隻腕の師匠と捨て子の弟子   作:銀髪っ娘にTS転生したいおじさん

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※戦闘描写はほぼゼロなので後々前話と統合する可能性がありますが、とりあえず今は独立した1話として投げます。


22話

炎戈竜を仕留めた2人が炎王龍と対峙してから、既に半刻はたっただろうか。

 状況は良くも悪くも変わっていない。

 

「どう、しますか…?」

 

王の鋭い眼光を浴びながらもなんとか声を絞り出すレオン。正直、今すぐ背を向けて逃げ出したい。

 

「…とりあえず、目を逸らすな。そして不用意に動くな。アレを刺激するのが一番まずい」

 

ここで下手に動いては2人まとめて爆殺されるか丸こげにされる事請け合いだろう。2人は一瞬の油断もせずに王を見続ける。

 しかしこのままではどう考えてもこちらがやられる。ならば、多少強引にでも撤退すべきではないか。

 

「僕のリオレイア亜種の防具でもヤツの炎は…」

 

そう思ったレオンは自分の防具を使い捨てる事で脱出できないかと問う。だがリンシンの返事は変わらなかった。

 

「やめておけ…あの炎が見えるか?あれはな、龍炎と呼ばれるヤツ特有のものだ。

 詳しい原理はわからないが、龍炎はあまりにも高温だ。リオレイア亜種と言えど、1秒ともたない…ッ…」

 

話している途中に、その蒼い眼が一瞬リンシンを見据えた。睨まれた?否、王にとってはただチラッと見た程度だろう。

 だが、それでもなおあまりある威圧に、リンシンは最後まで喋り切ることができない。

 

「でも、このままじゃ…」

 

「ッ…わかっている。わかってはいるが…くそ…」

 

打開策が思いつかぬまま徒らに時が流れていく。

 とはいえだ。1時間か、それ以上か、極限の集中を維持し続けている2人は限界が既に見えている。このままでは集中が切れた途端向こうが動き、そのままなす術もなくやられてしまう可能性が高い。

 

「動きましょう…。このままでは確実にダメです」

 

レオンが2回目の提案、いや、催促をする。確実な死が待つ静観か、僅かでも生き残る可能性がある行動か。答えは後者だろう。

 それを聞いたリンシンは苦虫を潰したような顔で最終手段を提示した。

 

「…わかった…では3つ数える。そしたら同時に別々の方向に飛び出すぞ。…どちらかは生き残れるだろう。悔しいが、それしか方法はーーー」

 

だが、そううまくはいかないのが世の常というものだ。

 

「やばーーー」

 

「グルァァァァァァ!」

 

 2人が事を動かす前に、王が高らかに吠えながら翼をはためかせる。そして、カチッと歯を打ち鳴らした。

 

「ぁーーー」

 

 直後、周囲一帯を大爆発が襲いかかった。

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

「ご歓談中、失礼いたします!緊急の要件です!」

 

ギルド本部古龍部門の部屋に、一通の連絡が入れられる。

 

「これが歓談に見えますか?…それで?なんですか?最近はモンスターの生態系がいかれててこっちまで忙しくなっているんです。手短にしてくだいよ」

 

話かられた痩せた男は不機嫌さを隠しもせずに伝令にぶつける。だがその顔は、次の瞬間には驚愕に変わった。

 

「は!火山地方へと採取へ行っていた上位4人組ハンターPTより、炎王龍テオ・テスカトルの目撃情報が寄せられました!」

 

「は?…オホン…失礼、あまりに突然のことでしたので。それで?彼らが見たのは何日前です?あとこの個体の様子は?」

 

あまりにも突然な報告に思考も行動も停止する。だがそこはブラックのギルド本部勤務の職員。噂では24時間中28時間労働だとか、究極の61連勤とか。

 とにかく、伊達にこの若さで本部にいるわけでないのだ。

 

「彼らによりますと、最後に見たのが6日前です。またテオ・テスカトルの様子でしたが、周りにテリトリーの侵犯者がいたわけでもないのに気が立っていた様子だったそうです。

 またそれに呼応してか、奥地ではなく下の方に降りていたとの事です」

 

「なるほど、古龍の目撃はその火山の一件だけですか?」

 

「いえ、それが他にも何件か情報があります。場所は氷海と古代林で、該当モンスターはそれぞれクシャルダオラ、キリンになります」

 

「ふむ…鋼龍と幻獣が…幻獣まで出てくるとは…」

 

研究員特有の矢継ぎ早の質問にも動じる事なく返答する伝令。それを尻目に職員は思案を開始する。

 

「…………………………………………ああ、申し訳ない。もうよろしいですよ。むしろ気が散りますのでさっさとお帰り願います」

 

「は!失礼します!」

 

若干八つ当たりが含まれるキツイ言葉にも全く反応せず退出する伝令。その様はもはやどこかの国の衛兵と言っても違和感がないくらいだ。

 

「はぁ…この忙しいの時に古龍…偶然じゃないんでしょうね…」

 

1人残されたー自分から残ったのだがー職員は自分の予想が当たらない事を祈った。

 精神負担のためにも、世界のためにも。

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

ーーー耳鳴りがひどい。周りもぼんやりとしか見えないし感覚もない。

 というか、どうなったんだっけ?

 

「ーーン!レーン!」

 

ああ、でも誰か僕を呼んでいるな。ええっと確か炎戈竜を討伐してーーー

 

「レオン!レオン!聞こえるか!?返事をしろ!」

 

そうだ!確か僕は帰りに古龍に会ったんだ!なら、この声は主は…

 

「ぷはっ!はぁ!はぁ!はぁ!」

 

「おお!起きたか!なんとか間に合ったようだ!」

 

意識を無理やり覚醒させ、肺に酸素を取り込む。それに呼応して血流は一気に流れ始め、身体も起こしていく。

 

「ぼ、僕は……そうだ!テオ・テスカトルは!?というか、あの爆発をどうやッ!?ゴホッ!ゴホッ!うっ!」

 

とにかく状況を把握しなければならない。そう思い一気に捲し立てたのだが、聞き終える前に咳、ついで吐血をしてしまった。

 

「待て待て、とりあえず落ち着け。ほら、回復薬グレートだ」

 

「あ、ありがとうございます…ん…ゴフッ!なんか、息がしづらいな…?」

 

貴重な回復薬を受け取ったレオンだが、腹に流し込む途中でまたむせてしまった。しかも息苦しい。

 この感じは…そう、熱い蒸気を不意に吸い込んでしまった時のような感じだ。

 

「急いで飲むな。ゆっくり、ゆっくりと少量ずつ流し込め。

 それでその息苦しさだがな、先の爆炎を吸い込んでしまっていたようなのだ。ま、お守りがわりに持っていた生命の大粉塵を吸い込ませてたからもう平気だろう」

 

生命の大粉塵。それは粉状である特殊な回復薬の最上位のものである。もちろん希少価値は高く値段も相当張る。上位ハンターでは1個買うのが限度だろう。

 

「そ、そんなものを…!?」

 

それを自分のために使ってくれたとは…

 

「気にするな。それで命が一つ助かったのなら釣りが余りあるくらいだ。

 さて……もうすぐ回復するだろうから動き始めるが…アレから逃げるためにまた奥地へと行ってしまった…」

 

「いやー逃げられただけマシですよ!僕の装備とか炭になってるし…はぁ…」

 

あの爆発を受けたおかげでレオンの桜火竜の防具は黒く脆くなっていた。これではむしろあるだけ邪魔だろう。

 

「お、おお…防具を捨てるとは思い切りが良いな。

 よし、ここからは退却戦になる。なるべく避けるように進むが最後は絶対に交戦するだろう。それまでに何か作を…」

 

「ありますよ!」

 

「む?……ふぅむ……」

 

防具をほぼ完全に捨て、身軽になったレオンは元気よくそう叫ぶ。

 それを聞いたリンシンは疑問を抱きつつも、それを信じる事にした。

 

「わかった。その作は歩きながら聴こう」

 

なおこの時、リンシンの頭には小さな煩悩が発生していた。それはーーー

 

「小柄だが引き締まった肉体…しかもイケメン…婚活…」

 

「???何か言いました?」

 

「ん゛ん゛!な、なんでもないぞー!さあ!その作を聞こうじゃないか!」

 

露骨に話題を逸らしたリンシンであった。

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

ーーーああ、とても腹が立つ。

 

この地に踏ん反り返っていた魚もどきも、それを倒したニンゲンも。

 そして、この自分が、王たる自分が他者を恐れて逃げている事が何よりも苛立たしい!!!

 

しかも腹いせにあの2匹のニンゲンを焼き払おうとしたのに奴等は小癪にも逃げた。

 

……落ち着け、あの2匹はどうせまたここにくる。それに片方には重傷を負わせられた。もう片方は咄嗟に隠れたが…。あれは同族にあったことがある動きだった。もしアレが完全な状態で時間をかければ自分ももしかしたらーーー

 

 だが…ニンゲンは暑くても寒くても生きていけない脆弱な生物だ。この屈辱、この鬱憤はすぐに払える。それまでの辛抱だ。

 

一つ気になるのは、そのニンゲンについていたものだが…あれはユミ、というものを小型化させたものだろうか?まあ気にすることではない。何もかも、一気に爆破して焼き払えば良いのだから。

 

 

 

 

 そら、耐えきれずにのこのことやってきたぞ。瀕死のニンゲンも回復しているがそんなことはどうでも良い。

 まずは周りを囲むように粉を撒き散らそう。そして歯ではなく自慢の火炎で爆破と焼却を同時に行おう。それなら奴等は骨も残さずーーーーーーがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

なんだ!?あぁ!痛い!痛い!

 

      冷たい!

 

くそが!一体何が起き………て………?

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

「それで?何か作戦があるのだろう?」

 

時は彼らが移動を開始した時にまで巻き戻る。

 

「はい!これを使うんです!」

 

そう言ってレオンはポケットからとある球を取り出す。

 

「それは…?ふむ、妙にひんやりしているな。青…と白が混ざっているな。幻想的なものだな…これ、芸術品としても売れるぞ?」

 

その球を手に取り、まじまじと見るリンシン。しかし美しく冷たいということしかわからなかった。

 

「僕もよくわかってません。でも師匠が行く時に渡してくれたんです。『なんかあれば使ってくれ』と。師匠なら大丈夫です!今はHR1だけど…昔は強かったらしいですし」

 

「ほほう、貴公にも師がいたのか。HR1は気になるが…踏み込まないでおこう。ま、その方を大切にするんだぞ」

 

「はい!大好きな師匠です!本人の前では言えないけど…」

 

若干顔を赤らめて大好き宣言をするレオン。それを見たリンシンは早速敗北してしまった。

 

「ぐっ…そ、そうだな…。そ、そうだ!その球だが投げて当てるのは至難の技だろう!私は『スリンガー』というものを持っているのだ!まあ試作品だが…」

 

聞き覚えのない単語に首を傾げるレオン。聞けば最近見つかった「新大陸」に行く集団が持つ小型の弩らしい。

 本来は一般の手には渡らないが、リンシンは火の国防衛の要であるが故に試作品を譲ってもらったとか。

 

「なるほど、それならすぐに投げれるし狙いもつけやすいですね!」

 

「そういうことだ。…そろそろ会敵するぞ。

 では作戦の確認だ。まず敢えて目の前に飛び出して大技を誘う。そして一番油断する攻撃の直前にこれを打ち込んで、あとはスタコラサッサ行く」

 

「単純ですけどわかりやすくていいですね」

 

「この場に及んでへんにややこしくするより万倍マシだ。…おしゃべりはここまで。いたぞ。よし、いつも通り3数えるから、そしたら出るぞ」

 

「わかりました…」

 

「3…2…1…今!」

 

合図と共に角から弾けるように身を出す2人。それを即座に認識した炎王龍は先ほどよりも大きく翼をはためかせて粉塵を撒き散らす。

 

「まだ…まだ…焦るな私…」

 

そして周囲一帯が粉塵に塗れると、炎王龍がついに大きく口を開けた。その奥には、遠目でもわかるくらいの龍炎が滾っている。

あれをくらえばどうあがいても即死。だが既に避けるための岩などない。否、あったとしても岩ごと消し飛ぶだろう。まさしく絶体絶命のピンチ。

 

ーーーだからこそ、弱者は強者に勝るのだーーー

 

「くらいやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

獣のような咆哮と共に青白い球が炎王龍の顔に飛んでいく。そしてーーー

 

「グルァァァァァァァァァァ!?ァァァァ!!」

 

「ぬぉぉぉぉ!?」

 

「わぁぁぁぁぁ!!!」

 

ーーー辺り一帯を氷が覆った。

 

「ぬおお!寒!と、とりあえず走るぞレオン!」

 

「は、はい!うひょう!火山で寒くなるとは!てかテオ・テスカトルは!?」

 

マグマ滾る灼熱の地で寒さに震えるという異常事態に文句を言いつつ炎王龍を見やる。そしてその姿を見て2人は絶句した。

 

「嘘だろう…炎王龍の顔が半分凍ってる。…死んではないが随分な痛手を負わせたのか」

 

「なんなんださっきの球は…師匠のことだからまたロクでもないものなのかな」

 

顔面の半分が凍り、苦痛に呻く炎王龍を背に2人は全力で火山を後にした。

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

「ただいま戻ったぞ…報告すべきことがある。ギルドマスターはいるか?」

 

「つ、疲れた…」

 

あの衝撃的な出来事(犯人は自分達)から帰還した彼らは火の国のギルドでぶっ倒れていた。

 それもそのはず、後ろから炎王龍が来るといけないという事で本来2日3日かけて戻るところを1日で突破してきたのだ。そして、その強行軍の代償がこれというわけなのだ。

 

「お疲れさんでしたね。恐らくリンシンくんの言いたいことは既にギルド本部より通達されてますよ。後日、G級ハンターさんがくるそうだと」

 

どこか抜けた口調でそう伝えるギルド受付嬢。タバコも吸ってるし職務怠慢ではなかろうか?そんな事を考えていると目があった。

 

「そっちがレオンくん?会いたい人がいるそうだよ」

 

「え?誰ですか?」

 

会いたい人?しかし自分にはこの国に知り合いはいない。…つまりその人はこの国の人ではないということか。

 

「んー、考えてることは大当たり。ちなみにもうきてるよ。具体的には君の2.5歩後ろに」

 

「ふぁ!?」

 

びっくりして後ろを向くと、そこにはーーー

 

「ふぇぇぇぇぇん!無事でよがっだよぉぉぉぉ!」

 

号泣するお師匠様がいらっしゃいました。

 

「わ、わかった!わかったから落ち着いて!周りから変な目で見られてる!リンシンさん助けて!え!?羨ましい!?だあらっしゃい!」

 

なおも泣き続けるリーフの手を取りとりあえずギルドの建物の裏に逃げ込んだ。これだけ見たら妹の世話をする兄の姿だ。

 

「はいはい、僕は無事ですよ!というか聞きたいことあるんですけど、あの変な球、何が入ってたんです!」

 

「ぐすっ…よかったよぉ…。…それと、あの球の素材は秘密だよ。さあ、モガの村に帰ろーーー」

 

帰ろう、そう言おうとした時だった。

 

ーーー目の前から紙を持ったラクシュが現れたのは。

 しかも薄笑いを浮かべており、横のアベルはオロオロしながらも何も言えないようだ。

 

「リーフ?これ、なぁに?」

 

「さ、さてねぇ?わわわわ私は何もしししし知らないよよよ」

 

「師匠師匠、声が震えてます。これなん……………………………………なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

それは、ギルドからの請求書であった。その額、迫真の3千万ゼニーである。

 

「洗いざらい吐いてもらう。何を頼んだの?」

 

有無を言わさぬ威圧感を放つラクシュに、リーフは縮こまるしかない。というかこの威圧感、あるいはテオ・テスカトルよりも…?

 

「…種」

 

「え?」

 

「キリン亜種の…角の一部をコネで買い取りました…」

 

「ーーーーーーーーーーーへぇ、そうなんだ。ふんふん。なるほどなるほど」

 

訂正、あるいはではなく確実に超えている。横にいるだけなのにちびりそう。

 

「とりあえず私たちは他のハンターとここの古龍狩るけどリーフは戻るんでしょ?とりあえずの罰として着くまでこれつけて」

 

「ちょ、これはさすがに」

 

はい、と渡されたもの。それはロープのついた看板だった。

看板には「私は貴重な古龍の素材を気軽に消耗品にした問題児ハンターです。許してください」とあった。

 だが怒り心頭こラクシュはさらにどぎつい提案をする

 

「なら、メイド服と猫耳でもつける?」

 

「申し訳ありません閣下、すぐにつけます。レオン!帰るぞ!」

 

即座に踵を返して逃げるリーフとそれを追いかけるレオンであった。

 

ーーー尚、その後、火の国で看板を下げた変なハンターがいたと少しの間噂になったーーー




あと、あと少しの辛抱なのだ…頑張るのだ

ブラボを久々にやったらなんかMHと組み合わせられるんじゃないかと思った。まだ書いてみるか決めてないから気軽に答えて欲しいです。仮に書いてもオッケーが多くても本当にやるかはわからないです。

  • あり
  • なし
  • ありより、でも世界観難しいんじゃ?

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