Fate / SAO CCC   作:YASUT

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食事の擬音ってどうすればいいんでしょうね。
……もっきゅもっきゅ?




情報収集

「……思いのほかやるではないか。

 岸波白野。やはり君は、一筋縄ではいかないようだ」

 

 額に汗を滲ませながら、言峰は言った。

 修羅の如きその気迫は、この男がただの聖職者ではないことを明確に示していた。

 

「……まだだ。まだ、この手は動く」

「そうか。だが、肝心の手は小刻みに震えているぞ。そら、まるで生まれたての子鹿のようではないか。

 ―――――諦めろ。お前に勝ち目はない」

「…………」

 

 ……そう。それが現実だ。

 確かに、この男に勝つのは難しい。

 こちらは全力を尽くしているのにも関わらず、あちらは汗を滲ませた程度。

 ……駄目だ。

 自分と言峰綺礼の間には何か、決定的な差がある。

 

 ―――――けれど。

 

「っ……!」

「ほう……まだ立ち向かうか。

 いいだろう、ならば命を賭けろ。あるいは、この身に届くやもしれん」

 

 そうして、言峰は構えた。

 一部の隙もない完璧な構え。

 確かに自分では勝てないかもしれない。

 適わないかもしれない。

 

 だが、まだ終わらない。

 何故なら―――

 何故なら、その程度のことで手を止められる程、岸波白野は賢くないだから―――!

 

「言峰、綺礼―――――!」

「フッ……来い、岸波白野―――――!」

 

 

 ◆

 

 

「―――――」

 

 いろいろあってなんとか《体術》のスキルを会得した私は今、凄まじくカオスな世界にいた。

 場所は言峰教会の礼拝堂。

 ……なのだが、以前見たときとはまるで別だった。

 礼拝堂に並んでいた長椅子は全て片付けられ、中央に巨大なテーブルがドンと置かれている。

 教壇はよく見ると調理台に変わっており、向こう側には銀のシンクが見える。

 というか、もはや礼拝堂じゃないわねここ。殆ど食堂じゃない。

 

 ……これらは間違いなくキャスターの陣地作成スキルによるものでしょう。

 それはいい。

 それだけならいいのだけど―――――

 

 

「―――――!!」

「―――――!!」

 

 

「――――――――――」

 

 ―――――なんか、意味不明な戦いが起きていた。

 岸波白野と言峰綺礼。

 両者は、鬼気迫る表情で手を動かし―――――麻婆豆腐を食っている。

 それも凄い勢いで。

 真っ赤に煮立った釜のような、殆ど兵器みたいな代物を。

 

「……で、アイツ等は何やってんのよ、キャスター」

「なんか、勝負らしいです」

「何の?」

「さぁ……それは私にも判りませんねぇ。意地の張り合い?」

「ふーん。

 ……一応訊くけど、アレは貴女が作ったの?」

「いえ。私の作った物は、神父さんにダメ出しされちゃいました。

 『辛味が全く効いていない、これではお前の主も満足しまい』とかなんとか。

 まったく、余計なお世話です!」

「じゃああの赤いヤツは全部、言峰綺礼特性?」

「はい」

 

 ……びっくりだわ。いろんな意味で。

 というかあれ、本当に麻婆豆腐なのかしら。

 すごい真っ赤っかじゃない。

 DDの食卓に混ざってても違和感ないかも……

 

 

「―――――ぐっ!!?」

 

 

 ガタン、と。

 苦しげな声と共に、大きな物音が聞こえた。

 

「な、何事っ!?」

「キターー!!……っと、こほん。

 ご主人様、ご無事ですか~!?

 今、タマモがお水をお持ちしまーす」

 

 何故か嬉々としながら、キャスターは主のもとへ駆け寄る。

 

「ご主人様……」

「キャスター……すまない。

 ヤツには……言峰綺礼には、勝てなかった……!」

 

 傷ついた戦士を癒すかの如く、キャスターは岸波くんを介抱する。

 柔らかく微笑むその表情は、どこまでも主に対する愛に満ちていた。

 

「……そうですか。

 ですが、ご主人様はよく頑張りました。お水、如何ですか?」

「いや、味覚は大丈夫だ。問題ない」

 

 大丈夫なの!?

 お口真っ赤だけど!

 

「マジですか……流石はご主人様。かつてあの赤き紅海を渡りきっただけのことはありますね……」

「でも腹が苦しい。心なしか体が重い……」

「ではでは、このキャス狐めが背中をさすっさすっしてさしあげます♪」

 

 そう言って、キャスターは岸波くんの背中をさすり始めた。

 ……下心が見え見えね。

 まあ、当の岸波くんはそれどころじゃないくらい苦しそうなんだけど。

 一体どれだけ食べたのやら。

 

「ふー、ふー……む、来たか凛。

 時間があったのでな。彼らにクエストを受けてもらっていた」

「クエスト?」

「簡単な食材収集のクエストだ。君と岸波白野、そしてキャスターは共に行動しているのだろう?

 彼らが片っ端からクエストをこなしてくれたおかげで、君はしばらく食事に困ることはあるまい。よかったな」

 

 この二人、私がでっかい岩と格闘してる間そんなことしてたのね。

 メニュー画面を開いて確認する。

 

 ――――あらホント、レベル上がってるわ。

 

 っていうか、そろそろまずい。

 一層のボス戦の時点でも、そこまでレベルは高くなかったし。

 ゲーマー連中は低レベルの寄生プレイヤーに敏感だろうから……このままだと、最前線から外されるかもしれないわね。

 

「はぁ、はぁ……どうした凛。立っていては話にならんだろう。……座ったらどうだ」

「―――――」

 

 食べながら、息を切らしながら言う神父。

 ……よく見たら隣には、空になった食器が幾つも重なっていた。

 そしてそれは当然、白野のところにも。

 しかし、ことマーボーに関してはこの神父の方が上らしい。

 残りあと二口。

 凄い……と、喉を鳴らしたとき、不意に神父の手が止まった。

 

「?」

「…………」

 

 視線があった。

 もしや限界なのだろうか。

 でもまあ、無理もないでしょうね――――なんて思ったが違ったらしく、綺礼は私を眺めて言った。

 

「食うか――?」

「食うか――!」

 

 全力で拒否した。

 それを聞くと綺礼は、がっかりしたように僅かに眉をひそめたあと、残り二口をさらっと平らげた。

 

 ……勝負あり。勝者、言峰綺礼。

 何の勝負か知らないけど。

 

 

 ◆

 

 

「しかし、おまえには失望したぞキャスター。

 良妻を名乗るにも関わらず、まさか私の麻婆豆腐の方が上とはな」

「はぁ!!?

 そんなことねーですぅ! 単に、貴方の味覚がおかしいだけですから!」

「お前は先程までの岸波白野を見ていなかったのか?

 まさかあれほどまで食してくれるとはな。料理人、冥利に尽きるというものだ」

「ぐぬぬ……!

 ……ご、ご主人様。先ほどの麻婆豆腐が食べたくなったら、いつでも言ってくださいまし。

 大丈夫です。見た感じ、香辛料を大量に使えばいいだけですから。

 私は基本和食ですけど、ご主人様のためでしたら中華でも何でも作れますから!」

 

 そうかそうか、それは頼もしい。

 

 ……まあ、料理の話はおいといて。

 遠坂もようやく帰ってきたわけだし、そろそろ本題に入ろう。

 

 

「……このアインクラッドには今、合計七騎のサーヴァントがいる。

 キャスターはここにいるから、残りは六騎。

 言峰。何か知ってることはないか?」

「あんた……私が言ったことほったらかして、三日間ずっとクエストやってたの?」

「…………」

 

 ……いや……その。

 …………まあ…………そうですけど。

 

「フッ……まあ、いいではないか。そのおかげで二人のレベルは急上昇した。この調子なら、次のフロアボス戦にも参加できるだろう。

 もっとも凛。君はこのままではまずいな。いかに優れたスキルを持ち合わせていようと、レベルが足りなければ排斥される。そういう世界だぞ、ここは」

「余計なお世話。後で岸波くんに付き合ってもらうから問題ないわよ。

 それより今はサーヴァント。なんか知ってるでしょ、アンタ」

「決めつけはよくないな。なぜそう思う?」

「はん、決まってるじゃない」

 

 そう言うと遠坂は、右手でメニュー画面を開いた。

 可視モードにしたらしく、画面は自分達にも見えるようになっている。

 

「“クエストボード”って知ってる?

 各層の主街区の中央にある、複数のクエストが貼られた黒板大のボード。

 ここにあるのはアイテム納品とか人探しとか、誰でもできる簡単なクエストばっかりで、報酬もそこまで多くはないわ。

 でもね……」

 

 言いながら、遠坂は画面を操作する。

 クエストの一覧を開き、下方向へ一気にスライド。

 一番下に登録されていたクエストをタッチし、その内容を表示させた。

 名称は――――

 

「“赤い”……弓兵?」

 

 弓兵。アーチャー。

 ふと、かの森の狩人……ロビンフッドが浮かんだ。

 だが、彼が纏っていたのは緑のマントだ。

 赤ではない。

 

「ほう、弓兵か。

 しかし、これだけでアーチャーだと決め付けるのは些か早計だな。弓兵クラスの適正を持った、赤色のサーヴァントかもしれん」

「それは後で考えるわ。問題は、このクエストが《はじまりの街》で貼り出されてたってことよ。

 クリアしたプレイヤーは今のところゼロ。

 それもそうでしょうね。肝心の内容は“?”って書かれてるだけなんだから。

 きっと、普通にゲームクリアを目指すだけなら無視してしかるべきクエストなんでしょう。

 ……普通に目指すだけなら、ね。

 綺礼。あんたみたいな怪しいヤツがこれを知らないはずない。

 もう一回訊くわ。サーヴァントについて、何か知ってることはない?」

 

 キッと遠坂は言峰を睨みつける。

 しかし当の本人は、それをさらりと受け流した。

 

「……いや、知らないな」

「! あんたねぇ……!」

「残念ながら事実だ。私はここで赤い弓兵は目にしていない。

 そも、ここは“ソードアートオンライン”というゲームの世界だ。基本、遠距離攻撃は存在しない。それはお前たちも知っているだろう」

「うっ……」

 

 ……確かに、言峰の言うとおりだ。

 キャスターや遠坂凛、岸波白野が異常なのであって、本来ならば強力な遠距離攻撃は存在しない。

 弓というカテゴリの武器も、見たことがない。

 

「だが、そうだな。“キャスター”と思わしき英霊の情報ならあるぞ」

「は……!?」

「みこーん!キャスターですと!?」

 

 ……ちょっと、待て。

 キャスターだって……?

 

「どうしたんだ、言峰。キャスターならここにいるぞ」

「それは判っている。断じて誤字ではない。

 言葉で説明するより、実際に見せたほうが早いだろう。これを見ろ」

 

 そう言って言峰は、懐から剣の柄を取り出した。

 持ち手は赤。刀身はない。

 とりあえずは剣と言ったが、本当にそうなのか疑わしいところだ。

 

 しかし、遠坂には思うところがあったらしい。

 次の瞬間彼女は、驚いたように口を開いた。

 

「それって、もしかして《黒鍵》……!?

 悪魔祓いの護符の一種で、魔力を使った投擲武器。なんでそんなものが……」

「さてな。元々この世界にあったものなのか、それともイレギュラーの武器なのか、それは私にも分からん。

 ただ一つ分かることは、まだ第二層であるにも関わらず、これほど桁違いの武器を作れる者がいる、ということだ」

「桁違い……?」

「通常、高性能の武器を扱うにはそれだけ筋力値を必要とする。持ってみろ、岸波白野。それで理解できるはずだ」

 

 言峰から黒鍵と呼ばれた武器を手渡される。

 その瞬間――――

 

「なっ―――――あ!?」

 

 ズシリ、と恐ろしい重量が襲ってきた。

 

 これは……いくらなんでも、重すぎるっ!

 とてもじゃないが、片手じゃ持てない……!

 

「ちなみにそれは投擲武器だ。刀身部分を魔力で編み、片手でそれを投擲するのが本来の使い方なのだが……どうかね。君にそれは使えそうか?」

 

 冗談じゃない、柄だけでこれなのだ。

 刀身を作り出してしまったが最後、投げるどころか持つことすらできなくなる。

 そして。

 本当に恐ろしいのはこの剣ではなく、これを軽々と持っていた言峰自身だ。

 もし言峰にプレイヤー同様レベルがあるのなら、恐ろしい強さを誇っていることだろう。

 

「……成程ね。これだけ高レベルの武器は、現状じゃどう足掻いても手に入らない。

 プレイヤーメイドでも、モンスターからのドロップでも。つまりこれを作れるのは、プレイヤーでもモンスターでもない存在。《道具作成》のスキルを持つサーヴァント、ということね。

 固有スキルを持ったプレイヤーって線もあるけど、前者の方がまだ確率は高いかしら」

「ですが、私は剣なんて作れませんよ?」

「ええ、それはわかってる。となると、キャスターが二体いるってことかしら。

 七騎のサーヴァントがいるのは判ってるけど、厳密にクラスまでは分からないんだし」

 

 二体目のキャスター……?

 道具を……剣を作れるキャスター……?

 ……駄目だ、記憶にない。

 聖杯戦争では、そんなサーヴァントに出会うことはなかったからだ。

 

「……でも綺礼。こんなものを持ってるってことは、あんたはそのサーヴァントに会ってるってことよね?」

「……!」

 

 そういえばそうか。

 なら言峰は、そのサーヴァントの情報を持っている……?

 

「……ああ、会ったとも」

「やっぱり。じゃあ、そいつの特徴を教えてもらえるかしら。」

「接触するつもりか? まったく、ご苦労なことだ。」

「まさか。いきなり戦闘をする気はないわよ。そもそも、会えるかすら分からないし。

 で、どうなのよ」

「ふむ……」

 

 しばし悩む仕草を見せたあと。

 言峰は、黒鍵を作成した者について話し始めた。

 

「―――――白い髪と、ラフな黒の上下。そして、格安の鍛冶屋を営んでいたな。

 三日前の時点でレベルは11。これは推測だが、マスターがいないサーヴァントのレベルは、その階層に10を加えた数値になるのだろう」

 

 三日前の時点で、レベルは11。

 遠坂が《体術》スキル習得を決心したのも三日前。

 となると、一層が攻略されて間もない頃か。

 

「見たところ、マスターはいないようだった。

 どうやら、魔力供給がなくてもサーヴァントは存在できるらしい。」

「成程ね。サーヴァントにとってマスターはただの強化要因。レベルを引き上げるためだけの存在に過ぎないってわけね」

「私は違いますよ!

 ご主人様はマスターですが、同時に私の夫でもあってですね……」

「はいはい」

 

 ……そうか。

 サーヴァントのレベルはマスターであるプレイヤーと同じ数値になる。

 たとえレベルが10でも、15のプレイヤーと契約すれば15となり。

 そして、契約を切れば元の10へと戻る。

 

 この《黒鍵》を作ったサーヴァントは、この世界でたったひとりで戦い、生き抜いてきたのだ。

 ……その精神的な強さは、尊敬に値する。

 

「というか、それだけのレベルで鍛冶屋やってるんなら、少しは噂になっているはずじゃない?

 私、今まで聞いたことなかったんだけど」

「だろうな。神出鬼没、かつ鍛冶屋としての能力も桁違い。遭遇したプレイヤーは皆、情報の独占を図ったのだろう。

 だが、それも時間の問題か。人間は誰しも自己顕示欲を持つものだ。いずれ最前線にも、上級装備を持ったプレイヤーが次々と現れるだろう」

 

 ということは、こちらがわざわざ探すまでもなく、そのサーヴァントの存在は明らかになってくるのか。

 そしてそれは、キャスターにも当てはまる。

 どんなに言い繕おうと、彼女の存在が特別であることは事実だ。

 それだけではない。“キャスター”の能力は目立つ。

 戦闘を目撃されればされるほど、サーヴァントの知名度は際限なく上がっていく。

 ……階層が進めば進むほど、サーヴァント自体の発見は容易になるのだ。

 

「私が知る情報は以上だ。参考になったかな?」

「ええ、十分よ。それじゃ、また来るわ。いくわよ岸波くん」

「あ、ああ」

 

 もう用はない、とでも言うように遠坂は踵を返し、教会を出て行く。

 自分とキャスターも彼女のあとを追おうとする。

 ―――――その、直前。

 

「精々力をつけておくことだ。なにせ、本番は“次”なのだからな。」

 

 言峰は、静かにそう告げた。

 

 

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