――と思ったのが約一週間前。
い、いや大丈夫。基本、小説を投稿するときは1~2話ほどストック作ってあるから(震え
キャスターは一足先に迷宮区を疾走する。
通常のプレイヤーなら走って三歩はかかる距離を、彼女は一足で詰める。
同時に、自分にSAOスキル《索敵》をかける。
視覚と聴覚が研ぎ澄まされ、視界の右上に自分を中心とした円形のレーダーが現れた。
レーダーに映っているのは自分と、並走する遠坂。少し離れた場所にキャスター。
そして――その先にはもう一人。
赤い外套を纏い、弓を使ったプレイヤー。
「……このプレイヤー、かなり速い。キャスターでも、まだ追いつけないのか」
無論、差は徐々に縮まっている。
サーヴァントごとに個人差はあるだろうが、基本的に彼女達の足は通常のプレイヤーよりも速い。
そして、キャスターの敏捷値はB。速度だけならば、他の英霊にも引けを取らない。
――だというのに、まだ捕まらない。
「サーヴァントのステータスに換算すると、大体Cくらいかしら。強化と弓、しかも戦闘慣れしてる。一筋縄じゃいかな――っ、止まって!」
「っ――!」
――一本の矢。
視認しづらい黒色の矢が、空気を割いて迫る。
「っ――この……!」
遠坂は宝石を取り出し、砕く。
瞬間、込められていたであろう大量の魔力が湧き出た。
魔力はやがて紅色の盾となり、飛来する矢を防ぐ。
――それは宝具でもなんでもない、ただの矢だったらしい。
恐ろしい速度で飛来したソレは、あっけなく盾に弾かれた。
「嘘、ただの矢!?
あっちゃあ……とんだ無駄遣いしちゃったわ」
「――いや、そう悲観することはない。戦場では一瞬の判断の遅れが命取りとなる。そんな中、咄嗟に奥の手を使う思い切りの良さは、君の美徳だ」
「っ……遠坂、この声――」
「ええ……ようやくお出ましってわけね」
迷宮区の奥から一人の男が現れる。
赤い外套を纏った、白髪の男。
左手には黒い洋弓。
……ということは、先程の矢はこの男の……
「もっとも、こんな初歩的な誘いに引っかかるのは、
「うっさい、私のことどうでもいいでしょ。それより――あんた今、」
「
「っ……!」
……どういうことだろう。
自ら“
普通、こういうことは隠すべきではないのか……?
「そう不思議そうな顔をされると、こちらが困るのだが。元はといえば、最初に明かしたのはそちらの方だろう。
第一層のフロアボス。君達二人は、随分と派手にやらかしたそうじゃないか。一般人の前で強力な魔術を使い、あまつさえサーヴァントの召喚。ビーター、とかいうプレイヤーがある程度誤魔化したようだが、分かる者には分かるぞ」
「っ――」
……そういえば、そうだった。
大前提として、
おそらく今頃は開発者によってフォローがされているだろうが、少なくとも現段階では存在しない。
ならば、プレイヤー間で話題になってしまうのは避けられないだろう。
「個人的には有難い知らせだったがね。私もいきなりこの世界に召喚されて、少々戸惑っていた。
「……? それって、どういう――」
「今一度、“赤い弓兵”のクエストの内容を確認してみろ。内容が表示されているはずだ」
「……」
遠坂が警戒するなか、右手でメニューを開き、クエストの内容を確認する。
“?”とだけ書かれていた、何もない空白の箱。
だが、今は違っていた。
そこにはただ一言、簡潔に書かれていた。
――――“戦え”、と。
「……そうか。じゃあ、貴方は――」
「ああ。サーヴァント・アーチャーだ。この浮遊城に召喚された、七騎のうちの一騎。
……さて。ここまで言えば、聖杯戦争を経験した者なら分かるだろう。幸い今の私は“クエスト”に縛られていて、そちらが手を出さぬ限りダメージを与えられない。戦うか逃げるかは、君達の自由だ」
「そう。なら、こっちも遠慮なくやれるってわけね」
遠坂は英霊相手に一歩も引かず、不敵に笑う。
その笑みを見て、彼女の狙いがなんとなく分かった。
……此奴、やはり悪魔。
「数ではこっちが有利だけど……卑怯、なんて言わないわよね?」
「言わないさ。一体多には慣れている」
「……へえ。言うじゃない、貴方」
そう言って遠坂は、懐から新たに宝石を取り出した。
ちらり、と視線が送られる。
頷きで答えて、腰に収めていた剣を引き抜いた。
――それが合図。
「ついに武装したな、
途端、空気の密度が高くなる。
こちらが武装した瞬間、アーチャーから背筋が凍りかねない程の殺気が溢れ出た。
寒い――けれど、暑い。
全身の嫌な汗が、じわりと衣服を湿らせる。
……この圧倒的な威圧感。
この世界で、これまで相対してきた者達とは何もかも違う。
これこそがサーヴァント。この世の理から外れた英霊。
「……――は、」
呼吸を整える。
……
真名こそまだ分かっていないが、その名を冠する以上、弓の逸話を持つ英霊であることは間違いない。
武器を一撃で破壊する攻撃力。
動くモンスターの脳天を射抜いた正確さ。
彼の得意とする距離で勝ち目はない。
距離を離されたら終わりと考えるべきだ。
――だったらやることは一つ。
「いくぞ……!」
渾身の力で地面を蹴った。
距離を離されたら終わりなら、詰めればいいだけのこと――……!
「ほう。
剣を右肩に構えた瞬間、ソードスキルが起動する。
彼は弓兵。接近戦は不得手なはず。
加えてこれはソードスキル。
いかに人間以上の力といえど、この一撃が通じないはずがない。
――捉えた。
そう確信して、アーチャーを左肩から切り裂く。
「だが所詮は
「っ……!?」
何かがぶつかった、確かな衝撃。
だが無傷。
両手で振り下ろしたはずのソードスキルは、徒手空拳だったはずのアーチャーに片手で止められていた。
その先には一本の黒い剣。
赤い亀裂模様と、陰陽の中華模様。
「っ……アーチャーなのに、剣も使えるのか――!」
「弓兵といえど、必要とあらば剣をとることもあるさ。
ソードスキルならばサーヴァントとも張り合える。そう考えての行動だったのだろうが――残念だったな」
「っ――がっ――……!」
腕が吹き飛んだ。
そう錯覚するほどの力で、剣が弾かれた。
この圧倒的な力。あまりにも重すぎる……!
「君は判断を誤った。大前提として、人間はサーヴァントには勝てん」
奴は見せつけるように、空いている手からもう一本を生み出す。
先のソレとは対となる、白い剣。
「さらばだ。呪うのなら、真っ向勝負を挑んだ愚かな自分を呪え」
振り下ろされる凶刃。
剣は弾かれ、回避はできない。
――大前提として、人間はサーヴァントには勝てん。
……知っている。
自分が弱いことくらい、知っている。嫌というほどに。
ソードスキルを使っても対処されると、なんとなく分かってはいた。
だからこそ。
この先には、次が用意されている。
「ぬっ――……!」
強烈な火花が散る。
剣を遮ったのは一枚の鏡。
遠坂ではない。もちろん自分でもない。
「――いいえ。呪われるのはご主人様ではなく、貴方です」
アーチャーの背後では、キャスターが呪符を構えていた。
直撃すればどうなるかは、考えるまでもない。
「サーヴァント……! ここで来るか――!」
アーチャーは双剣を――まるで、投擲するかのように構え直した。
だが、今のキャスターに呪術は撃てない。
彼女の呪術は強力だが、攻撃範囲もまた広い。
今使えば、接近している自分にも危害が及ぶからだ。
――アーチャーはそれを知らない。
隠れていたサーヴァントが自分から現れれば、そちらに注意がいくのは当然。
つまりは、この一瞬が好機。
全力で後ろに跳び、巻き添えを喰らわないよう可能な限り離れる。
一定の距離をとった、その瞬間。
「――捕らえた!」
「何っ――……!?」
アーチャーの体が沈んだ。
彼女の手元にはまだ、多大な呪力が込められた札がある。
それは、言うなれば重力の枷。魔の圧力。
遠坂凛による宝石魔術。
アーチャーは体調を崩したかのように膝を折り、両手の双剣を落とした。
「……はあ。思ったよりも上手くいったわね。ちなみにこういうの、東洋では“フィッシュ”っていうんだって」
「宝石で鯖を釣る、とはまさにこのことです。あれ、ちょっと違いましたっけ」
「全然違うわよキャスター。それ、すっごい損してる」
ちなみに、正しくは海老で鯛を釣る、である。
「っ……これは、ただの魔術ではないな。ハッキングでもしたか、
「まあね。貴方の体を縛っているのはわたしの魔力ともう一つ、このゲームの状態異常。やっぱりサーヴァントといえど、世界のルールには従順らしいわね」
「確かにその通りだが……いいのか? 状態異常ならば、それに見合った薬を飲んでしまえば、私は回復するぞ」
「でしょうね。だから、その前にやることは済ませるわ。
……貴方さっき、マスターはいないって言ったわね」
にっこりと笑う遠坂。
何故か自分には、それがいいものには見えなかった。
「……それが狙いか。魔女だな、君は」
「あら、失礼ね。でも許すわ。あとでちゃんと躾てあげるから」
彼女の目的は、アーチャーを倒すことではなかった。
岸波白野とキャスターが囮となり、遠坂自身がアーチャーの動きを止め、強引に契約を結ぶ。
……どこからどう見ても悪役の所業だ。良心が痛む。
「しかしそんな荒技、一介の
「さあね。でも、試す価値はあるわ。もし失敗して、かつ貴方がわたしを殺そうとしたら、そのときは――
――――惜しいけど、諦めるわ」
“従わなかったら殺す”
言葉にこそしてないが、彼女の態度は確かにそう伝えていた。
「それに、岸波くんのおかげで気になることもできたし。剣も使える弓兵なんて始めて見たわ。それも中華剣なんて、どんな曲芸よ」
「……お褒めに預かり、光栄だ」
身動きが取れないアーチャーに、遠坂が一歩近づく。
一歩。
また一歩。
そうしてアーチャーの前まで歩み寄ったあと、遠坂は片腕を上げて――
「……フッ」
――待て。
今、アーチャーが微かに笑ったような……
「っ……! 上です、ご主人様ッ!」
「っ――!!」
キャスターの声が、
言葉に従って、瞬時に上空を見上げた。
そこには――
――剣が浮いていた。
大小様々な剣が十五。
剣先は全てこちらに、地面に向いていて。
浮いている剣一つ一つが、いつでも自分達を串刺しに出来ると、言ってるような気がした。
「な――そんなっ、アンタ――!」
「曲芸、と君は称したな。では最後に、とっておきの大道芸をお見せしよう」
遠坂も気づいたようだ。
その後の判断は速かった。
遠坂は一瞬で足に強化を施し、全力で距離をとる。
「――
それ以上の豪速。
号令とともに剣が降り注ぐ。
それで拘束が解けたのか。
硝子が砕けるような音と共にアーチャーは立ち上がり、何かの丸薬を口に放り込んだ。
「くっ……この――」
手元が狂ったのか、それともわざと外したのか。
剣は一本たりとも遠坂に、掠ってすらいなかった。
だが動けない。
剣は牢獄のように彼女を取り囲み、あらゆる動作を封じていた。
「ご主人様っ……!」
「大丈夫だ。それより――」
戻ってきたキャスターと共に、敵を見る。
そこには拘束と状態異常から回復した、万全の状態のアーチャーがいた。
……弱点が見当たらない。
剣を交えたのは一度だけ、かつ一瞬だけだったが、それでも分かってしまった。
アーチャーの剣は、断じて素人のモノではない。それだけの重さがあった。
そして、アーチャーのクラスに選ばれるだけの弓術。
一瞬で現れた剣の群れ。
……得体が知れないにも程がある。
こんなサーヴァントと、一体どうやって戦えば……
「気は済んだか? では、これにて閉幕だ。私は帰らせてもらう」
「――。
――――。
――――――は?」
ええと……アーチャーは今、何と言った?
「聞こえなかったか。私は帰る、と言ったのだ。これ以上戦っても無駄だろうからな」
「なっ――どうして……?」
「君達の狙いは私を消すことではなく、従えることだっただろう? いや、正確には後ろの彼女の、か。だが、既に身動きは封じた。優秀な
……それとも。今度は君が、私を従えてみるか?」
「それは……」
サーヴァントの意思に反して、一方的に契約を結ぶ。
そんな荒技は遠坂ですら、相手の動きを封じてからでないと不可能なのだ。
自分にできるはずもない。
――となると、あとは戦うしかないわけだが……
「勝率は五分。君の采配次第では、私を倒すことも十分可能だろう。どうしても戦う、というのであれば止めはしない。
ただその場合、誤って後ろの
「っ……」
駄目だ。
今の彼はその気になれば、さっきのように剣を生み出して簡単に遠坂を串刺しに出来る。
キャスターとの一騎打ちだったとしても、あれはかなりの驚異だ。
……どうしようもなく積んでいる。
だが幸い、今の彼から殺意は感じられない。こちらが手を出さなければ、遠坂が殺されることはない。
アーチャーは三人が見ている中で、堂々と懐から結晶を取り出した。
――《転移結晶》
任意の街に一瞬でワープできる、SAOの世界のアイテム。
リターンクリスタルに少し似ている。
「お待ちください、アーチャーさん。少々お聞きしたいことがあります」
「キャスター……?」
結晶を掲げる手を止め、アーチャーはキャスターの言葉に耳を貸す。
止めたということは、キャスターの質問に答える気があるということだ。
「……ありがとうございます。では、まず一つ目。
いきなり私達の前に現れ、注意を引き、誘い込み、そして戦った。そんな貴方の目的は何なんです?」
「何かと思えばそんなことか。心底どうでもいいことだ。想像に任せる」
「では勝手に想像させてもらいましょう。
色々言い方はありますが要するに――注意喚起、ではありませんか?」
「……笑わせる。キャスター、それはただの妄想だ」
「そうですか。でしたら、そういうことにしておきます。
次、二つ目です。ぶっちゃけこちらが本題なのですが――」
キャスターはひと呼吸間を置いて、アーチャーに尋ねる。
「――貴方は、何体目ですか?」
「……
「……」
その答えを聞いて彼女は、どこか安心したように見えた。
「……私からの質問は以上です。二度会いたくはありませんが……そのうち、また会うんでしょうねぇ」
「仕方あるまい。それがサーヴァントというものだ」
最後にアーチャーは、ため息混じりに結晶を掲げる。
転移先の街の名前を呟いた瞬間、全身が青い球体に包まれ――赤い外套を纏った男は、どこかの街に転移していった。
サーヴァント相手に馬鹿正直にソードスキル使っても効かねーって描写したかっただけです。
これは勝手な憶測ですけど、SAOみたいな体感ゲーって、体の使い方を知ってる人(スポーツとかやってる人)がかなり有利だと思う。
キリトだって一応剣道やってた設定だし。
……剣道って竹刀と竹刀(剣と剣)の戦いだから、槍とか盾とかが相手だったらどーすんだろ。