隻腕の師匠と捨て子の弟子 作:銀髪っ娘にTS転生したいおじさん
水が豊富で温暖な地域に存在し、他とは一風変わった木を重視した木造家屋が立ち並ぶ村、ユクモ。
安定した気候ゆえに多くのモンスターや資源が存在し、村の大きさに反してかなりの繁栄ぶりである。
だが、やはりユクモ村の目玉といえばーーー
「ふぉぁぁぁぁ!早速温泉がありゅぅぅぅ!しかもたくさん!」
「ア、アンネ?ちょっと落ちつこうか?それにまずは宿に行くんだろ?」
ーーー温泉だろう。
現に、5人はソレ目当てできているのだから。まあG級ハンター3人も揃って訪れるのは色々と問題がある気もするが…
「なぁーにを言ってるんだ!まずは早速温泉だろう!?さぁ!さぁさぁさぁ!リーフちゃんも来なよ!ラクシュちゃんも!」
「ちょ、ま、荷物とかどうするんだい!?」
全く人の話を聞かないアンネ。そこまで楽しみにしていたのかと若干引きつつも、かわいいところもあるじゃないかとリーフを除く3人は微笑ましく見守る。
「…まあ、荷物は後でもいいんじゃない?G級バッチおいとけばさすがに取られないでしょ。それに、取ったら私のガンランス実験の餌食になってもらう」
正直ラクシュも早く入りたいようだ。
ちなみに彼女が入りたい温泉は疲労回復の効果を持つ白濁の湯を持つ温泉らしい。だが一つ、そこには問題があった。それは…
「ふむ、それはいいが…そこ、混浴ではなかったか?」
「ふぁ!?」
アベルの爆弾発言に目を剥くレオン。 いや、先に言ってくれただけ至近距離での爆破は避けられただろう。まあ目の前で大銅羅を鳴らされるか、10m離れたところで鳴らされるかの違い程度だが。
「私は気にしない。そこの2人は?」
「いや、私も特に…まあこんなナリだし…」
「よくない!リーフちゃんはすぐに自嘲するのをやめなさいっ!やめないなら今日の夜は2人だけで別の旅館に…「わかった!止める!やめますから!」…そこまで必死に否定されると泣きそう」
「君が泣くとか天地がひっくり返ってもありえないだろ…むしろ、いっそ本当に泣いてくれた方がいい」
「ちぇ、ばれたか〜」
漫才を広げながらも特に気にしていない3人。もともとユクモでは混浴文化はかなり栄えており、気にする人も少ない。
ーーーもっとも、そんなことは知らないレオンは気にすることしかできないがーーー
「だ、そうだ。ではレオン、行こうか」
「いや、ちょ、まち、え、えぇー!?」
半ば引っ張られるような形で温泉浴場まで連れて行かれるレオン。抵抗虚しくずるずるとそのまま温泉の建物の前まで連れられてしまった。
「ふっふーん?弟子くん、もしかして恥ずかしがってる?んん〜初々しくていいねぇ〜。まあ、バスタオルを巻いて入るのが規則だけどね!」
「よ、よかった…」
ちゃんと隠して入れることができる、ということに安堵するレオン。それを見たアベルは同じ男として苦笑している。
「はっは…全く、お前はもう少し度胸がいるな。狩りでは勇敢らしいじゃないか?それをここにもだな…おっと、とりあえず脱衣所だ」
脱衣所に到着し、それじゃ、と言って一旦別れる5人。
男エリアに入ったレオンは、いきなりアベルからとあるアドバイスをうけた。
「お前、あのマドモワゼルが好きだろ?」
「ぶふっ!?い、いきなりなんですか!?」
なんの脈絡もなく、いきなり点火した大タル爆弾Gを投げつけられたレオンだが、そんなことなど御構い無しにアベルは話を進める。
「いや、あの現場を見て『いや何も思ってません』は流石に無理があるぞ…。なに、そう恥ずかしがることじゃないさ。
ただ一つ、アレはラクシュさん以上の壁、というよりも…むしろ実体のない霧や霞に近い。こちらのアタックを防ぐのではなく、そもそも通じない。
だから、今がチャンスだぞ?ふっふっふ」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながらこちらを見るアベルは、「騎士」ではなく1人の男ーーちゃんと常識はあるーーであった。
「いやでも…僕は…………」
「そう思ってな、とあるモノを用意したのだ…あー、これじゃなくて…これだ!」
手荷物の中をゴソゴソと漁り、奥から半透明で、桃色の液体が入った小瓶を差し出してきた。
「こ、これは…?」
「これはな……………惚れ薬だ!!!!」
「んなぁ!!!???」
惚れ薬!?そんなモノを渡してきたのかこの人は!というかそんなモノあるのか!
「いや、いやいやいやなんですか惚れ薬って!第一こんなモノダメでしょ!『騎士』なんじゃないんですか!?」
「まあ落ち着け、これは合法だ。本来は気性の荒い動物に使う訳だが…これをマドモワゼルに使うのだ…。
手順はこうだ。まずは風呂上がりに『コーヒー牛乳』或いは『フルーツ牛乳』を買ってやる。そして開封したそれにコイツを入れて渡してやるんだ」
つまり一服盛れというわけだ。
だがこの方法、成功率は高い。理由は一つ、リーフがほぼ無警戒(対アンネを除く)だからだろう。
だが………
「いや、そのそれ、道徳的にいかがなものです?」
「そこは安心したまえ。これは偽りの感情を作るのではなく、奥底に潜む『好意』に反応してソレを表面に引き摺り出すのだ。
さあ取れ、もう時間がないぞ!」
グイグイと取らせようとしてくるアベルだが、その話を聞いたレオンもちょっと乗り気になった。なってしまった。
これがあればあるいはと、そう思ってしまったのだ。
ーーーそれが運の尽きなのだがーーー
「こんにちはお二人とも。レオンはお久しぶりです。アベル様につきましては初めましてですね?」
ーーー冷たい、冷たい声が聞こえた。
それを聞き、2人は恐る恐る背後を確認する。そこにはーーー
「私、ギルドナイトに所属しているオットーと申します。
用件は一つその薬を渡しなさい?あまり手荒な真似は好きではないのでね」
ーーー営業スマイルを浮かべた大剣使いのギルドナイト、オットーが仁王立ちしていた。
★ ★ ★ ★ ★
「いや〜気持ちよかったねぇ〜」
「なんか悔しいけど全面的に同意するよ。アレは素晴らしい、最高だ…」
結論から言って、温泉は最高だった。それはもう天にも登ると言っても過言ではないくらいには良かった。
ただアンネの言うことに素直に同意するのはなぜか抵抗があるが…
「なんでそんなに悔しがるの?気持ちかったでいいの」
「ぐっ…正論だ…」
ぐうの音もでない。ーーぐっ、とは言ったがーー
「それで…なんで男2人はだれているんだい?なんかこう、怪しい企みをしようとしたけど直前でバレてオシャカになった感じ…」
「「な、なんでもないです!ええ!だからそんなに詳しく想像しないで!」」
なぜここまで事細かに想像できるのだろうか?実は現場を見ていた、と言ってもなんらおかしくないレベルである。
「アベル、怪しい…。でも今はこぉひぃ牛乳?の方が大事。んぐ…ぷはぁー…」
ジト目でこちらを見るもコーヒー牛乳の方が優先度が高かったらしいラクシュは、腰に手を当てて一気に飲み干してた。
普段は爆鎚竜亜種の防具と発掘武器しか身につけていないラクシュだが、今は動きやすい私服である。髪も結んでおらず、いつもと雰囲気が変わって新鮮だ。
なおアンネは防具を重視しておらず、リーフは防具をつけていないのでいつもと変わらない。
「とりあえず、次なにするかきめな〜い?個人的には村の観光がおすすめかな?ここ町みたいに発展してるし」
「「「「いいね(ですね)」」」」
珍しくまともな提案に、断る理由もないと乗る4人。
「うへへぇ…あのギルドナイトからスった惚れ薬…今日の夜に…ぬへ、にゅへへへへ…」
ーーーアンネローゼが悪魔の笑いを浮かべている事に彼らは