-HARANNOBARBECUE-
ダクネスが仲間になり、クエスト中の事故により不名誉な噂が広まってから数日が経過した。
最近は関わりのある冒険者は男女問わず誤解が解けてきた。
とは言え、冷たい視線を浴びるのは変わらない。
キャベツの報酬で、登録料や宿代を返せたし、めぐみんに止められる前にマナタイト製の杖を購入して、お礼に渡せて、ヒモ状態はもう脱したから、後はイメージ回復だけだ!
と思っていたのだが、上手く行きそうになくて困っている所にダクネスがやってきた。
「カズマ、見てくれ。キャベツの報酬で鎧を新調したのだが、どうだろうか?」
「なんて言うか、成金趣味のボンボンみたいだな」
「カズマは何時でも容赦ないな。普通に感想を言って欲しかったのだが、これはこれで・・・」
「ダクネス、悪いが今はこっちの変態一人で精一杯だから、抑えてくれ」
「こっち?」
キョトンとしているダクネスに変態の方向を指さす。
指した方には、杖に頬擦りをして興奮しているめぐみん。
周囲からとても注目を集めている。
「はぁ〜魔力溢れるマナタイト製のこの色艶・・・、たまらない、たまらないですよカズマ〜ハァ・・・ハァ・・・」
俺がプレゼントしたけど、そこで俺の名前を出すな!
ヤバいです。周りの冒険者の目が痛いです。
俺がやらせてるみたいに見えるじゃんかこれ!
このパーティーに常識人なんていなかった。
ダメだ。
このままじゃダメだ。
俺の名誉回復はまだまだ先になりそう。
「カズマ、めぐみんに何をしたのだ?」
「あの杖あげただけ」
「・・・そうは見えないのだが」
うん。
あげた俺自身もあの杖に何か変な効果付いてたりするんじゃないかと疑い始めるレベルに今のめぐみんはおかしい。
「でもまあ、キャベツに襲われて興奮してたダクネスと大して変わらないと思うけど」
「なっ!?こ、興奮などしていない!戦いに高揚していただけだ!」
・・・それも一種の興奮だろうに。
ベクトルが全然違うけれども。
一緒にしたら戦闘狂の人に悪い。
「なんでよおおおおお!!」
うるさいのがまた一人増えた。
受付のお姉さんの胸倉を掴んで、揺さぶるアクアはそれはもうチンピラと言っても過言じゃないくらい荒々しい態度でした。
あれが女神だとかそりゃ信じられないよな。
「ダクネス、アクアの方を頼む」
「任された」
はぁ、このパーティーで魔王討伐?
無理だな。
この街でスローライフ送れば、それなりに楽しめると思う。
アクアは間違いなく乗ってくるだろう。
「カズマカズマ!」
「変態モーションは終わったのか?」
「誰が変態ですか!それを言うなら下着盗ったカズマの方が変態ですよ!」
下着の件を出されると何も言えなくなる。
俺が悪い訳じゃないけど、恩を仇で返してる気もするし。
「そのことは本当に悪かった。まだ何か欲しいものとかあるか?」
「・・・言い過ぎました。欲しい物ではなくて、そろそろクエストに行きたいです」
「俺も変態とか言って悪かった。クエストはダクネスがアクアの方を収めたらな」
「アクアですか?」
受付で叫んでたアクアに気付かないとは、相当杖を気に入ってるらしい。
そこまで喜んで貰えるとあげた甲斐が有る。
「何か受付の人と揉めてるけど、俺としては関わりたくない」
「それは無理みたいですよ」
「え?・・・あっ」
めぐみんに言われて、振り返るとアクアが真後ろにいた。
もう逃げられないと悟るのであった。
「カズマさん。めぐみんに杖あげるくらいにはお金あるんでしょ?お金頂戴」
「嫌だ」
「どうしてよ!」
もうちょっと言い方あるだろう。
今のではいどうぞとはならない。
・・・めぐみんなら渡しそうだけども。
「めぐみんに登録料やら宿代やらお前の分合わせて返したの誰だと思ってんの?」
「めぐみんは別に返さなくても良いって言ってたじゃない。カズマが勝手に払っただけでしょ?そんなの関係ないわよ」
反抗期の子供みたいなこと言い出した。
お前に返す気があったらこっちで払ってねえっての。
まあ、めぐみんにお金渡す時は何度も断られて、受け取って貰えないならアクアとパーティーを抜けて、ゼロから始めると言ったらすんなり受け取って貰えた。
「・・・お前の言い分は理解した」
「じゃあお金くれる?」
この駄女神は義務教育からやり直した方がいい気がする。
神様が義務教育受けてるかは知らないけど、とりあえず学ぶべき事が沢山あると思う。
「渡してもいいけど、まずめぐみんの部屋から出てけよ?あと今後一切金関係で助けないからな?」
「・・・カズマ、私の分もめぐみんにお金返してくれてありがとう。えっと、カズマさんってあれよね。そこはかとなくいい感じよね。ちゃんと返すからお金貸して」
「褒める所が思いつかないなら変なよいしょするな。はぁ、しょうがねえなあ。でいくらなんだ?」
初めからそう言えば出せる分は貸してやるのに。
女神としてのプライドとかなんだろうか?
そんなものはさっさと捨ててもらわないと困る。
「五万ちょっと」
「五万?なんでそんなに金が必要なんだ?」
「私が捕まえたのが全部レタスで、結構捕まえたから報酬も相当な額になるって思ってツケで飲んでたからギルドに返さないと行けないのよ」
レタスはキャベツよりも安く売られてるのをこの前見たから分かる。
こいつは運の悪さに負けたのだろう。
俺が百万強儲かったことからして、五万のツケはしててもおかしくない。普通にお釣りが来るレベルの報酬だったから。
同一労働同一賃金って事で、多目に見るか。
出来高制にしたのはアクア本人で、自業自得感も否めないけど、このまま借金のあるパーティーとか言われるようになるのは困るから、渡しとくか。
俺が今すべきは名誉回復なのだから!
「だから揉めてたのか。これで返して来い。その代わりちゃんと返せよ?」
「分かってるわよ。それで宿は大丈夫よね?」
勝手に部屋から出てけとか言ってたけど、めぐみん的にはどうなんだろうか?
そこまで気にしてなさそうだけど。
「めぐみんはいいのか?」
「私は構いませんよ。ただ」
「ただ?」
女神めぐみんでもこの状況下では条件付きの対応になるらしい。
・・・言うほどアクアが悪いことした訳じゃない気もすると言うか、そもそもお金返して貰うつもりのなかっためぐみんからすれば問題ない気もするけど、思う所があったのだろう。
「カズマと部屋を交代してもらいます」
「「「え?」」」
めぐみんが何言ってるのか三人とも理解出来なかった。
俺とアクアの部屋を変える?
俺ってば女の子と同じ部屋で寝泊まりしちゃうのか?
「私の部屋の方がいいベッドですからね。アクアがカズマに借金してる間は逆です」
「宿に泊まれるなら私は満足だけど、カズマと同じ部屋でいいの?それなら私だけでも馬小屋に行くんだけど」
「ダメです。もうそろそろ凍えるような寒さがやってくるんですよ?」
流石はめぐみんさま。
駄女神にも慈悲深い。
でも、なんでベッドの質だけで、部屋入れ替えようってなるのかは分からない。
ダクネスとアクアが部屋を交代ならまだ分かるけど。
「めぐみんは男と同じ部屋で泊まっても構わないのか?」
「俺としては自分の部屋取れるくらいになったから別に俺が部屋を取ればいいと思うけど、どうだ?」
ダクネスが頷いてるから、いい案だと思う。
でもめぐみんは首を横に降って言った。
「カズマなら構いません。なんならダブルベッドでも安心して眠れますよ。カズマが別で部屋を取ると勿体ないので、カズマには私と寝てもらいます」
俺はめぐみんからどう思われてるのだろうか。
異性として意識されてない気がする。
いや、もちろん俺も三歳下は守備範囲外で、めぐみんの事異性として見たことないけども。
こう、分かりやすく行動に移されるとモヤッとする。
「お前は俺の何をそこまで信用してんだ?自分で言うのも何だが、襲われても文句言えないぞ?」
「この杖と誠実さです。仮に襲われても責任取ってくれるならそれでいいですよ?」
判断材料は分かったとは言え、信頼するには十分じゃない材料だと思う。
まあ、アクアのあの態度見てたらよりよく映るかもしれないけど。
アクアはアクアで、元女神と言う立場があっての言動だろうし。
・・・ってあれ?
今めぐみん変なこと言わなかったか?
「めぐみん、相手は選んだ方がいいわよ?」
「爆裂道を共に歩んでくれる異性はカズマくらいしか居ないでしょうし、既成事実が出来たのならそれはそれで構わないと思ってます」
何だろうか。
全然甘酸っぱい状況にならない。
おかしい、めぐみんが言ってることはこの人が夫なら文句なし的な話のはずなのに、大して嬉しくない。
結局、めぐみんは爆裂魔法基準で動いているということか。
「でも、ちゃんと好きな人と恋愛した方がいいと思うぞ?俺なんか元引きこもりだしさ?」
「好きな人ですか?私はカズマのこと好きですよ?」
「・・・え?」
「とまあ、私はカズマと同じ部屋で問題ないので、クエスト探しましょう」
サラッと告白されて、俺だけじゃなく、アクアとダクネスも反応に困り、誰も話さず、ただただめぐみんの言う通りに、クエスト探しをする為に掲示板へと向かった。
掲示板に到着してから、思ったのは、多分めぐみんは早くクエストしたかったから、俺らを黙らせる為に言ったんじゃないかと思い始める。
俺がイケメンなら一目惚れでしたとかも考えとしてはあったけど、こっちに来てからも普通の顔だし、めぐみんにカッコイイ所とか全然見せてないし、思い当たる事が何一つない。
「全然クエストないわね。あっ、でもこれいいんじゃない?」
「新種のゾンビメーカーの討伐?それって安全なのか?」
「備考に、アークプリースト複数人で望むのが良いって書いてありますね」
・・・上級職を数集めなきゃ出来ないクエストは行かない方がいいだろう。
でも、他は一撃熊の討伐とか、グリフォンとマンティコアの討伐とか難しそうなやつばかりだ。
ジャイアントトードとかお手軽なクエストが何故かない。
まあ、うちのパーティーだとギリギリ倒せるレベルだけど。
「これにしましょう!女神の私が居ればアンデッドなんてちょちょいのちょいよ!」
「女神?」
ダクネスが不思議そうにアクアを見てから、俺の方を見た。
ここはしっかり説明しなければと思い、俺は口を開いた。
「を自称する可哀想な子だからそおっとしといて欲しい」
「・・・可哀想に」
「誰が自称よ!いいわ。このクエストで、大勝利を収めて認めさせるわ!」
と、アクアがやる気満々になってしまった為に、クエストを受けることとなった。
受付で詳細を聞いたらあまりのゾンビの多さにプリーストが魔力切れを起こして戻って来るらしい。
ペナルティーをなしにしても、報酬の割に合わないとみんな受けなくなったらしい。
でも確かにアクアは女神だから何とかなりそうだと俺も思ってる所はある。
現在はゾンビメーカーの討伐クエスト中のはずなんだが、バーベキューをやってる。
夜になるまではここで待機するらしい。
「カズマカズマ」
「どうした?今更帰りたいとかは言わせないぞ?」
「そうじゃなくて、めぐみんにはちゃんと返事したの?」
「返事ってなんの事だ?」
「みんなの前でめぐみんがカズマのこと好きって言ってたじゃない」
こいつはめぐみんの意図に気づいてないみたいだ。
仮に本当の告白だったら多分、めぐみんと一緒にいるだけで変に意識して緊張してると思うし、めぐみんも普通に接してないはずだ。
「仲間としてとかだろう?俺らを黙らせるのも一つの目的だったと思うし」
「それもそうね。カズマみたいなパッとしない人とめぐみんは不釣り合いだもの」
「お前しばかれたいのか?」
危険を察知したアクアはめぐみんの後ろに隠れた。
全く、これからクエストだってのに緊張感の欠けらも無い。
これじゃあ遠足に来てるのと変わらない。
「カズマ、少しいいか?」
「お前もめぐみんのこと聞くのか?」
「ああ、カズマはめぐみんと付き合ってないのか?」
ここ数日で俺達の関係性が分かってきたようだ。
めぐみんの言ってた通りになってる。
このままギルドの冒険者の誤解も解けると嬉しいんだが。
「そうだけど?昼から宿屋に入ったってのも勉強の為だからな?」
「勉強と言うと?」
「俺この国のことよく知らないから教えて貰ってたんだよ」
よく知らない所か何も知らなかったけど、それは言わないでおこう。
「てっきり二人はそういう関係なのだとばかり思っていたのだが、違うのだな」
「そうそう。ギルドでのめぐみんの発言の意味には気付いてるよな?」
「ああ、私達が止めるのをやめさせるのと、ある種本心を語ったと言った所だろうな」
「本心?」
ダクネスまで、あれは本気の告白だったとでも言うのだろうか?
流石にあんな流すような告白はないと思いたい。
「仲間として好いていると言う話だ」
安心した。
内心めぐみんからの本気の告白だったらどうしようと悩み始めてた。
これで悩みの種が一つ減った。
「カズマはめぐみんをどう思っているのだ?」
「そうだなあ。恩人って言うかさっきの勉強とかの事も含めると恩師って言うか。尊敬してるけど、今日の朝のを見てちょっとだけ株が下がったって所かな」
下がったとは言え、そこまでイメージが変わったとは言えない。
爆裂散歩のためなら、デートに行こうとか、付き合ってとかいうやつなのは分かってたし、爆裂魔法関係は普通じゃなくなるのは知ってたからな。
「異性としては?」
「全くない。そもそも恋愛対象として見てないからな」
三歳下は守備範囲外だ。
でも、めぐみんから本気で好きですとか言われたら三歳下までに年齢引き下げするかもしれない。
そんなこと起こらないだろうけど。
「ふむ。参考までにアクアや私はどうだ?」
「アクアもないな。ダクネスは異性として意識することはある」
「と言うと?」
「初めて声かけられた時とかは美人なお姉さんに話しかけられた!って緊張してたし、今もまあ、ちょっと緊張してたりする」
「そうなのか?そうは見えないのだが」
ダクネスに反論しようとしたが、遮られて出来なかった。
「かじゅまあ〜だくねすとばかりはなしてひくっ、ないでわたしとも〜はなしまひょ〜よ」
「・・・おい、アクア。めぐみんに酒飲ませたのか?つかクエスト中だから酒は買うなって言ったよな?」
「帰ってから飲む分くらいはいいかなあって・・・気付いたらめぐみんが飲んでて私も一緒に飲んでただけよ」
「だけって、これじゃあクエスト所じゃないだろ」
「かずまぁ!わたしをみてくだしゃい!」
めぐみんを酔わせたらダル絡みされるって覚えとかないといけないな。
面倒な構ってちゃんパターンだこれ。
俺をご指名らしい。
「はいはい。カズマです」
「ふふふっ、かずまはうっ、わたしのです〜」
「・・・俺明日めぐみんと顔合わせるの怖いんだけど」
「愛されてていいわねえ」
アクアが無責任なことを言ってくる。
誰のせいでこうなってると思ってんだ。
てかお前も酔い潰れて語りたい時、今のめぐみんみたいに俺を離さないだろうが。
私の芸を見なさいとかなんとか言って何時間も拘束されるのはよくある日常になりつつある。
めぐみんは多分爆裂魔法について語りたいとかだろう。
「めぐみんしっかりしてくれ」
「わたしは〜しっかりしたおとなですよ〜かずまときすだってでき〜す」
「ちょっ、めぐみんやめろ!」
初めてが酔っ払いのキス魔からとか洒落になってねえ!
どうして俺は魔法使いのめぐみんよりも力がないんだ!
これなら爆裂道について語って貰える方がマシだ。
うっ、酒くせえ。
ああ、めぐみんの顔が近い。
もうあと数センチで、くっついてしまう。
顔を逸らす抵抗も試みたが両手で固定されて無理だ。
「カズマ大丈夫か?めぐみん冷静になるんだ」
ギリギリの所でダクネスがめぐみんを引き剥がしてくれた。
そう。
剥がす。
足で体をホールドされて、絡みつかれていた。
「うっ、だくねすはさっきかずまをひとりじめにしてました!」
「いや、ただ話をしていただけなのだが」
「だくねすだけずるい!」
もう手が付けられない状態の子供と変わらないなこれじゃあ。
俺と話したいって言ってくれてるのはちょっと嬉しいけど、酔ってるだけだからな。
「・・・これ、俺はどうしたらいい?」
「私が抑えておくから、カズマは向こうでゆっくりしていてくれ、アクアは水を頼む」
「分かった。そういや水筒って持ってきてたか?」
コーヒーメーカーとコップを入れた記憶はあるけど、水筒を見た覚えはない。
アクアが用意してとは思えないし、ダクネスかめぐみんの鞄か?
「持ってきてないわよ?カズマの初級魔法があるからコップだけ持ってきたのよ」
その手があったかと思いつつ、俺に一言もなしにそれを計画に入れるなと言いたい。
でも、クリエイト・ウォーターがあれば水不足に直面して困ることは無さそうだな。
「なるほど。コップはこれでいいのか?『クリエイト・ウォーター』」
アクアに渡して様子を見る。
俺はテントの中から覗いてる形だ。
「はい、お水持ってきたわよ」
「ありがとうございます。かずまのあじがします」
めぐみんは何を言ってんだろうか。
確かに初級魔法で出した水と井戸の水は全然味違うけど。
飲み干すと、俺を探してかキョロキョロと周りをみて、急に震え出した。
「かずまはどこですか?かずま?うっ、かずまぁどこにひくっ」
めぐみんが今にも泣き出しそうになってる。
子供が母親を探して泣いてるとかそんな感じだ。
耐えかねてテントから出ると、めぐみんがこちらに気付き全速力で突っ込んで来た。
「うわっ、痛た。おい。大丈夫か?」
「かずまあああああ!」
「どうしたんだよ。頼むから落ち着いてくれ」
落ち着かせようと背中をさすってみる。
すると整った息遣いに戻っていき、規則正しい呼吸になっていった。
眠りに落ちたみたいだ。
「スースー」
「・・・ホントなんだったんだ?」
この後、めぐみんには酒を飲ませてはいけないと俺達は話し合った。
まず酒に手の届く環境を作らないことが大切と言う話になった。他にもギルドや酒屋なんかにめぐみんには売らないようにお願いしに行くとか色々対策を話していた。
すると、女の人が通りかかった。
「こんばんは。バーベキュー楽しそうですね」
「それがさっき一悶着あっ『「セイクリッド・ターン・アンデッド」』・・・って」
「きゃああああああ」
俺に声を掛けてきた巨乳のお姉さんは何故かアクアの除霊魔法を受けて叫んでいた。
え?
この人幽霊なのか?
「出たわねアンデッド!カズマは騙せても私の曇りなき眼は騙せないわよリッチー!」
「リッチー?リッチーってあのアンデッドの王様の?」
普通にリッチーと話する所だったと考えたら凄く怖い。
冥界に連れてかれる所だったのかもしれない。
初めてアクアを連れて来て良かったと思った瞬間であった。
「そうよ。人の振りして近付いてカズマを連れてくつもりだったに違いないわ!」
「ち、違います!リッチーなのはあってますけど、騙そうとかそんなつもりは無いんです!」
このリッチー、何だか人が良さそうだ。
とは言え、リッチーが急に現れたとあれば警戒するのは当然。
ダクネスも臨戦態勢に入り、めぐみんを庇うように前に出た。
「ただでさえめぐみんが酒で倒れていると言うのに厄介な相手だ。くっ、仲間を庇うも圧倒的な強さに負けてしまう。うん。悪くない!」
「悪いわ!何でこうも面倒な時に面倒なことが次から次へと・・・」
一瞬でもダクネスを頼りにした俺が馬鹿だった。
「ご、ごめんなさい。私がリッチーで、ごめんなさい。お願いです。話だけでも聞いてください!」
「そうよ。神の理に背いたこと悔いて成仏なさい!『セイクリッド・ターン痛っ!何するのよカズマ!」
何か伝えたいことがあるらしい。
アクアは聞く耳を持たず除霊しようとしてたが、チョップでやめさせた。
「ちょっと待て、話聞いてからでも遅くないと思う。この人悪い人には見えないし」
「何言ってるの?相手が美人だからってそんな考えは甘いわよ?そいつはアンデッドなのよ?なめくじみたいにジメジメした所が好きな、なめくじなのよ?」
「それただのなめくじだろうが。それで話と言うと?」
リッチーをなめくじ呼ばわりとか、今ので気を悪くして襲われたらどうするつもりなんだろうか。
運良くこのリッチーは酷い!と抗議するだけで終わっていたけども。
「あ、ありがとうございます。危うく成仏する所でした。えっと、私はここの近くにある共同墓地で迷える魂を供養するために毎晩ここを通ってるんです」
「・・・共同墓地ってゾンビが大量発生してるって所じゃないか?」
このお姉さんが犯人だったのか。
しかも供養ってことはいい人じゃないか。
でもどうしてリッチーが供養をやってるんだ?
普通アクアとかプリーストの仕事だろうに。
「私の所為ですね。近くに居る魂が共鳴してしまったのだと思います」
「・・・ゾンビで街襲おうとかそういう類ではないと?」
「そんなことしませんよ!街には私の店もありますし。あっ、自己紹介まだでしたね。ウィズ魔道具店店主のウィズです」
リッチーがお店を構えてるってこの世界大丈夫なのか?
そこら辺に魔王軍が潜んでても分からないんじゃないか?
「・・・リッチーのウィズがどうして除霊を?」
「実は共同墓地は身寄りのない人達が埋められているんですけど、その、この街の聖職者は拝金しゅ、いえ、お金のない方は後回しと言いますか。その・・・」
「アクア?」
そう言えばアクアは除霊のバイトとかしてないな。
金に困ってるなら除霊もアリなのか。
ここは女神としてしっかり役目を果たして貰うしかない。
「わ、私はそもそも知らなかっただけよ。わかったわ。私が除霊をするからリッチーは引っ込んでなさい!」
「お、お願いします。あの、帰ってもいいですか?」
「どうぞ。また今度お店行きます」
「ありがとうございます。お待ちします」
何とか乗り切った。
一時はどうなるものかと思った。
いい人で助かった。
そう思った時、俺は何者かに右足を掴まれて、思わずに叫んだ。
「ひゃああああああああ!!」
「何事だ!?」
「ダクネス、何かが俺の足を!」
ダクネスに助けを求めるも何故かさっきみたいに剣を抜いてくれない。
アクアに関しては笑い転げてる。
あいつは後でしばく。
「すみません。驚かせるつもりはなかったのですが、その」
「はぁ、めぐみんか。驚かせるなよ。酔いは大丈夫か?」
ゾンビに足掴まれたのかと思って焦った。
めぐみんで助かった。
「はい。何とか」
「何やったか覚えてる?」
「お酒を飲んだ所までは覚えてます。直ぐに眠りに落ちたような感じがします」
記憶ないパターンか。
めぐみんには知らないでいてもらおう。
ダクネスに視線を送り、話さないでおこうと合図を出すと、わかったと頷きが帰ってきた。
アクアにもと視線を送ると待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「そうか。ならいい」
「めぐみんってばカズマとキスしようとしてたからびっくりしたわ」
この駄女神どうしてくれようか。
真逆の意味で取りやがった。
ダクネスが手を顔に当ててやってしまったって顔してるぞ。
俺もしてるけども。
「・・・カズマ、ちょっと二人で話したいのですが、いいですか?」
「あ、ああ」
アクアがいると煽られると判断したのだろう。
ダクネスは変なスイッチが入る可能性を考慮したとかだろうか。
「・・・私は何やったんですか?」
「基本的にはアクアが宴会芸してる時のだる絡みに似てた」
「それで、キスがどうこうと言うのは?」
出来れば誰かに代わりに話して欲しいけど、誤解なく伝えられるのは恐らく自分だけだ。
「しっかりしろって俺が言ったら、私はしっかりとした大人だから俺とキスだってできるとか何とかって言って、顔を近付けてあと少しで唇がくっ付く直前でダクネスが止めてくれた」
「そう、ですか。迷惑かけてすみません」
成されるがままだった俺の方が世間的にはダメなんだよなあ。
日本だと未成年飲酒は保護者が捕まるしな。
この世界は自己責任だから自分が悪いって考えになるのか。
「謝るならダクネスにした方がいいぞ?止めてくれたダクネスが暴れるめぐみんを何とか抑えてたし」
「分かりました。謝ってきます。でもその前に一ついいですか?」
「どうした?」
何か質問があるらしい。
話すことは全部話したと思うんだけどな。
「その、酔ってる私の事どう思いました?」
「どうって、言うと?」
「その、キスをしようとした時とかのことです」
襲われたことで、嫌に思ってないかとかそういう確認だろうか?
逆の立場で似たようなことあったし、気になるのは分かる。
でも聞ける勇気があるのが凄いと思う。
「酒臭いってのと、このままだと目覚めてからのめぐみんに顔向けできないなって考えてたかな」
「そうですか。では行ってきますね」
「ああ」
めぐみんが何を確認したかったのかは分からないが、まあ、何もなく帰れそうだからこれでいいのかもしれない。