-FUSHIGINAKAIKOU-
俺は佐藤和真十六歳。
日本ではただの高校生だった。
色々あって引き籠もりなんてやってたけど、そんな生活にある日突然、終止符を打たれた。
俺自身の死を以て。
死因については聞かないでくれると助かる。
それで、俺は死んだ訳なんだが、変な勧誘に乗せられて異世界転生してしまった。
初め聞いた時は、俺も乗り気だったのだが、俺のやる気は失われつつある。
何が嬉しくて、こんな路地裏で、二人悲しく座らなきゃならないんだ。
その原因は…
「おい、登録手数料とか有るなら持たせとけよ。不親切だぞ」
「そんな事言われても私だって知らなかったのよ。それよりもこの後どうするのヒキニート?」
この口の悪い奴が、俺をこの世界に導いた女神だ。
正直に言って、今の所何の役にも立ってない。
街の事とか聴いても、下々の話は知らないとか言い出すし、金も持ってない。
それに、初期装備も渡されてないし、この女神仕事し無さすぎだろ。
でも女神だから、戦闘においては役に立つと思う。
と言うかそうじゃないと困る。
「ヒキニートは止めろ!取り敢えずバイトでも探して…」
意気込んでいると急にジャージを引っ張られた。
負荷が掛かる方を見ると、如何にもな魔法少女が立っていた。
手には魔法の杖が握られ、マントを羽織りトンガリ帽子を被っていた。
紅目で黒髪。顔は整っていて、なんと言うか美少女フィギュアみたいな感じの子だ。
にしてもそんな子が俺らに何の用だろうか?
どうせ、迷子か冷やかしあたりだろう。
「お困りのようですね。我が登録手数料を払って上げましょう。その代わりに我を仲間に入れるのです」
・・・なんか痛い子が来た。
めっちゃドヤ顔で変なポーズ取ってる。
それにこんなちっちゃい子に金貰うとか、気が引けて出来ない。
「・・・今何か失礼な事考えてませんでしたか?」
「いや、何も。その話は嬉しいけど、本当にいいのか?親御さんの許可は出てるんだろうな」
恐らく、金はあるけど一人だと冒険者にはなれないから俺らを巻き込もうとかそのあたりだろう。
「何故親が出てくるのですか?それに何方かと言うと、私が仕送りをしている側なのですが」
嘘だろってツッコミたかったが、この際、背に腹はかえられないか。
黙っておこう。
「カズマカズマ。この子紅魔族よ。即戦力になるわ!」
「そうなのか?」
紅魔族が何なのかよく分からないけど、多分魔法に強い種族だろう。
こいつの身なり的に。
「ふっふっふっ、我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして爆裂魔法を操りし者!やがて世界最強の魔法使いとなる者!」
完全に中二病患者じゃねえか。
何となくカッコイイと思っちゃうのが悔しい。
でも、これがこっちでの自己紹介の仕方だったら、変に思われるしどうしよう。
あとめぐみんって何だよ。
「・・・めぐみんって本名でいいのか?」
「そうですけど、我が名に何か文句でも?」
紅い目で睨まれると結構怖い。
恥ずかしいけど自己紹介するか。
「ないです。じゃあえっと、コホン。我が名はカズマ!日本一のギルド元幹部にして強運に恵まれし者!やがて魔王討伐を成し遂げんとする者!」
ふう。
何とかやり切った。
やってみたら案外気持ちいいなこの名乗り。
そう思って出来栄えを確認すると。
「ふぁぁ、か、カッコイイです!!もう一度お願いします!」
「プークスクス!中二病ヒキニートとか超ウケるんですけどー!もう一回見せなさいよ!」
よし、この女神は一回絞めよう。
あとこの子はどうしよう。
すげえ目を輝かせてんだけど、これ普通の挨拶じゃないみたいだしやりたくないんだが。
「もうやらないからな」
「もう一度だけだめですか?」
上目遣いで訴えてくる。
勿論、そんな事をされても俺の考えは変わらない。
「ごめん。恥ずかしいから無理だ」
それを聴いためぐみんのテンションは分かりやすく下がった。
正直、この面倒な女神さえ居なけりゃやるんだけどな。
「じゃあ私の自己紹介ね。私はアクア。気軽に呼び捨てでいいわ」
「えっと、はい。アクアもよろしくお願いします」
アクアの事がどうでもいいレベルに落ち込んでる。
それ程、俺の名乗りはこの子の琴線に触れたようだ。
「・・・そろそろ登録しに行きますか?」
「そうだな。登録しないと始まらないしな」
こうして俺らはギルドへと戻った。
「こちらの書類に身長・体重・年齢・身体的特徴を記入してください」
受付のお姉さんから冒険者についての説明を受け、ゲームのようなこの世界に俺は感動した。
そして今、登録手続きをしている。
この書類、氏名欄や性別欄がないけど、どうなってるんだろう?
考えても始まらないか。
身長165センチ、体重はえっと、だいたい五十五くらいだったから55キログラムと。
・・・そういや単位ってセンチとグラムで通じるのだろうか?
年は・・・この国ってどうやって年齢数えるんだろう?
「アクア、俺って何歳になるんだ?」
「・・・あっ、今の日本と一緒よ」
こいつ!
何言ってんのって感じで一瞬嗤いやがった。
くっ、ここが人前じゃなかった引っぱ叩いてやりいた。
じゃあ年は16っと。
容姿は茶髪に茶色目・・・・・・。
「ありがとうございます。では此方の水晶に手を翳してください。あっ、何方の手でも構いませんよ」
言われて右手を登録機の水晶に翳す。
するとその下に置かれた冒険者カードにステータスが記録されていく。
これで俺の隠れた才能が開花するって訳だな。
「えっと、サトウカズマさんですね。能力は、知力が平均より高い以外は普通ですね。あっ、幸運値が凄く高いです!まあ、冒険者に幸運値は、あまり必要ないのですけど。これですと商人の方になる事をオススメしますが・・・どうなさいますか?」
どうしよう。
真っ先に冒険者人生否定された。
能力が普通ってだけで凹んでるのに。
「冒険者でお願いします・・・」
「・・・冒険者は全てのスキルを習得可能ですし、レベルが上がったらクラスチェンジも出来るかもしれないので、大丈夫ですよ」
受付のお姉さんはちゃんとフォローしてくれた。
なんか急にやる気湧いてきた。
ゲームのレベリング感覚だな。
「でも冒険者って本職の補正がないから結局威力に欠けるのよね。それに冒険者でクラスチェンジ出来るのって、殆ど稀でみんな途中で諦めちゃうのよ」
こいつ!
折角お姉さんが助け舟出してくれたのに直ぐに沈めやがった!
もう俺、商人として生きていこうかな。
お姉さんも笑顔が乾いてきた。
「カズマ大丈夫です。私が居るので安心してください」
「・・・俺やっぱ商人になろうかな」
年下の女の子に頼りにしてくださいと言われるのは男としてどうなのだろうか?
ヒモにはなりたくない。
「ダメですよ!私はカズマと魔王討伐するんですから!」
・・・こいつはこいつで頭おかしいだろ。
さっきの話聞いてて、よく俺と魔王討伐行こうとか言えるよな。
やっぱり親御さんの許可なく冒険者やってんじゃなかろうか?
「じゃあ次私の番ね。こうかしら?」
俺と同じく魔道具に手を翳すアクア。
俺は切に願った。
こいつもステータス貧弱であれと。
「こ、これは!?知力と幸運値を除いた全てのステータスが平均を優に超えてますよ!」
「ねえねえ、それって私が凄いって事?」
・・・こう言うのって俺に起こるはずのイベントじゃないの?
「凄いなんてレベルじゃないですよ!知力の必要な魔法職は無理ですが、最高の攻撃力を誇るソードマスターに、最高の防御力を誇るクルセイダー、
すげえドヤ顔で見てくるアクア。
マジうぜえ。
分かってたさ。こいつ女神だもんな!
強くて当然だわ。
知力と幸運値低いってのがちょっと救いだな。
それに知力低いのは何となく分かる気がする。
そういやこいつ俺と真逆のステータスしてやがる。
とはいえ完全に俺の負けだけど。
「そうね。女神って役職がないのは残念だけど、ここは、アークプリーストにしておくわ」
女神が自分の宗派のプリーストするってなんか滑稽だな。
取り敢えず嗤っておこう。
「アークプリーストですね!あらゆる支援魔法と回復魔法を使いこなし、前衛としても遜色ない万能職ですよ!冒険者ギルドへようこそアクア様!スタッフ一同、今後の活躍に期待しております」
お姉さんは初め一文無しで来た時には見せなかった、にこやかな笑顔でそう言った。
・・・あれ?
やっぱりこう言うのって、俺に起きるべきイベントなんじゃ・・・
「さあ、冒険者登録も終わりましたし、クエスト受けましょう!」
「・・・俺武器ないんだけども」
「・・・明日武器屋に行きましょう。お金は私が出しますので」
ホント用意が悪過ぎる。
全部、今有頂天になってるこの女神の所為なんだけども。
まあ、なんにせよ。
こうしてグダグダながらも俺の異世界生活が始まった。
武器を買って貰うのは忍びなかったので、バイトしてお金貯める事にしたのだが・・・
「カズマ付き合ってください」
昨日仲間になった魔法少女が、唐突にそんな事を言い出した。
そして俺の答えはもちろん。
「嫌だ」
「即答ですか!もうちょっと悩んでくれてもいいじゃないですか!」
何を悩むと言うのだろう。
これに対して、はい分かりましたなんて言える余裕は今ない。
「バイトしてる方が圧倒的に有益なんだよ!」
「ですから武器代は、私が払うと言ってるではないですか!日課に付いてきてくださいよ!仲間のスキル上達も有益ですよ!」
そう。
付き合ってと言うのは、別に俺にモテ期が来た訳では無い。
こいつが日課と言い張る爆裂魔法を何も無い場所に放つと言う、特に意味の無い行為に付き合ってくれと言う意味だ。
昨日、急にデートしましょうとか言われて、騙されたばかりなのに、同じ手を食らう程、俺も馬鹿じゃない。
「昨日寝てしまった事は謝りますからお願いします!!仲間とのスキンシップも大切ですよ!!」
「・・・はあ。じゃあバイト終わりに行くからそれまで待っててくれ」
どうせアクアは付いて行かないだろうし、仕方ない。
スキンシップつってもおんぶするだけだろうに。
「じゃあ、私もバイトします」
「分かった。バイト先はギルドの食堂だ。人足りてないみたいだから、多分一緒に働けると思う」
金がない話をしていたらマスターに誘われたのだ。
アクアは先に行って少しでも多く貰うとか言ってた。
開店時間的に意味ないと思うけど。
「そうですか。今日も一日頑張りましょう」
「嗚呼」
頑張ってヒモ状態を脱したい。
本人は要らないと言っているがちゃんと登録料も返さなければならない。
パーティーの仲でも貸し借りは無しの方がいいからな。
「兄ちゃん、裏の畑から秋刀魚取ってきてくれ」
「はい、分かりま・・・あの今なんて言いましたか?」
訳の分からぬ事を言う店主に聞き返したが、奥に行って聞いていなかった。
その代わりにめぐみんが答えた。
「裏の畑から秋刀魚取ってきてくれだそうですよ」
さも当然かのようにめぐみんは言った。
魚は川か海の水の中だよな?
土の中にも居るけど一応水はあるし、乾燥した畑に居るはずないと思いたい。
「・・・何で秋刀魚を畑に取りに行くんだ?」
「秋刀魚は畑から採る物でしょう?」
めぐみんが可哀想な奴を見る目をしている。
いや、おかしいのは俺じゃないと言いたいが、本当に秋刀魚が生えてそうだから黙っておこう。
「そうだっけ?取り敢えず取ってくるわ」
「行ってらっしゃい。変な虫にやられないように気を付けてくださいね」
「?嗚呼気を付ける」
恐らく害虫の事だろう。
百足とかそういう類の。
問題ないだろうなんて思ってた時期が俺にもありました。
「・・・これバイトの仕事じゃないと思う」
確かに秋刀魚は畑に居た。
そして、畑の土の中に百足も居た。
勿論、俺は虫が苦手な女々しい奴ではない。
奴ではないのだが。
この百足に近付けるやつはいないと思う。
だって、畑の足場と言う足場に、うじゃうじゃ居て、筆舌に尽くし難い状態だ。
「カズマ、何やってるんですか?遅いから見て来いって・・・秋刀魚の取り方知らないのですか?」
「畑に生えてる秋刀魚の取り方は知らん」
聞くなり溜息を付いて、近くにあった釣竿を取り、めぐみんは秋刀魚を畑から釣った。
畑で釣りってシュール過ぎるだろ。
異文化交流はショックが大きいってレベルじゃないだろこれ。
「この時期は虫が多いので、釣るのが常識ですよ。カズマってもしかして没落貴族だったりしますか?」
「違うよ。俺は中流家庭だ」
平凡な家庭だったもんな。
俺って言う存在を除けば。
「それが何だか分かりませんが、分かりました。取り敢えず秋刀魚は取れましたし戻りましょう」
「そうだな。早く戻らないと減給されそうだ」
「随分遅かったな。まさか二人でイチャついてた訳じゃないだろうな?」
「そんな訳ないですよ。俺ら付き合ってませんし、ただ俺が秋刀魚の取り方知らなかっただけです」
弄られるとは思ってたけど、まんま言われるとは思ってなかった。
あと、戻って来たらアクアがクビになってた。
理由は何でも客の酒を飲んだらしい。
本人は水に変わったと供述しているそうだ。
昨日俺のジュースを水にしてたから多分それだな。
「・・・え?秋刀魚の取り方知らなかったのか?」
「はい。次からはちゃんと取って来ます」
すげえ怪しまれてる。
アクアの件があったからかもしれない。
「じゃあ聴くがそろそろ旬のキャベツは何処で取るもんだ?」
「畑ですよね?」
流石にこれが違ったら俺泣くよ?
だって生活出来ねえし。
「・・・君、豪商の子かい?」
めぐみんといい、店主さんといい、何故俺を金持ちだと思うのだろうか?
「家、金持ちじゃないですよ。じゃなかったら装備整える為にバイトなんてしませんよ。というかキャベツは畑じゃないんですか?」
「養殖のはそうだが基本は冒険者が外で取ってくる物だ。もしかしてキャベツの生産地生まれかい?」
「まあ、そんな所です」
キャベツ作ってたかどうかは知らないけど、農家はそこら中にあったし同じようなもんだろ。
「疑って済まなかった。二人とも今日は上がっていいぞ」
「え?まだ三時間ですよ?」
「君はまず、常識を教わるべきだ。彼女に教えて貰いなさい。今日は研修日として扱って日当は出すから安心したまえ」
勉強して、金貰えるのは嬉しいけど、憐れまれてるこの感じが嫌だ。
それに何故か知らないけど、めぐみんが嬉しそうにしてる。
「分かりました。お疲れ様です。さて、カズマ宿に帰って常識確認しましょうか」
「あ、うん。お疲れ様でした」
こうして俺は何処か陽気なめぐみんと一緒に宿に帰った。
タグにお嬢様が居ないのはまだ出てないからです。
ちゃんと登場するので、ご安心ください。
本当の事言うと、すずみやさんにだけリメイクして貰うのはあれだったので私も続き書いてみました!