Ace of Aces - スラムダンクの続き -   作:こうやあおい

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第49話

 順調にトーナメントは進み、海南や博多といった強豪は前評判通りの強さを見せつけて危なげなく勝ち上がっていっていた。

 

 陵南も同じく危なげなく勝ち進み──大会5日目。

 この日はベスト8が出揃って準々決勝が行われる日である。

 

 これに勝てば陵南はついにベスト4となるが──、そんな事はどうでもええんや。と会場に向かう道すがら、彦一は一人拳を握りしめていた。

「きたで……、ついにこの時がきた……! ついに来たんや……!」

「な、なんだよ彦一……、なにブツブツ言ってんだ?」

 不気味な笑みを漏らす彦一に越野は若干引いており、バッと彦一は越野の方を睨むように見やった。

「ついに宿敵・豊玉高校との対戦やないですか! 越野さん!」

「は……?」

 宿敵? と眉を寄せた越野に彦一はなおくってかかる。

「ええですか越野さん! ワイら陵南は豊玉だけには負けるわけにいきまへんのや! ほんまは一年前にギッタギタに叩き潰すはずやったっちゅーのに……!」

 そこで彦一は去年に大阪に帰省した際に、当時の豊玉高校の三年生だった岸本という選手に仙道を侮辱されたことを思い出しつつ話した。姉である弥生の書いた「天才・仙道」の記事に文句を付け、「天才がなんぼのモンや、県大会落ち程度で」などと絡まれた屈辱の思い出でもある。

「ちゅーわけで……、仙道さん、今日はいつも以上にたのんますよ!!」

「いや……でも、その岸本って選手、もう卒業していねえんだろ?」

「性格最悪なのは岸本だけやあらへんのや!! 打倒・豊玉! うおおおお!!」

 なんでも豊玉には彦一の仲違いをした幼なじみもいるらしく、燃える彦一を横目に他のメンバーも「そうだな」と互いを見やった。

「豊玉高校……去年は湘北とあたって初戦敗退したとはいえ、大阪代表の常連でもある。でも、強豪と呼ばれているとは言っても全国での最高成績はベスト8だ」

「つまり、今日までのチームってことだろ?」

「でも、なんだかんだベスト8まであがってきてんのはスゲーよな」

 言いつつ会場に着き、与えられた控え室に入ると田岡も改めて今日の相手について話した。

「お前たちも言っていた通り、豊玉はベスト8の常連だ。ただ、ここ数年で監督が2人も替わってどうも内部はゴタゴタしている。しかし、お前達も散々ビデオで見てきた通り、豊玉の伝統はラン&ガンスタイルのままだ」

「確認のためにもう一度言いますけど……。豊玉の主将は板倉大二郎、185センチ強の長身のポイントガードで大阪の得点王にも選ばれとります。この板倉までがラン&ガンを仕込まれた世代ですわ。それ以下はディフェンス強化の弊害かそうオフェンス力はあらへんのやけど……攻守共に板倉を中心に据えて攻めさせるようなバスケットをしてきます。あ、ちなみにフォワードに大川輝男ってワイの幼なじみがおるんですが、まあ、おそるるにたらずですわ」

 シャープペンを潰す勢いで握りしめる彦一を横に、仙道も腕を組んで呟く。

「スコアラーのポイントガード……、藤真さんがインターハイに出てた頃の翔陽みたいなチームだな。まあ、藤真さんとその板倉ってのじゃ高さがだいぶん違うが」

「そうだ仙道。その翔陽はこの豊玉に一昨年破れている。藤真の負傷により、エース不在という憂き目をみたせいとも言えるが。まあ、ともかく豊玉の伝統スタイルはそうは変わっていない」

「ようするに、その板倉ってのを抑えれば豊玉は打つ手なしってことですか」

 ふぅ、と田岡は腕を組んだ。

 仙道の言う通りなのだが、対豊玉をむろん想定して複数パターンの練習は重ねてきたが今なお少し迷っている。185センチもある板倉の相手に、170センチの植草では厳しい。加えて随分とトラッシュトークに長けている選手らしく、血の気の多い越野も不安が残る。いっそ仙道をポイントガードで使ってもいいのではないか、と。

 しかし──、と考えつつ田岡は選手達を見た。

「仙道をあえて板倉にあててエース潰し、というパターンも想定してきた。が、ウチも去年の湘北を見習って真っ向勝負で行くつもりだ!」

「おお、てことは……」

「ラン&ガン! 走り合いだ!! ──少なくとも序盤はな」

 ワッと選手達は拳を天に突き上げた。

 陵南はディフェンス力のあるチームだけに、普段はじっくり守っていくロースコアスタイルを取っている。が、その実、走り合いではどこにも負けない。40分フルコートであたれるだけの体力は付けているのだ。作戦上、あまりラン&ガンスタイルを取らないというだけで、バスケット自体の楽しさはファストブレイク重視のほうが楽しい。とはいえ──。

「去年、確かに湘北はラン&ガンで勝負を挑んだ。しかし、ラン&ガンをモノにするには"秘訣"がいる。湘北にはダメでもウチはやれる。……仙道!」

「──はい」

「本物のラン&ガンがどんなものかたっぷり見せてやれ。それとディフェンスはいつも通り。ディナイ重視で相手に速攻を出させるな!」

「おう!」

 力強く返事をした選手達は、更衣室を出てコートへと向かった。薄暗い廊下を出てアリーナへと抜けると、ワッと怒声のような野次が陵南陣を迎え入れる。

 

「豊玉ーーー!!」

「いてまえワレーー!!!」

「神奈川ぶっころせーー! うおおお!!」

 

 応援席のほとんどが気合いの入ったヤンキー集団で埋め尽くされており、陵南応援サイドはさすがにこじんまりと固まって陣取っていた。

 それは観戦に来ていた海南陣営も同じである。

「相変わらず小汚ねえ野次だな……」

「いつも思うけど……、豊玉の人って律儀よね。あんなにたくさん大阪から応援に来てくれるなんて」

「も、物は言い様だな……」

 今日ばかりは紳一とつかさ、海南陣営は同じ場所に固まって席を取っていた。うっかり豊玉サイドに紛れてしまえば面倒なことになりかねないからだ。

「去年の湘北は、豊玉のラフプレイとトラッシュトークにだいぶんやられていたようだったが……」

「短気っすからね、奴らは!」

 紳一の呟きにカカカカカと清田は笑い飛ばし、神は肩を竦める。

「うーん……、陵南もけっこう短気なメンツ多いんじゃない?」

「そう? 越野くんだけなんじゃ……」

「いや、フッキーもなかなか……」

 言い合いつつ二人はコートに出てきた陵南のメンバーを見下ろした。

「ま、主将が野次なんてどこ吹く風、ってタイプだから大丈夫かな」

 頬を手で支えつつ、神は仙道を見やって口の端をあげた。神としても去年、豊玉のメンバーに煽られて内心カチンと来たことがあったが──仙道ならおそらく「カチン」と来たことすら悟らせないような、そんな気がする。どのみち大丈夫だろうな、と見やった先でさっそく相手の主将が仙道になにやら話しかけていた。

 

「オウオウ、神奈川はまたポッと出の無名校かいな! 海南以外、毎年メンツが違うで!」

 

 口調も表情も絶妙の煽り加減に、「なにッ」とさっそく越野が反論しかけたものの──、ああ、と仙道はなに食わぬ顔で肯定した。

「そういや、そうだな」

 ぐッ、と煽った人物──板倉は言葉に詰まる。

「ま、よろしく」

 言って手を差し出してきた仙道の手を取らざるを得ず、主将同士が握手を交わせばティップオフだ。

 

「──試合開始ッ!」

 

 ジャンプボールは菅平が競り勝ったものの、こぼれたボールを板倉が上手く掴んで豊玉にボールを取られてしまい、陵南陣営は得意の速い戻りで速攻の目を潰すべくディフェンスに備えた。

 中を固め、ポイントガードの板倉にはそのまま植草がつく。板倉は大阪の得点王。中も外もあるオールランドオフェンスを誇り、15センチ以上もの身長差が植草を襲う。

 が──。

「オウオウ、ワイの相手はこんなチビかいな。見えんであたってチャージング取られたらかなわんわ!」

 ドリブルしながらそんなことを板倉に言われるも、植草は動じない。

 

「ええぞ板倉ーー!!!」

「そんなドチビ蹴散らしたれーー!!」

「おまえんとこ穴やで穴ーー!!」

 

 豊玉ヤンキー軍団も煽りに加勢し、ピクッ、と反応したのは越野だった。が。

「構うな越野ッ! 言わせておけッ!」

 ベンチから田岡が叫び、事なきを得る。しかし、軍団の矛先はその田岡へも向かった。

 

「なんやとコラじじいーーー!!」

「ええ度胸やないかッ!」

「貴様から先に大阪湾に沈めたろか、あああ!?」

 

 集中砲火を浴びせられた田岡の頬がぴくぴくと撓る。

「ぐッ……落ち着け茂一……」

 腕組みをしてイライラを抑えつつ、選手達を見やる。チームの軸である植草と仙道がこの手の煽りにまったく動じない性格なのは陵南の強みだ。

 加えて、植草は良く分かっている。ミスマッチの板倉相手に考えるべき第一のことは、まず抜かせないこと。上からのパスは通させても仕方がない。

 結果、板倉はペイントエリア側のセンターにパスを出して、豊玉センターがゴール下シュートを放った。が、菅平のブロックが功を奏し、ボールはリングに弾かれる。

 ──ここからだ、と田岡が目線を鋭くした瞬間、越野がチラリと仲間を見やってから自身のゴールに背を向けた。

 

「リバンッ!!」

 

 豊玉ゴール下には仙道・菅平・福田。

 仙道は相手フォワード──、彦一の幼なじみ・輝男にスクリーンアウトで競り勝って好位置を奪っており、真っ先に跳び上がってディフェンス・リバウンドをもぎ取った。

 

「戻れ、戻れええええええ!!」

 

 叫ぶ豊玉陣営をよそに仙道は奪ったボールを手に真っ先に駆けだし、既に速攻の先頭を駆けていた越野に鋭いキラーパスを投げつければ会場中が沸いた。

 その歓声を受けたまま、越野は見事にレイアップを決めて陵南は先制点を奪い取る。

 

「はッ……はええええ!!」

「すげえパスだったぞ、あの4番!」

 

 そうして唖然とする観衆と豊玉陣営の中で、仙道は大きく手を打ち鳴らした。

 

「さァ、もう一本! 止めよう!」

 

 このカウンターが会場の度肝を抜いたのは確かだった。

 この先制点で勢いに乗った陵南は、相手ポイントガード・板倉に稀に外からの得点を許すものの、ほぼ毎回ディフェンス・リバウンドを制して速攻に走るという豊玉のお家芸・ラン&ガンをきっちり奪って演じてみせていた。

 しかも──。

 

「うおおお、4番、そのままいったああ!!」

「すげええ、連続アシスト&ポイント! 誰だあれは!?」

 

 ディフェンス・リバウンドを高確率で獲っていた仙道が中心となって速攻のゲームメイクをしており、アシストのみならず時おり見せる強烈なオフェンス力での圧倒的な存在感に徐々に会場の声援は高まっていった。

 そんな陵南の動きを見ながら、高頭は感心したように頷いていた。

「今日の陵南は見事なラン&ガンできているな」

「豊玉のお家芸を潰す……。去年の湘北と同じですよね」

「うむ……。だが、厳密に言うと違う」

 相づちをうった神に高頭が反論し、周りの選手達は自然と高頭に視線を集めた。

「田岡先輩は完全に試合を"制し"にきている」

「というと……?」

「ラン&ガンを成功させるもっとも重要な条件はなんだと思う、牧?」

 高頭は話を紳一に振り、紳一もまた腕組みをした。

「まずはディフェンス・リバウンドを制すること。──ですが、前提条件がありますね。ポイントガード自らリバウンドを奪って速攻を出すことです」

「その通りだ」

 言われて、あ、と神も頷き、他の選手達もハッとした。

 高頭いわく、ラン&ガンの神髄はアシストパスを出せるポイントガードだという。足を止められてボールを戻すにしろ何にしろ、ポイントガードが全ての起点になる。

「むろん、ラン&ガンのみで勝ち進むにはディフェンスも高レベルであるなどの複合的な条件も必要になってくるが……。高身長の動けるガードがいることが、絶対的な条件だ」

「ポイント・フォワードの仙道の力の見せ所ってところですかね……。確かに、湘北だと宮城はリバウンドで不利だからな」

 高頭の声に神は納得したように仙道を見やり、紳一も腕を組んだまま頷いた。

「まァ、豊玉もガードは長身で似たタイプではあるがな。とはいえ……ディフェンス・オフェンス両面で陵南が有利であることに変わりはない」

 高頭はというと、ちらりとベンチの田岡を見やっていた。

「田岡先輩は……、ウチとの決勝の時のように、陵南の得意パターンは少なくとも明日までは温存する気だろう。今日は観衆も多い。明日の準決勝を前にわざわざ敵に戦略を晒す必要はないからな」

「陵南はどっちかというとディフェンス重視のチームっすからね……、けど」

 清田があごに手を当ててコートを見下ろし、うん、と神も頷いた。

「本来ディフェンス重視の陵南としてはラン&ガンはあまり得意なパターンではない。でも、陵南は仙道がいるだけで、チームカラーが一瞬にして変わる。仙道を軸にどんなバスケットも展開できるチームだ。そこが陵南最大の強み、ってとこかな……」

 目線の先で、板倉から輝男へのパスを仙道がカットし、ワッと歓声があがった。

 

「戻れえええ!!」

 

 豊玉陣営が叫び、仙道はそのまま植草にパスを繋いで自らは豊玉ゴールに向かい全力で走り込んでいく。

 

「いけ、仙道ーーー!!!」

 

 陵南ベンチが叫び、仙道は後押しされるようにディフェンスを振り切って風のように駆け抜ける。そして床を蹴って高く跳び上がれば植草からの絶妙なパスが届き──仙道はゴールを背にしてパスを受け取ると、そのまま豪快に背後からボールを叩き付けるようにして直接リングにぶち込んだ。

 

「──なッ!」

「バッ、バックダンク……アリウープ……!!!」

 

 瞬間、海南陣営さえもあんぐりと口を開け──、一瞬の静寂ののちにアリーナは割れんばかりの歓声に包まれた。

 

「うおおおお、すげえええ!! なんだ今のダンクーーー!!!」

「すげええ、陵南・仙道!! ここまであがってきたのもマグレじゃねえ!!」

 

 海南陣営はなお目を見張っている。

「あ、あれが決勝リーグの湘北戦で見せたっていう……アリウープ・バックダンク……」

 つかさは色なく呟いた。そうだ。決勝リーグ緒戦明けの新聞記事にそう出ていた事を鮮明に覚えている。ぜったい見たいと思っていたが、まさかこんなに凄いとは……と口元を覆った。

 やっぱり凄い、とつかさが昂揚する横で、つかさよりも震えていたのは清田信長その人だった。

「……スッゲぇ……」

 そうしてなにを思ったか、清田は拳を握りしめて立ち上がってしまった。

 

「うおおおお、仙道さあああん!! マジ最高っすーー!!! かっけえええ!!」

 

 その声に、海南陣営だけではなく陵南陣営もギョッとして観客席を見上げた。むろん仙道も「お」と海南ジャージを見つけて瞬きをした。

「ノブナガ君……」

 普段は黄色い歓声さえどこ吹く風の仙道だったものの、珍しい声援に手を振って応えれば、清田はさらにブンブンと手を振って激励してくれ、さすがの仙道も苦笑いを漏らした。

 

「……清田くん……」

 

 仙道のスーパープレイに興奮する清田を横に、海南陣営は恥ずかしいやら気まずいやらで失笑するしかない。

「国体の時から妙に仙道に懐いてるんだよな、信長は。すっかり仙道の応援隊番長だな」

 やれやれ、と肩を竦めた神に紳一は不満げに眉を曲げる。

「なにが応援隊番長だ。仙道は敵チームだぞ。分かってんのか?」

 すると、着席した清田はなお拳を握りしめて紳一を見上げた。

「もちろんっすよ牧さん! この清田信長、コートに立ったら仙道さんにだって絶対負けない気でやりますよ! なんせ次期神奈川ナンバー1を神さんから引き継ぐのはこのオレですから!」

 調子のいい回答に、紳一にしてもヤレヤレと肩を落とした。しかし、それだけ仙道のプレイが他者を引きつけているのは疑いようもない事実だろう。

 

「さすが仙道君や……イカすわ」

 

 プレス席でも、彦一の姉・弥生が試合の様子を取材しながら熱い眼差しを仙道に送り、隣に座っていた部下の記者は若干引いていた。

 しかし、と部下もキョロキョロと辺りを見渡す。

「ここへ来て、一気に取材班もざわざわしてきてますね。仙道君も去年は国体に出たとはいえ、全国ではまだ無名に近かったですからね」

「そんなん、遅いっちゅーねん。仙道君の独占取材はウチがもろたで! さ、後半も要チェックや!」

 弥生の見守る先で、前半の残り時間がゼロとなった。52-36。豊玉は15点以上の差を付けられ、苦しい状態で前半を折り返すこととなった。

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