隻腕の師匠と捨て子の弟子 作:銀髪っ娘にTS転生したいおじさん
「暑い…重い…熱い…」
星の胎動の影響を直に受ける地底火山。レオンはそこにとあるものを採取しにきていた。今はソレをキャンプまで運んでいるのだが…
「くそ…なんで火薬石なんて…むっちゃ熱いだけど…」
そう、絶対に採取したくないアイテムランキングで映えあるNo. 1を獲得した火薬石である。ただで暑い地底火山の最奥にあるというのに、これ自体がさらに熱いのだ。二重の「あつさ」にG級ハンターですら敬遠するほどらしい。
「なんだよいきなり…さうな?作り始めるって言い出して…つかさうなって何さ…」
事の発端はあのアホ師匠であった。朝起きるといきなり『この家にサウナが欲しいんだ!だから火薬石を採ってきてくれたまえ!』と言い始めたのだ。
「まあ横に置いてあった雑誌だろうなぁ…」
最近、バルバレだけでなく広い範囲で人気になっている雑誌「猟人日記」というものがある。
なんでもあらゆる場所のメジャーな文化から一風変わったマイナーな習慣まで紹介しているらしい。さらにはモンスターの出ない、技術力が発達した極東の国についても僅かに記載があるらしい。ただほぼ鎖国状態なのでどうやって行ったのか疑問である。
「ギルドナイトが出版社に事情聴取を行おうとしたものの、支社は全て雇われであり、本命には至らなかったか…怪しい…」
そんな事を独り言ちながらせっせと運んで行く。4個の依頼のうち、既に3つは終えておりこれで最後だ。
「頼むよ…何も起こらないでくれ…早く終わりたいんだ」
邪魔がこない事を祈るレオン。しかしいつも運命というやつは意地が悪いものだ。
「ォォォォォ…」
何かの咆哮が聞こえた。場所的にもあまり遠くないだろう。
「うげ…でもこの坂を下れば終わりだからさっさとーーー」
そこで言葉が切れた。いや、出てこなかったと言うべきか。
「…」
「…」
爆鎚竜と目があった。その出会いは絶対の偶然。人はこれを必然或いは運命と呼ぶ。あまりに運命的な出会いに、1匹と1人の距離は次第に縮まって行く。そして遂に愛の告白をーーー
「ゴォォォォォ!!!」
「なぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そんな事はなかった。むしろ縄張りに入いられた事に怒っている様子だ。
「ごめんごめんごめん!!!だから見逃してー!!!」
「ゴァァァァァァァ!!!!」
必死に許しをこうが爆鎚竜がそんな事を理解するはずもなく自慢の転がり攻撃でどんどんと距離を詰めてくる。
「くっそ!坂だから向こうが有利だ!…まずいな、追いつかれる」
あまりにも不利なレースを強いられているが、ここで引くわけにもいかない。これさえ納めればクリアなのだ。
ーーーそんな雑念が足を鈍らせたのだろうか。
「あっ?」
足がもつれて転んでしまった。
「あっ?あっあっあっあぁぁぁぁーー!!!」
なんとか全身で火薬石を覆う事でソレ自体は守ったものの、自身が丸くなった事で急に加速してしまったようだ。
「ぁぁぁぁーー!!熱い痛い目が回るーーー!!!」
異常な勢いで坂を転がって行くレオン。その速度はなんと爆鎚竜に迫る勢いだ。
「ゴァァァ…」
やがて丸まっている事に限界がきたのか、転がるのをやめてその場にとどまる爆鎚竜。その目は恨めしげにレオンを見ている。地味に対抗心を燃やしていたのだろうか?
「ああああああ助けてええええ」
しかしそんな事に気づけるはずもなく転がり続けるレオン。もはや自分では止められないのだ。そうしてゴロゴロとしばらく回った後、ようやく勢いが弱まってきた。
「はぁ…はぁ…はぁ…き、気持ち悪い…背中痛い…身体の前側が熱い…」
まさしく満身創痍。今までで一番(精神的にも)参っているのではないだろうか?
「ぐ…でもこれを納品すれば、それで終わりなんだ…!」
もうベースキャンプは目の鼻の先だ。あと少し、あと少しで終わるんだ。そう思い動かない身体に鞭を打って無理矢理立つ。そうして歩き出したその瞬間ーーー
「え…?」
トンッ
軽い衝撃が走った。しかしそんな事は些事だ。いや、今目の前の光景を見れば全ては些事であろう。
火薬石が、リアルタイムで落ちているのだ。
人は極限の集中力を発揮した時、あらゆるものがスローに見えるという。それを今まさにレオンは体験しているわけだ。
しかし周りがスローになったところで自分が早くなるわけではない。レオンは、落下する火薬石を見る事しか出来なかった。
落ちる、落ちる、落ちる、そしてーーー
パキャ
粉々に砕け散った。
「は?」
自分は何を見ているのだろう?火薬石が落ちている。なぜ?自分が最後の一個を落とした?なぜ?
回転する思考は、後ろから走った僅かな衝撃の事を思い出した。
ギリギリと首を後ろに向ける。するとそこにはーーー
「二、ニャーン…ニャハ!…ごめんニャ…」
黒い毛並みのネコ型の獣がいた。
その名をーーー
「メラルー…」
魂が抜けたように下手猫の名を呟くレオン。しかしその呟きは徐々に大きくなっていく。
「メラルー…メラルー!メラルー!!!めぇぇぇぇらぁぁぁぁぁるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
「ギニャーーーー!!!」
背中の太刀を抜刀し、そのまま斬りかかる。レオンが繰り出した技は抜刀術という難易度の高い技であった。だが彼はそれを一切無駄の無いフォルムかつ神速とも言える速度で繰り出した。「我が剣、一の太刀にて音を超える」という少年ハンター向けの物語が一時期流行ったが、今のレオンは確実にそれを超えている。
周りに生えていた草が切れ、樹木すら横に両断されている。しかし当のメラルーは殺気を呼んだのか紙一重でしゃがんだようだ。
「避けてんじゃねえええええ!クソネコォォォ!」
「ニャー!ゆ、許してニャー!!!」
刃を返し、縦横無尽に武器を振るう。レオンが一太刀振るうごとに木が切れ、草が切れ、巻き込まれた虫が切れる。その虫が砕けずに綺麗なまま両断されているところを見ればその圧倒的な技術が計り知れるだろう。G級ハンターもかくやと思うレベルである。
しかし殺気が溢れすぎているのかメラルーは常に紙一重で避け続ける。なお必死に命乞いをしているがレオンには聞こえていない。
「逃げんなぁぁぁぁぁーー!!!」
遂に痺れを切らしたレオンは武器を投げるという暴行に走った。初撃の抜刀術の数段早い速度でディオスソードが飛んで行く。それは岩やモンスターを含む進路上にある全ての障害物を切り裂いて飛んで行った。
「ニャニャ!?こいつホントにハンターかにゃ!?って!ギャニャ!」
「つぅかまぁえたぁ!メラルーちゃぁん!」
いつのまにか目の前にいたレオンがメラルーをつかんだ。
投げられた太刀は囮だったのだ。僅かに逸れた注意に漬け込んで下手猫を捕縛する作戦だったようだ。
犯猫を捕まえれたレオンはその整った顔を盛大に歪める。先ほどの爆鎚竜が見たら一目散に逃げ出す事間違いなしだろう。もちろんメラルーなど捕まった瞬間に終わりだ。
しかしメラルーはここで会心の一撃を繰り出した。
「ごめんニャ!でも火薬石ならボクたちのアジトにあるのニャ!だから離すのニャ!苦しい!」
なんと火薬石があると言うのだ。それならばわざわざ苦しめ続ける必要ない。
「そうかい?なら案内をお願いできる?」
打って変わって爽やかな笑顔で「お願い」をするレオン。それを見たメラルーは震え上がるしかなかった。
「(こいつ…実は二重人格じゃにゃいのかニャ?)」
★ ★ ★ ★ ★
「ここがアジトニャ!そしてこれが火薬石ニャ!持ってくニャ!」
アジトに紹介されたレオンはいろいろもてなし(という名の安全確保上の接待)を受けたがさっさと火薬石を出せと言っていた。
「わあ!ありがとう!さ!運んで!」
「…ニャ?」
どういうことか?ハンターが運ぶのではないのか?そう思って首をかしげると…
「君がやらかしたんだから、君が運んでくれよ?」
殺気を湛えながらまたONEGAIされてしまったメラルーであった。
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「いやー大変だったねぇ!でもおかげでいいサウナが作れそうだよ!」
そう言って肩を叩くリーフ。しかし本人からしたら確実に黒歴史だ。
「めっちゃキレてた…恥ずかしい…」
「まぁまぁいいじゃないか。…さて!早速サウナが出来たぞぅ!暑さは…ちょうどいい!これで水を使わずに風呂に入れる!」
そんなレオンの後悔など何処吹く風でサウナを完成させるリーフ。
「はぁ…よかったですね…僕は酒でも飲んできます…」
そう言ってまた外に行こうとするレオン。しかしなぜか後ろから掴まれてしまった。
「師匠?」
何かと思い振り返るとーーー
「何を言っているんだ!さぁ!共に入ろう!ほらほら!」
とんでもない事を抜かしてきやがった!
「な、なな、何を言ってるんでしゅか!」
噛んでしまった。しかしそんなことはどうでもいい!何を血迷っているのだろうかこの人は。
「大丈夫だ!事故が起きても私と一緒さ!1人じゃ死なないから!だから一緒に入って!お願い!」
道連れの人注だったようだ…
「ふざけんな!1人で入ってくださいよ!人の気持ちも知らないで!てかなんでもうバスタオルなんですか!み、見える!見える!」
「何がだい!?というかなんの話をしているんだ君は!さぁ!逝こう!」
グイグイとこちらを引っ張ってくるリーフ。自分のタオルは全く気にしてないのでどんどんずり落ちていく。
「わかった!わかった!入る!入りますから!先入ってて!」
遂にレオンは観念して入る事にしたのだった。
なおサウナは意外とよかったようだ。
ーーーその後、気分が落ち着いたリーフが自分のやらかした事に気づき、また一悶着あったようだがーーー
短いけど多少はね?