ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

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外伝:確執の消える日

●古き時代の終わり

 エンデュミーオン戦役が終わり、一通りの決着がついた後。

ジャミトフ・ハイマンはローナン・マーセナスに呼び止められた。

 

「どうして何も言わない」

「人間には二種類の存在が居る。チャンスがあれば何をしても良いと思う人間と、思い留まる人間だ。君は後者のはずだろう?」

 ジャミトフには自分を追い落としたローナンを責める権利がある。

その問いに対しての回答は、好き好んでやったのではないのだから気にするなという意味の言葉だった。

 

実際メラニー・ヒュー・カーバインに強制されたのであり、ローナンとしては侮蔑の言葉を受けても仕方がないと思ってはいるが、忸怩(じくじ)たる思いだった。

 

「それになんと言うか……そうだな。知力と武力と品性と。三つ全部揃えろとは言わないが、二つを兼ね備えた人間は貴重なのだよ」

「……要するに『借り』がある。私はそれを忘れてはいけないという事だな?」

 二人は政治という舞台においては戦友と言えた。

共に地球保護を目的としており、決して仲が良いとは言えないが友でなくとも志を同じくする朋であった。だからこそローナンも査問会を起す前に忠告をしていたのだ。

 

「その辺りは好きにしろ。どの道、野党なり別の派閥を使ってクーデターをさせるつもりだったからな。お互いさまというやつだ」

「なんだと?」

 この場合のクーデターとは武力決起ではなく政治的転覆という意味だ。

ジャミトフが野党なり、与党の対抗勢力に着こうと口にしたことをローナンは訝しむ。

 

どこの党や派閥にもいろいろな政治家が居る。だがそいつらに関して言えば利益優先の政治屋か、理想と現実の区別ができない連中のどちらかだ。ゆえに清濁併せ呑む現実主義者のジャミトフとは相容れない部類の連中と思われた。

 

「このままではどこかで連邦政府が破綻しかねない。ならば連中に全てを押し付けて身綺麗に成ってもよかろう。それにブレックス辺りに任せるよりは余程マシだ」

 ブレックス・フォーラーは最近になって活発に政治活動を始めた。

それまでは宇宙寄りで理性的な政策へ賛成する議員という程度だったが、宇宙市民の民権運動に力を入れ始めたのだ。

 

とはいえ政党指導者としてはまだまだ未知数。経験や見識という意味では心もとない。

連邦政府には影の政府(シャドー・キャビネット)という、野党へ閣僚並みの待遇で予備政策を考えさせる制度があるが、ブレックスはそこで経験したこともないのだ。反対の為の反対だとかリベラルどころか、与党が無理だからやらないことを公約してしまいかねない危うさがあった。

 

「居直り強盗役は必要だが、使い捨てにするわけにもいかんだろうしな。役目が終わったらさっさと切るにしても、ブレックスは惜しい部類だ」

「バスクと一緒にされたら連中も迷惑だろう」

 切り捨てるための居直り強盗という意味では、バスクの存在は大きかった。

最も独立色の強かったアフリカ方面からインドまでを一気に牽制してくれた。デラーズのコロニー落としも含めて周囲に反動勢力は軒並み姿を消している。

 

しかし都合よく動いていると思ったら……。

最後の最後で暴走した結果、グリーン・ワイアットの株を上げてしまったので苦笑するしかない。

 

ともあれ原作のジャミトフも奴を利用したり、この世界ではローナンが利用した。互いに気分は良くなるはずはないので、話題を変えることにする。

 

「しかし自治国を増やすのはやり過ぎじゃないか? 増長したら大変だという意見も出ているが」

「ジオンのようにか?ならば ……そろそろ踏み絵を踏ませてみるのも面白いかもしれんな」

 踏み絵と聞いて気分は良くなる者など居まい。

どうせロクでもないことに違いないが、試される連中……この場合は新しい自治国への懸念を示す者たちが哀れでならない。

 

「何をする気だ? あまりことを大きくするなよ」

「なに、大したことはないさ。ジオンが公国の看板を下ろしても良い頃合いだと思ってな」

 それこそローナンは唖然とした。

統一に大く貢献したマーセナス家のみならず、連邦政府としては是非ともそうして欲しいところだ。しかし事は国体に関することであり、こちらの勝手に成ることではない。

 

「いくら何でも無理だろう。特に今はダイクンの遺児が帰還したばかりだぞ?」

「多少の利益誘導が必要かもしれないが、可能ではある。それこそジオン・ダイクンが全盛だった時代に戻す行為だからな」

 ローナンの預かり知らぬことではあるが……。

終戦時にガルマ派が台頭するように尽力したのも、最近になって復帰したキャスバル・レム・ダイクンを見つけたのも。デラーズの決起に際して、キャスバルの名前を公表すれば関わらずに済むと言ったのもジャミトフであった。

 

最初からこの事態を想定してあったし、そもそもキャスバルの名前を公表する際に、『シャア・アズナブル』には影武者を立ててある。政治的に左右されたくない今の彼にとって、断る選択肢もなかった。

 

 

『主権を返されるとは言うが……。今日のジオンを導いてきたのはガルマ公子です。国民の大半は彼こそを求めていると確信しております』

 そしてジャミトフの言葉は真実となる。

キャスバルは新たな公王、あるいはその上の王として立つことを否定。

 

『ジオンには新たな息吹が必要でしょう。私もまた、国民はキャスバル氏を求めていると確信いたします』

 ガルマ・ザビもこれに倣って、後継者たる公太子の地位を返上する事となった。

そしてジオン公国はその名前と国体を、ジオン共和国に変更。独裁体制の強い統治方法から、より民主的な活動に切り替えたのである。

 

これに伴いマハラジャ・カーンも首相の地位を降り……。総選挙を実行。

キャスバルとガルマが連立与党の後ろ盾となって、ダルシア・ハバロが首相に復帰した。

 

急な話にも関わらずダルシアは意欲的に行動し、まるでこの事を予想していたかのように新たな経済政策や、完全循環型コロニーの受注を目指す路線を表明したのである。

まるで連邦の影の政府(シャドー・キャビネット)を参考にしたかのように。

 

●新しき時代の気配

 それから暫く、ローナンは久しぶりの暇を持て余していた。

ジャミトフが本当に政権クーデターを実行させ、自派閥の一部と野党が結託してしまったのである。おかげで影の政府(シャドー・キャビネット)の枠からも転げ落ち、今は自然公園で子供たちの相手でもしている他はない。

 

しかしローナンには子供たちと遊んでいる気分には成れなかった。

普通の人間ならば、ジャミトフが自分を追い落とした相手に逆襲したと思うだろう。だが彼は方針を聞いていたのだ。

 

何より無駄を嫌う男が、これほどまでに自分を政策から遠避けるだろうか?

むしろ徹底的に既存の思惑を壊すから、関わらせずに無傷で取っておいたのではないかと思う。そう考えれば、これからジャミトフが何をやるか気が気でなかった。

 

しかし最大の確執相手であるメラニーは、別件で一時的に会長職を辞任させられているが、一族の者に会長職を譲ることを許されている。数年もすれば元通りだろうし、特にダメージらしいダメージはない。何をやるかがまるで見えなかった。

 

「グレミー! こっち来いよ~。面白い場所に連れて行ってやるからさ~」

「私はゆっくり本を読みたいんだ。リディ一人で行ってくると良い」

 頭が痛いと言えば、預けられたこのグレミー・トトという少年もそうだ。

息子のリディは懐いているようだが、実はギレン・ザビの遺児と聞かされていた。ギレン自体が冷凍睡眠中なので遺児と言うのはおかしいが、それにしても随分と重要な人物を預けるものである。

 

「こんな良い天気なのに? パパだってせっかくの休みなんだから、楽しそうにすればいいのに」

「仕方ないだろう。今は難しい時期だからな。何かあれば世界を飛び回る羽目になるんだから、リディが父親に甘えておけるのも今だけだと思うぞ」

 十歳になるリディより少し上という話だが、多少は物の見方が判っているらしい。

普通ならば全く理解できないか、仕事を干されたローナンを哀れに思うのが精々だ。しかし彼は、今が嵐の前の静けさであることを自分なりに判断していた。

 

「ほう、判るかね?」

「全ての国家を統一するという偉業を成し遂げ、連邦が成立しました。しかし膨れ上がった風船のようなもので、誰かが針を使えば容易く割れてしまう」

 いきなり痛い所を突いてくるが真実ではある。

だからこそローナン達は抑えを効かせようとバスクのような強権者を利用し、ジャミトフは逆に制御下の自治でガス抜きを図っていた。

 

しかし一定の見識を見せたことで、ローナンはグレミーに興味を覚えた。

年齢不相応に賢いのは確かなようだ。しかし……自身の能力をひけらかすことの危険性、血筋の持つリスクまで理解しているだろうか?

 

「完全にではないが正解ではあるな。では君はどう思う?」

「興味がありません」

 興味半分、警戒心半分で話の水を向けてみた。

この年頃の少年は自分の才能を自覚すると、多幸感に包まれて能力をひけらかしてしまうものだ。

 

だがグレミーはローナンの関心を引くことも含めて興味がないようで、読みかけていた本を開いてしまう。これが擬態ならば恐るべきというしかないが、見え隠れする感情からは本当にその気がないようだ。

 

「ならば質問を変えよう。君は何がしたい?」

「世界を繋ぐ技術開発です。これから社会が発展していくならば、どのような形態であろうとコミュニケーションや移動手段は必要でしょう?」

 それを自分の手で成し遂げたい。自分ならば可能である。

そんな部分からは本音が見て取れた自負心と向上心が見え隠れして、今は不可能だが、将来は可能にして見せると息巻いている。

 

「確かにソレを手に入れれば大したものだな。色々と準備が必要だろうが」

「だからこそ、貴方のような人と付き合うようにしているんです。世界を繋ぐ虹の橋は私が作って見せますよ」

「さっきから全然わからなーい! つまんないってばー!」

 資金力や政治力もまた必要と知って、仕方なくローナンとも面識を得ている。

そう言われて宛が外れたような、なんとなく安心したような気がした。

 

そして少し離れた場所でぐずり始めるリディに、誰かが近づいていくのが見えた。

 

「……貴方は」

「そうお父上を困らせるものではないよ、坊や。時に飛行機は好きかな?」

「飛行機? うーん乗り物は好きだけど?」

 その男はこの自然公園の管理人だった。

だが、それ以上に有名人として見知っている。政財界にもパイプの太かったで退役軍人で、元は大将……それも制服組のトップである作戦本部長にまで登り詰めている。

 

「複葉機で良ければあるんだがね、乗ってみるかい?」

「あるの? うん! 僕乗りたい!」

「構わないのですか? ゴップ……大将」

 ゴップ自然公園を管理する一族の出であり、今は政治家に転身している。

連邦系企業のヤシマ重工の支援もあり、一期目は陣笠足軽(したっぱ)が当然であるというのに、無任所ながら既に頭角を現していた。

 

今の扱いは同じ程度だが……一時的に干されたローナンと、今から上昇していくゴップ。

二人がここで出会ったのは、運命なのか、それとも誰かの意図によるものか。

 

「構いませんとも。イングリッドや、案内てしてあげなさい」

「はい、お父様。……こっちよ、お坊ちゃん」

「なんだよ、お前だってお嬢ちゃんじゃんか」

 ゴップの連れていたのは、最近になって養女にした身寄りのない子供らしい。

くだらない名声稼ぎだと言われてはいるが、利発そうな子であり、グレミーのような何かしらの才能を感じさせた。リディを理由に自然にこちらに近付いたことも含めて、やはり大将にまで登った男に対し油断するべきではないのかもしれない。

 

「……しかし『彼』は何をしようとしているのでしょうな」

「さて。大掃除だとしか聞かされていませんが。貴方とのコネクションをくれたのです、今の内に準備をしておけという事でしょう」

 ゴップの言う『彼』が誰を現すかなど言う必要もない。

それこそ第三者にも、ジャミトフの名前が出ない日はないのだ。

 

そして互いの面識を合わせておく意味など、他に考えられなかった。

 

「やはり次の政府は必要ですか」

「それはそうでしょう。今の政府は理想ばかりで我慢することを知らない。あれではせっかく持ち直した財政が破綻してしまいます。軍の方でも似たようなものでは?」

 影の政府制度(シャドー・キャビネット)によって洗練されているので、場違いな政策ではない。

それが救いであり、同時に引くことを知らない状況を作り出していた。一歩間違えば衆愚政治になりかねない方針であり、全てを叶えるには予算が少なすぎる。かとって連邦債を刷り続ければ経済的に破綻するだろう。

 

「耳に痛い話ですな。そこはジャミトフの出番では? アレが今の状況を作り出したのであれば何とかするでしょう」

 V作戦にビンソン計画を全て実行し、戦艦もモビルスーツもどんどん開発していく。

そんな計画を立てれば軍の財政が傾いて当然だが、レビルはジオンに勝つためにやり切った。

 

だからこそ途中からは圧勝したし、だからこそ連邦政府は憂慮した。

一年戦争末期の危機的財政を何とかしたのは、ジャミトフの助言が大きく、財務官僚たちの支持はその時から始まっていると言っても良い。

 

「まったく見当は付きませんが……。君は何か聞いているかね?」

「……コロニーの利権くらいしか思いつきませんね。アレはちょうど旧式になったところです」

 ゴップはグレミーに対しても何か聞いているのだろう、平然と質問を浴びせる。

 

「まさか完全循環型コロニーを? 随分と太っ腹な気がするが、確かにそのくらいしか都合の良い資金源は存在しないか」

「実のところスパイが連邦もジオンにも入り込んでいましてね。売りに出すのが早ければ早い程価値は高い。今ならば良い値を付けるでしょう」

 ゴップも聞いているならばローナンとしても言葉を躊躇うことはない。

関連する内容を一部ながら開示してしまうことにした。アナハイムがスパイを大量に送り込んだり技術者を引き抜いており、かなりの部分を抜き出しているということだ。

 

そもそもの話、工業力を残したジオンに建造させて賠償額に充てさせる。

その計画があった時点で、半分くらいは公開しているも同じだ。そして今ならばアナハイムは核心技術の全てを持ち出してはいない。そして……一からコロニーを建造しようという者にとっては、まだまだ重要な技術なのだ。

 

「十年後を目途に完全公開。金を積んだら今の内に提供するというところですかな? それならば一応は公平でしょう」

「他のコロニーは十年待ては無料。ジオンからの賠償金も手に入り、自治権も今までよりは拡大される……ですか」

 ローナンがある程度のストーリーを作ると、ゴップもそれを理解した。

打てば響くとはいかないが、十分に話は通じる。今後に政権を組む仲間としては、ヤシマ重工の後押しを含めて十分に心強い存在になるだろう。

 

二人の間で話が進んだためか、興味のないグレミーは再び本を読み始めている。

失礼な若者のことなど無視しても良いのだが、先ほどの懸念もあったので、あえて尋ねてみることにした。

 

「時にグレミー。君ならば完全循環コロニーに何を付け加えてみたいかね?」

「ミノフスキー粒子によるエネルギー保存の法則の突破! 循環システムの効率化で小型のコロニーが実現した今、エネルギー封入や保存の効率化以外に社会を発展させるものはない!」

「すまないが……。何のことやらサッパリだ。少しかみ砕いて教えてくれるとありがたいのだが」

 質問したローナンだけでなくゴップにも判らなかったようだ。

循環システムが小型化して、小さなコロニーを作ること、逆に巨大な食料プラントを作ることも可能になった。判るのは以前に説明を受けたその辺までである。

 

「研究対象だけについ夢中に成ってしまったようだ。ミノフスキー粒子はエネルギーを留め置く性質がある。これについてはもはや説明するまでもないだろう」

「……ミノフスキー型核融合炉や、レーダーを無力化するほどの電波の吸収性だね。軍に居たからそのくらいはなんとか」

 それでもまだ難しいのだが、ゴップは苦笑しながらついていった。

モビルスーツが高速で動くだけのエネルギーを生み出し、有視界戦闘に立ち戻らせた原因は、ミノフスキー粒子のせいだといっても過言ではない。

 

グレミーはこれでようやく話ができるとばかりに、重々しく頷いた。

そして空を飛ぶ複葉機が見え始めた時、それを指さしながら話を続ける。

 

「アレに融合炉があったとして、その飛距離はまだまだ無限には程遠い。移動力も無限大どころか、0.1にも満たないだろう。通信を送るとして、距離が離れれば当然遅くなる。落ちれば言うまでもない」

「ああ、少しでも効率的にということか。それならば何となく判る。最後のは不吉だが」

 今のところ、エネルギーを封じる性質があるというだけだ。

保存性が確認されただけで、ミノフスキー粒子の学問はその発展段階だ。

 

マイクロウェーブ送信技術が確立したことで、エネルギーシステムに革命が起きる前夜のようなものだ。その発展はまだまだ未知数でしかない。

 

「効率化は誰かがやる仕事だろう。だが概念はあっても未発見なのは、情報を封入すれば超空間通信。そして衝撃を吸収すれば慣性成制御システムだ。これらがあればそれだけで世界は一変する!」

「それで先ほどの言葉か。確かに夢は大きいな」

 だが必ずしも無理な目標ではない。

情報を遮断するために使われているミノフスキー粒子が、超空間通信に使われる未来がくればとんだ皮肉である。だがマイクロウェーブでエネルギーを送信できるならば、情報だって送信できるに違いない。

 

そして何より慣性制御システムが完成すれば人類の発展は劇的に大きくなるだろう。

通信システムはタイムラグさえ我慢すればどうとでもなるが、移動に伴うGばかりはどうしようもない。現段階ではたかが十Gの加速で普通の人間は耐えられなくなるのだ。無限のエネルギーがあったとしても、宝の持ち腐れであろう。

 

「さすがに私の生きている間には見られそうにないですな。しかし子供たちの時代にはなんとかしたいものです」

「そうですな。今日はお会いできて光栄でした」

 ゴップとマーセナスは握手を握り、そのまま興味のないグレミーの手を強引に握った。

共にギレンの血筋や切れ過ぎる頭脳を警戒しており、彼の興味が化学にあることをホっとしたのである。

 

 

 そして次なる政権を目指すローナンに、衝撃の事実が訪れた。

 

『ニュータイプは人類の可能性を秘めています。その優れた資質を発揮したならば、優先的に政権参加を認めても良いのでは?』

 ジャミトフの擁立した連立政権は、ジオン系の人間がニュータイプの政権参加を訴えた。

 

『何か勘違いしていると思われるが、ニュータイプの能力とは、長年連れ添った夫婦や危機を共にした相棒(バディ)が相互理解できる程度のものだ。優秀さは個人によるものでしかない』

 傀儡政権にやらせておいて、ジャミトフは平然と叩き潰すマッチポンプを行った。

 

『なるほど、危機的状況ならば優秀だ。念頭にあることを瞬間的に理解できる把握力は話をスムーズに進ませるだろう。だが我々の役目は彼らを差別せずに認める事でしかない。そうすれば優秀ならば放っておいてもこの場に立つだろう』

 言われてみれば自然なことだ。

ニュータイプが人の可能性の発露であり、その優秀さが指導者向きならば、余計な事さえしなければ自然と指導者になるはずなのだ。

 

もちろん認識の拡大でコミュニケーション能力が発達しても、政治的資質が無ければ指導者になることもない。

ニュータイプだからといって優先的に参加させることが重要なのではない。差別しないこと、彼らが現れたら、ただ認めるだけで良いとジャミトフは締めくくった。

 

「やってくれる! やってくれたわ! おのれジャミトフ。マーセナス家の百年をただの茶番に変えたな!」

 それは茶番に過ぎない。

だがマーセナス家の男としてローナンには到底、看過できるものではなかった。しかもニュータイプの優先参加論は祖父の持論で、昔から口にしていたなどと吹聴されてしまっている。

 

調べてみるとかなり前からこの展開は準備してあり、『ゴットハンド』というチームを使って、戦前から捏造工作のために色々行動していたから用意周到だと言わざるを得ない。

こうなってくると査問会から繋がる一件を放置して許したように見せたのも、いま仕事を干されているのも、この日のための布石だろう。

特にメラニーは、動かなければならないこの時期に動けないのが痛いはずだ。

 

「パパ……なんで笑ってるの?」

「リディ。お父さんはね。戦うべき相手をようやく見つけたんだよ」

 ラプラスの箱。そんな物など知らない我が子にローナンは微笑むことができた。

何も知らない者ならば、確かに初代連邦首相と同じことを言っても良いのだ。

 

それに対して手痛い反論を食らったのに何も言えないのは実に辛い。勝手に論陣を張られて、アナハイムとの確執をいつの間にか解消された身としては腹が立つばかりだ。

 

だがローナンは不思議と晴れ晴れとした表情で、傀儡政権を操って待ち受けるジャミトフへの闘志が湧き上がるのを感じていた。

 

「さしあたってはメラニーをどうするか……、だな。ここに至っては切り捨てても、こちらから手を差し伸べても良い」

 そう言いながら彼の一族に嫁いだビストの娘が、家族と不仲であるのを思い出した。

彼女に協力しても良いだろうし、利用するだけ利用してメラニーと手を組み直しても良いだろう。

 

新しい時代の訪れを感じながら、ローナンは何をするべきか忙しく思考を働かせ始めたのである。




 という訳で、ラプラスの箱に関して何とかしてみました。
ついでに、破綻しそうなアレコレも解決。
「お前、バスクに全部押し付ける気で色々やらせたよな?」
「じゃあ俺もするわ」的な居直り強盗とも言います。何度もやったらグダるけど、一回だけならアリな奴。

問題のありそうな政策は、一通りクーデーター政権の間に済ませた感じです。
完全循環型コロニーもアナハイムがかなりパクって来たので、コピーされるまえに技術販売。
十年後には完全公開するので、平等とか重視する人は待ってもらって、今すぐ作りたい人は金払えって感じですね。
「ドゥガチーくーん、金くれよー」とも言います。
お金なくなったら別に技術を渡して「お代わり!」って言う気なんですが。

自治権が拡大し過ぎに成る前に、ジオンが公国制だけを変更して共和国に戻りました。
(シャアもガルマも指導者としては、元々乗り気ではないのも大きい)

影の政府(シャドー・キャビネット)
 反対のための反対とはいてもらっても、政権を取ってもらっても困る
そこで『国家に忠実な反対党』に、閣僚級の予備政策決定権とそれなりの地位・給料を保証。
これによって政治空白を避ける……イリギスの手法だとか。

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