ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】   作:ノイラーテム

4 / 32
スローステップ

●朗報と暗雲と

 受領する前に貸出す形でガルダを実践投入し、インドシナ戦線を粉砕し一足早くアジアの片が付いた。

その話を最初に聞いた時、私が思ったのは『惜しい』という気持ちだ。

 

インドシナ戦線からザンジバルらしき艦が逃げ出したというが、ラサ基地にはギニアス・サハリンが居たはずだ。

時期的にアプサラスの完成よりも前倒しになったせいで、研究はまだまだ途上のはず。

自分が担当していたら、捕虜にするなり、裏で交渉して研究させることも可能だったのではないかと思わなくもない。

 

「ガルダが役に立ったようで何よりだ。予定通りこちらに……何? ええい! 艤装など良い、新しいのをサッサと送ってこい!」

「どうしました? 何か問題でも」

 通信していたコリニー中将が通話装置を投げつけた。

秘匿回線で個人的に話していたので、こちらに送る予定のガルダに何かあったとしかわからない。

 

「どうしたもこうしたもない! ライヤーの奴め、ガルダで独断の追撃を始めおった!」

「……意外ですな。ライヤー大佐はジャブローの椅子を温めたがっていたと思いますが」

 ガルダが有効だった以上、追撃すべしと判断するのも間違いではない。

まだ受領していなかったわけだし、コリニー中将の管理下に無いのだ。

 

意外だったのは、08小隊に登場するライヤー大佐がやったということである。

彼はいずれの軍管区にも所属せず、ジャブローというか本部所属の戦略予備という扱いだ。

ガルダで戦略予備軍を一気に投入し、アジアの問題を片付けたのだが、彼はジャブロー本部での行動を志向していたはずである。

 

「どうせ誰かの意向に違いない。ワシからガルダを取り上げて足を引っ張ろうというのだ」

「調べさせておきます」

 手に入れてもないのにワシの物とは噴飯ものだ。

しかしレビルの後釜を狙うコリニー中将にとって、誰かの差し金と思いたくなるのは仕方がないだろう。

 

「そんなことはどうでも良い。問題は艤装の済んでない軍艦なぞ石のタヌキでしかない。ジャミトフ、何とかならんか」

「……そうですな少々お待ちください」

 計画が狂い功を焦って艤装前の艦を呼び寄せた中将の気持ちも判らなくはない。

対案も用意しているので問題ないが……。

 

先ほどの疑問が気になるので、考えるとトボケて時間を稼いでおいた。

 

(ライヤーは中将の怒りを買ってまで行動するタイプではないし、誰かの差し金で功績を稼いでまで出世したいタイプでもない。では誰が命じた?)

 上昇志向は強いが秩序も重んじるし、本部付きというブランドや快適さも大事にする男だ。

本当に独断とも、指示で動いているとも思えない。

 

私が一年戦争中に准将、戦後に少将に成れるから焦ってないのと同じだ。

ライヤーも今回の実験で点数稼ぎをしただろう。次に何かの作戦があれば確実に昇進できる。

別に焦る必要はないのにと、奇妙な点が気に掛かっていた。

 

 もちろん、普通ならば今の状況だけでは何も思いつくはずがない。

だが私には、思いつくだけの情報ソースを持っていた。

 

「……メラニーか。メラニー・ヒュー・カーバインの周囲を調べさせておけ。だいたいで良い」

「と言いますとアナハイムのですか?」

 小声で話してるのに聞き返すなと言いたい。

だいたい、アナハイム以外にメラニー・ヒュー・カーバインが居たらお目に掛かりたいものだ。

 

まず前世の記憶で、アナハイムが世界最大の企業になったことは覚えている。

ユニコーンの時にその理由が存在したことも、なんとなく判った。だがこの世界でも『箱』が本当に存在し、ビストが関わっているかは分からない。

 

だが私は、もう一つ情報ソースをもって居た。

私がジャミトフ・ハイマンであり、メラニー・ヒュー・カーバインとは士官学校で同期であったという事だ。

薄ぼんやりとして忘れかけていることも多いが、奴とは同じ学校ゆえに見聞きしたことで掘り起こし・再認識したことも多い。

 

(奴は聖地奪回を今でも夢見るような男だ。そういう事か……)

 おそらくはジオンをインドシナ戦線から脱出させたのも奴だ。

意図的に誘導し、それを追いかけるようにライヤー大佐を動かした。

 

あとは簡単だ。

適当に戦闘をさせながら人間を追い払い、穴を埋めるように自分の息の掛かった人間を送り込めばいい。

いや、既に送り込み、ジオンの名前を騙らせてマンハントをしている可能性すらある。

そして残った政財界人にも、ジオンの協力者であるという汚名を押し付けて根こそぎ消し去るつもりではないだろうか?

 

箒でチリを集めて除こうとするかのように。

 

(奴がどう動くかは別にして、コロニーに送られる者や難民には注意しておいた方がいいな)

 別に難民を助けようとは思わない。

だが、何かあった時にアナハイムや、各地の独立主義者に送り込む為の準備はしておいた方がいいだろう。

 

その工作をするのであれば、直ぐにオーストラリア戦線も片つけるのは惜しい。

どうにかして、傍目からはそう見えないように、時間を稼ぐ必要があるだろう。

 

●隠れ潜む敵に備えて

 やる事が決まったことで、私は考えを整理しなおした。

ビスト財団に手を出すかは別にして、アナハイムに手を伸ばす準備をしておく。

 

今後にどう転ぶかは別にして、難民を手なずけて各地に送り込む有意義さに関しては、戦後の歴史を思い出すまでもない。

 

「何か思いついたのか?」

「はい。この際ですが、奴らを逆利用してしまいましょう。時間が掛かってしまう不備は、全てライヤー大佐とのその背後にあるのです」

 するべき事さえ決まれば、時間を稼ぐのに必要な行動を決めるだけだ。

目的と手段が逆転してしまうが、気にすることはない。

 

そして後は単純作業。

手持ちの作戦案の中で、時間を掛ける意味のある物をチョイスするだけである。

 

「それでは言い訳にしかならんだろう。時間を掛けて何をするつもりだ?」

「艤装をするという理由で、対潜を中心に装備を充実させます。そしてシドニー湾に潜み支援している敵を追いかけ……」

 前々からジオン水泳部対策はしていた。

ここにソレを大々的に行う理由ができたという事だ。組み合わせるだけなので、もはやパズルですらない。

 

「潜水艦隊の本部に違いないという理屈をつけて、ハワイまで攻め入ってしまいましょう」

「ハワイ攻略戦自体を乗っ取ってしまうのか?」

 前世の記憶でハワイが本部だと知っているのだが、ここは屁理屈でこじつけるという事にした。

 

対潜装備の試験も兼ねて、潜水艦を追いかけていたら偶然ハワイであると突き止めた。

ガルダは艤装こそ途中だったが、『偶然』にも爆装や上陸戦の準備が充実している。

 

ソレ自体は、オーストラリアを片付けた直後で移動前だったのだ。

なんの不思議もない。たまたま潜水艦を追いかけたら、本部まで辿り着いたという態である。

 

「お気に召しませんか?」

「いや、気に入った! 元からハワイ攻略戦は合同作戦だったし、何より言い訳する必要もないというのが良い」

 ハワイは微妙な場所にあるので、アジア軍管区とオセアニア軍管区。

その両方の共同作業で、戦力を抽出する手筈だった。

 

それに加えてジャブロー本部から対潜・爆撃・上陸用の装備で戦略予備が加わる予定。

どちらが指揮官になるか、それともジャブローからの派遣組になるかはまだ決まっていなかっただけに過ぎない。

 

だが、この理屈で追いかければ、全てはコリニー中将の胸先三寸。

すべての問題は最初にライヤー大佐が勝手に追いかけて、その皺寄せを整理していたことが原因になる。誰かが文句を付けるとしても、こちらの不手際ではないのだ。

 

「それでは私は現地の督戦に参りますので」

「うむ。無理はさせるなと言っておけ」

 今の勝利は程ほどで良い。

重要なのはむしろ、悪影響を残さず立つ鳥が跡を濁さずに出立することだ。

 

そのためには時間を掛けてでも、確実に勝利しつつ、装備も活力も充実させておく必要がある。

督戦するという理由で現地に出向き、無茶はさせないという矛盾した指令を与えることになった。

 

 

「タイタンの調子はどうだ?」

「はっ! 78式に問題はありません。すこぶる順調であります!」

 そこに巨大な戦車が居た。

78式重戦車、通称はタイタン。融合炉搭載型の大型戦車で、実に20mものサイズに及ぶ。

 

試験している型によって、180mm無反動砲・220mmキャノン・60mm対空機関砲と差はあるが、15mに詰め込んだガンタンクよりも平べったく重心が低い分だけ安定していた。

 

いずれもっと強力なライフル砲が登場して入れ替わるのだろうが、いまでも十分に強力だ。

ジオンの火砲よりも長射程で、曲射攻撃においても精度が高いのがウリである。

 

「このまま押し出しますか? いつでも攻勢を強められます」

「中将は無理をするなと仰せだ。たとえ時間を掛けても完勝できるならば少々は構わんと、な」

 やる気を損ねるわけにはいかないし、これまでと方針を変えるわけにもいかん。

 

今になって急に方針を変えられても困るだろうし、方法だって思いつかないだろう。

そこで方針は弄らず、手段に関する制限を外すことにした。

 

「間もなくガルダが来る。この機に全力戦闘のテストを行う」

「っ!? 了解であります! 腕が成りますなあ!」

 いわゆるオール・ウェポンズ・フリーと言うやつだ。

いつもは使用制限をしている装備を使用し、戦術オプションを行使する。

 

とはいえ普段は使わないがゆえに修正に時間が掛かるし、ガルダに運び込むことを考えたら微調整はなおさらだ。

 

「それと大佐。……レジスタンスの者が協力を申し出ているのですが」

「軍人は民間人の盾になるのが本道だ。戦闘には参加させられんと言え」

 そこに居る現地士官の性格を考え、それぞれの前で性格に見合った言葉を使う。

 

「第一なんだ……せっかく楽しくなってきたのに、素人に邪魔されても困るだろう?」

「それもそうですな。しかし、彼らは後方に下がらせますか?」

 真面目な者の前では危険に晒さないと言い、戦闘好きな者の前では自分らで愉しむ為だという。

表情やトーンも使い分け、士気を向上させるのも参謀の務めだ。

 

「彼らは苦労してきたのだ。ただ下がらせるだけではなく、最大級に便宜を図ってやれ。どうしても仇を討ちたいならば軍に放り込んで鍛え、家族を心配するならば避難所と仕事を斡旋させろ」

 民間人の協力者を手厚く扱ったという評判が広まれば、後がやり易くなる。

 

それと同時に、手厚く扱うという陰でやるべき事があった。

 

「ただし役人に引き渡す様な真似はするなよ、大尉? それでは放り投げるのと変わらん。どこで家族と別れてしまったのか、どんな仕事で働きたいのか確認しておけ」

「身元の確認を行うのですな? 住む前も、移動した後も」

 金魚のフンの様に付いてきたジャマイカンに、ニヤリと笑って頷いておく。

スパイが入り込んでいるのは当然だし、場合によっては人質が取られている可能性もあるだろう。

 

相談に乗ると称して経過を観察すれば、スパイだったとしても把握できるし、手厚い保護だと見ることもできる。

千人くらい難民を保護すれば、一人・二人はジオンのシンパが居るし、逆にこちらの正義を頭から信じ込んでくれる者も出るだろう。

 

また経過を観察して詳細を把握するということは、住む場所や仕事場を追いかけて追跡調査も可能とするということだ。

なんだったら彼らの戸籍と家族情報を利用して、こちらがスパイやエージェントを送り込んでも良い。

 

そして……仕事を斡旋するといってもオーストラリアに限らず、地方のコロニーだったり、都市にあるようなアナハイムの工場も良いという訳だ。

焦る必要はない。ゆっくりと確実に、今後の動乱期に備えて根を張っておけば良い。

 

「大佐! ガルダが到着するまではディッシュで観測を行います。デプロッグの換装を始めましたが、本当にウラヌス・システム使っちまっても?」

「構わんといった。データ観測は頼んだぞ」

 ウラヌス・システムというのは、三次元観測による測距演算戦闘だ。

もちろん伝説の存在そのものではなく、『星をちりばめられたる者』という意味の方を採用している。

 

高高度(こうこうど)に位置した偵察機や母艦から、地上目標だけでなく、バラまいた射出目標を観測する。

曳光弾など当たり前のこと、電波誘導ではなくプログラム型のドローンも惜しげもなく投入。

発光や発煙を読み取り、敵味方の位置や移動距離を図る。この情報を計算して、遠距離攻撃を行う味方にマーカーサインなどを放って伝達するという訳だ。

 

ちなみに最初は『アルゴスの眼』と直球だったので、名前で判るのは問題だと止めさせられた。

アフリカ方面用に考案した『ラーとメジェド』は通ったというのに、解せぬ。

 

「ドローンの費用など無視して思いっきりやれ。それに目の前の敵を片付けたら、次は海から邪魔してくれる連中を始末することになるのだからな」

「そうこなくっちゃ! ジオンの連中を粉砕してみせます!」

 なお、残念ながらモビルスーツの出番はない。

 

重戦車であるタイタンが長距離砲撃を掛け、その後でデプロッグが出撃。

このデプロッグがまた曲者で、本来の爆撃仕様以外に、ガトリング砲を無数に装備したA-10みたいなのもある。

 

モビルスーツが投入するのはその後になるから、到着時には既に木端微塵だった。




という訳でアジアとオーストラリアは平和になりました。

アジアではアプサラス完成する前に、ガルダを使って援軍が裏口から侵入。
オーストラリアでは観測による演算戦闘で、ミノフスキー粒子の妨害を無視して遠距離攻撃。
数と射程の暴力で殴り倒した形になります。

ギニアス兄さんはメラニーさんの伝手で後退、ヴィッシュさんは出番が来る前に行方不明です。

●メラニー・ヒュー・カーバインと、ジャミトフの事前活動(慈善ではない)
 設定としてアナハイムの創始者。
ジャミトフと士官学校の同期なので、転生で記憶が薄まっていたとしても、思い出すことが可能。
ただし一年戦争時はアナハイムの独占がないために、ユニコーンにおけるラプラスの箱があるかは不明である。
今回の件が彼の行動であった場合、箱がないからチャンスに乗ったのかもしれないし、箱の力を使って暗躍したのかもしれない。

いずれにせよ、ジャミトフから見れば確かめる術はない。
その後の経過を観察しつつ、利用するまで。

どちらのせよ今回の件では、今後の騒乱を視野に入れて地方に根を張る行動に出ている。
まだ宇宙市民独立主義者が出ておらず、先んじて後から行動する理由を作った感じ。

●ウラヌス・システム
 『星をちりばめたる者』
その名を冠し、発光・発煙による距離観測・風速の経過などを演算戦闘するシステム。
これをマーカーサインで後方に伝え、長距離砲で対空射撃を制限、その後に爆撃・撃ち下ろし射撃を行う。
ジャミフトフが信じるのはデータと使用者の技量であり、サイコミュとかサイコ・ドライバーだとかは信じていない。

デプロッグA型:ガトリング砲装備のアサルト仕様
デプロッグB型:本来の爆撃仕様
デプロッグC型:ドローンを散布するカーゴ仕様

78式重戦車『タイタン』
 20m大の大型戦車で融合炉搭載型。
ガンタンクをシンプルにして平面にしたことで、安定性と生産性は高い。
長距離砲・曲射砲・対空砲とバリエーションはあるが、基地で換装できるので、システムを使用する場合は長距離砲で揃えることになる。
デプロッグも同様に仕様変更できるが、時間が掛かるのでジャミトフの思惑通りになっている。

ガルダ級(読者的にはプチ・ガルダ)
 120mで計算されたものの、結局200m前後になってしまった。
攻撃装備を付けた雄型は200mを越え若干細身の攻撃仕様。
輸送型で装備は少数の雌型は200mを下回る代わりに、縦横が広く設計されている母艦仕様。
前者はライアー大佐がザンジバル追撃に用い、後者をコリニーやジャミトフが使用する。
高速仕様や爆撃仕様も設計段階ではあったが、どう考えても使わないので御倉入りになっている。

重戦車であるタイタンも積めるには積めるが、ハワイに到着するまでは搭載しない予定。代わりに別の物が搭載されるとか。

●ブルー
 別の戦域に移動しましたので登場してませんが、念のために記載。
今頃は北米で色々やってるんじゃないでしょうか?
前回のはあくまでチラ見であり、コリニー閥が関心を示している。
もし仮に史実モードになったとしても、手に入れる(保護する)可能性があるという程度の物です。

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。