Ace of Aces - スラムダンクの続き -   作:こうやあおい

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第51話

 ──大会6日目。

 巨大なレインボーホールのメインアリーナが観客で埋まる。

 

 男子バスケット準々決勝。ベスト4まで勝ち上がってきたのは神奈川代表の初出場・陵南高校、怪物森重有する愛知代表・名朋工業。そしてインターハイ上位常連の神奈川は海南大附属と福岡代表・博多商大附属だ。

 

「陵南のキャプテン、凄いよね! すっかりファンになっちゃった!!」

「さあ今日はどんなプレイを見せてくれるんだ、仙道たちは」

 

 第一試合を待つ観客からは陵南を、とりわけ仙道を注視しているような声が多く聞き取れ、会場入りしていたつかさもさすがに緊張していた。

 すっかり有名人になってしまった。ということもあるが、今日は準決勝。ここからが正念場だ。諸星も、紳一も、この壁はなかなか破ることができなかったのだから。

 それにしても、と息を吐きながらつかさはキョロキョロと辺りを見渡した。人の多さにうっかり紳一とはぐれてしまったのだ。

 人混みをかき分け、さらにキョロキョロと紳一の姿を探していると、ふいに背後から聞き覚えのある声がこちらを呼んだ。

「つかさか……?」

 ハッとして振り向くと──、数人の見知らぬ男女と共に、懐かしくもちょっと大人びた顔があって「あ」とつかさは声を弾ませた。

「三井さん……!」

「よう、久しぶりだな。お前もインハイ観戦か?」

 愛知に進学を決めた三井だ。元気そうな姿に、少し頬が緩む。

「はい。三井さん、お元気ですか?」

「おう。まあまあだな。しかし……海南も陵南もやるじゃねえか。揃ってベスト4とはな。それに比べて……このオレが抜けただけであのヤローどもは……」

 ブツブツと湘北への文句を言い始めた三井に苦笑いを浮かべていると、三井のそばにいた女性数人から何やらこちらを探るような目線を感じた。

「三井君、誰、この子?」

「三井君の友達……?」

 つかさは少々身構えてしまう。三井の彼女か? にしては数人いるし、けっこう体格が良いな──と思案していると、ああ、と三井は彼女たちに向き直った。

「コイツだよ、例のお前らが言ってた牧つかさって。……知ってんだろ?」

「え……!?」

 瞬間、三井の隣にいた女性達がこちらを凝視して詰め寄ってきたものだから、つかさは一歩あとずさった。

「ウソー、牧つかさ!?」

「あのミニバス界伝説のフォワード!?」

 三井の周りの男女、特に女性陣からの好奇の目がつかさの全身を凝視してくる。

「うわー、なんかイメージ変わってるー……」

「思ったより身長伸びてないねぇ……。だからバスケやめたんだ?」

「女バスやんないの? てか三井君、ほんとに今もバスケ強いのこの子?」

 視界の端で、三井がちょっとだけギョッとしたような顔をしたのが映った。三井の連れ……ということは同じ愛知学水の女子バスケ部の人たちだろうか? ということは、もしかして小学生の頃に対戦したことがある? と連想ゲームをしてみるものの、どうにもこうにも思い出せず、つかさは取りあえず頭を下げる。

「すみません……あの、どちら様でしたっけ……」

 瞬間、なぜか三井が爆笑して一気に女性達から非難を浴びつつもこちらを指さしてきた。

「うわはははは! つかさ! やっぱおまえ牧の妹だわ! わはははは!」

 何なんだ、一体。と爆笑する三井を横にもう一度女性達の顔を見るが、やはり思い出せず、ここは退散した方が懸命かと三井に向き直る。

「あの、じゃあ三井さん、私はこれで。バスケ、頑張ってくださいね」

「あ……、つかさ!」

「はい?」

「オレ、けっこうこっちの生活気に入ってるぜ!」

 笑顔で言われて、つかさは少し目を見張った。──進学を迷っている、と冬に言われたことを思い出して、ふ、と目を細める。

「そうですか……。良かった」

「おう! じゃあな」

 笑って背を向けた三井の背をしばし見送って──、つかさも歩き出す。取りあえず陵南サイドの方に、と歩いていくと見知った諸星の後頭部を見つけて「あ」とつかさは足を止めた。

「大ちゃん……」

 名朋ではなく陵南側にいるということは、陵南を応援するということだろう。仮にも相手は愛知代表だというのに──こういうところは諸星らしい。などと思っていると、諸星タイムは唐突にやってきた。

 試合開始10分前──両選手がアリーナに現れ、練習のためにコートに出た瞬間。ここ愛知県高校バスケット界において、もっとも有名であろう男の声が豪快にこだました。

 

「仙道ーーー!!! てめえ、名朋に負けたらぜってえええ許さねえからなーー!!!」

 

 ギョッとつかさは身体を撓らせ、どよっと会場が沸き、陵南・名朋両チームの選手達が声の主を見上げる。

 

「ゲッ……諸星さん……!」

「諸星さん……!」

 

 仙道は顔を強ばらせ、越野以下はパッと明るい顔をして観客席を見上げた。

 

「越野ーー! 植草ーー! しっかりやれよー! オレがついてるからなー!」

 

 すると諸星は手を振って陵南陣を激励し、越野達は慌てて頭をさげる。

 

「お、おっす!」

「が、頑張ります!!」

 

 そんな選手達のやりとりを見て観客はなおどよめき、ざわめきながら様々な言葉を飛び交わせた。

 

「お、おい、あれ愛知の星だよな……?」

「愛知の星……! 諸星大だ、愛和の諸星だ……!」

「愛知の星が、なんで愛知代表じゃなく神奈川を応援してんだ!?」

「バッカ! 愛和と名朋は犬猿の仲じゃねえか!」

「まさか……。打倒・名朋のためにわざわざ愛知の星が陵南を鍛えたってことは……」

「あり得る! なんせ強い!!! 陵南の強さの秘密はもしや愛知の星か!?」

 

 さすが、「愛知の星」。──好き放題言われている。しかもけっこう当たっているから恐ろしい、と客席の反応を見守りながらつかさは頬を引きつらせていた。

 しかし──、越野たちの表情を見るに、彼らは本当に諸星を慕っているらしい。やはりさすが愛知の星、と感心していると後ろから聞き慣れたため息が漏れてきた。

「なにをやってるんだ、あのバカは……」

「お兄ちゃん!」

 振り返ると紳一がヤレヤレと腰に手をあてており、つかさは苦笑いを漏らしつつもホッと息を吐いた。

 

 一方の陵南陣は、”準決勝に臨む”というプレッシャーを諸星の大声が良い意味で吹き飛ばしてくれ、「諸星が見ている」という状況が明らかに良い方向に選手達にエネルギーを与えてくれていた。

「諸星さんに見てもらおうぜ! オレたちが、冬からどう変わったか!」

「ああ……!」

 張り切るガード陣を横に、仙道も首に手をあてて口角をあげる。うむ、と田岡も頷いた。

「全国制覇……と、一番初めに言い始めたのは、諸星君だったな。インターハイ出場さえしたことのない我が陵南が全国制覇。途方もないことを言う男だと思ったが…………、彼の言い出したことは正しかった。ウチの目標は、インターハイ出場などではない」

「ああ、全国制覇だ……!」

 田岡の言葉を選手達が紡ぎ、仙道もニコッと微笑む。なお選手達は互いに頷きあった。

「バスケは、チームプレイだ……」

「ラッキーで全国に行けても、ラッキーでは勝ち上がれない」

「オレたちは、ベスト4まで来たんだ……!」

 浮かんでいたのは、確実に、諸星から諭された全てだった。一人一人、田岡でさえ、年末に突然現れ「仙道に頼り切るな」と口を酸っぱくして語って聞かせ、「全国制覇」などという途方もない目標さえ設定させて。冬休みという短い間できっちり陵南をまとめ上げてから風のように去っていった諸星の明るさと統率力を思い出して拳を握りしめた。

 よし、と仙道も手を差し出す。

「全員、100パーセントの力を出し切って、絶対に勝とう!」

「おう!」

 スタメン全員で手を重ね合い、シャツを脱ぎ捨てて青いユニフォーム姿となってコートに繰り出した。

 

「それでは、これより準々決勝第一試合、陵南高校対名朋工業の試合を開始します」

 

 その様子を、次に試合を控えている海南はコートサイドで見守っていた。

 

「陵南があの森重をどう抑えるか……。ここは見物だな」

「陵南はインサイドに強いわけではないですからね……。国体の時の神奈川のように控えもレギュラーと遜色なければ、あの時のようなツインタワーも使えますが……」

「腕の見せどころですな、田岡先輩」

 

 そんなことを話す高頭と神のコートサイドからの視線を、田岡はうっすら感じ取りつつも緊張気味にベンチからティップオフを待っていた。

 名朋工業の怪物・森重寛。2メートル強の身長・100キロ超の体重のという体格に加え、怪物と呼ばれるに相応しい能力を持っているのは知れたことだ。

 が──多くの強豪が彼一人にやられたとはいえ、決して打ち破れない相手ではない。現に神奈川代表はファウルトラブルで彼を退場に追いやっているし、実際に戦った諸星にしても、曰く「自分一人で何とかなる相手」と言ってのけていた。初対戦では真っ向勝負を挑んで力負けし腰を強打した諸星は、その後に直線的な攻撃よりも曲線的な攻撃に変えて名朋相手に猛追を見せたという。負けはしたが、次にやったら勝てる自信があった、と言い切った彼はその言葉通り、ウィンターカップ予選では名朋に勝利し愛知王者の座を奪還した。

 ──所詮はまだ素人。ということもあるが。インサイドに強力な選手がいるときの攻略法はいくつかある。

 それは──、と見やった先のジャンプボールは名朋が制し、まずは名朋ボール。様子見、とマンツーを敷いたのが不味かったのか、いきなりゴール下にボールを通され、ものの数秒で名朋センター・森重は豪快な両手ダンクを決めた。

 

「うおああああ!」

「か、怪物……!!」

 

 く、と田岡が喉を鳴らす先でさっそくパワーの差に少々おののいている菅平の肩を仙道が叩いた。

「ドンマイ!」

 すると菅平も頷いてコートにあがる。

「さあ、一本行こうか!」

 言って、エンドラインに下がった仙道は植草に、そして越野に目配せした。先にあがった菅平・福田のフロント陣も頷く。

 ここからが陵南の見せ場だ。──と、植草は受け取ったボールを運んでフロントコートにあがった。名朋のディフェンスはマンツーだ。

 植草は攻撃に転じるタイミングを見計らう。オーバータイムを示す表示板が15秒を切った。ここからだ。──と、それを合図に植草は右ウィングの越野にパスを通し、そのままディフェンスを振り切って右コーナーへと切れた。同時に逆サイドにいた仙道がトップにあがり、越野からのパスを受け取る。

 

「仙道!?」

「いや──ッ!」

 

 瞬間──、菅平がハイポストにあがり、森重が追ってくる。ゴール下が少し空いた。その間に越野がコーナーへ切れ込んできた植草のためにスクリーンをかけており、仙道はここぞとばかりにゴール下に向けてパスを出した。

 刹那──絶妙のタイミングで植草がパスの先へ姿を現し、彼はそのままゴール下シュートを決めた。

 

「──なッ!!」

 

 観客が度肝を抜かれる中、陵南の選手達はさも当然のようにハイタッチで互いを讃え合う。そうしてすぐさまディフェンスへと意識を切り替えた。

 

「な、なんだ、今の……!」

「なんかしらんが、すげえチームプレイ!」

 

 観客がざわつく中、今度は名朋の攻撃だ。名朋のポイントガードがボールを受け取ってボール運びをはじめる。が──。

 名朋ポイントガードが目を剥く前に、ワッ、と館内が揺れた。

 

「うおお、ダブルチーム!」

「ゾーンプレス──ッ! オールコートでか!?」

 

 陵南が2-2-1ゾーンプレスを果敢に仕掛けたのだ。

 名朋のパターンは決まっている。フィニッシャーはほぼ森重一人。だからこそ、インサイドゲームにさえ持ち込ませなければ、絶対に負けることはない。と、陵南勢はパスコースを塞いでボールを繋げさせない。名朋としては、パスも進路も阻まれては、サイドから運ぶしか術はない。

 陵南はゾーンの最後尾に仙道を置き、菅平と福田も積極的に名朋オフェンスのパスコースを塞ぐ。相手は予想外の事に慌てたのだろう。何とかフロントコートには繋げたものの、苦し紛れに流れた甘いパスボールを仙道がスティールして陵南は名朋の攻撃を潰した。

 

「さあ、もう一本行こうか!」

 

 名朋陣営は愕然としつつも守りに戻っていく。仙道は左サイドにいた越野にボールを通して自身は右ウィングに走り込んだ。それを見越したように既にフロントコートに入っていた植草がまたコーナー左側へ切れ込み、ディフェンスの攪乱を誘う。仙道は菅平に目配せすると、越野からリターンパスを受け取ってハイポストにあがってきた菅平に駆けながらボールを回した。と、同時に自身は右ウィングからインサイドへ切れ込み、すれば菅平を追おうとした森重が仙道の動きをチェックしてくる。

 ディフェンスがまごつき、名朋フロント陣がボールを持つ菅平を警戒して注意を向ける。

 陵南からすればしてやったりだ。パスを受け取った菅平は、すぐに植草がスクリーンをかけてフリーになった越野にボールを渡し──。

 邪魔のない状態で、越野はお手本のようなジャンプシュートをスパッと決めた。

 

「よっしゃあああ! 越野さんナイッシュー!!!」

「いいぞいいぞ越野! いいぞいいぞ越野!!!」

 

 そうしてまたディフェンスになればゾーンプレスを仕掛けた陵南に、コート脇で見ていた海南陣営は唖然として息を呑んだ。

「何なんだ、陵南……」

「またパスワークが上手くなってる……」

 そんな選手達を横に、田岡先輩、と高頭は呟いた。

「なるほど……、相手センターに極力近づかない・近づけさせない戦法をとっているな、陵南は。オフェンスはウチとの決勝で見せたパスワークをさらに煮詰めてきている。おそらく数え切れないパターンを練習して来たのだろう。想定通りにパスを回して、フリーになった人間がシュートを打つ。総攻撃体勢だ」

「スタメンがほぼ2年間固定という強みが、ここへ来て出てますね」

「そうだな。チームワークという意味では陵南は元から群を抜いていた。体力もある」

「プレスで攻撃を潰して、森重にボールを触らせない気っすね」

「うむ、名朋のパターンを相当に研究してきたということだ。おそらく……トーナメントが出た瞬間から、照準を合わせていたに違いない」

 高頭は選手達の声を耳に入れつつ、視線はコートへ向けたまま頷いた。

 昨日の豊玉戦での戦い方を見るに、陵南にとって敵となりそうなチームを見極め、個別に対応策を立てて練習してきたと見ていいだろう。しかも、この上達ぶりを見るに相当に質の高い練習をこの一ヶ月でしてきたらしい。

 おそらく、トーナメントの反対側は一切捨てたのだろう。仮に今日、陵南が勝ったとしても決勝の相手が博多であれば無策だろうな、と高頭は肩を竦めた。

 まさに、勝利への賭けだ。──たかだか初出場だというのに、本気でインターハイを獲りに来ている。

「それほど……、田岡先輩は今年の陵南に自信を持っているということか」

「スタメンで抜けたのは魚住さんだけ。でも魚住さんクラスのセンターはそうそう入るものじゃない。去年よりも弱体化は必至……と思いきや、おそらく今年の陵南は去年を上回っているとみて間違いありませんね」

「ああ……。仙道一人が抜けているのは間違いないが、名朋のような真のワンマンとはわけが違う」

「でも、名朋は名朋で、そのワンマンのレベルが違いますから……。この試合、見物ですね」

「ま、どっちが出てきても、勝つのは我が海南っすけどね! カーッカッカッカ!」

 高頭と神の会話を受けて清田がふんぞり返り、横にいた小菅はため息を吐いた。

「その前に、ウチも博多に勝たなきゃ決勝出れないだろ」

 突っ込みつつ、コートを見やる。

 オールコートゾーンプレスにオフェンスのパスワーク。おそらくポイントガードの植草にかかる負担は見た目以上だろう。植草はミスの少ない良いガードであるが、それでもこんな複雑なゲーム展開をしていればミスが嵩んでくる。それが試合だ、と小菅は目線を鋭くした。

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