Ace of Aces - スラムダンクの続き -   作:こうやあおい

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第14話

「よーし、1コート6人ずつに分かれてオールコートスリーメンだ。30分は続けるぞ!」

 

 軽めの体育館内ジョギングとストレッチのあとに高頭が指示を出すと、「ちょっと良いですか?」と手を挙げた選手がいた。藤真だ。

「なんだ、藤真?」

「シュートを落としたヤツはなにかバツゲームありというのはどうでしょうか?」

「は……? あ、いや、まあ……」

 目を点にして、そんなことまでは口出しはしないから勝手にしろ、と言った高頭に藤真の顔が輝きを増す。

「よーし、お前らッ! シュートはずしたヤツは昼メシ抜きだ、いいな!」

「おう!」

「なんでテメーが仕切ってんだよ藤真ッ!!」

「はずさなければ良いだろう、三井。自信がないのか?」

「なんだとッ!?」

 海南は練習量は多いもののこの手の男子高校生なノリではない。珍しく清田までが引き気味という状況を目の当たりにしてつかさにしても、仲良くできないのかな、などとジトッと見ていると、意外にも普段はにこにこしているだけの仙道でさえ若干苦笑いを浮かべている。

 ああ、昼食抜き、という意味のないノリが理解できなかったんだな。などと思っていると高頭がメンバーを暗に一軍・二軍にわけ、一軍コートは高頭が、二軍のコートにはつかさがついた。

 

 スリーメン30分とはけっこう、いやかなりきついかな、とコートを走り抜けてシュートしては入れ替わりでコートに入る3人の選手達をジッと見守る。

 スリーメンとは端的に言えば3人でボールを回しながら最後にシュートを決めるというもので、いわば速攻の練習であり、このメンバーでシュートを外すなどは言語道断だ。だが延々と速攻で走り続けるようなもので、体力面ではきつい。

 この12人は今日初めて共にプレイする選手達なのだ。タイミングや息を合わせるのも狙いの一つである。

「おい、牧の妹ッ!」

「──つかさです」

「黙ってねぇでなんかダメ出せよ! コーチだろッ!」

 黙して見ているとコートを走り抜けながら三井がそんなことを言い、決めたレイアップを見届けてつかさは三井の方を向いた。

「三井さんのフォームは完璧なので口出すところないです」

 すると途端の三井の顔に笑みが差した。

「お前……! なんだよく分かってんじゃねぇか!」

「あ、よそ見しないで! 前ッ!」

「お、おう!」

 折り返してきた三人のゴールが決まり、再び三井が走り出す。──実際、三井の問題は体力くらいで良い選手だしな、などと思いつつ選手達を追う。

 この中ではやはり宮城のスピードがずば抜けている。宮城のいるチームは宮城のスピードに付いていこうと飛ばしすぎて既に息が上がり始めている。

 ──宮城はよく見ているな……。パス出しのタイミングもうまい。良いガードだ。

 感心しつつ、30分が過ぎる頃には3人ずつをハーフコートに分けてフィニッシュをミドルレンジシュートに変えた。

「ギャハハハハ! オレの時代ッ!!!」

 ゼーハーいいながらも次々とシュートを決めていく三井にいっそ感心しながら、つかさは少々頭を抱えた。

 ──二軍のシュートは、下手だったのだ。三井以外。

「まあ、高砂さんはともかく……なんでガードとフォワードがこんなにぐだぐだなの……」

 思わず呟いて、ちらりと一軍コートを見やった。瞬時、見なければ良かったと後悔する。──センターの花形までもが綺麗なジャンプシュートを連続で決めていて、さすが一軍、と言わざるを得ない。

「清田くん! 身体が流れてるッ、軸を保って!」

「おっす!」

 自ら「ミドルレンジは苦手」と言っている清田が三井に次いでマシな方だ。これは普段から偏った練習をしているな、などと思いつつ1時にさしかかったところで午前の練習が終了した。

 

「やっとメシだメシー」

 

 一時間の休憩が告げられ、海南のメンバーは学食へと他のメンバーを案内した。補助が出るから各自好きなものを食え、と紳一が説明すれば全員の瞳が輝いて大騒ぎである。

 学食の人もこんな大勢の大男が一度にやってきたら大変だろうな、などと思いつつ彼らと違ってそう空腹を感じていなかったつかさは無難に炒飯と飲み物だけを頼んで席を見渡した。

 さすがに初日は学校単位で集まるかな、と思いきやそうでもない。紳一はなんだかんだ藤真と談笑しており、微笑ましく思う。

 とはいえやはり馴染みがあるのは同じ学校の人間であり、つかさは神と清田を見つけて神の前の席にプレートを置いた。

「ここいい?」

「もちろん」

 ホッとする一瞬だ。神の笑顔も清田の笑顔もつかさにとってはごくごく日常のものだからだ。が──。

「オレも一緒にいいかな?」

 不意に後ろから響いてきた低音に、ギクッ、と肩を揺らすと、斜め前の清田の目が見開かれていくのが映った。

 言った本人は返事を待たずにプレートを置いてつかさのとなりに腰を下ろし、いつものようににこにこしている。

「仙道くん……」

「いただきます。おお、うまそう!」

 律儀に手を合わせた辺り、なんだかんだ育ちの良さが垣間見え、他の二人も、特に清田は少々緊張気味のようだったが拒否するほど排他的ではない。

「いいねぇ、神たちは。いつもこんな上手いメシ食ってんの?」

「いや、ここは大学の施設だから普段は使ってないよ。それより仙道……」

「ん……?」

 言って神は何かを探すように周囲に視線を投げ、あ、と声をあげると長い手をひらひらと振って誰かを呼んだ。

「フッキー! フッキーもこっち来なよ!」

 神の目線の先を追うとプレートを持ってぽつんと立っていた陵南の福田がおり、呼ばれて神と仙道を視認したのか無言でこちらにやってくると彼は神のとなりに腰を下ろした。

「フッキー? 福田、フッキーって呼ばれてんだ? 神と知り合いだったっけ?」

 訊いた仙道に福田は黙し、あ、とかわりに神が答える。

「オレとフッキーは同じ中学出身なんだ」

「へぇ……知らなかったな。神にもあだ名とかあるのか?」

「え……オレは……」

 仙道に聞かれて神が一瞬気恥ずかしそうに口籠もり、仙道の視線は答えを求めるように無言でもそもそとご飯を食べていた福田の方に向かう。

「……ジンジン……」

 すると数秒後にぼそりと福田がそんなことを呟き、仙道は「へ?」と間抜けな声を出して、数秒後に神の顔を見た。

「ジンジン?」

「え、神さんジンジンって呼ばれてんすか!? ジンジン! マジっすか、ジンジン!」

「笑うことないだろ、信長」

「あははははは、うん、いい名だ、オレもそう呼ぼっかな、ジンジン」

「おい、仙道!」

 よくしゃべるなぁ、とつかさはチラリと仙道を見上げる。仙道なりにチームメイトとうち解けようとしているのだろうか? などと考えていると視線に気付いたらしき仙道が首を傾げつつ、ん? と笑みを送ってきた。

「オレの顔、なんかついてる?」

「べっ、別に……!」

「そう?」

 にこにこ、と上機嫌そうな笑みを崩さない仙道からパッとつかさは目線をそらした。ちょっとだけ緊張している、かもしれない。──原因は、と考えたつかさの脳裏にパッと思い出したくもない仙道の唇の感触が蘇って、かき消すように言った。

「せ、仙道くん、さっそく今日、遅刻しそうになってたけど、これから9日間は海南で缶詰だから遅刻も寝坊も釣りもできないよ。平気なの?」

 ちょっとだけ意地悪だったかもしれない。が、跳ね返すように言うと、ははは、と仙道はなお笑った。

「つかさちゃんがコーチで入るって聞いてなかったしな」

「なんの関係があるのそれ……」

「んー……。まあ、寝坊もサボりもしないって。もったいないし」

 ニコッ、とわざわざ向き合って微笑まれて──つかさは若干腰を引いた。神の表情がちょっと固まっており、清田に至っては完全に引いている。

 

「やっぱ仙道さんは役者が違うっすね……。あの牧さんの妹に。ありえねぇ」

 

 休憩明け、ポジション別メニューやハーフコート3on3をこなして2時間後にようやく15分休憩がもらえ、清田は汗を拭きながら先ほどの昼食時の光景を思い出して何気なく言った。

 うん、と生返事をした神の視線の先を追うと壁際で仙道がドリンクを飲みながらつかさと談笑しており、あ、と指さす。

 

「ていうか、普通に仲良さそうっすね。なんでかしらねーけど……」

 

 当のつかさたちは、まだまだどこかぎこちない選抜チームについて意見を交わし合っていた。

「さっきの3on3とか見てても、流川くんってすごいよね……。全力で仙道くんを目の敵にしてるというか……。もしかして仲悪かったりするの?」

「いや、バスケ以外で話したことあんまねえし、わからん」

「チームメイトなんだけどなぁ……今だけは……」

「オレは別に気にしてねぇし、ちゃんとやれるって。アイツはまだ一年なんだし、しょうがねえだろ」

 こういった選抜チームで一番の課題は、チームとしてのまとまりだ。仲良くしろとは言わないが、チームプレイである以上は息のあったプレイをすることが不可欠である。でなければゾーンやフォーメーションをこなせない。

 やはり普段は敵同士という概念がそうさせるのか、はたまた一軍には年齢・精神とも老成している選手が大多数なためか、あまり協調性のない流川はさっそく悪目立ちをしていた。

 仙道は暗に流川をそういう人間と分かってうまくやれるとあっけらかんと笑っているし、おそらく藤真も紳一もうまく流川を使うだろう。

 が、起用する側としては問題だ。これだけエース級のメンバーが揃っていれば、あえて流川を投入する理由がないからだ。

 やっぱりこれは流川がシックスマンだな、と肩を竦めつつ高頭からの「始めるぞ」という声を聞いてコートに戻る。

 二軍は二軍で──、流川のことを言えない状況につかさは頬を引きつらせた。

「テメー、いま押しただろうが! ファウルだファウル!」

「いーや押してない! だいたいあんたが急に突っ込んでくるのが悪いんでしょーが!」

「ま、まァまァ三井さん宮城さん、落ち着いて──」

「うるせぇすっこんでろ一年坊主ッ!」

 騒がしい三人と寡黙な三人に綺麗に二分されているのだ。ハァ、とつかさは深いため息を吐いた。

「三井さん、宮城くん、清田くんはミドルに出て! 福田くん、長谷川さん、高砂さんはリバウンド! シュート組は一番多く外した人、リバウンド組は一番取れなかった人にダッシュ20本行ってもらいます。はじめッ!!」

 とはいえ合宿は始まったばかり。一軍はもとより、この二軍のメンバーだって強力な控えとして神奈川チームを強化してくれるに違いない。はずだ。

 

「それでは今日の練習はここまで! 明日は8時に体育館集合だ、では解散!」

「お疲れっした!!!」

 

 時計の針が7時を回り、ようやく今日の練習は終わりを告げた。

 やれやれやっと終わったぜ、などと各自肩で息を吐きながらゾロゾロと体育館を出ていく。

「コート掃除しとけよ、流川、清田」

 なぜか三井がたった二人の一年生に指示を出し、う、と呻いた清田だったがいくら外部の人間でも上級生には逆らわない。

 チッ、と舌打ちをしつつ仕方なしに流川の方を見やった。

「おい、流川。海南の設備のことわかんねぇだろ? このオレがいろいろ教えてやるよ。ありがたく思いな」

「…………」

「って──ああ! やべぇオレも大学のことしらねぇ!! モップどこだモップ!!!」

「……どあほう……」

「なんだとコラ流川、てめぇ!!」

 コントを繰り広げる二人を見かねたのは二年生だ。

「ノブナガ君、オレも手伝うよ」

「ええッ!? そんな、いいっすよ仙道さん! お気づかいなく!」

「信長ー、モップ、奥の右手の倉庫にあるみたいだよ」

「あ、すいません神さん! ホラ行くぞ流川!」

「うるせーどあほう、黙ってろ」

 この騒ぎを横目で見つつ、つかさは体育館を出て高頭を追った。今日の反省や明日の練習についての打ち合わせのためだ。

 

「まあ、今日は様子見というところだな……。なにかコメントはあるか?」

「いえ……。やっぱり、一軍は二軍より抜けていて羨ましく思いました」

「そりゃ一軍だからな!」

 

 小さくため息を吐いたつかさに高頭は愛用の扇子を開いて大声で笑い、なおさらつかさは脱力した。それは高頭は満足だろう、あんな優秀な選手達を見ていればいいのだから、と言ったところで仕方がない。

 さて、と高頭はパチンと扇子を閉じる。

 

「今のところ、神奈川にとって最大の壁となり得るのは愛知県だ。なにせセンターに強力な選手がいるからな。対するウチはセンターが弱い」

「花形さん、高砂さん。どちらもパワー型ではないですからね。でも、だからこそうまく使えば相性がいいとも言えます」

「うむ。一人で立ち向かわせるのが無謀ならば……。ダブルセンター起用、という手もあるからな。賭けにはなるが。いずれにしても、私は高砂・花形に割く時間を多く取るつもりだ」

 

 高頭は自身のダブルセンター起用の策と練習案について触れ。そして小一時間ほど経っただろうか──、話を終えて体育館に戻ると、そこにいたのは神一人であった。

 

「神くん……」

「あ、つかさちゃん。お疲れさま」

 神はいつもと同じようにシュート練習をしていた。──神は一日500本のシューティングを自らに課しているのだ。いつも神は朝・夜と時間をうまく使ってこなしているが、今日の分はまだ終えてなかったのだろう。

「神くんだけ……? 居残り練習してるの」

「うん、みんな宿舎に戻ったよ。夕飯食べてるんじゃないかな?」

 言いながら神はなおシュートを打ち続ける。居残り特訓は義務でもなんでもないが、それにしても、と思う。

「もっと練習した方がいい人がいっぱいいるのにな……」

「うーん。まあ仕方ないよ。みんな疲れてるだろうし」

「そうだけど……」

 つかさは自然と神の方へ歩いていき、ボールを手に取った。パス出しを手伝うためだ。

 そして一球、また一球とまるで流れ作業のように続けていると、入り口の方からキュッとバッシュと床のこすれる音がして二人して振り返る。

「あ……」

「仙道……!」

「よう。お疲れさん。熱心だな、二人とも」

 意外にもやってきたのは仙道で、予想だにしていなかった二人は目を丸めた。

「仙道、お前……あがったんじゃなかったのか」

「ああ、腹減ってたから夕飯食ってきた」

「な、なにしに来たの?」

「え、練習だよ、そりゃ」

 ははは、とあっけらかんと言われてつかさは思わず神と顔を見合わせた。おそらく神もつかさと同じ心境だったのだろう。意外そうに瞬きをしている。

 とはいえ、自主練習をするのはむしろ歓迎すべき事だ。仙道がボールを手にとってドリブルを始めたのを見てから二人は再びシュート練習を再開した。そして30本ほど打ったところで、仙道が神に声をかけてきた。

「神ってどうやってそんなにスリー入れてんだ? オレにもコツ教えてよ」

「え……!?」

 言われた神はキョトンとして、腕を抱えてしばし考え込み、うーん、と唸った。

「──練習。かな」

 途端、仙道が弾かれたように笑い出す。

「あっはっは。そりゃそうだ! でも、神のフォームは柔らかくて綺麗だよな。ちょっとやそっとの練習じゃあ身に付かない」

「そりゃ……どうも」

「オレ、そんなにスリー得意じゃねえんだよなぁ」

 仙道は持っていたボールを突きながら、今度はつかさの方を向いた。

「つかさちゃん、スリーのお手本見せてよ。参考にすっから」

「え……。私……?」

「コーチだろ、今は」

 言って仙道は持っていたボールをシュッとつかさに向かって投げ、受け取ったつかさは少し口をへの字に曲げる。

「いいけど……。私のスリー、参考にならないと思うよ、たぶん」

 変な打ち方だし、と言いつつドリブルしながら歩いてスリーポイントラインまで下がったつかさは一度ボールを両手で押さえると、じっくり狙いを定めてから膝を曲げ、シュッとボールをリリースした。

 そして見事リングを通ったボールを見て、わ、と神の声が跳ねる。神はつかさのスリーを見たのは初めてだったのだ。

「参考になった?」

「うーん……。クイックで打てる?」

 仙道は腰に手を当てて首を捻っている。もっと速く打て、と言うことらしい。

「打てるよ。……たぶん。パスもらえる?」

「おう」

 言うと仙道はボール籠の方に歩いていって、一つボールを掴んだ。

「行くぜ!」

 瞬間──、あまりの絶妙さに度肝を抜かれるほど、寸分の狂いもなく、完璧なタイミングで「ここがベスト」という位置へのバウンドパスが来てつかさは目を見張った。──と同時にボールを投げあげる。──入った。とあまりのクイックモーションだというのに確信が持てた。事実、ボールは綺麗にリングを抜け。わ、と神からは感嘆の声があがった。

「入った……! すごい」

 神の声を聞きつつ、つかさは自身の両手を見つめた。──これ以上ないほど打ちやすいパスだった。悔しいが、彼のパスセンスはやはり天性のものだ。

「仙道くん、もう一回!」

「──おう!」

 やりやすい、と感じたつかさはもう一度彼のパスを受けてみたくてそうせがむと、仙道はニコッと笑ってボールを手に取った。そうして受け取る、打つ、受け取る、ということを3度ほど繰り返してハッとする。

「あ……! え、えと……その……。クイックモーションの参考になった?」

 なにを自身が熱中しているのだろう。と気恥ずかしい気持ちを誤魔化すように言えば、仙道は、ふ、と薄く笑いながら頷いた。

「ああ。……たぶん。うん。──神! パスくれ」

 言って神に手を振りつつスリーポイントラインまで下がってくる。どうやらスリーを打ってみるつもりなのだろう。

 頷いた神は自身の手に持っていたボールを仙道へ向かって押し出すようにして投げた。

 瞬間、受け取った仙道はシュッと美しくワンハンドでボールを放ち──綺麗にゴールを貫いて、つかさは、う、と喉を引きつらせた。

「入っ──!」

 入った。と声にはならなかった。──いまのモーション、そうとうに速かったではないか。本当に苦手なのか? とジトッと仙道を睨んでいると、仙道はもう一回だと神にパスを頼んで、二発目も見事に決めてしまった。

 当の本人は、おお、できた、などと言いながら手を握ったり開いたりして笑っている。

「い、いまのスリー、十分モーション速いよ! ほんとに苦手なの!?」

「え……。でも今のはつかさちゃんのタイミングの真似だぜ。オレだってスリー打てるけど、確率そんなに良いわけじゃないし、モーションが速いわけでもねえしな」

 あっけらかんと言われて、ぐ、とつかさは言葉に詰まる。どちらにせよ、それが本当であれば、こちらが出来ることは見ただけでコピーできるということか。と、つかさとしては複雑にならざるを得ない。少しだけワザと、ジト目で仙道を睨んだ。

「なんか……むかつく……」

「えぇ……!?」

「だいたい、さ……。仙道くんみたいな長身にあんなに速く打たれたらブロックできないし。私なんてどんなに速く打とうが、フェイダウェイ使ってみようが、仙道くんくらいの人には叩き落とされるのがオチなのに」

 ハァ、とため息をついて神と仙道を交互に見上げながら肩を落とした。

「いいなぁ……二人とも背が高くて。私も190くらいあればなぁ……」

 すると今度は仙道が露骨に口元を引きつらせる。

「い、いや……それはちょっとな……。オレと目線が同じとか……いや……かなりちょっと……」

 そうしてブツブツ言っている仙道をスルーしてボールをかき集め、キ、と神を見上げる。

「さ、続きしよう! 神くんのシュート成功率でモーションをもうちょっとでもあげれば対応は益々難しくかるから、練習!」

「うん。そうだね。オレも負けてらんない」

「そうそう、湘北、陵南みーんな倒して海南大附属18年連続優勝!」

「ええ、ちょ……ひでぇ! 今はチームメイトだろ!?」

「うん。だから仙道くんはディフェンスで協力してね、私、パスだすから」

「──! こりゃ、まいったな……」

 ははは、と全員で笑い合い、神の残り100本ほどのシューティングを再開した。

 二年生同士の仙道と神だ。片や天才、片や努力の人、と思われがちであるが──、こうして一緒にバスケットをすることは二人にとってきっとプラスになるだろう。

 おそらく次の夏は──二人はキャプテン同士として頂点を争うことになるはずだ。だが今は──互いに頼もしいチームメイトだろうな、とつかさ自身も二人を頼もしく思った。

 そうしてようやく、本日の練習が終了する。時計を見れば、もう9時を回っていた。

「さすがにお腹すいたな……」

「私も……はやく帰ってごはん食べたい」

 ボールを片づけながらそんな話をしていると、あ、と仙道が思いだしたように訊いてくる。

「つかさちゃんの部屋って一人部屋? オレたちは4人部屋だったけど」

「え……?」

 その問いにつかさは目を瞬かせた。──あ、そうか、と気付いて首を振るう。

「私、学校には泊まらないよ。家から通う」

「え──ッ!?」

 瞬間、仙道がピシッと固まり、神も申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「そうなの? ごめん、オレも知らなくて……。片づけたらすぐ帰ろう。送っていくよ」

「大丈夫、心配しないで。往復してたら遅くなっちゃう」

「でも……」

 そんな問答をしていると、ハッとしたらしき仙道も加わってくる。

「あ、じゃあオレが送ってく。オレはもう夕飯済ませちゃったしな」

「え……、い、いいよそんな……」

「いや、そうもいかねえだろ、夜だし」

「いや、ほんとにいいから……」

 面倒なことになってきた──、と頬を引きつらせていると、ちょうどボールを片づけ終わったところで外側の扉がガラッと音をたて、パッと3人はそちらを見やった。

 

「なんだ、まだ電気が付いてるから誰かと思えば……。ずいぶん遅くまで残ってたんだな、お前達」

 

 紳一だ。既に一風呂浴びたような風体をしている。

「お兄ちゃん!」

「お前、家から通うって言ってなかったか? 泊まっていくのか?」

「あ、ちょうど今から帰るところ。お兄ちゃんは?」

「オレはちょっと家に忘れ物してな。取りに帰ろうと思ったら体育館の電気が付いていて寄ってみたんだ。ま、ちょうどいい。帰るぞ」

「あ、うん。ちょっと待って……!」

 つかさにとっては渡りに船だ。急いでロッカーに置いている荷物を取りに走りながら後ろを振り向いた。

「じゃ、神くん、仙道くん、また明日!」

 そうしてつかさが去り──、いやにシンと静まりかえった空間が体育館内に出来上がった。

「オ、オレたちも宿舎に戻ろうか?」

 神が仙道に笑いかけると、ふ、と仙道は肩を竦めてから「そうだな」と続いた。

「神、部屋割り知ってるか?」

「うん、見た見た。オレたち二年は全員同じ部屋だよね、確か」

「ああ、宮城が気楽でいいって喜んでたぜ」

「ははは、確かに。逆に流川と信長は先輩達に囲まれてるから、気を遣っちゃうかもね」

「いーや、ノブナガ君はともかく、流川は気ぃ遣うようなタイプじゃねえだろ」

 そんな雑談をしながら二人が宿舎用の校舎に入り、部屋に入るとすっかりくつろいでいる宮城と隅で大人しくしている福田の姿があった。

「よう、おかえりお二人さん! 今日からしばらくよろしく頼むぜ。ま、オレたち三人新キャプテン同士ってことで仲良くやろうぜ」

「あ、うん。よろしく宮城」

「……ジンジン……。メシ……あっち」

「え……? あ、オレのメシ? ありがとうフッキー。シャワー浴びたら食べるよ」

 福田が指さした先を見やるとローテーブルの上にラップのかかった夕食が置いてあり、神は笑って言うと練習での汗を流してからようやく夕食に手を付けるに至った。

 宮城はやれテレビがないだなんだと愚痴りつつずっと喋っており、仙道がうまくそれに付き合って、福田は黙しながらも雰囲気にちゃんと付いてきている。海南のメンバーは一人もいないが二年だけの空間というのは思いの外、居心地が良いかもしれない、とお茶に口を付けながら神は思う。

「神ってさ……」

 すると、ふと仙道の声がして「なに?」と神は湯飲みをおろした。

「もしかして毎日、練習後にスリーの練習やってんのか?」

「え……。ああ、うん。さっきはありがとな。今日の練習はかなり充実してたよ」

 はは、と笑う。事実、仙道はディフェンスをしながらもこちらの隙を気付かせてくれるようなディフェンスのやり方で、今日のシュート成功率はここ最近で最低だったものの自分の弱点に気付くという発見もあり、なにより楽しかった。それに──。

「オレ、ちょっとびっくりしたんだ。つかさちゃんがバスケットやってたのは何となく知ってたけど、スリー打ってるところは初めて見たからな。それにあのクイックモーション……かなりの速さだったし」

「たぶん……練習したんだろうな。ブロックかわすために……」

 すると仙道がそんなことをボソッと言って、え、と聞き返すとハッとしたようにニコッと笑ってなんでもないと口を噤んだ。

 神が首を捻っていると、畳に身を投げ出していた宮城がガバッと起きあがって話に入ってくる。

「バスケできんの? あのコ」

「そりゃあ、できるだろ。コーチなんだし、一応」

「っていうかなんでコーチが女でマネージャーが野郎なんだよ! テンション下がりまくりだぜ! ウチのアヤちゃんつれてきてもよかったじゃねえか! おれ寂しくて死んじゃう!」

「……誰……?」

「あ、お前しらねーの? 湘北のアヤちゃんって言ったら、バスケ部の誇る美人マネージャーだろうが!!」

「あ、オレ知ってるぜ。あのグラマーでいつも帽子かぶってる子だろ?」

「テメーは知らなくていいんだよ仙道! アヤちゃんに近づくな!」

 シッシッと宮城が心底イヤそうな顔で仙道を追い払う仕草を見せ、神は「ははは」と乾いた笑みを漏らした。あ、ご飯美味しい、などと彼らとは別のことを考えつつ──明日に備えて今日は早めに寝よう、と思った。

 

 その頃、別の部屋で清田は持ち込んだ課題を渋々広げていると同室の花形が丁寧に教えてくれて感激し、「オレ、上手くやれそう」などと思っていたところだった。が。

「三井、お前、大学はどうするんだ? 受験するのか?」

 うっかり花形がそんな事を漏らしたせいで一気に空気が凍った。

「い……。いや、一応……推薦をだな……」

「え、推薦? どこの大学からきてるんだ?」

「い、いや…………これから推薦がくる予定で、だな」

「これから? もう10月になるんだぞ。まずいんじゃないか? 少しくらい受験も視野に──」

「ウルセー! テメーみたいな秀才とちがってこちとらノーチャンスなんだよバーカ! ああ、バカだよバカで悪かったな! なんか文句あんのかコラッ!」

 逆切れだ……。と、これでいて意外に先輩に気を遣うタイプの清田はこの状況に背中に冷や汗を流し、同じく口を挟めないでいる高砂の方に泣きついた。

「高砂さーん、なんとかしてくださいよー!」

「オレには無理だ……。やはり赤木でないと……」

「赤木さん今いないじゃないっすかー!」

 言いながら、海南の平和さを再確認すると共に湘北のタチの悪さも改めて感じる清田だった。

 

 一方、もう一方の部屋では紳一、藤真、長谷川がローテーブルを囲んで緑茶を雑談の友としていた。

 流川は既に一人寝息を立てている。

「しかし、良く寝てるな流川のヤツ」

「けっこう遅くまで校内ランニングやってたみたいだからな」

「流川なりに体力のなさを補おうとしている、ってわけか」

 ローテーブルの上に置いてあるのはボードだ。やはりキャプテン陣、高頭の起用がどう来るか気になっているのだろう。

「お前……、どう思う、牧? この選抜メンバーの中にポイントガードが3人。いや、もしも仙道ポイントガードの起用があれば4人だ」

「さてな。だが監督は仙道をポイントガードには考えてないんじゃねぇか? オレとお前がいて、わざわざ仙道をガードにする必要ねえだろ」

「それもそうだな……。だが、ポイントガードにはこの急造チームをまとめあげる責任がある。お前にそれができるかな?」

「ほう。良い度胸だな。オレに勝つつもりか、藤真?」

 ──神奈川名物、意地の張り合いもこれで見納めと思えば。我慢するか。と、横で見ていた長谷川は一人茶をすすった。

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