ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる【完】 作:ノイラーテム
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火星戦役の変遷とともに戦線はジオンを追う為に伸びていた。
パプティマス・シロッコにとって加速させた隕石は目を引き付けるための道具であり、火星ジオンも同様に道具であったのだ。
全てはこの地に送り込まれた大量のサイコフレームを我が手に収めんが為。
そして死に逝く者の命の煌きすらも、変動する精神力の行先を示すデータでしかなかった。
「馬鹿め。単騎のモビルスーツが何の役に立つか! 資材如きに遠慮するなどと思うなよ!」
「撃て、撃て!」
警備に回されていたモビルスーツは撃破したが、全てではない。
直衛以外の数機が駆けつけ、何らかの工作を始めたシロッコに対してビームライフルを浴びせかける。
だが奇妙な事に、そして恐るべき事にシロッコは身じろぎもしなかった。
『愚かなのはお前たちだ。貴様らでは既に私と同じステージに立てん事すら気が付かぬとはな』
「なにぃ!?」
シロッコの操るメッサーラ改二は迫りくるメガ粒子を寄せ付けなかった。
強大なエネルギーフィールドがそれを阻み、掠り傷すら許さず眼前で四散させている。
「あ、I・フィールドだと!? 小型化に成功していたのか!」
『否。そのような物は既に不要なのだよ。さしずめサイコ・フィールドとでも言うべきかな?』
シロッコは自らの研究の成果であるバイオ・センサーを把握用に使っていた。
類似のサイコフレームはまだ未知数であり、無限の可能性を秘めているとは判っていたが十全には使えぬことも理解していた。それゆえにバイオ・センサーを介したリレーション・システム……精神関与装置を作りあげて、戦場で蠢く精神エネルギーを把握すると同時にサイコフレームへの関与を調整していたのだ。マシュマー・セロを洗脳して影武者に仕立てたのも、このリレーション・システムでシロッコの精神パターンをコピーしたに過ぎない。
THE・O系が完成しながらもメッサーラを選んだのは、サイコフレームを奪う為の奇襲用でもあるが、バイオ・センサーを組み込んだリレーション・システムは最初に作り上げたこの機体で試していたからである。
「まやかすな!! 効かない筈があるか、流・星・ぎ……」
『聞き分けのない奴だ。目に見えた物まで否定するとは、愚か者と言うのは全く度し難い』
ブースターを吹かせて突撃を仕掛けて来るジムⅢ。
凄まじい速度ではあるがシロッコならば先に撃墜させられるだろう。だが絶対の自信を持つシロッコは、メッサーラに持たせたビームスピアを掲げて迎撃態勢に入った。
「っなにぃ!? 流星斬りが完全に入ったはずなのに……」
『光栄に思え。今度は威力を試してやる』
メッサーラ改二の翼に組み込まれたサイコフレームが輝きを強くする。
それがジムⅢのビームサーベルを無効化し、今度はビームスピアの刃を大鎌モードにして振り抜いたのである。
長大な光の刃は機体を容易く横断し、精神にすら作用しそうな怪しさを持っていた。
真っ二つになったのは当然ながらシロッコではない。そして信じられない……といった風情で驚愕していた敵パイロットは、髪の毛を白く染めながら爆発に巻き込まれていく。
『これがサイコフレームの力か。連邦のニュータイプは素晴らしいデータを私にもたらしてくれた』
シロッコは眼下にある火星表面を眺めた。
そこで煌く幾つかは、彼の言葉に乗って命を散らした者たちだろう。しかし彼が関心を持つのは、先ほど行われたニュータイプと強化人間たちの戦いであった。
あの機体は最初からサイコ・フィールドが存在する事を前提にしていた。
自らを守るのは当然ながら、相手にも存在すると仮定して、一介のモビルスーツには不要な程の火力を搭載していたのだ。
『あの機体に搭載されていた武器が一応の目安になるか。まだまだ改良の余地はありそうだが……改良? くくく、改良か!』
ニュー・アレックスの武装で特筆すべきは三つ。
チャージ式のビームライフルにパイルシューター、そして極め付きはサイコフレームそのものをスラスターで撃ち出す強力な誘導武装だ。
しかし使い捨てなのはどうかと思い、自分が設計するならば巨大な爪を持つ副腕かケーブルで引き戻す機構にするかと悩み始めた所で、自らの愚かしさに苦笑した。
『いかんいかん。この力は進歩ではなく進化に使うべきだ。サイコフレームがもたらすほどの力の矛先……それは何だ?』
これほどの力を武器の改良などとはくだらない。
サイコフレームほどの力があるならば、戦線を覆すほどの強力な武装を新たに作り上げ、あるいは戦略にすら届き得るナニカを創造すべきだろう。
その発想は奇しくも、かつてジャミトフ・ハイマンが逆行した時に抱いた疑問と同じである。シロッコはジャミトフの影を追っているなどとは思いもしないが、ただその無限の可能性にだけは誰に教えられることなく気が付いていた。
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ここに来て連邦軍の足並みは乱れた。
火星ジオンを追い掛ける部隊、ジュピトリスを奪還する部隊、そして火星開拓用の物資を取り返す……という名目でサイフレームの奪還に向かうアムロ・レイたちである。
火星の臨時司令部はともかく各部隊長にまでサイコフレームの重要性は伝わっては居ない。仮に知っていたとしても噂程度では、火星ジオンを叩き潰してから全軍で向かえばよいというのが多くのスタンスであったろう。
「まったく。今から強敵と戦うってのに戦力は割けないの一点張りだなんてな」
「情報統制ってそういう事なんだから仕方ないでしょ。後回しにしろって言われないだけマシよ」
とうとう駆逐艦一隻とモビルスーツ一機のみになってしまった。
臨時司令部とのやり取りをバーナード・ワイズマンが愚痴っていると、実際に交渉を行ったクリスチーナ・マッケンジーが肩をすくめる。
逐次投入を避けて戦力の一本化を図るという理論自体は間違っていないのだ。火星ジオンとは言わずとも、ジュピトリスを奪還してからでも遅くないと言われたら面倒なことになっていただろう。もちろん司令部もジャミトフのお声掛かりであるプロジェクトを邪魔しようとも思わない。全ては駆け引きの上の出来事なのだ。
『隊長。どうしますか? 味方はだんだん減ってますが。やっこさんと合流しますか?』
『馬鹿め。俺たちはジオン軍だ。木星野郎との間は貸し借りがあるとだけ覚えて置け』
アムロ達にとって幸いなのは、敵精鋭部隊の足並みも揃っていない事だった。
ラカン・ダカランはTHE・OⅡの装甲と重火力で殿軍を担い、苦しい撤退戦を行っている。残ったハンブラビも後ろを守りながら、イザとなればラカン達を回収して脱出する為に安全地帯と行き来していた。
仮にシロッコの影武者を務めていたマシュマー・セロが、もっと上手く交渉して居たら話は違っただろう。
『切り札はあるのだ。奪取したら火星をくれてやるくらいの事は言えばよかったものを』
イリア・パゾムは協力を行わなくなったスペースウルフ隊を見てそう呟いた。
幸いにも攻撃を喰らったマシュマーは生きているが、負傷を食らってしまっていたのだ。オーベロンのシステム自体は無事なので戦うだけなら問題ないが、いつマシュマーが死んでしまうかは判らなかった。
もっともアムロからすれば必殺の筈のフィン・ファンネルを使ったのだ。あれで無事であるほうが信じられないと言うだろう。
『ガンダムは何処だ!? まだ負けてはいない! 次こそ必ずや……』
(チッ。マシュマーの人格が表に出てきたな。負傷……それともシロッコが現れたせいで優先付けが崩れたのか?)
戦えるだけの気力があるのは良い事だが、調整し易い人格ではなくなってしまった。
イリアとしては不安が募ると同時に、シロッコでも見通せないことがあるのだと僅かにホっとする自分を見つけた。これならばシロッコを監視し続けることも出し抜くことも可能だろう。
かくして戦いは終息ではなく収束し始める。
舞台はサイコフレームのある火星開拓用資材の避難所だ。
コレを手に入れた者が火星の運命を左右することになる。
ソレは結局のところ、シロッコとアムロの二人、彼らの操る二機にしかできない。
「本当に勝てるんだろうか……。三対二とはいえこっちは実質的にニュー・アレックスだけ。向こうは新鋭機が三機も居やがる」
「それでもやるしかないわ。アムロなら大丈夫よね。ララァさ……」
敵味方の数が多い状態ならば作戦で何とでもなる。
しかし数が急激に減ったことで、質の重要性に気が付いてしまったのだ。不安がるバーニィをクリスは励まそうとしてララァ・スンに話を振った。
強力なニュータイプであり、ずっとアムロを見守っていた彼女ならば保証してくれる。そう思った時……彼女は絹の袋を袂から取り出していた。
「ララァさん。その袋……もしかして」
「ええ。私もまた閣下にこれを頂いていたの。もしニュータイプ同士の戦いが戦局を別けるようになったら開けろって」
データ社会に成りながらも、ジャミトフは時折こういう悪戯をする。
いや、データ社会だからこそアナログによる情報秘匿を重視したのかもしれない。
特定の状況にならなければ意味のないキーワード。
今こそ、その袋を開ける時だろう。
「何が書いてあるんだ?」
「……あの二人には欠けているモノがあるわ。アムロならばサイフレームのスペックを最大限に引き出すプログラム」
一枚目の紙に書かれていたのは勝敗の鍵。
その文言とは『コントロールシステムと意思の共振』、すなわちシロッコの持つリレーション・システムによる完全コントロールがアムロ側には存在しないのだ。
所詮、ニュー・アレックスは試作機である。新鋭機であるスターゲイザーの為の布石でしかなく、ニュータイプがサイコフレームのスペックを最大限に引き出すシステムが用意できなかった。
「……でも相手にも無い者があって、アムロはソレを持って居るんでしょ?」
「ええ。私たちが此処に居て、連邦軍にも判ってくれる人がいる。その心がアムロに無限の可能性を与えてくれるわ。それは未来の行き先が同じ場所だから出来る事なの」
仮にサイコフレームがニュータイプ同士の精神共感増幅器であるとする。
その場合は心を交わすことの出来るアムロはそのチャンスが多く、最大人数も広い範囲に及ぶ。言う程に共感することが簡単ではないが、それでも判り合えることは重要なのだ。そのために目的がジャミトフによって統一されていると言っても良い。
だがシロッコは自分自身の野心にしか従っていない。
狭い範囲で統一性が測れているが、代わりに他者と共感して夢を共有できないのだ。所詮は独りよがりな野心家……それも自分自身の目的地すら思い浮かばぬ身勝手な男の行方である。
「つまり……二人、二機の条件は互角?」
「勝てるかどうかはパイロット次第……」
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そしてニュー・アレックスはオーベロンと戦いながら火星を登っていく。
ぬるま湯の様な生活から一転して窮地に立たされたアムロは精神的に成長しつつあるが、それでもオーベロンを引き離すには及ばない。マシュマーもまた成長中であり、決定的な差を作り出せなかったのだ。
加えてニュー・アレックスの飛行装備が失われ、これまでのように機動力で引き離せなくなったのも大きだろう。
『私との決着を置いて何処へ行く気だ! 逃がさん!』
「しつこい! ……とはいえこのままじゃラチが開かないか」
ビームライフルをチャージしている余裕はなく、かといって通常弾では倒せない。
ビームガン兼用のビームサーベルなど論外で、決定打に掛けるアムロの方が不利だと言えるだろう。
もしマシュマーが黒幕のシロッコであるというならば、有利な内に接近戦で倒しきる事も可能であろうが、所詮は影武者でありサイコフレームを奪いに行ったシロッコが最後の敵とあっては無茶をするわけにも行かなかった。
「ラグド・レヴルドが近い……何とかなりそうだ。どうせ役に立たないならば、こうしてやる!」
『サーベルを? 良かろう。騎士同士の一騎打ちだ!』
何を思ったのかアムロはビームサーベルを引き抜くと白兵戦を挑んだ。
相手の装甲とサイコフィールドの前には通じない。そんなことは百も承知で調整装置を弄り始めた。それに対しオーベロンもまたビームサーベルを抜いて切り掛かって来たのだ。
「一撃だけでいい。保てよ!」
『出力を上げたのか!? 面白い! こうでなくてはな!』
アムロは設定を弄って出力を限界まで上昇させる。
色々な調整装置の付いている試作機ゆえの裏技だが、ビーム発振器自体が焼け付くほどの出力で、一時的に強烈な威力をもたらした。
「後少し……っいや、違う! ここだ!」
出力比の差によるパワーで圧倒し始めるが、アムロは途中で軌道を変更。
THE・O系の厚い装甲を持つ本体ではなく、腕を狙って無力化こそを狙ったのだ。
一瞬のひらめきで更なる優位に立ち、次の一撃で倒さんとする。だが、下方より迫る閃光がそれを中断させた。
「ちっ。予備の腕を差し込んだか!」
『やらせん! まだまだだ。私はまだ……戦えるぞ。決着を……』
ここでマシュマーは副腕を差し込んで犠牲にした。
奇襲用であり両手で大型兵器を持つ為の補助腕を兼ねてるのだが、主腕自体がやられてしまうよりは良い。躊躇ない選択がマシュマーの戦闘力を残させたと言えるだろう。
実戦不足であったマシュマーだが傷を負った事で命の危機に陥った。
その事が強化人間でしかない彼をニュータイプの域に近づけていたのかもしれなかった。
「ならばもう一撃……っ!? 邪魔を!!」
『大丈夫か、マシュマー!』
『邪魔をするなイリア!』
今度は刺突で胴体への攻撃痕を貫こうとするが横槍を感じて離れる。
デュアルビームライフルの閃光が二機の間を阻み、連射から逃れるようにニュー・アレックスは身をひねってビームサーベルから手を放していく。
そして宙返りの要領で下方半回転しつつライフルの軌道を隠した。マシュマーとイリアの主導権争いの間に可能な限りのチャージタイムを稼いだのだ。
「もらった! だが、お前じゃない!」
『ぬっ、行かん! 離れろイリア!』
『わっ。私が!?』
いかにフェイントを入れようともニュータイプ同士の戦闘では意味がない。
ヤザン・ゲーブルとの練習戦闘で使ったマニューバー・アクションを放棄し、ここでアムロはアレンジを入れる事にした。
狙うはオーベロンではなく邪魔する為に接近してきたティタニアであった。油断している上に重装しているティタニアの方が鈍いのは判っている。これで倒せずともかなりのダメージを与えられると踏んだのだ。
『やらせんと言った! 私は、ジオンの騎士だァァァ!』
『馬鹿な。……私を庇って!?』
マシュマーの操るオーベロンがティタニアを庇った。
それ自体は役割の優先度からすれば当然だったろう。既に損傷しているオーベロンが被害担当機を務め、シールドだろうが本体だろうが使って支援役であるティタニアを守るのは間違っていないとすら言える。
しかしパイロットが負傷を追っている状態でする事か?
男に守られたという事実よりも、その無鉄砲さと意志の強さに呆れかえるばかりだ。
『馬鹿め。どうせ貴様は捨て石なのだ。精々気分よく戦っていれば良い物を……』
だがイリアの思惑を超えて心情は混乱していた。
何故か? 何故だろう。別にマシュマーを好ましいと思ったことはない。
だからこの混乱は間違った戦術への困惑なのだろう。
自分達を倒しきれないと判断し、ニュー・アレックスが母艦であるラグド・レヴルドとの合流を優先するのを他人事のように眺めながらイリアは少しずつ現状を把握していった。
『気にするな。騎士とは味方を守るもの。貴婦人であるならば当然! それがジオンの男だ!』
『それこそ馬鹿な事を。騎士道などアステロイドで生き抜く為の方便でしかない。だが……ジオン。そう、ジオンだ。私はジオンのイリア・パゾムだった』
どうして動揺しているのかイリアにもようやく理解できた。
何故、サイコフレームの奪取などという胡乱な作戦に自分が乗っているのか。これが本当にジオンの為、援助者である木星公社の為のなのか?
その問いは『既に』シロッコに問い糺したことがあるはずなのだ。
ではどうして、その事を覚えていないのか? ジオンに所属しながらもどうしてジオンを利用して戦い続けているのか?
『シロッコ……貴様、私も洗脳したな!?』
ようやくイリアが自分を取り戻した時。
全てを思い出し、自立稼働している大型武装を呼び戻そうとした。ニュー・アレックスとの戦闘に追いつけないと思って、一度放置していたが無事ならば戻って来るだろう。
そう決意した時。何もかもが遅かったことにようやく気が付いたのである。
何故か、ティタニアはイリアの意思を離れて上昇し続けていたのだから。
『な、何故だ!? 何故思い通りに動かぬ! ハッキングを受けているのか?』
『そうだ。最初からその予定だった。よくやったマシュマー。お前のお陰でティタニアは無事だったよ。そしてこれでようやく揃う』
ティタニアは加速する為に重装備の殆どを切り離していく。
途中で沈黙したオーベロンを無視して通り越し、最後にはサイコフレーム製の翼を下方に広げて昆虫のように羽ばたいていたのだ。
気が付けばシロッコのメッサーラ改二が、変形しながら背中に回り込んで来る。
『そしてお帰りイリア。お前は私の部品として戻って来たのだ』
『は、はっ離せ!!』
ティタニアの背中にブースターの様にしてドッキングするメッサーラ改二。
二機で一機となる姿は、翼のあるケンタウルスと言うべきか。それとも最新鋭のメカをガンダムと言うならば、これもまたデビルガンダムと言うのかもしれない。
『さあ、全ての価値観を終わらせる戦いを始めようじゃないか!』
シロッコはシンセサイザーの如きコントロール装置を引き出し、全てを手にし始めたのである。
と言う訳で今回は戦場の整理回です。
連邦軍もジオン軍も舞台袖に移動し、アムロやシロッコたちの身の話に。
ジオン軍は殿軍残して撤退中、連邦軍は三方向に分かれております。
●ジャミトフの入れ知恵
サイコフレームに自壊装置を入れるのは簡単なのですが、今回も紙切れだけ。
スパロボOGじゃありませんが、優れたシステムだけでは半分。目的地の所在が残り半分。
シロッコが自分の100%中の100%を出し続けているのだとしたら……。
アムロは共感できるみんなの力を束ねて発揮してる感じですね。
まあネタの為でしかないのですが。