とある小人の昔話   作:初代小人

2 / 2
私は少し他人を騙すことに長けすぎていたし、慣れすぎていた。
そうでなければあるいは私はこんなことになっていなかったのに




季節は流れて、夏も、秋も例の勉強会は開催されていた。

具体的に言うならば月一のペースで。

 

 

それは即ち私と件の女の子二人の親交も続いていたということである。

といっても勉強会以外では廊下ですれ違った時に挨拶をする程度のものだったが。

 

 

今から思えばこの頃から私はその2人のうちの一人に惹かれ始めていたのだろうけれど、半年ほど前の失恋が尾を引いて目を逸らして心に蓋をして、気付かないふりをしていた。

 

ただ話していると心地よい、勉強会に行く理由はもはや勉強のためだけではなかった。

 

 

そんな折、何回目の勉強会の帰り道だったろうか。

 

私が惹かれていた女の子がふとこんなことを言っていた。

「クラスに○○君っていう男の子がいて面白い子なんだよ〜、仲良くなれそうだよ」

私はその子達と数少ない友人以外の学校の人間に全く興味を持っていなかったためそれが彼女とその男の子がということだと思っていたから、「それは良かったね」だなんて答えた。

 

すると彼女は可笑しそうに「いや、小人君とだよ」と笑っていた。

しかし私はその男の子と関わるつもりがなかったので「どうだろうね」だなんて曖昧な返答をした。

同じ時に彼女から、他校に恋人がいることを聞いた。

 

 

ふと自然に、あるいは極めて不自然に体の動きが止まった。

何を言っているか分からないだろうけれど、それ以外に言いようがなかった。

彼女に「なんで君がショック受けてるの」だなんてまた笑われたのに対して私はようやく「いや、びっくりしただけ。」だなんて絞り出すように答えた。

 

 

そう、驚いただけ。

彼女のように明るくて人当たりが良ければそりゃあ彼女だっていて当然じゃないかと自分に言い聞かせた。

私は私を騙すことを覚えてしまった。

 

 

 

話は変わるが私のような人間にも一つだけ、他人よりもほんの少し得意なことがある。

それは化学である。

授業はほぼ全て眠り、ただ体育だけは自らの誇りをかけて全力を出していたが、もう一つだけ眠っていなかった授業こそが化学だった。

 

 

元々理科は好きだった。

なぜなら物事の摂理を理解することが出来るから。

 

昔見た聖痕のクェイサーとエレメントハンターの影響もあって、言うなれば現実に魔法を持ち込むための手段と言ったような、ある種ファンタジーな理由で化学が好きだった。

 

そして私にとっては好都合なことに、私が惹かれつつあった彼女は化学が苦手だった。

もちろん彼女は馬鹿ではなかった。

というかどの教科も平均程度には取れていただろうが、化学は少し低くなる、その程度の苦手だと思う。

 

 

結果から言うと私は彼女に化学を教えることを口実に、彼女と連絡先を交換することに成功した。

その時も少し嬉しかったけれど、例によってまた私は私を騙して、友人と仲が深まって嬉しいのだと思い込んだ。




今回もお付き合い頂き光栄です。
宜しければまた続きをあげた際にも……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。