ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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計算の止まる日

●悪来

 戦場を切り裂く箒星。

我が物顔で駆け抜けて、オープンチャンネルで怒鳴り散らす。

 

「俺はいくぜ、俺はやるぜ! 俺は……故郷(マハル)を救うんだ!」

 それは正義を主張するわけでも正当化でもない。

ただ感情のままに叫んでいるだけだった。生の感情をダイレクトに叩きつけ、散歩に向かう犬の様な自然さで戦場を飛び回る。

 

『行かせん!』

「邪魔なんだよ!」

 アッシマーは補助推進器の一つを点火して、斜めに螺旋を描いて回避した。

そして全管点灯、全ての補助推進器を用いてさらなる加速を掛けた。クエスチョンマークを描くような軌道で速度を落とさず加速のみで乗り切ったのだ。

 

そして搭乗しているパイロットの頭がおかしいのはここからである。

アッシマーのボディにハーフ・トランスフォームを掛けさせ、全ての推進器を一方向にまとめた大加速。知る者が居れば、かつて存在した高速戦闘機F-14トムキャットの様だと口にしただろう。

 

『迎撃……回避機動へ』

「どけっつーの!」

 攻撃は当てる為というよりは、直線距離を空ける為。

ただひたすらに急いでコロニーに向かい、何らかの工作をする為の牽制射撃。むしろ体当たりが本命ではないかと思うような速度である。

 

だが、それもここまで。

減速というか、再度のトランスフォームで推進器の方向を変換。移動中のコロニーに無理やりとりついたのである。

 

「うおおお!!! たかがコロニーの一つや二つ、俺がどかせてやるぜええ!!!」

『馬鹿か!? 落とせ、今直ぐにだ!』

 それはあまりにも愚かな行為。

アッシマーの長距離移送仕様は、確かに強力なエンジンを複数基搭載している。だがそれでも、たかがモビルアーマーがコロニーを押し出せるわけがあるまい。

 

だが理論によらぬ身勝手で感情的な行為に、キメラは今までにないプレッシャーを感じていた。

そして、その愚かな行為は……愚かだからこそ、ナニカを動かそうとしていたのである。

 

「あのバカ……。今更やって来といて、考え無しだと?」

 動くに動けない。

頭ではどちらかの勢力に着けと判っていても、感情的には動きたくない。

 

そんな中で、何か解決策があるのかと一瞬でも期待した自分が馬鹿みたいだ。

 

だが、だがしかし。

 

そんな愚かさを笑えない自分が居る。

そんな愚かさを羨ましいと思う自分が居る。

そんな愚かさに救われたような気がする自分が居る。

 

「バカはあたしか。どっちだ、どっちだと悩んでいたのがバカバカしくなってくるよ」

「シ-マ様?」

 髪が老婆の様に白く成ったり、抜け落ちれば同情でもしてもらえるとでも思ったのか。

誰かが解決策でもくれると思ったのか。そんな筈はないのに。

 

解決策が欲しいならば、人質に取ったはずのあの男の口車に乗ればよかった。

あるいはマハルなど無視して、アナハイムの手引きに乗ればよかったのだ。

 

「あたしらはあたしら達のために行動する。公国軍に復帰、マハルを守るよ!」

「「へい!」」

 いざ、クソったれな故国へ!

そう決断すれば行動速かった。それが海兵隊の身上だ。それに時間なんて欠片もありはしない。むしろ遅いくらいである。

 

「なんだい、誰も逃げちゃいなかったのか。あんた揃いもそろってバカだねえ」

「逃げるって何処に逃げるんですかい?」

「それに、ザク同然の機体でモビルアーマーとは戦えませんや」

 従う部下はどいつもこいつも札付きで、極めつけの馬鹿ばかりだった。

みんなマハルの出身で、根こそぎ動員された中でモビルスーツに何とか適性があったというだけの話である。

 

その程度の才能があったばっかりに、死よりも苦しい思いをさせられ続けてきた。

死はある意味で救いであるとは、よく言った冗談ではないか。

 

「しかし、姐さん。連中が信じなかったらどうしやす?」

「ハン! そしたら無視しな。あたしらはただ、マハルを守りたいだけさ! 随分と遠回りしちまったがね」

 利益であれば、既にどちらかの陣営についていた。

そうしなかったのは、単に感情が邪魔していたからだ。そして感情で言えば、故郷を守りたい。もはや流浪は沢山だという気持ちで一杯だった。

 

家族同然の手下どもを路頭に迷わせられない。

これだけ苦しい目にあったならば、少しでも良い目を見なければ割に合わない。そう思ったばかりに、苦労したものである。

 

「外の連中にアクシズの艦隊をやらせな! コロニーにはリリーマルレーンだけあれば良い! あたしはゲルググで出る!」

「入り口に残ってるやつ! シーマ様のゲルググを!」

『了解でさ!』

 当然のことながら、侵入した場所には一部が残っていた。

何かあった時は中を爆破しながら合流する手筈で、何人かは機体の中で待機している。

 

『行くか』

「あんたの口車に乗ってやるよ。駄賃は精々ふんだくらせてもらうからね!」

 どちらに着くにせよ、死に掛けた教授に彼女らを止める力があろうはずもない。

お互いに清々した顔で笑い合い、二度と会うこともない相手のことなどさっさと忘れることにした。

 

『マイクロウェーブの送信装置はフル稼働中。あとはアイナが受信装置を起動させるだけだ』

 そして教授は震える手で奇妙なヘルメットを被って、もう一度横たわった。

 

『ならば最後の実験を残すのみ。自分で見届けられないのは残念だが……』

 アマモト教授……いや、ギニアス・サハリンは自分の冷凍睡眠装置には入らなかった。

もはや、それで生命を繋ぎとめるのは無理だったし、今更命を長らえさせて何になろう。

 

『私には見える。あのどこまでも暗い暗黒の空に、虹の橋が架かる未来を。その美しい空は……幻ではない!』

 冷凍睡眠装置にはもう一つ実験的な機能があった。

眠った人間の頭脳をコンピューターの代理にしようという試みであり、主に犯罪者を使って行われていた。

 

ジャミトフが知ったら止めさせただろうか?

もはやその答えは聞くこともできないし、止めさせようとしたとしても……自分は強行したのではないかと思う。

 

これまで犯罪者を使ってきた実験も……であるが、今から行う最終実験も、だ。

 

「まったく、人間の一生など、短すぎ、る。だから、こそ、人間は、あら、そうん、だ。愚かしいな」

 だが、不思議と愚かな感情が嫌いではなかった。

自らを焼くこの理想、それこそがギニアスを突き動かした衝動なのだから。

 

久々に出した声は小さく、もはや誰にも届くことはない。

 

「すべては……われわ、わたしの、おおいなる…………のため、に」

 崩れ落ちるように、ギニアスは最後のスイッチを押した。

人間をコンピューター化させる試みとは真逆。生きている人間から、記憶を吸い出す禁断の実験を自分で試すために。

 

ギニアス・サハリンという人間の記憶も、生命も、魂すらも……。全て研究のために捧げ尽くしたのである。

 

世界の為でも、ましてやジャミトフの為でもなく。ただ、自らの情熱(エラン・ヴィタール)が赴くままに。

 

●後から学ぶより賢きものへ

 二つのコロニーの間では激戦が繰り広げられつつあった。

足止めされていたアクシズ先遣隊が戦線に突入するもの、プロメテウス隊を中心に地球連邦軍が反撃に転じたのである。

 

これにシーマ艦隊が合流。

事前の取引でもあったのか、不思議なことに混乱は一切なかった。

 

『エンツィオ大佐! このままでは押し返されてしまいます!』

『数では圧倒しているんだ、持たせろ! 何としてもコロニーレーザーは潰さねばならん。アクシズが地球圏に帰還する為にもな!』

 アクシズにおいて強硬派を率いるエンツィオは先遣艦隊を組織してここまでやって来ていた。

本来の予定であればとうにソーラレイを奪取して、むしろ最終兵器として確保していたはずなのだ。

 

『くそっ。これでは何もかも予定が狂ってしまう! 調略に失敗したキメラ達も不甲斐ないが、あの恥さらしどもを生かしておくわけにはいかんぞ!』

『はっ! グラーフ・ツェッペリン以下、左翼に戦力を集中させて突破します!』

 アクシズ先遣艦隊はグワンザンを旗艦として戦域を管制。

グラーフ・ツェッペリンを中心とした戦力で連邦軍の打倒に向けて動き始めた。

 

対する連邦軍はサラミス中心、シーマ艦隊のリリーマルレーンが最重量という臨時編成だ。

混戦に持ち込むことには失敗したが、それでも艦隊同士の打撃戦ならば圧倒的に有利なはずだった。それが押し負けているのは一重に、モビルスーツ戦において局所的に劣っているからである。

 

「無理はせずに四機で三機を追い込むんだ! 新手はヤザン隊に任せてこちらは戦線を分断する!」

「「了解!!」」

 このころの連邦軍は四機で一組の新編成体制に移行していた。

ボール混じりからジムのみに絞るなどモビルスーツの質でもジオンに追いついている。これが数でも勝るのだから、基本的には負けるはずがない。

 

それでも精鋭が投入されると逆転されることもあるので、その部分に対し、こちらも精鋭を投入し最新型に乗っている分だけ上回るようにしたのである。

 

「モビルアーマーとあのデカブツはどうしたんだい? あいつらが居ればもう少し楽ができるっていうのにさ!」

「……今はお色直し中ですよ。レディには時間が掛かるんです」

 途中で合流し、背中合わせにシーマ機のゲルググとシローのエックスワンが会話する。

お肌の接触回線とはいえ、さすがに内面の逡巡までは伝わっていまい。シローはそう思いながら極力、冷静でいようと努めた。

 

「はっ! それは遅れて味方したあたしらへの皮肉かい? いいさ、新参者は功績で黙らせるとしようかね!」

「……お手柔らかにお願いしますよ」

 憎まれ口を叩かれ皮肉を返すよりも一発浴びせてやりたかったが、幸いにもスマートガンはクールタイムだ。

アイナがこの場に居ないこともあり、チャージ速度が遅いことも幸いした。我慢できるつもりだったが、案外に自分は俗物だと自覚できてしまう。

 

「ふう。だめだな。オレには100%のヒーローには成れそうにない。……頼んだぞ、コウ」

 頭で考えるべきはずなのに、ついハートがオーバーヒートを起こしそうになる。

シローは自分の憎しみとシーマへの同情にケリを付けられないまま、心の決着を何も知らない第三者に委ねた。

 

 

 そしてコウが操っていた動くだけのテストベットは、ここに来てようやく本来の姿を取り戻す。

教育型演算コンピューターに、ツインエンジン、そして……マイクロウェーブ受信機能である。

 

「この子……って。そろそろ名前を付けてあげましょうよ。装備が揃ったんでしょ?」

「それはジャミトフ閣下の仕事だと思うけどなあ……名前って付けるの苦手なんだよなー」

 装備の最終チェックをしながら、カレンとコウはシステムがフル稼働できることを確認する。

これまで二つのエンジンを直列起動させられるのは僅か数分であったが、それはエネルギーを有効活用しようとするからだ。

 

多大なロスを覚悟して、無限のエネルギーを変換するバイパスとしてならそれほど苦労はしない。

 

10分間の無敵から、10%の無限へシフト。

太陽路に居る場合のみで成立する超人がそこに居た。

 

「最初にあった時に言ってたアレは?」

後から学ぶ者(エピメーテウス)? 神話的に良い例えじゃないし……それだったらむしろ現代的に賢い者(ワイズマン)とかかな。翼ある者(ウイングマン)でもいいけど」

 つくづく名前を付けるのが苦手な一同である。

そう思いつつカレンはそれで良いような気がした。妙に賢いよりは、少しずつ、昨日より賢く成れば良いのだ。

 

「じゃあ、それでいきましょ。ガンダム・ワイズマンってことで」

「ホントかよ……。時間もないし、アイナさん……アマダ夫人が良ければそれで」

「問題ありませんよ。既にコレは私たちの手を離れました。それに……兄なら名前より成果の方を喜ぶでしょう」

 40mもの巨大マシンの背中には、アッシマーを大きくしたような円盤が追加された。

スダルシャナと呼ばれていたそれは、人型と合わさったことでまるで翼のようにも見える。仏教を知る者ならば御本尊とでも名付けたかもしれない。

 

「それじゃあ行きましょ。まだコロニーをなんとかできる間にね」

「いつでも行けます」

「ガンダム・ワイズマン。出陣します!」

 コウはマシンを本格的に動かした。

供給されるエネルギーをロスしながら、ツインエンジンは景気の良い音を立てる。

 

エネルギーを内包する性質のあるミノフスキー型核融合炉。それは理論の内では、無制限に移動できると言われていた。

 

とはいえ現時点の自技術では戦闘どころか、僅かに動く程度の推力しか得られない。

推進剤を搭載し、瞬間的に放出せねば満足に戦うこともできない。原作において無限移動が実現するのは、ユニコーン……いやV2ガンダムを待たねばならなかった。

 

だが、この機体は40mのサイズと二つの炉心。そしてマイクロウェーブを受信することで、ソレを達成したのである! 飛ばされる途中まで実験していた循環器系の小型化実験も含めて、これからの時代のための機体と言えた。

 

「行く先は?」

「決まってるだろ! こいつで戦うのはオーバースペックだ。ホルバイン中尉と一緒に、コロニーを押し返す!」

 そもそも押して効果があるのか、間に合うか自体も分からない。

だが、今やらなければ、無限のエネルギーなど何処で使うと言うのだろう。宇宙人でも来ない限り、不必要な出力である。

 

……もっとも、その出力を活かす武装もまた存在しないのであるが。

 

「おう? ウラキか!」

「ホルバインさん! とことんまで付き合いますよ!」

 流れ弾以外は海兵隊の一部が守ってくれる。

かつてそこに所属していたヴェルナー・ホルバインだからこそ、シーマ艦隊も素直に行動できたのだろう。

 

コウもまたサイド6の研究施設で世話になっており、彼がマハル出身と知っていたので素直に協力出来た。

 

「そいつはありがてえ! 姐御たちがとっくにブースターを何基か壊してるはずなんだがな。ちょいと時間が足りなかったのよ」

「期待していてくださいよ! ワイズマン、太陽路絶対防衛用形態(ソーラー・ガーダー・シルエット)!!」

「マイクロウェーブ、受信します!」

 スダルシャナを通してマイクロ・ウェーブが無限の力を与える。

二基のミノフスキー核融合炉が直列で起動し、凄まじい出力を放出し始めた。

 

最大出力は数分、通常時は10%。それを繰り返して巨大な力を発揮する!

猛烈にエネルギーそのものを噴射することで、推進剤など消費せずに強烈な推力を得ることができる!

 

『なんだアレは。あれで間に合うのか? 間に合ってくれるか? シーマ、信じて良いのだな?』

 その異様な噴射を見つめるキメラは、介入して良い物か本気で悩んだ。

協力などしては結託を疑われるが、このままではコロニーがぶつかってしまうと心配していたのだ。

 

『キメラ様! 進路の歪みが少しずつ拡大します。いかがいたしますか? 撤退するなら援護しますが』

『馬鹿者。あの娘たちを戦場で使い潰しておいて、おめおめと下がれるか。……これまでご苦労だったな』

 歪な戦闘ポッドであるオッゴⅡはとっくに全滅している。

ビグラングⅡに寄り添ったゲルググに対し、自身の活路を捨てるのだと苦笑を返した。

 

『イザとなったらみじめに命乞いの演技でもするつもりだったが……お前たちの可能性を信じるとしよう!』

 コロニーを逸らす見返りに、助けて欲しい。

そういけしゃあしゃあと薄汚いことを言って調整するつもりだった。だが、その心配は必要なさそうだ。

 

『それでは、お先に参ります! ジークジオン!』

『逝け、ジークジオン! EXAMシステム、120%全力稼働承認!』

 キメラは最後の最後に、狂気のシステムを使用した。

強化人間にもなり切っていない試験体を根こそぎ戦死させたのだ。万が一にも秘密を守るという意味でも、指揮官である自分も付き合わねば釣り合いが採れまい。

 

「ムラサメ少尉! あいつは任せる! 闘いてえが俺は此処を動けん!」

「任務、了解!」

 グラーフ・ツェッペリンと共に迫り来るアクシズ先遣隊。

これを食い止めるにはヤザンの戦闘力と指揮官としての手腕が必要だった。自身で戦いたい気持ちを抑えつつ、ビグラングⅡをゼロ・ムラサメに任せた。

 

……もしかしたらヤザンは、敵の戦闘ポッドがゼロを優先的に狙っていたのに気が付いていたのかもしれない。

本来のキメラであればコウたちを優先したかもしれないが、少しでも性能を上げるためにEXAMを起動したことで、返ってゼロに引き付けられたのである。

 

『回避』

「さっき見た時よりも判断が早い? 補給の必要が無くなったからか」

 ジムライフルに付属するグレネードを発射し、避けたところへ攻撃を叩き込む。

そうやって戦闘ポッドは楽に倒せるようになっていたが、さすがに大型のモビルアーマーは無理だ。

 

しかも高速機動で全身を動かし、場合によっては拡散メガ粒子砲で薙ぎ払ってくる。ゼロは直観的にサブスラスターを吹かせて振り切り、ベルの様に鳴り始めた広域ロックオン警報を終わらせる。

 

『NT反応、発見。はかい、ハカイ、破壊!!』

「……なんだ? コイツ、僕を追いかけてくる? 上等だ! ヤザン大尉に任された手前、負けられない!」

 それに、このタイプとの経験は初めてではない。

NT研が軒並み閉鎖された後でゼロも接収されたが、その時にペイルライダーというジムも同様だった。

 

それに搭載されたシステムはカムラ博士も関わったEAXMの発展形だったらしい。

サイド6に現れた謎のガンダムが、似たようなシステムを搭載していたことで、徹底的に対策シミュレーションを行った。先ほどヤザンがあっけなく倒して行ったのも、その経験に基づくものである。

 

「ニュータイプはこちらの意図を見透かすけど、あいつらは対応が早いだけだ。僕ならやれる!」

 その時にジャミトフが言っていたことだが、ニュータイプは意図を見抜くらしい。

だから多人数で攻勢を交代するのは問題ないが、包囲戦や嵌め手は見透かされる。危険だと思ったら一気に突き放し、罠を強引に抜けてから戦いを挑むとか、超遠距離から狙撃くらいはやるそうだ。

 

しかし、このタイプは真逆。

多人数で攻撃しても、センサーが反応する限り対応してしまう。だから先に行動させて落とす、一人時間差が有効なのだと教えてくれた。

 

「これでも食らえ!」

『……回避失敗? 記録』

 今度は右手のライフルに銃剣を付け接近しつつ射撃。

左手でサーベルを抜いて二刀流を敢行し、ジムライフルから銃剣を伸ばす! 一刀目を避けさせた後で銃剣を繰り出した。

 

『連続攻撃の脅威度をランク向上。対応誤差を砲撃ではなく回避にシフト』

 もしゼロが甘く見ていたとしたら、想定していたのがソルジャータイプということである。

コンマ数秒で態勢を補正し、精度の高い射撃や回避を行う。それがソルジャーだとするならば、キメラを元にしたこのビグラングⅡはコマンダーである。生体コンピューターとして予測演算を開始したのである。

 

『ネガティブ。ネガティブ。ポジティブ』

「うっ! かわされた? 動きを読むとは、やる!」

 今度は銃剣を繰り出した後で、即座にトリガーを引いて射撃したはずだった。

それが読まれたのか短い噴射で回避される。先ほどのバリエーションとはいえ、こんなに簡単に予測されるはずがない。せめて加速段階を上げるべきだったかと、苦虫をまとめて噛み潰した。

 

ここに来てゼロは、全て行うことにした。

どうせ自分は新米であり、エースとしては最も格下である。ならば聞いていた対応を全て実行し、多少の無茶は許容することにする。

 

だが、混ぜるな危険。という言葉は伊達ではない。

それはゼロの乗る最新鋭機をもってしても危険極まりない事だった。

 

「そら! ネズミ花火をくれてやるぞ。ここは時間稼ぎだ」

『ランダム軌道のT・マイン?』

 ゼロはクラッカーを投げつつ移動し、精密操作を行う時間を稼いだ。

ネズミ花火と言うのは投げた方向に直進せず、何度もランダムな方向に噴射して移動する特殊な爆雷である。

 

対ニュータイプ用として開発されたソレを使うことで、『紛れ』を入れた時間差攻撃を行う。

同時に爆発ボルトを時間設定する余裕をひねり出し、今度は機動戦にもつれ込んで、射撃戦を始める。

 

「さあ、いくぞ? 僕の予想を上回って見せろよ!」

『一連の攻撃は、連続攻撃の切り替えタイミング。行動の起こりを抑えるべきと判断』

 様々な攻撃を繰り出し、相手の攻撃を回避する段階で、途中から読まれ始めた。

一手余計な手を挟む、あるいは二手、時にはフェイント抜きで。そのパターンの切り替えだと判断したビグラングⅡは、ゼロ機の予測進路の前に拡散砲やビームカノンを乱射。移動方向を狭めつつ、モビルアーマーの移動力で先回りし始めたのだ。

 

「これで……終わりだ!」

『チェックメイト』

 ゼロは自分が追い抜かれるだろうなと思った段階で時限スイッチを入れた。

手持ちのクラッカーを投げた方向にターンした所で……爆発ボルトが高機動用のバックパックを強制的に切り離したのである。

 

『……自爆? 不発弾と判だ……!?』

「僕はここだ!」

 クラッカーに向けて突っ込むはずがない。

つまり自分が先回りしそうだと判断して、フェイントを入れたとビグラングⅡは判断した。躊躇せずに加速して頭を押さえようとしたのだが……。

 

だがゼロは、移動途中でバックパックだけを切り離して突出させる。

相対的に減速したことになるゼロは、強引に後方を取ったのである。そこへジムライフルが残弾全てを撃ちこみ、クラッカーと合わせて前後からビグラングⅡを襲った。

 

「任務……完了!」

 半ば爆発に巻き込まれながらも大破は免れた。

バックパックのメインスラスターを失って漂いながらも、各部のアポジモーターで何とか態勢を立て直す。もはや高機動戦は行えないが、まあ味方の元に戻るくらいは問題ないだろう。

 

そう思っていると、先ほどよりもコロニーが遠ざかるのが早くなったように感じた。

どうやらコウたちは成功したらしい。この太陽路を彩る輝きを眺めながら、ゼロはゆっくりと移動していった。

 

「うつくしい、そら。……ビフ……ろすと?」

 解凍されていく冷凍睡眠装置の中で、誰かが同じ光景を眺めていた。




 という訳で、太陽路とソーラレイを巡る戦いは終わりました。

まあブースターは複数あるんで、一つ壊せば勝手に逸れていくわけです。
計算上は間に合うはずだけど、ちょっと怪しい。そこで少しだけ、ほんの少しだけ巨大兵器とマイクロウェーブが後押ししただけです。
V2ガンダムなら簡単にやれることを、苦労して0083時にやった感じになります。

序盤に関して言えば『シーマ様は考えるのをやめた』というところ。
ホルバインさんがあまりにもストレート過ぎるので、真面目に悩むのがバカバカしくなったというところでしょうか?
利益誘導だけだったら味方に付かない可能性もあったので、この時を見越して、海兵隊でマハル出身のホルバインさんプロメテウスに馴染ませていたという感じですね。

●アクシズ先遣艦隊
 規模が小さくなっていることもあって、はにゃーん様の漫画に出てくるエンツィオ大佐が牛耳っています。
ユーリー・ハスラー少将はアクシズ本軍に留まっているでしょう。でも期間はグワンザンのままで、ポケ戦がないので、当時最新鋭だったティベのグラーフ・ツェッペリンも居たりします。

●冷凍睡眠装置から起き上がる少年
 一体、何トトなんだ?

●今週のメカ
『ガンダム・ワイズマン』
 とうとう名前が付けられた40mの御本尊。
もしかしたらヒーロー物のロボとして出演し、堀川さんが声優で悪・裂! とか叫ぶ未来もあるかもしれない。

演算型コンピューター・ツインエンジン、そしてマイクロウェーブ受信機能を持って完成する次世代の無制限エネルギーのテストベットであった。
モビルスーツ戦、なにソレ美味しいの? という出力や循環器系の小型化実験は、こういったマシンで外宇宙環境での作業用を企図していた結果である。

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