Ace of Aces - スラムダンクの続き -   作:こうやあおい

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第4話

 四月最終週の日曜日。つかさは陵南高校VS湘北高校の練習試合を観戦すべく、海沿いの道を陵南に向けて歩いていた。

 

 年度が変わって──海南大附属高校バスケット部にも新しい風が加わった。

 紳一や神ほかバスケ部員からの又聞きではあるが、毎年のことながらけっこうな有望株が複数入部したらしく先輩陣は期待しつつも「何人が残るかな」と言い合っているらしい。事実、海南の練習は他の追随を許さぬほどハードであり一年後に残る部員は二割に満たない。

 仮に仙道が海南に来ていたら、続けられたかどうか。

 少なくとものらりくらり釣りなどやっているようでは強制退部が関の山だろうな、などと過ぎらせつつ陵南の校門をくぐる。

 海南には兄も同然の紳一もいるし、神のがんばりも見ているし、今年も優勝して欲しい。自分も一緒に戦えないのが悔しい。などと思うこともなるべく忘れるようにしているし、諦めているし。海南のための情報収集と、仙道のプレイをしっかり見てこよう。──という気持ちとは裏腹に陵南に着いても仙道の姿は見あたらず、試合開始寸前に現れた姿を見てつかさは観客エリアから盛大にため息をついた。

「相変わらず……」

 いや、もはや仙道本人には突っ込むまい。バスケに集中しよう。──と、さっそく両チームの分析にかかる。

 ──なるほど。湘北うわさのルーキー・流川楓は早くも湘北のエース級の働きをしており、既にファンもいるようだ。上背もあり、センスもある。だが。

 仙道くんほどじゃないかな。──などと過ぎらせつつ、陵南のガードに連続でスティールを許した湘北ガード陣を見てつかさは首を捻った。

「いいガードがいるって言ってたけど……。間違いかなぁ……」

 湘北は見るからにガード陣が弱い。センターで主将の赤木はなるほど、あの2メートルを超す魚住をうまく抑えており紳一が誉めていたのも分かる。フォワードも、流川は仙道に対してやや分が悪いとはいえなんとか対抗している。

「これはガードの差で勝負アリかな」

 陵南のガード陣も言うほど目立つ選手達ではないが──。それに、なにより陵南は──。

 

「ナイスパァス、仙道!」

「仙道さーーん、ナイスアシストッ!!」

 

 カットインからシュートに行くと見せかけた仙道の魚住への絶妙のパスが通り、ワッと館内が沸いた。今日これで仙道のアシストは何本目だろう?

「う……」

 うまいな、やっぱり。とつかさは肩を竦めた。仙道は、去年は得点王にも選ばれており、中からも外からも点が取れる陵南オフェンスの要だ。しかし、今日の仙道は点よりもむしろアシストの数字を積み重ねていっている。

 アシストパスを含め──、仲間へのパスは一見簡単なようで奥が深い。シュートやドリブルの技術は磨くことはできても、この"パス"という技術は持って生まれた天性の素質・センスによるところが大きいからだ。

「ナイスパァス、仙道!」

「速攻、もらったぁ!」

 ディフェンスリバウンドからの仙道のアウトレットパスが見事に決まり、陵南ベンチ陣が沸き立ったところでつかさは肩を竦めた。

「あんなに釣りばっかりしてるのに……」

 なんであんなに上手いんだろう。と思わずジト目で仙道を睨み付けてしまう。なにげない動きでも自然と目が仙道を追ってしまうのは、彼の才能ゆえか。

 海南ばりにみっちり練習したらどんな選手になるんだろうな、と想像する反面、ハッとする。

 仙道のポジションはいままでの試合を見るにフォワードだ。対する海南のフォワード陣は──と浮かべたつかさの脳裏に真っ先にポンと神宗一郎の姿が浮かんだ。

 神と仙道。身長は同じくらいである。シュート成功率はおそらく神が上。しかし──。マッチアップとなれば神は不利だろう。というか、海南に仙道を止められる選手はいるのか? 考えて、ごく、と喉を鳴らした。

「これは強敵ね……。信じられない、去年より圧倒的に良い選手になってる」

 あんなにへらへらした人が。と過ぎらせるも、その思考は追いやってつかさは熱気の籠もるコートを見やった。

 そして試合終盤、仙道は恐ろしいほどの集中力を見せ──、決勝のゴールを決めて、やれやれ、とでも言いたげに肩を落としていた。

 

 日頃の勉強の成果か、バスケットバカ一直線だった生活のせいか、ほぼ正確に記憶していた陵南・湘北戦のスタッツを帰宅してから紳一に告げると、ほう、と紳一は興味深そうに喉を鳴らした。

「仙道のアシストが去年よりだいぶん伸びてるな」

「うん。アシスト以外にも、もし私が湘北の選手だったらうんざりするくらい絶妙なノールックとかビハインドザバックとかバンバン決めてた」

「あのオフェンス重視だった仙道が、なぁ」

「今日の仙道くん見てたら、2番・1番も余裕でこなせそうだったなぁ。パスもドリブルも上手いし、何より統率力もあるしね。どうする、お兄ちゃん? 仙道くんが1番に鞍替えしちゃったら」

「まだまだ二年坊主に負ける気はせんな」

 1番とはポイントガード。つまりは紳一のポジションである。冗談めかして言ったつかさを紳一はそう切り捨て、つかさはくすくすと笑った。そして2番はシューティングガード。──諸星のポジションだ。浮かべて、つかさは頬に手をついた。

「でも……。お兄ちゃんはともかく、もし仙道くんと大ちゃんがマッチアップしたらどうなるんだろう。ね、どっちが勝つと思う?」

「さぁな。……諸星じゃないか?」

 首を振りつつもそう答えた紳一につかさは少し唇をとがらせた。

「そうかな。仙道くんならぜったい良い勝負すると思うけど」

「……お前……。それ諸星が聞いたら泣くぞ……」

 どっちの味方だ、と呆れたような声を紳一が出して、つかさはハッとした。確かにそうだ、ごめん大ちゃん。などと諸星の顔を過ぎらせつつ、ふと遠くを見ながら息を吐く。

「でも……私……」

 ──あんな選手になりたかったなぁ。

 そして諸星に勝って、日本一を目指すんだ──。と過ぎらせつつも、それは虚しい夢で、目線を泳がせた先にカレンダーが目に入ってつかさは話題を変えた。

「もうゴールデンウィークかぁ……。今週の海南のスケジュールは?」

「朝から晩まで練習だな」

「やっぱり……」

「お前は? 予定はあるのか?」

「んー……。勉強、かな」

 好きで勉強をしているというよりは、暇つぶしと手っ取り早く男子に勝つというあまりよろしくない動機で始めた趣味でもあるため、つかさは少々気まずげに呟いた。するとやはり紳一はヤレヤレと肩を竦める。

「オレは練習合間に時間見つけてサーフィンしに行くつもりだが、一緒に来るか?」

「んー……。私はいいや」

 改めて紳一のサーフィン焼けした小麦色の肌を見やってつかさは首を振った。──サーフィンは愛知にいるときからの紳一の趣味でもあり、バスケ・サーフィンとこなしているが故に彼は常人離れしたパワーとスタミナを維持している部分がある。

 つかさは色黒ではないため紳一と比較してまず驚かれるのが肌の色の違いであったが、別に牧一家は地黒なわけでもなんでもなくひとえに紳一の場合はサーフィンによる日焼けである。が、いちいちそんなことを説明するのも手間なため、普段は笑って誤魔化すことにしていた。

 似てない似てないと言われてはいても、けっこう髪の感じとか似てると思うんだけどな、などと紳一の髪を見やって思う。

 違いは彼の場合は海水荒れなのか微妙に髪が痛んでいる気がする──などと思うも、まあいいや、とその話題はあたまから消した。

 そもそも波乗り場から徒歩五分とかからないこの立地に家を建てたのは、サーフィンがしたいという紳一の要望が主に取り入れられてのことだろうな。とゴールデンウィークも中盤の朝。相模湾を一望しながらつかさは伸びをした。見事な五月晴れを予感させる気持ちのいい朝だ。江ノ島がくっきりと見える、と目を細めて海岸線を走り出す。

 もうじきインターハイ予選が始まる。観戦という形でしか参加できないが、楽しみだな。

 そういえば神奈川に越してきてもう一年か……と過ぎらせる脳裏が見知ったハリネズミ頭を遠くに認識した。

「あ……!」

 仙道だ。と思うも、この辺りで釣りをしている仙道を見かけることは別段珍しくもなんともない。普段ならそのまま通り過ぎるところだが──、あの練習試合以来、初めて仙道の姿を目にしたつかさは足を止めてそっと仙道の陣取る防波堤に近づいて行った。

「おはよう、仙道くん」

 声をかけると、ピクッと大きな背中が反応して仙道がこちらを振り向き、一瞬の間を置いてにこりと笑った。

「ああ、つかさちゃんか。おはよ」

「今日も釣り……?」

 何気なく言うと、責められるとでも思ったのだろうか。一瞬だけ仙道は気まずそうな表情を浮かべてからすぐに唇に笑みを乗せた。

「今日はサボりじゃないぜ。練習は9時からだし」

 予想外の返答に、つかさはあっけにとられた。今日は、というところがいかにも仙道らしく、呆れるやらおかしいやらで、ふ、と息を吐く。

「そっか。まだ7時過ぎだもんね……」

「そっちこそ、どうしたんだ? 声かけてくれるなんて、どういう風の吹き回し?」

 以前、用事がないから声はかけないと言い放ったことを指摘しているのだろう。しかし相も変わらず軽い口調と呑気な表情で、それがかえってつかさの表情をグッと渋くさせる。

「べ、別に……。今日は用事というか、ちょっと話があって……」

「へぇ、なに?」

 しどろもどろになって目線をそらしたつかさに仙道は手を止めて興味深そうに向き直った。ふぅ、とつかさも息を吐く。

「先週の湘北との練習試合、見させてもらったの。スコアは辛勝だったけど、仙道くんの決勝点は凄かったよ。おめでとう」

「え……、来てたんだ?」

「うん。仙道くんが遅刻して体育館に来る前から」

「……。まいったな……」

 仙道は僅かばかりばつの悪そうな顔色を浮かべ、苦笑いを漏らした。

「来てたんなら声かけてくれりゃ良かったのに」

「いや、だから……。そんな用事はなかったし」

「用事とかじゃなくて、声援送ってくれれば気付いたんだけどなぁ」

「もう十分声援もらってたと思うけど。あの日の陵南の女の子達の仙道くんコール凄かったし」

「あはは。それってヤキモチだったりする?」

「……。なわけないでしょ」

 相変わらず進歩のない会話に、声をかけたことが間違いだったかな、と後悔するもつかさは気を取り直す。取りあえずもっと建設的な話題を振ろう、と拳を握った。

「湘北には面白い一年生が何人かいるみたいね。流川くんと……、桜木くん、だったかな。逆転のレイアップを決めた選手」

「ああ、そうそう。あいつおもしれぇよな。きっとそのうちスゲー選手になるぜ」

 途端に仙道の目が輝きを増し、へぇ、とつかさは感嘆の息を漏らした。

「仙道くんがそんなに見込むなんて……。要注意かな。流川くんより?」

「流川は、まあ、これからだな。まだまだ負ける気はしねぇよ」

 ルーキー程度に。とでも言いたげな仙道に、仙道にはまだまだ負けん、などと言い放っていた紳一の姿を思い出して思わずつかさは吹き出した。へらへらとしているようで一応は負けん気というのも持ち合わせてはいるらしい。ん? と首を傾げた仙道に小さく首を振るう。

「ごめんなさい。なんか、仙道くんがそんな風に言うなんて意外で……」

「え……?」

「もったいないなぁ。だったら……」

 もっと練習すれば。諸星以上の選手にきっとなれるだろうに。という言葉を飲み込んで、なお小さく首を振るう。

「仙道くん、去年からちょっとプレイスタイルが変わったよね。アシスト場面が多かったけど、いつ身につけたの? ああいうパスプレイ」

 そして身振りで仙道のパスの真似をすると仙道は、ふ、と笑みを深くして黙した。

「あ……。企業秘密?」

 思わずジトッと仙道を睨むと、あはは、と仙道は声をあげて笑う。

「つかさちゃんさぁ……」

「え……?」

「やっぱりオレに興味あんの? オレのこと、少しは好きになってくれた?」

「は……!?」

 いつもの呑気な笑みで見上げるように顔をのぞき込まれて、つかさは頬を引きつらせた。一年前に始まったこの不毛な会話を続けるつもりはさらさらなく、少し不快な色を顔に浮かべる。

「どうしていつもそういうこと言うのか全然わからない」

「え……?」

「仙道くんのこと、バスケット選手としては凄いと思うけど、好きか嫌いかって言われたら、たぶん、嫌いに近いと思う」

「え……!? あれ、オレ、嫌われるようなことなんかしたっけ……?」

 キョトンと、あくまであっけらかんと仙道は疑問をぶつけてきてつかさはグッと言葉に詰まる。あまり仙道のことを知る知らない以前に、どうも彼は掴み所がない。いったいなにを考えているのか。そういうところも少しつかさを苛立たせる一因だ。

「したもなにも、初対面からあんなこと言われれば、良い印象持てないと思うけど、普通は」

「初対面……?」

「だから、去年のインターハイ予選のベスト8決定戦」

 さらに目を瞬かせる仙道に苛ついたまま言い下すと、記憶でも辿っているのか一瞬仙道は無言になり──そして僅かだが心外なような、傷ついたような。そんな表情を見せた。

「ああ、そうか……うん。インターハイ予選、ね……」

 一人ごちるように仙道が呟き、つかさが脳裏に疑問符を浮かべているとスッと仙道が強い視線をこちらに向けてきた。

「つかさちゃん、さ……」

「え……?」

 珍しくコート外で見せる真面目な表情にドキッと心音を高鳴らせていると、仙道は逡巡するそぶりを見せて、そして小さく首を振るった。

「いや、まー、いっか」

 そしてスッと立ち上がり、仙道は大きく伸びをした。さすがに立つと威圧感のある長身だ。が、仙道はそれをうち消すような笑みを湛えて一度つかさを見やってから自身の腕時計に目線を落とした。

「ちょっと早いけど、ぼちぼち行くかな」

 そうして仙道は釣り竿を片づけ、脇に置いていたバケツを見やってあごに手を当てている。そして何を思ったかそれをズイッとつかさに差し出した。

「さすがにこれは練習に持ってけねぇや。つかさちゃん、持ってってよ」

「え……!?」

「あ、バケツ返すのはいつでもいいから。じゃ、またな」

「え、ちょ……仙道くん!?」

 強引につかさにバケツを持たせ、再びにっこりと微笑むとそのまま仙道はつかさに手を振って陵南高校の方に駆けていってしまった。

 残されたつかさは10秒ほどのちにため息をつくしか術はない。

「魚……。どうしよ……」

 仙道の実家は東京だと聞いているが、おそらく部活のために陵南に来たということは陵南の近所に住んでいるのだろう。ならば練習前に自分の家に持ち帰ればいいのでは? などと思うもあとの祭りである。

 時計の針はようやく8時を指そうとしている。9時から練習開始だというのに8時入り──、別に普通の部員なら珍しくもなんともないが、明らかに仙道にしては珍しいだろう。

「本当によくわかんない……」

 彼の性格が、だ。マイペースと言うのだろうか、ああいうのを。などと思うも考えても分かることではなく──仕方がないためつかさはバケツを下げて自宅への道を引き返していった。

 

 一方──陵南高校体育館。

 9時からの練習のために8時過ぎには既におおよその部員が集まり、仙道が体育館に入る頃には一年生がもうモップがけも終えていたが──仙道が一時間近く前に姿を現したことに全員が虚をつかれたのか、ざわざわとどよめきが広がっていた。

 え、今日って8時からだっけ? いや、9時で間違いないぜ。仙道さん、時間間違えたんじゃ。

 などという声を遠くに耳に入れながら仙道がストレッチをしていると、ひときわ大きな声が響いてきた。

「仙道さん、おはようございます!」

「よう、彦一。はやいな」

「そらもう予選近いですし、気合いはいるってもんですわ! 仙道さんこそ、えらい気合いや!」

「ん……?」

「インターハイ予選に向けて気合い十分でっしゃろ!? いやー、正直ワイも湘北の流川君があんなに凄い選手やなんて思てませんでした。湘北には天才・桜木さんもいてはりますし、陵南の予選突破の一番の壁かもしれませんね!」

「いや、まあ……そうかもな」

「でっしゃろ!? 要チェックや! 要チェックや!!」

「ウルセーぞ彦一!!」

「ハッ、越野さん。チワーっす。えろうすんません」

 よくしゃべる後輩の声を聞き流していると突然に空を割るような声が彼を叱咤し、彦一はその主にぺこりと頭を下げた。仙道が見上げると、どちらかというと小柄な、端正な顔立ちをした少年が先ほどの声さながらに不機嫌そうな表情を浮かべている。

「おう、越野。はえーな」

 仙道が声をかけると腕組みをしていた少年──越野はますます目線を鋭くしてギロリと仙道を睨み付けてきた。

「はえーな、じゃねえだろ仙道! なんで万年遅刻野郎に上から目線でんなこと言われなきゃならねえんだ!」

 仲間思いで気のいい性格なのだが短気で怒りっぽいという短所もあり、慣れている仙道は、ははは、と笑って受け流した。が、それもまた越野の怒りを刺激する一因だったのだろう。ますます目線を鋭くした彼は口を開けてさらに怒鳴ろうとした。が、無駄だと悟ったのだろう。ふー、と一度ため息をつくと仙道の隣に腰を下ろしてストレッチを始めた。

「しかし、珍しいな、仙道。どういう風の吹き回しだ?」

「なにが?」

「彦一の言うとおり、予選に向けて気合い入ってんのか?」

「あー……。うん、まあ、そんなとこだな」

「おお、いい心がけじゃねえか! 今年は絶対、全国に行くからな!」

 朝っぱらから暑苦しいチームメイトの声にさらりと返事を返し、仙道はどこか人ごとのように「気合い入ってんなー」と心内で呟いた。しかし、予選を目前に控えたこの時期、「気合いを入れる」ことはごく当然のことであり、監督の田岡にしても練習開始よりもだいぶんはやく体育館に現れ開口一番に感嘆の声をあげていた。

「おお、仙道! 今日ははやいじゃないか!! いいぞ、いい心がけだ!」

 心底嬉しそうな田岡の声と表情を目の当たりにし、仙道はもはや笑う以外の術を思いつかない。

 一年前、田岡の熱心な誘いでこの陵南高校に入学することになったが──、陵南のバスケット部のカラーは一言で言えば「熱血」だ。下手を打てば夕日に向かって走るなどという漫画じみた芸当を素でやってのけるだろう素質を持っている。とはいえ一年も経てばこの中で過ごすことには慣れたし、居心地が悪いわけではない。チームメイトも気のいい人間ばかりで、その点では恵まれていると言っていい。

 しかし、あれから一年か──、と仙道は本練習まえに越野ともう一人のポイントガードである植草と共に軽くスリーメンをこなしながら過ぎらせた。シュートを決め、ふ、と息をついて汗を拭いながら浮かべる。

 神奈川に越してきて初めての日──、街を探るように歩いていた。そして、偶然見つけたバスケットコート。弧を描いて宙を舞ったボールと、そして……。

 

『初対面からあんなこと言われれば、良い印象持てないと思うけど』

 

 ふ、と先ほど会ったつかさの声が過ぎって──仙道は肩を竦めた。

「ま。仕方ねーか」

 一人ごちて思考を振り払う。ちょうどキャプテンの魚住が手を叩いて練習開始の声をあげた。

「よーし、集合!」

 その声に、仙道もみなと声をそろえて大きく返事をすると再びコートへと向かった。

 

「うおっ、なんだその魚!?」

 結局、バケツを下げて歩いて帰ったつかさはちょうど玄関先で部活に出かける紳一と入れ違いになり──、渋い顔をしながら答える。

「うん、仙道くんがくれたの……全部」

「は……? 仙道……?」

 当然ながら状況がまったく読み込めないであろう紳一が素っ頓狂な声をあげたが、説明すると長くなると察したつかさは苦笑いを漏らすことで答えに変えた。

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