Ace of Aces - スラムダンクの続き -   作:こうやあおい

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第39話

 ──決勝リーグ2戦目。

 今日の男子バスケットは全ての試合が平塚総合体育館で行われる。

 一戦目は緑風対陵南、そして二戦目は海南対湘北である。

 

 つかさはいつも通り海南の制服を身に纏ったものの、目に見えて上機嫌で出かける準備を進めていた。なぜならば、今日は陵南の試合が見られる。応援もできるのだ。

「今日の試合に勝てば、陵南はインターハイ進出がほぼ決まるね!」

 弾んだ声で言えば、同じく出かける準備をしていた紳一が呆れたように言った。

「……海南もな……」

 紳一のため息を聞きながら思う。今日でスパッと結果が出ればいいが、陵南が緑風に負け、海南が湘北に負けた場合は勝負が最終戦までもつれ込む羽目になってしまう。それを避けられたとしても、4チームのうち3チームが二勝一敗で横並びにでもなれば、最終順位は得失点差などという面倒なやり方で決まってしまう。海南にしても陵南にしてもそれは避けたいはずだ。

 既に一勝をあげている陵南・海南は今日でインターハイ進出を決め、最終日の優勝争いに備えたいというのが本音だろう。

 

 既に会場入りしていた陵南の田岡もむろん今日でインターハイ進出を決めたいという気持ちもあったが、「勝ち方」の方にもにらみを利かせていた。

 仮に今日の試合で勝利を収めたとしても、インターハイが確実に決まるわけではない。もしも湘北が海南に勝ち、最終日に緑風にも湘北が勝って、さらに陵南が海南に負けた場合、3チームが2勝1敗で並びんで勝利の行方は得失点差に依存することになる。

 万に一つ、そんなことはないと信じたいが、油断は出来ない。万一に備えて、なるべく点差をつけて勝つにこしたことはない。

 とはいえ──。

 田岡は考えながら、自身のチームを見据えた。

「おそらく、海南の選手たちはウチの試合を見に来るだろう。なにも手の内を奴らに見せることはない。そこでだ、仙道」

「はい……」

「オフェンスの軸はお前で行く。マイケル沖田とは好きに勝負しろ」

 控え室にて田岡がそう宣言すると、「おお」と彦一たち控えメンバーが興奮気味に騒ぎ立てた。

 なお田岡は越野の方を見やる。

「越野は克美にマンツーだ。中よりも外のシュートを得意としていて、なにより上背のある選手だ。とにかく、打たせないよう注意しろ」

「はい!」

「よし、他のディフェンスはいつも通り、ゾーンでいく。今日でインターハイを決めるぞ!」

「はい!」

 全員が引き締まった返事をし、陵南の選手たちは程良い緊張心でコートへと向かった。

 薄暗い廊下からコートに出ると、思わず目を窄めてしまうほどのライトと共に歓声が迎えてくれる。さすがに決勝リーグ二戦目。ほぼ満員だ。

 試合前の練習を開始すると、コート脇に次の試合を控えている湘北と海南のメンバーが姿を現した。

「ジンジン……!」

 福田の呟きで、みなが一斉に反対側のゴール下付近に目をやった。海南が揃ってお出ましだ。相変わらず、「海南」というだけで妙なオーラが出ているものだ。

 すると仙道が手を鳴らし、みなを練習に引き戻す。

「ほらほら、目の前に集中!」

 仙道自身、海南の視線は気にはなったもののそんなそぶりは一切見せず淡々と練習を続ける。

 その様子を、観客席の最前列で紳一とつかさも見守っていた。

 

「緑風は攻守のバランスはいいチームだけど……、沖田くんがずっとアメリカにいたせいかな。チーム力はそこまでない感じかな」

「ああ、個々の能力はけっこう良いもんもあるが……、まあ、言うなれば若い学校だからな」

 

 予選初出場でベスト4入りという緑風は記録に残る大健闘であるが、それだけに熟練度という意味では選手・指導者含めて劣っている。

 つかさはなお両チームの主将を見やって言った。

「今日のフォワードは両チームとも正統派ね……、二人ともエースだし」

「マイケルはお前に近いタイプだな」

「え……!? そ、そうかな。えー……私、あんなに身体能力押しじゃなかったはずだけど……」

 身体能力に恵まれた選手は、それに頼りがちになるものである。子供の頃は確かに身体も大きく恵まれていたが、自身のスキルにそれなりに自信を持っているつかさが少し眉を寄せると、いや、と紳一は苦笑いを漏らした。

「インサイド派だろ、あれは。外もあるしパス出しもするが、中に強いタイプだ。お前の言うとおり王道のフォワードタイプだろう。仙道はスタイルがそもそもポイント・フォワードだからな、だいぶん特性が違う」

「インサイド、ね……」

 つかさは少し肩を竦める。あれだけ体格が良ければそりゃ切れ込んでいくのも楽しいだろうな、とマイケルの金髪を目に入れつつ、ふ、と息を吐いた。悔しいな、と思う気持ちはきっと一生消えることはないだろう。でも……、苦しい、とは思わなくなった。きっと、それでいいのだと思う。

 試合開始時間が迫り、両チームが整列する。と、センターサークルに進み出たのは仙道で、お、と紳一が反応した。

「仙道がジャンプボール?」

 通常、ジャンプボールはセンターを担う選手が担当することが常であり、陵南はいつも菅平を出している。が、相手の緑風もフォワードのマイケルを出していた。

 思わずつかさも驚いて声をあげた。

 

「仙道くん! 頑張って!!」

 

 ピク、と仙道の身体が反射的に撓った。つかさの声をほぼ瞬間的に認識した仙道は、ふ、と表情を緩めてちらりとつかさの方を見やった。

 するとめざとく相手のマイケルが「ん?」と反応して仙道の目線の先を追う。

「なに、仙道君のファンかい? お、海南の制服だ……かーわいいねえ」

 特に悪びれるでもなく軽いノリなのはアメリカの血ゆえだろうか。

「さっすが"天才"仙道君。モテモテだねえ」

 おそらくこれは彼の素なのだろう。と、仙道は他の選手が言ったとしたら挑発まがいの言動をさらりと受け流し、曖昧な笑みを浮かべておいた。

 

「ティップ・オフ!」

 

 審判が宣言してボールを投げあげ、同時に跳び上がった二人は互角にボールを捉えた。

 こぼれたボールを越野が素早く拾い、克美に捕まる前に植草へといったんボールを戻してじっくりチャンスを狙う。が──。

 

「植草ッ!」

 

 着地してからすぐに緑風ゴールへと走っていた仙道が植草に合図を送る。すぐさま植草がパスを出してくれ、走りながら利き手で受け取ると仙道はそのままゴールに向かった。

 ディフェンスは2枚。マイケルとセンターの名高だ。仙道は突っ込むと見せかけてロールターンでマイケルをかわし、力任せに跳び上がってそのままパワーで押し込むように名高の上から豪快なダンクを決めた。

 

「う、うおおおお、仙道いきなり先制ダンクだあああ!!」

「はえええええ!!」

 

 あまりの速さに観客は度肝を抜かれ、紳一でさえ「なッ……!」と絶句した。

 むろん、それは見守る海南・湘北勢とて同じだ。

 

「す、すげェ……仙道さん……!」

「仙道、すごいパワーだ……。あのパワフルな名高のうえからあっさり……」

 

 清田と神も瞠目し、目線の先ではディフェンスに専念する陵南がボックスワンを敷いていた。越野のみがマンツーで克美につき、他はゾーンにてゴール下を固めている。

 緑風のガードはボールをフォワードのマイケルに託し、マイケルは中へ切れ込んでくる。が、陵南は福田・菅平・仙道で厚めのプレッシャーをかけてゴール前で潰しにかかった。それでも強引にレイアップを打ったマイケルのボールはリングに弾かれ、仙道がスクリーンアウトで名高を抑え込んだ先で菅平が跳び上がってリバウンドを制し、走っていた越野へとパスを投げた。

 

「いいぞ菅平ッ、ナイスリバンッ!」

「速攻や、越野さん!!」

 

 ベンチからそんな声が飛び、越野も張り切ってフロントコートへ駆け上がった。が、既に克美が戻っており、いったん越野は足を止めざるを得ない。

「──ッ!」

 その視界の端に仙道が駆けてくるのが見え──、越野の脳裏に「オフェンスの軸は仙道」という田岡の指示が過ぎった。

 よし、と頷いて克美を睨みあげる。攻め行くような表情はフェイント。切り崩しにかかると見せかけて、越野は背面からヒョイと左ウィングにあがってきた仙道にパスを回した。

 

「仙道だ──ッ!!」

 

 ワッ、と客席が揺れ、緑風ディフェンスは仙道のドライブインを警戒して締まる。しかし。仙道はドライブインに行くというモーションだけを見せ、バックステップでスリーポイントラインの外に出た。と、同時に虚を突かれただろうディフェンスの反応が間に合わないほどの速さでボールをリリースした。

 

「スリーポイントだと……ッ!?」

 

 誰もがこの局面でスリーを選択するとは思いもよらなかった中、仙道の放ったボールは綺麗にリングを貫き、あっという間に仙道一人で5点稼いでアリーナが大歓声で沸いた。

「は、派手だな……仙道のヤツ」

 紳一が腕組みをして言い下し、つかさも少しだけ驚いていた。序盤からすごい飛ばしようだ。それに──。

「完全にクイックリリースをモノにしてる……。さすが仙道くん……」

 国体の合宿時に、おそらくは諸星に対抗して外のクイックモーションを練習していたはずなのだ、彼は。確かにすぐに出来るようにはなっていたが、さらに磨きがかかっている。

「どうやら調子が良いようだな、今日の仙道は」

 いわゆる"ノッてる"という状態なのだろうか? いや、仙道のレベルならこれくらいは普通のはず。と、つかさが試合状況を見守っていると、どうやら陵南は極端にボールを仙道に集めているらしき傾向が掴めてきた。

 奇しくも紳一が言ったとおり、仙道は天性のフォワードだが性質はポイント・フォワードだ。こんなワンマンらしい動きを好む選手ではない。──ということは、作戦か? と思う。

 いくら仙道に依存する傾向が強い陵南にしても、過去の試合でもここまで露骨ではなかった。それに、陵南自身、仙道に頼りきりでは勝てないということは良く分かっているはずだ。

 だとしたら──、やはり作戦。最終戦を睨んで手の内は見せないつもりか、とベンチの田岡を見据えた。

 

「さすが"天才"だねえ。面白くなってきたよ。でも……、プレイがちょっと強引かな」

 

 マイケルをマークしつつ、仙道は内心ほくそ笑んだ。あくまで自分を軸に攻めると言ったのは田岡の作戦。全ては海南に勝つための布石だ。仮に自分が手詰まっても、福田を使う。そして得点を稼ぐ。それでいいんだ、と腰を落として守っていると、30秒バイオレーションが見えてきてマイケルは克美へとボールを渡した。

 

「越野ッ!」

 

 田岡がベンチから叫び、越野も腰を落として振り切らせまいと守る。

「しつこいですねッ、無駄ですよ! そんな小さい身体でッ!」

「うるさいッ、ぜったい打たせねえぞッ!」

 越野はチャンスさえあればスティールしてやる、と息巻いていたが、克美は自身より10センチは高い。

 いくらディフェンスを頑張っても、このミスマッチはそう埋まるモノでもなく──、ブザーが鳴るギリギリで克美は強引にシュートへ行って見事に決め、おまけに、フ、と不敵な笑みまで越野にくれた。

「ほらね?」

 むろん、越野はいとも容易くコメカミに青筋を立てた。

 なんつー生意気な二年坊主だ。と、思うも──武石中出身の克美一郎。中学時代、スター選手だった三井の跡を継ぐシューターとして名を馳せていたのは越野自身、知っていたことだ。やはりシューティングガードに求められる重要条件はシュートの巧さ。克美の言うとおり、自分は174センチしかなく大きいとは言えない。シュートすら負けているようでは全国で戦えない、と舌打ちしつつ気持ちをオフェンスに切り替える。──負けねえ、とグッと拳を握りしめた。

 

 試合は仙道が積極的に攻めて多彩なプレイでポイントを奪い、ディフェンスでは圧巻のチームディフェンスで陵南が上手く緑風オフェンスを殺して陵南有利の展開が続いていた。

 

 仙道は、単純に試合を楽しんでいた。

 マッチアップ相手のマイケルは相手にするに十分な技術を持っているし、なにより陵南が勝っている。これ以上に楽しいことはないだろう。

 やはり、勝負もバスケも楽しんでなんぼだと思う。苦しんで勝ち抜いて行くのは、きっと自分には合わない。でも、それもこの夏で最後だ。最後だから、苦しんでも勝つ──と、ゴールから離れた位置からフックシュートを決めればさらに会場がワッと沸いた。

 

「さすが仙道、打点が高いッ!」

「なんて鮮やかなシュートフォームだ……!!」

 

 ほう、と紳一も喉を鳴らし、つかさも思わず手を叩いていた。

「きれーい……! いいなぁ……なんて綺麗なフックシュート……!!」

 モーションの小さいベビーフックと違い、フックだと形がはっきりと観衆に伝わる。仙道の滞空時間の長い高打点のシュートは尚さらフォームが目立ち、いっそう華やかだ。

 仙道は、よくつかさ自身のフォームを綺麗だと誉めてくれていたが──やっぱり仙道は綺麗だな、と少しだけ肩を竦める。

 それにも増して、今日の仙道はなぜだか楽しそうだ。天性のパスセンスや、おそらく仙道自身の性格に起因するゲームメイクも仙道の魅力の一つであるが、やはり彼はフォワード。オフェンスこそ仙道最大の魅力だと改めてつかさは思った。

 仙道ならきっと、きっと、自分が出来なかったことを、きっと何でも最高の形でプレイ出来るんだろうな、と思う。自分の得意なドライブからのシュートも、仙道ならもっとキレ良く、高さとパワーでディフェンスに競り負けることもなく。きっと決めてしまうのだろう。

 不思議と悔しいとは思わなかった。だって目の前にいるのは、あの諸星以上と感じた選手なのだ。やっぱり仙道が、この陵南でインターハイを勝ち進んでいくところが見たい。

 

「よォし、良いぞ仙道!!」

 

 田岡もベンチから弾んだ声を仙道にかけていた。

 仙道ほど、こちらの意図をくみ取って明確に動いてくれる選手はおそらくいないだろう。今年の陵南の良さはチーム力・全体力であるが、こうして仙道一人が奮闘している状態でも、選手たちは仙道の活躍に乗せられてディフェンスも自然と良くなってくる。

 やはり、仙道次第でチームの色を自在に変えられる──まさに天才。いや、そんな言葉すら安っぽいかもしれない。

 チラリと田岡はスコアボードを見やる。ここまで完全に陵南ペースだ。

 全国が見えてきた。──と逸る気持ちを抑えつつ、ハーフタイムで田岡は後半は福田にも積極的にオフェンスに関わらせるように指示を出した。

 そうして後半に入っても勢いは衰えず、福田-仙道のラインはたびたび群衆を沸かせるプレイを見せつけていた。

 緑風は緑風で攻撃を外に広げて頻繁に克美にボールを回し上手く点を稼がれていたが、越野の能力以上にミスマッチとは厳しいものである。そこは仕方がない。

 

 陵南はあくまで「点の取り合い」ではなくディフェンス重視でロースコアに持ち込んでいる。その上で点差を付けようとしているからこそ、余計に仙道のキレのある攻撃が目立ち──、緑風は失点続きで陵南はスコアを重ね、観客は仙道の怒濤の攻撃を次第に息を呑んで見守っていた。

 そして──。

 

「試合終了──!」

 

 ブザーが鳴り終わると同時に審判が宣言し、ワッ、と陵南応援団が跳び上がった。

 スコアは89-75。数字の上では10ポイント以上の差をつけて陵南が勝利を収めた。

 

「陵南、2連勝だああああ!!!」

「インターハイ出場に一番乗りか!?」

 

 陵南、というよりは圧倒的に仙道の力を見せつけて勝利したような試合だったものの、つかさも2勝をあげたことでいくらかホッと胸を撫で下ろしていた。

「これで……、陵南のインターハイ出場はほぼ決まりね」

「次のウチと湘北の試合次第だな。ウチが勝てば、決定だ」

「そ、そうだけど……。か、海南が勝つよ、ぜったい」

「お前、純粋に海南を応援してるんだろうな……?」

 ギロ、と紳一に睨まれて、む、とつかさは唇を尖らせる。なぜこうも突っかかってくるんだろうか。陵南が関わっていなかったとしても、湘北に海南が負けることを望むわけないというのに。

 

 ──ともかく、次の試合で全てが決まる。もしも湘北が勝てば、インターハイへの切符の行方は極めて混迷を深めることになる。

 

 むろん、そのことは陵南もよく認識しており──、今の勝利でインターハイが確定したとは全員が思わないようにしていた。

 とはいえ、2連勝をあげて控え室の雰囲気はすこぶる明るい。

「ようし、良くやったお前たち! この2勝は大きいぞ、このままの勢いで最終戦も海南に勝ち、ウチが優勝だ!」

「はい!」

 手を叩く田岡に選手たちも気合いたっぷりに応え、田岡は汗を拭っている仙道へ視線を送った。

「お前もご苦労だったな、仙道。コート脇で見ていた海南も湘北もお前の怒濤の攻撃に驚いていたに違いない」

「え……、さあ、どうですかね」

 満足げな田岡に仙道が目線を泳がすと、興奮気味の部員たちが一様にまくし立てた。

「いやあ、ベンチにおったワイも痺れましたわ! 仙道さん絶好調や!」

「お前マジで今日はどうしたんだ!? 初っぱなから全開だったしよ!」

「あのマイケルにも全然負けてなかったもんな」

「オレ、コート脇で流川がスゲー睨んでるのと清田が呆然としてるの見逃さなかったぜ!!」

 彦一や越野たちが次々に褒め称えて、仙道は少しだけ居心地悪そうに「まいったな」と呟くも──、ジー、と福田のみが無言で仙道を見ており、しばらくしてその視線に気づいた一同が福田に視線を集めた。

「何だ、福田?」

 すると、問われた福田はプイっと横を向いて「いや」と言いつつも、改めて仙道の方を見た。

「お前って、けっこう単純なんだな」

 ボソッと呟いてから福田はスタスタとロッカーの方に行って着替えはじめ、一同「なんだ?」と首を捻るも、仙道は軽く目を見開いたのちに図星を指されたような益々バツの悪い表情を浮かべて首元に手をやり、息を吐いた。

 

「よし、全員着替えたら客席に行くぞ! 海南・湘北戦が始まる」

 

 田岡が手を叩いて部員たちを促し、ゾロゾロとみなで控え室を出──福田は横目でチラリと仙道を捉えた。

 ──ティップオフの直前、つかさの声が飛んだのに気づいた。薄く、仙道が笑ったのも知っている。

 田岡の与えた作戦が「仙道を軸にオフェンスを組む」、だったとはいえ、試合開始直後から全開だったのはつかさのせいだったとしか思えない。

 いや、いいのだ。好きな子に良いところを見せたくて頑張る。なんていうのは、どう言い訳したところで男ならしかたない。仙道がつかさを気に入っているのが気に入らないらしき越野にしても、お目当ての子が「越野くーん!」などと甘い声を飛ばそうものならきっと余裕のスリーを決めてくれるはずだ。

 それはいいのだが、と福田はあごに手を当てる。

 それだけに、明日は大丈夫なのだろうか──、とジッと仙道を見ていると、視線に気づかれたため、フイ、と目をそらした。

 

『今は、練習時間外だから、個人的なことを言うね──』

『私は、陵南に……仙道くんにぜったいにインターハイに行って欲しいから』

『仙道くんは、きっと負けない。全国でも、きっと負けない……!』

 

 海南の、牧紳一の妹。そんな彼女が個人的な理由で海南より陵南を応援するとは思えない。そんなことは仙道もわきまえているだろう。

 しかし。もしも自分が仙道だったとしたら。惚れた女が敵陣サイドにいれば、確実にメンタルに影響する。

 とはいえ、仙道はそこまで繊細でもないか、とふぅ、と福田は息を吐いた。

 ベンチ外の部員が確保してくれていた観客席に腰を下ろせば、第2試合の両チームは既に練習を開始しており「おー!」とさっそく彦一が騒ぎ始める。

「両チームとも絶対的大黒柱が抜けての再戦! こりゃ要チェックやで!」

 大黒柱、とは紳一と赤木のことを指しているのだろう。既に高校を去っている二人だというのに未だにこの言われよう。それだけインパクトが強かったという証拠だ。フン、と福田は鼻を鳴らした。

「ジンジンは、中学でもキャプテンだった……。統率力がないわけじゃない」

「え……、ほんまですか福田さん!? ……あ、そういえば、神さんは元のポジションはセンターとか……」

 言いながら彦一はパラパラとチェックノートを捲っており、福田は無言で腕を組む。自分が中2の終わりにバスケ部に入部した時には、既に神は主将を務めていた。それほど強い学校ではなかったが、曲がりなりにも神自身は海南進学を目指すほどに意識の高い選手であり、センターでエースをはっていた。主将としても選手としてもチームの中心であり、新入部員の自分をよく気にかけてくれてチームに入りやすくしてくれた、言うなればサポートタイプのリーダーだったのだ。おそらく、今年の海南もそうやってまとめているのだろうと思う。

「けど……、どっちにしろこの試合は、陵南としては海南を応援するべきでっしゃろ、監督!?」

 彦一はなおノートを睨みつつ田岡の方を見、グ、と田岡は喉元を詰まらせた。

「海南が湘北に勝てば、今日でウチと海南のインターハイ進出が決まるっちゅーわけや! そうでっしゃろ監督!?」

「ま……、まあな」

 田岡は、事実は事実なだけにそう頷くしかなかったのか、頷いていた。海南は終生のライバル・高頭のチームであるため複雑なのだろう。

 福田としては、なにをどう考えても湘北よりは神のいる海南が勝ち、神と一緒にインターハイという展開が望ましくあったが──、他のメンバーはどうなのか。

「海南が勝てば、ウチと海南がインターハイ。そして明日は優勝決定戦だ。そっちのが分かりやすくていいぜ。なあ仙道?」

 越野がそう仙道に話題をふり、え、と仙道は目を見開いている。

「うん……、まあ、そうだな」

「海南に派手な選手はいない。といってもキャプテンの神は去年の全国得点王……、牧さんのアシストがあってのこととはいえ、今年もあなどれないな」

 植草がそう言い加えて、うむ、と田岡も頷く。

「とにかく、お前ら。海南の選手たちの動きをしっかり見ておけよ。常に奴らをどう抑え、どう攻めるかイメージしながら見るんだ」

「はい!」

 試合開始が目前に迫り、海南・湘北の両選手たちがセンターサークルに集まっていった。

 そうして審判がティップオフを宣言する。

 海南にとっても、陵南にとっても、インターハイ行きの成否を決する一戦の幕開けだった。

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