Ace of Aces - スラムダンクの続き -   作:こうやあおい

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第53話

 スコアは32-31という接戦のままハーフタイムに突入して、コートでは次の試合を控える海南・博多の選手達が練習を始めた。

 

 一方、陵南の選手達は控え室で水分補給をしながらそれぞれ汗を拭って前半を振り返っていた。

 特に越野は前半の自身のミスを振り返り、後半はもっと落ち着いていこうと気持ちを改める。せっかく諸星が見てくれているのだ。仙道に頼り切りではない、自分もちゃんと陵南の勝利に貢献するという意志を持ってプレイしていることを彼に見て欲しい。

 名朋は戦力のほとんどを森重一人に依存していると言っていい。まるで最後には仙道に頼り切りだった頃の陵南さえ彷彿とさせる。そんな名朋を浮かべながら越野は拳を握りしめた。

 ──あんな風だったから、自分たちは去年はインターハイに行けなかったのだと思う。だからこそ、ここで陵南がワンマンチームに負けていては話にならない。勝ってこそ陵南は真に強いチームになったと自信を持って言えるというものだ。

 ふぅ、と田岡が息を吐く音が聞こえた。

「森重をファウルトラブルにはめる……。というのも有効だが、怪我のリスクが伴う。万に一つ、怪我でもすれば明日の決勝に響いてしまう。今日が決勝ならその限りではなかったが……」

 腕組みをして、田岡は真っ直ぐに選手達を見つめた。

「後半……、オールコートを続けられるか?」

 ピクッ、と選手達の顔が撓り、真っ先に頷いたのは越野だった。

「もちろんです! 最後まで、全力で走りきって、そして勝ちます! なあ?」

「おう!」

 植草達が力強く答え、ニコッと仙道も笑った。

「よし。後半、プレスは1-2-1-1で行く。仙道、お前は2列目にあがってインターセプトを狙え。ボールをフロントまで運ばせるな。──走り合いなら、ウチは負けん。絶対にだ」

「はい!」

 走り合いなら負けない。という自信は陵南の全員が持っていた。現に、ハーフタイムに入る前から既に名朋ファイブは息があがっていた。対するこちらはまだまだ走れる余力がある。

 オールコートプレスは仕掛ける方も辛いが、仕掛けられる方こそ対応に追われて消耗するものだ。ガードが特に強いわけでもない名朋は、全員でプレス突破に参加せざるを得ず、対応できなければ陵南としては一気に突き放せるチャンスでもある。

 

「おおお、両チーム出てきたぞー!」

「陵南ー!!」

「名朋ーーー!!!」

 

 後半開始──。

 ジャンプボールに勝った森重の弾いたボールが名朋バックコートに流れ、慌てて名朋ガード陣がボールを取りに走った。

 そこで、どよっ、と観客席がどよめいた。

 

「おおお、ゾーンプレス!」

「陵南、まだオールコートで走る気だ!」

 

 仕掛けられた側の名朋ポイントガードはギョッと目を見開いた。なぜなら、プレスのフォーメーションが前半と変わっていたからだ。

 ダブルチームで来ない。──これは罠だ。と分かっていても、視界の端に逆サイドに駆けてくるセカンドガードが映った。パスを貰うためだ。分かっている。そうしなければ、フロントコートにすら運べない。が──。

 

「インターセプトッ!」

「高さの利が出たッ!」

 

 190センチの仙道がゾーンの2列目に来たことで名朋は高さに対応するバランスが大幅に狂い、簡単にパスカットを許してしまう結果となった。

 仙道はというと、そのままボールを保持して一直線に切れ込み後半開始早々に見事なダンクをゴールに叩き込んだ。

 

「うおおお、仙道! やってくれたあ!」

「すっげーダンク! 仙道、全開だッ!!」

 

 そうして息つく間もなくオールコートプレスを展開する様を目の前で見せつけられ、海南陣営はゴクリと息を呑んでいた。

「まだオールコートやるつもりか……陵南の奴ら……」

「でも、仙道……ちょっと息が上がってるな」

「そりゃそっすよ。つーか、名朋がバテバテじゃないっすかそもそも」

 立ち上がりのプレッシャーからか、連続であっさりとボールを奪われて肩で息をする名朋ガード陣を見て清田は眉を寄せつつ、しかし、と息を吐く。

「ウチみたいにゾーンプレス対策をみっちりやってるチームにゃ、あんなコケ脅しは通用しないっすけどね!」

「うーん……、たぶん陵南もウチとあたったらあんなにしつこくプレス仕掛けてこないと思うけどな」

 お互いの手の内ある程度バレてるし、と神が続けてグッと清田は言葉に詰まる。

 うむ、と高頭も唸った。

「前半のプレスは布石、だろうな。名朋の体力を奪ったところで、後半の試合開始早々に一気に畳みかけるように仕掛ける。やられる側だと思ってみろ。仙道がインターセプトして切れ込んでくるんだぞ」

「…………そりゃ、イヤッすね……確かに」

 言われて想像してみた清田はうっすらと額に冷や汗をかいた。同じくガードの小菅も頬を引きつらせている。

 高頭はなお続けた。

「名朋のガード陣は明らかに前半で消耗している。このままプレスを突破出来なければ、フロントコートにボールを運べないまま終了だ」

「前半みたいに遮二無二シュートすらさせて貰えてないっすね。仮に仙道さんを免れても、後ろに福田さんや菅平もいますし……。名朋は190センチ台が他にいねえ」

「陵南、いいディフェンスだな。鍛え抜いてきているのが良く分かる。この連携は……本当に驚異だと思うよ。実際、予選決勝の最後の方はウチも本当に危なかったからね」

「確かに。マンツーしか脳がない湘北とはかなりの差があるっすね。カカカカカ!!」

 笑う清田に神は肩を竦め、ヤレヤレ、と高頭も肩を竦めた。

「しかし、清田の言うことも一理あるな。去年の湘北は型にハマった時は恐ろしく強かったが……、そう都合良くぴしゃりとハマることは滅多にない。結局、バスケットとはチームプレイだ。田岡先輩は、高校バスケに必要なことをきっちり教え込んでいる」

「出来不出来の差に波があるオフェンスと違って、ディフェンスは触れ幅が狭いですからね。やはり……ディフェンスのいいチームは強い」

「つまり、この清田のような選手は強い、ってことっすか?」

 意気込んで自身を指さした清田に神は言葉に詰まり、突っ込もうと口を開いた小菅は一瞬の逡巡のあとに口を閉じた。高頭ですら小さくため息を吐き、一人清田は悦に入って笑みを漏らす。

 その先で、陵南は後半開始早々に既に10点以上の数字を積み重ねていた。いまだ名朋はゴールすら出来ていない。

 

「こうなってくると……名朋は苦しいな。陵南は完全にハーフタイムで重苦しい空気を吹き飛ばした」

「名朋の足が止まってる分、トライアングル・オフェンスを出すまでもないみたいだしね……。でも、こんなに走りっぱなしで決勝に進んだとして大丈夫なのかな」

「アイツら体力だけはあるからな。それにプレスも破られておらず、オフェンスのフォーメーションも破られてない。怖いのは森重だけという余裕もある。ここは一気に畳みかけて勝負を決めるべきところだ」

 

 観客席の後ろで紳一とつかさがそんな話を繰り広げる中、諸星は一人手に汗握って試合の行方を見ていた。

 陵南の選手達一人一人が試合に100%集中している。苦しいはずのオールコートディフェンスでも、決して足を止めずに走って攻めている。

 初出場でベスト4、という舞い上がりそうな舞台だというのにあの落ち着き。

「アイツら……!」

 まるで、陵南というチームの強さを見せつけるようなプレイだ。──仙道のワンマンチームなんかじゃない。と訴えかけているような動きに、目頭の熱くなった諸星はグイッと目元を手で拭った。

 

「うおおおお!! いいぞいいぞ陵南!!! いいぞいいぞお前ら!!! 頑張るんだあああ!!」

 

 愛知の星の叫びに、追いつめられていく名朋に同情さえ覚えていたギャラリーがハッとしたように呼応した。

 コートに立っているのは、相手を一方的に追いつめて楽しんでいる選手達ではない。最後まで走りきるのだと必死で汗を流して戦っている、純粋なプレイヤーの姿だ。

 いつしか、そんな選手達に観客は熱い拍手を贈っていた。

 

「走れえええ! 陵南! ファイトーー!!」

「陵南! 陵南! 陵南! 陵南!」

 

 わき起こった陵南コールに、陵南ベンチがざわついた。

「か、監督……これは……」

 彦一が驚愕の声をあげるなかで、グッと田岡も拳を握りしめた。──勝てる、と思ってはいけない。これは全国の舞台。ましてや陵南はただの無名校である。が、それを一番理解しているのは、きっとコート上の5人だ。彼らの中には、既に15点以上リードしているという意識など一切ないに違いない。

 

「頑張れ名朋! 一本、まず一本突破するんだあ!」

 

 かけ声虚しく、名朋ガード陣は陵南のプレッシャーの前にもはや為す術がない。

 たまらずベンチから3、4番のフォワード陣も下がれと指示が出て、彼らはヘルプに向かう──。が、陵南はあっという間に福田も下がってきて陣形を2-2に変え、名朋が僅かな怯みを晒した隙にヒョイと植草がスティールしてボールを奪った。

 

「カウンターだ、福田、走れッ!」

「おう!」

 

 もはや体力のない名朋に速攻を追う力はなく──、植草-福田のアリウープが見事に決まってついに点差は20点となった。

 そこでようやく、田岡はオールコートを解く指示を出した。

 怒濤のような5分間が過ぎ──陵南はディフェンスをマンツーに変えて、オフェンスは時間たっぷり使って取っていくローペースに切り替えた。

 まさに変幻自在とも言うべき陵南カラーを見せつけるような波状攻撃であり、そして、既に気力さえ限界に来ていた名朋ガード陣は潰されかかっており。例えずば抜けた選手が一人いたとしても他を機能させなければゲームは成り立たないという、「戦わずして勝つ」田岡作戦がボディブローのようにゲーム全体に効き始めていた。

 スコアはスロー展開のまま72-53。後半残り1分を切ったところで既に陵南ベンチは沸き立っていた。

 陵南、最後の攻撃──。

 

「越野ーーー!! お前もシューティングガードの端くれなら、スリー決めて75にしろー!!」

 

 愛知の星からのそんな声が飛び──、会場全体がボールの渡った越野の動向に注目した。

 視線の集中砲火を浴びた越野は、マジかよおい、と頬を引きつらせる。──仙道にパスするか? いや、それをやったら諸星に殺されかねない。植草に託すか? あああ、逃げられない。

 

 空気を読んで福田でさえもパスをよこせとは言わず──、フラフラの相手ガードを振り切ってフリーになった越野は、しかしスリーではなくミドルレンジからシュートを放った。

 生死がかかっていると言っても過言ではないそのシュートは見事にリングを貫き、ホッと越野は胸を撫で下ろす。

 そうしてディフェンスに戻ったところで既に10秒を切っており、陵南ベンチはカウントダウンを始めていた。

 

「5,4,3,2,1──!!」

「決勝や! 決勝進出やーーー!!」

 

 ブザーの音を聞いた瞬間、越野と植草はその場にへたり込み、仙道は天井を見上げて、フー、と息を吐いた。

 

「しんどかった……」

 

 海南陣営は思わぬ大差での陵南勝利に舌を巻いていた。

「陵南、強し」

「ウチも負けてられないね」

 ゴクッ、と息を呑んだ清田に神がそんな風に言って、ハッと清田は我に返った。

「そ、そうっすよ! 決勝は神奈川対決っすね! そして今年こそウチが全国優勝! ねー、神さん!」

「もちろん、そのつもりだよ」

 ニ、と穏やかに笑った神を見て、清田は改めて思った。やっぱり神さんもむちゃくちゃカッコイイ、と。

 ──仙道さん、明日はぜってー負けませんから! と、ベンチで汗を拭っている仙道を横目で見やってからコートに入る。

 一方の高頭は、腕を組んだままジッと陵南ベンチを見つめていた。そうこうしているうちに田岡が選手達を引き連れてこちらにやってきて、目があった高頭と田岡はバチッと火花を散らし合った。

 

「先に決勝で待ってるぞ、高頭よ」

「望むところです、田岡先輩」

 

 ──なにせ博多のことは全く調べとらんからな。と、田岡はニヤリと笑いつつ内心冷や汗を流していた。

 万に一つ、明日の相手が博多商大附属となってしまったら。──まあそれはその時考えるか、と先送りしつつ控え室に戻ると真っ先に選手達を讃えた。

「よく走った! 良いプレイだったぞ! このチームで……ついに決勝までやってきた……! このチームは……オレの誇りだ……!」

「ちょ、ちょっと……、まだはやいですよ、先生」

 冷静に誉めるつもりがついつい涙腺が緩んでしまい、仙道からそんな突っ込みが入って選手達は笑い転げた。とたん、田岡はうろたえて怒鳴りつける。

「バ、バカモン! 笑うヤツがあるか!」

「ま、まあまあ監督、みなさん疲れてはりますから、休ませてあげてくださいよ」

「何様だお前は、彦一!」

 口を挟んできた彦一にげんこつを飛ばし、コホン、と咳払いをする。

「と、とにかく。みんな良くやった! ──明日はいよいよ最後だ。そして最後の挑戦だ。必ず、みんなで最高の結果を陵南に持ち帰ろう」

「──はい!」

 そうして着替えて気持ちを切り替えると、陵南勢は次の海南・博多商戦を観戦すべく観客席へあがった。が、満員御礼状態でなかなか席が見あたらない。

 

「あ……!」

「お、陵南」

 

 同じく立っていたつかさと紳一が足音に振り返ると、見知った陵南ジャージに身を包んだ集団がフラフラと歩いていて二人して陵南勢に向き直って視線を送った。するとさすがに陵南側も気づいて「あ」「海南」「牧さん」と口々に反応を見せている。

 まず真っ先に声を弾ませたのはつかさだ。

「仙道くん! 決勝進出、おめでとう」

 つかさは仙道の方に歩み寄って、さっそく決勝進出を讃えた。おう、と笑って応えた仙道をつかさは少しだけ案じるように見上げる。

「試合の3分の2くらいオールコートだったでしょ……。1-2-1-1プレスの時もカウンターばっかりしてたし……。大丈夫?」

 オールコートプレスは見た目の何倍も体力消耗が激しいうえになによりきついものだ。疲れてないか、と含ませると「んー」と仙道は首に手をやって視線を泳がせた。

「そういや、ちょっと疲れてるかもな……」

「そっか……。明日に響かないといいけど」

「つかさちゃん、癒してくれる?」

「え……」

 どうやって? と眉を少々寄せると、ニ、と笑った仙道は両手を伸ばしてスポッとつかさの身体を両手で抱きしめた。

 瞬間、陵南陣はおろか紳一の顔が般若のごとく固まった。

「ちょ、ちょっと……」

「んー……、これで疲れとれそうだ」

 おそらくは勝利後の昂揚もあったのだろう。ただじゃれているだけの仙道だったが──、直後、肩に重いプレッシャーを感じて顔を上げると、神奈川の帝王・牧紳一の引きつった顔が彼の眼前に広がっていた。

「仙道……貴様ひとの妹に触んじゃねえ……!」

「え……、あ、いや、その、お義兄さん……」

「誰がお義兄さんだ、誰が!!」

 彼らの周りを囲っていた陵南陣は明らかに全員顔が強ばっており、そっと仙道から離れたつかさは逃げ場を求めて無意識に観客席を見やった。すると騒ぎに振り返った諸星がこちらに気づき、席を立って駆け上がってきた。

「よう! さっきの試合はよくやったな、お前たち!」

 その声に全員が救われたのは言うまでもない。

「諸星さん……!」

「諸星さん!」

 諸星は満足げにニカッと笑って陵南勢を褒め称えた。

「越野、お前、ちゃんとシューティングガードらしくなってるじゃねえか! 特に二回戦の時はなかなかだったぜ! 今日もラストはちゃんと決めたしな」

「え、諸星さん、二回戦も見てくれてたんですか?」

「当然! 全部見てたぜ。冬から見違えるようなチームになってまあ……、福田もけっこうディフェンス上手くなったじゃねえか! 今度またオレと勝負しようぜ!」

「──ッ!」

 ピクッ、と福田の頬が撓り、そしてフルフルと歓喜に震え出す。

 諸星は笑顔で明るく全員を褒め称え、仙道にも視線を送って、ニ、と笑った。

「明日が本番だな。なあ仙道?」

「そうですね……」

「次こそ海南に負けんじゃねえぞ」

「まだ海南が相手って決まってないですよ」

 仙道も久々に聞く諸星の声に自然と笑みを浮かべていた。──あっさりととんでもないことを要求してくる。でも、これが当然のように自然で、いかにも諸星らしい。 

 そんな彼らの様子に、ヤレヤレ、と肩を落としたのは紳一だ。

「たく、オレの前でなにが”海南に負けんじゃねえ”だ……」

「お、牧じゃねえか。いたのか、お前」

「……ワザとだな……?」

 プルプルと紳一は拳を震わせた。が、紳一がどう足掻いても今ばかりはアウェイな状態に為す術もない。

 しかし──、ここは愛知県。諸星がいて、さらにこんな目立つ集団がいては、自然と人の目が集まってくる。

 

「諸星だ……」

「おい、牧だぞ、海南の牧紳一だ……!」

 

 先ほどああも大健闘をした陵南の前だというのに、それをさしおいて諸星。さすがにスター選手だな、と誰しもが思わざるを得ない。

 つかさもむろん、これでこそ愛知、などと思っていると──あ、とギャラリーの誰かが声をあげた。

 

「牧……! おいおい、牧つかさもいるぞ!」

「おお、牧か……!? ダブル牧!」

「愛知の3エースが揃ってるぞ! 何年ぶりだ!?」

 

 う、とつかさは言葉を詰めた。

 3人一緒にいて目立つ、などということはここ最近なかったことだが、そういえばこうして敵味方関係なく3人で試合会場にいるのは久しぶりだ。

 陵南勢がぽかんとする中、仙道はというと。少し居心地の悪そうなつかさを目の端に留め、そして心底嬉しそうな顔をする諸星をジッと見つめていた。その先で諸星は、ニッ、と笑い、つかさを紳一に押しあてるようにして自身はつかさの腕を掴んで観衆に白い歯を見せた。

 

「愛知三銃士、健在!!」

「やめろバカッ、なに考えてんだッ!」

 

 そうして紳一が狼狽え、観衆から笑いを誘っている。が、ちらちらと光るフラッシュを受けながらなお嬉しそうな諸星を見て──、仙道はなお「つかさは今も自分たちのエース」と言い放った諸星の気持ちがそこにあることを悟った。愛知の星と呼ばれてなお、自分が騒がれるよりも誰かがつかさを覚えていてることのほうが嬉しいのだ。

 ──まいったな、と一人呟く。

 やはり諸星の中に居るのは、共にコートを駆けた時のつかさなのだろう。速攻で真っ先に駆け、頼もしく味方をリードするエースフォワード。ガードの彼が見ていたのは、そんな彼女の背中なのだ。

「愛知三銃士……、い、一応要チェックや……」

 呟く彦一の横で、仙道はつかさに向けてニコッと笑みを送った。すると、気づいたつかさが嬉しそうに笑みで応えてくれる。そしてこちらに駆け寄ってきたつかさに仙道はなお笑みを深くした。

 ──オレは、君が女の子でよかったと思ってるよ。君が望んだように、君が男で、君とライバルとして出会うのも面白かったかもしれないけど、やっぱり、こうして隣で笑っていて欲しい。

 けれど──。

 

『だってよ、誰も知らねえんだぜ? 中学の時のアイツがどんだけ強かったと思う?』

『オレや牧より、下手すりゃお前より素質あったってのに……誰もつかさを知らねえ』

 

 グッと仙道は拳を握りしめていた。

 そうして、ワッ、と会場がうねる。準決勝第2試合のスターティングメンバーがユニフォームを着てコートに入ったのだ。

 

「それではこれより準決勝第2試合、博多商大付属高校対海南大附属高校の試合を行います」

 

 両キャプテンが握手を交わし──、ジャンパーがセンターサークルにあがってくる。

「……神……」

 仙道は握っていた拳をさらに強く握りしめた。無意識に、瞳が神を追う。

 

『つかさちゃんが見てたから、ね』

『"私が出たほうがマシ"って思わせたくないな、ってさ』

 

 明日は、県予選決勝の時のようなプレイは決してしない。

 この3年間、幾度となく負け続けた海南に勝つ最後のチャンスだ。だから──、ぜったいにあがってこい。最後の勝負だ。

 瞳の中に捉えた神へ向けて、仙道は強く強く胸の内で訴えかけた。

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