギィですらわかる。否、さすがに言いすぎた。
「なるほど…あまりに遠いゴールには、一歩一歩着実に進んでいくと言った事か」
「そ。十全に準備すれば、まあ意外といい結果になるんじゃないのかな?あ、当社は一切の責任を負い兼ねますよっと」
最後の最後で保身に走るリーフ。しかしそれにも気にせずアベルは手を掴む。
「ありがとう小さなマドモワゼル!貴女のおかげで道が見えた!」
「ちょ、落ち着いて」
ぶんぶんと手を振り回すアベル。初めは片手だけだったが、だんだんとエスカレートしていき、ついに両手を掴もうとする。そしてーーー
「ん?この感触は…。ッッッ!す、すまない!」
義手に触れた。一瞬戸惑った後、その理由を即座に理解したアベルは謝り倒す。だがリーフは全く気にしてなかった。
「あちゃー、びっくりさせちゃったか。いいよいいよ、特に気にしてないし」
「し、しかし…」
あっけらかんと笑うリーフ。しかしアベルはそれでも罪悪感が抜けないようだ。
「うーん、なら一個だけ。もう昔のような無茶はしないようにね?わかってるとは思うけどさ。…この腕も、調子に乗った結果だからねえ」
そう言いながらリーフは悲しそうな、しかし愛おしそうな表情で左手を見つめる。
「ッ…わかった。貴女の忠告、この胸にしかと刻み込んだ。そして、改めて非礼を詫びよう」
「はは、君は真面目だねぇ。見習えとは言わないけど、アンネの適当さも少しは知るといいさ」
「ん?アンネ…『赤いバラ』のアンネローゼか。貴女はなかなさ沢山のG級ハンターの知り合いなのだな」
「ん?おや、言われてみればそうだね。さて、早速このことをラクシュに話してくるといい」
「そうさせてもらおう。どんなものが来ても何も怖くない!」
アベルはそう意気込んでラクシュの元へかけて行く。その背中を見たリーフは一言呟いた。
「恋か…やっぱよく分からないな…」
ーーーここにも一人、鈍感姫の卵がいたようだったーーー
高評価、低評価、辛口感想、甘口感想、誤字脱字、ご要望、都合よく私の事が好きになってくれる彼女、全てお待ちしております。
アベルのキャラ像
紫色のロン毛と同じ色の目。身体は180後半と高めだが身体は細い。なかなか上位から上に行けないむきむき系のハンターからは妬みを込めてモヤシと言われている。武器は片手剣
ギルドから送られた二つ名は「騎士」モンスター相手であっても名乗りを上げ、基本的に絡め手を使わない戦闘スタイルから。
力を見せるにはモンスターを狩るのだが、もし人の言語を理解し、その名乗りに反応するモンスターがいたら…どうなるんだろうか。