Fate / SAO CCC   作:YASUT

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関西弁分かんねえ! 堪忍して!


第二層攻略会議 2/2

 

 巨大な扉を背に、ディアベルは約五十人の前に立った。

 

「――では、そろそろ始めさせてもらいます」

 

 彼の静かな宣言で、どよめいた空気が静まり返る。

 カリスマたる所以。

 たった一言で、五十人の視線が一斉にディアベルに向けられた。

 

「まず、ボス情報の確認から始めよう。みんな、さっき配布した攻略本を見てくれ」

 

「攻略本……?」

「これだよ、キャスター」

 

 アイテムストレージから一冊の本を選択し、実体化させる。

 

「『大丈夫、アルゴの攻略本だよ。』……雑誌みたいなタイトルですね。信用できるんですか?」

「全部とはいかないけど、基本は大丈夫なはずだ」

 

 実は前回も似たような攻略本が配られた。

 幾つか予想外のアクシデントが起きたが、それ以外は本の通りだった。

 全て信じるのは流石に拙いかもしれないが、無いよりは確実にいい。

 

 

 ――第二層のボスの名前は、《ナト・ザ・カーネルトーラス》

 行動不能(スタン)属性を持つ攻撃を多用する、二足歩行の巨大な牛。

 武器は打撃属性を持つハンマー。地面に叩きつけることで、衝撃波攻撃も使えるらしい。

 

 そして、ボスの他にもう一体モンスターがいる。

 《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》

 《ナト・ザ・カーネルトーラス》の背丈を少し小さくしたモンスター。

 使う技は殆ど同じ。対処方法も基本的に同じ……か。

 

 

「遠距離からフルボッコですね」

「いや、それはちょっと」

 

 確かにそれで完封出来るかもしれないが……どうなんだろう、それは。

 

「やめておけ、キャスター」

「おや、アーチャーさん。それは何故です?」

「経験値が手に入らないからだ。このゲームでは敵に与えたダメージ、防いだダメージに比例して得られる経験値が増減する」

「何か問題でも?

 私のレベルはご主人様と完全リンクしております。つまり、私が無双すれば自然とご主人様のレベルも上がってくわけです」

「それが問題だと言っている。はっきり言って、私とお前に経験値は必要ない。ここはほかの誰かに譲るべきだ。チーム全体のレベルが上がれば、プレイヤーが死亡する確率も減る」

「些細なことです。この場にいる五十人とご主人様なら、私は迷わずご主人様を選びます」

「……」

 

 静かに牽制し合うサーヴァント二体。

 

 両者の主張は相反している。

 プレイヤー全体の生存を望むのなら、アーチャーが正しい。

 でも、岸波白野が死ぬ確率を少しでも減らしたいのなら、キャスターが正しい。

 

「はい、やめやめ。今から共闘するって時に、何考えてんのよ」

 

 二人の間を遠坂が割って入った。

 

「キャスター。とりあえず、今回はアーチャーの言う通りにしましょう。強力な攻撃は控えること。無双も禁止ね」

「ええー。でも、それだとご主人様が……」

「そのために貴女がいるんでしょ。いざとなったらわたしもいるし、心配ないわよ」

「むう……それは、そうですけど」

 

 とりあえずキャスターは納得してくれたみたいだ。

 ……しかし、遠坂のこの物言い。

 まるでヒロインのようじゃないか。自分(おれ)が。

 

 

「……確認は終わったみたいだな。

 それじゃ、そろそろレイドの編成を始めたいと思う!」

 

 

 扉の前にいるディアベルが声を張り上げた。

 染められた鮮やかな青い髪は、ただそれだけでプレイヤーの注目を集める。

 

「ちょっとええか、ディアベルはん」

 

 五十人のうちの一人……特徴的な髪型をした一人の剣士が挙手した。

 

「なにかな、キバオウさん」

「SAOは一パーティー六人、そいで一レイド八パーティーまでや。

 ここにおるんは全部で五十一。どうやっても余りが出てしまうで?

 小レイドを二つ組むっちゅー手もあるけど、それやと相手レイドの詳しいHPを確認できん。連携に支障きたすんやないか?」

「それは分かってる。だから今回は、ちょっと変わった組み方をしたいと思ってるんだ」

「変わったって……どういうことや」

「まず、オレ達《ドラゴンナイツ》で三パーティー。キバオウさん達《解放隊》で三パーティー。計六パーティーで一つのレイドを作る。

 これで三十六人。そして、残りの十五人で小レイドを作ってもらいたいんだ。役割分担は、人数が多いオレ達が本丸のナト。十五人が取り巻きのバランにしようと思ってる」

 

「……なるほどな。まあ、妥当な線だろう。彼らなら任せられる」

「あんた、あいつらのこと知ってんの?」

「これでも鍛冶屋をやっていたのでな。面識くらいはある」

「面識、ねえ……もしかして、あいつらにも武器、作ったとか?」

「この世界での基準を測るためにな。強すぎるのは勿論、弱すぎるのもまた問題になる。彼らには申し訳ないが、剣作成の練習台になってもらった」

「そう。否定はしないのね」

 

 アーチャーは彼ら――ディアベル達と会ったことがあるようだ。

 なら、きっと大丈夫だろう。

 

 選ばれた三十六人の中にも、異論がある者はいなさそうだ。

 サブボスのバランではなく、メインボスのナトと戦えるのだから当然か。

 貰える経験値も多く、上手くいけばラストアタックを決められるかもしれないのだから。

 

 ――だから。

 もし異論があるとすれば、それは――

 

「ちょっと待ってくれないか」

 

 キバオウに続き、誰かが声を上げた。

 その周りには四人。

 計五人は、強靭な防具と異様な武器を身につけている。

 第一層では見なかった顔触れだ。

 

「……どうぞ、オルランドさん」

 

 声を上げた人物――オルランドに対し、ディアベルは臆することなく発言を許可した。

 それを見たオルランドはどこか威圧的に、野太い声を反響させる。

 

「我々はボスと戦うためにここに来たんだ。ローテーションならともかく、最後まで取り巻きを相手していろという指示には納得できない」

「最後まで、とは言ってない。事前情報によると、今回の取り巻きは一体だけで再湧出(リポップ)はしない。そちらが片付いたらナトに加わって構わない。ラストアタックのボーナスだって、貴方が当てたら貴方の物だ」

「しかし、一体だけというのはあくまで事前情報だ。一層のボス戦のことは聞いている。今回だって予想外の出来事が起こるかもしれない。バランが複数いたり、ナトが異常な程強かったりしたらどうする」

 

 ……確かに、それは困る。

 バランに関しては、はっきり言って問題ない。

 十五人の中にはキャスターとアーチャーも含まれているのだから。

 

 気になるのはこの階層のボス、ナトの方なのだが――

 

「オルランドさん、あまりオレ達を舐めないで欲しい。確かにナトが強かったら、オレ達だけだと倒しきれないかもしれない。でも、バランが倒れるまで持ちこたえることくらいは出来る」

「なら、バランが複数いた場合はどうする」

「それこそ心配いらない。そっちには、“彼ら”がいるじゃないか」

「彼ら……?」

「うん。そうだ、折角だから自己紹介してもらおう」

 

「っ……!?」

 

 キラーン!

 というのは大げさだが、ディアベルがこっちに熱い視線を送っているのは本当だ。

 それに気づいたのか、プレイヤー達は次々と場所を空け――

 ――その中央にいる岸波白野に、数十人分の視線が集まった。

 

「ほら、自己紹介。あんたからじゃない?」

「…………分かった」

 

 あの流れから自己紹介を断る勇気はない。

 どのみち目立つコトは免れないのだ。ここは思い切って――

 

「俺の名前は……“フランシスコ・ザビエごっ――!!?」

 

 痛い、とおさか肘鉄痛い! あっ、HPがっ!

 

「……えっと、大丈夫ですか?」

「アッハイ」

「そう……ですか」

 

「……」

 

 ……仕切り直そう。

 きっと今のは、岸波白野の中に眠る何かが暴走しただけだ。

 ザビエルはなかった事にして、もう一度。

 

「ハクノ。片手剣使いです」

「リン。武闘家です」

「岸波玉藻(タマモ)、もといキャスターです。以後お見知りおきを」

「アーチャーだ。鍛冶屋も営んでいる」

 

 いや待て。今の自己紹介は何かおかしい気がする。

 

「オルランドさん達は一層のフロアボス戦に参加してなかったから、知らないんだったね。

 キャスターさんはハクノさんの使い魔で、遠距離攻撃が出来るんだ」

「遠距離攻撃……?」

「――うわ、マジだったのかよ、それ」

「――なんだよ、それ……インチキじゃねえか」

「――でも、それなら今回だって何とかなるよな」

 

 スルーだと……!?

 

 まあ、それはさておき……オルランドの驚きの声と同時に、辺りがざわつき始めた。

 プラスの意見もあれば、マイナスの意見だってある。

 プラスは主に『今回も勝てる』という前向きなモノ。

 マイナスは『なんであいつが』という嫉妬が殆どみたいだ。

 

「そしてもう一人が赤い服の鍛冶屋……アーチャーさんだ。彼の強さは、貴方なら分かると思う」

「……。

 いや、分からないな。このNPCは、最近有名になっていた鍛冶屋だろう。装備の手入れならともかく、戦闘に使えるのか?」

「ああ。少なくとも、オレよりは強い」

「っ……!」

「装備の話じゃない、剣技の話だ。この中でデュエルをしたら、間違いなく最強だと思う。

 アーチャーさんとキャスターさん。この二人はかなりの戦力だ。レベルだって足りてる。《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》が二体いたとしても、難なく対処出来ると思う」

「……だが、それでは――っ!」

 

 オルランドは悔しげに言葉を切る。

 その先は、本人には言いたくても言えない内容だからだ。

 

「オルランドさん、貴方の考えていることは分かる。できるだけ長くボスと戦って、たっぷり経験値を貯めて、この中のトップに躍り出るつもりなんだろう?」

「っ……!?」

 

 びくっ、とオルランドが一瞬硬直した。

 いや、彼だけではない。

 後ろの四人――クーフーリン、ギルガメッシュ、エルキドゥ、ベオウルフもだ。

 

「……なにを」

「誤魔化さなくていい。ゲーマーっていうのはそういう生き物だからね。オレだってそうだった。

 でも、それじゃ駄目なんだ。これは普通のゲームじゃないし、何よりレイドっていうのはチーム戦だから。誰かが自分勝手なことをしたら、必ず誰かが死ぬ。

 ……実際、オレはそれで死にかけた」

「――!」

「トップになるのが駄目なんじゃない。プレイヤーにはそれぞれ役割がある。それを放棄して、自分勝手な行動をするのが駄目なんだ。

 今回のレイドリーダーはこのオレ、ディアベルだ。だからオレを信じて、オレの采配に従って欲しい。

 貴方達は強い。だから……頼む」

 

 そう言ってディアベルはオルランド達《レジェンドブレイブス》に、深く頭を下げた。

 

「な――」

「おい、ディアベル――」

 

 後ろの騎士達が息を飲む。

 それも当然か。なにせ自分達のトップが、今回から参加の末端中の末端に頭を下げたのだから。

 かく言う自分も驚いている。

 まさか、ゲーマーが誰かに頭を下げる展開が見れるとは。

 

「……やめてくれ。組織のトップが軽々しく頭を下げるな」

「え……ああ、そうか。それで、オルランドさん」

「……分かったよ。今回はバランに集中する。だが、こっちが片付いたらそっちに手を貸す。それでいいな?」

「――ああ。ありがとう」 

 

 最後にそう言い残して、オルランドは元の位置へ戻っていった。

 

「ふう……さてと。それじゃあ、少し早いけど……」

「いいやまだやで、ディアベルはん。ジブンは一つ、忘れとることがある」

 

 ディアベルが声を張ろうとしたところを、関西弁の男が止めた。

 さっきと同じ、髪型が特徴的な男。名前は……キバオウ、と呼ばれていたか。

 

「キバオウさん……何かな、それは」

「さっきからディアベルはんは、例の攻略本に頼りっきりやないか。言うたらアレやけど、情報源はボス部屋に入ったこともない情報屋やろ? それでホンマに十分と言えるんか?」

「確かにそうだけど……でも、他に情報はないんだ。オレ達が集めた情報だって、全部攻略本に書いてあったし……」

「せやからわいが言いたいんは、実際そのボスを見たことあるヤツがここに、最低でも一人はおるっちゅうこっちゃ」

「っ――!」

 

 再度、プレイヤー達が固まる。

 実際に見たことがあるヤツ――そう言われて思いつくのは一人しかいない。

 

「分かってる……けど、キバオウさん、それは――」

「言っとくけど、こっちは譲る気ないで。

 わいはワガママや。こんなクソゲーで死にとうないし、仲間も死なせとうない。

 ディアベルはん。ジブンはどうなんや?」

「……オレだって、そのつもりだ。これは普通のゲームとは違う。だから、誰も死なせる気はない」

「そんなら、ここで出し惜しみする方がおかしいやろ。勝つために、生きるために最善を尽くす。ただそれだけや。

 そういうわけで、どうや黒ビーターはん! ボス戦前に、なんぞ一言喋ってくれんか!?」

 

 声を大にしながら、キバオウは遠くの一点をキッと見た。

 そこには一人の黒剣士――キリト。

 以前、盛大に悪のビーターと名乗ったせいか、人目につかない端っこでコソコソしていたらしい。

 怯えるように隣の女性の背後に隠れたが、女性はサッと避ける。

 

「……はぁ」

 

 一方、隣のディアベルは深くため息を吐いてるようだった。

 ……やはり、意図的に触れないようにしていたのか。

 

「……一応言っておくけど、俺だってベータテストの時のデータしか知らない。

 でも、少なくとも迷宮区の雑魚の攻撃は同じだった。使う技も、あいつらのソードスキルの延長上のモノだと思う。

 基本は、モーションを見たら即回避。これだけならいいけど、問題は食らったあとの対処だ。

 ベータテストのとき、デバフを二重に掛けられて《麻痺》したプレイヤーは……殆ど死んだ。

 だけど、落ち着いてハンマーを見れば二発目は避けられる。このメンバーなら、死者ゼロで倒せるはずだ」

 

 力強いビーターの言葉で、プレイヤー達の目に熱が宿る。

 最後にディアベルは、全員の士気を奮い立たせるために。

 

「よし、二発目は絶対回避!

 ――じゃあ、そろそろ始めよう! 第二層ボス――倒すぞ!!」

 

 青髪の騎士が吠えた瞬間、五十人の巨大な歓声が巻き起こる。

 腰から鋼の剣を抜き放ち――ディアベルは、第二層最後の扉を開いた。

 

 

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