ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】 作:ノイラーテム
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完全循環型コロニーを使用した自治区構想の一つ。
その中でもこの『ホウライ』は独特の趣を誇っていた。むしろ自治区ではなく観光都市であると誰もが思う程に。
このコロニーではギャンブルが強い者が全てを得るのだ!
これが正気の沙汰だと思う者は居ない。狂気であるか、それとも趣味の産物だというだろう。世の中に国家は色々あったが、通貨の通し番号がそのまま宝籤になってる場所は此処くらいだ。
「相変わらず盛況な様だな。女史」
「おかげさまでギャンブル三昧の日々です。なにせ、ここでは朝も昼もありませんから」
二人の白髪が奥の間に通される。
一人は『今の』持ち主である女ギャンブラー。もう一人は悪漢ジャミトフ・ハイマンであった。
「いつ来てもここは独特だな」
「でなければ面白くもないでしょう? 世の中にこういう場所があっても良い。一つはあっても良いが二つは多いと人は言いますが、私に言わせてみれば『博打』のない世界の何が面白いのやら」
賭け事の国家、ホウライでは日夜ギャンブルが行われている。
中でもこの奥の間は賭け率のランクが違っていた。連邦議員が遊びに行って、一夜で億の金を失ったと言えば……ここで一勝負が一千万のバカラでもやったのだろうと誰もが噂し合う程だ。
もっとも中で起きたことは一切口外無用なので、真相は闇の中。賭けを行った当人がコンクリートを抱いて海の藻屑に成ったので、比喩ではなく闇の中であった。
そんな場所が貸切られ、一人の老人が待っていた。
ジャミトフと同年代、笑顔に見えるがその目は笑っていない。ジャミトフが年老いた猛禽であるならば、この男は獣の類だろう。
「久しいなメラニー。息災か?」
「もちろんだとも。だが、お互い忙しい身だ。さっさと『商談』に入らないか?」
商人と言えば朗らかな語り口の営業マンを思い起こさせる。
だがこの男は油断ならない印象で、笑顔を張り付けていても強烈な個性と貫録を感じさせた。
それも仕方あるまい。この男の名はメラニー・ヒュー・カーバイン。
世界一の大企業、アナハイム・エレクトロニクスの会長である。物を売るための営業ではなく、インフラを売るために戦争を起こす。そのためにモビルスーツを開発するとまで言われた男であった。
「……私は日ごろから、あの星に住む人々を宇宙に上げたいと思っていた。環境汚染問題などと口にするくらいならば、可及的速やかにほとんどすべての人間がいなくなるべきだとな」
「フン。望みは似たようなものだな」
ジャミトフの言葉にメラニーが笑った。
半分ほどの共感と、残り半分は出来る訳が無いとの嘲笑だ。
そんなことができるならばとっくにやっている。
ジャミトフよりも前に、世界に対する多大な影響力を有したメラニーをして、『計画』が全く進んでいないのだ。笑いもしよう。
「だが私はそこまで大それたことは思わんな。環境汚染の著しい場所は一人も居なくなるべきだが、残りは大多数で良かろう」
「ゲリマンダーか。まあ、お互い様だが中途半端に思えるな」
対してメラニーの思惑は似たような物でありながら違っていた。
彼の思う所の『聖地』を取り戻すことを欲していたが、地球に残る経済環境まで壊す気などなかった。あくまで欲しいのは聖地であり、地球規模で人間の活動を破壊しつくす気などないのだ。
共に共通するのは人類を宇宙に進出させる事、そして手段を選ぶ気がなどない事だけであった。
「中途半端というは容易いがな。地球規模など気がくるっているとしか思えん。できると思うならば今すぐ人類に叡智を授けて見せろ」
「……それも良かろう。だが、差し迫ってはどちらの目標を基準に据えるかだな」
吐き捨てるメラニーの言葉に、何がおかしいのかジャミトフは笑った。
いや、転生者ならば判るだろう。今すぐ人類に英知を授けて見せろなどと、何処かの赤い彗星の上げる憤慨の様ではないか。
ともあれ、目標は一つに定めなければならない。
その為にジャミトフは会談を申し入れ、そしてメラニーが応じて中立であるこのギャンブル国家にやって来たのだ。軍政のみならず地球連邦政府に影響力を持つジャミトフと、経済界を牛耳るメラニーが手を組んで不可能なことなど殆どないのであるから。ゆえにこそ目的は一つに絞られねばならなかった。
そしてここはギャンブル国家なのだ!
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賭け事で決めずして、何がギャンブルか!
ギャンブルの為のギャンブルが始まり、それらはギャンブルによって運営されるだろう!
そこまでやるのが自治という物である。
「女史、確かここでは正規のギャンブル以外にも賭け事を受け付けていたな?」
「はい。現在、最も熱い賭けは王子様たちのチェス勝負です」
ジャミトフが問うと3Dプロジェクターで画面が映し出される。
先ほど始まったばかりの対決で、恰幅の良い金髪碧眼の青年と仮面の男がチェス盤を舞台に雌雄を決していた。
そしてその画面の周囲には、どちらが勝つかという賭けに無数の賭けが行われている。
何処で調べたのか知らないが、正規のブックメーカー以外にも闇の勝負が行われているという記載があった。恐るべき勢いで数字が上がる……などとはまだ初歩の初歩だ。
恐ろしい事に油田であるとか、年若い子女の婚約などすら書き込まれている。
ソレが人身売買なのか単に婚家の主導権争いなのかは問いはすまい。だが無数の勝負、無数のレーティングで勝負が行われていることが分かる。
ここは悪徳の都なのだ。
親でも国でもチップに載せてしまえ……ただしできるだけ楽しい勝負で。ただ、それだけの事である。
「あの二人の内、どちらが勝つかでも賭けるのか?」
「何を馬鹿な。一人はロームフェラーに所属するどこぞの王子で、もう一人はそれに対抗するテロリストであったか。……だが貴様、知っているだろう?」
ポーカーフェイスでとぼけるメラニーにジャミトフは笑って見せた。
先ほど女ギャンブラーが言っていたではないか! 『王子様たち』の勝負であると!
テロリストもまた王子であり、自らが守ろうとするナニカの為に身分を隠して戦っているらしい。
そして、その事を世界経済を牛耳るアナハイムが掴んで居ない訳はない。最初から正体を知っており、イザと成れば幾らでも介入ができるのだ。アナハイムがそっぽを向けばどうなるか、誰でも想像できるのだから。
「では何で勝負をする? 繰り返すぞ、私は忙しい」
「お互い様だな。私もこれから次の政策に関してスポークスマンと茶番を演じねばならん。さて、ショーダウンだ」
面白くもなさそうな顔で続きを促すメラニーに、ジャミトフは歩きながら腕を広げた。
まるで誰かがこの場を見つめているかのように、自らが俳優であるかのように振舞っていた。
いや、転生者である彼にとって、ジャミトフとしての人生自体が俳優の様なものなのかもしれない。
「メラニー。お前は抱き込んでいるな? 博打をするならイカサマをしろと指示をしている方に私は賭けよう」
「ジャミトフ、貴様!?」
ここに来て初めてメラニーの表情が変わった。
博打で自分の理想を賭けるなど馬鹿げている。だからこそメラニーはイカサマを仕込んでいるに違いなかった。
それを見抜かれることはない、などと甘い事を思っていないわけではない。
だが引くに引けない状況に持ち込まれるとは思っても見なかったのだ。何しろジャミトフは古式ゆかしい封筒を懐から取り出したからである。
『問題はお前が受ける必要がないことだ。だからここでレイズだ。お前がどこまで抱き込んだかの予想を書き込んである。イカサマをしたことではなく、どの程度のイカサマをしたかを賭けるとしよう』
封筒の表にそう書き込んであった。
これはメラニーにとって想定外の事であった。イカサマを見抜かれること自体はさして気にもしていない。誤魔化すことも含めて、端から交渉材料にする気しかなかったのだ。
彼は最初から、ここに賭け事ではなく交渉の為に訪れていたのだから。
だが、ここはギャンブル国家なのだ!
賭け事で決めずして、何がギャンブルか!
「どうした? 私がこんな物を用意できたのが不思議か? 秘書や使用人に紛れ込ませていたものな? だがそれで本当に、私を封じ込めれると思ったのか?」
「ジャミトフ、貴様……何時から」
メラニーの問いが端的に事実を表している。
ジャミトフが言うようにスパイを送り込んで監視していた。だが監視されることをその前から想定していたのだ。
それは何より、何年も前からこの時を予想して居なければならない。
一体いつから計画して居たのか、一体どこまで計画しているのか? メラニーはここにきて、初めて追い込まれたような気がしていた。
「……そこまでやる気ならば手を貸すにはやぶさかではない。だが、株主共を黙らせるのは容易ではないぞ」
「問題ない。これからスポークスマンとの茶番が待っていると言っただろう? そこで全ての決着をつける」
さあ、宇宙世紀最大の賭け事だ!
張って悪いは親父の頭、かかあの尻は張ってよし!
アナハイムに出資するどなたさまも、明日までに株式購入をされていた方が良いでしょう。
もっともそんなことをしたらインサイダーと呼ばれてしまうかもしれませんが。
何年も前から相談を受けていた女ギャンブラーは、プラチナブロンドをボリボリとかきながら薄く笑った。
人生は何事も勝負よ?
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翌日、おそるべき告知が全世界に広がった。
最初はただの談話であり、冗談めいた指針でしかなかった。
しかし連邦政府閣僚を含め、議員たちがこぞって宇宙へ拠点を移したという発表をしたことで信じざるを得なかった。
『閣下。地球に住む人々の排斥を行われるとの懸念が為されていますが?』
『我々が計画しているのは慣性制御システムによる遠方への移民だよ。その一環として一つのスローガンを掲げるに過ぎない。決めるのは私達ではない、君たちだ』
方や地球からの人類排斥。片やただの移民。
どちらの文言であれ、地球政府が全力を挙げて人々を宇宙に揚げる政策に変わったのは間違いない。
どうしてそんなことが可能になったのか?
それを問うよりも先に、ジャミトフの掲げるスローガンが気になった。きっとそれが重要な指針になると判っていたからだ。
『そ、それは何でしょう?』
『宇宙市民の資産倍増計画だよ。今後一年以内に君たちの資産は倍増し、比例して給料も上がるだろう。私たちがこの流れに乗せるのではない、決めるのは君たちだ』
この発表を疑う者はいなかった。
何しろ連邦議員たちがこぞって宇宙に拠点を移す理由の裏付けになるからだ。
これから資産価値が倍増するならば、宇宙に投資しない理由がない。
地球に留め置いた資産は相対的に価値が下がり、どうしてもこだわりのある者以外は宇宙での生活に賭ける日が来るだろう。今ならば新型コロニーへの優先権が与えられると聞けばなおさらである。
そして宇宙に行った人々は思い知るだろう。
与えられた居住区画の居心地が良い事。その場所への移住を求める他のコロニー市民へ、その居住権が高く売れる事をだ。持っている資産価値の上がった宇宙市民は、環境の良い新型コロニーへの移住を希望するだろう。
「まさか一夜にしてこれほど株価が上がるとは思いもしなかったな。一言でも言ってくれれば良かったものを」
「株式を買い増しておくつもりだったのか? インサイダーだぞ」
メラニーの抗議をジャミトフは笑って流した。
忙しくなるのもアナハイムの株式価格があがるのもこれからだ。何しろ親方連邦丸で大規模工事が始まることになっていた。次は月の首都構想が発表されることになっている。
作業装置も建築資材も価値が上がるはずだ。
ジオンにはすでに話をしており、旧型のMS-06が軒並み作業用に改修されていた。それでも足りないことは目に見えているほどである。
「で、私に何をさせる気だ? ここまで段取りを踏んでいたならば、貴様一人である程度の事は出来ただろうに」
「それでも残る頑迷な連中が居るだろう? 私も故郷に対する思いを捨てろとは言わんよ。排除するだけでな」
そう、ここまでの計画がメラニーの耳に入らなかった筈はない。
情報は細分化されて、こうなるように再統合するまで時間をかけていただけの事だ。何年も前から議員たちの抱き込みが始まっており、自分たちの資産投資を隠すために黙らせていたに過ぎない。
では何をメラニーにやらせたかったか?
それは勿論、彼がインフラを牛耳る商人であることに由来している。
「地球に残る連中が減っても、代替することで儲けを出す商人もいるだろう?」
「まあな。人がいなくなれば居なくなったで利益を出すことは可能だ。それに宗教や民族的な……まさか」
ジャミトフの言わんことを察してメラニーは沈黙した。
流石に凶悪で、そこまでやるのかという布石だからだ。悪辣などというレベルではない。
「そこに紛れ込ませる。深く根を張り宇宙に行く人々を支援しつつ、居残る人々に色々な物を売る商人の役をやらせる」
「散々依存させておいて、時期が来たら一斉に居なくなる? なんともまあ……」
食料を売る者が居なければ、人々は自給自足の生活を送るだろう。
余った食材を売買して、自分たちに足りない物を他から仕入れるというサイクルへと移管する。その役目をアナハイムの商人が担い、自給自足への準備を可能な限り遅らせる。もちろんその間も色々と理由を付けて宇宙への移民を優遇しておくのだ。
そしてその商人たちはある日、一斉に引き上げる。
採算的にも許可的にも代替が不可能になった時点で、次々に姿を消し、あるいは公然と『儲からないから』と理由を付けて商売から撤退する。
「そこまでやって何とかしがみつく連中くらいは認めてやっても良いだろう。好きにするがいいとしか言えんよ」
「悪役を押し付ける気か? 何を言われるか判らんが……そこまでやって良いなら私も好きにやらせてもらおう」
当然ながらアナハイムの名前で売るわけではない。
だが地域の実力者に顔を通す以上、どこかで名前が伝わるだろう。そして実力者ゆえに資金も一族の結束も強力に違いない。
恨まれて命を狙われるかもしれない。
ハッキリいって割に合わない裏工作だが……メラニーには一つの理想があった。危険な裏工作を任せる以上は、『何処かの地域』で『誰か』がいつの間にか居なくなっていても問題視はされまい。
こうしてゴツイ老人たちが手を組んだことで、史実の何倍もの速さで地球から人々が居なくなったそうです。
めでたし、めでたし?
爺二人が話してるだけ。というのを突発的に思いついたので書いてみました。
「今すぐ人類すべてに英知を授けて見せろ!」
「やってやるぜ!」
どうみてもガンダムでやる話ではありませんが、ガンダムでないとやらない陰謀です。
1:サイコフレームを使った慣性制御システム
2:火星・木星への慣性相殺型移動ゲート。サイコドライバー
3:月面首都化構想
4:新型完全循環コロニーの特許撤廃
これらを一時に初めて、資産倍増計画を発表します。
アナハイムの株主たち? 反対するどころか相乗りして
ガンダム00の監視者みたいなことをやりたがるんじゃないですかね。
サイアム・ビスト? 隣で寝てるよ。状態。