あと少し……あと少しでSAOP1巻部分終了だ……
第二層の迷宮区を突破されて数日。
最前線攻略集団はフロアボスの情報を可能な限り収集し終え、一際大きな広間に集まっていた。
剣や槍、様々な武器を携えたプレイヤー達はボス戦に備え、パーティー内での打ち合わせに励んでいる。
「……呆れたわ。命知らずの人間がまだこんなにいたなんて。まあ、それ言ったらわたし達もか」
……前回同様、自分達――岸波白野、遠坂凛のレベルは決して高い方ではない。
そんな弱小パーティーがここに呼び出された理由は、とある人物からの一通のメールだった。
キャスターという反則級の切り札を持つ故、彼らにはてっきり嫌われてるものとばかり思っていたが――
「……思ってたのと違うな。もっと露骨に嫌われると思ってたんだけど」
「嫌われてると思うわよ。別の意味で」
「別の……?」
どういう意味だろう。
強さに対する嫉妬……とかではないのか?
「ええ。
……あんた達、わたしがいない間に随分仲良くしてたらしいじゃない?」
「仲良く…………あ」
言われて頭をよぎったのは、満面のキャスターの笑顔。
――ケーキのことか。
そういえばあの茶番、結構な人数に見られてたんだった……
「このゲーム、女性がよっぽど少ないみたいね。ここだってパッと見た感じ、男ばっかりだし。“両手に花”状態の貴方を見たら、誰だってまず敵視するんじゃない?
公共の場でイチャイチャなんてされたら尚更よ」
「私は気にしませんよ?」
「俺は気にする」
「えー、別にいーじゃないですか。一緒にバカップルプレイしましょうよご主人様ー」
「断固拒否します」
というか、“バ”カップルと認めてしまうのか。
どれだけ恋に盲目なんだ。
……自分がいつかそっち側に堕ちた未来を想像すると、色んなことが不安で仕方ない。
「……あ、いたいた。
ハクノさん! リンさん! こっちでーす!」
「?」
ハキハキとした、自分達を呼ぶ声が聞こえた。
ガシャガシャと鎧の音を鳴らしながら走ってきたのは、一人のプレイヤー。
青く染められた長髪と、騎士風の鎧、盾、剣。
彼の名はディアベル。
第一層のフロアボス戦でもいた、この集団のリーダー的存在だ。
甘いルックスと物怖じしない態度、巧みな話術で百層攻略を目指す同士を集めたカリスマ。
そんな彼からメールで誘われた結果、自分達はこの場にいる。
「よかった、来てくれて。三人は第一層でのMVPだからね。今回も攻略戦に加わってくれたら、本当に心強いよ」
「……あんまり期待しないでほしいわね。わたし達、もう前みたいなインチキはできないんだけど?」
「そうだとしても、やっぱり嬉しいよ。こんなデスゲームで、ボス攻略に参加してくれるだけでもね。それに――」
にこやかに微笑みながら、ディアベルはこっちに向き直る。
「ハクノさん。今回は君の使い魔と“もう一人”を軸にパーティーを分けようと考えてるんだ。駄目かな?」
「いいけど……もう一人って?」
「いたんだよ。君の使い魔と同じ、凄い力を持ったNPCが。
オレも最初は驚いた。まさかあの有名な鍛冶屋が、実は最強の剣士だったんだからね」
「NPCに鍛冶屋……って、まさか」
この世界におけるサーヴァントは、プレイヤーとは扱いが違う。
基本的にフロアボスか、或いはクエストの
つまり、NPC。ノンプレイヤーキャラクター。
「ほら、あそこさ」
ディアベルが指差した方向を見る。
そこにいたのは、ディアベルと同じような騎士風の防具を着た集団。
おそらくは彼の仲間だろう。
――その中心に、目立つ人物が一人。
「……な」
銀色装備の集合の中に、赤い布のような装備が一つ。
背は高く、髪は白く、肌は浅黒い。
おかげで離れていてもすぐ分かった。
「……やっぱりね」
「え? リンさんは彼のこと……アーチャーさんのこと、知ってたんですか?」
「まあね。じゃあ、また後で。行くわよ、きし……ハクノくん」
◆
「以前、不覚にも戦闘を目撃されてしまってな。双剣を使っていたせいか、目をつけられてしまった。ゲーム攻略にその力を貸して欲しい、とな」
「ディアベルって人に?」
「……ああ」
無言でアーチャーは頷いた。
双剣とは、あの白と黒の剣……干将・莫耶だろうか。
なんにせよ、あの戦闘スタイルで目をつけられないのは無理がある。
双剣。もしくは二刀流。
両手に武器をもって戦う剣士は、今のところアーチャー以外に見たことがない。
剣道には二刀流のスタイルもあるそうだが、そこまで出来る人間はこの手のゲームをプレイしないのかもしれない。
「私としてはゲーム攻略よりも、死者を出さないことに力を尽くしたいのだがね」
「死者を出さない、ね。貴方、いろんな街で鍛冶屋をやってたって聞いたけど」
「プレイヤーの装備を少しでも強化できれば、と思ってな。通常のゲームなら御法度だが、命が掛かってるとなれば止むなしだ」
「その結果がアレってわけ?」
遠坂はアーチャーから目を離し、ある五人組のパーティーを見た。
ここには複数のグループが集まっているが、その中でも彼らの特異性はずば抜けている。
――装備。
防具もかなりの上物だが、それよりも目が行くのは彼らが背負っている武器だ。
ここに集まっているプレイヤーの中でもトップクラスなのは間違いない。
「《レジェンドブレイブス》……そう名乗ってるらしいわね、彼ら。三層でのクエストでギルドを結成するとか」
「らしいな……それがどうした」
「とぼけても無駄よ。……岸波くん」
「……分かった」
慣れてしまった手付きでメニューを開き、ある装備品を具現化する。
刀身のない剣の柄。
通常の剣として扱うには使い勝手が悪そうな、微妙な重量感覚。
確か名前は――《黒鍵》
悪魔祓いの効果を持つ、投擲用の剣。
「っ――さすがに、重いな」
ずっと持ってるのは流石に疲れるので、ストレージに仕舞う。
これだけでも十分だろう。
「……そうか。お前たち、あの神父とも知り合いだったのか」
「そーよ。改めて聞くけど、これ作ったのアンタでしょ? ついでにあの五人の武器も。
そしてアイルランドの御子“クーフーリン”を見たことがある。偽物じゃない、本物の英雄をね。違うかしら?」
「そこまで言い切るか」
「無駄に芸が細かいのよ、貴方は。他の連中は知らないけど、あの槍、
「……その発言は、後悔することになるぞ」
「今更よ。アンタにはもう、聖杯戦争経験者って割れてるし。
わたしのサーヴァントはクーフーリンだった。ただそれだけのことだから」
「――はぁ」
大きなため息。
どうやら観念したらしい。
「そうだ。あれらは全て私が用意した。自分で自分の身を守れるようにな。逆に言えば、そのせいでこんな場所にまで来れてしまったわけだが」
「? どういうことなんだ、アーチャー」
来ることができた、ならば分かる。
来れてしまった、という言い方が気になった。
「気にするな。他人のお前が悩むようなことではない。彼らに力を与えてしまったのは、ほかならぬ私だ。後始末くらいは自分でつけるさ」
「……そうか」
彼らとアーチャーとの間に何があったかは分からない。
だけど、この男なら少なくとも最悪の事態にはならない。
――死者を出さないことに力を尽くしたい。
あの言葉は、嘘を言っているようには見えなかったからだ。
「さて、そろそろ行くぞ。今回彼らは、私とキャスターの力をアテにしているようだからな」
「アーチャーさん。その前に一つ質問が。
貴方はこの戦い、どうやって乗り切るおつもりですか?」
「今の私は、彼らに“強力なNPC”として認識されている。ならば、それ相応に戦うまでだ」
「宝具を使う気はない、と。そう捉えてよろしいのですね?」
「状況次第、と言いたいところだが……おそらく、そうはいくまい。第一層のフロアボスは普通ではなかった。ならば、今回も何かが起こると考えるべきだろう」
――第一層。
レベルカンストの、あの巨大な九尾のことだ。
キャスターを召喚できたから良かったものの、一歩間違えたら死んでいてもおかしくなかった。
「なら、今のうちにアンタの宝具教えなさいよ」
「ぶ――っ」
なんだその問いは。
気持ちはわかるけど、それにしたって直球すぎる。
「遠坂、流石にそれは無理だって」
「そうも言ってられないっての。前みたいなアクシデントが起きたら、その時どうするのよ。場合によっては、新しいサーヴァントがそのまま敵として出てくる可能性だってある。そうなったら、誰も死なないとは言い切れないわ。わたし達も含めてね」
「それは……そうかもしれないけど」
「だからアーチャー。貴方の宝具、今ここで教えてもらうわ。もしかしたら、キャスターと連携出来るかもしれないから」
――確かに、キャスターの宝具ならば連携は可能だろう。
宝具の解放には大量の魔力を使う。
この世界では、現界に必要な分だけの魔力は心配無い。
それでも、マスターがいないアーチャーには回数制限・時間制限が伴うはずだ。
……だけど、それは。
「本気で言っているのか、遠坂凛」
「リスクは承知の上よ。敵か味方かもはっきりしない輩に、無条件で魔力を提供する。確かに、普通じゃ考えられないことだと思う。
――でもね。どんなことがあっても、貴方はこの二人に勝てないわ」
「……ほう」
絶対的な信頼のもとに、赤い少女は力強く断言した。
それだけのハンデがあったとしても、岸波白野とキャスターは負けはしない――と。
その言葉に、少しだけ胸が熱くなった。
実際に戦って勝てるかどうかは分からない。
だけど――あの遠坂に“勝てる”と断言させてしまうくらい、岸波白野は信頼されているのだ。
「フッ……いい仲間を持ったな。これだけ女性に頼りにされるのは、男として冥利に尽きるだろう?」
「その言い方はお止めくださいアチャ男さん。フラグが立ってしまいます」
「私の知ったことではないな。この手の喜劇は当事者にとっては地獄だが、傍観者にとっては天国のようなものだ」
「むぅ、やけに実感のあるお言葉。さては貴方、生前はかなりのドンファンでしたね?」
ちなみに“ドン・ファン”とはスペインの伝説の放蕩児のことで、現在はプレイボーイの代名詞として使われている。
「さてな。どうやら、この世界に来る時に色々と不手際があったらしくてな。記憶に少々混乱が見られる」
「便利な言い訳ですね。記憶喪失、ですか……チラリ」
「……」
……何故だろう。
今、キャスターがこっちを見たような……
「……話を戻すぞ。もし覚える気があるのなら、聞いておくことを勧める」
◆
失敗。
アーチャーがキャス狐の宝具知ってること前提で書いてしまった……
これだけならいい。前に鏡見たからそのとき見破ったってことにすればおk。
問題は、「アーチャーがキャス狐の宝具を知っている」ことを遠坂が知っていること。
後で直すかもしれないし、直さないかもしれない。